「クリスマスパーティ」
【珈琲と小さなエール】
「ありがとうございました!」
ガヤガヤと賑わう声に掻き消されながらも、私は大声でまばらにいる観客に呼びかける。ぱちぱちと小さな音がして、まるで何事も無かったかのように立ち去る彼等を見て、懸命にため息を抑えた。
ふう、と息をつく。白い息が透明に溶けていく。これはため息ではない。そう自分に言い聞かせ、少ない荷物をまとめる。ベンチの上に置いてあるケースの中にギターをしまって担ごうとしたけれど、何となくその場に留まり、ケースの横に座り込んだ。
すっかりぬるくなって、むしろ冷たくなった、開いた自販機のコーヒーを両手で包む。
そのまま、特に何を思うでもなくぼうっと道行く人を見る。この辺では一番広いであろうこの公園の木々はイルミネーションで彩られ、カップルらしき影が手を繋いで過ぎていく。キラキラとした光の中で幸せそうに見つめ合う彼等が少しだけ羨ましい。
「私、何してるんだろ」
不意に虚しくなって、弱音を呟いた。空もいまにも泣きそうで、そのことが余計に胸を苦しくさせた。遠くに見える輝かしいクリスマスツリーが眩しい。
私と一緒にこの道を目指したあの子は、とうの昔に諦めて充実した生活を送っている。幸せそうな彼等を見てそれを思い出し、何故か、悔しいような腹立たしいような感情が湧いてきた。
コーヒーをぐいっとあおると、余計に寒さが増した。
「帰ろう」
今度こそそう決意して、ギターケースを肩に提げた時、ずいっと目の前に缶が差し出された。私が手にしている空のコーヒー缶と同じものだ。
「え?」
思わず口に出てしまった。見ると、私よりも少し年下らしい女の子が下を向いて立っていた。その子は見覚えがあった。
「いつも元気もらってます! これ、良かったら!!」
早口で聞き取りづらかったが、何とか意味を理解出来た。こんなこと初めてだからなおさら驚き、反応が遅れてしまう。
「あ、ありがとう……ございます」
ここで何度も私の演奏を聞きに来てくれている女の子は、私が出した手にコーヒーを置いて逃げるように走って行ってしまった。
熱い。けど、温かい。じんわりと手から腕から広がる温度に、口角は上がり、奥の方から、涙が込み上げてきた。