遅くなりましたが参加させてください!!!!!!
初めまして!!!!!!!!(大嘘)
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
ああ、いやだ。いやだ。どうして僕は兄さんの話を鵜呑みにしてしまったのだろう。
あのひょうきん者で、人をからかうのが好きで、呼吸の数より嘘をつく方が多い兄さんの「冷凍庫に入っているアイス食っていいってさ!」なんて言葉、どうして信じてしまったのだろう――……!
「宗太ー……?」
地を這うような低い声に僕は母さんの部屋にあるクローゼットの中で息をのんだ。
その声の持ち主は僕の姉さんだ。あ、ちなみに僕の名前は宗太です。
もしかしたら皆さんご察ししているかもしれないが、そう、僕と兄さんは姉さんのアイスを根こそぎ食べてしまったのです。
兄さんは8割の確率で嘘をつくような人だ。だが底抜けに能天気で、アイスを食べて姉さんに発見され、虎の尾を踏んでしまったのにも関わらず、サッカーボールを持ち出して光の速さで外に出てしまった。
運動音痴で常におどおどしている僕は逃げ遅れてしまって――……。
姉さんのターゲットにされてしまった。
きっと僕を始末した後に兄さんを殺す気でいるのだろう。
『お風呂上がりのアイスと冬のあっつい部屋で食べるアイスは最高よね~!』
そんなことを口癖のように言っている姉さん。
僕の姉は食い意地が張っていて、赤ん坊のころから一番大きいサイズの哺乳瓶につまったミルクを瞬き間に飲み干した挙句、足りないと大きい声で喚き散らしたという逸話を持っている。
だから僕たち家族は身をもって知っていた。
姉さんの食べ物を許可なく食べた人間がどんな末路を迎えているのかも。
或る日、姉さんのプリンを食べた父さんは腹部に正拳突きを。
或る日、姉さんのポテチを食べた兄さんは上段蹴りを。
少なくとも数時間、酷い時には数日間体は真面に動かなくなるという代償を食らっている。
僕はそうならないよう、常に息を潜めて、被害にあわないように気を張り詰めていたのに!
なのに、今日という災厄に出くわしてしまった。
今日は茹だるような最悪の暑さ。僕の体は冷えたものを欲していた。だから。兄さんの嘘にも引っかかってしまった――……。
「宗太ー……? 今なら大人しく出てきたら許してあげる。おおよその事、あの馬鹿に唆されたんでしょ……? お姉ちゃんちゃんとわかってるから……。だから出ておいで……」
母さんの部屋の壁を伝う様にカリカリカリ、とひっかくような音がする。
きっと姉さんだ。でもその言葉は半分嘘だってこと、僕知ってるよ。
許してあげる、でもこの一撃でな! って言って僕の顔面に拳を入れるってことは知ってるよ。
姉さんは食べ物のことに関すれば悪魔以上の存在だから。
だから僕は息をひそめるよ。
父さんと母さんが返ってくる夕方6時までは――……!
ちなみに僕の腕時計を見てみると今は4時半だ。
ああ、長いよ、長すぎる!
早く帰ってきて父さん母さん!!
「あ、そうだー。宗太あのねー。今日父さんと母さん遅くなるんだってー。だから8時ぐらいに帰ってくるんじゃないかなー。今日お姉ちゃんが夕飯つくるのー。頑張るねー。オムライス作ろうかなー。3人で仲良く、食べようねー……」
そん、そんな……。いやでも騙されないぞ。
姉さんの陽動作戦かもしれない。
僕は負けるわけには……!
すると、僕の右手にするっともふもふして柔らかいものが通り過ぎた。
ん? 母さんのクローゼットの中には僕しかいなくて、動いているものなんて……。
横目で見ると、そこには衛生的にあまりよろしくないネズミが……。
「あ、あああああああああああああああああああああっ!!」
僕は思わず転げ堕ちる様にクローゼットから出てしまった。
背中に棒のようなものが当たる。それは、姉さんの足で……。
「みーつーけーたー。宗太。こんなとこにいたのね」
「ね、ね、ね、姉さん……」
「ねえ、宗太知ってる?」
姉さんの顔を見上げた。
その顔は逆光で見えなかったけれど――……きっと、恐ろしい顔をしているのだろう。
僕の気持なんか知らず、姉さんは緩やかな口調で、
「人って死んだら星になるんだよ」
そこから、僕の意識は途切れた。
次に目を覚ますと、リビングの壁に磔にされている兄さんと何事もなかったかのように夕食を食べる姉さんと父さんと母さんの姿があった。