後書きはないですが前置きです
好き勝手書きました、本当に申し訳ございません、あらかじめ謝ります。
長編ファンタジーのクライマックスみたいな感じになっておりますが、私自身こんな設定の物語聞いたことも作ったことも書いたこともありませんので、今回書いた以前のストーリーに関しては私に聞かれても答えられません。キャラクターの名前?ないです。
最後にアドバイスですが、読まぬが吉。何のために書いたかって、自分の練習のためとしか答えようがなく……。
主催の方々には土下座するくらいの所存であります。
追記
そんだけ好き放題したくせに2レスに分けなきゃ投稿できないこのスタイル。
あの、ほんとごめんなさい!許してください!(ハンネ)
↓本編
「問おう、君の勇気を」
初めて彼女の手をとった時の声を、彼は思い出していた。敵に襲われ、体も衣服もすりきれてしまっていたというのに、あの日の彼女の心は何一つ傷ついていなかった。凛々しく問うたその声には一片の揺らぎもなく、茶色い瞳は真っ直ぐに彼の瞳の奥を射抜いていた。その時彼女を助けられるのは目の前の彼しか居らず、彼が逃げ出したらもう死んでしまうというのに、彼女はまず目の前の少年の勇気を問うた。
あの時本当は、彼女がどれだけ心細く感じていたのだろうかと、彼は想う。後に彼女は、一人きりの部屋で泣いていた。彼が手をとってからと言うものの、彼女は孤独を知らなかった。だから久々に、風邪をひいて独りで寝ていた夕方に、孤独の寒さに涙していた。その姿を見て彼は、彼女のために戦いたいと己の意志を再確認した。
そんな彼女は、事切れる最期の時まで独りになることはもう無かった。目の前に相対している仇である、氷の魔女から目を離さず、彼はその氷の魔女と初めて向かい合った時のことを思い出した。あの頃は浮かれていたと、当時の愚かな自分を思い出してほぞを噛む。何度こうして過日の己を悔いてきただろうか。思い出さない日なんて、一日たりともなかった。それくらいに彼は許せなかったのだ、氷の魔女と、そして自分を。
炎の魔女を倒した、調子に乗っていた。今なら、二人でなら誰だって倒せると思い上がっていたのだ。そうして出会ったのが現代最強と謳われた女、白い装束に身を包み、凍てつくような眼光で刺すように威圧する、氷の魔女。その心は無機質で、氷のように冷酷だった。
そして今も、その冷酷さは変わらない。持ち前の氷の魔法で、じわじわと彼を追い詰めるその様子は、まるで狩りを楽しむ狼のようであった。彼の抵抗する勇気を少しずつナイフで削ぎ落とすように、ゆっくりと彼の体力を消費させる。彼が彼女に託された魔法も全て、己の莫大な魔力で捩じ伏せた。溢れ出る魔力はどこからか鉛色の雲を呼び寄せ、そして吹雪を巻き起こす。春の昼間だというのに、彼女を中心としたその空間は恒久の夜に包まれた雪国のようだった。
悪魔に魂を売っただけはあるなと彼は目の前の氷の魔女を睨み付けた。もはやその肉体は女どころか人間であることを辞めており、魔力の器としての存在でしかなかった。誰一人として触れることは能わないが、それでも殴れば薄氷のように粉々になるような、脆い体。その肉体の脆弱性を代償として氷の魔女は、人間離れした魔力を得たのだ。
それはそれで助かったと、彼は思う。いくら彼女の仇とは言え、女性を殴るというのはほんの少しだけ抵抗があった。それ以上の怒りがあるため、結局敵討ちはすることになっていただろうが、一欠片の躊躇も無くなっていた方がいいに決まっている。
肌を突き刺す冷気が、また一段と強くなる。凍えるような寒さではなく、痛みだけが体の表面を駆け抜けていた。その昔、北国が実家の友人が言っていた「寒すぎると痛くなる」というのは本当だったんだなと思い出す。
そろそろ、氷の魔女は赤子の手を捻るような戦いに飽き飽きしており、終いにしてやろうと絶大な魔力を荒れ狂わせていた。ただそれさえも、相手にとっては児戯に等しい。
負けられない。託された魔力を胸に、ただそれだけを彼は考えた。何があっても負けられない。目の前のこの女だけは必ず、自らの手で討ってみせる。それが、死して黙する彼女に誓った、再起のための約束だった。決して諦めない、絶望しないし、恐れもしない。
恐怖に足を震わせた自分を思い出す。初めての氷の魔女との邂逅、浮かれきっていた自分達の力と相手との力量の差、恐れ戦いて背を向けるも、足がからまって上手く逃げられなかったあの日、彼を庇うように彼女は凶刃を浴びた。
「クレイマン」
魔力を込めた掌を地に押し当て、眷属の名を口にした。大地が隆起し、大きな丸い岩の塊が現れる。ずんぐりとした手足と顔のようなものがせり出てきて、物言わぬ泥の人形となった。それが、一体や二体ではなく何百体と生まれていく。あまりの数の、その多くの人形達に囲まれた彼の姿は、もう氷の魔女の位置からは確認できなかった。
「またそれか」
言ったはずだと、退屈そうに魔女はため息をついた。そんなもの自分には通用しないと、何度も言葉のみならず実践を以て示していた。凍てつき、くだけたクレイマンはいくつも転がっている。無駄な努力とは滑稽だなと、氷の魔女は嘲る。
「独りぼっちで誰からも愛されなかった土の魔女らしい魔法だ、寂しさを紛らわすために土くれに囲まれ、仲良しになったつもりになる」
そんなもの幻想に過ぎないというのに。氷の魔女は下らない意見を切り捨てるように土のゴーレムを蹴散らし始めた。腕を振るえばそれは指揮者のタクトのように吹雪を操り、前線のゴーレムから機能停止に陥らせる。構成する土の中の水を完全に凍結させたり、巨大なゴーレムなら周囲の蒸気を凍結させ、氷の中に閉じ込める。子供をあやすようにゆらゆらと腕をふって吹雪を意のままに動かす、それだけで彼の作り出したゴーレムはみるみるうちに減っていく。
退屈、それだけが魔女の胸中に渦巻いていた。悲鳴も無い、血も溢れない、ただただがらくたを生産するだけの虚しい抵抗に、感じるものは何も無かった。敵討ちだと息巻いてきたにも関わらず、結局は物言わぬ人形頼り。どうせ何も残せないなら、断末魔でほんの少しの悦楽を与えて欲しい。
飽き飽きして、欠伸をこぼしたその時だった。まるで氷の魔女がそのように振る舞うと予測し、待ち構えていたかのように、彼は唐突に飛び出した。残った魔力のありったけ、そのほぼほぼ全てを使って巨大なゴーレムを作り出す。形が簡易なので大きさの割りに使う魔力は少ない、このまま質量で押し潰す作戦だ。我が身を犠牲に、氷の魔女を掴んで押さえつけようとする。
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