Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.63 )
日時: 2020/07/13 21:14
名前: ひにゃりん (ID: Vdbma5tA)

お題⑤
「記憶の星空」


人は死んだら星になる。昔、誰かがそんなことを言っていたような気がする。もしそうなら、天国とは星空なのだろうか。
星が見えなくなったのは街の明かりが原因ではなく、天国に行ける人が減ったから?
そんなことを考えていたら、突然名前が呼ばれた。
「花宮さん、次の問題お願いします」
「へ、あ、えと」
シーンとした教室。今日も、笑い物にさえなれず私はいらない子になっていく。


この街に、星は出ない。いや、違う。私には見えないんだ。昔は見えたはずなのに今は見えない。
きっと、天国から遠すぎるんだ。他の子はちゃんと生きているから見える。誰かの役に立っているから、
誰かを幸せにしてるから。私と違って。
家に帰ると、いつも私は絵を描く。みんなが笑っている絵、泣いている絵、…私が、その中にいる絵。
あと、お姉ちゃんの絵だ。お姉ちゃんは凄くいい人。だから天国も見えたし、行くことも出来た。
お姉ちゃんの手を握っている時だけ、私はいい子になれたんだ。いつも一緒に天国を見てた。
今、あの星光ったね。ほんとだ、何か言ってるのかな。
そんなことを言いながら、いつも二人で笑ってた。
絵を教えてくれたのもお姉ちゃん。私をくれたのはお姉ちゃん。
「もう、お姉ちゃんのところには行けない。」
何気なくカレンダーを見る。明後日は七夕だ、最後の。
何年も前から言われていた。
彦星が移動してしまったんだ。理由は分からないけど今回が最後の七夕だと騒がれていた。
私には関係ないけどさ。

ね、星(セイ)
なーに?
お姉ちゃんが星になったらさ、彦星さんに、織姫さん捨てないでって
お願いしたいなぁ。

ううん、なぁんでも。




朝。物凄い雨音で目が醒めた。
驚いて窓の外を見ると道が湖のようになっていた。
テレビで、いつでも避難できるようにと言っていたので荷物をまとめる。
家にはやっぱり私だけ。



避難所は私の通っている学校だった。たくさんの人が来ている。
すぐに帰れると思っていたけれど、なかなかそうもいかず、七夕が近づいていった。
「ねぇママ、おほしさま、見れないの?」
「…ごめんね、ごめんね。」
中には泣いている人もいて、なんだか…嫌だった。
『お姉ちゃん…見えない…お星様みえないよ…』
昔、泣き噦る私を慰めてくれたのは、いつだってお姉ちゃんだった。
「…」
「…」
「…っ!」
「ちょっと、花宮さん!?」
気づけば、駆け出していた。
自分の教室から紙を、
美術室から絵の具とペンキを、
いろいろな道具を、体育館へと運ぶ。
そして…







『先日の豪雨災害、最後の七夕の日に、避難所の学校である奇跡が起きました。
女子生徒が突如絵の具等を使い、星空の絵を書き上げたのです。
その絵は、専門家の目から見ても相当評価されるもので、避難者のなかでは、その絵を
見て涙を流しているものもありました。しかし、女子生徒は、美術の成績が
特別良いということはなかったらしく、星空のみ、正確にえがけるようです。
しかし、その中に一つのみ、実際には無い星が…』

数年後。星は星空の画家として暮らしていた。今でも星は実際には無い星を最後に付け加える。
星の記憶の星空には、こちらを見守る、優しい星が常に輝いていた。


待っていてくださり、有り難うございました!