『それでは本題に戻りますが、奴の行動パターンから弱点を推測してみたところ、最もその可能性が高い部位が【頭部】周辺です。
我々ヴァルキュリア部隊はそこへ至近距離からの大火力を撃ち込み、これを撃破します』
「ーー!? それって......事実上の特攻みたいなものじゃないですか! 私とヨハネスさんやエリアスさんですら近づけないんですよ!」
「それに、君たちヴァルキュリアは一部を除けば飛行能力は無いはずだし、足場のない場所でどうやって戦うつもりだい?」
無線を聞いていた美琴とヨハネスは、ソルの作戦に早速異議を唱えていた。
『ご安心を、その為にちゃんとこちらも【切り札】を用意してあります。それにーー』
ソルは少し間を置いてから、
『ちょうど“でっかい足場”が、上に浮いてるじゃないですかー』
ソルの「踏んづけてやりましょう」という言葉に、一同は顔を上げた。その視線の向こうには、空を覆うように鎮座する、フレスヴェルグの本体が浮かんでいた。
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「馬鹿げた話だな......付き合いきれない、というか俺の身が持たん......」
「まあ確かにさすが“狂人共”のアイデアではあるな、しかし......」
ソルの立案した【フレスヴェルグの上に乗る】という作戦に、アンダルシアの魔術師の1人である少年ヴェルゼは真っ青になっていた。只でさえとんでもない化け物に更に近づき、しかも上に乗ってそれ自体を足場にして戦うとは......聞いただけでも生きた心地がしない。
しかし、その一方でスター流のヒーロー、シャドウは、ソルの作戦の驚異的な【合理性】、そして【危険性】を誰よりも理解していた。
「相手の武器の射角に入らない」「足場を確保する」そして「敵に接敵してゼロ距離射撃を食らわす」......これらを全てクリアできる策こそ『敵の上に乗る』事なのだ。全てが合致している、これ以上にシンプルで合理的な策はない。
しかし......問題も多かった。
「だが、私も物理演算には詳しくないが、ヴァルキュリアの連中は“相対速度”を考えているのか? 生身で飛行するジャンボジェット機に突っ込むようなものだぞ......」
シャドウが不安を漏らした。
止まっているものならまだしも、フレスヴェルグはその巨体で軽々と中を飛ぶ敵だ。もしも敵がこちらへ向かってこようものなら、着地する前にぶつかられて粉々だ。
問題はこれだけじゃない。
『ですが、相手も“上に乗られる”事ぐらいは想定してる可能性が高いです。接敵された際の何かしらの“防御機構”があるかもしれません』
しかし、突っ込むしかない。今はそれが最善の策だった。
★
腰を上げ、大地に立つグラエキア。艶のある美しい黒髪を風になびかせるその姿は、威風堂々とした王族そのものだった。
その傍に立つは、白い衣装に身を包む天使のエリアスだ。その翼は傷つき、煤に汚れてもその輝きを失ってはいなかった。
その横に並ぶ、奇妙な箱型の頭部アーマーを装備したヴァルキュリア、ファランクスだ。
そして3人が歩き出そうとした時、グラエキアは視界の隅に、ありもしない筈のものを見た。
それは巨大な半透明の機械の“足”だった。そしてそれを辿っていくとーーこちらを見下ろす日輪のように輝く瞳があった。背丈は10メートルほど、半透明の巨大な機械の巨人が、まるで霞のようにぼんやりと静かに立っているのだ。
「なあー!?」
いつも優雅なグラエキアも、今回ばかりは流石に腰を抜かさん勢いで飛び退いた。
それにエリアスもすぐさまグラエキアを庇うように振り返り、同じくその巨人が見えたのか、聖気をすぐに練って作り出した槍の矛先を向けた。
「ーー? なんや、【見えてる】んか」
ファランクスはまるで前からその存在を知ってるようにボソリと呟いた。
「ファランクス!これは!?」
指差すグラエキアに、半透明の機械の巨人もファランクスも平然としていた。
「まあ、新しい“味方”やで。そんでソルが言ってた例の【切り札】や。ほんま、わけわからん奴だけど」
キィィィン......
その時、グラエキアとエリアスに耳鳴りのような音が聞こえる。
2人はすぐさま、それも本能的に察したのだ。
それが、こいつの「言葉」なのだとーー