今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。朝のニュースを見た全ての人が知っているそれを、君はあたかも大発見のように告げる。
「ねぇ、最近新種の鳥らしき群れが観測されたらしいよ」
画面の字幕を、そのままコピペしたみたいな文章。僕は応えない。忙しいんだから、くだらない話は止めてもらいたい。
「流れる雲みたいだから雲鳥とか、神話の龍みたいだから龍鳥とか、一部の人の間では都市伝説として語り継がれてたみたい」
サ行で舌を少し噛む話し方や、途中で交じる興奮気味の吐息が煩い。僕は返事をせずに、黙って作業を続ける。
「ねぇ、雲鳥と龍鳥ならどっちがいい? 僕は雲だなぁ。だって、ふわふわして美味しそうでしょ?」
痛い。親指の腹に、鮮やかな赤の亀裂が入る。包み込むように舐めると、鉄の匂いと甘い味が鼻の中で混じった。
「ねぇ、外を見てみなよ」
「え? どうして?」
「いいから、早く」
高く積み上げられた煉瓦の間を、鋭い風が突き抜ける。僕まで飛ばされそうになって、慌てて踵を地面につけた。
「うわぁ!」
反響する叫びと、機械越しの半音上がった叫びが、ちょっとだけズレて重なった。
「いまの、雲鳥かなぁ?! すごいや、大発見だ!」
「なんだよ、勘違いだろう。白いってだけで決めつけるなよ」
「そうだね、もしかしたら紙飛行機かもね?」
眠りから覚めたようにハッキリした声に、少し怯んだ。ううん、違う。違うよ。これは、君のための雲鳥。