Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 追記 ( No.1 )
日時: 2017/09/06 19:51
名前: キャプテン・ファルコン (ID: 8ESGOi6k)

始めまして!突然ですが参加させていただきます!
あの浅葱さんの企画ということで緊張してるんですけど、お手柔らかにお願いします!



 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。

「おめでたい話もあったものだねぇ」

 うちのおばあちゃんは、そのニュースを見てズズズと音をたてながら茶をすすった。今のご時世だと茶葉ですら高級品、嗜好品の扱いではあるが、我が家は皆が皆真面目に働いているので、ちょっとくらいの贅沢なら問題はない。
 いつもなら、凄惨なニュースしか取り上げないような番組が、一転おめでたいニュースを全世界に報道している。たまに見かけられるゴシップや、一次産業の不調などの情報もなく、全ての局のアナウンサーは、対して代わり映えのしないことばかりを話していた。

「昨日、合衆国時刻の午後三時、大統領の長男であるニコ氏と、連合国首相の長女であるシフォン氏の婚約が発表されました」

 おめでたいニュースというのは、まさにこのことで、現代の世界を二分する、二つの大国の長同士が、結婚により家族になることであった。巷では政略結婚と言われていなくもないが、それ以上にこの両者の婚約は、世界中で祝福された。
 かつて、二十一世紀には小さな国が沢山あって、その数は大体200程度であったらしい。しかし、それから二百年、武力戦争はなかったものの、貿易を介した経済的な戦争により、数々の国は合併し、ついには資本主義の合衆国と社会主義の連合国の二国が主となり、永世中立国のスイスや武力放棄した日本など一部の国だけが名を残す時代となった。
 それからさらに時は流れ、いまや二十五世紀、残された国の名前は、合衆国と連合国を除けば先ほど挙げた日本とスイスだけになってしまった。
 そうなると、抑止力は無くなってしまうため、ついに二国は武力行使の戦争を始めた。血で血を洗い、鉄の臭いを硝煙と爆風で消し飛ばす世界。主戦場はユーラシア大陸なので日本には影響が少ないが、スイスは苦労しているようだ。
 戦争事態はもう二十年続いている。合併吸収を重ねすぎたため、大国二つは両者ともまだまだ資源が尽きる様子はない。物資にせよ、人材にせよ、だ。

「おばあちゃんは、これで平和になると思う?」
「まあ三年くらいは大丈夫じゃないかい?」
「以外と短いね」

 そんな簡単に仲良くなるなら、二十年も苦労していないよ。おばあちゃんのその言葉は、何となく苦労したという感じが得られない、軽いものだった。
 それもそのはず、私たちの住むのは日本。物資を大国に搾取されたりこそするが、基本戦火から遠く離れた地で変わらず暮らすことができる。おいしいものは中々食べられないし、映画だってそうそう見れないけど、町の中心で唐突に死ぬようなことはないだろう。

「平和になる日ってくるのかな」
「あのどっちかの国が片方倒れたら平和になるよ」
「いや、そうじゃなくて」

 皆が手を取り合うような世界、そういう意味で私は口にしたがおばあちゃんはそんな世界、諦めているようだ。それもそうだろう、おばあちゃんは、戦争が始まるより、ずっと前から生きてるんだから。

「いつか来るかもしんないじゃん、あの二人が結婚するみたいに、二つの国が仲良くなるかもしれない」

 幸せそうに微笑む、婚約者二人を見て、私はそう思う。政略結婚かもしれないが、あの二人の幸福そうな笑顔は、真実そのものだ。そうやって強く思ってしまったため、口からこぼれてしまった私の言葉に、おばあちゃんは悲しそうな目をして答えた。

「……来るといいもんだとは、あたしだって思ってるさ」

 三ヶ月後、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 それは、とある結婚式とその参列者が、無惨にもミサイルで吹き飛んでしまったという報せであった。