Re: 本読みの喫茶店 ( No.267 )
日時: 2013/02/17 22:29
名前: ryuka◆wtjNtxaTX2



○本紹介


『平壌の水槽』 著:姜 哲煥(カン・チョルファン)

なんと脱北者の書いた、脱北までの体験記です。
平壌とは朝鮮民主主義人民共和国(通称、北朝鮮)の首都で、作者は平壌のエリート階級の出身です。

父親や祖父が権力闘争に巻き込まれた結果、一家で濡れ衣を着せられて罪人として強制収容所へ送り込まれることに。
そこで過ごす、作者の10年間の少年時代はまさにサバイバル。壮絶なまでに生き残りをかけた毎日と、その中にもある確かな人間の絆や、絶望と希望、または信じられない裏切りや罰の数々…… これは本当にあった話なのか、と驚いてしまうくらいの描写と迫力です。

私が一番印象に残った文章は、作者が強制収容所から解放される時の心境のところなのですが、

「本当にひどいところだったが、10年間も暮していればそれなりに愛着が沸いてくる。みれば、収容所を取り囲む山々の丘陵はなだらかで形よく、流れる小川は優しい……私の少年時代は、ここにあったのだ……」

↑みたいな内容の文章です。(すいません文章はうろ覚えです。)


収容所から解放された後の、脱北までの期間はもうハラハラドキドキです。曰く、「ここは世界で一番資本主義が発達している」そうで(この意味は読めば納得)、収容所の外には、神も仏もない自分の頭脳と体力だけが頼りの世界が広がっていたのです。



人間がどこまで人間であり得るのか、
また生きることへの執着とは何なのか、生きていたい、と思うのはどうしてなのか、
そんな謎かけのようなメッセージが、この作品には秘められています。