Re: 第12回 玉響と添へて、【小説練習】 ( No.318 )
日時: 2019/03/01 21:22
名前: ヨモツカミ (ID: piHKiu/E)

 ――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
 声に問われれば、少女はしばし考え込んでしまう。
 淡雪のような肌、肩の下で揺れる亜麻色。一際長い睫毛に縁取られた翡翠の目。よく通る鼻筋に、桜色の花唇。鏡に映したみたいに同じ背格好の美しき少女達は、凪いだ夜の水面のように見つめ合っていた。
 向かい合う彼女の白藍のドレスと、少女の細い体を包む珊瑚色のドレス。その色違いがなければ、まるで彼女らは本当の鏡のように見えていただろう。
 白藍色を身を包んだ彼女は、双子の姉である少女を鏡のように見立てて、再び同じ問いを投げかける。これは彼女にとっての日課であり、一つの呪いのようなものだった。
 鏡に見立てられた姉は、妹のこの行為を嫌ってはいたが、毎日のように繰り返されるそれを避ける術もなく、毎回同じ答えを返すしかないのだ。

「……それは、あなた様でございます」

 そう伝えると、妹は酷く満足げに頬を吊り上げて、白藍のドレスの裾をつまみあげながら嬉しそうに去ってゆく。今日もワタクシは美しいのだわ。ワタクシは世界一美しいのよ! と、歌うように、呪いを撒き散らす。

「ああ、嗚呼……」

 姉である少女は、自分の身を包んでいた珊瑚色のドレスの裾を掴むと、乱暴に引っ張った。そうすると、鈍い音を立てて、見事なドレスは見るも無残に引き千切れてしまう。構わない。少女は堪らずドレスを無茶苦茶に引っ張って、ビリビリとドレスを引き裂いていく。しばらくすれば、朽ちかけの花のように、無残なドレス姿の少女が部屋の中央に佇む姿があるだけ。
 妹と同じ容姿。人形や彫刻のように整ったその姿。彼女にとっては、その作り物の如く完成された姿が、醜悪に感じられて仕方なかったのだ。
 気持ち悪い。こんな姿は気持ちが悪い!
 そう思うのに、妹は彼女らの完成された容姿に酔いしれており、毎日のように鏡のようにそっくりな姉と鏡ごっこをし、容姿を認められては悦に浸る。ワタクシは世界一美しいの。ワタクシたちは完璧なのよ、と。
 姉は自身を醜悪だという。妹は自身を秀麗だと信じて疑わない。
 こんなに作り物じみた自分たちは、本当に作り物なのではないか、と姉は常々思ってしまう。

 小さなお城に閉じ込められた、小さな小さな、双子のお人形は。真実に気づけないまま、今日も小さな世界の中、互いにすれ違いながらも今日を終えるのだった。

***
ドールハウス
双子のお人形は、美醜の間で揺れる。
今回は案外短く書けました。