雑談掲示板

第十一回SS大会 お題「無」 結果発表
日時: 2014/02/27 20:57
名前: 死(元猫 ◆GaDW7qeIec
参照: http://www.kakiko.info/bbs/index.cgi?mode=view&no=16247

第十一回SS大会 お題「無」
>>523に第十一回大会結果紹介

始めましての方は、初めまして! お久し振りの方達はお久しぶり♪
何番煎じだよとか主が一番分っているので言わないで(汗
余りに批判が強ければ、削除依頼しますので!

題名の通りSSを掲載しあう感じです。
一大会毎にお題を主(猫)が決めますので皆様は御題にそったSSを投稿して下さい♪
基本的に文字数制限などはなしで小説の投稿の期間は、お題発表から大体一ヶ月とさせて貰います♪
そして、それからニ週間位投票期間を設けたいと思います。
なお、SSには夫々、題名を付けて下さい。題名は、他の人のと被らないように注意ください。
 

投票について変更させて貰います。
気に入った作品を三つ選んで題名でも作者名でも良いので書いて下さい♪
それだけでOKです^^

では、沢山の作品待ってます!
宜しくお願いします。

意味がわからないという方は、私にお聞き願います♪
尚、主も時々、投稿すると思います。
最後に、他者の評価に、波を立てたりしないように!



~今迄の質問に対する答え~

・文字数は特に決まっていません。 
三百文字とかの短い文章でも物語の体をなしていればOKです。 
また、二万とか三万位とかの長さの文章でもOKですよ^^
・評価のときは、自分の小説には原則投票しないで下さい。
・一大会で一人がエントリーできるのは一作品だけです。書き直しとか物語を完全に書き直すとかはOKですよ?

――――連絡欄――――

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第四回大会より投票の仕方を変えました。改めて宜しくお願いします。

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Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.210 )
日時: 2012/04/06 20:19
名前: Lithics


『望夏の灯』-5

 翌日。僕はもう一度、浜辺に赴いていた。本格的に盆の期間に入った為か、昨日まで砂浜を覆っていた迎え火の灯りはすっかり無くなっていて。宵闇が落ちてくる、群青色と黒が混じり合った空には、明るめの星光が揺れている……そんな曖昧な時間。

「……ちょっと遅くなったけど。美奈、これなら迷わず来れるだろ?」

 服が汚れるのには構わず、砂浜に横になって。傍に置いた『迎え火』の蝋燭一本が、広い浜辺で唯一の灯り。だから、先に逝った人を迎えるには迷わなくて良いだろう。

(…………)

 瞼を閉じると、心は不思議なほど穏やかで。相変らず涙は出ないし、彼女が居なくなったことが哀しくない訳ではないのだけれど。思いだしたのだ、それもこれも、美奈が望んだ事。『悪い魔法使い』に掛けられた悪質な魔法だ。

「ははっ、惚れた弱みかなぁ……」

 ……いつか、この閉じ込められた想いも薄れていくだろう。そうして魔法が解けて、少し大人になった僕が、彼女の為に泣ける日もきっと来る。だから、それまでは。七夕の伝説のように、一年に一度だけ帰ってくる恋人と言うのも……美奈ならロマンチックで好きなんじゃないだろうか。

(本当に来たら、ちょっとホラーだけどね)

 半透明になった彼女が不機嫌そうな顔をしているのを想像して少し笑えた。ホラー映画や怪談の類が大嫌いだったのだから、自分がなっていたら酷い顔をするに違いない。

「ん…………」

 浜が吹く。生温かい感触に目を開けると、大して時間は経っていないのに空も浜辺も真っ暗になっていた。波との音だけが世界の全てで、眠ってしまいそうな心地好さに包まれる。そうして、波間に漂うような時間の後。

――横に置いた灯が、に煽られて。ひとしきり揺らめいた後、ふつりと消えてしまった。

「……ああ、おかえり、美奈」

 
 その直前、揺れる火の温もりが。僕の隣に座って笑う、彼女の温もりを感じたような……そんな幸せな幻視をもたらしてくれた。また目を閉じれば、やっぱり彼女が隣にいるような気がして。そのまま特に何をするでもなく……灯りの絶えた浜辺で、夜が明けるまで。



 浜辺に灯の揺れる夏は、大切な人に会える。忘れられないのが弱さでも、それでも良いと思えたから……僕は夏を待ち望む。

 ――じゃあ、また来年も。出来るなら、君と二人で。

(了)


※突然参加させて頂き、迷惑でなければ良いのですが。では、今回に参加される作品を拝読させて頂くのを、楽しみにして居ります!

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.211 )
日時: 2012/04/08 14:27
名前: 白波 ◆cOg4HY4At.
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11906

 彼は何としてもこの闘いに勝ち抜かねばならない。
 それが今まで彼が生き残るために蹴落とした人達に対する贖罪で、勝ち抜かなければ彼はほとんど確実に、この燃え盛る太陽によって水分を消し飛ばされ命を落とすからだ。

『HI・KA・GE!』

 事の始まりは、今日という日の有り得ない暑さと、それによってクーラーがショートして壊れたことにあった。
 それによって部屋の中も、サウナのように気温は上がり続け、熱中症で倒れる人達が何百、何千と出て、建物の中に居るのが危険と判断した彼、白瀬京を含む暦市民達は日陰を求めるために街中を走り始めた。

 走ることは水分の消費を早めるため、危険ではあるのだが、どのみち早く日陰に入れなければ彼たちは生き残る事が出来ない。
 だからこそ彼らは、ありったけの水を持ち日陰を捜索するのだ。

 そして、数分を掛けて川へ着き京が目にした光景は、バトルロワイヤルさながらの光景だった。
 僅かな日陰を得るために競い合い、勝者が敗者を日向にどけ、持っている水を得る。
 そんな弱肉強食の光景が京の目の前には広がっている。どうやら、そう簡単に生き延びることは出来ないと言うことらしい。
 ならば当然彼もこれに加わる。加わらなければ自分の命は無く、対多数というシチュエーションは彼にとってはあまりにも有利すぎる――。


 河川敷の橋の下で行われている戦争。

 そこに、上半身は胸から上を、下半身は太腿が半分以上見える服装をした男が一人。

 後ろには数多のペットボトル、それが紐のような物に繋がれ、男にそれを持たれている。

 その姿は、数多の猛獣をその手に従えているようで、かとすれば意思を持っているかのように、地面を蠢くその物体達は、メデューサの持つ蛇の髪のようにも見えた。


 京が纏う、その異質な雰囲気に、暴動事件のような殴り合いが起きていた橋の下の人間達は一時的に停止して、京がいる方向を見る。
 一目視ただけで解る、自分とは次元が違うその雰囲気に、その中の数十人はプライドを捨て、結託して京を完全に包囲しながらジリジリと近付き、彼をこの戦いから一刻も早く落とそうと、即興でアイコンタクトを取った後、一斉に京へと走り出し襲いかかる――。

 京がその右手を振るうと、右からは主人を襲われて怒り狂う水の獣が襲いかかり、京がその左手を振るうと、左からは自分の髪となる水の蛇が身を守るために襲ってくる相手へと飛ぶ。
 その怒りに、その牙の矛先になった京を阻む人間達は、一人残らずその餌食になる。
 結果、彼ら程度の人間が猛獣使いの牙から、メデューサの蛇から逃れることなどは出来ず、ましてや、そこに作られた神の領域を只人情が犯して良い訳もなく、『白瀬 京』という突如として現れた、ただ一人の少年に触れることすら出来ず、襲い掛かった数十人は吹き飛ばされた。

 その光景を目撃して、唖然とする彼に襲いかからなかった懸命な人間達。
 その中には圧倒的な存在を恐れて、別な日陰を求めて去って行く者、無謀にも京に挑もうとする者、人が減った日陰でひとまずは傍観を決め込む者がいた。

 当然ながら、京に挑む人間は実力差を弁えない無謀な弱者。
 どうせ自分が勝ち残れないことに変わりはないのだが、愚かにも京に襲いかかることで更に自分の命が短くなる。
 先程のように気絶させられた後に日の元へと晒され、その体内を巡る水分を燦々と降り注ぐ日光によって強奪と呼べるようなレベルで奪われていった。

 そして数十分後、京などの働きによって確実に三桁はいたであろう日陰を求める軍団は、五人までに減った。
 その中には当然京も含まれるが、序盤に雑魚とはいえ複数に狙われることが多かった京はその五人の中では一番疲労が溜まっている。
 それ故か否か、疲労が溜まっている京には一人が付き、京と同程度の実力があるかもしれない『那須 一夜』という京と同じ程度の男には残る二人が付くことになった。
 日陰の大きさを考えれば、五人になった今、最早争う必要は、無駄な血を流す必要はないのかもしれない。
 だが、『白瀬京』と『那須一夜』は自分が蹴落とした人間達にせめてもの償いをするために頂点を目指す。
 これは理屈などではなく、自分の誇りを、課せられた使命を、この二つを果たしたいという思いを尊重してのことだ。
 それ故に二人は、残る三人を敵に回した。

 これが暦市の歴史に後に刻まれることになる『師走橋の戦い』という戦いになることを、此処に居る少年少女達は今はまだ知るよしもなく、熱気に耐えながらも頭を冷静にして自分が生き残る方法を考えていた。

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.212 )
日時: 2012/04/08 14:30
名前: 白波 ◆cOg4HY4At.
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11906

 無論、京が相手する人数は一人だが、その一人は弱いという訳ではない。
 むしろ、二対一ではなく、一対一の勝負になるために三人の中では一番強いであろう『湊 善花』という少女が相手となった。

「流石にあなたも疲れてきたんじゃない?」
 そう言ってこの相手、善花が構えた得物は、よく研がれて、容赦なく降り注ぐ真夏の太陽を浴びて、眩しく感じる程の銀の光を放つ、二本の鉄製の鋏。
 彼女は今に至までにも、何度か切れ味の悪くなった鋏を交換しているために、その所持している数は計り知れない。
 これは、既にペットボトルの本数を晒している京へのアドバンテージとなり、少しだけ彼の腕を躊躇わせる。なぜなら、一斉攻撃を仕掛けるは良いものの、大量の鋏が彼女を防御する盾となりかねないからだ。
「体力が落ちようとも、俺は負けれないんだよ……。御託は良いから掛かってこい」
 常人離れした体力を持つ暦市民。中でもこの白瀬京はトップレベルの体力と強さを持っているのだが、この炎天下で長時間動き続けていたとなると、流石に息もあがるようで、その語気からも疲れが感じられた。

 そんな彼に敬意を表したのか「じゃあ……行くわね」そう言って水分が足りなくなる危険性も省みずに、全速力で京の元へと駆け出す善花。
 彼女自身の速さもさることながら、彼女が持っているのは重いとはとてもいえないような獲物、鋏。
 その鋏が何本入っているのかは外見では分からないが、その身体が京よりも軽いことは確かで、距離を取らせることも許さずに、一瞬でその鋏を煌めかせて京の懐へと飛び込んでいく。
 今までも何度か他人にこの速さで詰め寄る度に多少なれども驚いていた京だが、自分にやられてみると防御どころか認識すら遅れてしまうような彼女の残った五人の中でも圧倒的に速いそのスピードに戦慄した。

 だが、当然戦慄するだけで何もしない京ではない。
 その眩い銀の光の動きを頼りに攻撃の予測をつけ、光が自分にふれる前に自分の身体を、重心を後ろにずらしながら右小指第二間接までを、繊細かつ素早く曲げる。
 すると、第一関節と第二間接に繋がれた、狂犬を縛り付ける紐が一気に引かれて、主人に光が当たる前に、害を為す光を弾き、それと同時に善花の腕も弾いた為、彼女に僅かながら隙が出来る。
 当たり前のことだが、その隙を逃す京ではなく、左腕を横向きにして、虚空にビンタを放つと左手に繋がれた全ての紐が反応し、合計十六もの攻撃が一斉に善花の左足を襲い、攻撃直後のため跳んで避けることも叶わなかった善花の足にそれらは全て当たり、左足を砕いたように見えた――のだが違った。

 それらは当たった瞬間に中身が水で詰まったペットボトルと、何か硬いものがぶつかったときに生まれる重くて鈍いような、だけども少し高さも残したような独特な音と共に物によっては上空へ、物によっては下方へと弾き飛ばされる。
 これから考えるに、善花の足には鋏が入っていたらしく、それに京が放った十六もの攻撃は衝撃を分散され、スピードが一番の強みの彼女に甚大なダメージこそ与えるも、これが決定打になることは無く足を押さえながらも善花は立っていることが出来た。
 しかし、今の攻撃で与えた足へのダメージはやはり深刻なもので、左足は充分な働きをしていなく、立っているのがやっとのようで、この足で先程のような超スピードでの攻撃を撃ち出すことは出来ないことは明白だ。

(これはマズい……だけど!)
 そう思った彼女は、出来るだけ使いたくなかった策に出る。
 この暑さでも、肌の露出が少ない服を着て、決して顔以外を日光に晒すことがなかった彼女が服を――その手で裂き、下に穿いてある黒いスパッツと、バスケの時に付けるようなユニフォームの姿になる。

 花を隠していた蕾は花開き、姿を現す真っ白な花弁。
 そして、今日の照りつける白い日の光を、そのまま吸収したのではないかと思わせるようなその肌を露出すると共に、何かがぶつかり合うように、低くこの場に鳴り響く轟音。
 それはこの二人の戦いに終戦を告げるように大きく鳴り響き――その音と共に、善花は“先程と何ら変わらないような、むしろ速くなっているようなスピード”で京の元へと跳ぶ。

 力を入れているのは、ほとんど右足だけで、走るというよりも跳ぶという表現が似合うような距離の詰め方だというのに、そのスピードは先程を凌駕する。
 それ程に大量の鋏が服には仕込まれていたらしく、その重さを無くして軽くなった今の善花は、まるで白い光を放ち飛んでいく流星のよう。
 その光は目で追うことすら難しく、気付いた時には、右足だけでも認識が追い付かないようなスピードでの攻撃を、がら空きになっている腹への突きを京へと放っていた。

 その攻撃。とてもではないがペットボトルを付けた紐を右腕に十八本、左腕に十八本付けている京がかわしきれるものではない。
 善花の放つ神速で渾身の一撃をバランスを崩しながらも、避けようとするのではなく、右腕を思い切り振り、腰を捻りつつ当たる面積を少なくすることを目的として動くことによって、柔らかい腹に突き刺さり内臓へその攻撃が届くことはなく、背中の肉を一部分持って行かれるだけで済んだ。

 しかし、思い切り回避のみに専念した京はそのまま倒れ込んでいく。
 倒れ込んで大きな隙が出来た京に、善花は止めを――さすことは叶わず、鈍い音が響いた後地面に倒れ込んだ。

 倒れる直前に京がした行動を覚えているだろうか。
 そう、彼は避けるときに、倒れる直前に思い切り腕を振った。
 腕を振ることによって、連動された右腕の十八の武器が左側へと動き、その半数が止めをさしにきた善花へと当たり、彼女を気絶させたのだ。

『勝ちが目前に迫ったり、慢心がどこかにあれば人には隙が出来る』

 自分が生き残るためには、あの行動しかとれなかったのもあるが、そのような心理も利用しての京の勝利だった。

 これを狙ってはいたものの、上手くいったことに京は安堵の息を漏らし「ふう……後は一人か……」と、横を見ながら言う。
 そこには二人を一人で相手して、その両方を京とほとんど同じタイミングで倒した猛者が一人、仁王立ちで悠然と立っている。

『那須一夜』対『白瀬京』

 これが『師走橋の戦い』最後の勝負となる。

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.213 )
日時: 2012/04/08 14:33
名前: 白波 ◆cOg4HY4At.
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11906

 最後の戦いを始める前に、両者は少ない言葉を交わす。

「やっぱりお前が相手か。じゃあ、とっととおっぱじめようぜ」

 二人が言ったのはそれだけだった。

 一夜が構える武器。それは独自の改造によって、威力を異常なまでに高めた『水鉄砲』
 加えてここは川がある橋の下で、一夜の水鉄砲『水神の激流“ポセイディア”』の弾数は無限と言って差し支えなく、状況的に有利なのは一夜の方だ。

 だから、一夜は迷うことなく満タンにしているその水鉄砲の引き金を引き、京に向けてその水を飛ばす。
 その攻撃をヤバいと思った京は、左のペットボトルを総動員させて十八本の壁を作る。
 十八本を注ぎ込んだぶ厚い壁が崩されることは無かったが、その予想以上に高い威力で、完全にシャットアウトする予定だった一筋の水はペットボトルを押し、それに連動して京の左腕が上に上がる。

 ――だが、それは良い方向へと働いた。

 水流によって程よくバラけたペットボトル達、ペットボトルが上へと打ち上げられることによって、連動して上へ上がった京の腕。
 それから京がとる行動はただ一つ。
 腕をそのまま振り下ろすことによって、上がった十八本全てを一夜へ向けた攻撃にすることだ。
 審判の手を下し、一夜へと向かっていく十八のペットボトル。
 その攻撃範囲の広さから避けることは叶わず、確実に二、三本のペットボトルは一夜へと当たるルートへ入っている。
 それを一夜も理解しているのか、彼がその場から動くことは無い。
 ただ、ポセイディアに入っている水を半分近く注ぎ込み、剣を振るかのように斜め上から来る自分に当たりそうなペットボトルを薙ぐ。
 結局ペットボトルは当たらずに地面へと落ち、地面に小さなクレーターを作るだけに終わり、一夜を傷つけることはなかった。

 先攻後攻を交代するように、次は一夜が反撃に出た。
 まずは更にペットボトルが来ないように川がある後ろへと跳び、距離を取る。
 そして、高々と振り上げたポセイディアに入っている全ての水を使い切り――水の剣を振り下ろす。
 その剣を振り下ろすスピードは、まさに神速。
 高い水圧と充分過ぎる速度。この二つを両立させた攻撃は、京を真っ二つにして斬り殺さんとばかりにそれは頭上へと迫って行く。

 善花の攻撃程のスピードは無いため、右へと半身分ずれて、その剣を避けることは容易とはいわないまでも、充分に可能だったのだが、水の剣が地面に叩きつけられた時に巻き上がる砂埃で視界を奪われ、一瞬とはいえ隙が出来てしまった。
 その隙に、一夜は後ろの川から水を補給し、再び水が満杯近く入ったポセイディアの引き金を引く。それをすぐ戻し、間髪入れずに再び引く。それを繰り返す。何度も、何度も。満杯近くまで入っていた水が半分以上無くなるまで引き続ける。

 それらは大量の水の球となり京を襲う。
 ゆうに二十は越えているその球に対処するために、京は左手をまるでピアノを弾くように目まぐるしく動かす。
 演奏者の意志の通りに音符は宙を舞い、水の球とぶつかり合い、それらが奏でる協奏曲。
 少し高い音と、宙を舞う水。それよりも高く打ち上がり、日光という照明に照らされ、光の絵画を作り出すペットボトルという名の音符。
 幻想的なその光景に『那須一夜』という観客の目は一瞬奪われてしまう。
 ――それが戦闘中であるにも関わらず。

 そのタイミングを見計らったように、音を紡ぎ、奏でるその腕は『終焉の協奏曲“コンチェルト・オブ・ジエンド”』を奏でる。
 右腕を振り上げ、左に繋がれた二本以外全てを宙へと浮かせる京。
 そして、それらがちょうど良いぐらいの高度まで上がった時、京はピアノを強く鳴らす。
 同時に一夜を包囲し、向かっていく三十四の攻撃。
 ポセイディアにより前方の物だけでも防ぐが、到底全てを避けきることなど出来るわけもなく、鈍い音と共に地面へと崩れ込む。

 それと同時に地面へと叩きつけられたペットボトルはコンチェルト・オブ・ジエンドの衝撃に耐えきれずに破裂し、中に入っていた太陽光によって熱せられた水が上空へと飛散する。
 それらの大半は一夜を囲うように円を作り、重力に従って地面へと落ちて乾ききった地面に吸収されていく。
 そして、衝撃で少し別の方向へと水滴となって飛んだ残り少数は、宝石のように光り輝き、地面へのまだら模様と、反射によって出来る虹を、まるで勝利を祝うように創り出した。

 それを見た京は、初めてこの瞬間に自分の勝利を理解し「ああ……終わったのか……なら、俺も休める……」と、左腕に括っている紐を手繰り寄せ、ペットボトルに入っているぬるいどころか、少し熱くなっている水を勝利の美酒のように一本飲んだ。
 そして、満足したように橋の下の日陰で眠るように倒れ込んだ。
 同時に『師走橋の戦い』も終戦を告げた。


 その後、京は冷たいとは言えないが、温いぐらいなら言えそうな夜に吹かれ、目を覚ましす。
 その開いた目に飛び込んできたのは熱中症の人を、瀕死の人を運ぶ大量の救急車。
 その光景を見ながら『あぁ、これは俺がやったことなのか……』ということを理解し、少しだけの後悔の念に晒されながら家へと帰る。
 雲一つ無い夜空には、デネブ、アルタイル、ベガで作られる夏の大三角形が綺麗に見えた。

『HI・KA・GE!』終了。

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.214 )
日時: 2012/04/08 14:53
名前: 白波 ◆cOg4HY4At.
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=11906

               あとがき
 小説というものから何かを得るというものがありますが、僕は全てが全てそうある必要は無いと思うのです。
 現在のラノベとかもそのような作品がありますし、読書という行為によって少しでも笑わせたり、没頭させたり出来ればその本は、その文章は充分に意味のあるモノになると思うんですよね。
 まあ、何が言いたいかと言うと、この作品もそんな気持ちで書きましたよ。ということなんですが。言い訳っぽいですね。
 話は変わりますが、真夏の暑苦しい日。こんな日に体育などの授業があり、少しでも日陰にいようとしたことがあるのではないでしょうか。少なくとも僕はあります。
 そんな経験と、数年前にウイダーのCMで日向に出たら倒れるってやつあったな。という記憶を元に、この『HI・KA・GE!』は作られました。
 暦市という架空の舞台で行われる、ちょっと格好良くも、かなりはっちゃけた、かなりバカな人達のストーリーにクスリとでも笑ってくれたら、それはとっても嬉しいなって思っています。
 お題『海』で書いた『泳げない僕~~』も実はここが舞台だったりするので、これが累計二作目の暦市の物語となります。
 もう、ほとんどが僕の趣味みたいなに、終始はっちゃけていましたが、これからも白瀬君達の有り得ない日常を覗いて頂ければ幸いです。
 では、暦市で再びSSを書ける機会を貰い、こんな趣味百%の作品を読んでいただきありがとうございました。
                     白波

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.215 )
日時: 2012/04/09 13:27
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

「ちいさい夏、みつけた」


 半袖で過ごすようになって、日中は扇機無しでは生きていけなくなって、郵便受けに毎年市内で行われている花火大会のチラシが投函されて──いつの間にか、夏になっていた。

 花火大会には、小さい頃はいつも幼馴染みの弓月(ゆづき)と一緒に見に行った。当時の僕にとって、ほぼ真上で立て続けに大きな音を立てて鳴る花火は恐ろしい怪物のように思えてならなかったのだが、それを弓月に悟られまいと必死で平静を装った記憶がある。
 ──いつだっただろうか。一緒に花火を見に行かなくなったのは。
 確か、小学校低学年までは行っていたと思うのだが、その後どうだったかははっきりと覚えていない。ただ、学年が上がるにつれて互いに男女間の隔たりを感じ始めたのだと思う。

 …………それにしても暑い。異常気象だ異常気象。というかやけに周りが騒がしいような気が。顔を上げるとぬるい空気が顔に当たった。あ、世界史の先生が教科書を抱えて教室から出ていく。どうやら授業が終わったらしい。そして僕はいつの間にか居眠りをしていたらしい。

「お早う」
隣の席の沢田瞳に声をかけられた。
「はよー」
「ハッシー、桐島君のこと睨んでたよ」
 ハッシーというのは、世界史担当橋本先生のあだ名だろう。
「僕の場合、受験に世界史は要らないからいいんだよ」
「次の期末にはでるけど」
沢田はそう言って、世界史のノートと教科書を鞄の中にしまった。

 彼女とは高校に入ってから三年間、ずっと同じクラスだ。サバサバが服を着て歩いているような感じで、僕の数少ない女友達である。

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.216 )
日時: 2012/04/09 13:26
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

「ていうか暑過ぎんだろ。ここの席」
 僕は下敷きをうちわ代わりにしてぼやいた。
 教室にはクーラーが付いている。が、位置と向きの関係上、僕が座っている後ろの方の座席にはあまりが来ない。
「そうだね」
 そう言う沢田は涼しそうな顔をしている。

 ──不意に、沢田に告白されたときのことを思い出した。
「桐島君のことが好き」
 付き合って下さい。そう付け加えてから、沢田は僕の顔をまっすぐに見た。
 困惑して、思わず目を逸らしてしまう。向こうは悪い冗談などではなく、本気なのだとわかったからだ。
 沢田は良い奴だし、顔だってよく見ればけっこう整っている方なのかもしれない。……でもでもでも、付き合うとかそういうことを考えると、何か違う気がした。刹那、弓月の顔が頭に浮かぶ。

「ごめん。他に好きな人がいる」
 僕は頭の中の弓月を必死でかき消して言う。蝉の鳴き声がやけにうるさく感じた──。

 あれは二年の夏休みの補習帰りのことだったから、もう一年近く経つのか、と思う。
 沢田とはその後、現在に至るまで何事も無かったかのように友人関係が続いている。本当に、何事も無かったかのように。

「そうだ桐島君、」
「何?」

「弓月とどうなってるの?」

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.217 )
日時: 2012/04/09 13:04
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

「…………は?」
 心臓がどきりと音を立てる。
「言った、けど」
「それって弓月のことでしょ」
 沢田は表情ひとつ変えずに言う。

 核心を突かれたと思った。沢田の言うことは正しい。僕は夢から覚めたような気分になった。曖昧に返事をして教室を出ると、さっきより空気が生ぬるく感じた。暑い。異常気象だ異常気象。


 ***


「期末が終わったら夏休みかー」
 隣に腰を下ろしている寛也が、アイスを頬張りながら呟く。

 昼休み。僕は屋上の片隅で、友人たち三人とだらだらと過ごしていた。ギラギラと太陽光が照りつける中、倉庫の陰になった狭いスペースは、昼休みを過ごすのにうってつけである。

「つーか、無性に海行きたい」
「夏休みっつってもどうせ俺らは受験生の身だから」
 向かいに座る樹と翔太が続けて言う。

「なんかこの忙しいときに限って色々他のことがやりたくなるんだよなー」
「あー分かる。スイカ割りとか、ビーチバレーとか、めっちゃやりたいもん」
「そういや俺、スイカ割りってやったことないんだけど」
 他愛もない会話は途切れることなく、永遠に続いていきそうだった。引退した部活のこと、受験のこと、昨日のテレビのこと、下らないこと……。

「……次の授業って何だっけ」
 予鈴が鳴ったところで、それまで散々部活の後輩の愚痴を言っていた樹が訊く。
「古文」
「げ。教科書忘れた。俺、借りに行ってくるわ」
 樹は立ち上がって早歩きで立ち去った。「俺もー」と言い、翔太も後を追う。

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.218 )
日時: 2012/04/09 13:30
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

 僕らもそろそろ教室戻ろう、と二本目のアイスを完食したばかりの寛也に言う。

「あ、」
 寛也が間抜けな声を上げる。
「あ?」
「そういえば例のカノジョと付き合ってんの?」
「カノジョ?」
 さっきから、寛也の言っていることをただオウム返しにしているだけのような気がする。

「黒川だよ黒川弓月」
 ──何だ、またその話か。


 ***


 塾の講習が終わり、帰りのバス停まで向かう途中、手元の時計を見ると既に二十時を回っていた。
 空を見上げると、いくつかの星が瞬いているのが見えた。そして、空が意外と殺景なことに気づく。こんなに星って少なかったっけ。……まあ、単純に視力が落ちただけか。
いつだったか、夏休みの自由研究で星座の観察をしたことがある。明るい一等星であるアンタレスを持つさそり座を初めて見つけたときは、妙にうれしい気持ちになったものだ。
 でも、もはやどの星がアンタレスなのか分からない。確か、北極星を基準にして見つけられるはずなのだが、そもそもどれが北極星だったのだろうか……。

 俺は北極星探しを諦めて、バスに乗り込んだ。冷房が効いていて涼しい。空いている席に座り、バスの発車を待つ。途端に、睡魔が襲ってくる。

Re: 第四回SS大会 小説投稿期間 3/21~4/8 ( No.219 )
日時: 2012/04/09 13:30
名前: 果世◆MhCJJ7GVT.

「あっ夕介! やっほー」
 その澄んだ声に、僕の眠気は一気に吹き飛ばされた。

「弓月、」
 穏やかなが、肩まで伸びた彼女の髪を揺らす。家が隣同士で学校も同じだというのに、ここ最近顔を会わせていなかったような気がする。

「なんか、久しぶりだね」
 弓月はそう言って、僕の隣に座る。
「うん」
 ……。
 何を話そうか、全く思いつかない。何か気の利いた話題はないものかと考えたが、不思議なくらいに何も浮かんでこない。普段の僕なら、こんなこと深く考えたりしないのに。
 バスがゆっくりと発車する。今日はいつにもまして乗客が少なく、席はほとんど空いていた。僕も弓月も一言も喋らないまま、バスは走り続けた。やがて急な曲がり角を通って大通りに出たかと思うと、すぐに信号に引っ掛かった。

 下を向いて、僕は考える。僕と弓月はこれからもずっとただの幼馴染みのままで終わってしまうような気がした。夜が更けて星がながれるように、まるで最初から決まっていたみたいに。

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