Re: 【暫定】〜ヴァルキュリア開発計画〜 ( No.65 )
日時: 2019/01/03 14:57
名前: 名無しのアキラ (ID: H8t.4cI6)

焼け焦げ、煤と火の粉が舞う街。石レンガやガス灯など、昔の景観が残されていたであろう街は、今は瓦礫の山と化している。
そんな街の大通りに彼は“また”召喚されてしまっていた。

その背中は正に“仁王”の如し、巌のように鍛え上げられた肉体の大男。髪型は茶髪のオールバック。その眼光は猛禽類のように鋭く、茶色い瞳が目に前の光景を睨みつける。
見慣れない街......しかしこの世界の“空気”、いや“雰囲気”というものには、彼は見覚えがあった。

ーー2つの種族がいた。過去になにがあったのかは誰も知らない。けれども、彼らは互いに憎しみ合っていた。
誰もが何かに怒っていた、殺しあっていた。もしかしたら、世の中の不条理に、世界中の人間の思いが爆発した結果が、今のこの世界なのかもしれない。
類を見ない、戦争が当たり前になった世界。永遠に燃え続ける戦火。
しかし、もうこの世界にも限界が来たようだ。
空から天災の如く降り注ぐ光の束が、地上のあらゆるものを破壊していく。

「ーー“不動”か」

己の名を名を呼ぶ声に、彼、“不動仁王”は振り向いた。
駅だろうか、正面入り口から颯爽に現れたのは、白いマントをはためかせる銀髪の男だった。中年に差し掛かる年代と思われる、男の瞳は金色。

「シャドウ......あえて聞くが、俺はもう一度“ここ”へ召喚されたのか。他の皆は無事なのか?」

シャドウと呼ばれた白マントの男。

「左様、だが無事の保証までは出来ぬ。ヴァルキュリアを倒しきったと思いきや、もっと厄介な連中が現れた」

「なんだと、そいつらはどんなーー」

不動仁王が言いかけた時、周囲の地面が盛り上がり、中から青黒い触手の数々が姿を見せる。そしてその触手の中心部には獣のような瞳がこちらを除いていた。
複数体の怪物が地面から現れた、不動とシャドウを取り囲む。
血に飢えたように低い唸り声を上げる怪物たちに、2人は背中合わせになった。



前線でレジスタンスのメンバーとヴァルキュリア達が交戦する中、街の一角ではレジスタンスの副将の少女、アミラが野営地で指揮を取っていた。丁度地形の起伏の陰になっている場所に上手い具合に布陣し、物資調達や医療施設の整備を行っていた。
そしてそこへ現れるコック姿の大男が1人、アミラへ近づいてくる。
スター流のヒーローの1人、カイザーだ。ヴァルキュリアとの戦闘で負傷するも、なんとか一命を取り留めた。

「カイザーさん!どうしたんですか!?」

「悪いが、仲間の危機を前に、自分だけ病室でいつまでも寝ているわけにはいかない。
少しでも手伝いをさせてもらおうと思ってね」

カイザーは腰に手を当てながら笑みでアミラと向き合う。
しかしそれは、彼女を安心させる為の作り笑みだった。まだまだ本調子ではないのに......カイザーはつくずく優しい男だったのだ。
アミラもそれを承知の上でーー

「ーー分かりました。でも、足手まといにはならないで下さいよ」

いつものちょっとツンツンとした厳しい口調で返事を返す。彼女ももう半人前じゃない、一流の指揮官として行動できるようになっていた。
カイザーは、自分が異世界に来たばかりの頃と比べ、とても成長したなと感慨深いものがあった。

その時、野営地の地面の一部が盛り上がり、そこから青い怪物が一匹飛び出してきた。警備をすり抜けてここまでやって来たのだろう。
2人へ対峙する怪物に、カイザーは己の拳を、そしてアミラはお得意のチャクラムを構えたーー

しかし、気づけば青い怪物は、何者かの青い閃光によって横一文字に切り裂かれていた。
疾風の如し現れた、小さな人影に、カイザーとアミラは思わずその名を口ずさむ。


『嘉元!?』


「ふっふっふ、久しぶりじゃないか」


それは異世界からやって来た学生でもあり、能力者の少女、嘉元だった。そして颯爽と登場した彼女は、カイザーのパン屋で貰ったメイド服をまだ着ていた。
しかも驚く事は他にもある。先程の閃光のような攻撃、そしてーー両手には、ヴァルキュリアと同じ、レーザーを纏っていたのだ。

「嘉元!お前、ヴァルキュリアだったのか!?」

しばらく一緒に店で働いていた事のあるカイザーは、指をさしながら驚く。

「いいや? あの後色々あってね、瀕死の所を“女神様”に助けてもらったんだ。そのオマケに、あたいの希望で“アップグレード”してもらったのさ!」

嘉元が両手のレーザーブレードで弧を描きながら語る。

「め、女神? じゃあ自分から望んでヴァルキュリアになっちゃったんですか?」

「なんと、思い切ったことをしたな」

「もう、あたいも一回死んだようなもんさね。思い残すことはない、いっそヴァルキュリアになってやろうと思ってね」

新たなる力を手に入れた嘉元。しかし元の能力も健在なようだ。背中のバックから水筒を取り出し、傍にあったミネラルウォーターを入れて、それをカップに注げばあら不思議。
出来立てのコーヒーになって出て来たのだ。
彼女は真水をコーヒーに出来る能力者でもあるのだ。
頼もしい味方が増えたアミラは、思わず笑みを浮かべる。