あざばファイルNo.03
「また会う日を楽しみに」
僕には、たまに見る夢が、夢だと気付けてしまうことがあった。それは明晰夢なんて呼ぶらしい。
夢なのだから、良からぬことが起こる前にさっさと脱出しようと、目を擦りかけた。だが、それを目の前を横切っていった人物が中断させる。知っている顔だった。懐かしかった。もしかしたら、僕はそいつに会いたかったのかもしれない。
待て。声をかけるとその人物は立ち止まる。後ろで一つにまとめた明るい髪に、右目の眼帯と、空いた方の優しげなブルーの瞳。何故か両手には大量の彼岸花。
「ウルマ」
名前を呼ぶと、男は柔らかく微笑んだ。もう、ずっと昔に自殺した男。何か話したいのに、僕の口からは上手く言葉が出てこない。夢だとわかっていても、何か言わなきゃ。
「一輪持っていきなよ」
顔の前に赤い花が美しく咲き誇っている。差し出されるままに、彼が手に持っていた彼岸花を受け取って、僕はどうすればいいかわからなくて困惑していた。
ウルマはもう一度柔らかく微笑んだだけで、どこかへ立ち去ろうとしている。呼び止めたかったけど、やはり僕はなんて声を掛ければいいか、わからなかった。
遠ざかる背中を見送って、彼岸花を強く握りしめた。
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Twitterの方で来たお題に合わせて500文字SSを書くみたいなタグをやったときのやつです。