Re: 氷菓子を添へて、【小説練習】 ( No.22 )
日時: 2017/09/09 13:47
名前: アロンアルファ
参照: 昔はID表示が無かったし、こうやって今は無き参照欄に一言書き綴ったりとかしてましたよね。

*(閲覧注意なので目を閉じてスクロールでふっ飛ばしてもかまいません。ご希望があれば削除します。)
長文で失礼します。独白っぽくなってしまいましたが、人生初の一人称視点で書いてみました。文章ってどうやったらうまく切り詰めれるのでしょうかね。
不躾な通りすがりですがよろしくお願いします。


 今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。それは、妊娠三か月の新婚女性が猟奇的に殺されたという物である。近隣国の武力行使でも天災による壊滅的な被害でもないが、どのチャンネルもそれを取り上げるのに納得が行く、と言いたいところだが、朝のワイドショーでの報道であるためか多くは語られず、出演者がただただ異口同音に異常だの気持ち悪いだのと放つばかりだ。怪奇的な惨状である事はなんとなく察し付くが、冷めた俺にはなにも衝撃的に感じられなかった。ああ、どうせガキの悪戯みたいで下らない有様なのだろう。犯人は芸術か何かのつもりでやってるのかもしれないが、俺から言わせてみれば、殺人とは単純に虐殺として楽しむ事が重要なのであって、そこに大義名分を絡ませると味がチープになる。ましてや死体という生命を宿さない物体を加工するだなんて、何が面白いのだろうか。
 まあ、なんだかんだでこうした賑わいもあってまた楽しい季節。窓からみる景色は青一色であり、差し込む日差しは温かく、心身が急速に充填される。――いや、されねえよ。ここはフラストレーションの反射炉であり、シャバの大衆にとってはうれしい事ほどディストレスに置換されて虚しくなる閉鎖空間、その名も精神病棟。朝からセロクエルの黄色い二粒を飲まされ薄ぼんやりした気分のまま退屈を過ごすだけの日々を、もう半年続けている。本当なら今頃大学生やってんだろうなぁ。

 俺は小学生になったときから、庭にスペアミントをただ植え付け続けるだけという意味不明な趣味があった。――ただし、建前上は。雨上がりの帰り道に、親とはぐれてしまった子猫と偶然出会い、それが懐いてきた事が切欠だ。物心ついた時から輪に入ろうとせず一人遊んできた俺にとっては、人生初の友達が出来た瞬間になるはずであったが、家に連れて帰った時、「家中をオシッコだらけにする」と言われて飼育を許されず、どうしようかと悩んだ時にランドセルの筆箱に鋏が入ってたのを思い出し、ガキンチョならではの短絡的発想で、子猫を押さえつけて強引に力ずくで性器を抉り落とした時、その叫び声で劣情に目覚めてしまう。
 目の前の恐怖とおぞましさに涙するも得体のしれない心地よさに大声で笑い、何度も何度も鋏を振り翳して、ふと冷静になった時にはもうそれは子猫でも何でもない塊になっていた。親にバレたらヤバいと顔を青くし、咄嗟にそれを庭に埋めた後、近所の公園で腕の返り血を流して家に帰ると真っ先に母が駆けつけて俺を抱きかかえる。笑い声は子猫の叫び声を書き消し、傍からみれば子供がただひたすらに大泣きしているような状態だったらしく、母は「ごめんね」と繰り返すが、俺は頭に焼き付いた子猫が叫ぶビジョンに呆然としつづけるだけだった。
 次の日の学校の帰り、同じ場所でまた子猫を見つけた。柄は違うがおそらく兄弟猫だろう。当然思い出すのは昨日の出来事であり、劣情が再び沸き上がる。またあの叫びを聞きたくなった俺は、あまり懐く様子ではないその子猫を無理やりランドセルに入れて、近場の家の垣根から縄を一本ほどいて手に取り、少し遠くの空き地の茂みに連れて行った。両腕を縄できつく固く結んでその場の低木につるし、地面の小砂利を掌いっぱいに握って思いっきり投げつけると、それは昨日ほどではないが大声で叫ぶ。やっぱり楽しい、というか昨日と違ってなんか純粋に面白いと思い、何度も何度も、1時間ぐらいずっと小砂利を浴びせ続けて、自分が疲れてばててしまった。子猫は全身が赤茶け眼球が真っ赤になり、末端が僅かに動く程度まで弱っている。可哀想だから兄弟そろって天国にいけるようにと家まで持ち帰り、同じ場所に埋めた。その時に腐臭を嗅ぎ取り、これが原因でばれたらヤバいと思って少し悩んだが、ある物が目に入る。
 園芸用品を詰めた籠の中に、一包のスペアミントの種子。「よっしゃ!これだ!」と思った俺はすかさず中身の種を全てばら撒いた。ただ撒くだけでは当然消臭効果はないのだが、不思議とバレることはなく、勝手に全部撒いてしまった事を怒られ、そして少しの月日が流れてモッサリと束になったスペアミントがそこに佇んだ。母親が子猫の腐肉で育ったそれを料理に添えたり、ハーブティーにしたりして色々楽しんでたのがなかなかシュールである。

 そういった経緯で開墾されたスペアミント畑は年を追うごとに大きなっていき、その分、土の中の白骨体も数を増す。子猫の捕獲に関して様々なノウハウを積んだ俺は近隣一体の猫を駆逐するに至り、中学生になって体力がついてきた頃には自転車で遠くの田舎まで行き、農家の納屋に忍び込んでは子猫を捕まえ、一度に数匹殺めたりもした。高校生になってからは忙しさで頻度が落ち殺し方も「生き埋め」に限定されたが、それでも欠かすことなく繰り返し、土の中でもがく声に心を潤していた。
 高校を卒業し、大学の入学式を待つだけのある日、俺が寮生活になるということもあってか両親は新たに家庭菜園をしようと勝手にスペアミント畑を掘り返していた。俺が物音に気づいて「何やってるんだ!」と怒鳴り上げて駆けつけが時すでに遅し、腐りかけの子猫を発見されてしまう。母親は一瞬で半狂乱となり、父親には顔面を蹴り飛ばされ滝のように鼻血を流す。後に警察がきて掘り返し、大きなゴミ袋を5個も満杯にするほど沢山の骨が出て時は「俺ってこんなに殺ったのかー!」と思わず感慨に浸ってしまった。その流れで俺は精神病棟にぶち込まれたのだ。
 半年たった今でもシャバに帰ったらこの劣情を抑えきれない気がする。このまま何年入院しても、とっくの昔に本能と化したそれを払拭することは出来ないだろう。せっかく必死こいて受かった大学も、一日も通うことなく退学するのだろうかと思うと、この人生に心底うんざりする。が、とりあえず大人しく今日も腐ってれば、いつか先生がここを出ていいと言ってくれるはずだ。

 最近の趣味は歯ブラシを口にくわえる事。ただそれだけ。病室のベットで、口のさみしさと手のさみしさを埋めてただぼやーっとしながら何かを考えこむのだ。地球の裏で誰かが死せば明日は晴れるかもしれない。そんな感じで俺が今こうしてフラストレーションに苛まれる事で、一体だれが幸せになっているのだろうかなんて考えたり。

 ――目の前の女の死体は人体模型のように、頸部から恥骨部にかけて皮がはぎ取られ、肋骨が切り落とされていた。臓器は全て摘出され、代わりにそれらに見立てるように、ナス、キャベツ、トマト、オレンジ、赤カブ、バナナ、見たことも聞いたこともない物等々、さまざまな果物や野菜が敷き詰められ、鮮やかな五色に染まっている。不思議な事にそれら食材には一滴も血がついておらず、子宮の位置にあるメロンだけは輪切りになっており、橙色に輝いていた。種は刳り貫かれ、そこにはめ込まれているのは真っ白で小さな胎児である。
 「すげえ……やべえ……はあ……」俺はこの上なく身震いして、小さな声しか出せない。荒ぶる犬のような過呼吸になり、失禁しないように我慢するのが精一杯だ。琴線は今にも千切れ爆ぜそうなほど揺さぶられている。ああ、初めて猫を殺したあの時と全く同じだ。悍ましさにおかしくなって壊れそうだ――

 「起きて、お昼だよ」
病室のドア越しに職員が声を掛け、俺は目を覚ました。夢オチじゃなんの感慨もないが、あの事件の犠牲者のお陰で俺は束の間の幸福を得る事ができたのだ。まあそんなことはどうでもいいや、まだ買ったばかりの歯ブラシを早速平らに噛みつぶしてしまった、これはいけない、もったいねえ。人に恨まれるよりこういう失敗をするほうがよっぽどガックリくる。不味い昼食がさらに不味くなる気分だ。ちなみにこれで28本目。