Re: 第10回 鎌鼬に添へて、【小説練習】 ( No.298 )
日時: 2018/11/19 01:00
名前: 杜翠 (ID: 5B9fCoSA)

初参加、失礼します。
初めてなので、ルール違反等がよく分からないので、もしありましたら教えてくだされば嬉しいです。
スマホの機種のせいかは分かりませんが、改行が出来ないことがあります。



もしも、私に明日が来ないとすれば、それは面白いことね。
君が突然そんなことを言うから、あぁ、そうだね。なんて言葉に俺は答えた。
もう聞いてた?と君が少し拗ねたように、それでいて何処か嬉しそうに顔を覗きこんで来るから、俺は顔を少し後ろに引いた。
本当に君は距離感がおかしい。

「明日っていう概念が、きっと私の邪魔をしているのよ。明日っていうのはね、つまり次に見える景色なのに私にはその景色がちっとも見えないわ。貴方には見えてるのに」
「俺にも見えねぇよ、そんなもの」
俺が引いた顔を戻しながら、返した。さっきは嬉々とした表情で拗ねていたのが、今は本当に拗ねているようだ。
眉毛の両端が少しだけつり上がっている。本当に拗ねたときの君の癖だ。
まぁ、君は知らないだろうけど。
「いいよね、貴方は。見えるんだもの、明日の景色が。ねぇ教えて?明日ってどんな景色?」
「どんなって……、あんまり良いもんじゃあねえな」
「本当に?」
「聞いて極楽見て地獄」
「私、見たことないから分からないわ。生まれてこのかた聞いたことしか無いんだもの」
首を傾げながら、少し君は笑った。
機嫌は直ったようだ。
俺は窓から月を眺めた。
赤々しく輝く、醜い月だった。
「ねぇ、月ってどんな景色?」
「……思ったよりも綺麗じゃねえな」
「ふーん」
ゆったりと時は流れた。
気付けば君は俺の肩に頭を預け眠っていた。
「いいなお前は、こんなに醜い世界を見なくていいんだからよ」
そっと君の瞼を開けると、白濁した美しい瞳が少しだけ見えた。
君は少し唸ったが起きはしなかった。
「明日なんて、俺にも見えねぇよ。ただ生きていくだけさ、明日が来なくてもな」
俺は、君を抱き寄せて寝た。


盲目の君は、この醜い世界の美しい音しか聞こえないだろう?