アナザーバーコードの、そのうち続き書くけど途中放棄したやつがあったので。オリキャラ募集をしたとき、一番最初に投稿して頂いて、とても思い入れのある彼の話。
あざばファイルNo.01
歌を聞いていた気がした。優しくて、綺麗な歌。
ぼんやりとする意識を覚醒させると、誰の歌でもなかったことを知る。だったら、あれは何だったのか。水の滴る音が、そう聞こえただけだったのか。彼──ヴェンには何もわからない。
横たわっていたベッドで上体を起こして、窓の外を見ると、淀んだ薄闇が広がっている。でも、雨なんて降っていなかった。じゃあ、水の滴る音の正体は。
ヴェンは部屋を見回して、全ての答えを思い出す。そうして、また思考は赤く紅く朱く、綯交ぜの緋色(あかいろ)に飲まれて、愛おしさに思わず息を吐くのだった。
「おはよう」
机の上で、仰向けに寝かされた、愛しき彼女の遺体。解体途中で、眠くなってきたので、放置して眠っていたのだっけ。
腹部に空いた傷口から溢れた血液の滴る音が、歌に聞こえたなんて。やっぱり自分はどうかしている。それはわかるのに、やはり心地良く甘美に聞こえるのは。
ヴェンは服の上から心臓の辺りを握り締めた。
雨宿りさせて欲しいと家を訪ねたら、快く受け入れてくれた、親切な女性だった。おそらくヴェンと年は殆ど変わらない、若くて美しいヒトだった。
「急に降るものですから、私も驚きました。お外に干していた洗濯物も、また洗い直さないといけなくなりましたし」
肩にかかる亜麻色の髪を払いながら、彼女は笑って言う。優しくて、綺麗な女性だが、警戒心の無さに問題があると思った。
彼女は直ぐにタオルをお持ちします、と言って部屋の奥に消えた。
「でも、直ぐに止むのでしょうね。こういう雨のこと、驟雨と呼ぶらしいですよ。ところであなた、」
話しながら戻ってきた彼女は、きちんと畳まれた白いタオルを数枚持って、強張った顔をしていた。
「雨に降られたはずなのに、全然濡れてませんのね」