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Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.21 )
日時: 2017/09/09 02:33
名前: 夢精大好きちんぽ丸刈りされた陰部の毛 (ID: L5COiD.A)

 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。


「だからよ? おらぁ、アレだ、その事に問題提起したいと思った訳よ。分かる? なんていうの? 社会への警鐘っつーか、国民への喚起というか、そーゆーやつよ」

 内容は確か、他国の大統領が我が国の女性外交官と交際していたとか、そんな内容だった。
 スキャンダラスな内容だ。下手したら外交問題、国際的トラブル。大衆の興味を惹かないわけが無いし、どのテレビ番組だって鉄板で放映するビッグニュース。

「まあ、分かるよ、下世話な話は皆好きだからよぉ。でもな、ちげーと思うんだよね、そら間違いだと思う訳だよもさ。だってよ、そうじゃない? あんたもそう思わない?」
「え、あ、えーっと、その、何が、違うん、ですか?」
「か~~~~~~、察しが悪い! 頭が悪い! 脳味噌は入ってんのかお嬢ちゃん!」

 レジ台をバンバンと叩きながら、彼は唾を飛ばしつつ叫ぶ。五月蠅いし汚いし臭い。
 目の前に居る男。正確には、目の前で【座っている男】は、いかつい顔で私に詰問、いや、説教をしてくる。

「だからよ! いくら立場のある人間だからって、別に恋愛は自由なんじゃねぇのか、っつーことだわ! 俺が言いたいのは、そーゆ―ことなんだわ!」
「は、はぁ……」

 場所はコンビニ。深夜のコンビニエンスストアだ。因みに私はそのコンビニの店員で、目の前の説教男は一応客にカテゴライズされるであろう存在だ。
 一応というのは、まあ、なんだ、簡単に説明してしまうとだ。

「だから俺は社会に問いかけたい。他人の自由恋愛を侵害してる暇があるなら、もっと他に目を向けるべき日常の悪はあるんじゃないのか? と! だから、此処にこうして俺は居て、あんたはこうして被害者だ、お分かり?」
「ま、あ、分からないでもないよーな、さっぱりわからないよーな」
 
 彼がコンビニ強盗だからである。

「物わかりの悪い嬢ちゃんだ。あのさ、俺だって本当はこんなナイフ持って脅しなんか掛けたくないよ? 金を出せーなんてしたくないよ? 別に金にそこまで困ってないし、親の遺産とかたんまりあるし、取り敢えずあと三年は遊んで暮らせるレベルには貯金あるしね。だけど、やっぱ放っておけなかったね、義侠の心があったね、社会が歪んでいくのをただ眺めてはいられない、正義の思いがあったね。だからこうして皆の為に体を張ってる訳だわ」

 そもそも、男は店に入って来た時からおかしかった。何がおかしかったって、まず服装がおかしかった。上が警察の制服で、下がこの近くの女子高のスカートだったのだ。
 もうその時点で警察へ通報しそうになったし、カラーボールを手元に引き寄せそうになった。しかし、私は見かけで人を判断してはいけないと思い健気にも職務に忠実に爽やかな営業スマイルで、いらっしゃいませ~と元気よく声を発した。
 結果がこれである。
 なんだこの仕打ち。なんだこの不条理。
 なんで私は時給千円ちょっとな深夜のコンビニバイトで、一人で店の営業を押し付けられてこんな目に合わないといけないのだ。
 なんで、レジの台に座ってすね毛だらけの生足を見せつけながら、ナイフをこちらに向けてくる変態説教強盗の相手をせねばならんのだ。
 スカートを履くなら、せめてすね毛を剃ってくれ! 体毛処理をしてくれ!! 

「取り敢えず金を出せ。このコンビニにある金全部出せ。俺はその金を回収して、全額近くの孤児院に寄付してやる。悪行ついでに善行してやる。もうなんか、善とか悪とか、正義とか不義とかそんなん吹っ飛ばしてやる。善因で悪果を果たして、悪因で善果を為してやる。だからまず、その礎となれこの弱小コンビニエンスストアが! てか、深夜だってのを差し引いても、都心の立地で俺以外客ゼロなのマジでやべーな、経営が心配だわ!」
「あ、それは私も思いました。この時間にお客来たこと無いんですよ、近々潰れますよこのコンビニ」
「マジか。悲しい話だ。黙祷を捧げておくわ」

 コンビニの売上をかっさらう強盗に経営を心配された上に黙祷されてしまった。じゃあ強盗するなよ。

「さ、話は終わりだ。俺の『社会情勢への憂い 第二章~地獄への誘いは憂国のアフタヌーンティーの後で~』を聞きたいだろうが、流石にそこまでの時間はねぇ、さっさと金を出せ。もしくは誰もが幸せに生きられる絶対幸福の社会を作り上げろ」
「あー、じゃあ前者にします」

 ナイフを突きつけられた状態で抵抗する気も出ず、といううか、その行動は時給分には含まれていないとマニュアル人間に徹し、抵抗も一切せぬまま売り上げ金をレジ袋に適当に詰め込む。ついでに、金庫にあった金もぶち込み目の前の説教変態に渡す。

「はいありがとう。これで社会が一歩平和に近づいたわけだ。このコンビニの経営破綻にも一歩近づいて万々歳。労働から解放される君の未来は明るいってことだ! では、栄光ある我が祖国に拍手喝采未来激励、ありがとうの言葉を残してサヨウナラ!」
「はい、さような―――、あ、最後に一つ質問いいですか?」
「あ? なんだね、憂国の徒として今後絶賛売り出されることになるだろう私だが、サインならやらんぞ。字が下手だから恥ずかしい」

 スカートを翻しながら出口に向けて颯爽と去ろうとした変態を引き止める。
 さぁ、動きを止めたし拘束してとっちめて、通報して世の司法の残酷さを思い知れ! などと思ったわけではなく、少し疑問を抱いたからそれだけ解消したくなったのだ。
 純粋にそれだけだ。
 その内容とは。

「あの、おじさんのその上の警察服と、下のスカート、どこから調達したんですか?」

 疑問だった。
 コスプレショップ等で手に入れたのかもしれないが、色合いというか年季というかが生々しい。
 どうにも実際に誰かが着用していた印象を受けていたので、気に成って仕様が無かった。
 果たしてその解答は。

「ああ、上の制服は兄貴がお廻りだから拝借した。下のスカートは俺が教師だから、適当にクラスの教え子のスカートを拝借した。それだけだ。もういいか?」
「……………………あ、はい、いいです。ありがとう御座いました。またのご来店をお待ちしております」

 ぴろぴろーん、ぴろぴろりーん。
 気の抜けた自動ドアの開閉アナウンス。
 変態強盗が去っていくのを見送り、私は前を見据える。
 やらなければならない事は沢山だ。まず、警察に通報しなければならない、店長に電話も一応した方がいいかもしれない。あとは、なんだろう、あの男を追いかけてカラーボールをぶつけてやろうか。
 そう考え、取り敢えず後ろの棚に置いてあるボールを手に取る。
 いや、しかし、そうか。警官の兄はまだいいとして、本人が教職か。そうか、だからちょっと説教臭かったのか。
 教師だから、社会情勢とかに目を向けてたのか、義務感とかそういうのが強い人なんだろうな。
 なっとくなっとくぅ~。

「ってぇ、納得できるかァ!!」

 そう叫びながら、私は誰も居ないコンビニで力任せにカラーボールを床に叩きつけた。
 派手な音と、鮮やかな色彩が床に広がる。
 それをぼんやりと見つめながら、私は思い至り、小さな決心をする。

 ああ、変態強盗、あんたは社会は変えられないだろう、どうせすぐに捕まるだろう。だけど、確かに一つ成し遂げたぞ、確かに一つの世界を塗り替えたぞ。
 その世界は、小さくてちっぽけでなんでもないけれども、それでも確かに変える事に成功したぞ。

 私は敗北感を味わいながら、謎の満足感と安堵を覚えつつ、一言呟いた。


「このバイト、やめよ」


 時給低いし変態来るし、やめちゃおう。