こんばんは。書いてみました。
「そんなことが……」
多々良が話す前世は、まるで、小説の中の出来事のよう。本の中の登場人物がこの世に転生してきたというのか、と言いたくなるような、現実離れした話である。
それだけに、三殊は、そのすべてをすぐに理解することはできなかった。
「そうだ。サーシェルテ……ナンバーXと呼ばれていたが、その最期はあまりに呆気ないものだった」
少し空けて、多々良は続ける。
「そして、二回目。今度は逆の関係だった」
一回目は、王室に奴隷として売られ、国王であった伊良部に必死に抵抗しながらも、死へ堕ちた多々良。その二回目の人生は、一回目とは逆で。多々良が国王、伊良部が奴隷という関係だったらしい。
「俺は『前世の記憶』を持って生まれた。国王シグ・マルドとしてな。『前世の記憶』があることを不思議に思いながらも、俺は国王として生活を送っていた」
三殊は内心「今度は多々良くんが国王かぁ……」と思う。
「だが、伊良部も俺と同じように転生していた。もちろん、前世の記憶を持って」
「彼にも前世の記憶が!?」
「あぁ。ユベ・ナムラという奴隷だったが、二回目は一回目と逆で、やつが革命を起こす側だった」
切りたくても切ることのできない、妙な縁。それほど厄介なものはない。
三殊はそう思った。
「伊良部——いや、ユベは、前世で俺の革命を阻止した。だから、俺の考えなど簡単に読めたのだろうな」
「そ、それで?どうなったんだい?」
「ユベの革命は成功した」
「そんな!」
三殊は思わず叫んでしまった。
「前は失敗に終わったのに、今度は成功するなんて……!」
「一回目も二回目も、結局は、やつの方が一枚上手だったということだな」
「そ、そんな……」
ショックを受ける三殊をよそに、多々良は話を継続する。
「二回目の俺、シグは、ユベの凶刃に倒れた。ここでもまた『来世では絶対に殺す!』と思いながら、そのまま死んだんだ」
二人はそれからも、進んでいるのか止まっているのか分からないくらいゆっくり歩きながら、多々良の前世に関する話を続けた。次の部屋へたどり着くまで、二人は、ただひたすらに歩く。