Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.3 )
日時: 2017/09/07 01:12
名前: ヨモツカミ (ID: FHAoO4GU)

こんにちは。浅葱さん、この度はスレ立てありがとうございました。
よっし、トップバッターきめるぞ、と意気込んでいたら遅くなってしまい、2名ほどに先を越されてしまいましたねw
真面目に書きました(当社比)




 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 居間にいる母が「どの番組も臨時ニュースだわ、なんなのよ」と愚痴を零しているのを聞き流しながら、僕は自分の表面のチョコレートを整えていた。
 きのこ・たけのこ戦争に終止符が打たれてから20年がたった今、僕らたけのこ達にこれといって脅威は無く、戦争による惨禍の事さえも忘れ、里のたけのこ達は平和に暮らしていた。
 きのこさえ滅ぼせば里の皆が安心して暮らせる。誰もがそれを信じて疑わなかったのに。母さんが見ていたテレビ画面の向こうで、ニュースキャスターが信じられない事を口にしていた。

 “隣国のアルフォート達が、武装して里に攻め込んで来ました”と。

 僕も母も同じ顔をしていたと思う。なんとなく聞き流していた筈の僕も耳を疑って、思わずテレビ画面に釘付けになった。いつも落ち着いた様子の男性ニュースキャスターも、今日は酷く口調が荒い。

「母さん、アルフォートが……攻めてきたって」

 母に掛けた僕の声は震えていた。でも、母は返事もしなかったし、振り返りもしなかった。
 窓の外から聞き馴染みの無いサイレンがけたたましく鳴り響いて、ビクリと肩が跳ねる。僕の額に植物油脂が滲む。外が気になったけれど、製造から1ヶ月を過ぎたばかりの幼い僕に、そちらを顔を向ける勇気はなかった。

「アルフォートの国って、すぐ隣だし……避難したほうが」

 母はやっぱり返事をしなかった。僕の不安げな声など聞こえていないのか。
 ねえ逃げようよ。もう一度声をかけるのに。母は頑なに振り返ろうともしないし、返事もしてくれない。一瞬苛立ちを覚えもしたが、母は無視をしているのではない、という事を悟った。明らかに様子がおかしい。ニュースキャスターの繰り返す声にも余裕が無くなっていって、それに煽られるみたいに僕の身体を構成する小麦粉が、カカオマスが、酸化防止剤が粟立つのがわかった。
 外から響くサイレンの音に、たけのこの叫び声が交じる。里のたけのこ達が避難を始めているのだろう。
 僕は母の側に近寄って荒々しくその肩に触れる。

「ねえ、かあさ――」

 ドロッ、と。
 母さんの身体の表面は、僕が触れた部分のチョコレートが剥がれ落ちていた。そして自分の手に纏わりついている生暖かいものは、母さんのチョコレートで、

「あ、ああ、か……か、あさん」

 よく見れば既に母の身体の表面はドロドロとチョコレートが溶け始めていた。僕の喉は引き攣って、悲鳴を上げることさえできない。呼吸はままならず、立つことも困難になってその場に腰をぬかしてしまった。