Re: 【第5回】絢爛を添へて、【小説練習】 ( No.160 )
日時: 2018/04/04 20:05
名前: 河童◆KAPPAlxPH6 (ID: A/CBOApM)

「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
「元の頂点がフビライハンで、フライの頂点がエビフライだよ」

 僕とテーブルを挟んで相対するこいつは、馬鹿な癖に勉強が好きで、すぐに学んだ知識がとっちらかってしまう。多分、このファミリーレストランのメニューのエビフライを見て、フビライハンが混ざったのだろう。
 今日は日曜日。僕はまったりと過ごそうと考えていたのだが、こいつは違ったらしく、明日社会の小テストがあるからと勉強に精を出したいらしい。
 そのため、僕を呼んでこのファミレスで勉強会をしよう、とのことだった。
 しかし、まさかいくらこいつが馬鹿だからと言って、『フビライハンひとつ!』と店員さんに注文するとは思ってもいなかった。
 店員さんは30秒ほど固まったあと、

「……あっ、エビフライですね。かしこまりました」

 と、やっとのこと解読して厨房の方へ向かっていった。
 そしてこいつがエビフライとフビライハンを間違えたことに気がついて、冒頭の質問に至る。

「いや待ってくれ、じゃあフランスパンとフライパンは何が違うんだよ」
「フランスパンは食べにくいパンでフライパンは食べられないパンだ」

 するとこいつは何をとち狂ったのか、テーブルの上にそれをメモし始めたのだ。おいおい、フランスパンもフライパンもテストには出ねえよ。と言いたいところだが、面白そうなので放置しておく。

「エビフライはフライで、フランスパンがパンなら、フライパンは揚げ物を挟んだパンということにはならないか?」
「そうか、フライパン美味しいよな」
「うん、美味い!」

 そろそろこいつは救いようのない馬鹿なのではないかと思えてきた。僕は店員さんが運んできたエビフライを1口食べる。うん、美味しい。

「このフライパン美味しいな!」
「そうだな、美味しいな」

 ついに、フビライハンすら飛び越えてフライパンとエビフライの違いすらわからなくなったようで、エビの尻尾まで食べておきながらそんなことを言う。もうどうしようもない。
 まあそんなことはさておいて、こいつの勉強に付き合ってやる。

「だから、まずチンギスハンがモンゴル帝国を統一してだな……」
「うん、うん……」

 僕がチンギスハンについて説明しているあいだに、こいつは寝たようだ。人に付き合わせておいて、よくもまあ寝られたものだ。
 ファミレスに来た時には昼だったはずなのに、もう午後4時である。そろそろ帰ろう。
 こいつの頼んだエビフライの代金を何故か僕が払って、家路につく。さあ、明日のテストが楽しみだ。

「それでは今日のテストを返します。名簿順に並んでください」

 月曜日の帰りの会。先生のその言葉で、全員が立ち上がり、教卓の目の前に並ぶ。僕は名簿番号1番なので、最初にテストをもらう。

「赤野くん、あなたらしくないミスですね。次は注意するように」

 ……? 何かミスをしてしまったらしい。答案を見返してみる。そこには『問一、元の初代皇帝を答えなさい』と書いてあって、その下に、『エビフライ』と書いてあった。
 ははは、本当の馬鹿は僕だったようだ。

《馬鹿話》