Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.6 )
日時: 2020/05/31 01:09
名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: hO98WZ1Y)

お題【雨が降ってくれていて良かった】

タイトル「赤」


「雨が降ってくれていて良かった」

 そう言ってあの子は、満面の笑みでこっちを向いた。手には血がこびり付いた凶器。真っ白なはずのワイシャツは血で赤く染っている。真下には、酷い有様になった、人だったもの。私は遅かった。『ほんの少しだけ』、遅かった。
 だけど。


 ────雨なんて、降ってなかった。


 事の始まりはあの子に好きな人が出来たと言ってきた時だと思う。思えばそこから始まっていたのだろう。あの子は頬を薄紅色に染めて、私に嬉嬉として話していた。お相手は少し大人びた人だという。私にとってはその話が、少しどうでも良くて半分聞き流していた。
 話すだけ話して満足したのか、あの子は直ぐにくるりと踵を返し、その人と約束があるからと去っていった。その時は私は良かったねーとひらひらと手を振って送り出したのだけれど、今思えば、私はそこで止めてやるべきだったのかも知れない。

 それから数日がたったある日、あの子は目をとろんとさせて付き合えることになったと話してきた。そりゃよかったじゃないの、と返したが、また直ぐに予定があるからと先に帰って行った。特に私に害がなければあの子の恋人にはさほど興味が無い。まあ、今まで真面目で恋人の1人すら作らないしシャットアウトしてきた子だ、ここいらで甘酸っぱいものでも味わっていればいい。幸せそうで何よりだと思っていた。
 が、その翌日からあの子が急に来なくなった。数日ではない、十数日もだ。最初はついにサボりをするようになったかとその程度だったのだが、連絡が全く取れないのだ。何度電話しても繋がらず、メッセージアプリでメッセージを送り付けても、既読がつかない。メールも音沙汰無し。一体何があったって言うんだ。なにか良くないことに巻き込まれているのではと思い、私はあの子の家に先ず向かった。
 そして必死に走ってたどり着いた家は、かかっているであろう鍵がなく、簡単に扉が開いた。ますます怪しい。ええいままよ、と思い切って扉を開けた。

 目の前には、鎖で繋がれたあの子と、明らかに同年代ではない別の人間が、気味の悪い目で立っていた。

 その目はあの子に向けられていて、私に気づいたあの子はにこりと笑いかけて、この人が私の恋人なの、と言ってのけた。着せられているワイシャツはサイズが全くあっておらず、恐らくは後ろにたっているそいつのものだろうと察せる。ちらりと見えた足には生々しい赤い斑点が、夥しいほどに付けられていて、思わず目を逸らしたくなった。私は何を見せられている。
 恋人だと言われた別の人間は、その子の腕をつかみぐいっと引き寄せ、恋人ですよろしくー、と軽々しく言ってのけた。その目はただただ気持ち悪い。こちらを『嫌な意味で』見定めている。するするとあの子の腰周りに手が降りてくる。そしてそれを恥ずかしそうにしつつも受け入れているあの子。
 
 その瞬間、私は『理解してしまった』。
 私の友人だった『あの子』はもう居ないのだと。

 無遠慮に台所に押し入り、『フライパン』と『包丁』を手に取って、『そいつら』に振りかざした。情けない悲鳴が聞こえたがもう何も関係ない。やめてと懇願する声も聞こえたが関係ない。もうどうでもいい。さっさと目の前から不快なものを消し去りたかった。消えろ、消えろと。ああ、消えろ。気持ち悪い感触が顔に、手に、至る場所に伝わったが、もうそれすらどうでもいい。早く消えてくれ、お願いだから。

 暫くすると、もうそいつらは動かなくなった。終わった、終わったんだ。緊張が解けたのか、私はその場にへたりと座り込んでしまった。目の前には、変わり果てた人だったものが2つ。ああ、なんて酷い有様なんだろうか。なんだか涙が出てきた。
 ぽたり、ぽたりと流れ落ちる。それはあの子だったものの顔らしき場所へと落ちる。それ以上そこに涙を落としたくなくて、私は何故か顔を上にあげる。
 と、目の前に誰かがたっているのに気づく。足には、夥しいほどに付けられた赤い斑点。着せられているのはサイズがあっていないワイシャツ。そしてそのワイシャツは、真っ白のはずなのに真っ赤に染まりきっていた。そう、あの子だ。友人だったころの、あの子。私の手には血がこびり付いた凶器。真下には、もう動かない『なにか』。幻を見ているのだろうか、あの子はもう私が『殺したのに』。目の前にいるあの子は、満面の笑みでこちらを見ている。そして───

「雨が降ってくれていて良かった」

 そういった。雨は、私の涙。次々と零れてくる涙は止まることはなく、私の意識に反してなにかの顔へと落ちていく。なんでそんなことを言うの。


「だって雨が降っていたら、あんたは傘を持ってきてくれるから」


 その言葉は、『今でも』忘れることは無い。



思いついたものをさっと書いてみただけ。なんでこんなのしか書けないんだろうか(遠い目
執筆作業の息抜きに参加希望ですよ(死んだ目)