雑談掲示板

第十一回SS大会 お題「無」 結果発表
日時: 2014/02/27 20:57
名前: 死(元猫 ◆GaDW7qeIec
参照: http://www.kakiko.info/bbs/index.cgi?mode=view&no=16247

第十一回SS大会 お題「無」
>>523に第十一回大会結果紹介

始めましての方は、初めまして! お久し振りの方達はお久しぶり♪
何番煎じだよとか主が一番分っているので言わないで(汗
余りに批判が強ければ、削除依頼しますので!

題名の通りSSを掲載しあう感じです。
一大会毎にお題を主(猫)が決めますので皆様は御題にそったSSを投稿して下さい♪
基本的に文字数制限などはなしで小説の投稿の期間は、お題発表から大体一ヶ月とさせて貰います♪
そして、それからニ週間位投票期間を設けたいと思います。
なお、SSには夫々、題名を付けて下さい。題名は、他の人のと被らないように注意ください。
 

投票について変更させて貰います。
気に入った作品を三つ選んで題名でも作者名でも良いので書いて下さい♪
それだけでOKです^^

では、沢山の作品待ってます!
宜しくお願いします。

意味がわからないという方は、私にお聞き願います♪
尚、主も時々、投稿すると思います。
最後に、他者の評価に、波を立てたりしないように!



~今迄の質問に対する答え~

・文字数は特に決まっていません。 
三百文字とかの短い文章でも物語の体をなしていればOKです。 
また、二万とか三万位とかの長さの文章でもOKですよ^^
・評価のときは、自分の小説には原則投票しないで下さい。
・一大会で一人がエントリーできるのは一作品だけです。書き直しとか物語を完全に書き直すとかはOKですよ?

――――連絡欄――――

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第四回大会より投票の仕方を変えました。改めて宜しくお願いします。

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Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.503 )
日時: 2013/12/15 22:34
名前: 梓守 白◆0Nfe7TF90M (ID: jSb.oWvA)

こんばんは。
初めて投稿させていただきます。
SSの意味もろくに理解していないようなにわかですが、宜しくお願いします。

タイトル「なんにもないんだよ」

*****

「ねぇ、空ってどんな色?」
「えっ!?」

 唐突に声をかけられ、フェンスに寄りかかっていた少女、ツバサは勢い良く振り向いた。ツバサの背後には、中学生位と思しき少女が空を見上げて立っていた。平日の昼間だというのに、彼女の服装は黒いジーンズと紺色のTシャツ、赤系のチェック柄パーカー。このあたりには私服で通える中学校は存在しないし、あったとしても給食前のこんな時間に外を出歩いていい訳がない。
 やがて少女がツバサの方を向くと、2人の視線がぶつかって、ツバサは無意識に目を逸らした。

「中学生が昼間から、私服で何やってんだ。って顔だね」

 心を読まれたみたいで、ツバサは驚き再び少女を見た。少女は真っ直ぐにツバサを見つめている。

「とりあえず、こっちに来なよ。落ちちゃうよ?」

 ツバサと少女を隔てるフェンス。ツバサはその外側に立っており、少女と足下を交互に見ている。足下はコンクリート。それも、1歩踏み出せば遥か下の地面に落下しかねない。落ちれば助かるかはわからないが、ツバサはそんなこと分かりきった上でフェンスの外側に立っている。

「……そうだな」

 ツバサは少女と話してみたくなり、外側に出るときに通った隙間から内側へと戻った。隙間を通る際に飛び出した針金に右腕を引っ掻かれ、引っ掻いた所が白くなると共に痛みが現れる。
 少女の前に立つと、彼女の身長の低さを実感してしまった。頭1つ分は違うだろうか。目線はかなり下に向いている。

「そのセーラー服、東高の制服だよね。学校は?」
「サボり。あんたこそ学校は? 私服でこの時間に出歩いてるってことは、中学サボってるか北高かだろ」

 ツバサは素っ気なく答えて少女に問い返す。少女はなんとなく困ったような素振りを見せてから答えた。

「一応、先週で16歳。高校は通ってないの。通ってもどうせ、皆とは違うから」

 皆とは違うから、と言う言葉がツバサの中に響いた。見た目は少し低身長なだけで、普通の少女と変わらない。何か学校に馴染めない理由があるのか。

「なあ、お前の名前は? あたしはツバサ」
「そら」

 少女が――そらが答えたのを聞いて、ツバサは質問を投げかけた。

「そら、最初にあたしに言ったあれ、どういう意味なんだ?」

 空ってどんな色? という言葉についてだ。普通に青と答えれば良かったのか、それとも何か捻った答えをすれば良かったのか。どちらにせよ、ツバサはその質問に答えられなかった。

「そのままの意味」

 そらは言葉を続けた。まるで普段から同じことを繰り返し言っているかのような、滑らかな口調と淀みのない声で。

「私の“そら”って名前は、私が生まれた日の空の綺麗さが由来になったんだって。でも私は全色盲ってやつで、生まれた時から色がわからない。お母さんが“今日の空は、あなたが生まれた日と同じくらい綺麗よ”なんて言っても、それがどんな色の空なのかはわからない。だから私は尋ねるの。空ってどんな色? って」

 そらの透き通った声に誘われて、ツバサは何気なく、ポツリポツリと話始めた。それは、ずっと隠していた気持ち。親のこと、学校のこと、自分のこと。
 ツバサの両親は、ツバサに興味を持たなかった。何をしても相手にされず、居ないも同然に扱われてきた。それが育児放棄というやつだと気付いたのは、中学校に上がる少し前のこと。振り向いてもらいたくて、相手にしてほしくて、ツバサは部活にも入らずに必死で勉強をした。けれど両親は、ツバサを見てくれなかった。学校にも仲のいい友達がおらず、ずっと1人だった。そのうちに自分の存在価値を見いだせなくなったツバサは、死を考えるようになって、よく学校をサボっては高い建物を探し歩いた。
 でも、結局そこから飛ぶ勇気はなくて。

「あたしにはツバサなんて名前があるけどさ、翼はないんだよね、どこにも」

 いつの間にか太陽は先程よりも高いところから2人を照らしていた。主婦たちがチラホラと見える程度のすいた屋上駐車場。隅で膝を抱えた2人の少女は、同じ空を見上げた。

「あなたの翼はきっと、まだ見つかっていないだけ。死の先には、何もないよ」

 そらは小さな声で呟いた。

「死んだ後のことって考えたことある? 私は1度だけ、見たことがあるの」
「へえ、どんなもんなのさ」

 突然の話に驚きつつも、ツバサはなるべく落ち着いた声で返答した。そんなものは本で読んだくらいだ。生きている人間には知る余地もない。

「無いんだよ、なんにも。なんにもないんだよ」

 白でも黒でもない無色の、けれど死者には見えるその世界。そこには何も無いとそらは言う。元々色が見えないそらが見たものだから、というものではない。確かに、死の先は“無”なのだ。

「ねえ、ツバサ。ツバサには色が見えているんでしょ? だったら、その色に満ちた世界を捨てないで。私に見えない、綺麗な色の空を見て」

 そらはそう言って立ち上がった。数歩前に歩み出てからツバサの方を振り返り、もう1度、ほんの少し空を見上げる。そしてツバサの目を見たそらは、微かに笑った。
 最後に、呟くように、に乗せるように言葉を発した彼女は、自分に翼が無いと知りながら、フェンスの外側へと消えていった。

「死の先には、なんにもないんだよ」

 あなたはどうして、なにもない“無”の世界へと飛んだのですか――?

*****

駄作で申し訳ないです。
無というテーマから思い浮かぶものが少なく、無って何だろうと考えた結果がこれです。
最終的にそらが飛んだ理由も、自分で書いたくせにちゃんと理解できてません。
ただ何となく、書き始めたところから「この子は飛んでしまうんだろうな」なんて。
兎にも角にも、最後までお読みくださりありがとうございました。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.504 )
日時: 2013/12/05 18:47
名前: 狒牙◆nadZQ.XKhM (ID: 9UnBh2B.)

最後かー、これは参加しないとですね。
最初の方は結構頑張ってましたが途中から一個も書かないし投票もしてなくて、ちょっと申し訳ないです。





title:無意味って何ですか?




『んなもん全部無意味なんだよ!』

 テレビの中で、悪役がそのように吠えている。眉間に皺を寄せて、荒々しい声で、横柄な態度で。見ている者に不快感を与えるような、そんな雰囲気を纏っている。
 無意味、そういう言葉がふと耳の中に残った。

「意味が無い、か……」
「どうしたの、急に?」

 私が何の気なしに呟いてみると、お母さんが反応した。台所から、包丁でまな板を叩く音が聞こえてくる。テンポよく刻まれるこの音が、とても気持ち良い。

「いや、ちょっとね……」

 この世に意味の無いことなんてないし、必要ない人間なんていない。どの世界の“良い人”も、必ずそう言う。悪役は決まって、使えないものは必要ないと言う。
 いつもいつも、そうなっている。主人公が誰かを切り捨てようとはしないし、悪役が仲間を大事にしようとはしない。誰かを無駄だと切り捨てるのが、間違ったことだと皆が決めつけている。
 いや、多分それは悪いことで違いないのだと思う。私だって、それは言われたくないし、人に言っちゃいけないと判断している。
 言っちゃいけない、だから必要ない人がいるって言っちゃダメ。そう思うと、正義はいつも頼りない。根拠が無いから。
 悪役はいつも、筋道を立てる。力の無い者がいようといまいと、世界は変わらないって。

「私もきっと、そういう人の一人なんだろうな……」

 秀でているものなんて何一つない、普通の少女。取り得と言えるものはないし、いなくなったからと言って喜ばれるほど、嫌われてない。影響力の無い人材。
 こんな私が生きている意味ってあるんだろうか。

「何馬鹿なこと言ってるのよ。ご飯にするわよ」

 そう言われてテレビの電源を切って台所へと向かった。醜悪なヒールの姿は消えて、食器の擦れる音だけが響く。

「今日はあなたの好きなものばかりよ」

 確かに、今日の晩御飯は私の好物ばかりが机に並んでいた。嬉しいとは思っていたが、考え事をしていた私の反応は小さかったようで、それが気になったお母さんは怪訝そうな顔をした。

「どうしたの? 具合悪い?」
「そうじゃないんだけど……」

 そして私は、さっきからずっと感じていることをお母さんにうち明けた。無意味、っていうことについて。私もそういう人じゃないかって。
 するとお母さんは、ちょっと複雑な表情をした。にこやかに笑って説き伏せるか、叱るのかを逡巡しているようでもある。
 意を決して、お母さんは口を開いた。

「お母さんは、無意味なものなんて無いと思うよ」
「そうなの?」
「うん、そうよ」
「じゃあ、私にはどんな意味があるの?」

 待ってましたと言わんばかりに、お母さんはそこで微笑んだ。

「あなたは私を幸せにしてくれた」
「……それだけ?」
「そうよ。充分じゃない。お金を積んでも満足しない人もいる。それなのにあなたは、ここにいるだけで私を幸せにしてくれる」
「じゃあ、私は、価値があるの?」
「数字じゃ表わせないぐらいのね。そんなものよ、皆。どんな人だって、どんなものだって、たった一人の幸せのためにあるのよ。そして、誰かを幸せにするのは、とても尊い事で、これ以上なく素晴らしい事」

 無価値だなんて、誰が言うことができると思う?
 いたずらっぽく、お母さんは笑った。

「じゃあ、無意味って言葉はどうしてあるの?」
「うーん……」

 しばらくお母さんは考え込んだみたいだけれど、割とすぐに答えは出たみたいだ。私と目があったお母さんの目に、一切の曇りは無かった。

「意味がないものなんてないんだ、って教えるためにあるんじゃないかな?」
「じゃあ、無意味って言葉が無意味なんだ」
「そうじゃないって、今言ったでしょ。ちゃんと教えてくれることがあるじゃない」
「それもそうか」

 お母さんは優しく私を抱きしめたかと思うと、すぐに離した。夕食が冷めてしまうと思ったからだ。

「せっかくあなたの好きなものを作ったのよ。冷めないうちに頂きましょう」
「うん。じゃあ、頂きます!」

 これが、私がまだ小さかった時の、あなたのおばあちゃんとの会話よ。
 そう言うに、私は自分の娘に向かって回想を締めくくった。

「だから、あなたも私を幸せにしてくれた。それだけであなたは大切な人間なの」
「そうなんだ!」

 昔話が終わると、娘は私の膝から立ち上がった。何か吹っ切れたようにはしゃいでいる。スキップをして、鼻歌を歌って。
 近所迷惑になるから止めなさいと言うと、元気な声が返ってきた。

「今の話、私も自分の子供ができたら言うんだ、絶対に」

 それを聞いた私は、何だか誇らしさでいっぱいになった。
 やっぱり、お母さんの言ったことは間違ってなかった。この世に無意味なものなんてない。この小さな営みを、無意味だなんて言わせるものか。
 あの日のお母さんと同じように、今日の私は娘の好きなもので食卓を埋めた。




                       ―fin―



久々に短編書いたなー、とか思いつつ反省。
このテーマ難しいですね……。
ストーリー的なもの全然思いつかなかった。
そして自分が男だから女言葉ムズイ……。
ていうか喋り方気持ち悪くないかな。

最後に記念に参加できただけで満足です。
多分投票もさせていただきます。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.505 )
日時: 2013/12/07 15:21
名前: あまだれ◆7iyjK8Ih4Y (ID: rH1x3zjo)

[母の面影]


 ある冬の朝、目覚めるとベッドの脇に人影があった。

 あまりにびっくりしたもので、僕は声も出ず叩けば音が出るくらいに固まって動けなくなってしまった。
 僕は数年前から一人暮らしであった。故に、家に誰かがいるという状態は、異常事態なのだ。
 人影は、固まった僕のことを少し笑って、おはようと言った。言ったような気がした。
 影には、口はもちろん顔すらなかった。

「……お、おはよう」

 ぎこちなく挨拶を返す。
 彼女は女の子だと、ふと、ごく自然に理解できた。僕より少し、年上くらい。

 果たしてそれを人影と呼んでよいものか、僕は悩んだ。真っ黒な影がそこに確かに存在するのであれば簡単だったのだが。と、いうのも、僕の目には、いつもと変わらぬ僕の部屋以外のものは映っていなかった。
 彼女はどこにも居ないのである。けれどもそこには、不確かで曖昧で不安定な彼女は、居る。僕には分かる。大変な矛盾であるが、そうとしか言えないのだ。

 思い出したように、目覚まし時計が騒々しく鳴り出した。慌てて、止める。五時三十分。どうやら、アラームのなる少し前に目覚めたらしい。
 早起きだね。彼女は言った。

「まあ、朝ごはんとお弁当、作らないといけないから……」

 ふうん。彼女は関心した様子であった。
 僕が朝食を作ろうと階段を降りると彼女も、てとてとと足音を立ててついて来て、僕の料理の様子をまじまじと観察し、テーブルに並べられた簡単ではあるが見栄えの良い小皿と、カラフルな弁当を見て、また感嘆の声をこぼした。
 僕は少し得意になる。これまで、どんなに上達しようが料理の腕を自慢するような相手は居なかった。

 彼女は、その日一日僕について回った。
 気さくな彼女は授業中であっても話しかけてくるため、少し困りものだったけれど、僕が小声で彼女と会話をしていようとも誰も何も、言わなかった。
 僕には友達が居なかった。友達はおろか友達以下の、少し話す程度の人も、居なかった。
そうやって、誰とも目も合わせぬように生活をしてきた。
別に、コミュニケーション恐怖症なわけでも人間不信なわけでもなく、望んで、そうしてきた。強がりでも無い。
 だから、僕が見えない誰かと話しているのが聞こえようとも、誰も不思議には思わないのだ、と、そう思う。
 僕は彼女が見える訳ではなかった。それ以上に、僕ではない人たちは彼女を感じる事すらできなかった。彼女は僕ではない人にとっては、一切、何もない、からっぽであった。



 今日もいつもの如く、終業のチャイムがなると足早に図書室に向かい、鞄を乱暴において読書を始める。
 日が暮れる頃。これもまたいつもの如く司書の女性が部屋を出て行く時間だ。

「じゃあ……戸締り、よろしくね……?」

 はれものに触るかのような、慎重な、怯えた声。
 司書の女性が図書室を出て行こうとする時、僕は読みかけの本を机に叩きつけた。
 女性は悲しそうな顔をして、図書室を出て行った。
 僕の隣に座っていた彼女も、びくりと肩を跳ねさせ、驚いていたので僕は少し申し訳なく思い、謝る。

「いつもこうやって、威嚇をするんだ。僕に話しかけると怖いぞ、って。驚かせてごめんね」

 彼女は、そっか、うん、分かった、と言った。
 僕は本を持って読んでいたページを再び開き、栞をはさんで、また置いた。今度は静かに。

「いつもはここでずっと本を読んでいるんだけど……今日は、君がいるから」

 彼女が大きな瞳で僕を見つめるから、僕は目をそらして少し微笑んだ。

「折角だからちょっと、話をしようか」



 
 僕は非常に読書家だと、思う。
 家事と勉強以外には、読書のほかに趣味は無いから、あるだけの時間を読書に費やした。
 子供の頃に、僕と同じように読書が好きだった母は僕に、本を沢山買い与え、読み聞かせ、考察をし、面白さを熱弁した。僕が字を読めるようになると、母は喜んで更に本を与えた。感想を聞かせるたびに、また、喜んだ。「本を沢山読めばえらい人にも頭のいい人にも、優しい人にもなれるのよ」、っていうのが、口癖。
 僕は母が好きだった。言う通り、沢山読んだ。

 僕はそれを今もなお重んじている。人の命は有限だ。死ぬまでにどれだけの量が読めるか。内容を理解でき、尚且つなるべく速く読めるように、訓練を積んでいる次第だ。
 僕は、本の内容にはあまり興味は無い。

 僕の日課は、放課後に図書室で学校にいられる限界まで本を読むことなんだ。
 でも、図書室には当然人がいる。委員会の人、司書の人、利用者。本を借りたり読んだりするには当然、事務的な会話は必要だね。
 それでも僕がとっても我慢をして図書室を利用しているのは、図書室には、大量の本があるから。
 お金はあった。両親が遺した、大金。だけど、それを切り崩して本を買えるほど多くもなかった。

 両親は焼死体になったんだよ。
 山奥で、車で、事故が起きて、ガードレールから外れ、谷底に落ち、火を噴いた車の中で、あっけなく死んだ。
 でも、僕はもうそんなこといいんだ。親戚もみんなそれぞれいろんな理由で、ぽろぽろ死んでいるから、お葬式も少人数で印象薄かったし。それになんだか、全然悲しくないんだ。
 保険金をたくさん、自分たちにかけていたみたいで。だから、お金には困らないし。



 彼女はこくんこくんと頷き、所々に相槌を入れながら、僕の話を聞いてくれた。面白い話でもないのに熱心に聞いてくれている事も驚きだったが、見ず知らずの彼女に身の上話をする気が起きたことのほうが僕は驚きである。
 原因は彼女の暖かさであろう。彼女の息遣いや声の、体温は、遠く深く、捨てた母の思い出を掘り返させる。



「ねえてっちゃん」
「読み終わったのね。どうだった?」
「てっちゃんはいっぱいご本を読んで、偉くなるのよ」
「そうなったら母さん、とっても嬉しいな」

 母の横顔。抱かれた手のぬくもり。愛おしさ。そして。



「…………あ」

 彼女につんつんと僕の肩をたたかれて、記憶の波に呑まれていた僕はふと現実にかえった。彼女は心配げに、大丈夫?、と、首をかしげる。

「ごめん……なんでかな」

 唇が震えて、声が震えて、ぼんやりとした感覚があとを引いた。

 マフラーで顔を、涙の跡を隠し、街灯がぽつりぽつりとともる薄暗い道を彼女と歩いた。
 その日は、誰もいない家に帰り、重い体を引きずってシャワーを浴び、泥のように眠った。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.506 )
日時: 2013/12/08 10:38
名前: あまだれ◆7iyjK8Ih4Y (ID: rH1x3zjo)



 目を覚ました僕は、かすむ視界でかろうじて八時を示す時計を捉えた。
 さっと顔から血の気がひく。まずい。
 跳ね起きて、急いで準備をしようとすると、

「ね、ねえ!」

 と声がした。更に驚いて、声のする方へ顔を向けるとそこには、セーラー服を召した二つ結びの女の子があった。

「今日は土曜日……だよ」

 申し訳なさそうに微笑む彼女を見て、僕は気づいた。これは昨日の、見えない、あの、彼女である。
 彼女は制服のスカートを叩いて、今度はにっこりと笑った。つられて僕も、笑いがこみ上げてこらえきれずに少し溢れる。

「……ご飯にしようか」
「うん」

 とはいったものの、彼女は物を食べることができないらしかった。
 僕が朝食を食べるのを見ながら、彼女は僕に言った。

「この世界のものに触れることはできない。干渉してはいけない。それが、ルールなんだ、けど……」

 彼女は少し悲しそうな顔をして、それから、

「だけど、私は君に会いに来たんだよ」

 にいっと笑った。

 酷い目眩に襲われ。目の前の景色が思考といっしょにぐるぐると混ざって。色が、暗く汚くなっていく感覚があって。
僕の目には黒以外何も映さなくなった。
 頭の中に彼女の声が響く。

「ねえ、てっちゃん」

 目には何も映らないけれど、僕は、宙に浮いていた。ではない、冷たい空気が満ちた、暗い、さみしい世界だと、僕は思った。

「てっちゃん……」

 彼女はもう一度、僕を呼んだ。会話を嫌う僕を、てっちゃん、などと馴れ馴れしく呼ぶ人など僕は、一人しか知らない。

「大きくなったね?」

 母親だ。
 どうして気がつかなかったのだろう。思い返せば顔立ちも笑い方も喋り方も、母親にそっくりではないか。


「おかげ様で」

 僕の喉から、震えた、弱々しい声が溢れた。
しゃべることは出来るらしかった。母はふふふと笑った。

「てっちゃん、覚えてる? 小学校で、ゼロを習ったときのこと」
「…………」
「『ゼロは他の数字と、ひとつだけ種類が違うんだよ。十分の一だって百分の一だって、ゼロでない限り絶対に、ちょっとだけでも、ある、んだよ。でもゼロは本当に、本当に何も無いんだよ』、って言ってたね」
「……覚えてない」
「そう、残念だわ。その後、てっちゃんがなんて言ったかも忘れちゃったのかな?」

 僕は首を横に振る。

「『死んじゃったらさ、死んじゃったあとってさ、ゼロみたいなのかな』って言ったのよ。その時母さんはてっちゃんに、さあ、それは誰にも分からないわ、って返したけど」

 僕の視界にすっと現れた、僕と同じように中に浮く母親の顔を見たとたん。
 僕は全身が凍りついた。
 冷たい汗が吹き出す。彼女は耳まで裂けた口元を釣り上げて、目を、大きく開いてこちらを見ていた。

「今ならわかる。私にはわかる。死後の世界は本当に何もなかった。冷たい場所だった。だけど私だけはゼロじゃない!だって私にはあるもの……」

彼女は口を大きく大きく開いて、黒い空に高らかに叫んだ。

「貴方への憎しみが!」



 僕が小学校五年生の夏、僕は父と母と、山の避暑地に旅行へ来ていた。
 一年ぶりの家族旅行ではあったが、僕には億劫で面倒で居心地が悪くて、仕方がなかった。 多少裕福だった僕の家では、裕福さに甘えて物とお金でつながった見せかけの絆を育んでいたから。旅行だって、形だけの家族ごっこにすぎない。
父と母はせめて形だけでも良い家族になろうとしていたのかもしれないが、僕には形だけの家族を作ることをゲームのように愉しんでいるように思えた。本当のところはわからないし理解する気も無かった。
 僕にとってはただの、家庭などには関与しない金ばかりの適当な男と、理想を息子に押し付けて遊ぶ女というだけである。

 その日、僕はひどく気分が悪かった。
 灼熱のビル街から山中の涼しい所へ来たのだ。邪でもひいていたのかもしれない。もしくは、移動中にずっと本を読んでいて、車に酔ったのかもしれない。
 次の日は森林浴をしよう、という父の提案で、山の中を車で一通り走ることになっていたが、僕は体調が悪いから旅館にいるよ、と言った。体調が悪いのも理由の一つではあったけれど、嫌気がさしていたというのが一番の理由だった。森林浴なのに、疲れると言って歩かないあたりがどうにも、偽物っぽいのだ。
 夜、僕は眠れなかった。
 ため息を吐き、寝ている両親を起こさぬよう、こっそりと服を着替えて外に出る。

 夏の夜は冷たく、重ねた服を抜けて行った。上着を着てきて良かった、と思った。
 部屋から出てくるときに持ってきた文庫本を片手に、ふらふらと旅館の前に停まっている車の間を歩く。それほど夜は更けておらず、電灯はまだぎらぎらと光っていたから、本が読めると思って、僕は自分の家の車のとなりに座り込んだ。
 ミステリー小説であった。車にばれないように細工をするというトリックで、人を殺す話。車の専門家に微に入り際にいり取材をした、そのリアルさが話題の本だ。
 僕は家から持ってきた工具をポケットから取り出して、本を読み返しながら車を降りるときに仕掛けておいた、鍵がかからないというトリックで車の扉を開けた。

 僕は、ミステリー小説のトリックを再現することが不可能に近いことを知っていた。
 だから、運がよければ、という気持ちで車に細工をした。
運良く、ブレーキが山の中で故障し、両親が谷底に落ちやしないか、と。

 その日の夕方、両親の代わりに旅館に帰ってきたのは、警察であった。彼は泣き出しそうな顔で言った。

「いいか、落ち着いて聞くんだ。君のお父さんとお母さんは……事故で、亡くなった」

 落ち着いて聞いていられるわけは無かった。僕は震え、倒れ込んで、笑いながら泣いた。



 母は全て知っていたというのか。いや、そんなはずはない。ないのに。
 くるくると思考を空回りさせる間に、どこからともなく火が出て、彼女の服が燃えて肉が焦げる香りがして、みるみる母は変わり果て、やがて黒くくすんだ焼死体となった。
 原型を留めていない腕を彼女が上へ突き上げる。

 何かが僕の体を貫通した。

 死は、眠りのようであった。
 何も持たぬ、ゼロの僕にとっては。


---------------------------------------

お久しぶりです!
最近の大会に参加できなくて……すみません。
最後ですって、これは参加しなくちゃ、と思って、頑張って書きました。
テーマ難くて……! あんまり関係なくなっちゃったかな、と苦い気持ちです。
それと、トリックの、細工のところなど違和感には目をつぶって頂きたいです……。
文字数オーバーだと言われたので二回に分けました。
オーバーになるまで書いたの初めてで、ちょっと感激です……!

投票にも参加しようと思っています。
書けて、投稿することができて良かったです♪


すみません言い忘れました!
最初の方は玖龍という名前で書いてました。今はあまだれと申します。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.507 )
日時: 2013/12/10 23:18
名前: 果世◆MhCJJ7GVT. (ID: xFk9UwZ.)

【なんにもないひと】



「──────騙された?」

「お金、全部盗られちゃいました。馬鹿ですよね、俺」

 彼はそう自嘲気味に言った。



   *



 話を聞いていくと、彼が通帳の残高がゼロになっていることに気付いて、そのとき半同棲状態だった恋人に電話を掛けたがつながらず、それ以来音信不通になってしまった。そこで彼は、初めて自分が彼女にお金を盗られたことを確信したようだ。

 彼は私のバイト仲間である。バイト先は、雑居店の二階にあるさびれかけのレンタルビデオショップ。働き始めたのは彼のほうが後だし年齢も私より二歳下だから、仲間というより後輩といったほうが正しいかもしれない。
 普通の男の子だった。勤務態度はそれなりに真面目で、礼儀正しくて、良識があって、閉店後に卑猥なDVDをこっそり借りたりしていて、飲み会で先輩に無茶振りをされても嫌がらずにやってくれて──。
 そして、帰る方向が同じであるため、私と彼はバイトが終わった後に途中まで一緒に帰ることも珍しくなかった。



   *



「今、その女がどこにいるか分からないの?」
 普段ならどんなに嫌いな女の人に対しても「その女」なんて言い方はしないのに、つい口を突いて出てしまう。
「あー、何か彼女が働いてるって言ってた会社に電話して訊いたら、そんな人はおりませんって言われて…………彼女、俺に嘘吐いてたみたいです。もう名前すら本名だったのかどうか怪しいですよ」

 十二月の冷たいが顔に吹きつけられる。
 私の横を歩く彼の言葉が途切れて気まずい雰囲気になった、ような気がした。何とか会話を続けなければ、と私は腐心する。

「ご両親には、あの、このこと話したの?」
「俺に家族はいません」
「…………じゃ、じゃあご親戚とか、」
「そんな人はいません」

 まるで普段の世間話をしているかのような声の調子。さっきから淡々と彼の口から発せられる言葉のひとつひとつが、私にとっては遠くかけ離れた世界の出来事であるようだった。

「──彼女、すげー良い子だったんですよ。可愛いし、料理もうまいし、気が利くし、」
 彼の声がだんだん小さくなっていく。私は、彼を直視できなくなった。

「騙されてたなんて、信じたくない」

 そして彼は独り言のように、呟いた。
 胸の奥が焼き焦がされるような気分────────どうして彼が騙された? どうせ騙すなら、もっとお金を持っていそうな人にすればよかったのに。もっと、今まで何不自由なく幸福でいた人にすればよかったのに。

「あ、何かすいません菊池さん。こんな暗い話」
「いや、そんなことない、よ」

 これ以上、何と声を掛けるべきなのか分からなかった。もしここで無神経な言葉をかけてしまったら、今もろくなっている彼の心を傷つけてしまいそうだから。
 彼のほうも何か話をしてくることはなかった。私はコートの重さだけではない、重い身体を引きずって、ただただ歩く。

 少しすると、やっと自転車屋のある交差点までやって来た。駅から比較的近くであるせいか、多くの人が信号待ちをしている。バイト先からここまでは十分もかからないはずなのに、今日はとてもとてもとても長く感じた。

「じゃ俺、家こっちなんで」
「うん」
 そう言って、彼は私に背を向ける。

「────菊池さん、」
 私には、彼が震えているのがはっきりと分かった。
「何?」

「俺絶対負けませんから」
「…………うん」
「絶対に、なんもないとこから這い上がってみせますから」
「うん」

「だから、ちゃんと見てて下さい」

 信号が青に変わった。そうして彼は顔を上げて、雑踏の中に入り込んでいく。私は決して小さくはないその後ろ姿を、いつまでも眺めていた。




(end)





-------

前回の投稿から随分経ってしまいました;
投票とか全然出来てなくてすみませんorz
今回はぱっと題材が浮かんだので投稿させていただきました(・ω・)
……まだまだですね! お目汚しすみません←
絶望の中に小さな光が見える、みたいな話を書きたかったようです((

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.509 )
日時: 2013/12/19 23:41
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: kodaC5OE)

 お、おお?
 久々に来てみたら、なんと最後!?
 では私も久しぶりに小説を書き残していきますねー。


 【空っぽだった、】 Part1


 「ちょ、ちょっとちょっと光輝君? この日記は何?」
 「何、って……提出物ですが……」
 「白紙じゃないの! はい再提出!!」

 ばしっと、女性教師に薄っぺらい冊子を返された。
 僕はキッ、と一瞬だけ先生をにらんだ。

 「良い? 課題は‘‘夏休みの思い出‘‘よ? ちゃんと思い出して書くの!」
 「思い出して、って……」
 「色々あるでしょう? 誰かとどっかに遊びに行った、とか……」
 「……」
 「……とにかく、出さないと成績にバツつけるからね!」

 なんて理不尽なんだろう……この人。
 本当に、書くこともないのに。

 「はあ……」
 
 とぼとぼと、夕暮れの中を歩く僕。
 1日のできごとを3ページくらいにまとめるという、簡単な課題なんだろうけど。
 僕にとって、それは重すぎだと思った。
 夏休みの思い出、だなんて、何て卑屈な課題なんだろう。
 
 「あ……あいつ……!」
 
 ぼそっと、何か声が聞こえてきた。
 何気なく振り返ると、どこかで見たことあるような顔がそこにはあった。

 「ほら! やっぱり弱虫光輝君じゃん!」
 「本当だ! やーいやーいそんなとこで何してんだよゆーとーせー!」
 「どうせあいつのことだから、日記の課題に手こずってんだろ!」
 「友達、いねーもんなー!」
 「「やーいやーい!」」

 遠くの方で僕にそんな言葉を投げつけてくる彼らは、確かクラスメイトだったはず。
 ここは無視をするのが妥当なんだろうけど、僕は敢えて口を開いた。
 
 「前にも言ったけど、頭の悪そーなやつ嫌いなんだ」

 はっきりと、思ったことを言い放ってやった。
 そうして日記を持って、すたすたとただ帰り道を急いだ。

 「な、何だよあいつ……!」
 「前って……始業式の……」
 「……あーあ! ゆーとーせーってつまんねーよな!!」
 「お勉強のことしか、考えられねーんだもんな!」

 勝手に言っていればいい。
 僕には全然関係ない。



 「……ただいま」

 がらりと、家の戸を開けた。
 台所に立っているのは、お婆ちゃんだった。
 ……この光景も、段々と馴染みつつある。

 「……あら光輝君。早かったねぇ?」
 「うん……今日から授業が短縮なんだ」
 「ふうん……あ、ほれ、夕食の手伝いをしておくれ」
 「うん」

 ばさっと白紙の日記をテーブルの上に置いた。
 未だに何を書けば良いのか、分からないけど。
 慣れない手つきで僕は夕食の手伝いをした。

 「いただきます」
 「うんうん……たーんと、お食べ光輝君」
 「うん、お婆ちゃん」
 「……んん?」

 お婆ちゃんはくっと体を屈めて、いつの間にか滑り落ちていた僕の日記を手に取った。
 ぱらりと、捲る。

 「あらま……光輝君、何にも書いてないのかい?」
 「うん」
 「……もしかして、あの時のこと……」

 僕は、咥えていた箸を、机の上にそっと置いた。
 お婆ちゃんの顔を何となく見れなくて、ずっと俯いていた。

 「何を……書けるの……?」
 「……光輝君……」
 「夏休みの思い出なんて、僕にはないよ」

 僕は立ち上がった。
 そうだ。そうだよ。

 僕に、思い出なんてあるわけないんだ。




 「ちょっと光輝君!! また白紙!? いいかげん怒るよ先生!」
 「……何でですか」
 「もうーっ! 何でもいいのよ? 本当に。白紙はダメよ、白紙は」
 「無理ですよ、先生」
 「どうして? 何か悩んでるの?」
 
 帰りのチャイムが鳴り響く。
 紅くなった教室の中には、僕と先生の2人きりだった。

 
 「僕に、夏休み最後の日以前の記憶がないからです」


 またしても、はっきりこう言った。







 僕は夏休み最後の日に、両親との旅行から帰ってきたらしい。 
 然しその帰りの道路で交通事故に遭って、両親は即死。
 僕は頭を強打して記憶喪失。
 起きた時自分が誰かも分からない、死んだような恐怖に見舞われた。
 今は唯一の肉親であるお婆ちゃんが、僕の世話をしてくれている。
 大分慣れてはきたけど、僕の記憶の関係上彼女とは他人も同然。
 つまり、僕には思い出も他人への信用もない。
 もちろん、記憶を失う前も友達がいたかどうか知らない。
 もしかしたら、いなかったかもしれない。

 「え……だ、だって先生は、ただ病院に運ばれた、って……」
 「そうですよね。だって言ってないですから」
 「どうして!?」 
 「……あんまり、意味ないかなって」
 「んもう! それを知ってたら先生だって……!」
 「ということなので、その日記は白紙で良いですよね」
 「え……ま、まあそういう理由なら……」
 「では、失礼します」

 良かった。
 これで意地でも書けと言われていたら、どうしようもなかった。
 これで、良かったんだ。

 「良かった、んだよ……ね……」

 だって僕は自分が本当は誰かなのかを知らない。
 夏休みの間、何をしていたのかを知らない。
 それなのに。この物足りない感じは何なのだろう。
 この、空っぽで、何か寂しいこれは何なのだろう。


 田んぼの横の、広い道を歩く。
 昨日と違って、片手に薄っぺらい日記帳はなくて。
 昨日と違って、何だか気持ちが重たくって。
 足を、止めた。
 
 
 「……」


 ぶわあっ、とが勢い良く僕に流れて込んでくる。
 そうして夏の暑さを引きずった暖かい温度が、体に染み付く。
 そんな時だった。

 「あ、おいおい弱虫光輝君じゃねーか!」
 「何だ何だ? 今日はあの真っ白な日記は持ってねーの?」
 「はあ? 親も友達もいねーんだろ? 思い出なんてあんのかよ!」
 
 盛大な笑い声が、直接刃となって身体に突き刺さるようだった。
 その言葉の一つ一つが、とても痛かったんだ。

 「……るさい」
 「……はあ? 小さい声で聞こえね……」 
 「うるさい!!!」
 「「「!?」」」
 
 僕の中からそんな声を聞くのは初めてだった。
 といっても、まだ1週間も経っていない、曖昧な意識に在る自分だけども。
 いつの間にか僕は、一番体の大きな男の胸ぐらを掴み上げていた。

 「お前らに何が分かるんだよ!! 何も知らないくせに!!!」
 「……!! 上等じゃねーかこの弱虫野郎!! てめーみたいなクズのことなんて知りたくもねえ!!」
 「やっちまえやっちまえ!!」
 「この……クズ野郎が!!」

 がっと繰り出した拳が、僕の頬に見事めり込んだ。
 尻もちをつく僕。今度は僕の方が胸ぐらを捕まれる。 
 
 「てめえみたいな弱虫なんてクラスに必要ねえんだよ!!」
 
 もう一度、今度こそ強い勢いで殴られる。
 首がくたっとしてしまった。青い空だけが狭い視界の先に見えた。
 僕はぐっと目を瞑って、思い切り頭を起こす。
 あいつの頭と、ぶつかる。
 
 「いでッ!? て、てめえ……!!」
 「う……うらあ!!」

 僕は、小さな手をただぐっと握りしめて、あいつを殴り飛ばす。
 何も、何も知らないくせに!

 「何すんだよこの野郎!!」
 「それはこっちのセリフだよ!! どうして皆、僕が悪いみたいに言うんだよ!!!」
 「はあ!? お前がネクラなのがいけねーんだろうがよ!! この引きこもり野郎!!」
 「うぐっ!? そ、そんなの……知らない、よ……」
 「!?」
 「僕だって……僕だって!!」


 僕だって——————好きで、こんなんになったんじゃない!!

 
 「僕だって……こんな、こんな空っぽな気持ちは……嫌なんだよォ……!」

 
 僕は、いつの間にか涙を零していた。
 今の僕が知る限り、‘‘初めて‘‘。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.510 )
日時: 2013/12/19 23:29
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: kodaC5OE)

 Part2

 
 その後どうやって家まで戻ったのか、もう覚えてはいなかった。
 ただ真っ赤に膨れた頬を見たお婆ちゃんの姿が今でも目に焼き付いている。
 大丈夫かいって、誰かにいじめられたのかいって。
 僕はそのどちらも否定した。
 それは、僕のせいでもあったから。

 
 「……はい、それでは皆、また明日!」
 「「「「「さようならぁーっ!」」」」」

 椅子を机の中にしまう忙しい音の中。
 僕は掃除当番でもない為そそくさと教室から出ていった。
 そっと頬に貼ってあるシップに触れる。
 やっぱり痛いな、と改めて思った。
 
 田んぼを通り過ぎていく。
 俯いたまま、地面に転がった小さい石なんかを眺めながら歩いていた。
 
 「……でさあ……」
 「だよなーっ! ……んで……」
 「あ、それが……」

 声が聞こえてぱっと顔を起こす。
 何だ……あのクラスメイト達か。
 彼らは堂々と道路の真ん中でケタケタ笑いながら歩いている。
 そういえば奴らも同じ通学路だった。
 自然にも頬の痛みが蒸し返される。

 歩くテンポを遅めようと、そう思った時。

 
 「————え」


 彼らの真横から、突然車が飛び出してきた。

 「危ない————!!!!」

 必死になって僕は叫んだ。
 昨日よりもっと、もっと強い声で精一杯叫んだ。
 関係ないのに。大嫌いなはずなのに。
 覚えていないのに、体だけは覚えてる。
 事故が起こる、あの瞬間の恐怖だけが頭を過った。

 「うわああああ!!!」

 激しく甲高い音で車が唸る。
 急ブレーキでぐんと曲がった車の目の前に、彼らがいた。
 いや、その前に、何故か僕がそこにいた。

 「はあ……はあ……っ」
 「お、おおおいお前!! な、何なんだよ、何が起こって……!」
 「おいやべえぞこいつ! 血! 血が、血が出て……!」
 「救急車だあ!! 救急車呼ぶぞ!!」
 
 痛さと眩暈と夏の日差しが僕をぐるぐるにして、そのまま意識を失った。
 
 でも僕はその時、運良くも全てを思い出したんだと思う。



 
 「ん……っ」

 
 微かに瞼を揺らして、そっと視界を開いた。
 ぼやけてはいるけれども、どうやら真っ白い部屋の中のようで。
 頭もなんだかぼーっとしている。
 包帯でぐるぐる巻きにされている腕や足を、見てみた。
 ああ、僕轢かれたんだっけ。
 なんだかそんな気はしなかった。
 
 直後、バタンという勢いのある音が僕の耳に突き刺さった。 
 僕も驚いて、その音が鳴った方へ向いた。
 そこには。

 「あ……!」
 「おい、大丈夫か!?」
 「うわ! す、すっげえ包帯……」
  
 僕を苛めていた、3人がいた。

 「え、えと……」
 「その、俺たち……」
 「ご、ごめん!」
 「!」

 な、何だ、一体……?
 もしかして、自分たちのせいで僕が怪我したから、謝りに来たのか?
 罪滅ぼしの、つもりなのかな。

 「……別に」
 「! お、お前!」
 「ちょ、ちょっと抑えろよ!」
 「喧嘩はやめよーぜ!?」
 「お前……! お、俺たちが、どんだけ……!」

 ぐっと、握りしめていた拳、今度は静かに僕の前に差し出した。
 僕が何気なく顔を上げると、そいつはぱっと顔を逸らした。
 そして、ん、ともう一度僕の顔の前で腕を上げる。

 「……やる」
 「……?」
 「やるってば!」

 ダン! と何かを押し付けて、一番大きな男子は病室から消えていった。
 残された2人は、僕に向かって苦しく笑う。

 「わ、悪いな……ホントに。それ、受け取ってやって?」
 「本当の本当に俺たち、心配してたんだぜ? その、今まで悪かったな……」
 「今度また一緒にサッカーとかやろうぜ! じゃあな!」

 2人はそれだけ言うと、あっという間に病室からいなくなった。
 ぽかんとした僕は、布団の上に乗っかっていたある物を見た。
 それは。

 「え……」

 小さな、飴玉だった。

 「何で、こんなもの……」

 包み紙がやたらと安っぽくて、思わずそれを優しく開いた。
 大きな飴玉が、ころんと姿を現す。
 ん?

 「包み紙に、何か……」

 かさっと、開いてみる。

 『悪かった。ごめん。————でも』


 「え……」


 『ごめん。俺はお前がキオクソーシツってやつだって、知ってたんだ』


 
 思い出した。

 僕は、彼らの友達だったんだ。

 でも、ちがう。
 
 僕は、記憶喪失になって次の日。

 始業式の日に言ったんだ。

 『頭の悪い奴嫌いだ』って。

 嫌いだって、言ったんだ。

 友達だったのに、言ったんだ。

 
 「はは……バカなのは……僕の方じゃないか……」


 今更、思い出したんだ。

Re: 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.511 )
日時: 2013/12/19 23:32
名前: 瑚雲◆6leuycUnLw (ID: kodaC5OE)

 Part3


 「……んん? 何かしら……え……————日記……?」


 『9月1日 天気 晴れ

  ちょっと前の僕には、記憶がなかった。
  仕方がないので、今の気持ちとかを書き留めたいと思う。
  ずるいって? だって先生が言ったんだ。何でも良い、って。

 
  夏休み最終日。僕の両親は死んだ。
  その時、僕の記憶も一緒にどっかへいってしまったらしい。
  僕は記憶を失ったまま、学校に通うことに決めた。


  記憶のない僕は、始業式のときに困った。
  誰が友達だったとか、そんなこと当然覚えてなくて。


  だから言ってしまったんだ。
  僕にちょっかいを出す人たち全員に、『大嫌い』だって。
  今になって、後悔してる。


  僕に記憶はなかった。
  だから、誰がどう傷つこうが構わなかった。
  それが例え、ほんの少し前まで、友達だった人たちでも。


  仕方なかった。
  僕には、記憶がなかったんだ。
  こんなに泣いてしまうほど、後悔するなんて、思ってもみなかったんだ。

  
  記憶を思い出した今。
  口に出すのは、ちょっと難しい。
  だからここには書く。
  

  ごめん。ありがとう。


  お母さんも、お父さんも死んでしまって。
  悔しくて悲しくて、今はいっぱいいっぱいだけど。
  この日記を書き終える頃には笑っていたい。

  
  先生ごめんなさい。
  そして皆も。

  僕は皆が言っていた通り、弱虫だ。
  今だって、言えないことをツラツラとこんなところに書いてる。


  だから、ここにだったら何でも書くよ。
  だって、この日記の先は何が描かれるか分からない。
  真っ白な景色ばかり広がっているから。
  僕の思ったこと、全部書けるような、そんな気がするから。

  
  さて、そろそろ、3ページが終わりそうだ。
  書きたいことも、言いたいこともたくさんあるけど。
  今はやめとこう。
  今度、いつか、口で笑って言える日が来たら。
  その日に全て、ぶっちゃけよう。


  僕はきっと、今日という日を忘れない。
  何度、何も無いような、何も覚えていないような。
  また真っ白い世界に放り投げられても。


  忘れない。』



 「……もう……こういうことは、いつも先生に言って、って、何度も……」

 
 
 どうやら、提出期限には間に合ったようだ。 
 先生が一人で、嬉し泣きしていた。
 思わず、僕も泣いてしまいそうだった。


 
 帰り道。
 僕の足に、トンと何かが当たった。
 
 振り返ると、あの3人が————友達が。
 思い切り、手を振っていた。

 僕は足元転がったサッカーボールを拾って、駆け出した。


 もう、空っぽじゃない。

                                  END
 
 *久々にやったら事故りました。
  SSって難しい! うん!(泣)

  まあ、うん……あれですよ。
  人は一人じゃないよって、心を満たしてくれる何かが必ずあるよって。
  たったそれだけのことです。

  長い上に意味不明でした。
  まあ、最後の最後まで楽しんだ、ということで(笑)
  ではでは〜。

第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.512 )
日時: 2013/12/20 19:44
名前: たろす@◆kAcZqygfUg (ID: XyC/82bc)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=15231

【正しい世界の作り方】

 ある所にひとりの神様が居ました。
 神様は、ひとりだけ居ました。 ずっとずっと、ひとりだったのです。
 神様は退屈しました。

 そうだ、何か創ってみよう。

 神様は思い立つと、まず無色の世界を作りました。
 丸一日かけて、ゆっくり、丁寧に。
 神様は上機嫌で、明日は何をしようか考えました。 神様にとって、初めての悩み事です。
 でもすぐに答えは出ないのでその日は出来上がった無色の世界を抱いて眠ることにしました。

 翌朝、神様は色を作りました。 世界に、それを塗る為に。
 青は海、緑は森、白は砂、それから、夜の黒。
 世界は思ったよりも大きくて、神様の色塗りはまた丸一日掛かってしまいました。
 でも、神様は上機嫌です。 神様は考える事に夢中になりました。

 嗚呼、こんなに楽しいことが、あったのか。

 翌朝、神様は世界を眺めて感じました。

 嗚呼、寂しいな。

 そこで神様は音を作りました。
 の音、波の音、木々の揺れる音、大地の揺れる音、雷の走る音。 それはまるで世界の鼓動のようでした。
 これでもう、神様は寂しくありません。 音を聞くことが出来るからです。
 色のついた世界に音が満ちる様に祈りを込めて、神様はそれは沢山の音を作りました。 丸一日かけて、じっくりと。

 翌朝、神様は繰り返すばかりの世界に命を作りました。
 無数の個性が、世界を彩ります。 どれひとつ重ならない、無数の個々。
 ひとつひとつを、一日かけて。
 日が暮れる頃、命たちは疲れたのか、だらけ果ててしまいました。

 これはいけない。

 神様は明日作るべき物を察しました。

 生み出したのだから、僕が責任を持たなければ。

 神様はそう呟いて一日を終えました。

 翌朝、神様は時間を作りました。
 誰も命を無駄にしないように、命に終わりを作りました。
 そうして、終わってしまう命を謳歌出来るよう、命に言葉を与えました。
 無色だった世界はもう、すっかり騒がしい世界になっていました。
 でも、神様にとって、それはとても嬉しい事でした。
 満たされた心に喧騒を聞いて、神様はその日とても深く眠りに落ちました。

 翌朝、神様は少しだけ後悔しました。
 神様が終わりを与えてしまったせいで、随分と世界から命が消えて居たのです。
 少しだけ狼狽えて、神様は悩みます。

 彼等に何を与えれば、命を無駄にせず、命を紡ぐだろう?

 悩んでいる間にも命たちはどんどん消えていきましたが、日暮れの頃、神様は漸く答えを導き出しました。
 空が段々と藍色に傾く頃に、神様は月と太陽を浮かべました。
 命たちが、精一杯生きるようにと。

 翌日、流石に疲れてしまった神様は、一日お休みすることにしました。
 世界の紡ぐ噛み合わない旋律、命の綴る儚い喧騒、満たされた心。
 それらを抱えて、神様はとても幸福な疲労を感じました。
 長い長い一日。

 何もしないと、一日は長いんだなぁ。

 神様はそんなことを思いながら、疲れた体を横たえました。
 相変わらず喧騒の絶えない世界を隣に、疲れた瞼はすぐに落ちました。

 翌朝、神様は世界を眺めて驚きました。
 そうしてとても悲しい気持ちになりました。
 いつの間にか世界に神様の居場所はどこにも在りませんでした。
 長い長い一日の間に、命たちは神様を忘れ、武器を手にして、お互いに醜く争って居たのです。
 神様は必死に世界を元に戻そうとしましたが、命たちは手にした武器で神様を脅かしました。

 嗚呼、どうしてこんなことに。

 悲しみに暮れた神様は、大粒の涙を流しました。
 涙は世界に落ちて、色を奪い、命を押し流し、音を掻き消してしまいました。
 そうして、ただ無色の世界ばかりが残ったのを眺めて、神様は漸く知りました。

 ――翌朝、世界の在った場所には何も在りませんでした。
 神様も、無色の世界も、涙のあとも。

Fin.

--------

ども、ご無沙汰しております。
たろす@です。

えー、ユーザー主催最後の大会、と言うことで参加せねばと思い、執筆して参りました。
いやー、詰まらん話になりましたな←
お題を見た瞬間に題材とかストーリーとかは思い付いたのですが、何度書き直しても読んでいて詰まらない。
多分6回ぐらい書き直して今に至るのですが、結局あんまり面白くないですねw
オチはですね、神様は暇潰しに世界なんか作らずに、自分を消してしまう事が一番幸せだったんじゃないのかな。
それを最後に悟って、自分も含めて全てを『無』にしてしまいました。
的な話です。
ちなみに、神様が浮かべた月と太陽には「雄と雌」と言う意味があります。
蛇足ですねww
であであ、こんな駄文で失礼いたしました。
ひとつずつ読んで投票する時間が取れれば投票にも参りたいと思います。

Re 第十一回SS大会 お題「無」 投稿期間 1/1まで!  ( No.513 )
日時: 2013/12/24 19:53
名前: 逸。 (ID: HkZRwwu6)

【無の中の夢を】

「あーァ、何も無くなっちゃったよ。」

 僕は笑っていました。


ーーー

 真っ白い部屋。横には空間を仕切る青いカーテン。
病室です。僕は入院患者です。

 妻にずっと「食後のスナック菓子はやめて」と言われ続けたのにもかかわらず、自分の意志を通し続けた結果です。かるい心筋梗塞でした。中々家に帰ることは出来なさそうです。
 妻は僕が入院してから一度も病院に来ていません。高校生と中学生の子も来ません。別に来るなんて思っていませんが。


「お爺ちゃん、早く元気になってねえッ!」
「わかった、わかった。」

 カーテン越しに何か声が聞こえてきます。確かにお隣はお爺ちゃんでした。
それからは、ちょこちょこ娘さんらしき人の声も聞こえます。家族皆でお見舞いに来てくれたのでしょうか。
 

 何も無い僕には、羨ましくて仕方がありませんでした。


ーー


 翌日、まだ空は藍色でしたが、目が覚めました。毎日5時に起きていたからでしょう。入院しているときくらいもっと朝寝してもいいのにとか思いつつも、起きてしまいました。

 僕は考えていました。

(美晴さん、毎日おいしいご飯を作ってくれたのに、食後に菓子を食べて、済みませんでした。)
(美乃、高校はしっかりと通えているか。父さんに似て、飽きっぽいから心配だよ。)
(美咲、部活は頑張っているか。美咲は勉強もできるし、母さんに似たな。)

 そして、僕は日が昇ったころには寝ていました。いつのまにか寝ていたわけではありません、意図的に眠りました。
 それからはずっと寝ていました。ただただ、眠っていました。



 検査なんかも終わり、また夕方。1日が早いような短い様な、とても不思議な気持ちです。
 ガタリという、音がしました。誰かが来たのでしょう。また、お爺ちゃんの所でした。

「お爺ちゃん、お爺ちゃん、もうお月様が出ているよ。」

 僕のベッドの前を通って窓の方へ、お爺ちゃんのお孫さんは行きました。
その隣にはお爺ちゃん、そして多分お孫さんのお母さんがいるようです。
 
「ねえねえ、お月様って可哀想。」

 いきなり、彼女は言いました。僕は少し気になって彼女の声を聴いてみました。

「だってさあ、お友達がいないんだよお。空ってあんな広いのに。かわいそう。」

 子供には子供にしか感じない事、感じることが出来ないことがあるのでしょう。僕は興味深く思いました。
 確かに言われてみればそうですね。あんな異空間とも思われるような空に、一人ぼっち。特に星が出てない夜なんて……。あんな偉大な存在なのに、今の僕と同じだなんて。

「ううん、そんなことはないんだよ。」
「え?」

 お爺ちゃんはゆっくりと語りだしました。

「もっともーっと遠いんだけど、いっぱい友達はいるの。いま私たちが住んでいる“地球”もお友達の一人だよ。遠くでも、お友達だから寂しくないんだよ。」

 僕は少しカーテンをめくり見ていました。すべてを知っている様な、美しい眼をしていました。
 


ーー

 また、いつもの様に日が昇りました。
すると、お爺ちゃんがカーテンをめくり、こちらを覗いてきました。ちいさく、お早う御座います。と呟きました。

「昨日の話を聞いてただろう。」

 お爺ちゃんは優しく微笑みました。

「あ、は、はい。」
「君の嘆きを何度か聞いたよ。」
「え!?」

 そういえば、ぶつぶつ独り言を言うのは昔からの癖です。こんなところでも言っていたのか、恥ずかしい・

「あれは君へのメッセージでもあるんだよ。」

 僕は彼の瞳に飲み込まれていました。



「長生きしなさい。仲間は沢山いるよ。」
 
  そう、彼は微笑んだのでした。



【End】



うはあ、意味不明ですね。有難うございました。
 投票にも参りたいと思っております。

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