梅雨パーティ参加
【停滞】
天気が悪い、という表現に疑問を抱く。
僕は別にこの景色が悪いものだとは思えない。分厚い雲、ひんやりした空気、全部洗いながし、無かったことにしてくれる水。
色とりどりの傘が流れていく街路。薄暗い景色の中だから映える色彩もあると思う。
それに、陽射しや蒼穹ばかりが喜ばれていては、アメが可哀想ではないか。
「……お前さ、よく変な奴って言われない?」
折りたたみ傘も無ければ、普通の傘も電車に忘れてきたという彼。僕の話を煩わしそうな顔をしながらも聞いてくれた。でも、そろそろ僕の相手が面倒になってきたらしい。
「それは、僕が変な奴だと思ったってことだよね?」
「質問に質問で返さないでよ、面倒くさいなあ」
「君は僕のことが変だと思う。そんな君の感性と同じ人が他にもいてほしい。だからそんな遠回しな物言いをしたんだよね? 自分の考えは間違ってないって実感したいから。なるほどね。面倒くさいのはどっちかな?」
僕に退路を塞がれると、君は心底嫌そうな顔で視線を逸らす。
「あーうざ。なんでそんなヤな言い方しかしねーの。おれ、雨はどっちでもいいけど、お前は嫌い」
「それはどうも」
愛想笑いを貼り付けて、肩に掛けていた鞄の中に手を突っ込む。
取り出した鮮やかな折りたたみ傘を開いて、
「おめー傘持ってんじゃねーか!」
「忘れたなんて一言も言ってない。君とは違い、何も無くても折りたたみ傘を携帯する用意周到な人間なので」
「じゃあおれに構ってないでさっさと帰れや!」
「うん。君も早く帰りなよ?」
悔しそうに歯をむき出しにして唸る彼は、昔飼っていた犬によく似ていた。
全部洗い流してしまう水。流さないでほしい思い出だってあったな。でも、だからだ。
君を見つけた雨を、悪いものだとは思えない。
色とりどりの傘に無視されていた。面倒事はごめんだと言いたげな雑踏の中、鮮やかな首輪が目に止まった。ぷるぷると震える姿を放っては置けなかった。
アメ。出会いも別れも、同じ空だった。辛いから忘れたい。それでも確かに幸福の時間だったから。無かったことになんて、しちゃ駄目だ。
僕はちゃんと、乗り越えて前に進めるようにならなければ。