雑談掲示板

【乙女座の憂鬱】につき、時間を止める
日時: 2014/07/04 00:06
名前: たろす@◆kAcZqygfUg (ID: gVNfdAtA)


【乙女座の憂鬱】


 一層の事、ヒトの様に思うまま堕ちてしまえれば良いのに。
 乙女座は溜め息まじりに呟きました。
 あれは誰だろう、こっちは? 乙女座は水面を覗いて思い巡らせます。 どこか遠い場所の、囚われの誰かに自分を重ねて。
 乙女座はいつもそこに居ます。 何故なら乙女座は動けないからです。 黒い海と、それに映る自分たち、ここにはそれしかありません。
 乙女座は今日もただ、溜め息を溢します。 キラキラと輝いて、溜め息は虚空へと消えていきます。
 日が沈むと、乙女座の為の時間がやって来ます。 それはそれは美しい乙女座の姿に、一体どれほどのヒトが憧れる事でしょう。

 いつまでも美しいままで居させてください。
 いつまでも綺麗なままで居させてください。
 いつまでも純粋なままで居させてください。
 
 毎日毎日、乙女座はそんな言葉を聞きます。 綺麗なまま、汚されない、美しい存在でありたい。 そんな儚い願いを。
 乙女座は毎日その願いに応えます。 彼女達がいつまでも綺麗なままで居られます様に。 乙女座は毎日そう祈ります。 乙女座には関係のない、遥かな下から乙女座を見上げる彼女達の為に。
 それなのに、どうしたことでしょう。ある日乙女座に願いを懸けた少女は美しさを保つ努力を止めました。
 ある日乙女座に願いを懸けた少女は、自ら男を知り、その身を汚していきました。
 ある日乙女座に願いを懸けた少女は、自分を振り返る事もなく、周囲に悪罵を放ち続けました。
 まるで乙女座を嘲笑う様に。 動けない乙女座は、いつまでも、ずっとずっと遥かな先まで、ただ意味もなく乙女でなくてはならないのに。
 乙女座は今日もまた、乙女座には関係のない願いを聞き、祈ります。 うんざりしながら、でも他になにも出来ないので、仕方なく。

 本当は乙女でなんて居たくないのよ。

 乙女座は憂鬱な声でそう呟いて、黒い海に身を横たえました。 それからそっと自分の脚に触れ、そこにある幾つかの、黒い線に結ばれた黒い点のなぞりました。 それは紛れもなく乙女座でした。
 脚に乙女座を抱えて、乙女座は今日も憂鬱に沈んでいきました。



【ルール的な何かと主情報】>>1

前スレが終盤繁盛して、来客者も多かったのでルールとか色々決めてから本格再始動って方向で。
ルール違反者は普通に出禁で。
警告なしで削除依頼出すのでよく読んでよく守って。

*今どこかで@さんの散文集Ⅱが読めるらしい。
散文集Ⅱ【お願い事】意外にもカキコ未掲載分が多かった。
まあ、多くの人はすぐみつけるはず。
見つからなければ聞いてくれれば教えてあげるかも。
あとは知らん。

【セルキオ川の小舟】

The Serchio, twisting forth
Between the marble barriers which it clove
At Ripafratta, leads through the dread chasm
The wave that died the death which lovers love,
Living in what it sought; as if this spasm
Had not yet passed, the toppling mountains cling,
But the clear stream in full enthusiasm
Pours itself on the plain....

パーシー・ビッシュ・シェリーは、人類史上最も偉大な作家だと思う。
僕は確実にこの人の影響でシュルレアリスムの世界に触れたと思うし、チープで崇高な性愛の世界を作りたいと思った。
この人の影響でフランス語を勉強したし、フレンチムービーも沢山観た。
いつの日かシェリーに捧ぐことが出来るような作品が、書ける様になりたい。
現代的直接表現?そんなん知らね。
俺は文字だけ読んで理解できる作品なんて書きたくない。




*過去レスの最終記録、参照21190
さあ、過去スレを超えるぞ頑張れ俺。

*F5ぷしゅ
【乙女座の憂鬱】

永遠に乙女でなければならないのは、残酷だと思う。

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Re: 【乙女座の憂鬱】につき、時間を止める ( No.43 )
日時: 2014/07/04 00:11
名前: たろす@◆kAcZqygfUg (ID: ONmUCJTA)


お題SS。

【時間を止める三つの方法】

 午後の生暖かい日差しが一杯に入り込む広い部屋でへ、ティーセットを並べる青年の姿があった。
 青年は散らかるダンボールを器用に避けて小さな丸テーブルへ手にしたティーセットを並べ、熱いお茶を二人分、高価なカップへと注いだ。 そうして片方は手元へ、もう片方は反対側へ腰掛ける女へ。
 美しい女だった。 幼い顔の作りだが、淑女としての品性と教養を感じずには居られない。
 女は特別その紅茶に反応しなかったが、慣れた事なのか、青年は年季の入った椅子へ腰を下ろして一冊の本へ視線を落とした――。

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 小さい頃、この時間は永遠に続くものだと思っていた。
 他愛ない喧嘩も、泥だらけになって転がる事も、祈りを終えた日曜日、教会でもらうパンを片手に二人で湖畔を眺めるのも。 愚かな事ではあるが、あの時分の僕はあの時間が永遠に続くと信じて疑わなかった。 いや、終わってしまうものだということに気付いてさえいなかった。
 その儚く脆い時間と言う存在を明確に意識したのはいつだったろうか。 少なくとも二人のささやかな幸せを引き裂く夕日と、子供たちの帰宅を促す大人達がやってくるのは時計の針が特定の場所を指した時だと気付いた覚えがある。
 その後、幼かった私が家中の時計を壊したことは、想像に易いだろう。 当然の事ではあるが、決して時間は止まってはくれなかった。 翌日も私たちの幸せは夕暮れを合図に終わりを告げた。
 だが時間は決して私たちに不幸だけをもたらしたわけではなかった。
 皮肉なことに、時が経つつれ、夕暮れも大人達も私たち、私と彼女の、二人の逢瀬を邪魔しなくなった。 止めてしまおうと思い、切望し、実力行使にまで出たのに、そんな大嫌いな『時間』が私たちに成長と自由を与えた! 何とも皮肉な話じゃないか!
 私たちは同じ学校へ通い、同じ家に住み、同じものを食べて、お互いに幸せだった。 時に幼い頃の湖畔を思い出し、時に先に待つ未来や希望を語らった。
 だが、私たちはもう幼くは無かった。 この幸せを与えた時こそが、この幸せを引き裂くであろうことを、感じた。 少なくとも幼少の頃に時を止めようと試みた私には、いつか終わりが来る、『時間』こそがそれをもたらすと確信した。 だから私は思案した。 『時間』を止めるにはどうすれば良い?
 答えは簡単だった。 もしかしたら、明日二人は引き裂かれてしまうかも知れない。 それなら、今日を繰り返せば良い。 毎日同じ事を繰り返せば、永遠に明日は来ない。 幼き日に時間を止め損ねた私が、次に到達した答えだった。
 それはある意味で正しかった。 私の不安を敏感に感じ取った彼女は、私のこの提案を快く受け入れてくれた。 そう、あの日々は確かに私の人生の中で唯一切り出された不動の時間だった。 だが、その止まった時間は他愛なく、容赦なく動き出した。
 ある日、彼女の母が亡くなった。 彼女はとても母を大切にしていた。 そんな彼女にとって、母が居た日々は呆気無く昨日になってしまったのだ。 彼女がこれ以上時間を止めておくことは出来なくなった。 それは、仕方の無いことだった。
 彼女の時間と共に私の時間も動き出してしまった事に、私は酷く狼狽えた。 確かに私は時間を止めることに成功したはずなのに、もう一度同じように止める事が、どうしても出来なかった。
 そうして、私は気付いた。 彼女の時間と私の時間は繋がっている。 彼女の時間が動き出したことで私の時間が動き出したなら、彼女の時間を止めてしまえば、私の時間も止まる。
 それに気付いてすぐ、私は彼女に伝えた。

「私はきみに嘘をついた。 私はあの時、死が二人を別つまで、と誓ったけれど、死が二人を別とうと、きみの時間は永遠に此処に留まる。 私は、止まった時間の中で永遠にきみを愛することを誓うよ」

 そうして、彼女の時間は止まった。 今度こそ永遠に。
 私の時間も止まった。 私の前のきみが永遠に変わらない。 私は時間を止めることに成功した。 その証明が変わらないきみだ! 私は、間違っていなかった!

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 本、いや手記とでも呼ぶべきそれをテーブルへ置いて、青年は小さな微笑を零した。 温かい笑みだった。
 そうして青年はすっかり冷めてしまった紅茶を片付けて、女の柔らかい唇にそっと口付けをした。

「父さんの葬儀に行って来るよ。 遅くならない様にするから心配しないでね、母さん」

 青年が立ち去った後には、父親の手記と、手記に挟まっていた遠き日の母の写真と、写真に瓜二つの女が残された。
 冷たい無機物が内側を埋める、空虚な、永遠に時間を止められた母が。

Fin.

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変わることが過ぎ去る事なら、変わらないものに置き換えてしまえばいい。
きみを使って変わらないものを作ればいい。
僕が死んでも、きみの時間だけは止まったまま。

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