Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】② ( No.32 )
日時: 2020/06/13 21:30
名前: ひにゃりん (ID: VV1SbMFQ)

そのせかいは、ひどいところだった。
本当に、ただただ
苦しかった。



「スノー!ちょっと買い出し頼めるー?」
「はい、行ってきます。夕姫サマ。」
そう言って僕は、狐耳を隠すために帽子をかぶると家を出た。
隠し家がある森を抜けると、そこは汚い街。
あたり一面に魔女狩りに賛成する内容の張り紙や、僕ら妖狐族と妖狼族の売買についての資料が
散らばっている。
夕姫サマは、雪の日、飼い主に殺されかけていた僕を、買取という形で救ってくれた。
他の人間とは違って夕姫サマは、僕をまるで弟のように可愛がってくれている。
…まぁ、今の人間が、弟に優しくできるかといったら絶望的だけど。
人間達の怒鳴り声や罵り合いを無視しながら、僕はスーパーへと急いだ。


「よし、無事に買えたね。早く帰らなきゃ。」
そう言って僕は、少し暗い近道を歩き出す。すると
「お願いします、中に入れてください、お願いします…」
聞こえてくる悲痛な声。しかし誰も答えず、その女の子のような声だけが響く。
覗いてみるとそこには妖狼族の少女。昔の僕がかさなった。
(どう…しよう)
夕姫サマからは、軽い気持ちで誰かをたすけてはいけないと言われていた。
しかし僕はそこから離れられなかった。


ポツリ
ポツリポツリ
ポツリポツリポツリ
雨が降り出した。それはどんどん強くなってくる。
少女は薄い服に包まれた自分の体を抱くようにして震えていた。
それを見て、思わず僕は
「ねぇ、おいでよ。」
「え…?」
少女がこちらを向く。長いまつ毛に黒い瞳。信用してもらうために、帽子を脱ぐ。
「僕の主人は優しい、一緒に…」
「おい、狐」
「!!」
いつのまにか、後ろに男がいた。反射的に距離を取る。
「人のもんを取るのは、わるいことだよなぁ?」
男の拳が迫ってくる。僕はギュッと目を瞑る。その時、
「人のものを傷つけるのも、悪いことじゃない?」
目の前で、夕姫サマが拳を止めていた。
「な…」
「その狼さん、買い取らせてヨ」
「はぁ!?」
「100万ドルでね♪」



「レイン」
「なあに?スノー。」
「僕はあの時、雨が降って良かったと思ってる」
「?」
「だって、あの日が良く晴れていたら、きっと僕は声をかけられなかったからね」