妖怪の山通信「九尾の狐編」 ( No.143 )
日時: 2018/05/20 15:46
名前: ダモクレイトス ◆MGHRd/ALSk (ID: 5aTpv6CQ)

 妖怪シリーズ2、今回は「九尾の狐で」です。

*九尾の狐とは:
九尾の狐(きゅうびのきつね)または九尾狐(きゅうびこ)九尾狐狸(きゅうびこり)とは、中国神話の生物。9本尻尾をもつ狐の霊獣または妖怪である。中国の各王朝の史書では、九尾の狐はその姿が確認されることが泰平の世や明君のいる代を示す瑞獣とされる。『周書』や『太平広記』など一部の伝承では天界より遣わされた神獣であるとされる。また一方では、殷の妲己や日本の玉藻前のように美女に化身して人を惑わす悪しき存在としても語られてきた。

*中国

 『山海経』「南山経」には、青丘之山に「有獸焉 其狀如狐而九尾 其音如嬰兒 能食人 食者不蠱」という記述がある。『白虎通』では皇帝の徳が良いと現われる瑞獣の一つとして記されているほか、九は子孫繁栄を示しているともあり、瑞兆を示す霊獣であるとしている。
 武王を主役にした物語『武王軍談』、あるいは『封神演義』などの小説、その源流となった元の時代の『武王伐紂平話』や明の時代の『春秋列国志伝』などでは、殷王朝を傾けたとされる美女・妲己の正体が九尾の狐(九尾狐、九尾狐狸)の化身であるとされている。

*日本

 斑足王と九尾の狐。歌川国芳の浮世絵より
 『延喜式』の治部省式祥瑞条には「九尾狐」の記載があり「神獣なり、その形赤色、或いはいわく白色、音嬰児の如し」とある。
 日本では玉藻前が九尾の狐の妖怪として有名である。平安時代に鳥羽上皇に仕えた玉藻前という美女の正体が「狐」で、退治されたという物語は、14世紀に成立した『神明鏡』にすでに見られる。しかし、室町時代の『玉藻物語』などでは尾が2本ある7尺の狐であると描写されており、九尾の狐とは語られていなかった。玉藻前が「九尾の狐」であるとされるようになったのは妲己が九尾狐であるという物語が玉藻前の物語に取り入れられるようになった江戸時代以降のことであると考えられる。玉藻前が九尾の狐であるとの設定を定着させたのは、読本作家の高井蘭山が著した読本『絵本三国妖婦伝』(1803年~1805年)や岡田玉山『絵本玉藻譚』(1805年)である。妲己(九尾狐)と玉藻前とについては、それ以前に林羅山が『本朝神社考』の「玉藻前」の項目で『武王伐紂平話』の話を引いている。
 一方、おなじく読本作家であった曲亭馬琴は『南総里見八犬伝』において善玉である九尾の狐「政木狐」を登場させている。馬琴は玉藻前に代表される九尾の狐を悪玉であるとするイメージは『封神演義』などの物語に影響された近年のものであるとして退け、史書などを活用し、九尾の狐は元来瑞獣であるという考証を展開している。馬琴のように、九尾の狐は本来は神獣で、物語の上で悪い狐であると語られるのは俗説・荒唐無稽な創作である、という論考はそれ以前からもたびたび学者や文筆家などが指摘をしている。

*朝鮮

 朝鮮においてはクミホ(구미호、九尾狐)と呼ばれる。クミホは美少女の姿に化けて男性をたぶらかしてその命を奪う、悪意ある存在として描かれる。クミホは人間になりたいと願っており、男性の命を奪うのも1000人分の心臓ないし肝を食すことで人間になるためという(変身譚も参照)。近年の大衆文化作品では、映画『クミホ(韓国語版、英語版)』(1994年)、劇場アニメ『千年狐ヨウビ』(2007年)、テレビドラマ『僕の彼女は九尾狐』(2010年)、テレビドラマ『ネイルサロン・パリス』(2013年)などが「クミホ」を扱っている。

*ベトナム

 ベトナムにおいては Cửu vĩ hồ(九尾狐)と呼ばれる妖怪である。この九尾の狐は、ハノイのタイ湖(西湖) (vi:Hồ Tây) に棲んでいたが、玄天鎮武神(Huyền Thiên Trấn Vũ)によって退治された。玄天鎮武神はチャンクオック寺(鎮国寺) (vi:Chùa Trấn Quốc) (別名、鎮武観)に祀られている