すごく此方のお題も好きだったから、という理由で突貫工事で二個目のお題を書いてしまいました。申し訳ない。あと、これ、すごく、「思ってたんと違う!!!!」って仕上がりです。そもそも、BLで書くつもりなかった。
!!腐ですよ!!
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タイトル:星と恋と死
お題:人って死んだら星になるんだよ。
夜空に輝く美しい光。宝石箱をひっくり返したような、控えめで、それでいて華やかな空の輝きに思わず感嘆の声が上がる。初めて訪れた親友の故郷の夜空は何にも増して美しい物だった。
隣で一緒に星を見上げていたはずの男から、痛いほどの視線が向けられていることは気がついていたが、無視して空を見上げ続けた。今日でお別れの男に未練タラタラなんて終わりは死んでも御免だった。
いつかは終わりが来るのが人間関係の道理で、それが思っていたより早かったというだけ。彼は明日にでも可愛らしい婚約者のところに行かなくては行けないし、自分はそれをすっぱり諦めるつもりなのだから。
「なあ、この地域で語り継がれてる話なんだがよ。お前がこういうの好きそうだから聞かせてやる」
そう横柄な言葉遣いで告げる男は、相手からの返事も待たずに短い、物語と呼んでもいいものかと怪しい話を聞かせてくれた。
昔からこの地方では、人に尽くすことを美徳とする習慣があった。それは他の地域でも美しいこととはされているが、この地方ではそれがとりわけ強く、最大の献身は命を落とすことだった。
ただ命を落とすだけではダメで、誰かのことを心から思い、願い、その人のためだけに命を落とす事に意味があるのだという。そして、人のために落とした命は未来永劫輝き続け、空に浮かぶ美しい光となり、永遠の命と美と愛を受けられるのだと。
そして、相手を思った強さの分だけ、美しく光り輝けるのだと。
「なんだか、不思議な話ね。死んだ人間が星になるなんて」
だとしたら、あそこに輝く星々も元は誰かの命だったのだろうか。あそこで美しく燃えるように輝く赤い星も、静かに粛々と辺りを照らす青い星も、誰かのために献身的に己の命を燃やした人々が得た美しさなのだろうか。
「……ねえ、私がいつでも美しくありたいのは貴方が一番良く知ってるわよね? 」
「あたりまえだろう。何年の付き合いだと思ってるんだ」
そう答える相手の眉間におかしな程の力が込められる。この男は自分が言いたいことが分かったのだと感じた。
「私が、どんなに努力しても受け入れたがらない人間が居ることも分かってるわよね? 」
幼い頃から言われてきた「男らしくない」という呪文のような言葉に、未だに苦しさを覚えることがある。隣に立つ彼の男らしさを垣間見るたびに、自分が異端で異分子で、世界から拒絶されるのが仕方ないことなのだと気付かされる。
「だからね、誰にも文句を言われない美くしさが欲しいの」
「……お前は十分綺麗だろうに、周りの目なんて気にするな。お前の美しさを分かるやつの方が多いだろう」
この男の分厚い唇から吐き出される優しい、不器用な言葉に思わず笑いが漏れる。こんな自分をいつまでも美しいと言ってくれるのは、きっと彼だけに違いない。美しい盛りを過ぎれば、自分はもう無価値な人間へとなり果ててしまう。
男らしい豪胆さはいつまでも消えないが、美貌は一瞬で消えるのだ。その束の間の美しさだけを追ってここまで20年間頑張って人生を生きてきた。
この夜空と、優しい伝承を聞くまでは、少なくとももう20年は頑張って行くつもりで居た。今日を最後に隣から彼が居なくなることも、全て自分の糧にして、美しさに磨きをかけるつもりで居た。
でも、こんな話を聞いたら、もう駄目だった。隣の彼が自分のことを気に掛けることがなくて良い様に。記憶には残っても、気遣うことがなくて済むように。婚約者と仲良くやっていけるように。星になってしまいたいと思った。
誰にも文句の付けられない完璧なまでの美くしさと、彼との未練のない別れ。これ以上ない素敵な話だと思った。心の底から素晴らしい話だと思ったのだ。別に、彼に忘れられたくないとかいう醜い感情ではなく。ただただ、この方法が最も二人のためにいい手段だと感じたのだ。
そう思って、無言で相手の顔を見つめると、深い青の相手の瞳に自分の姿が映りこんでいた。そこに写る自分の瞳が凄く頼りなげで、まるで引き止めてくれとでも訴えているように見えてしまって、思わず目を逸らした。
逸らした目線の先にはまた、美しい星々が飛び込んできた。その輝きにまた羨ましさと悲しさを抱くと、隣から何かポツリと呟く声が聞こえた。
「……いいのにな」
それは、ずっとお前と居られたら良いのにな、と言ってる様に聞こえてしまって。涙が止まらなくなった。
私もよ。そう言ってあの不器用な言葉しか紡げない厚い唇にキスを落としてあげたくなる。そして、星になったらそれも叶わないものとなるのだと、ようやく気がついた。
そして、代わりに可愛げのない言葉が零れる。
―一番美しい姿で、アンタのための星になりたい。