Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.58 )
日時: 2020/07/02 02:03
名前: 卯 (ID: mcolBGSc)

夜分遅く失礼いたします。卯と申します。
かなり抽象的(詩的?)な出来だ……これってどうなの?? と首を捻りつつ投稿させていただきます。

双子なり和モチーフなり同性同士の重い感情なりが大好きです。そんな話を書きました。
次は百合など書きたいです。切実に。

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タイトル:あいにおぼれる
使用したお題:⑥鈴、泡、青色(三題噺)


 ぽやぽやと溶けはじめた栗色の髪。穏やかにぼくを映すまあるい目。鼻、口の形も見せる表情もなにもかもが似通ったもうひとりのぼくは、ただただ微笑みを湛えていた。
 ゆるく、唇を月の形に結んで、しあわせだったねとこれから訪れるおわりを祝福している。まだら模様に解けては戻っていく“ぼく”は、どうしてしあわせだなんて思えるのだろう。わからないし、わかりたくもなかった。理解してしまえば、ぼくがぼくのしあわせを否定することになってしまうから。
 ただ、すべておわるのなら、なにも考えず思わずそのまま――その一心で“ぼく”を見つめ続ける。ハの字に曲げられた眉に心がきゅうと萎むのは、気のせい、気のせい。顔を背けて違和を感ずるなと念じ続ける。

 重たくなって、ぷかぷかと水中を漂う着物。
 上へ上へと流れていく、ぼくらを縛り上げる飾りの紐。
 紐の先につけられた金色の鈴――音を鳴らすことのできない、ぼくらの居場所を知らせる大事なお道具。

 なにかが弾ける音がした。反射に身を任せて“ぼく”を見る。
 水が、つめたい水が、ぼくらを覆おうと蠢いていた。弾けたのは無数の泡。ばらけていく形のない硝子玉の中で煌めいたぼくの片割れ。不安そうに身を寄せて、それでも笑顔は崩さずにいる。

(きみの気持ちも教えておくれよ。“ぼく”の気持ちはわかっているでしょう?)

 どうか、“きみ”もしあわせだといってくれ。
 そういっている気がした、その笑顔は真っ青に覆われていた。水はぼくらを覆うことに成功したのだ。
 そうしたら、あとはおわりに向かうだけ。手を繋いで、体を預けて、ひとつになって、未だ萎み続けているぼくのこころも、“ぼく”の問いも水に溶かして眠るだけ。
 おわりを告げる音はしなかった、けれど、時間が来たと悟るには十分だった。つめたい水がぼくらの体をつめたくしていっていることに気づいたから。

(きみもぼくの気持ちをわかってくれているはずだよ)

 いえばぼくらを否定することになるから、絶対、いわない。

(そりゃそうだ)

 真っ青の笑顔が溶けていく。うねる水たちに溶けていく。
 栗色が青色に塗り潰されていった記憶を反芻しながら、まだぼくらはそこにいるかと指の腹を探りあった。膝を擦りつけて、足の指を繋ぎあわせて、額を触れさせ、何度も何度も生きているか確認しあった。
 その確認すらもぼやけていく。鈍く、無に近くなって、そして、

 さいごに見たのは、甘やかな藍色だった。


※※※ 補足――とある村民の手記――

 “災が訪れたと巫様が告げた。
  いつ頃の話かはとっくの昔に忘れられてしまったし、私も忘れてしまった。
  この村の皆が覚えていることは、巫様が神の子が秘める破邪の力によって災を鎮ませよというお告げひとつだけだ。

  巫様のお告げを受け、村は儀式を行うようになった。
  七つになったばかりの子を神の子と崇め、災を鎮ませに――村の近くにある湖に沈ませたのだ。
  双子の方がそういう力が強いのだと告げられたものだから、双子が神の子として選ばれたときには村中が湧きあがったよ。

  災を鎮ませたあとは、神の子は神様に拾われる。神様が神の子を見つけられるようにと願ったのか、いつからか神の子に鈴の飾りを持たせるようになっていった。

  拾われたあとの子供たちが救われていると、未来永劫信じてやまない――”