お題⑤
「記憶の星空」
人は死んだら星になる。昔、誰かがそんなことを言っていたような気がする。もしそうなら、天国とは星空なのだろうか。
星が見えなくなったのは街の明かりが原因ではなく、天国に行ける人が減ったから?
そんなことを考えていたら、突然名前が呼ばれた。
「花宮さん、次の問題お願いします」
「へ、あ、えと」
シーンとした教室。今日も、笑い物にさえなれず私はいらない子になっていく。
この街に、星は出ない。いや、違う。私には見えないんだ。昔は見えたはずなのに今は見えない。
きっと、天国から遠すぎるんだ。他の子はちゃんと生きているから見える。誰かの役に立っているから、
誰かを幸せにしてるから。私と違って。
家に帰ると、いつも私は絵を描く。みんなが笑っている絵、泣いている絵、…私が、その中にいる絵。
あと、お姉ちゃんの絵だ。お姉ちゃんは凄くいい人。だから天国も見えたし、行くことも出来た。
お姉ちゃんの手を握っている時だけ、私はいい子になれたんだ。いつも一緒に天国を見てた。
今、あの星光ったね。ほんとだ、何か言ってるのかな。
そんなことを言いながら、いつも二人で笑ってた。
絵を教えてくれたのもお姉ちゃん。私をくれたのはお姉ちゃん。
「もう、お姉ちゃんのところには行けない。」
何気なくカレンダーを見る。明後日は七夕だ、最後の。
何年も前から言われていた。
彦星が移動してしまったんだ。理由は分からないけど今回が最後の七夕だと騒がれていた。
私には関係ないけどさ。
ね、星(セイ)
なーに?
お姉ちゃんが星になったらさ、彦星さんに、織姫さん捨てないでって
お願いしたいなぁ。
?
ううん、なぁんでも。
朝。物凄い雨音で目が醒めた。
驚いて窓の外を見ると道が湖のようになっていた。
テレビで、いつでも避難できるようにと言っていたので荷物をまとめる。
家にはやっぱり私だけ。
避難所は私の通っている学校だった。たくさんの人が来ている。
すぐに帰れると思っていたけれど、なかなかそうもいかず、七夕が近づいていった。
「ねぇママ、おほしさま、見れないの?」
「…ごめんね、ごめんね。」
中には泣いている人もいて、なんだか…嫌だった。
『お姉ちゃん…見えない…お星様みえないよ…』
昔、泣き噦る私を慰めてくれたのは、いつだってお姉ちゃんだった。
「…」
「…」
「…っ!」
「ちょっと、花宮さん!?」
気づけば、駆け出していた。
自分の教室から紙を、
美術室から絵の具とペンキを、
いろいろな道具を、体育館へと運ぶ。
そして…
『先日の豪雨災害、最後の七夕の日に、避難所の学校である奇跡が起きました。
女子生徒が突如絵の具等を使い、星空の絵を書き上げたのです。
その絵は、専門家の目から見ても相当評価されるもので、避難者のなかでは、その絵を
見て涙を流しているものもありました。しかし、女子生徒は、美術の成績が
特別良いということはなかったらしく、星空のみ、正確にえがけるようです。
しかし、その中に一つのみ、実際には無い星が…』
数年後。星は星空の画家として暮らしていた。今でも星は実際には無い星を最後に付け加える。
星の記憶の星空には、こちらを見守る、優しい星が常に輝いていた。
待っていてくださり、有り難うございました!