お題②
題名「雨が降っていてよかった④」
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ここには久しぶりに足を運んだ気がする。
例の東屋は、あれから二年が経過した今もここにぽつんと建っていた。変わりゆく日常の風景の中、この東屋だけが変わることなく時代に取り残されているような雰囲気は、二年前見たときから変わらない。
現在自分は地元の大学に進学し、ともあれ大学生らしい生活を送っている。
今日は6月だったけれど、例年とは違い珍しく晴れていた。温暖化の影響か、それとも神の悪戯なのかは分からないが。
……やはりとは思っていたが、この場所に来て思い出すのは二年前のこと。
あの時の自分は、正真正銘のクズだった。
徒に嘘を塗り固め、塞ぎ込んで、自分の中だけで結論を完結させて。それで努力している気になっていた。
挙句、自分に嘘をつくことを存在意義として掲げていたあの頃の自分は、……ひょっとしたら「生きて」はいなかったのだろう。
仕方のないことなのだ。過去の自分というものは未来の自分よりも絶対的に無知であるのだから。純粋な知識量で劣っているから、だからこそ今までの己の軌跡を否定したくなる。
今までの自分を全否定するということ。それは自身の存在意義を揺るがしかねないものだ。道程と記憶が人を形作るのだから、それらを否定することは自分を否定することと同義なのである。
自分を信じられず、挙げ句の果てに自己価値を否定してしまう。形式的に見れば、それは死んでいるのと同じだ。
あの頃ーー二年前の自分はそうした意味で「生きて」られてはなかった。
今の自分は、前に比べれば少しは「生きて」いられているだろうか。
「ーーー、」
不意に。
東屋の中を強い風が通り過ぎた。ひゅうひゅうという風の鳴き声がして、前髪が踊る。
ーーーその風に、誰かの幻影を見た気がして。
蕭索閑散とした東屋に向かって少し頭を下げる。
ああしてあの日、彼女に出会って。そして、現状を見つめ直す鍵を貰った。
そのことに対して、ただ感謝すればいいのだと、そう思うから。
果たして風は嬉しそうにびゅうびゅうと返事をする。……なんとなく、そんなふうに感じられた。
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雨は、嫌いだ。
元々自分は馬鹿で、目を覆いたくなるくらいに痛々しい勘違いをしていて。
そんな自分に、現実を見るきっかけをくれた人がいて。
情けなさを感じつつも、また足掻こうと思えるようになって。
それらの、未熟だった頃を思い出すから、雨は嫌いだ。
ーーーでも。
あの時あの場所でたまたま雨が降っていたから、彼女と雨の話をすることができた。結果としてそれは、自分を見つめ直す糸口を探るきっかけにもなった。
結果自分は変わることが出来た。少なくともあの頃よりは自分は、少しはマシに立てているだろうか。答え合わせの機会はきっと、巡ってこないけれど。
ーーーあのとき、雨が降っていて良かった。
今はとりあえず、あの日の幸運に感謝したいと思う。
《了》