赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
あるとき赤い彼女は、ぼやけた世界を見つけた。ガラス瓶の底を覗いたときのような、歪な世界だった。水がとめどなくあふれ出ては、どこかに零れ落ちていく。この場所を通るときは、光や形がはっきりと見えるのが、当たり前であったのに、今日はなぜか違っていた。
次の瞬間、彼女は青かった。狭い水槽の汚れを受け取るタイミングで、青くなってしまったのだ。青い彼女は、赤い色に戻らなきゃいけないと、必死に水槽の上にあるポンプを目指した。
でもその前に、銀色の管が青い彼女の一部を抜き取っていった。狭い水槽に閉じ込められていた彼女が、外の世界に出られる、いつ起こるか分からない貴重な機会だった。青い彼女は、一生懸命に水槽の外を目指す。なのにいつの間にか、彼女の身体が邪魔をして、出入口は塞がってしまった。
青い彼女は、ポンプのフィルターで綺麗になりながら考える。
赤い私が、ぼやけた世界を見つけたら、青い私は外に出られるのではないか。
この狭い水槽で、ぐるりぐるりと同じ場所へ行き、汚れを受け取っては、ポンプのフィルターを目指すこの定めに、終わりがないことに気がついてしまったのだ。
赤い彼女は、力強い拍動でまた狭い水槽へ送り出された。
「はい、採血終わりました。けんたくん、チクッとして痛かったよねー。でも我慢できて偉かったよー! 痛いの痛いの飛んで行けー!」
診察室。涙目の男の子は、ご褒美の棒付きキャンディを右手に、左腕には小さな絆創膏を貼って、母親とその場所をあとにした。
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お久しぶりです。夏の復活なのに夏らしくない話で登場しました。グロ描写に該当するのかは知りません。多分大丈夫だとは思いますが、もし不快になった方はごめんなさいということで。