雑談掲示板

新しい小説
日時: 2018/08/24 16:25
名前: 雛風 (ID: RPq3z/iI)

2018.08.24 16:25 pxy008.kuins.kyoto-u.ac.jp一部UNKsメモ

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Re: 新しい小説 ( No.14 )
日時: 2018/09/02 16:28
名前: ルナルナ◆fnkquv7jY2 (ID: T1n3Hgt2)

雪合戦


空が薄っすらと橙色に染まっていた。夕方でもないのにと不思議に思っていたのだけど、昼頃にはふわふわと雪が舞い落ちて、校庭を白一色に塗り替えてしまった。染みひとつもない雪景色に、蛍介は思わず感嘆の声をあげてしまう。柔らかな雪がふんわりと降り積もっていて、雪遊びをするには打ってつけの日だ。雪遊びといえば思い浮かぶのは雪合戦で、蛍介は隣に座る流星に期待の眼差しを向けてしまう。

「流星、雪積もってるよ!」
「あ? あぁ、そうだな」
「ね、あのさ、雪合戦しようよ」
「……お前なぁ、子供じゃ」
「いいね! 皆でしたら楽しそう」
「おう、やるぞ」

傍にいた瑞希たちも興味を持ってくれたらしく、話に交じってくる。先刻まで渋っていた流星も、なぜか突然立ち上がりやる気を見せていた。なんで行き成り乗り気になってくれたのだろう、と首を傾げてしまう。それでも、蛍介は雪合戦ができることで頭がいっぱいになってしまって、そんな疑問はすぐに吹き飛んでしまった。
弾む心のままに教室を出て玄関口まで行ったところで、同じようにわくわくとした様子のバスコと鉢合わせた。目が子どもみたいにキラキラと輝いている。

「蛍介も外で遊ぶのか?」
「うん。せっかくだから雪合戦しようって」

どうやらバスコも雪景色を前にしたくなったらしく、校庭にでるところだったらしい。ちらりと視線を後ろにずらすと、苦笑いの翔瑠と目が合った。輝かんばかりの笑顔を前に根を上げたのか、バスコの後ろで寒そうにしながらも教室に戻る気はないらしい。
いつの間にか大所帯だが、雪合戦は多ければ多いほど楽しいだろうから、バスコたちも一緒に校庭に出て、グッパーでグループを分けることにしたんだけど。

「瑞希に雪玉ぶつけられっかよ!!」
「え、わぁっ!?」
「……!!」

同じグループだったはずの流星が雪玉を投げてきて、なぜか敵方だったはずの四宮が庇ってくれたぐらいからグダグダになってしまった。誰が敵で味方なのか入り乱れて、ただの雪玉の投げ合いになってしまっている。

「ごめん、冷たかったよね? 大丈夫?」

制服に雪の結晶がついてしまっていたから軽く手で払うと、四宮は大丈夫だと頷いてくれる。そのうえ、蛍介は大丈夫だったかと逆に聞かれてしまった。四宮って本当に優しいなぁ、なんて自然と頬が緩む。

「僕は大丈夫だよ。四宮が庇ってくれたから」

良かった、なんて安心したように笑ってくれるから、蛍介も「ありがとう」と口にしようとして。背中に冷たい塊がぶつかった。

「わ、わっ!」
「油断してんじゃねぇ! 瑞希は渡さねぇからな!」

何故そこに瑞希が出てくるのかはわからないけれど、背中の冷たさからして雪玉をぶつけられたらしい。負けてられないなと振り返ると、既に流星の顔面に雪玉がぶち当たるところだった。一体どこからと視線を彷徨わせると、四宮が蛍介を庇うように前にでる。その手には既に別の雪玉が握られていた。
流星の顔から雪がずるずると滑り落ちていく。その下から怒りに吊り上がった目が見えて、蛍介は思わず「ひぃっ」と声を上げかけた。

「四宮ぁ、てめぇ後悔すんなよ」
「……」

むっ、と引き結ばれた口元が動いたかと思えば、蛍介の目前で雪玉が凄まじいスピードで交差した。まるで弾丸のような速さで、呆気にとられたまま飛び交う雪玉を見ていることしか出来ない。

「おぉ、俺も混ぜてくれ!」
「ま、待てってバスコ!」

そこにバスコも加わり、続いて翔瑠もその後を追って行ってしまう。バスコが参戦したせいか、雪玉が凶器と化した。偶に凄まじく痛そうな音がするのは気のせいだと思いたい。
女の子たちは飛び交う雪玉の中に突入するのは諦めたらしく、少し離れたところで雪だるまを作り始めている。もはや思い思いに動きすぎて、めちゃくちゃなのに、蛍介は緩んでいく口元を抑えることができなかった。
だって、すっごく楽しい!

「僕も!」

蛍介は雪を掬って丸めながら、乱闘と化した雪合戦へと飛び込んだ。


* * *


雪合戦が落ち着いた頃には、みんな制服が真っ白になっていた。雪まみれにはなってしまったけれど、動いていたせいか寒さは感じない。
荒れた息を整えていると、四宮が慌てた様子で近づいてきて、服についた雪をぱたぱたと払ってくれる。

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。え、いいからって?」

冷やしたら風邪を引くなんて、心配し過ぎだと思う。そんなことを言うくせに、四宮の制服も雪まみれで蛍介よりも真っ白になってしまっている。実は蛍介を庇っていたからなのだが、あの入り乱れた雪合戦の中では気付けなかった。

「四宮だって真っ白だよ?」
「……!?」

俺はいいから、なんて逃げようとするから「駄目だよ」と引き寄せて、肩に乗っていた雪を払ってあげる。四宮はうっすらと頬を染めると、俯いて大人しくなってしまった。暫く向かい合って雪を落とし合っていると、遠くから声が掛けられる。聞こえてきた方に視線を向けると、美玲と瑞希が雪だるまの隣で手を振っていた。

「翔瑠、雪だるまだ! かわいいな!」

バスコが今にも抱き着きそうな勢いで雪だるまに駆け寄って、興奮したように頬を赤く染める。その目はきらきらと輝いていて、まるで宝物でも見ているみたいだ。
流星も近づいて「さすが瑞希だな」なんて言って、美玲に「私も作ったんだけど」と軽く小突かれている。

「蛍介、どうかな? 可愛くできたでしょ」
「うん、すごいね!」

くりっとした丸い目が可愛くて、思わず滑らかな表面を撫でてしまう。

「でしょ? でも、晴れちゃったから、明日には溶けちゃうかも」
「な、なんだと」

雪だるまを夢中で眺めていたバスコが、物凄く残念そうな声を上げる。「こんなにも可愛いのに」なんてバスコが言うものだから、隣にいる翔瑠がしょげた背を撫でてやりながら慌てていた。

「ならさ、写真撮ろうぜ。それなら何時でも見られるだろ?」
「翔瑠……」

ひどく感激した様子で、バスコが翔瑠を見上げる。
流星が「こいつら頭おか……」と言いかけて、瑞希にジェスチャーで静かにと言われて黙りこんでいた。そのとき流星の口元が「……可愛い」と動いたのには、気づかなかったみたいだ。
傍を通りかかった生徒に頼んで写真をお願いすると、快く引き受けてくれた。そうして雪だるまを囲うようにして集まると、カメラのシャッターが何度か切られる。「ありがとう」と言ってカメラを受け取ってから、みんなで揃って覗き込んで思わず笑ってしまった。
みんな揃って雪まみれの上に、バスコなんて緊張のし過ぎで顔が強張っている。思い思いに動くせいでぶれているのすらあって、みんなの“らしさ”が写真から感じられて胸がほっこりしてしまった。
写真は美玲が現像してくれることになって、後から配ってくれるらしい。友達と雪遊びなんて初めてで、今から写真が楽しみで仕方がない。わくわくと疼く気持ちを抑えられず、「また雪降らないかなぁ」なんて空を見上げた。

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