「問おう、君の勇気を」
そう書かれたメモ用紙を回収し、私はため息をついた
こんなしょうもない肝試しなんかで問われる勇気に意義はあるのだろうか、いや絶対無い
「み、見つかりました?」
「おー回収した回収した。早よ戻ろ」
そう言うとその女子―リボンの色が違うから他の学年だ―は私の後ろにいそいそと隠れる
この子みたいにホラーが苦手な人間もいるんだからもうちょっとみんなが楽しめるものにすればいいのに。なんて思いながらもチェックポイントの焼却炉を後にした
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さすがに帰りは静かだった。お化け役の人達は次の組でも驚かしてるのだろう
この女子校には夏休みに入る少し前になると互いの親睦を深めるため校舎に一泊するという変わったイベントがある
そして、その夜には肝試しをするというのが我が校の文芸部の伝統だ――なんて夏を目前にしてホラーにハマったアホの部長は言ってたけどたぶんいつもの思いつきだ。だって去年こんなのなかったし
「ひょあっああぁあっ!?」
背後から突然聞こえた悲鳴に思わず驚く
「す、すみません。ただの鳥でした…」
驚かすなよ!なんて心の中で毒突きながらなんとか苦笑いで取り繕う。
あーあ、こんな調子だから部室から出るのも時間かかったんだろうな。だから慌てて追いかけて来たんだろうな
確かに私はホラーが平気だ、だからこういう風に突拍子も無いところで悲鳴をあげる人間と組ませたのはぶっちゃけ正解。
そうでもしないと驚かないもんねーはっはっは組ませた奴は後で何か奢らす
「あのさ」
「はいっ!?なんでしょう…」
「あんまくっつかないでくれる?歩きづらい」
「えっ、あっ、すみません…」
……………………………
「いや!だから!手ぇ離して欲しいんだけど!?」
「えっ、すみませんいやです、怖いです…」
「知らんわ!あっつい!動きづらい!」
「すみませんすみません……」
そう言いながらも全く離す気配が見えない。繊細なのか図太いのか
あんまり恐る恐る歩くもんだからついつい怒鳴ってしまった。でもこっちだって早く冷房の効いた部屋で涼みたいんだからキビキビ歩いて欲しい
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「やあやあおかえり〜トップバッターご苦労様」
「………ただいまでーす」
「あっれれー?なんかテンション低くない?」
扉を開けた瞬間アホの部長のお出迎えを受けて一気に疲労感が増した
「お疲れ様。乃々井さん、これよかったらどうぞ」
「あ、あざーっす」
副部長からオレンジジュースを受け取ってありがたく一気飲みする。めっちゃ生き返るわこれ
「あ、そういえば今日の組み分け考えたの誰ですか?」
「んえ?」
「いや、今日相方引っ張ってくの苦労したんで組み分け考えた人には何か奢ってもらおうかなと。くじ引きもなかったし考えた人いますよね?」
「へっ、え?なーんのこと?」
「あっ部長ですかーダッツ奢ってください」
「ちょちょ、なんか勘違いしてないキミ?」
「声上擦ってんですよ。観念してください」
いやー日頃の行いって大事だなー
ともかく、部長にダッツを奢ってもらえる事になって私は満「乃々井さん?組み分けって何の話?」
ん?
「や、私と一緒に帰ってきたじゃないですか」
って
あれ?そういえばあの子どこだ?
部屋を見回しても私以外には部長と副部長しかいない
あ
「今回の肝試しはみんな一人で行く予定だよ?」
そういえばこの部屋
「大体メモにも書いてるじゃん?『君』の勇気を問おうって。複数人で行かせるなら『君たち』ってちゃんと書くよ。仮にも文芸部だもんそんな基礎の表現間違いは絶対しない」
全部の学年揃ってるのに
「ちょ、ちょっとあなた、その腕どうしたの?早く保健室で手当てを…」
あの子と同じリボンの人いない
え
じゃあ
あれ?