雑談掲示板
- 新しい小説
- 日時: 2018/08/24 16:25
- 名前: 雛風 (ID: RPq3z/iI)
2018.08.24 16:25 pxy008.kuins.kyoto-u.ac.jp一部UNKsメモ
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Re: 新しい小説 ( No.15 )
- 日時: 2018/09/02 16:41
- 名前: ルナルナ◆fnkquv7jY2 (ID: T1n3Hgt2)
俺が君を誘ったら
一歩踏み出せば、辺り一面に広がった紅に圧倒された。今が盛りと言わんばかりの燃え上がるような紅い紅葉が、一面に敷き詰められている。踏み締める度に、ぱりぱりと乾いた音が響くのが面白い。
「僕、紅葉の絨毯なんて初めて見たよ」
画面越しに見たことはあっても、こうして実際見たのは初めてだった。燃えるように鮮やかな赤色が、地面を覆い尽くす様は圧巻に尽きる。
ほぅ、と息をつきながら、少し後ろを歩く四宮を振り返った。
「でも、良かったの? せっかく当たったペア旅行が僕とで」
こくんと頷いた四宮がいつもより楽しそうに見えて、蛍介の口元も緩んでしまう。
「僕と来たかった? 嬉しいなぁ、僕も今日の旅行すごく楽しみにしてたんだ」
友達と計画を立てて、遠出するなんて初めてだ。わくわくと浮足立つのを押さえられなくて、昨日は中々寝付けなかった。楽しみで目が冴えるなんて経験も、この旅行がなければなかっただろう。そのせいで起きていようと決めたバスで寝てしまったのは、少し悔しい気もする。トランプとか他にも色々出来そうなものを持って来ていたのに。
いつの間にか四宮の肩に寄りかかって寝てしまって、気づいたら既に目的地に到着していた。なぜか四宮は上機嫌だったけど、蛍介は帰りこそ起きていようと決めている。
「ねぇ、あっちも見てみよう!」
石階段の先には、立派な寺院がそびえ立っていた。気持ちがはやるのを抑えられなくて、駆け足で階段を上がっていく。
蛍介、と不意に名前を呼ばれた気がして振り返ると、パシャリとシャッターを切る音が響いた。わっと驚いて、目を丸くする。
四宮はにこりと笑って、カメラを掲げた。
「四宮って写真撮るの好きだったんだね」
バスの中でも、着いてからも、四宮の手にはカメラが握られている。そんなに写真が好きだったなんて、今まで知りもしなかったから何だか意外だ。
四宮が慌てたように“嫌ならやめる”というから、蛍介は少し照れくさい気持ちで薄く色づいた頬を指で掻いた。
「嫌って訳じゃなくて……せっかく二人いるんだから、一緒に撮りたいな」
ね、と手を差し出せば、四宮はぱっと表情を明るくさせて駆け寄ってくる。その肩を引き寄せて、携帯を上に掲げた。
「じゃあ撮るね」
そのままパシャリとシャッターを切る。
二人で携帯の画面を覗き込んで、思わず“あっ”と声を上げた。
「見切れちゃったね」
どちらともなく顔を見合わせて、二人そろってクスクスと笑ってしまう。
「もう一回撮ろうよ」
四宮が頷いてくれたので、もう一度撮りなおすことにした。先刻よりも体を寄せて顔を近づけると、今度はきちんと二人とも写れたみたいだ。
上手く撮れてよかったね、なんて言いながら四宮の携帯に写真を送信する。四宮は携帯を両手で握りしめたまま、幸せを噛み締めるように緩む口元を必死に抑えていたのだけど。それに気づきもしない蛍介は小首を傾げて、立ち止まったままの四宮の腕を引くと、にっこりと微笑む。
「行こうよ、四宮!」
四宮は呆気にとられたようにぽかんとしていたが、口元を緩めて蛍介の手を握り返してくれた。
境内は圧倒されるような美しさに満ちていた。水面に映る鮮やかな紅葉や、深緑の苔が彩る庭園。蛍介は始終はしゃぎっぱなしで、気づいたら四宮の手を引いて、あっちへこっちへと歩き回っていた。
「凄かったね、あんなに綺麗な景色初めて見たよ!」
声を弾ませて話す蛍介に、四宮は相槌を打ちながら口元に笑みを昇らせる。
次はどこに行こうか、なんて。ガイドブック片手に四宮を見上げた。
「僕が行きたいところでいい? 四宮は行きたいところないの?」
「……」
「ここ? いいよ、僕も食べ歩きしてみたかったんだ」
四宮の指先が、おずおずとあるページを指さす。そこには古い街並みそのままに景観を保存した名所が載っていた。食べ歩きや買い物もできるらしく、よく賑わう人気のスポットらしい。
紅葉に彩られた石階段を下りていくと、その下で待ってくれていたタクシーに乗り込む。
「旅館だけでも十分なのに、タクシーまで使えるなんて贅沢だよね」
四宮は一体、どんなチケットを当てたんだろう。それとも、景品のペア旅行チケットというのは、こんなにも至れり尽くせりのものなのだろうか。
凄いなぁ、と考えを巡らせていると、肩をそっと引かれて隣に目を向ける。
「外が綺麗?」
うんうん、となぜか焦ったような四宮に促されるまま、視線を窓に移してわぁっと感嘆の声を上げた。
上から覆い被さる様な紅葉が、道路沿いを彩っている。赤や黄色の色とりどりの紅葉も、空気に溶ける様で先刻とはまた違った美しさだ。
「ほんとだ、綺麗だね!」
窓ガラスにかじりつく勢いで、外の景色に目が釘付けになる。ついつい子供みたいにはしゃいでしまうけど、四宮は呆れもしないで頷いてくれる。
大切な友達と二人きり、こんな風に旅行ができるなんて夢みたいだ。楽しくて、楽しくて。蛍介と四宮は弾む気持ちのまま、次の行先でしたいこと行きたい店を話し合った。
参道の両側に連なるようにお店が並んでいて、どこも活気にあふれて賑わっていた。
物珍しさにきょろきょろと辺りを見渡してふらつく蛍介を、何気ない仕草で四宮が引き寄せてくれる。そのすぐ横を人が通り過ぎていって、漸くぶつかりそうだったことに気づいた。
「ありがとう、四宮」
左右に首を振って、気にしないでと言ってくれる。優しいな、なんて思いながらも笑い掛けると、四宮がハッとしたように肩から手を離した。頬を真っ赤にして謝る四宮に、蛍介は首を傾げる。助けて貰っただけで、謝られるようなことはされていないと思うのだけど。
首を傾げつつも、蛍介は視線を参道に向ける。
「……人がすごいね」
「……」
流石、有名な観光地だ。先刻の場所と打って変わって、参道を埋め尽くす人の波に二人そろって足踏みしてしまう。気を抜けば流されて、はぐれてしまいそうだ。
「あ、手を繋いでいこうよ」
誰かと手を繋ぐなんて、小学生の時に母と繋いで以来かも知れない。
ぼぼぼぼっ、と火が出るかと思うほど顔を真っ赤に染め上げて、四宮が首を左右に振る。
「え、死んじゃう?」
よくわからないけど、手を繋ぐのは恥ずかしいらしい。いい案だと思ったのにな、と少し残念な気持ちと共に手を引っ込める。
「ねぇ、あそこの人。格好良くない?」
「わぁ、ほんとモデルみたい」
ふ、と視線を感じて目を向ける。すると、彼女たちは顔を赤くして、じっとこちらを見つめてきた。その熱のこもった目に、思わず四宮を見上げてしまった。
四宮はスタイルもいいし、格好いいから目を引くのだろう。そう思うと同時に、微かな痛みが胸を刺した。
変なものでも食べたかなと胸を押さえると、その手を四宮にとられる。
「四宮……?」
四宮はちらりと女性を一瞥したかと思うと、自分を真っ直ぐ見つめてくる。何処か緊張した面持ちで、蛍介の方がドキドキしてしまうほどだ。
薄く唇を開いたかと思うと、躊躇いがちに“手を繋ぎたい”というので思わず小さく笑いが零れてしまった。
「ふふっ、駄目なわけないよ」
手首を握っていた四宮の手を解いて、ぎゅっと繋ぎなおす。握った掌は蛍介よりもずっと熱くて、火傷してしまいそうだ。
ホオズキみたいに赤くなった顔を隠すように、四宮が少し強引に手を引いた。朱を注いだみたいに赤くなった項が見えて、蛍介はゆるゆると緩む頬を抑えられなかった。
抹茶パフェや大福、おいしいものを沢山食べながら参道を進んでいく。四宮が行きたいと溢した雑貨店にもよって、お揃いのストラップを買ってさっそく携帯に付けた。陽にかざしたとんぼ玉がキラキラ光って、どんな高価な物よりも輝いて見えた。そんなお揃いの言葉が嬉しくて、口元がにやけるのが止められない。
「大事にするね」
この日のためにバイトを頑張ってきたかいがあった。
自分で買った友達とのお揃い。初めての経験に胸が躍って、嬉しさを抑えられない。緩んだ顔のまま四宮を見上げれば、彼もまた口元に優しい微笑みを浮かべてくれた。
「お腹いっぱいだー」
ぼすん、と既に用意してある布団に飛び込む。家の布団と比べられないぐらい柔らかく受け止められて、そのまま目を閉じてしまいたくなった。まだ、寝ちゃだめだ。と、今にも落ちそうな瞼を擦りつつ寝返りを打つと、木目調の天井が見える。
夢みたいに幸せで寝たくないな、とぼんやりしていると、四宮が微笑みながら見下ろしてきた。眠たいのか、と聞かれて、こくんと小さく頷く。
「眠たいけど、まだお風呂入らなきゃ」
体を起こそうとすると、四宮がすっと手を差し出してくれる。
「ありがとう」
引っ張り上げられて、少し四宮に寄りかかってしまった。四宮はびくりと身体を震わせて、蛍介の肩をそっと押し返す。
「お風呂先に入っていいって?」
うんうん、と頷いてくれる四宮に、蛍介は唇をまごつかせた。
「……あのさ」
お風呂に入ったら、きっともう寝るだけだ。
少しでも楽しい時間を長引かせたくて、四宮の浴衣の袖をぎゅうっと握り締める。寝てしまったら、またもう一つの体でバイトに行くだけだ。それまでは、もっと四宮と居たかった。
「一緒に入ろうよ」
「っ?!」
手を振って明らかに狼狽えている四宮に、なんだか哀しくなってくる。そんなに自分とお風呂に入るのは嫌なのだろうか。
「……だめ、かな?」
駄目押しとばかりに見上げれば、四宮はわなわなと唇を震わせて。今にも湯気がでそうなほど真っ赤な顔で頷いた。
ヒノキの香りが漂うお風呂からは、ライトアップされた紅葉が見える。昼に見たのとは、また違った顔だ。
「ねぇ、四宮」
「っ!」
くるりと身体ごと振り返ると、四宮が驚いたように肩を跳ね上げた。ぱちゃん、とお湯の跳ねる音がして、波紋が蛍介の方まで流れてくる。
「もっとこっちに来てよ。景色見えないでしょう?」
お風呂の端っこで身を縮こませていたので手招きすれば、四宮は何度か迷うような素振りを見せながらもそっと近づいてくる。四宮が隣に並んでくれたのを見て、視線を景色に戻した。
「今日はありがとう。友達とこんな風に出かけたことなかったから、すっごく楽しかった」
改めてお礼を伝えるのは少し照れくさくて、熱くなった頬を誤魔化すように口元を緩ませる。
そんな蛍介の言葉に四宮はじわじわと口角に笑みを浮かばせると、噛み締めるように“また”と呟いた。上手く聞き取れなくて、耳を寄せると。
また、誘ってもいいか?
期待と緊張が入り混じった声音に、蛍介は目を柔らかく細めた。
「うん、楽しみにしてる!」
友達とまた次の約束ができる。それが、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。
さっきまで目を閉じる事さえ嫌だったのに、四宮と色々な場所を巡ることを考えたら明日が楽しみになってくる。
また明日。その言葉だけで、わくわくと心が弾んだ。
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