Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】注意追記 ( No.15 )
日時: 2017/09/07 23:33
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: .SQTAVtg)

 どうもこんばんは。ざざっとあまり考えずに書いた話になりますが、自分らしさは出せたかな、と思います。
 他の人の考えた文章から書くのは改めて難しいことだなぁと思いました。自分だったらこっちの単語を使うだろうなとか、そう思いながらカタカタしていました。


*

 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。元国民的アイドルのAさんが不倫したって話だった。
 他人の恋愛沙汰なんて、放っておけば良いのに。全く自分に関わりのない、生まれる前の世代のアイドルの話なんて興味ないし。
 プツンという小さな音を立てて、テレビがただの箱に戻った。
 暇つぶしのつもりでつけたはずなのに、どのチャンネルもこのニュースしかやっていなくて、なんの役にも立たない。ベッドの脇に置かれた棚に積み上げた本は、もう内容を暗記してしまった。チューブが繋がれた自分の腕を動かさないように、そっと身体を起こして立ち上がる。
 私は、いわゆる不治の病というやつらしい。三年前にいきなり倒れて病院に運ばれて、それ以来ずっと入院している。余命もあと少し。十年ぐらい前に初めて症例が報告されて、それ以来、毎年数人程度しか発症しないためか全然研究も進まず、特効薬とか、原因とか、どんな症状が起こるかとかも曖昧なデータしか取れていない。でも、確実にその病気にかかった人は死ぬ。いつかは分からない。五日後に死んだ人もいるし、私みたいに三年経って生きている人もいる。
 そういえば、これもニュースで散々騒がれた話題だったっけ。ある日突然、全身に赤い痣が現れる病気が見つかったって。身体に炎が這ったような、真っ赤な痣。自分じゃ何にも感じないのに、他人が肌に触ると焼けるように熱くて、火傷してしまう。『火炎病』とセンスのない大人は名付けたらしい。
 私はその時も、自分には関係ないことだと嘲笑っていた気がする。報道されるような事象は、確かに重要なものが多いけれど自分には関係のない話。首脳会談も、芸能人の恋愛沙汰も、それで自分の生活がすぐに変わるわけじゃない。

「清水さん? あなたどこに行くの?」
「屋上です。寝ているのに飽きちゃったので。誰にも触れないので一人で大丈夫です」

 歩いていたら、案の定看護師に声をかけられた。
 病院の外に出るのは禁止、何かしたかったら許可を取る、あまり動かないで安静にしていること。私はすでにこの鉄則をすべて三十回は破って怒られている。そのためか、看護師も私に対して当たりが強いし、厄介な患者だと思われているはずだ。
 だって、私は身体に赤い痣がある以外は何ともない。頭が痛いわけでも、おなかが痛いわけでも、どこか怪我をしているわけでもない。ただちょっと、私に触れた人が火傷を負うだけ。
 もう、退屈すぎるんだ。

「またそんなこと言って逃げ出すんでしょう? いい加減におとなしく病室にいてちょうだい!」
「嫌です。だったら私が退屈しないように色々してくれるんですか? そういうの看護師の仕事じゃないって言い放ったのあなた達ですよね。だったら、邪魔しないでください。人に触らなければ、私は何の害もない。そこらの感染症患者よりよっぽど安全じゃないですか」
「勝手にうろうろして毎回探すのは私たちなのよ。あなたが病室にいないと、色んな所から言われるの。原因不明の病の患者を放し飼いにするなって。諦めなさ……あっちょっと待ちなさい!」

 屋上までの廊下を全速力で走った。すれ違う人が驚いたような顔で道を開けるのを横目に、ひたすら走る。血圧とか脈拍を測る機械が取れるのも構わずに、思いっきり身体を動かしていた。
 ガタン、と大きな音をたてて屋上の扉を開く。珍しく誰一人いなかった。扉の外側にもたれかかるように座り、息を整える。でも全然意味がないみたいで、荒い息しか出てこない。身体の芯が熱くて、全身から汗をかいていた。
 こんな痣、なんで私を選んで出来たのか。人間ならいくらでもいる。どうして私がこんな退屈な人生を送る必要があるの?
 ガンッガンッと扉を叩く音と、私を呼ぶ声がする。

――ねぇ、一人にしてよ。

 夕方、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。朝と変わらず、どのチャンネルでもその話題しか取り上げてない。

「……『火炎病』の原因の解明、ならびに特効薬の開発によ」

 プツンという小さな音を立てて、テレビがただの箱に戻った。向かいにあるベッドは綺麗に片づけられている。脇にある棚に積まれていた本も、すべて無くなっていた。

「バイバイ」

 私は最後に、そう言い放った。


*
さて、『私』は生きているのでしょうか。死んだのでしょうか?