笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
「……なんでこんなものを」
いたずらか、願掛けか。家の前に立てかけた笹に付けられたそれ───その紙面には「ままはどこ」とだけ。文字を覚えたての子供の文字だ。たどたどしく、そして震えていたのだろう、ところどころミミズが走ったように、うねっている。
本来こんな字で書くことといったら、「ぷーるにいきたい」だとか、「ぴあのがじょうずになりたい」だとか、そんな夢いっぱいの願い事だろう。だがそんなものはどこにもないのか、ただただそれだけを願うように、「ままはどこ」と書かれている。自らの名前らしきものも、小さく控えめに書いてあった。
「わたし」
否、それは名前ではなかった。そう決めつけるのは早計かもしれないが、世間一般からすれば、それは名前ではなかった。本来「わたし」という言葉は、自らを現す言葉であり、けして名前に使われるものではない。そもそもなぜ名前ではなく、「わたし」と書いたのだろう。
「……ままはどこ、か」
きっと切実に、純粋に、会いたくてそう書いたのだろう。覚えたての文字で、ふるふる震えながら書いたのだろう。普通の子供の夢を書かず、ただ「ままはどこ」と。そんなことを書かせる母親は、今どこにいて果たしてこれを読むのだろうか。
「読んでいるよ」
絶対に。そうつぶやいて、私はそれをもとの位置へ戻した。大丈夫、見ているさ。絶対に。
そういえば数年前くらいかな、私はこの七夕の時期に何かあった様な気がする。覚えてはいないのだが、何故か七夕の時期になるとそれを思い出す。別段、何かあったわけじゃない。あ、でもあったかな?ほとんど覚えちゃいないけど。まあ、いっか。そのときに手帳をもらった気がするな。たしか『母子手帳』?忘れちゃったけど。
私はその小さな願い事が付けられた笹を家にしまうことなく、あえてそのままにしておいた。いつかこの願いを書いた子のもとに、「まま」が帰ってきますようにと。一人の人間として思う。
さてそういえばなんの用で外へ出たんだったかな、そうだちょっと散歩に行こうと思ってたんだ。私は少し背伸びして歩き始めた。
「あの」
ちょうどその時。後ろから声をかけられた。そちらを振り向けば、やせ細った中学生くらいの男の子。なんだか顔色があまりよくない。どうしたんだろうか。
「まま」
口から発せられたのはたどたどしい言葉。弱々しく、すがるような声だった、言葉だった。ん?まま?
「まま は どこ」
グシャリと握りつぶされた、男の子が手にする『手帳』を見て私は固まった。
その手帳には、『私の名前』が書かれていた。
ちょうど七夕の時期の、数年前の日付の。
『たなばたのまま』
書いてるうちにわからなくなりました。初投稿初参加。
もうちょっと胸糞悪い感じにしたかったんですけど、無理でした。かけなかった。というかこんなのしかかけませんでした。