お久しぶりーす!
さて、久しぶりに投稿するぞ。
お題①「きす」よりタイトル「ビターチョコとコーヒー」
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ずっと前から好きでした、なんて口が裂けても私は言えない。
ラブソングも、恋愛映画も大好きだけど、どこか作り物のような感じがしている。
それでもどこかで君を目で追っているこの気持ちに嘘はないだろう。
――たぶん。
告白とか、自分の気持ちを伝えるとか。
そういう目立つようなことをすぐにできるように
なれたらいいなと思っている反面で、自分には必要ないと距離を置いてしまっている。
「おーい椿木?」
「あ、はい!?」
私は文芸部に所属している。部員はたった三人の同好会のような部活だけど、人付き合いが苦手な自分には最適だった。部室にこもる本の匂いを嗅ぐたびに自分の居場所を改めて感じた。
隣にいた先輩は眼鏡の奥の目を細めて、きょとんと首をかしげる。そのしぐさに私の口の中に苦いものが混ざる。一つ上の吉野先輩。
幼なじみでもなんでもないけど、気づけば好きになっていました。――自分で勝手に。
「文化祭で出す、雑誌のイラストまだできてない?」
「あ、すみません……まだ、です。締め切りいつでしたっけ」
「あと三日後だけど……無理なら美術部員に頼んでみようと思ってる」
私の描いている絵はただの趣味だし、陰の付け方もデジタルイラストも全て感覚でやっているだけだから、美術部員と比べればポッと毛が生えたようなものだ。
それでも先輩は真っ先に私にこう言ってくれた。「絵を描いてくれないか」と。
「椿木先輩の絵ってすごく綺麗で、どうしたらそんなにうまくかけるんですか?」
「うーん、勘かな」
「それ絶対上手な人しか言えませんってー」
一個下の後輩である鈴ちゃんが素直に尋ねてくるけど、いつも私は適当なことを言ってはぐらかす。そう、私は全てにおいて適当に生きている。勉強もテストも、部活も恋も。
勉強は6割取れれば。テストもやれる範囲で。部活は全員入部制で。
恋はもう、流れに乗るまま。
みんながなんでそんなにグイグイいけるのかわからない。告白しました、OKもらいましたでウキウキしている子を見ると殴ってやろうかと思ってしまう。かといって「可愛いアクセ買いに行こ―」とはなかなかならない、変な壁が自分の中にある。
「まあ椿木がいてくれて助かったわ。部活は定員三人からだし」
「まぁ、本読むのは好きなので」
「そっか。コーヒー飲むか? 藤原も」
「あ、お願いします―」
いつから好きになったかなんて聞かないで下さいね、先輩。
気づけばこうでした。
なんでそんなに無気力なんだ、って怒らないで下さいね。
私だってやりたくてやっているわけではないんですよ。
友達の何人かが部活動や恋に熱中している中で私は一人家で漫画やテレビを見てダラダラしてるだけだし、なんかもうどうでもよくなっちゃったりする。そしてそれに慣れてきて、だんだん周りのことに億劫になって。
ああ、自分はどこがずれてるなって、いつも思う。
そして先輩も、こういうのは失礼だと思うけれどもどこか周りに無頓着で。どこか適当で。私よりはきっちりしているけど、テスト勉強はあんまりしてないらしいし、いつもなあなあで生きているとも言っていた。
じゃあ私と何が違うのかな。
渡された、コーヒーの入ったコップの中をぼんやりと眺めながら私は考える。これが私の恋なのだろうか。これが私の学校生活なのだろうか。なんとまあ起承転結のない、薄っぺらいストーリーだ。
キスもしたいと思わない。出来たとしてもへなへなの『きす』。
告白も、相手の名前も聞く気がないけれど。
こんな私でも好きな人がいましたって伝えたら世間は笑うだろうか。
その人も私と同じようなことを考えて生きていて、似てるなって思っていましたと言ったら、引かれたりしないだろうか。こんな恋でも、「それも恋だ」と言ってくれる人がいるだろうか。
あまり起伏のない毎日だけど、私の横で笑ってくれる先輩が好きだと、そうはっきり告げられるようになれば、私の中の悪い怪物もなくなるのかな。
――わかんないね。
〈完〉