【深夜でござるがもう七月なので()
今月もよろしくお願いします。】
お題④:寂しい夏
タイトル 「永遠に後輩。」
今は夏。私は此処に立ち尽くす。
森博嗣の、【すべてがFになる】の書き出しを今の状態なりにアレンジしてみただけ。そんな事を私は思う。原作は読んだことがないけれど、その書き出しだけで大いに興味をそそられる。
私は一人、此処に立ち尽くしていた。薄暗く、窓からの光が数筋注ぎ込む、いや舞い落ちるだけの準備室。例えるならその光は、デジタルで絵を描く時のレイヤー効果、スクリーンに近いだろう。カーテンの淡い緑色を透過した白い光。取り留めもないことを思いながら、私はそっと空の棚に手を置く。
僅かにホコリが付着しただけで、そこまで汚れてもいない。当然だ、大掃除を先程終えたのだから。夏休みの部活、最後の週はひたすら部室と準備室を整理して掃除をするというよく分からない伝統がこの部活にはある。もしかしたら伝統なんかではなく、純粋に片付けの出来ない顧問に都合よく使われていただけかもしれないが。
でも、その顧問ももう居ない。去年の春、彼は隣の市へ異動になった。
私たちの部活は、かなり専門的な技術と知識を必要とする。その上、無くなってもあまり困らない部活だ。いや、結局全ての部活なんて必要ないのかもしれない。生きていく、それのみを考えるのならそれはそう。でも、私たちの部活は本当に役目が無かった。運動部のように賞を取るでもない。もうほんとに、ただダラダラと集まって個人の作業をして、適当に反省会をして。そんな部活だった。だけど、入部した私たちは────少なくとも私は────そのルーズさを愛していた。
彼の教えていた教科の、後任としてやって来た教師は、新しく出来た陸上部の顧問になった。
顧問の後任を頼まれた社会の教師は、期限付きでそれを引き受けた。その期限とは───私たちが引退するまで。新しく一年生などは採らない。私たちが引退した時点でこの部活は廃部。私たちは永遠に後輩だ。
通常三年生が引退するのは夏休みの部活動最終日。つまり、今日。引退式とかお別れパーティだとか、そんなことをいちいちやる部活ではない。だけど。
酷く寂しい夏だった、今年は。
昨年と一昨年は、沢山の先輩がいた。ずっと圧倒的な技術を持って部活を引っ張ってきた三年生。人数は少ないけれど、大きな信頼を集めていた二年生。そして、三年生がちょうど二年前に引退して、その次の年に二年生が引退した。夏を何時までと言うのか知らないけれど、彼らの存在は大きかった。
そっと私は準備室内をゆっくり歩いて移動して、部室の方へ戻る。他の部員は皆先に帰ったようだった。私たちの部室はちょうど校庭に面していて、運動部が練習している姿を眺めることが出来る。
中心を使っているのは陸上部。青い空と、白いジャージ。焼け付くような陽射しが照らす校庭の白い砂。ガラスを隔ててもなお聞こえてくる喧騒が、私が1人だからかやけに響く。
やっぱり、今年の夏は寂しい。
また部室を移動して、私は自分の荷物を持つ。扉を開けて外に出て、鍵を手に取って締める。しっかりと戸締りをしてから、私は鍵を返すために職員室へ向かった。
途中、第一音────第一音楽室の略────の前を通る。中から響いてくる吹奏楽の楽器の音。いくつか知っているメロディーがあったから、ほんの少し口ずさんでみる。廊下には私ぐらいしかいないから、酷く虚しく響くだけなのを分かっていて。
三回目だけれど、寂しい夏だ。
職員室で鍵を返して、そこにいた顧問にこれまでの礼を言う。それ以上、何も言わない。そして私は、昇降口に向かった。
【最近みんつくが私にとっては一人称を書くための練習場になってますね。
冒頭のすべてがFになるの所、マズかったら良い感じに書き直すので言ってください。】