Re: 第11回 狂い咲きに添へて、【小説練習】 ( No.313 )
日時: 2018/12/27 15:51
名前: 鈴原螢 (ID: pgEXZ4OQ)

 凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。しかし、酷く恐ろしいほどに美しいそれは、明日になれば雪解け水だけしか残らない。美しさを、永遠に保つことは出来ない。
 20代の花盛りも、第二次性微期を迎える前の少年の息を飲むような美しさも、咲き誇る木花も、いつかその美しさは気づいたらなくなっていたり、儚く散ったり、いきなり失ったりするのだ。
 呪いのようでもあり、魔法が解けていくようにも見えるこの現象は必ずやってくる。誰にも抗えない。
 そう、つい最近まで思っていた。
 だが例外が居たのだ、この世に。それも私のすぐ側に。
 それは私の幼馴染みであり、親友だった。彼女は魔法で永遠の美しさを手に入れたらしく、かれこれ70年間、高校生の頃と全く同じ姿だ。ハリのあるきめ細やかな肌、瑞々しい唇、ぱっちり大きな瞳。幼馴染みの贔屓目を抜きにしても、彼女は若々しく美しい。目の前の美少女が70歳だなんて、誰も気づきはしないだろう。
 だが彼女はある日突然、私に魔法を解いて欲しいと言った。でも私は魔法の解き方なんて知らないし、正直魔法も信じていなかった。どうやってその美しさを保っているのか何度訪ねても、魔法だよ、としか彼女が言わないので、私は懲りて黙っていただけだ。魔法を信じたわけでも納得したわけでもない。何より、彼女の美しさがもう見れなくなるのは悲しい。だからその選択にあまり賛成したいとは思えなかった。
 しかし彼女の想いは予想以上に強く、深かった。静かに重く鎮座する岩のように、揺るぎない意思だった。
 私は仕方なく折れ、魔法を解く方法を教わった。それは、カメラで撮ることらしい。私は少し古いカメラを彼女から渡された。

 「これで撮るの?」
 「うん」

 魔法を解くのがカメラで撮ることなんて、ちょっと訳がわからないが、彼女はこのために撮影場所を借り、真っ赤なワンピースを着て、お化粧をして、目一杯洒落こんでいた。レトロな椅子に座った彼女の前に、私は渋々カメラを持って構えた。

 「ねえ、本当にいいの?」

 これが正しい選択とはどうしても思えない。私は最終確認という意味と、彼女がやっぱり止めると答えることを願って、訪ねた。彼女は困ったように微笑んで、しばらくした後、小さく頷いた。
 
 「……じゃあ、撮るよー」
 「待って!」

 彼女の大きな瞳が揺れる。

 「なに?やっぱり止める?」
 「違うの、そうじゃなくて……」

 少し恥ずかしそうに頬を朱に染めながら、彼女は言った。

 「美しく、撮ってね」

 私はその時、奈落の淵に追い込まれたような、燃え盛る炎の中に落とされたような、深い失望を感じた。そうだ、私はあの頃から変わらずに、彼女の美しさに見惚れ、憧れ、憎んでいた。

 「わかってるよ……」

 やっぱり美しさを永遠に保つことは出来ないんだ。そう思いながら私はシャッターを押した。
 小さな蕾がぽっ、と咲くみたいに、私は心の何処かでやった!と思った。

 ◇

 添えて、一周年おめでとうございます。私としてはあっという間な、気づいたらもうこんなに時が経っていたのかと思うような一年でした。皆さん、よいお年を。