Re: 第6回 せせらぎに添へて、【小説練習】 ( No.186 )
日時: 2018/05/21 16:17
名前: 芋にかりけんぴついてるよ、髪っ (ID: gtaaP0ko)

 名前も知らないのに、どうしてこんなに懐かしい。その剣と僕が出会ったのは、きっと運命だったように思う。

 錆の赤茶色に亀裂が走る。まるで死んでいたみたいだった剣が、長い眠りから目を覚ましつつある。握りしめた柄はとても暖かく、すぐ先刻まで誰かが握りしめていたようだった。

 刀の鍔の中心に嵌まっている紅玉が、激しい光を発して周囲を明るく照らし出した。城の裏にある祠の最奥、消えぬ篝火だけが照らしていた、薄暗かった大広間の中心から放たれた光はその空間全体を真昼のように明るく照らし出した。

 まず初めにその身を包む枷を外したのは柄の部分であった。僕の握りしめる掌の中で、薄く張った被膜が弾けた。中からは目も眩む眩い黄金の閃光を放つ伝説の金属。

 刀身を覆いつくした赤茶色の錆に走る亀裂はどんどん増え、どんどん細かくなっていく。それは当然無機物であるというのに、拍動が聞こえてくるようでならなかった。生きているかのような存在感が、掌を介して僕に訴えかけてくる。まさしく卵だと言えるだろうか。殻を破り生まれ変わる、今目の前で起きている光景はその前兆に思えてならない。


 罅割れた表皮から、内部に迸る強い光が同様に漏れ出していた。今度吐き出しているその強い照明は、あまりに深く、しかし澄んだ青。快晴の空の下、空の奥の奥、その深奥を覗き込んでようやく見える、底知れない群青が刃から溢れ出ていた。

 伝承は本当だった。嘘など一つも含まれておらず、神話でもお伽噺でもない。王家に伝わる眉唾物の、聖剣にまつわる武勇伝。初代の国王が為した栄光は、決して誇張でも何でもなく、実話だったのだと理解した。

 松明の光だけ受けて育った苔が地面を斑に染める岩肌が次々と露わになる。先ほどまで、絶望が覆いつくしたこの地はあんなに暗かったのに。今ではまるで希望と言う名の烈火が明るく輝いている。

 僕の身体はと言うと、正直もうボロボロだ。ここに至るまでの道で、【アイツ】からどれだけいたぶられたことか。王家お抱えの鍛冶職人特性の甲冑は、凹んだり穴が開いたりと随分痛めつけられたし、擦った頬の傷からは血が流れっぱなしだ。身体中疲労で困憊しているし、今にも筋肉痛で倒れそうだ。

 それなのに、どうしてこんなに湧きあがる。腹の底から立ち上がる力が、立ち向かう勇気が、とめどなくだ。何が僕の背中を押す。誰が僕の背中を支えている。そんな物、問う必要なんて何処にもないのに僕は、確かめずにはいられない。

 陽の光が届かない祠だというに、聖剣が眠っていたこの大広間は晴天下のバルコニーのごとく明るい光に照らされていた。それはきっと、通路の向こうで僕を見失った【アイツ】にも届いていた事だろう。

 【アイツ】が地面にその足を振り下ろす振動が、その腹が地を這い岩盤を擦るその声がゆっくりと近づいている。ガラガラと、奴の身体が引っ掛かったからか祠の狭い通路が崩壊する倒壊音。

 次第に、その息遣いまでもがこの空間へと届き始める。近年開発された機関車の蒸気が漏れ出るのに似た大きな呼吸。蛇が威嚇する声をそのままとびきり大きくしたような、そんな声。

 斑に緑色が差し込む灰色の岩肌が四方を囲う通路。闇があんぐりと口を開けているような暗がりの向こうから、翡翠のような美しい眼光が二つ。あの凶悪な生き物からは、想像できないほど、穢れ無き珠は眼光鋭く瞬いている。

 闇に潜むその姿が見えないのは当然の事だった。その体表は、刃のような鱗は、槍のような爪は全て、夜と同じ黒色に染まっていたのだから。狭い道筋を壊しながら突き進むその怪物は、ようやく得物を見つけたとその目を細めた。闇に潜むエメラルドが、真円から三日月となる。

 這い出てきた邪竜を目にし、僕はより一層【アイツ】への敵意を高ぶらせた。現れたのは四つ足の龍だった。トカゲのようにヒョロリと長い体は、僕の背丈十人分ほどはあるだろうか。身体こそ細長く見えるが、その歩み方はむしろ、ワニに似ていた。その顔も、発達した顎も、鋭利すぎる牙もワニと極めて酷似している。

 ワニとの違いを挙げるとするなら、目の丁度後方の辺りからヤギのような角が伸びている辺りだろうか。斜め後ろに突き出したその巨角も、斬り落とすだけで重槍となりそうな程の凶悪な代物だ。

 吐く息は燃え盛る業火よりもさらに熱い。牙の隙間から漏れ出た空気は紅蓮の火の粉を孕んでいた。全身が分厚い鎧のような表皮に覆われており、その背中、腕に脚、そして顔はと言うと皮の上から強靭な鱗にも覆われていた。鱗一枚一枚が職人手製の短刀ほどの切れ味と、鍛冶屋渾身の盾のごとき耐久力を誇っている。

 存在そのものが歩く強大な要塞というべきだった。邪竜、それは聖剣の伝承、その一章に現れる悪魔の使者。吐き出す吐息は森を焦土にし、その爪牙はあらゆる城壁を粉砕し、奴の這いずった野山には虫の一匹すら生き永らえはしないと言われる、大いなる力の権化。


 それこそが、僕を追ってこんなところまでやって来た巨大な龍の正体だ。翼があるからには飛ぶのだろうけれど、その様子は誰も見たことが無かった。細い体の上部の方に、一対の大きな翼がある。膜が張ったようなその翼は、鳥と言うよりむしろ蝙蝠。

 一体どれほどの肺活量なのであろうか、奴が思い切り息を吸い込むと、強い気流に体が引かれた。鳥の嘴に開いているものとよく似た形の鼻孔からも、牙の生え揃った口からも、貪欲に空間全てを啜るように大きく一息。

 そして吸い切った後、しばらく口を閉じたかと思うと、蛇のような首を大きくもたげて、吐き出すように怒号を叩きつけた。取り込んだ空気全てを吐き出す咆哮が祠の中に響き渡った。脆そうな地盤までもビリビリと強く振動し、このまま倒壊してはしまわないだろうかと不安になる。

 けれども、神聖なる力に護られているからだろうか、強く岩肌が震えこそしたものの、天井が崩れ落ちるような様子は微塵として無かった。

 鎧が軋み、僕は思わず剣を手にしたまま両手で耳を塞いで立ち尽くす。それでも、奴からは目を離してはならないと、猛り狂う邪竜に気を配り続ける。奴が軽く腕を振り下ろすだけで殺されても可笑しくないのだから。

 しかし邪竜にとって、この爆発のような咆哮は別段攻撃の意思など何も無かったらしい。ただただ、これまでネズミのように逃げ続けた僕をようやく追い詰めたことに、募っていた苛立ちをぶつけただけ。勢いよく吐き出された息には肺の中に潜む業火が踊っていた。空中に真紅の炎が螺旋を描く。一しきり苛立ちを吐き出し終えたその龍の口からは、真っ黒な煙がたなびいていた。


 伝承においてこの邪竜は魔王の配下、ある上級悪魔の遣いとして円卓を統べる騎士王の前に立ち塞がった。

 苦戦し、今にも折れてしまいそうな王の前にその剣は現れたという話だ。どれほどの業火にも屈さない、金の極光を放つオリハルコンの柄。万物を斬り裂くアダマンタイトの刃。そして全てを見通す賢者の石が、伝説の金属を繋ぎ止めている。あらゆる邪なものから持ち主を護り、障害まみれの道を切り拓く伝説の剣。

 この剣の名前は伝わっていない。だから僕にとっても、知らないはずなのに。



 いつしか僕は、この剣の名前を理解していた。



 這いずる龍が、胴を引きずった跡を地面に残し此方ににじり寄ってくる。遠巻きに眺めると緩慢な動きに見えるが、その体躯が家のような代物であるがゆえに、思った以上に素早い。

 あっという間に僕のいる辺りまで近寄ってくる。青白い光を放ち続ける聖剣。刃を覆う錆はほんの少し振り抜くだけで全て舞い散ってしまいそうだった。

 石の台に突き刺さった剣。その剣は僕がほんの少し力を入れただけで、するりと玉座から立ち上がった。大地から抜き取った勢いそのままに、切っ先で天を指し示す。

 そしてそのまま振り下ろす。前方の何もない空間を試し斬りするように、鋭い一閃がピュンと鳥みたいに鳴いた。途端に、名残惜しくへばりついていた残りの錆が舞い上がった。ようやっと、長き眠りについていた建国の剣が覚醒する。旧敵の思い出をなぞるような龍の姿に、些か聖剣も驚いたのだろうか。一瞬手触りが堅くなったが、すぐさま掌にぴたりと吸い付く。同時に熱を帯び始め、昂っている様子が僕にも感じられた。

>>187

Re: 第6回 せせらぎに添へて、【小説練習】 ( No.187 )
日時: 2018/05/21 16:16
名前: 芋にかりけんぴついてるよ、髪っ (ID: gtaaP0ko)


 もしかしたら僕は、これから単にご先祖様の道程をなぞるだけなのかもしれない。だけどそれでも、僕は僕だ。血統だけだと蔑まれる日々もあったかもしれない。頼りない跡取りだと親に嘆息される日々もあったかもしれない。

 だとしても、認めてくれた人は沢山いた。教育係のじいさんも、庭師の親父も、剣の師である彼女も、僕らしさを認めてくれた。父達はむしろ、初代国王と同じ武勇を積むことを誇るのかもしれない。けれども中には僕が僕らしく道を進むことを認めてくれる人もいるだろう。

 そんな人のために送ろうじゃないか。誰のためでもない僕のための、聖剣伝説を。最初から立派で、誰よりも強い騎士が魔王を倒しに向かうのではない。気が弱い僕が聖剣に支えられながらも、強くなりながら進んでいくその足跡を知らしめるんだ。


 三本指と鉤爪とが振り上げられ、直後勢いよくこちらに向かってきた。慌てることなく地を蹴り、避ける。驚くほどに体が軽かった。あんなに重いと思っていた甲冑が今や肌着のように体に馴染み、一切挙動の邪魔にならない。

 彫刻刀のように尖った爪が、易々と地面を引き裂いた。爪が眼前を横切ると同時に突如押し寄せる血の匂い。墨のような純黒に塗りつくされた龍の体躯で、唯一汚れた赤茶色。一体その爪で、いくつの命を奪ってきたのだろうか。

 この国の、僕が護るべき民草もきっと、何人もこいつにやられてしまったのだろう。みすみす見逃してしまっていた自分が情けない。有事に立ち上がることもできない今までの自分が、口惜しかった。

 再びと言うべきか、邪竜は大きく息を吸い込んだ。しかし先ほどとは全く違う、肌が焦げ付きそうなほどの熱気が漏れ出ている。浴びれば即座に灰と化すであろう。僕のこの身も鋼の鎧も。

 しかし剣は僕に語り掛ける。その名を呼んでみろと。さすればより強い力を与えられる。言葉が聞こえた訳じゃない。けれども刀がその鋼の中に秘めた意思が、脳裏に流れ込んできたのだ。

 だから僕は、彼の名を呼ぶ。伝説の王が手にしたという、悪を斬るために生まれた開闢の剣。



 カリバーン。そっと呟いて、そして。



 首をもたげた龍が、ワニのように長い顎を開いて、大きく吐息をぶつけてきた。可燃性のガスの嫌な香りと、押し寄せる紅蓮の炎。熱気が伝播して肌を、喉を、毛先をじりじりと焼き焦がす緊迫感。

 けれども臆せず、握りしめた剣を一閃。その一太刀は、名を呼ぶ以前の剣術とは、全くその質が異なっていた。

 万物を裂く紺碧の刃が燃え盛る火炎を両断する。渦巻く炎がその中心から真っ二つにされて、僕を避けるように広がったかと思うと、力は霧散して空気中に消えていった。

 刀身から光となって漏れ出るばかりだったエネルギーの漏出は収まっていた。代わりにその力は僕の身体の中に取り込まれる。その聖剣に込められた力を注がれた僕は、まるで自分が自分で無くなったよう。


 あれほど疲れ切っていた脳が冴え渡っていく。あれほど動かすのが億劫だった脚が、腕が、走り回りたいと声を上げている。堪え切れぬ思いに突き動かされているのは僕の身体だけじゃない。僕が握りしめる彼もまた、武者震いが止まらないのか身の中心に座した紅玉を瞬かせていた。

 柱みたいに太いのに、鞭のようにしなやかな尻尾が一薙ぎ。さっきの爪以上の速度で迫ってくる。しかしその鞭打は容易に見切れた。平時なら、従弟の剣筋も見切れないというのに。

 きっと今までなら、黒い線が走ったようにしか見えないその薙ぎ払う尾も、今の自分にはその鱗の一枚一枚、そして棘のような突起物が規則正しく並んでいる様子まではっきりと見て取れた。聖剣の腹で受け止め、いなす。僕を打つこともなくその尾は、明後日の方向へ誘導された。

 簡単に受け流されたのが理解できなかったのだろう。逃げ惑うだけの僕を侮っていたこともあり、その目には今や強い怒りが宿ったことを感じ取った。


 先ほどは爪を振り下ろすだけだった奴は、今度は地面に前腕をびたりと付けた上で、地盤を抉りながら一帯を薙ぎ払う。尾の時と同じように剣の側面を盾にして受ける。あの強固な爪でも、強靭な腕力でも、カリバーンは刃こぼれ一つしようともしない。僕の身体も、ちっとも音を上げる気配はない。

 そのままぐるりと、体の割に小さな指が僕の身体を掴もうと周囲を囲う。縄が締め上げられるように、僕を囲ったその三本の指が迫ってくるも、握りしめることは能わなかった。

 剣を上方に振り抜いた。同時に、龍の指が根元から断ち切られて地面を転がる。黒く汚れた、タールみたいにどろどろの血が傷口から溢れ出す。瘴気を放つほどにその血液は禍々しい。

 片手全ての指が落とされた激しい痛みに、苦悶の絶叫を荒げた龍。その天を衝く号砲はまた、祠全体を揺らして見せた。



 しかし、一瞬の後に痛みが憤怒へと転換する。矮小な存在に体を斬り落とされた事実が苛立たしくてしょうがないらしい。歯茎まで剥き出しにし、ザラザラの舌を見せつけて、四つ足で地を這っていた奴は、後ろ脚だけで立ち上がった。そのまま二歩、三歩とこちらに近づきそのまま、僕を全身使って押しつぶそうと倒れかかってきた。

 篝火の光を受けた龍の影に全身飲み込まれる。後ろに退くのも間に合わず、前に進んでも結局ぺちゃんこになるだけ。八方塞がりに見えてしまう。

 けれども、誰かが僕に呼びかけていた。退避する道はまだ残されている。上方見上げ、天井が見える隙間を見つけた。

 顔と肩、そして翼とが上方から押し寄せてくる。しかし、それでも埋め尽くすことのできない隙間は開いていた。その間隙目掛けて跳び上がる。その首のすぐ脇を抜け、凧のような翼に当たることも無く上空へ跳躍し、邪竜が誰もいない大地を押しつぶすのを眼下に見届けた。


 そして僕は、落下する勢いそのままに、鱗ごとまとめて斬り落とさんと、その首目掛け刃を振り下ろす。きっと不格好な剣の筋であっただろう。しかしそれでも、魔を打ち砕く剣光一閃。瞬いた一筋の群青の軌跡が鱗に守られたその首を捉えた。

 金属のぶつかり合う甲高い音が、全方を壁に覆われたその場に鳴り響く手強い反発が僕の手をも震えさせるが、それでも退く訳には行かなかった。より一層力強く柄を握りしめ、戦う理由を再確認する。

 小さい頃から何度も見てきた、城下町の景色。朝日が昇りゆく黄色い空も、夕日の沈みゆく橙色の空も、曇天に色あせた街並みも、全てが愛おしい。年に一度の豊作を祝う祭りに笑う人々の顔は瞼の裏に焼き付いて離れない。

 そうだ僕は、彼らを護るために剣を取るんだ。再確認と同時に斬撃が勢いを増した。固い鱗も堅牢な皮をも意にせずして、聖剣から迸った光がその首を端まで断ち切った。


 首を斬り落としたため、黒き龍は死に際の声を上げることも無く大地を押しつぶしたそのままの姿で、地に伏したまま動かなくなった。頭が落ち、そのせいで鈍い音が鳴り響く。首から噴水のように噴き出る血の勢いは、先ほど指を落とした時の比ではない。

 討ち取ったというその事実がにわかに信じられなかった。観衆もいないため、僕が勝っても別段歓声など響かない。けれども確かに、僕はこの剣と共に立ち向かったのだ。この山のように強大で、嵐のように獰猛な、破滅を呼ぶ存在を。

 その証拠に、もう動こうともしない巨躯。閉じかけの瞼はそれ以上閉じようともしなければ当然開こうともしない。中途半端な角度で其処に転がる頭を見ていると、よく出来た作り物のように思える。しかし首から先を失った胴体からは、血だまりが波打ち広がっていた。


 緊張の糸が切れたためか、聖剣が眠ったためか、急に体が重くなる。ここにたどり着いた時よりも一層広い筋疲労が押し寄せてきた。腕は肩より上にはあがってくれそうにないし、膝が笑って立っているのも困難なほどだ。

 何とか聖剣を杖代わりに真っ黒な血の池から遠ざかり、僕は尻餅をついた。衝撃を和らげるほどにもスタミナは残っておらず、尾てい骨から痺れる痛みが駆け抜けた。

 あんなに大きなドラゴンを倒したのに、何て情けないことだろうか。結局のところ僕はこのカリバーンにおんぶにだっこ。自力であれを倒したとは言えないのだろう。

 初代の伝説ではどうだっただろうか。思い出すまでもなく、こんな風に不甲斐ない様子でへたり込んではいないとは予想できた。

 思い出した、龍を討ち取ってそのまま、祝杯を挙げようとその血をグラスに汲み上げ、飲み下したのだ。よくもまあこんな泥よりべたべたした液体を飲もうだなんて思えたものだ。いくら龍の血に強壮作用があると言っても、むしろこんなもの口にしたら死んでしまいそうだ。


 別に、僕がこれをわざわざ飲む必要は無いか。

 先ほど決めたばかりではないか。これからは、僕なりの聖剣伝説を歩いていくのだと。

 ようやく僕は、己に与えられたその名を受け入れられそうだった。赤子の頃あまりに病弱で、それを不安に思った父母から与えられた名前。その名前は、剛健にして屈強な初代の国王の名前と同じものだった。建国の王の強靭な力にあやかろうと付けられた名前。今日を境にして僕はようやく、胸を張って名乗りを上げることができそうだ。

 第15代偉大なるブリテンの王、アーサー・ペンドラゴンと。