楽しそうなので参加しました。
「短編夏祭り」
みん、みん、みん。今日もセミの声がうるさかったから、頭がおかしくなってたんだ。夏の温度は僕の脳を溶かして、額の汗はまあ、脳の一部だったんじゃないかな。
友達がいじめられてたらどうするかって、道徳の授業で先生に聞かれたのを思い出す。僕はあのとき、何も答えられなくて、それが悔しくて、それで?
多分、いじめられるようなことをした友達も悪いんだと思う。喧嘩両成敗?みたいな言葉もあるからどっちも悪い。
でも、友達は自殺しちゃったので、殺したやつが罪を償うのって普通のことだと思う。ほら僕、ヒーローになりたかったからさ。
みん、みん、みん。セミの声がうるさい。
一番許せなかったのは何もできなかった僕自身なんだ。友達がやられて日和ってるやつはいちゃいけないんだ。いねーよなってアニメで見たキラキラした少年が鼓舞してくれる。
みんみんみん。セミの声がうるさいから、そいつの喚く声なんて聞こえなかった。代わりに脳内でめびうす潰すぞって、あのシーンが流れていた。
掌の下で、汗ばんだ皮膚と、血管の動く感触が伝わってくるのが気持ち悪い。いじめっ子相手だからやっぱり少し怖かったけど、殴り倒して上から首をキュッとしてやったら、結構すぐに大人しくなった。
みんみんみんて教室の外でうるさくて、明日から夏休みなのに僕らは何やってんだろうなって少しだけ思った。
泣きながら僕を見上げるいじめっ子の顔をじっと見下ろして、少し優越感だった。苦しそうに口をパクパクさせてるのに、声が出ないらしい。ずっとそうしていると、ぐったりしてきて、人を殺すのなんて簡単なんだって思った。
僕は友達を殺したこいつを殺して、ヒーローになれるって思っていた。でも、違うんだろうって思った。
人を殺したら僕もこいつと同じで犯罪者だ。
汗とか涙とか唾液で酷い顔をしてるこいつを、このまま殺してやるのは簡単。でも、もう、殺したところで、友達は僕を褒めてはくれないんだった。
みん、みん、みん。夏の暑さで正常な判断ができなかった僕は、結局手を離してやった。
生温い皮膚の感触が、掌に残ってて気持ち悪い。
僕から開放されたいじめっ子は、死にかけたのが怖かったみたいで、ずっと泣いていた。友達はお前にいじめられたから死んじゃったのに、死にかけたくらいでこんなに泣いてって、凄くムカついた。でも、僕のしたことはいじめっ子と対して変わらないのだと、はっきり自覚した。
ごめんねって謝ってから、僕らは二人で友達の墓参りに行った。
みん、みん、みん。明日から夏休みで、そこに友達はいないけど。結局、あのとき手を離して良かったと思う。いじめっ子も、あいつが自殺するなんて思わなかったとか、後悔してるって言っていたから。実はほとんど毎日、墓地に足を運んでいたらしい。
確かに来るたび新しい花が添えられているとは思っていたが、それは、いじめっ子の持ってきた百日草だったのだ。