今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
ニュース番組が嫌いな俺は、寝起きでアニメでも見ようとしたものの、それを阻む緊急ニュースに腹を立てチャンネルを幾度と変える。全ての局を覗き、ようやくそれしかやっていないということに気が付き、何なのだと椅子に腰かけてそれを見た。
「では3分でできるタコの素揚げを――」
「なにこれ」
一瞬自分がとち狂ったのかと思い、画面を凝視する。そこにはエプロンを着た男性と女性のコンビが楽しそうにお料理教室を開いていた。男性も女性も無駄に体格がよく、鍛えられているため中々にシュールだ。
「一仕事終えたお父さんやお母さん、また揚げ物が大好きなお子さんも大喜びな一品です。ではまずタコのさばき方ですが――」
つい、テレビの電源を落とした。こんなものが全局でやるとは日本は滅亡したに違いない、そう独り言を言って椅子から立ち上がり、二度寝するために寝室に向かう。
もう夏休みは終わったはずなのだが、随分と外が騒がしい。とはいえもう完全に寝る気でいたので、厄介ごとはごめんだと耳栓をしてベッドに体を預けた。
いい夢が見られますように……、疲れ切った体を癒すため何度も深呼吸をして体の力を抜いた。
そうしていれば、どんどん意識は薄れ、何も考えられなくなる。
会社のこと、人間関係のこと、煩わしい感情は全て切り離されていき……最後にはふと、なぜタコの素揚げが緊急放送、という疑問だけが残った。
――瞬間、建物が大きく揺れる。
薄い毛布一枚だけかけていた体が大きく跳ねた。
「――ッ!?」
そのままベッドに落ちて、その衝撃で意識が覚醒する。慌てて耳栓を外して、周りを確認すると、物が倒れたり散乱していて酷いありさまだ。
地震か、と思う暇もなく、またズシンと大きく揺れる。
3回目は無かったようで、漸く考える時間ができると、外はどうなってるのかと気になり窓の方を見やる。
「なに、これ……」
窓の向こう側では、SF映画のような景色が繰り広げられていた。
空を埋め尽くす巨大な円盤、そこから降り立ってくる円筒状の物体。近くのマンションなどでは一部が瓦解し、遠くの方では火が上がっている様子も見られる。
地上では人々が逃げようとするが、どこに行ったらよいかもわからず右往左往している。
試しにほっぺたをつねって、夢ではないことを確認して、また愕然とする。
窓に張り付いてその光景を眺めていると、円筒状の物が建物の近くに着地した。すると円筒の一部に長方形の穴が開き、そこからなにかが出てくる。
足は八本、いや正確に言えば腕兼足か。その手には、奇特な形だが銃の様なものかと推測できるものが握られている。また、物をつかんだり張り付いたりするためなのか、その手足には吸盤と思わしきものが多くみられる。
皮膚は赤黒く、口元は丸く細長い。
なんだか、これと似たものを見たことあるような……、数拍ほど考え、ようやく答えが出た。
それと同時に、寝る際に残っていた疑問も氷解する。
「タコ……!」
寝室から飛び出し、居間のテレビの電源をつける。そこには相変わらずの二人が、調理をしている風景が映る。
アメリカ帰りという謎の経歴があるミスター鈴木がまな板でタコを小さく切っている横に、先ほど見た者よりかは黒く焦げているタコのような怪物が置かれていた。その足の一本には、切断面があり、まさか……青ざめる。
「では、このタコ型異星人をぶつ切りにしたものを醤油に浸して……」
「キサマラ……タダデスムト――」
「うるさい! ……えー、結構生命力が強いので調理する際はしっかり絞めましょう」
トレーにある醤油へタコ型異星人とやらを浸していると、黒焦げになった彼――性別があるのかは知らないが――が鈍くも動き出す。反撃が始まるのか、と一瞬身構えるも鈴木の鍛え上げられた強靭な肉体から放たれた強烈な右フックによりそのまま鎮圧される。
少し語気を荒げたことを恥じた鈴木は、予定通りかのように話を進め、それに合わせて隣で油の温度を調節していたケイシー、彼女が一つ流暢な日本語で提案する。
「では鈴木さん、タコ型異星人を揚げている間、このテレビをご覧になっている方々へもう一度さばき方の映像をお流ししますね」
「そうですね、では皆さん地球を守り抜くためにも……これの捌き方をお教えします。テレビの前のあなた、これを見たら包丁片手で食材を確保しましょう」
これは、何も変哲もないサラリーマンが、異星人を相手に毎日のおつまみを作る物語である。
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こんにちわ、塩糖です。今回は本当に申し訳ございません。
ついついネタに走ってしまい、よくわからぬものが錬成されてしまいました。
浅葱さんは尊敬している方であり、なにか少しでも価値があるものをと思ったのですが私の腕ではこれが限界です。皆さんの作品を見てまなばさせてもらいます……。