こんばんは。書いてみました。
八回目、多々良はモス・ベーカリーという男性として、世に誕生した。
彼は「何回目の転生だろう?」とぼんやり思いながらも、一人の人間、モス・ベーカリーとして生きてゆく。そんな多々良は、憎き相手である伊良部と出会うことこともなく、穏やかに生きていった。やがてパートナーとなる女性と出会い、結婚し、父親となる。これといった特別なことはない人生で、けれども、それは確かに幸福な時間であった。
——子が生まれるまでは。
「もしかして、その子が……?」
「あぁ。想像通りだ」
誕生した我が子が、七回目の時の伊良部——敬慕と、よく似た顔をしていたのだ。
といっても、多々良は敬慕が赤子だった頃を知っているわけではない。ただ、見たことがある敬慕の顔から考えて「こんな感じだっただろうな」という目鼻立ちを、モスの子はしていた。
モスは恐怖に包まれる。
だがそれは当然のことだ。かつて何度も自身を殺めた張本人が息子として現れたのだから。伊良部の魂を持っている以上、彼はいずれ牙を剥くだろう。それゆえ、息子だからといって呑気に可愛がっている場合ではない。
「親子って、何だか嫌な感じだなぁ」
「あぁ。最悪な気分だったよ」
「うん……だよね……」
妻はというと、子の誕生を喜び、マックと名付けた。
モスが恐怖のどん底へ突き落されていることなど、彼女は気づいていなかった。
「それで、どうなったんだい?」
その後モスは「どうやって殺そうか」と考えたという。「今殺しておくべきだ」と。だが、妻がいる。妻は幼い息子から滅多に目を離さない。さすがに、彼女の目の前で息子を殺めるようなことはできそうになく。モスは迷い、考え続けた。
やがて起き上がるようになった息子のマックは、「今殺しても無駄なんだよなぁ」というような挑発的なことを言い、モスと口論になる。
結果、モスは口論に負けた。
そして、約十一年間、一緒に過ごすことになったのだった。
「なんていうか……複雑だね」
三殊は思わず漏らす。
これまでずっと戦いを続けてきた相手と、これまで何度も己を殺めた相手と、一緒に生きる——その歪さに戸惑いを隠せなかったのだ。
三殊は密かに思っていた。
自分が多々良の立場であったなら、因縁の相手と共に生きてゆくことなどできなかっただろう、と。