雑談掲示板

第十一回SS大会 お題「無」 結果発表
日時: 2014/02/27 20:57
名前: 死(元猫 ◆GaDW7qeIec
参照: http://www.kakiko.info/bbs/index.cgi?mode=view&no=16247

第十一回SS大会 お題「無」
>>523に第十一回大会結果紹介

始めましての方は、初めまして! お久し振りの方達はお久しぶり♪
何番煎じだよとか主が一番分っているので言わないで(汗
余りに批判が強ければ、削除依頼しますので!

題名の通りSSを掲載しあう感じです。
一大会毎にお題を主(猫)が決めますので皆様は御題にそったSSを投稿して下さい♪
基本的に文字数制限などはなしで小説の投稿の期間は、お題発表から大体一ヶ月とさせて貰います♪
そして、それからニ週間位投票期間を設けたいと思います。
なお、SSには夫々、題名を付けて下さい。題名は、他の人のと被らないように注意ください。
 

投票について変更させて貰います。
気に入った作品を三つ選んで題名でも作者名でも良いので書いて下さい♪
それだけでOKです^^

では、沢山の作品待ってます!
宜しくお願いします。

意味がわからないという方は、私にお聞き願います♪
尚、主も時々、投稿すると思います。
最後に、他者の評価に、波を立てたりしないように!



~今迄の質問に対する答え~

・文字数は特に決まっていません。 
三百文字とかの短い文章でも物語の体をなしていればOKです。 
また、二万とか三万位とかの長さの文章でもOKですよ^^
・評価のときは、自分の小説には原則投票しないで下さい。
・一大会で一人がエントリーできるのは一作品だけです。書き直しとか物語を完全に書き直すとかはOKですよ?

――――連絡欄――――

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_____報告
第四回大会より投票の仕方を変えました。改めて宜しくお願いします。

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Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/18(延長) ( No.272 )
日時: 2012/05/14 12:55
名前: ゆかむらさき◆zWnS97Jqwg
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=10497

2>

 それにしても“肉じゃが”か……。
 こりゃ、まるで“オカン”だな……。 ……おふくろにはさすがにときめかねぇや……
 優ちゃんだったらきっとカフェのメニューにありそうなグラタンとか、パエリアとか……そーゆー系を作ってくれるんだろうな……。
「はぁ……」
 ため息をこぼし、俺はテーブルの置いてある雑誌……今日仕事帰りにコンビニで買ってきた“週刊・プレイボーズ”を手に取り、パラパラとめくった。
(ああ、この女優、最近離婚したやつだったな……)
 週刊誌の中で妖艶な裸体を一部だけ手で隠し、とろけた顔でポーズをきめている“現”ポルノ女優。 昔は“月9ドラマ”の主演を演じていたこともあり、俺が中学生時代にのめり込んでいた“元・清純派”女優だ。 当時、録画した彼女のキスシーンを何度も巻き戻して興奮して観ていた時の事を思い出す。
(そうか、あの頃は20代だったもんな……)
 ヌードを見るならその頃の彼女で見たかった。 体はエステで金をかけている分綺麗なのだが、顔は……垂れてしまった目にほうれい線……年齢に逆らえず崩れてしまっている。
 俺はその女優の顔を手で隠し、優ちゃんに変えて想像してみた。


「ん? 何してんの、宙太」
「わっ!!」
 千代が俺に寄り添って座ってきやがった。
 せっかくもう少しで合成できるところだったのに、“千代の顔”で完成されてしまった。
「くそっ! ……ったく!」
 俺の隣でヌード女優を見ながら「ダイエットしようかな……」と呟く千代。
 ……悪いけど、もうその台詞は聞き飽きた。
「寝るわ。  メシできたら起こせ」
 俺はその場で横になり、ふて寝をした。
 ――――その時、俺の夢の中で優ちゃんが逢いに来てくれた。


 せめて夢の中だけでいい……  君を強く抱いてみたい――――


「あの…… 肉じゃが作りすぎちゃって……」
 ――――まさかの愛の訪問!! そうだ! ずっと夢見ていたんだ、この時を!!
 よだれを垂らしている俺の顔を見て「クスッ」と笑い、靴を脱いで上がってくる優ちゃん……。
 もう我慢できない!!
 彼女が肉じゃがの入った鍋をテーブルに置いた瞬間――――俺は彼女を押し倒した。


「いやっ! やめてッ!  やめてよ宙太ッ!!」
 ――――せっかくの“いいところ”で目が覚めてしまった。
 気が付くと、俺の胸の中でもがいている“相撲取り・千代”がいた。
「もう……いきなりヤダっ。  “久しぶり”だから嬉しいんだけど……今日わたし“アレ”だからできないんだ……ごめんね」


「チッ! なんだ、やっぱりこーゆーオチかよ、クソッ!」
 俺の言葉に千代はどうも勘違いをしたらしい。 “らしい”ではなくて確実に勘違いをしている。 肉厚の彼女の腕が俺の腕を締めた。
 おそるおそる彼女の顔をうかがうと――――何も言わず、上目づかいで唇を尖がらせてキスを要求してきた。
 味見をしたのだろう。 肉じゃが味の荒い吐息が俺の顔にプーンとかかる。
 ブクブクブク……
 ちょうどいいタイミングで台所にかけてある鍋がふいた。
 彼女が火を止めに行ったスキに、俺は逃げるようにベランダへ逃げた。


(ふぅ……  どうやって別れたらいいんだ……)


 ベランダの手すりに置いた腕にベッタリと顔を付け、ため息をついた。
(優ちゃん……  こんなにそばにいるのに……)
 隣のベランダに淡いパステルカラーのフリフリレースのランジェリーが俺をさらに誘惑してくる……


「あ、もしもし? おふくろか?  ああ、オレ、オレ。 “マサル”。
 この前は野菜あんがとな! たすかったぜ。 ……でも正直カップめんのほーが嬉しかったな。 最近大工の仕事、超ハードでな。 ……っつー事で、こんどはカップめん頼むわ。 じゃっ」


 “ま……マサ ル?”
 優…… “ゆう”じゃなくって……“まさる”……
 一瞬、聞き間違えたかと思ったけれど、彼女は確かにそう言っていた。 確かに隣の部屋から聞こえてきた……ドスのきいた男らしい低い声……。
 彼女は…… “彼女”ではなくて――――“彼”だった。


 アタックしなくて良かった……
 翌日俺は毎晩欠かさず抱きしめていた“まさる”にもらった“アタック”の洗剤を早速使い始めた。


 《おわり》

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/18(延長) ( No.273 )
日時: 2012/05/15 16:26
名前: 月牙◆nadZQ.XKhM


 何をするのも辛くなって、何をするにも無気力な空っぽの日々が始まって、そろそろ一週間が経つ。
 父さんが死んだ、それは変わりようのない事実であり、否定もできない。
 良い人だった、素晴らしい人物だった、参列者は次々とそう言っていた。
 そんな事は実の息子である自分が最もよく分かっているというのに。
 ちゃんと割り切って現実と向き合いなさいって言われても……無理だ。
 最愛の父親を失った気持ちは、母さん以外には誰も分かっちゃいない、そう思った。
 普通に祖父母は全員先に死んでいるのだし、父さんに兄弟はいない。
 現実に帰る、その必要があることは、確かに理解しているのだが、高校受験に乗り気になるつもりはない。
 良い高校に入ったら父さんが生き返るのか? そんな訳ない。



 だったらもう、ほっといて欲しい。
 この世から一人や二人無気力になっても、世界は大した打撃とは思わないだろうし。


title:Dream that show the dream



 部屋に転がっているのは、泥のついた野球ボールとか、積み上げられた教材とか、そんなのばかり。
 平凡な、野球部の学生の暮らす一室にしか自分には見えないのだが、余所から見たらそうじゃない。
 他人が見たら、部屋のど真ん中に哀しみに打ち拉がれる少年がいるのだから。

 下の……一回の方から友達の声が聞こえてきた。
 毎日毎日、この時間帯になると僕と話すためにやって来ている。
 頼んでもいないのにだ、なんとも素晴らしい友達を持ったことだろうか。
 しかし僕は皆とは会おうとは一度もしなかった。
 皆はきっと、僕を見てすぐに慰めようとするだろうが、それが耐えられないと分かっている。

「お願いだから……寝かせて欲しい……」

 僕は布団を、力一杯握りしめて、抱きしめた。





 気付いた時には周りの景色は一面銀色だった。
 すぐそこで空間が終わっているような閉塞感と、終わりの見えない広大さに対する恐怖という矛盾した感情にかられた。

 ここはどこなのだろうかと考えていると、途端に銀の世界はカーテンや靄が払われるように激変し始めた。
 今度は、地面は一面の緑の芝生、天は雲一つ無い青空へと変貌した。
 どうやら、どこかの広場に迷い込んだのだろうとすぐに理解し、それなのに立ちすくんだ。
 何で自分がここにいるのかがまだ分からないからというのもあるが、なぜか自分の体が五歳前後までに縮んでいた方が、よっぽど驚きだった。
 ここで自分は何をしているのかという、ささやかな一筋の疑問がふと頭に浮かんだ。
 見渡す限りの気持ちの良い草原に、一人で何もせずに突っ立っている、なんてことはあるまい。
 ふと、気付いた時に僕は、重心を左側に持っていかれ、左肩から地面に叩きつけられた。

 転けてしまったことに苛立ち、一体何事なのかと左手を見るとそんなイライラはいっぺんに吹き飛んだ。
 握り締めるようにして、その手に持っていたのは、新品でピカピカの上等なグローブ。
 つい、条件反射で、今までの不可思議な感覚はどこへやら、諸手放しで喜んでいた。

 高揚感がこみあげてきた僕は、喜びを認識するよりも先に、立ち上がっていた。
 目の前には、まだ僕が小さかった時の、若かりし時の父さんが居る。
 革のグローブの中には何やら球体状の感覚、状況から察するにもちろんボールだろう。

 空いている右手で、はしゃぎながらゴムボールを掴み取った僕は、目の前の父さんに向かって投げてみたいという意思をあっさりと受け入れている。
 ちょっとヨタヨタとした感じで、小さな手に精一杯の力を入れて握り締めた。
 軽い弾力が帰ってくるのを確かめて、よろめくような投球フォームで放たれたボールは放物線を描いている。
 茶化すように父さんは、高い高いと言って笑っている。
 その目はとても嬉しそうで、嘘偽りの無い満面の笑みが顔中を満たしていた。

 そろそろ慣れっこになってきたが、またしても不思議な現象は起きた。
 何度かキャッチボールを繰り返すうちに、段々と身長が伸びてきたのだ。
 それに伴い、今までずっと息を潜めていた怒りが、沸々と沸き上がってきた。
 一度投げる度に一つ、歳をとるようにして、僕は本来の身長に戻っていった。
 次第に、父さんの顔には薄い皺が次々と現われてきたのだが、その顔がもはや死ぬ日と全く違わぬ顔だったため、怒りは最高潮にまで押し寄せて爆発しそうだった。
 泣きながら憤怒の形相を浮かべる俺が相当奇怪だったのか、不安になったのか、ようやくあっちの笑みは消えた。

「どうしたんだ? いきなり泣き出して」
「……あんたのせいだろ」

 最初、声が小さくて父さんには聞こえなかったらしいが、二回目を告げると共に、ちょっと顔をしかめるようにした。

「俺のせい? どうしてだ?」
「死んだから! ……あんたが、死んだからだ……!」
「何だ、そんなことか」

 そんなこと、とか軽く見ている割にはかなり哀しそうな顔だった。
 今、自分の父親が何を感じているかは、どうでも良いことだった。

「でも、そのせいでお前が塞ぎ込むのを、俺は望んでないぞ」
「何なの? 父さんの死を喜べって言うの? 無理に決まってんじゃん。これ以上適当なこと言うなら……」
「俺はお前には、普通に生きて欲しい」

 いつになく真剣な表情を、真正面から受け止めた僕は、何も言い返せなかった。
 冬に積もった雪が溶けて雪解け水に変わるように、サラサラと怒りは消滅していった。
 その動きに合わせるようにして、父さんの姿も、足の方から靄がかかるように消えていっている。

 もう今しかないと思った僕は、静かに、じっと掌の中でうずくまっているゴム球を向こうに向かって投げた。
 もうすぐ、消え入ってしまいそうなのに、残った左手でボールを受け止めた彼は今度こそ消えて、見渡す限り真っ青な草原から、僕の意識はフェードアウトしていくのが、感じられる。


Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/18(延長) ( No.274 )
日時: 2012/05/15 16:28
名前: 月牙◆nadZQ.XKhM



 目が覚めると、さっきとは何も変わってはいなかった。
 布団は重苦しく自分に巻き付いてきてるし、目覚まし時計の針は四時十五分を指していた。
 今のは夢だったとは分かっているのだが、本当に夢かも断言できない、そんな気がする。
 だって、あそこで会ったのは、紛れもなく本物の父さんだったのだから。

 ガンガンと、耳に響く騒々しい音が部屋の中で大きく反響した。
 いつもなら、鬱陶しくて仕方なくて早く去れと、心の中で悪態を吐いているだろう。
 だけど、今日はそんな気にはならなかった。

「五月蝿いな、今開けるから待ってろよ」

 ようやく重い腰を持ち上げて、ドアの前に立った。
 部屋の隅では、泥の後の付いた薄く汚れた野球ボールが、ゆっくりと転がっていた。


                 fin


文字数が中途半端で二回に分けてしまいました。
まあ、それほど自信が無いのが出来上がったのですが一応……

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.275 )
日時: 2012/05/17 22:50
名前: たろす@◆kAcZqygfUg
参照: I screaming alive.....



えー、どうも、こちらでは初めまして。
スーツを着ても堅気に見えない、たろ兄ことたろす@です。

以前より申しておりましたSS大会への参加、お待たせをいたしました(^u^)

どうにもお題に沿って中々いい案が出てこなかったので自分の書いている小説の外伝的短編、と言う事を先にお断りさせて頂きます。

では、以下本編です。

------------------

[it's alive!!]


雨がやみ、蝉が鳴いていた。
どことなく人を苛立たせる甲高い騒音が鳴り響く。
廃墟と化した民家の壁、もう半分も残っていない崩れた電柱、いつの間にか大きく成長しているそこに在るべきではない木々。
至る所に留っては鳴いて、鳴いては何処かへ飛んで行くやや大きめの昆虫。
蝉。
一匹が鳴けば呼応するようにどこからともなく同じような鳴き声が聞こえてくる。
一匹が黙っても決して静寂は訪れない。

「なあ、センセイ。オレは、蝉になりたい。」

けたたましい鳴き声の響く廃墟の中、そんな事を呟く少年が居た。
包帯を巻いた額からは血がにじんでいる。
短い金髪に血行の悪そうな肌、どこか厳しくも冷めた目付き。
ボロボロのアーミーパンツにタンクトップと言う出で立ちのその少年は、傍らに立てた突撃銃に縋りつく様に座ってそんな事を呟いた。
独り事の様でもあり、真剣に将来の夢を語る様な口調でもある。

「人間は蝉にはなれないよ?」

少年の呟きに、真面目な答えが返ってきた。
金髪の少年に向かい合う様に座っていた黒髪の少女だ。
白いTシャツに白いハーフパンツが入院患者の様な印象を与えるが、煤にまみれているせいで酷く薄汚れて見える。

「"WD(ダブルディ)"には言ってねぇよ。クラマセンセイに言ってるの。」

金髪の少年が目だけを少女へやって、その話しかけているのであろうもう一人の少年を肘でつついた。
だがそのつつかれた少年、クラマが何かを言いだす前にWDと呼ばれた少女が口を開いた。

「ねぇセンジュ、ずっと思ってたんだけど、WDってなに?」

少女特有の未完成な高い声が面白そうに聞いた。
そのおかしな名前が愉快なのではなく、自分に名前を付けてくれたのが嬉しい事を二人の少年は知っている。

「雪だよ。真っ白い雪の結晶が朝とか太陽の光でキラキラ光るんだ。
ダイヤモンド・ダストって言うんだってよ。
だからDがふたつでWD、お前に初めて会った時に思ったの。」

センジュと呼ばれた金髪の少年はぶっきらぼうに言いながら自分の右肩を眺めた。
少し態勢を動かしたら、塞がりかかっていた傷が開いて血が流れて来た。

「縫わなきゃダメそうだね。僕の傷も塞がらないし、WDの傷も浅くないだろ?」

今まで黙って二人のやり取りを眺めていたクラマと呼ばれた少年が口を開いた。
視線は血が流れるセンジュの肩と今までWDがギュッと押さえていた右腹部を眺めている。
そう言うクラマ少年の左手の甲にも大きな切り傷が見える。
身につけている迷彩服の中からあまり汚れていなさそうな部分を探してナイフで切り取ると、クラマは左手に巻き付け、応急処置をした。

「丁度さっきの敵が持ってた医療キットの中に清潔な糸と針があったから、縫ってあげるよ。」

そう言って、クラマは赤い十字の紋章が入った小さなカバンから縫合キットを取りだした。
クラマの迷彩服にも擦り切れて殆ど見えなくなった同じ紋章が刺繍してある。

「じゃあさ!イナズマ縫いにしようぜ!」

センジュが蝉にも負けない大きな声を上げた。
力んだのか、肩の血が勢いを増した。

「いなずまぬい?」

WDが珍しそうな声で首を傾げる。

「そう!イナズマ縫い!もう死んじゃったオレの親父がやってたんだ。イナズマ型に傷を縫って跡を残すんだって。
だからさ、オレ達は友情のあかしに入れようぜ、イナズマ縫い!」

センジュの声に、切実な響きが含まれた。
今日死ぬかもしれない戦場で、彼らは心のよりどころを求めているのかもしれない。

「なあ、いいだろ?」

センジュの肩を押さえながら残り僅かな消毒薬で傷を消毒するクラマに、センジュは縋る様に問いかけた。


----------------

続きます。

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.276 )
日時: 2012/05/17 22:51
名前: たろす@◆kAcZqygfUg
参照: I screaming alive.....


続きです。

------------------

[it's alive!!:2]


クラマは暫く傷を眺めて悩んだが、こくりと頷いた。

「その代わり、痛むよ。」

そう言って問答無用でセンジュの肩を縫い付けるクラマ。
蝉の様に騒ぎながらもなんとか耐えたセンジュの処置を終え、WDの傷を縫い、自分の傷も縫い付ける。
3人揃って不格好な稲妻が出来上がると、また雨が降り始めた。
近くに留っていたのか、蝉が落ちた。

「そう言えばさ、センジュは何で蝉になりたいんだい?鳴いて鳴いて、10日もすれば死んじゃうんだよ?」

ズキズキと痛む稲妻を眺めながら、クラマはセンジュに問いかけた。
センジュは落ちた蝉へ哀しげな視線を向けている。

「センジュ?」

心配になったのか、WDも声をかける。
だが、センジュは暫く無言だった。
ただ、雨の音と、微かな蝉の声だけが聞こえる。

「こいつらはさ、こんなにちっぽけなのに叫んでるんだ。オレ達だってこの戦争の中じゃ蝉みたいにちっぽけなものかも知れない。
だからさ、オレは叫んでいたいんだよ。小さくても、今日死んじまうとしても、オレ達は生きてるんだって叫びたいんだよ。だから蝉になりたい。」

センジュは小さな声でそう言った。
切実な声だった。
終りの見えない戦争、まるで意味のないものの様に失われていく命、その中に裸も同然で放りこまれた自分達。
だがセンジュはすぐに顔を上げた。
必死に明るさを取り戻そうとしているかのように努めて明るい声を上げる。

「クラマセンセイはさ、この戦争が終わったら何になるんだ?」

センジュの言葉に、クラマの胸は痛んだ。
その時まで生きていられるか分からない。
だが、それを認めないのがこのセンジュだった。
彼のおかげで、クラマとWDは今まで生きる事を諦めなかったのかもしれない。

「そうだな、折角少しでも医療を勉強したんだから医者になりたいかな。衛生兵じゃなくって、町医者ね。」

特に戦争の後の事など考えていなかったクラマは少し悩んでそう答えた。

「センジュは?」

そしてセンジュの将来の夢が蝉でない事を祈りながら問い返した。
すると、センジュは待ってましたと言わんばかりの笑顔になった。

「オレはアーティストさ!この腐った世の中を忘れない為に、アートを作るんだ!」

そんなセンジュの笑顔を見て、今までお腹に出来た稲妻を眺めていたWDが笑った。
寂しい笑顔だった。

「いいな、二人とも夢があって。私は戦争が終わったら行く場所がなくなっちゃうよ。
だから私は叫んでいたい。まだここに生きてるんだぞ、って叫んでいたい。」

そこで一寸言葉を切って、俯き気味な顔を上げた。
相変わらず悲しげな笑顔が浮かんでいる。

「だから私の将来の夢は蝉かな。どんなに小さくても、すぐに死んじゃうとしても、皆に聞こえる大きな声で叫べるように。」

そう、小さな声で言ったWDは哀しげだった。
戦争よりも哀しい未来を、少女は自覚していた。
だが、少年たちは違った。
二人して目配せし合うと、お互い出来上がったばかりの稲妻縫いをWDの目の前につきだす。

「その夢は、きっと叶わないね。」

クラマが笑顔で言った。

「ああ、オレ達はずっと変わらない。どんな世の中になったって、オレ達はもう友情の証、作っちまったろ?」

センジュの笑顔に合わせるようにして、雨が上がった。
それを見計らったかのように、また蝉の叫び声が廃墟となった街並みに響き渡った。
それぞれの夢がかなうかどうかは分からない。
ただ人間は、いつもでもいい夢を見て生きていくものだ。


fin.

-----------------

あとがき。

えー、何と言いますか。
お題に沿えていない気がしなくもないのですが、「夢」を通した「希望」の様な物を意識してみました。

原作があるが故にこのお話し一つでは全容が伝わらないかもしれませんorz
(そもそもWDに至っては本編でまだ登場していない;;)

先走った上に出落ちな感じが否めないのですが、この一作で参加させて頂きたいと思います。

何かお気づきの点がございましたらそれとなーく指摘頂けたら幸いです;
であであ、たろす@でした。

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.277 )
日時: 2012/05/21 22:23
名前: 夕凪旋◆PQzQy5g.72
参照: みゅんみゅんぬんっ。

 『Nostalgia』


 ――ねえねえ、きいてよ、おかあさん。
 たけしのやつがさ、またぼくをいじめてくるの。ぼくはなんにもしていないっていうのに、あいつはたのしそうにわらいながらぼくをぶって、あたらしくかったゲームとかマンガをひょいってとっていっちゃうんだ。ほんとうにひどいやつだよね? せっかく、おこづかいをためてかったものだったのに。おとうさんがはたらいてもらったお金だったのに。ぼく、すっごーくかなしくなるの。でもね、すぐにたのしくなるの。たけしがおうちにかえると、かならずたけしママのかみなりがおちてくるから。あんた、それどうしたのって。たけしはさ、ひとのことをさんざんいじめるくせに、うそだけはつけないやつなんだって。だから、たけしはしかられて、なきながらぼくにゲームやマンガをかえしてくるんだ。ほらよ、やっぱりいらないって。それがおもしろくて、それをまたみたくて、ぼくはたけしにゲームをとられっぱなしなんだ。おこらないでよ? わるいのは、たけしなんだから。

 ――なあ、聞けよ、母さん。
 この前の二者面談で担任のゴリ松がさ、こんな成績じゃあこの高校は無理だって言ってきてさ。随分おかしな話だろう? いつも自分で限界は作るなとか言っていたくせに、こういう時に限ってしゅんと小さくなりやがるんだ。俺、すっげーぶん殴りたくなった。いや、そこにみっちゃんがいなかったら殴ってた――って、違う! みっちゃんがいたからじゃなかった! うん、そうだ、そこに校長のハゲ森がいたんだよ! さすがに校長の前で教師殴ったらヤバイじゃん? そうそう、みっちゃんいても俺は殴ってたね。だから、その目だけはよせよ。違うっつーに。それよりもな、今から頑張ったらあの高校に入れないかなと思ってさ。親父に言ったら、まずゴリ松に無理だと言われたことに怒りだして、もうカンカン。話どころじゃねえよ、あれは。でもマジでヤバイから、母さんにしか言えねえんだよな。なあ、俺、大丈夫かな? まだ入れる確率、ちょっとくらいはあるよな?

 ――お、おふくろ? ちょっと聞いてくれって。
 この前、部長と飲みに行った時のことなんだけどな、部長がぐいぐいいっちゃったせいで酔っ払って、それはそれは美人の店員を口説いてたんだってさ、俺。その話聞いた時はもう、変な汗が噴き出てきたんだよ。なんでかってそれは、すこぶる美人だっていうのは酔った部長の色眼鏡を通した姿で、実際は全然そんなんじゃないの。部長の携帯にそん時の写真があって、しかも部長、それをみんなに見せびらかしてくるから、おかげで俺は先輩たちの笑い者さ。本当に最低だと思わない? 俺、もう部長とは絶対に飲みに行かないって決めたよ。っていうか、もうこれからは一人で飲むようにする。ああ、そうだ。一人ってのが一番だね。気楽だし。だから、長くなったけど、見合いの写真はもう結構デス。

 ――お母さん。今日は話があって来ました。
 実は中学の同級生だった美里さんと結婚することになりました。いや、結婚することになりましたじゃないな。美里さんと結婚したいです。彼女と結婚させてください。お願いします。あ、美里さんの両親とはもう、話をつけました。お父さんにもさっき、挨拶してきました。きっと、天国で僕たちを温かく見守ってくれることだろうと思います。美里さんもそう思うだろう? 父さん、妹のあずさが彼氏を連れてきた時は倒れちゃったけれど、僕にははやく結婚しろとしか言っていなかったから。喜びすぎて、また倒れないといいのですが。それで結婚の話の続きなんですが――え? いいの? 本当に? お、や、やった! ありがとう、お母さん。大丈夫だって、心配はいらないよ。これからは二人でちゃんとやっていくようから。だから、そんな泣くなって。俺ももう、大人なんですよ。



 ――おーい、母さん、母さんっ! 俺の声、聞こえてる?



 聞こえてるよ。そう答えようとしてわたしはピアノの鍵盤の上で躍らせていた指を止めた。惨めになるほど皺くちゃな上に、おびえたように小刻みに震える手を膝の上で揃え、声の主の方へと体ごと振り向く。そこには、顔つきや体は同じ人間なのかと疑ってしまうほど変わったものの、幸か不幸か、中身はあまり変化が見られない息子が優しく微笑んでいた。昔はこんなの慣れないと口を尖らせていたくせに、今では文句一つ言わずに毎日着ているらしいスーツ姿で。
「似合ってる?」と息子が両手を広げて、今更と言いたくなるようなことを問うてくるので、わたしは大きく首を縦に頷いてみせる。別に息子のスーツ姿を見たのはこれが初めてだというわけでもないのに、彼はこんなにスーツが似合うのだと思ったのは今回が初めてであった。よく、時が経つのは早いものだと残念そうに呟く人に対して、どうしてそんなに残念がるのだろうと疑問に思う理由の一つがこれだ。私には楽しくてたまらない。息子ははにかんだ笑みを浮かべながら、小さな声で「ありがとう」と言った。

「やっと俺もスーツが似合う男になれたみたいだよ」

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.278 )
日時: 2012/05/21 22:26
名前: 夕凪旋◆PQzQy5g.72
参照: みゅんみゅんぬんっ。

 彼の背後には、かつてわたしたちが住んでいた小さな一軒家があった。近所の人たちから何度も、本の世界から持ちだしてきたようだ、と言われた赤い屋根の家。今にも学生服に身を包んだ息子とあずさ、そしてお父さんが揃って玄関から飛び出してきそうである。しかし、空の様子が現実と明らかに違っていた。雲一つない真っ青な空がすぐに赤くなり、やがて漆黒の闇に染まっていく。そして、またすぐにそれが晴れはじめ、再び赤く、黒く、といったように空の様子が数秒ほどでころころと変わっているのだ。太陽と月が変わりばんこに出たり引っ込んだりしていて少々気味が悪いが、中々面白い。いつの間にか近くに置いてあったピアノは消えており、わたしはプラスチック製の椅子に腰を下ろしていた。

「あ、そうだ。母さん、今日は会ってもらいたい人がいるんだ」

 息子は一人で頷きながら両手を打ち付けると、家の方に向かって「おーいっ!」と声を張り上げる。すると、茶色のドアがゆっくりと開き、中から黒い髪を二つに結った少女がひょこっと顔を覗かせてきた。水色のブラウスを着たその少女はわたしを見て困ったように首を傾げたが、息子がこっちこっちと手招きをすると、素直にこちらへ向かってきた。

「紹介するよ。娘の由芽だ」

 由芽ちゃんはぺこりと頭を下げ、「ゆめです」と舌足らずな声で言う。名前よりもですの方が強調されていた。
 何歳だい? わたしが訊ねると、由芽ちゃんは指を四本立ててみせた。四歳ね。あら、一番可愛い時期じゃない。甘やかされすぎるのはよくないけれど、たくさんたくさん可愛がってもらうといいわ。わざと息子に聞こえる声量で呟いてみれば、息子は肩を震わせて笑った。「甘やかしやしないさ」と。

「美里さんが孫の顔を見せないのは可哀想って言っててね。よかったよ、嬉しそうで」

 そうねえ、死ぬ前に孫の顔が見れてよかったわ。これでお父さんにも女の子か男の子か教えてあげられる。笑いながらそう言うと、息子は「冗談よしてくれ」と苦笑した。由芽ちゃんは何が起こっているのか全くわかっていないようで、息子のスーツの裾を握り締めながら首を傾げている。彼女の大きな瞳にはわたしの姿が宿っていた。
 幸せになるんだよ。ふいに思いついて、由芽ちゃんの頭を軽く撫でてあげる。そして今度は息子の方へと視線を向けると、幸せにするんだよと言った。
「大丈夫だよ、母さん」息子はそっと由芽ちゃんを抱き上げた。「心配するなって」

「俺は母さんにしてもらったことを、こいつにしてあげるだけだからさ」


 ――それが、合図だった。


 空気が吠えるように震えたと思った次の瞬間、ぶわっと巻き起こった一陣のがわたしの服や髪を揺らし、あ、と声を上げる暇も与えずに息子と由芽ちゃんを連れ去っていった。わたしだけを残して、呆気なくに飲み込まれていってしまった二人。残されたわたしはしばし、呆然と彼らが立っていた場所を見つめていた。しかし、やがてはっとして顔を上げた。近くからくすりと小さく笑う声が聞こえてきたからだ。案の定、そこに立っていたのは息子と同じスーツを着たお父さんだった。
 可愛い子じゃないか。お父さんはそう言って微笑んだ。わたしも笑って頷いた。


「――そうね、あの子にそっくりだわ」



  end

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.279 )
日時: 2012/05/22 18:15
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

「夢路は遠くにありて」




 例えばこんな話がある。
 実はあなたは、身体と切り離されて脳だけは特殊な液の入った水槽に入れられているのかもしれない。又、それは脳波が操作できる高性能な機械につながれていて、つまり今あなたが体験しているこの世界は、水槽の中の脳が見ているバーチャルリアリティに過ぎないのだ。
 最初にこの話を聞いたとき、私は思った。そんな馬鹿げた話があるか、と。しかし今よくよく考えてみると、もしかしてそうなのかもしれないと思う。というか、そうだったらいいな、とさえ思う。だって、自分自身でそうでないと証明することはできないし、そして何より私は、この退屈な日々に何とかして穴を開けたいと強く望んでいるのである。

 私は平凡だ。家族は父と母と姉と私の四人で、小さなマンションの一室に住んでいる。生活は貧乏な方かもしれないが、かといって今日の夕飯のおかずに困るほどの物凄い貧乏ではない。普通に、というか質素に暮らしている。人並みに友人もいる。付き合っているわけではないけれど、いいなと思う男の人だっている。
 私の一日は、淡々と過ぎていく。大きな事件が起こるとか、そんなことはまずない。私たちは時計に縛られているというけれど、本当は自分自身が時計そのものではないかと思うときがある。毎日毎日、ただひたすら同じような動作を繰り返し続けて。電池が尽きるまで、ずっとずっとずっと。
 ただ私は、このまま電池が尽きることが怖いのだ。だから、何とかして今のつまらない日常から抜け出したい。なのに、抜け出す方法が分からない。



「葛城ってさ、なんかいつも平和そうだよね」
 ほとんど人のいない昼休みの図書室で調べものをしていた私に、深山(みやま)さんは言った。
彼は、私が所属している美術部の部長さんである。学年はひとつ上で本来なら深山先輩と呼ぶべきなのだけれど、本人が何故か先輩と呼ばれるのを嫌うため、このような呼び方になっている。

「心外な。こう見えても、色々抱えてるんですよ」
「ふうん」

 私が思うに、深山さんは変な人だ。
 例えば廊下ですれ違うとき、部室の前を通るとき、自転車置き場で遠目に見かけたとき、彼はいつだって複数の友人たちとの会話の中心にいる。不特定の女の子たちと話しているのも、何度か見た。なのに、昼休みの大部分をあまり人気のない図書室で、しかも基本的に一人で過ごす。まるで逃げるみたいにして。

 何の気無しに、目についた本を手にとってパラパラとめくってみる。かなり細かい字で埋め尽くされていて、読む気が失せた。本を元の場所に戻し、深山さん。と声を掛ける。
「聞きたいですか? 私の悩み」
 口に出してから、自分でも妙な言い方をしたな、と思う。
「いや、遠慮しとく」

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.280 )
日時: 2012/05/22 18:19
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

「あの、今物凄く誰かに話したい気分なんですよ」
 彼は苦笑した。
「じゃあどうぞ」


 図書室は、今日も静かだった。時々、ページをめくる音やささやかな話し声が聞こえるくらいで。しかし、騒がしいともいえる無数の笑い声や話し声が絶えず部屋の外から聞こえてくる。学校内で、ここだけが取り残されているような感覚に襲われた。
 私は顔を上げ、口を開く。

「今の日常を、終わりにしたいんです」

 一瞬、全ての話し声がやんだ、ような気がした。

「…………そうなんだ」
 深山さんは声の調子を変えずに言う。私は普段思っていることを全て、一気に吐き出した。話しているうちに心が軽くなっていくとか、どうでもいいことに思えてくるとか、そんなことはなかったけど。
 言いたいことを全て吐き出すと、私は深く息を吸った。
「すみません。なんか、長々と」

「俺が思うに、」
 それまで腕を組んで静かに私の語りを聞いていた深山さんが、口を開いた。
「はい」

「非日常的な出来事って、意外と近くで起こってたりするんじゃないかな」

 意外と近くで、と深山さんの言葉を心の中で繰り返してみる。
「そんなもんですかねえ」
「そんなもんだよ」
 そう言って深山さんは優しく笑う。
 やっぱりこの人は変わっている。
 平凡な日常が嫌でたまらない。そんな、いかにも自己中心的な悩みを聞いて真面目に返答してくれるのは、私の知り合いの中では少なくとも深山さんくらいだと思う。普通ならば、笑い飛ばされるか、何甘ったれたことを言っているの、と叱責を受けるかのどちらかだろう。

「ていうか、たまには部活に出たら?」
 思い出したように、深山さんが言う。二年の始めごろからすっかりサボり癖がついてしまった私は、もはや幽霊部員状態だった。

「今日はちゃんと出ますよ。先輩」
 じゃあ教室に戻るんで、と付け足して、私は図書室を出た。

Re: 第五回SS大会「夢」 投稿期間 4/27~5/22(再延長) ( No.281 )
日時: 2012/05/22 18:25
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

 午後からの授業を何とか眠気をこらえてやり過ごし、家路についた。結局、部活はサボった。
 リビングの時計は四時三十分ちょうどを指している。父も母も姉も家にはいなかった。
 激しい睡魔に襲われたので、私は鞄をそこら辺に放り投げてソファの上で横になった。ずいぶんと頭が重く感じる。ついでに瞼も重い。昨日、夜遅くまで起きていたせいだ。よし、今日は塾がないから好きなだけ昼寝できる。
ほとんど無意識に目を閉じ、間もなく私は眠りに落ちていった。


 ────変な感覚だった。懸命に足を前へ前へと出して走っているつもりなのに、なかなか前に進まない。いくら運動音痴といえども、もう少し早く走れたはずなのだが、これでは歩くスピードと何ら変わらないではないか。

 私は辺り一面緑一色の森の中で、何故か巨大なクワガタムシに追われていた。幅十メートルはあろうそいつは、青々とした木々を次々になぎ倒しながらギザギザの足を互い違いに動かし、ゆっくりと進んできた。黒々とした目は、確実に私を狙っていた。

私を捕まえて食べる気なのだろうか、こいつは。確か、クワガタムシは木の樹液が餌だったと思うのだが、巨大化して肉食にでもなったのだろうか。
 そんな呑気なことをぼんやりと考えながら、なおも不自由な足で木々の間を縫って走り続けると、突然視界が開けた。

 そこには一軒の家が建っていた。が、普通の家とは明らかに違っていた。というのも、この家はお菓子でできていたのである。
 壁にはクッキーやらドーナツやらキャラメルやらが敷き詰められていて、ドアは一枚の大きな板チョコだった。そういえばさっきから甘い香りがする。私は「ヘンゼルとグレーテル」に出てくる、お菓子の家を思い浮かべた。
 不意に板チョコのドアが開く。そして出てきたのはヘンゼルとグレーテル……ではなく、意地の悪い魔女でもなく、二人の老人だった。二人とも頭は白髪で、動作は非常にゆっくりとしたものだった。
 私が助けを求めると、彼らは家の中に入りなさい、とでも言いたげに手招きをした。二人に従って家の中に入ると、外形とは裏腹に広々としたマンションの一室、といったような感じだった。全体はベージュで統一されていて、部屋の中央には大きなL字型ソファが置かれている。お菓子の家というのは、外見だけのことだったのか。何か裏切られたような気分だ。

「ジョージが、すまなかったね」
 二人のうち、背の高いほうが言う。ジョージとはあの巨大クワガタのことだろうか。
「はあ」

「あいつはワシらのペットのようなもんで……、けっこう、可愛らしい顔をしているでしょう? ……まあ少々乱暴者で、ワシら以外の人間を食べようとしたり、しばしば手に負えないときもありますが…………」

 ────ぷつん。

 糸が切れるみたいに、そこで唐突に私の夢は終わりを告げた。

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