【六月分お題を制覇した…………!】
お題①「毒」
タイトル「オレと君」
彼女にとって、オレは毒だ。最近、そう思うようになった。
初めて出会った時の第一印象はチャラそうな女の子だな、というものだった。このチャラそうな子は、どうやら奏と言うらしい。奏は、いつもオレに触れている。オレはずっと一緒にいて、もしかしたらほとんどの時間を共にすごしているかもしれない。でも、きっとオレは毒だ。彼女を縛り、依存させている。オレのせいで体調を崩したことが、幾度あったか。いや───それでは済まぬ事態に、陥ったというのに。
それでも奏はいつも真っ直ぐにオレを見つめて、時には笑って泣いて、怒って。軽やかに白い指先が踊って、オレを叩く。赤いマニキュアの塗られた爪が触れ、緩く巻かれた茶色の髪がからだに触れる。この子の感情を、オレは大体知っているような気がする。
ソファに座ってテレビを眺めていた彼女が、不意に振り向いた。オレが呼んだからだ。奏は、一瞬オレを見たあと立ち上がる。バタバタと着替えて、バックを持った。オレもきっと一緒に出掛けるのだろう。
風がからだにぶつかる。坂道を、自転車が勢いよく下っていく。そんな中でも奏はオレを離さない。ハンドルを器用に操って、夜の街を駆け抜ける。奏と目を合わせながら、風を楽しんでいたとき──
唐突に、光が横合いから突き刺さった。
「え?」
奏の声が聴こえた、直後。オレは、奏とともに吹き飛んでいた。地面に叩きつけられて、激痛がからだに走り────
目の前が暗い。オレは、どうなったんだ…………? たしか、光が…………そうだ、奏だ! 奏は…!? オレは必死に確認しようとしたが、如何せん自分では動くことすらままならない。動きたいと渇望していた時、誰かの手がオレに触れた。
その瞬間、からだ中に活力が漲った。視界がぱっと明るくなり、目の前が見えるようになる。けれど…何だか、妙にひび割れている。すりガラスを挟んだかのように不明瞭な視界。思考も上手く回らない。
どこかから、声が聞こえて来た。
「奏ちゃん、前見てなかったらしいわ………」
「依存しすぎなのよ……これのせいで、あの子はこんな大怪我を……」
誰かの手が、オレをキツく掴む。オレのせい? 奏が、大怪我をしている───! なら、そんなことをしたなら、もしかして、オレはもう、奏に触れて貰えないのか……!?
それからだ。オレが、己の事を毒だと思うようになったのは。奏が、事故にあって大怪我を負ったらしい日から。
奏は、声を聞くに結構回復してきたようだ。けれど、オレにはあまり触れてくれなくなった。当然だ。オレは彼女にとって毒なのだから。思えば、自分は奏にとって害でしか無かった気がする。奏は、オレのせいで体調を崩し目を悪くし時間を失い事故にあい────
このままなら、いっその事壊れてしまいたい。でも、彼女がオレに依存していたように、オレもまた彼女に依存している。奏をこれ以上傷つけたくない、でも触れて欲しい。そんな矛盾を、オレは抱えていた。けど、オレは独りでは何も出来ない。毒とならないように、ひっそりと身を潜めることさえ出来ない。オレは、とことん無力だ。
けれど。ひとつだけ、オレはそっと願う。奏の行く先が、どうか幸せでありますように、と。奏の人生はきっと長くて、それはオレなんかよりも何倍も長い。その先に、オレが居ようが居まいが構わない。もしかしたら、オレでは無い別の誰かが一緒にいるかもしれなくても、別に良いから。
新しいやつがきたら、ちゃんと、うまく付き合うんだぞ。もう、こんな依存し依存される関係になんてならないように、ね。
────それを最後に、オレの意識は暗転した。
□ △ □
「あー、こりゃ酷いね奏……ビキビキじゃん。ま、あんなに飛ばされたらとーぜんかぁ。え、新しいのにすんの?」
「うん、そーするつもり。もう結構経ってるし…………ま、あたし何気に愛着あんのよそれ。新しくしてもまだ持っときたいし…………ジカイの意味も込めて、だけど。」
「ウケる……あんた、自戒って言葉の意味わかってる?」
「…………うっさいな。ニュアンスだよ、ニュアンス! それで良いじゃん!」
【「オレ」は結局なんだったと皆さんは思いますか? 書いてくれると私が喜びます。このスレだとこういうの出来ていいですねダメだったら言ってください(´・ω・`)】