*短編
何時から自分はこうなのだろうか? そんな事を思うと、色々な事を思い出してしまう──
「おーい、プリント回収するぞー?」
ふと、気がつくと、自分の担任である先生先生が言った。プリント回収か。そもそも自分には、『良い点』とは、何なのか、皆目見当もつかなかった。なので、今回のプリントに書かれた回答が正しいか、それとも間違っているか、なんて、自分には理解も出来なかった。
「ねぇねぇ、多々良君! 今回のテスト、どうだった!?」
すると急に隣の席の釈迦医師 多々良(しゃかいし たたら)と呼ばれる生徒に女子数人が立ち寄って、話しかけてきた。多々良……中々に変な名前を付ける。というか、釈迦医師って、どんな苗字だよ? 一々書くのに時間が掛かりそうだ、そんな事を思いながら、自分は息を漏らし、目の前でプリントを回収する先生先生にプリントを渡した──
「生きていて、楽しいのかよ? お前は?」
時間も過ぎて放課後。自分と多々良しか居ない部屋、空間の中で、急に多々良が言い出した。
「……えっ?」
不思議そうに首を傾げる自分に対し、多々良は『いや、だから』と、言って、再度言う。
「……そうだね? 分からないや。そもそも生きていて、何で『僕は生きているのだろう?』と、俯瞰に感じるからねぇ? そう言う多々良君はどうなのさ?」
嫌味を言いたげな雰囲気を醸し出し、自分は返答する。すると多々良は極普通に『いや、楽しいぜ?』と、言った。
「だって、俺は『目の前の敵』を倒したくて、うずうずしているからな? 何時になったら、その『目の前の敵』を倒せる事やら?」
「目の前の敵?」
自分がそう言うと、多々良は思いっきりジャンプし、自分の頬を思いっきりぶん殴った。痛いを通り越して、冷たい氷柱が頬を貫いた感触でさえ覚えた。……いや、流石に言い過ぎたかもしれない。流石に極一般な人間と考えられる自分がそんな氷柱を自分の頬を貫かせた感想を言えるか? いや、ただの戯言だったかもしれない。
「お前だよお前。俺はお前みたいな『人生を楽しんでいない』奴が大っ嫌いなんだよ。何で楽しまねぇんだよ? 一度限りの人生なんだぜ? もっと楽しもうぜ? お前の人生、完全につまらねぇぜ?」
そう言って、睨む多々良に対し、自分は静かに返答する。
「どうやって……楽しめば良いのさ?」
「簡単だよ? 『やった事が無い事をすれば良い』だけさ? 『今迄やった事がない事』をすれば、『新しい考え』とか、『新しい事』が分かる。俺はそうやって、今迄を打破してきた。だからお前も打破しろ。そんな『つまらない』っていう『殻』を破ってさぁ?」
「殻…………」
殻、か……何か腹立つ言い方だ。自分はそう思いながら、返答しようとした。すると多々良が『殻、か……『から』って、『空』っていう方もあるよなぁ? お前はそんな感じだ。『中身が無い』、『空』のようだ』と、言った。
「えぇっ……?」
呆れる自分に対し、多々良は静かに右手を差し出して、『ほら、立てよ、三殊? 『つまらない』っていう『殻』を破るにゃあ、お前の手で、足で踏み出して、掘り出していかないと、意味がねぇ』と、言って、口の端を大きく歪ませた。……何て奴だ。見ず知らずの存在かもしれない自分にそんな言い方をするとは? 逆に天晴れだ。
「……分かったよ、多々良君?」
自分は呆れて、手を受け取って、立ち上がる。今ではこの頬の痛みも何故だか、爽快に感じた。
「それじゃあな? 俺は一足先に帰るぜ?」
多々良はそう言って、すぐさま走って、教室を出る。今は自分一人だ。
「……『殻を破れ』、か」
自分は何故か殴られた頬を触り、その場で微笑んだ。何だか怒られたのが嬉しく感じたからだ。そして自分は静かに教室を出、明日も多々良と出会えるのを少し、期待した──この出会いが多々良にとって、三殊にとって、何か変わったという話になるかは、二人の今後の邂逅次第だ──