はじめまして、藍蓮と申します!
テーマを決めてSSとか、そういった企画、面白そうだったので参加させていただきます!
何となく浮かんだ詩から派生した、物語です。
◆ ◆ ◆
〈或る少年の場合〉
今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
「――世界が終わるゥッ!?」
その日、流れてきたのは。
そんな、驚愕の知らせだった。
近づきつつある巨大小惑星の映像と、残り時間のカウントが、生々しく映される。
残り時間は、あと一日もなかった。
「前から予測できたことじゃないか。今さら何をそんなにあわてるの、母さん」
「嫌よ、嫌ァッ! 私、まだ死にたくないの!」
「はははははは! 終わるのか、終わる、終わるんだなァ!」
少年、母、父。
三者三様の答えが返ってきたある一家。
少年は、怯える母、狂乱する父に冷静に返した。
「地球の軌道に近づきつつある巨大小惑星の話。その話を聞いた時から、僕はこうなることを予測できていたさ」
その巨大小惑星が今日、確実に地球にぶつかる軌道に入った。
そして今の地球の技術では。それを撃墜するすべがない。
宇宙に逃れる金持ちもいたにはいたが。母星を失って宇宙船だけで旅したって。いずれは餓死か渇死か。そうなるのは目に見えている。どうせ死ぬのなら、みんなで一緒に死んだ方がいいのにと、少年は思った。
テレビには、近づきつつある巨大小惑星と、この星の残り時間が秒読みで映されていく。
星は少しずつ近づいて行き、残り時間のカウントが、減っていく。
ついに父は切れた。
「おりゃぁぁあああああ! どうせ死ぬんならこの星の全てを遊びつくすッ! 金なんていらねぇ! 貯める意味がなくなったからだ! どうせ世界が終るんなら! 遊んで遊んで遊んで死んでやるッ!」
狂乱して叫んで。そのまま家を飛び出した。
家では、母親が悲しみのあまり泣き続けていた。
「……馬鹿みたい。大嫌いだ」
少年は呆れたように、悲しげに溜め息をひとつつくと。
テレビの残り時間を確認しながら、母を置いて、そっと家を出た。
大好きな、生まれ育ったこの町を。最後に一目、見て死ぬために。
「……冷静なのは、僕だけなのかな」
少し虚ろな思いを抱えて。
少年は玄関の扉を閉めた。
奇声が、聞こえた。
悲鳴が、泣き声が、聞こえた。
いつも人通りがまばらな道は。狂ったような人々であふれていた。
世界が終わると知って、狂い喚き叫ぶ者。
世界の終わりを知って、悲嘆にくれる者。
世界の終焉を感じて、現実から逃げる者。
日常は、あっという間に地獄に変じた。
少年は、そんな人間たちを冷めた目で見詰めながらも。
踵を返して歩き出す。
幼い日。友人たちと遊んだ公園を何となく目指して。
どことなく虚ろな思いを、抱えながらも。
◆ ◆ ◆
〈或るカップルの場合〉
「今日、世界が終わるんだってさ」
「いやだ、怖いわ……」
ある小さな公園で。寄り添うカップルが一組。
男は女を優しく抱いて、言った。
「でも、これで。二人一緒に死ねるじゃないか。どちらが残されるなんてこと、なくなるじゃないか」
「そうね……。ある意味、世界の終りに感謝したくなっちゃうわ」
この二人のうち男の方は。重い病気を背負っていて、もう先が長くなかった。
このまま当たり前に毎日が続けば。男が女を先に残して死ぬのは、決まっていたことだった。
しかし。
「君と死ねるなら、悔いはないさ」
「あなたが死んで、私だけ生きても。私はちっとも嬉しくないもの」
二人して、空を見上げた。
女は、呟いた。
「……世界が終わるまでに、あと何回、私たちの心臓は脈打つのかしら――」
◆ ◆ ◆
〈或る学者助手の場合〉
「なんですとぉっ!」
その学者は、掛けていた眼鏡が吹っ飛ぶくらいの勢いで、思わず飛び上がった。
「今日、世界が終わる!? だとしたら――我々人類の貴重な資料は、遺跡は、遺産は――!」
「……諦めましょう、博士」
彼をたしなめるのは、年若い助手。
「不可能である歴史の保全よりも。最優先事項は、残り時間をどう有効に使うべきか、考えることだと思いますよ」
「決まっている! 宇宙船はないか! モナリザだけでも、ロゼッタストーンだけでもぉ!」
「無理です。全ての宇宙船はみんな、人をわんさか詰めて旅立ってしまいましたよ?」
「人はいずれ死ぬでしょうがッ! そんなことよりも、簡単には劣化しない遺産を乗せて、宇宙に飛ばした方が――!」
「後の祭りです。ご愁傷様です、博士」
助手は冷めた口調で言って、部屋の外へ出ようと踵を返す。
「どこへ行くのだ!」
「自分の残り時間を有効活用しようと。今さら私の勝手でしょう?」
言って。外へ出た彼は、駆け出して。
建物のエレベーターに飛び乗って、最上階のボタンを押して、屋上に出て。
――そのまま、飛び降りた。
「自分の命は自分で終わらせてやる。運命なんかに、決められてたまるか」
……その日は、自殺者の多い日でもあった。
◆ ◆ ◆
〈或る人々の場合〉
やがて、夜になって。
誰の目にも、見えた巨大小惑星。
それ自体は光り輝きはしないが。成層圏に突入したそれは一瞬、太陽よりも明るく輝いた。
「終わるんだ……」
虚ろな少年はつぶやいた。
「終われるんだ……」
「一緒に死ねる……」
或るカップルは、囁きあった。
「遺産が、遺産がァッ!」
学者は未だ、そんなことを喚いていて。
「カウント、ゼロ」
やがて。辺りを、ひときわ強い、目を灼く様な閃光が覆った。
――死は、平等に訪れた。
星の終わりの、幻想的な炎。
それを見ながらも。何も感じすに少年は逝った。
星の終わりの、幻想的な炎。
「綺麗だねぇ……」
「ロマンチックね……」
それを見ながらも。
ただ純粋に「綺麗」と思って。カップルは逝った。
星の終わりの、幻想的な炎。
「人類の遺産がァッ!」
それを見ながらも。
ただ純粋に嘆き叫んで。学者は逝った。
衝撃波、強烈な熱線。
降り注ぐ、悪夢のようなマグマの嵐。
砕けた岩石、飛ぶ火山弾。
歴史も自然も関係なく。
お構いなしに、星は壊れる。
青い青い生命の星は。この日、宇宙の塵の一つに成り果てた――。
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