ルールに沿って、もう一回書き直しますね。
よろしくお願いいたします。
お題②「雨が降ってくれてよかった」
タイトル「雨だれの前奏曲」
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教室の窓から見える校庭のグラウンドの土は湿っていて、ここからでも外の冷たい空気が感じ取れる。赤や黄色のチョークでイラストが描かれた教室の黒板は、わっかの飾りで綺麗に飾られている。
黒板には、「本日の予定:文化祭」とある。
中等部3年に在籍する私は、照明を落とした誰もいない教室の真ん中でただ一人、窓から流れ落ちる雨粒を見ながらため息をついた。
「雨野! 早く帰ろうぜ」
教室の入り口から、幼馴染の俊太が顔をのぞかせる。その前髪からはポタポタと水がこぼれ落ちている。
「タオルとか持って来てないの?」
「俺、濡れるの好きだからいい」
「風邪ひくよ」
私は自分の鞄の中から、ミニタオルを取り出して俊太の頭に被せた。
俊太は、ごしごしと頭をふいている。彼は頭をふき終わると、背負った重いギターケースを自分の机の上に降ろした。
「残念だったね。野外演奏がお互い中止になって」
小学校2年生のときからギターを習っている彼と、年中からピアノを習っている私。この二人が組めば、まさしく野外ライブ会場はどっと沸くとクラス全員が話していた。
自分ではよく分からないが、どうやら私たち二人の演奏力は学年の中でも群を抜いているらしい。
「まあな。しょうがないよ、雨なんだし」
「それに、、私ら今年三年だよ。最後の文化祭だったのに」
「クヨクヨするなよ。高校に行っても文化祭はあるんだし」
翔太は私の頭にポンと手を置く。
彼の言うことは一理ある。高校でも大学でも、体育祭と同じく文化祭も年の一大行事だし。
それでも、そうだねと頷くことは私にはできなかった。
「翔太は、県外に行くんでしょ、高校」
「あ、うん、まあ。音楽専門の学校に行くつもり」
「翔太と一緒に演奏できなくなるね」
寂しいのかと聞かれれば、違う。家は近所にあるから、違う学校に進むことになっても下校帰りに寄ったりすることは出来る。
私のたった一度きりの青春は、彼と一緒に合奏出来る日々を謳歌することだと自分で思っている。ギターの軽やかなリズムと、ピアノの滑らかなメロディーが合わさって二人で曲を奏でる感じが、私は好きなのだ。
俯いて奥歯を噛む。雨は嫌いだ。
最後の文化祭。学校生活三年間の中で、初めて翔太と一緒のクラスになれた今年、二人で共に野外演奏をする目標を立てた。今までずっとしてきた練習は、全て無駄になってしまった。
「じゃあ、最後に一緒に弾こうぜ」
「え?」
「教室のピアノと、俺のギターで。な」
翔太は私の返事も待たずに、ギターケースを開けてギターを取り出し、ピックを握った。慌てて私も教室の奥にあるピアノの蓋を開け、椅子に座る。
「いくぞ、さん、はい」
窓を打つ雨の音に合わせて、誰もいない教室に私たちの音が響き渡る。ピアノの軽やかな伴奏と、ギターのゆったりしたリズム、翔太の歌い声が重なり、ハーモニーを奏でる。
これはこれでいいのかもしれないな。
前述した通り、雨は嫌いだ。人が今まで積み上げてきたものを発表する機会や体温を奪い、静かな空間を創り上げるから。
それでも、最後まで、私たち二人が演奏する場を残してくれたことについては有難く思う。
皮肉なことにも、雨が降ってくれてよかった。
聞いてください、私たちの音楽を。
「雨だれの前奏曲」。
【完】