雑談掲示板
- みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】
- 日時: 2022/06/30 06:43
- 名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)
再始動予定につき調整中!
注意書き多くてきもいね、もっと気楽に書ける場にするから待っててくれ!
略してみんつく。題名の通り、みんなでSSを書いて投稿しよう! というスレです。SSの練習、作者同士の交流を目的とした場所になっております。投稿された作品に積極的に感想を言い合いましょう。稚拙な感想だから、と遠慮する必要はありません。思ったことを伝えてあげることが大切です。
優劣を競う場所ではありません。自分が上手くないと思うそこのあなたこそ、参加してみてほしい。この場で練習をしてみて、他の参加者様にアドバイスを求めてみてはいかがです? お互いに切磋琢磨しながら作品投稿が楽しめると素敵ですね。
自分はそれなりに書けると思ってるあなたは、いつもの自分と違う作風に挑戦してみるのも楽しいかもしれませんね。または、自分の持ち味をもっと伸ばすのも良いでしょう。みんつくに参加することで、新たな自分を見つけるキッカケになるといいなと思います。
読み専の方も大歓迎です。気に入った作品があれば積極的にコメントを残していただけるとスレが盛り上がります。当然、誹謗中傷や批判など、人が見て傷付く書き込みはNGです。常に思いやりの精神を持って書き込みましょう。
*作品の投稿は最低限ルールを守ってお願いします。
↓↓
・お題は毎月3つ出題します。投稿期間、文字数の制限はありません。ただし、お題に沿ってないSSの投稿はやめてください。そういうのは削除依頼を出します。
文字数について、制限はありませんがどんなに短くても140字くらい、長くても20000文字(4レス分)以内を目安にして下さい。守ってないから削除依頼、とかはしません。
・二次創作は禁止。ですが、ご自身の一次創作の番外編とかIfストーリーのようなものの投稿はOK。これを機に自創作の宣伝をするのもありですね。でも毎回自創作にまつわる作品を書くのは駄目です。たまにはいつもと違う作品を書きましょう。
・投稿するときは、作品タイトル、使用したお題について記載して下さい。作品について、内容やジャンルについての制限はありません。
小説カキコの「書き方・ルール」に従ったものであればなんでもカモン。小説カキコはそもそも全年齢なので、R18ぽい作品を投稿された場合には削除をお願いすることもあります。
また、人からコメントを貰いたくない人は、そのことを記載しておくこと。アドバイスや意見が欲しい人も同じように意思表示してください。ヨモツカミが積極的にコメントを残します(※毎回誰にでもそう出来るわけではないので期待しすぎないでください)
・ここに投稿した自分の作品を自分の短編集や他の小説投稿サイト等に投稿するのは全然OKですが、その場合は「ヨモツカミ主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの」と記載して頂けると嬉しいです。そういうの無しに投稿したのを見つけたときは、グチグチ言わせていただくのでご了承ください。
・荒らしについて。参加者様の作品を貶したり、馬鹿にしたり、みんつくにあまりにも関係のない書き込みをした場合、その他普通にアホなことをしたら荒らしと見なします。そういうのはただの痛々しいかまってちゃんです。私が対応しますので、皆さんは荒らしを見つけたら鼻で笑って、深く関わらずにヨモツカミに報告して下さい。
・同じお題でいくつも投稿することは、まあ3つくらいまでならいいと思います。1ヶ月に3つお題を用意するので、全制覇して頂いても構いません。
・ここは皆さんの交流を目的としたスレですが、作品や小説に関係のない雑談などをすると他の人の邪魔になるので、別のスレでやってください。
・お題のリクエストみたいなのも受け付けております。「こんなお題にしたら素敵なのでは」的なのを書き込んでくださった中でヨモツカミが気に入ったものは来月のお題、もしくは特別追加お題として使用させていただきます。お題のリクエストをするときは、その熱意も一緒に書き込んでくださるとヨモツカミが気に入りやすいです。
・みんつくで出題されたお題に沿った作品をここには投稿せずに別のスレで投稿するのはやめましょう。折角私が考えたお題なのにここで交流してくださらなかったら嫌な気分になります。
・お題が3つ書いてあるやつは三題噺です。そのうちのひとつだけピックアップして書くとかは違うので。違うので!💢
その他
ルールを読んでもわからないことは気軽にヨモツカミに相談してください。
*みんつく第1回
①毒
②「雨が降っていてくれて良かった」
③花、童話、苦い
*みんつく第2回
④寂しい夏
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
⑥鈴、泡、青色
*みんつく第3回
⑦海洋生物
⑧「なにも、見えないんだ」
⑨狂気、激情、刃
*みんつく第4回
⑩逃げる
⑪「明日の月は綺麗でしょうね」
⑫彼岸花、神社、夕暮れ
*みんつく第5回
⑬アンドロイド
⑭「殺してやりたいくらいだ」
⑮窓、紅葉、友情
*みんつく第6回
⑯文化祭
⑰「笑ってしまうほど普通の人間だった」
⑱愛せばよかった、約束、心臓
*みんつく第7回
⑲きす
⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
㉑嫉妬、鏡、縄
*目次
人:タイトル(お題)>>
Thimさん:小夜啼鳥と(お題③)>>181-182
むうさん:ビターチョコとコーヒー(お題⑲)>>183
心さん:君に贈る(お題⑭)>>184
黒狐さん:神の微笑みを、たらふく。(お題⑳)>>195
よもつかみ:燃えて灰になる(お題⑱)>>196
むうさん:宇宙人が1匹。(お題⑳)>>200
*第1回参加者まとめ
>>55
*第2回参加者まとめ
>>107
*第3回参加者まとめ
>>131
*第4回参加者まとめ
>>153
*第5回参加者まとめ
>>162
*第6回参加者まとめ
>>175
*第7回参加者まとめ
全レスもどる
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.1 )
- 日時: 2020/05/30 23:17
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: lm2uV2Ic)
はい!参加させて頂いていいですか?
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.2 )
- 日時: 2020/05/30 23:27
- 名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)
>>1スノードロップさん
一番乗り~! ですね☆
参加するときは好きに完成したSSを投稿して下さい。参加の許可をいちいち出すのが大変なので。
読み専の方も参加許可とかは特にないので、好きに読んでコメントをしてみてください。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.4 )
- 日時: 2020/05/31 00:02
- 名前: ヨモツカミ (ID: Xyuytlos)
>>3スノードロップさん
小説カキコにある、書き方・ルールって読んだことございますか? それに則った書き方をして欲しいのですが。
てか、SSというより、詩のようにみえますね。というか……詩ですよね? SSとはショートストーリー、短いお話のことです。詩の投稿は推奨していないので……SSを書いて出直してきてほしいかな、という感じです。
詩の良し悪しはわからないのでアドバイスは専門外です、ごめんなさい。
対象外の作品なので、削除していただける助かります。消えちゃうのが嫌ということでしたら、他のスレに投稿するのをオススメします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.5 )
- 日時: 2020/05/31 03:43
- 名前: Thim (ID: 3XeIwUWE)
『小夜啼鳥と』【お題:花、童話、苦い】
私はいつも貴女を見ていました。美しい恋の歌、愛の歌を歌う貴女を見ていました。
貴女がそんな歌を歌うのは、私には少し可笑しく感じられ、貴女に話しかける事が出来ませんでした。だけど、歌い続ける貴女の事を忘れることは出来ずに、貴女が止まっている木からいくらか離れた場所で、私は貴女の歌をずっと聞いていたのです。
美しく、愛らしく歌う貴女を、私はただ見ていました。
貴女は一人の青年と出会いました。
眼鏡をかけた、神経質そうな彼は女性へ捧げる赤い薔薇がないと嘆いています。私は多少不憫に思いましたが、それだけです。だって私は動物。愛に苦しむ彼の心なんてわかりません。私もたくさんの殿方からアプローチを受けますが、私の中にあるのはいかに強い種を残すか、ただそれだけ。だから私は私を競い争い合う殿方の中から一番強い方と番になろうとは考えますが、そこに顔が良いだとか自分への愛情が大きいだとかは、まったく勘定に入れないのです。
だって、無駄だから。強い種を残すのに、それらは関係がないから。恐らくは私以外の多くの動物たちもそう考えている事でしょう。だのに恋に焦がれる彼女は、愛を歌う彼女にとっては、そうではなかったのです。
「彼こそが本当の恋人なのだわ」
「あぁ、なんて可哀想なのかしら。どんな宝石なんかより尊い彼の愛が報われないなんて……」
毎夜毎夜、星と愛の話をしていようと、どれほどの時間を愛の歌へ捧げようと、それらを理解できなかった彼女は、その時愛というものを理解しました。
明日の晩の舞踏会までに、愛する人が求める赤い薔薇を探さなければならないと嘆く彼を見送ってから、彼女は羽搏いて何処かへと行ってし舞う彼女を見て、私は猛烈に嫌な予感がして慌てて彼女の後を追いました。
「赤い薔薇をくださいな。そうしたら、私が一番綺麗な歌を歌ってあげますから」
彼女が毎夜歌う歌は近所中に響き渡り、その綺麗さはみんな知っています。しかし赤い薔薇なんてここいらではそうそうありません。四方八方を飛び回り、とうとう彼女は赤い薔薇の咲く木を見つけました。
赤い薔薇の木は言いました。この冬の寒さと霜の冷たさ、そして嵐の傷で薔薇を咲かすことが出来ないのだ、と。
そんな赤い薔薇の木に彼女はなおも食い下がります。
「たった一輪だけで良いのです。どうにかなりませんか?」
そんな彼女の熱意に押され、赤い薔薇の木は一つだけ方法がある、と言いました。
私は赤い薔薇の木の様子に違和感を覚えました。どうにも、その方法を彼女に教えたくないような、そんなふうに感じたからです。
そして、私は赤い薔薇の木の提案を聞いて、思わず悲鳴を上げてしまいました。
「貴女が本当に赤い薔薇を欲するならば、月の光のさす間、歌を歌うのです。さすればその綺麗な歌声で薔薇の花が咲きましょう。そして薔薇の花を咲かせたら……」
「その薔薇を、貴女の心臓の血で、赤く染めるのです」
「薔薇の棘を貴女の胸に突き刺し、一晩中私に歌を捧げて下さい。そうすれば貴女の血が私に流れ込み、一輪の赤い薔薇が出来上がりましょう」
私は、赤い薔薇の木が言う事が信じられませんでした。否、信じたくもなかったのです。
だって、心臓に棘を突き刺してしまえば、そんな事をしてしまえば彼女でなくっても生き物であればだれだって死んでしまう。たった一輪の薔薇を得るために、彼女が死ななければならないなんて、そんなの馬鹿げている!
きっと、彼女だってそう思っている筈。そう思って彼女を見た私は、驚きました。
「薔薇一輪を得るためには、死はあまりにも大きい代償だわ」
「私だって私の命は尊いもの」
女の表情はあまりにも凪いていて、そこには怒りも悲しみも存在しませんでした。存在するのはそう、ただ一つ……。
「だけど、恋は命よりも尊いものだわ!」
「それに、私一匹小鳥の命が、人の心に比べて一体どれほどの価値があるかしら」
歓喜。
彼女は何よりも喜んでいた。あの青年の恋が実る事を。自分の命で一つで薔薇が手に入る事を。
私は彼女が信じられなかった。なんでそんなにも喜べるの? だって、だって、その薔薇を手に入れたその時、貴女は死んでしまうのよ?
その時、青年が通りかかりました。青年はいまだに赤い薔薇がないと嘆き、目を赤くさせていました。そんな彼に彼女は語り掛けます。凛とした、一切の迷いのない声で。
「喜んでください。今晩、私が貴女に赤い薔薇をさしあげます。きっときっとどんな薔薇よりも綺麗な薔薇を咲かして見せますわ」
「ですから、貴方は本当の“恋人”になってくださいね。きっと、きっとよ」
けれど、青年は彼女の言葉が分かりません。不思議そうに彼女を見つめるだけです。当たり前でした。だって彼は人間で、彼女はただの小さな鳥なのですから。だけど彼女はそんなことも承知で、嬉しそうに何処かへと羽搏いて行きました。彼女が羽搏いていくのを見て、彼も何事もなかったのように、赤い薔薇の木の少し先にある彼の家へと帰って生きました。
私は彼女を追いかける事が出来ませんでした。そこにへたり込み、夜が来るのをただ待ちました。いっそ、彼女が後から目を覚まして、馬鹿馬鹿しいと。薔薇如きの為になぜ自分が命を散らさねばいけないのだと、そう考えなおしてくれることを願っていました。神にすら祈りました。
しかし、無情にも彼女は日が沈み月が少し顔を出したころに、薔薇の木の元へと戻ってきてしまったのです。
(参加希望です。今日はもう遅いので途中で投稿し、続きを明日投稿したいと思います。
小説書き初心者+童話オマージュ…?二次創作…?初挑戦なので色々な方のアドバイスが聞きたいですが、どうか今しばらくお待ちください。)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.6 )
- 日時: 2020/05/31 01:09
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: hO98WZ1Y)
お題【雨が降ってくれていて良かった】
タイトル「赤」
「雨が降ってくれていて良かった」
そう言ってあの子は、満面の笑みでこっちを向いた。手には血がこびり付いた凶器。真っ白なはずのワイシャツは血で赤く染っている。真下には、酷い有様になった、人だったもの。私は遅かった。『ほんの少しだけ』、遅かった。
だけど。
────雨なんて、降ってなかった。
事の始まりはあの子に好きな人が出来たと言ってきた時だと思う。思えばそこから始まっていたのだろう。あの子は頬を薄紅色に染めて、私に嬉嬉として話していた。お相手は少し大人びた人だという。私にとってはその話が、少しどうでも良くて半分聞き流していた。
話すだけ話して満足したのか、あの子は直ぐにくるりと踵を返し、その人と約束があるからと去っていった。その時は私は良かったねーとひらひらと手を振って送り出したのだけれど、今思えば、私はそこで止めてやるべきだったのかも知れない。
それから数日がたったある日、あの子は目をとろんとさせて付き合えることになったと話してきた。そりゃよかったじゃないの、と返したが、また直ぐに予定があるからと先に帰って行った。特に私に害がなければあの子の恋人にはさほど興味が無い。まあ、今まで真面目で恋人の1人すら作らないしシャットアウトしてきた子だ、ここいらで甘酸っぱいものでも味わっていればいい。幸せそうで何よりだと思っていた。
が、その翌日からあの子が急に来なくなった。数日ではない、十数日もだ。最初はついにサボりをするようになったかとその程度だったのだが、連絡が全く取れないのだ。何度電話しても繋がらず、メッセージアプリでメッセージを送り付けても、既読がつかない。メールも音沙汰無し。一体何があったって言うんだ。なにか良くないことに巻き込まれているのではと思い、私はあの子の家に先ず向かった。
そして必死に走ってたどり着いた家は、かかっているであろう鍵がなく、簡単に扉が開いた。ますます怪しい。ええいままよ、と思い切って扉を開けた。
目の前には、鎖で繋がれたあの子と、明らかに同年代ではない別の人間が、気味の悪い目で立っていた。
その目はあの子に向けられていて、私に気づいたあの子はにこりと笑いかけて、この人が私の恋人なの、と言ってのけた。着せられているワイシャツはサイズが全くあっておらず、恐らくは後ろにたっているそいつのものだろうと察せる。ちらりと見えた足には生々しい赤い斑点が、夥しいほどに付けられていて、思わず目を逸らしたくなった。私は何を見せられている。
恋人だと言われた別の人間は、その子の腕をつかみぐいっと引き寄せ、恋人ですよろしくー、と軽々しく言ってのけた。その目はただただ気持ち悪い。こちらを『嫌な意味で』見定めている。するするとあの子の腰周りに手が降りてくる。そしてそれを恥ずかしそうにしつつも受け入れているあの子。
その瞬間、私は『理解してしまった』。
私の友人だった『あの子』はもう居ないのだと。
無遠慮に台所に押し入り、『フライパン』と『包丁』を手に取って、『そいつら』に振りかざした。情けない悲鳴が聞こえたがもう何も関係ない。やめてと懇願する声も聞こえたが関係ない。もうどうでもいい。さっさと目の前から不快なものを消し去りたかった。消えろ、消えろと。ああ、消えろ。気持ち悪い感触が顔に、手に、至る場所に伝わったが、もうそれすらどうでもいい。早く消えてくれ、お願いだから。
暫くすると、もうそいつらは動かなくなった。終わった、終わったんだ。緊張が解けたのか、私はその場にへたりと座り込んでしまった。目の前には、変わり果てた人だったものが2つ。ああ、なんて酷い有様なんだろうか。なんだか涙が出てきた。
ぽたり、ぽたりと流れ落ちる。それはあの子だったものの顔らしき場所へと落ちる。それ以上そこに涙を落としたくなくて、私は何故か顔を上にあげる。
と、目の前に誰かがたっているのに気づく。足には、夥しいほどに付けられた赤い斑点。着せられているのはサイズがあっていないワイシャツ。そしてそのワイシャツは、真っ白のはずなのに真っ赤に染まりきっていた。そう、あの子だ。友人だったころの、あの子。私の手には血がこびり付いた凶器。真下には、もう動かない『なにか』。幻を見ているのだろうか、あの子はもう私が『殺したのに』。目の前にいるあの子は、満面の笑みでこちらを見ている。そして───
「雨が降ってくれていて良かった」
そういった。雨は、私の涙。次々と零れてくる涙は止まることはなく、私の意識に反してなにかの顔へと落ちていく。なんでそんなことを言うの。
「だって雨が降っていたら、あんたは傘を持ってきてくれるから」
その言葉は、『今でも』忘れることは無い。
思いついたものをさっと書いてみただけ。なんでこんなのしか書けないんだろうか(遠い目
執筆作業の息抜きに参加希望ですよ(死んだ目)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.7 )
- 日時: 2020/06/20 07:12
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 229DITyo)
スレ立てお疲れ様です!
6月20日に一回書き直してますー。
【雨が降っていてくれて良かった】
これは、かつて存在したはずの記憶。書き換えられる、前の─────
雨は先程から降りしきり続けている。いつもは人通りの多い鳥居前町も、出歩いている者なんてほとんどいない。
いや、此処に例外が一人。パシャパシャと水を蹴散らす音を立てて、緑髪の少女は疾走していた。命風神社の宮司候補である、清和華鈴である。
雨は良い、と華鈴は思う。
泣いているのかいないのか、傘をささなければ自分ですら分からない。父親にひどく叱られて。いつもは意図が分かっているから耐えられる華恋の言葉にすら耐えられなくて。
また、飛び出して来てしまった。そしてまた、逃げてしまう。
───蓮の、家へ。
雨は良い、と蓮は思う。ほんの少し歩く速度を緩めて、蓮は顔を上げる。雨雲の塊が、もう少しで真上にきそうな気がして、蓮は再び速度を上げた。歩きながら、蓮は思う。
雨が降っている時の音が好きだ。人工的な音がなくて静かだと思うけれど、喧騒とも取れる音。
「楓樹叔父さんに頼まれたものは、っと……」
そんなことを呟きながら、蓮は傘を左手に持ち替える。ポケットに突っ込んである紙を手に取って、パラリと開く。魚屋の隣の曲がり角で立ち止まって、ぼんやりと紙を眺めていた時。不意に、誰かの足音が響いた。
華鈴は魚屋の角を曲がろうとした時、微かに動揺した。泣いている所を見られるのは格好悪い、と思うのは自分だけだろうか。
少し目元に触れてから、少女は蓮に問いかけた。
「蓮? 何してるの?」
自分の周りに広がっていた静寂が破られたのを感じて、蓮がフッと顔を上げた。
「華鈴さん…? ちょっと、傘どうしたんですか!?」
たったっ、と走りよって傘を共有すると、華鈴の目元がほんの少し赤いことに蓮は気付いた。泣いてたのかな。慰めてあげなきゃ、なんて思った蓮は華鈴の顔を見た。
「華鈴さん? 泣いて、」
その時、びくりと蓮の肩が跳ね上がった。雨が車軸を流すような大雨へ変化したからだ。
雨粒が軒先を叩く音やら傘を叩く音やらがいきなり大きくなる。
傘と前髪の影になって見えない目にハッとして、今度は蓮が俯いた。
このまま続けて言っていたら、華鈴はきっと傷ついていたかもしれない、と。泣いてるのが格好悪いと思ってるのは、自分だけかもしれないけど。
華鈴は、傘の中で再び鼻の奥がつぅんとしてくるのを堪えていた。傘だと、雨の雫が当たらないから誤魔化せない、と思って。
不意に大きくなった雨音で何と言おうとしたのかは聞こえなかったのだけど、きっと蓮なら、と思う。
桶の水を全てひっくり返し終わったかのように、弱まった雨がしとしとと降りおちる。
二人で一つの傘をさして大通りへ出れば、遥か向こうに見える山の稜線で雲が切れていた。
そこから強く射し込む西陽は、雨雲との対比が強烈で。
「ねえ蓮、あの光がなんて言うか知ってる?」
「名前があるんですか?」
水に濡れた髪を揺らして、華鈴は頷いた。
「天使の階段、って言うんだって。綺麗だよな。」
「それって、天使が綺麗だから降りて来る階段も綺麗なんでしょうか。それとも······空が、天使が降りてくるから光をキラキラさせてるのですか?」
蓮のその曖昧な問いかけに、華鈴は意表を突かれたような顔をした。
「どっちだろうな。でも、私は···空は、人の気持ちを分かってるんじゃないかな、って思うんだ。」
「人の、気持ちを······そうだとしたら、素敵ですね。」
華鈴は蓮へ振り返った。きょとんとしている彼をちらりと見て、彼女は笑う。笑ったまま華鈴は、自分の言ったことが本当だと良いな、と思いながら傘のそとへ手を差し出した。もうほとんど霧雨に近いものが降っていて、やっぱり空は人の気持ちを分かってるのかな、なんて。
だったら、また泣きそうになってしまったときは雨が降ってくれる。きっと大丈夫。
そうして華鈴は思う。
────雨が降っていてくれて良かった。
(じゆめいの昔的な。外伝スレの方にも載せさせて頂きます。
今回は視点をわりと何回も変えたので、ちゃんと内容が伝わってるのかな? っていうところがあるのでアドバイス貰えると大変嬉しいです。)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.8 )
- 日時: 2020/05/31 15:38
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: td2y1rdc)
はうう…………SS向いてない………
難しい………!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.9 )
- 日時: 2020/05/31 17:30
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: hO98WZ1Y)
お題【毒】
タイトル「たをやめのゆり」
甘ったるいチョコレートの匂い。空気を吸うだけで胸焼けをしそうなその場所は、男子禁制の女の花園。あまいあまい、恋の話に焦がれる日々を過ごす、少女たちの楽園。いわゆる『お嬢様学校』。
バレンタインという世間の催しも、この楽園にも欠かせない乙女たちの祭りである。憧れの人に、自ら手がけたチョコレートや、遠方から取り寄せたよりすぐりのチョコレートを渡す。甘く、それは甘く、そしてある種背徳的な行事であった。
この楽園には1人の『王子』がいた。そしてその傍らには『王女』がいた。2人はいつも仲睦まじく、また他の乙女たちの憧れの的であった。王子と王女、誰もが2人に焦がれた。それはまるで『恋』をするかのように。
1人の乙女が、バレンタインに王子と王女にチョコレートを渡そうと思い立った。いつもは遠くから、まるでショウケースの中に佇む『人形』を思いこがれる子供のような瞳で見つめていた。お近付きになりたい、少しでもいいから、お話をしてみたい。すがるような思いで、乙女はチョコレートを作った。甘く、とろけるようなチョコレートを。
渾身の作品を作り上げた乙女は、いざ授業が終わるやいなや、王子と王女へそのチョコレートを届けようと足を急いだ。だがたどり着いた先は案の定、同じ考えなのであろうほかの乙女たち。その先にはお目当ての王子と王女が囲まれていた。これでは到底お近付きになることも出来やしない。
さすがにその場は諦めて、日を跨いで翌日にでも渡しに行こうと思い、乙女は離れた。とぼとぼと併設されている寮へ帰る道、しばらくして、とある空き部屋の、普段始まっているはずの扉が少しだけ開いているのを見つけた。なんでこんな場所が開いているのかしら、と好奇心でその隙間から部屋の中を覗き見る。
見えた先は、王子と王女が、チョコレートを手を使わずに口と口だけで食べあっている光景。
あまりの刺激に、つい息を漏らしてしまう。それが聞かれたのか、部屋の中にいた2人は扉を見やる。そして見ていた乙女と目が合った。あってしまった。
乙女は慌てて頭を下げて、その場から立ち去ろうとするも、不意に声をかけられる。
「そこの貴方」
「こっちへおいで」
振り返れば、柔らかく微笑んでいる、『王子』と『王女』。よくよく見ればこちらに向けて手を差し出している。胸が高鳴る。酷くたかなる。乙女は頬を染め上げ、胸の高鳴りに息を切らしながらそちらへ向かう。2人は扉を閉めて近づいてきた乙女を、引っ張る。
「チョコレート、持ってきてくれたんだよね」
「私たちと食べましょう?ああ、だけれど」
「『その口』で、『食べさせて』」
乙女は震える手で、自ら作ったチョコレートを口にくわえ、2人へと差し出す。
その瞬間、乙女のチョコレートは『毒』へと変わる。その場の空気も、『毒』へと変わる。いや、この2人そのものが、『甘美な毒』のようだ。
見るものを狂わせ、近づいてきた『乙女』を、『おとめ』へと変える『毒』。甘く甘く、甘ったるい────『毒』。
「頂きます」
その日、乙女は『毒』に『おかされた』。
────嗚呼、なんて甘くて美しくて、気持ちいい『毒』なんでしょう!
百合が書きたかっただけです。反省も後悔もしてない。
懲りずに投下します。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.10 )
- 日時: 2020/06/03 20:57
- 名前: ヨモツカミ (ID: MslgMsXs)
皆さんお早い参加をありがとうございます。
少しずつ読んで返信していきたいと思います。
>>5 てぃむさん
参加ありがとうございます!
あ、オスカー・ワイルドですね!? 知ってる作品が題材で嬉しい。ナイチンゲールとバラの花、凄い好きです。
オマージュできてると思うので、このままのノリで書ききっていただきたいです。完成したら感想書きますので。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.11 )
- 日時: 2020/06/05 13:05
- 名前: 12 (ID: euNAXRMM)
『毒にも、薬にも』 お題【毒】
「貴女みたいな人を、毒にも薬にもならない人っていうんでしょうね。鉢屋」
執筆する手を止めることなく、こちらに目線を向けるわけでもなく、彼女は、先輩は、まるで独り言でも呟くか如く机越しの私にそう言った。
あまりにも自然に繰り出された彼女の突然の発言に戸惑いながら、私はその言葉の返事を探す。彼女の真意を測りかねながら。
「えっと…もしかして、馬鹿にしてます?私のこと」
「違うわ。褒めてるのよ」
やはりこちらの方を向くことなく、彼女は私の問いかけにそう返した。どう考えたってそうとしか思えなかったが、彼女の中でどうやらアレは褒め言葉だったらしい。凡人の私には彼女の言葉が理解できない。それはいつものことだけれど、今日の彼女の言葉はいつにも増して摩訶不思議だった。
目の前の先輩、草薙すずめは中学三年生という年齢でありながら、いくつものベストセラーを書き上げた今話題の天才若手作家である。
一言で言えば、彼女と彼女の作品の魅力は"美しい"ただそれに尽きる。文章力、構成力もさることながら、何度も読み返したくなるような舌触りのいい言葉のセンス、かぐや姫の生まれ変わりだと言われても信じてしまいそうな彼女自身の美しさに、彼女の作品に惹かれ近づいた人間、反対に彼女の美しさに惹かれ作品を読んだ人間は、皆息を漏らし、そして納得する。
彼女と彼女の生み出したものたちはまさに一体だ。彼女の作品はそのまま彼女自身であり、そのどちらもが筆舌に尽くしがたいほど美しい。
彼女たちの熱狂的なファンは多く、彼女の後輩である私、鉢屋三葉もまたその一人である。
今でこそ彼女とこうして話しているけれど、私は凡人以外の何者でもなく彼女の言う通り毒にも薬にもならない、ただの人だ。
私と彼女が出会ったのに意味なんてなかった。必然なんてなかった。
私がただ、文章を好きで。彼女もまた文章を好きだった。ただそれだけだった。
#
何となく文章を書くことが好きだった。
だから、中学では文芸部に入ろう。そう決めていた。
そうして足を運んだ大して広くもない部室でたった一人黙々と執筆をしていたのが彼女だった。
「部員はワタシしかいないわ」
黒髪のセミロングをほんの少し開けた窓からの風に靡かせながら、彼女はそう言った。今と変わらず、私の方なんて少しも見ずに。初め、私はそれを天才故の傲慢さからの態度だと思った。彼女のことは、この時点でもう知っていた。自分とは違う世界の人間。そういう認識で、不躾な言動にも怒りすら湧いてこなかった。
「皆、辞めちゃったから。ワタシ以外ね」
だけどすぐに分かった。
そう呟く彼女の横顔があまりにも哀しげで、寂しそうだったから。
彼女はちゃんと人間だったんだと、そんな実感が、やっと湧いたような気がした。
人伝いに聞く彼女はまるで神話に出てくる女神のようで、それまで私は他の人々ように熱狂的になれないでいた。彼女の文章は読んだことはあった。面白いと思った。彼女の顔は見たことがあった。美しいと思った。それだけだった。本当に、ただ、それだけだった。
彼女もまた私と同じ人間なのだと分かって、途端に溢れてきたのは彼女に対する愛しさだった。
何も考えられなくなった。高熱を出した時みたいなふわふわした気分で、気がついたら、こう呟いていた。意識して、彼女に向けたものではなく、ただ自然と口から出ていた。
「好きです先輩」
「……え?」
「私、先輩のこと、好きになっちゃいました」
#
「出会い頭にあんなこと言われて、ちょっと怖かったわ。…告白はされたことはあったけれど、貴女みたいに押しの強い人ははじめて」
「褒めてます?」
「貶してるわ」
そう話す彼女はやはり私の方を見てはくれなかったけど、どこか照れているような、ばつの悪そうな顔をしていた。
二年前のあの時と比べて、綺麗だけれど無表情が多かった先輩は少しだけ感情豊かになったように思う。文芸部の部員は相変わらず私と先輩の二人だけ。私が話しかけ、先輩はこちらを見ずに答えるだけ。だけど変わったこともある。
「先輩、こっち向いて」
私の言葉に先輩は素直に手を止め、こちらを見上げる。目を瞑っているのは無意識なのだろう。先輩のまるごとを貪り食べてしまいたい欲望を飲み込んで、唇を合わせるだけの優しいキスを落とす。下顎を軽く撫でると、先輩は私にだけ聞こえる音量で甘い声を漏らした。
「ん……ね、ねぇ。三葉。ワタシが卒業しても、ずっと一緒にいてくれる?そう、約束してくれる?」
「先輩、内部進学ですよね?大丈夫。あと三年は一緒にいれますよ」
「!…そ、それじゃ駄目。約束して。卒業しても、高校生になっても、大人になっても、ずっと一緒にいるって」
「………」
私が黙っているのを見て、私の服を先輩がぎゅっと握りしめ、今にも泣き出してしまいそうなそんな表情になる。答えなんて決まっているのに、口に出さない性格の悪さには我ながら笑えてしまう。
先輩は天才で、そして孤独だった。先輩の才能と美しさは周囲を殺す毒で、周りを依存させる麻薬だ。だから誰もいなくなった。天才だけど、ちゃんと人間な先輩は、それが苦しくて、寂しくて、仕方なくて。
先輩からしてみれば、私は彼女の薬なのだろう。孤独を埋めてくれる薬。本当は毒にも薬にもならない何の変哲もない人間なのに、彼女には私しかいないから。そう思わせたから。騙されて、貴女は私の言葉を飲み続ける。
可哀想な先輩。毒や薬にしかなれなかった、可哀想で、愛らしい先輩。
絶対に手離したりするものか。
「…一緒にいますよ。先輩が私といてくれるなら、ね。ずっと」
私がそう答えると、先輩は嬉しそうに、心底嬉しそうに潤んだ目で笑った。そして自分からゆっくりと私の唇に自らのそれを合わせた。全身で私を抱き締めて、私の体温を確かめる先輩は、まるで溺れている者が助かるために何かを掴もうとしてる様に似ていた。溺れているのは私も一緒で、掴んだ先は、一緒に沈むしかないのに。
「……大好きよ。三葉」
今はこれでいい。対処療法的な薬でいい。貴女の孤独を紛らすための、代替のきく有象無象で構わない。
だけど、いつかは、絶対。
「……私もです」
貴女を殺す致命的な毒に。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.12 )
- 日時: 2020/06/04 15:42
- 名前: ヨモツカミ (ID: jv3c1MFg)
>>6さにちゃん
参加ありがとうございます。さにちゃんらしい作品でなんだか安心しました。安定感。
雨が降っていれば、主人公が迎えに来てくれる、ということかな。考察苦手マンなので、あの子と主人公の関係性をすべて理解することはできないけれど、不穏で救いのない感じ、最高ですね。
>>7心ちゃん
参加ありがとうございます。
華鈴さんの話だ!
えっ、アドバイスかー。最初の頃に比べるとすごく描写が自然になったので、そんなに言えることないですね……。視点切り替えもそこまでよくわからなくなるとか無かったし。
最後の方の「そして二人は、互いに何も傷付かぬまま同じことを思うのだ。」ていう文章が、蓮は別に傷付く要素ないからなんか違くない? と思ったくらいですね。私の読み取る力が足りてないだけだったらごめんなさい。
二人とも「雨は良い」と思うけれど理由が違ってるのがエモだなあと思って好きでした。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.13 )
- 日時: 2020/06/04 21:26
- 名前: 12 (ID: euNAXRMM)
まずは初めに。ヨモツカミさん、「みんつく」スレ立てお疲れ様です。さらっと今投稿されてる見させて頂きましたが、同じテーマでも全然違う作品が出来上がったり、同じテーマだからなのか似た雰囲気を感じられたり、それぞれの方の十人十色の作風が見られて、どれもとても面白いです。改めてスレ主であるヨモツカミさんには、このようなスレを立てて下さったことにお礼を言いたいです。ありがとうございます。スレ主という立場で色々と大変なこともあるかと思いますが、影ながら応援しております。
先程は書くことが特に思いつかなくて、自分の作品だけ投稿するだけ投稿しましたが、現在投稿されている方の作品は全員読めたので、短いですが以下感想のようなものを書いていきたいと思います。
>>5
も、元ネタが分からない…!!んですけど、ヨモツカミさんの感想から察するに「ナイチンゲールとバラの花」っていう童話が元ネタなのかな?と思って調べてみたのですが……うおお……ネタバレになってしまうかもしれないので細かくは述べませんが、これは、これはアレですね……うーん……(宇宙猫)
何はともあれ、第三者視点から述べられるナイチンゲールの様子が健気で、やはり原作同様に愛に対する狂気とも言える強烈な熱を感じて、かなり、かなり雰囲気が好きです。いやー、私もこういう感じの話書いてみたいですね!
続き、楽しみにしています!
>>6
わ、分からない…!!(2回目)解釈が分からない……!!分かんない、分かんないんですけど、雰囲気、好きです。
あくまで私の解釈なんですけど、"あの子"は"私"の忘れられない人になりたかったんですかね……私にとってあの子はあくまでも、ただの友達。あの子はそれが嫌で、わざと悪い男に捕まって、友達として幻滅されて……最後のあの子は私の幻覚かもしれないけど、無意識にあの子の気持ちに気付いたのかもしれませんね。いやー、感情!!!!ラヴですね!!!!
一応、あの子の願望は叶ってるので、少なくとも私の中ではハッピーエンドです!!!やったぁ!!!(白目)
>>7
も、元ネタが分からない……!!(3回目)宵はく、という作品のキャラクターのスピンオフ、なのかな…??今度読んでみようかと思います。黒髪の少年が色を失う、ってなんだろう。とても気になる。言い回しがとても、とても好きです。華鈴、って子の不遇感が凄くて、なんだろう、この子の過去とか背景は全然分からないんですけど、救われて欲しいですね……この蓮って子が救ってくれるのかな。救われてくれ……。
いつかこの子が救われると信じて、原作の宵はく、読ませて頂こうかと思います……おんなのこのなみだ、つらすぎて…ぴえん超えてぱおんだ……。
>>9
わ、分か((……とりあえず分かるのは、このカップル、人を狂わせるタイプのカップルだ!!!乙女の純情弄びやがって!!うら若き乙女には刺激が強すぎる!!!
この女の子は……もう、戻れませんね……戻れなくなっちゃった子他にもいるのかな……イケナイガールズたちめ……こら!!
耽美な雰囲気、好きです。女の子だけの空間って、秘密の花園、って感じがして、独特で……美しいですよね………。
大変楽しませて頂きました……ありがとうございました……。
失礼しました。
書き殴りで、感想とも言えないようなもので本当にすみません……。
御三方とも、それぞれの良さがあって、面白くて、とても楽しませてもらいました……。
これからも、ちょくちょく自分も投稿しながら、時間があれば、こんな感じに感想投下させて頂きます。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.14 )
- 日時: 2020/06/04 22:15
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: qYoH3yPQ)
ヨモさん
アドバイスありがとうございますー! 誉めてくれた! にへらーってしてました。(スルーして下さい)
華鈴さん傷付く→蓮気付く→蓮も苦しむ
みたいなことを書いたようなつもりでした。お前ら仲良s···何でもないです。深夜テンションで書いたので、と言い訳します。
12さん
ふへへ、誉めていただけた······嬉しいです! ちなみに本編はダーファ板、外伝は複ファ板というよく分からないスレの立て方したのでそちらも宜しくお願いしますね(*^-^)
12さんの話、綺麗にストーリーが纏まってて良いなーと思いました。起承転結がしっかりしてる感じ、好きです。お題から毒にも薬にも、って持っていける発想、見習いたいですー!
まって私は百合書けない。
サニさん
話がスカスカになってしまうことが最近の悩みなのですが、中身のしっかり詰まったSSで凄いです。勉強になります!
Thimさん
一人称書けるの羨ましい! 尊敬します。私は一人称が苦手なのです。うわー、元ネタがわかると楽しいだろうな······探して読んでみます、図書館が始まったら。
皆様勉強になります! もっと参加者が増えると良いな! 三題噺のお題で執筆中ですので、その内、多分投下します。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.15 )
- 日時: 2020/06/05 12:33
- 名前: ヨモツカミ (ID: bSB/gM6g)
私が百合好きだからか、百合作品の投稿多いですね?? まだ好きって教えてなかった気がしたのですが、そうですヨモツカミは百合好きなので、百合作品の投稿は大いに推奨しております。
次にBLが好ましくて、NLがそんなに……て感じです。同性の許されない愛ってのが好きなんですよ。皆さんよろしくお願いしますねヘヘッ
>>9さにちゃん
二回目の投稿ありがとうございます。
女子校の夫婦みたいな二人がイケない関係だって知っちゃうというエモーショナルの塊みたいなシチュ、ヤバじゃん。愛した。脳を痺れさせるような毒、死なない程度の毒。毒が全身を満たしていく心地よさとか甘美な感じ、えちじゃん。愛するわ。
>>11 12さん
百合だ……。あっ、参加ありがとうございます。はじめまして。
店の上の存在だと思っていた人が、急に人間味を見せると、身近な存在になったような気がしますよね。女神やかぐや姫でなく、人間の先輩が愛おしい。
「食べてしまい(たい?)欲望を飲み込んで」「私の服を先輩が私の服をぎゅっと握りしめ」など、ちらほら誤字があるので直したほうが素敵になりますよ。
薬よりも毒になりたい三葉さん、ヤンデレぽくて凄い好き。
二人とも溺れているから、沈んでいくしかないって表現激エモで溺死しましたね。これ共依存ですよね? 最高じゃん、愛してる。
12さんの描写、全体的に好きです。言葉選びとかがとても私好み。
>>13楽しいですよ、こういうみんなで同じお題で書いてくっていうの! 喜んでいただけて何より。こういうの、参加者がいなければ成り立たないので、参加してくださる方に感謝です。
>>14心ちゃん
あっ、ただの仲良しじゃん。どこまで仲良しさんなんだよ尊いな。
それは二人の関係をよく知る人しかわからない描写なので、蓮から華鈴さんに対する気持ちの描写もあったら丁寧かなって感じます。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.16 )
- 日時: 2020/06/05 19:39
- 名前: ひが (ID: 6J53CjAQ)
雨の臭いがする。嫌な臭いだ。埃っぽくて、じめじめとした、人を不快にさせる臭い。私の全身を濡らしながら、滝のような雨が地面を撃ち続ける。喝采のように思えた。世界がその手を幾度となく打ち鳴らし、私の使命の達成を祝福してくれているのだろうと。違った、例えこれが自己満足のスタンディングオベーションだったとしたら、どうして濡れそぼった私の服は、こんなにも重たいのだろうか。錘のようだった。私の歩みを鈍らせ、思考を曇らせていく。
これは現実から目を逸らすためのものだ。今度はそう割り切ろうとした。無理だった。湿っぽい空気と裏腹に、乾いた号砲を響かせる雨滴の粒が、私の罪を滲ませていく。とても綺麗で、鮮やかな赤色。傷口の血はどす黒くて、勢いがないままだらしなく漏れるように溢れ出た命の雫は、汚れた雨に打たれて次第に鮮紅色へと姿を変えていた。この雨が隠蔽のためのものであれば、こんな風に彼の死を、象徴的に、誇張して私に見せつける必要はなかっただろう。
彼の身体には今、風穴が二つ開いていた。一つは胸、心臓付近に穿たれたもの。もう一つは額、動かなくなった彼の死を、誰の目から見ても決定的なものにするための銃創。それはいずれも、他ならないこの私がつけたものだった。
この雨は糾弾だ。茫然とし、膝を折り、身動き一つとれないままの私が行きついた結論は、そんなものだった。それまでに思い浮かんだいくつもの可能性、そのどれもが現実味を持っていなかったのに対し、この終着点だけはきっと間違ってはいないと理解できた。だって、私の背を叩くそれは、まるで銃弾のようで。降りしきり、圧し掛かり、肩に荷を乗せてくるのは罪の意識を表しているようで。何より、喝采だと思っていた血を叩く雨粒の声は、きっと祝砲でも何でもなく、罵詈雑言の雨霰のように聞こえてきたからだ。
両手が痺れていた。小型の拳銃とはいえ、華奢な少女に過ぎない私の手に余る反動がするものだから。両手でしっかりと握って撃ったにも関わらず、肩が外れてしまいそうになる衝撃。物理的な覚悟が必要だったが、それ以上に精神的な覚悟が必要だった。指全体がじんじんと麻痺していて、とうとう拳銃の重みにも耐えかねて零れ落ちてしまった。かしゃんと、小さな音を立てたが、それも驟雨の営みに紛れていく。どうして今なのだろう。撃つ前から拳銃を握っていられなかったら、きっと撃つこともなかっただろうに。
私の目の前で、壁に寄りかかるようにしてこと切れている男は、私とは一回りどころか、二回り以上歳が離れていた。ジャーナリスト、そう呼ばれるものを生業としているらしい。それが指す仕事を私は知りはしなかったが、私にお金をくれる大人たちにとって、邪魔な人間だったらしい。
初め私に与えられた役割はあくまで監視だった。最近嗅ぎまわっていると思しき人間のお目付け役として、年端も行かない少女に過ぎない私が選ばれた。理由は私にもすぐわかった。この人は、正義の味方だった。そしてそれと同時に理解したことがもう一つ、この人はきっとろくな死に方をしないということだった。
貧しい格好をし、わざと階段から転げ落ちて青あざだらけの私を見つけ、彼が保護するまではすぐだった。彼の住処の玄関付近、茶色く、烏の糞が手すりについたままのベンチに座っていたら、買い物に出かけようとした彼に保護された。
両親に虐待されるいたいけな児童を装った。実家に送られることをひどく怯えた素振りをして、素性を明かさないままを貫いた。警察に相談すると実家に帰されるから止めてくれと懇願した。親なんて、物心つくまえに死んでしまったと言うのに。
わざとつけた傷から滲んだ血と埃、砂とに塗れた襤褸のワンピースの肩ひもに手をかけて「何でもするから」と交渉した。けれどこの男は、その誘いには乗らなかった。だが、帰りたくなるまで守ってやると、私に衣食住を提供してくれた。
代価として家事をすることとなったが、その程度は雇い主たちの下で習得済みだった。男には、「親にご飯も掃除も押し付けられていた」と嘘をついた。彼は簡単に信じた。
その後の日々は、思い出したくない。それに囚われてしまうときっと、私という人間は二度と立ち上がれなくなってしまうだろうから。
雨は嫌いだ。私の両親が死んだ理由も、雨だったらしい。私がまだ、生まれたばかりで、ドライブをしていた時、雨にタイヤを取られて交通事故に繋がったらしい。私が生き残ったのは奇跡で、そうでなければ今頃は、天の上で一家団欒していたことだろう。その後、独りぼっちの人生にいいことなんて一つもなかった。雨は嫌いだ、一度ならず二度までも、私の家族を奪って行った。
私は男の監視を馬鹿正直に行っていた。彼が何を調べているか、いつ頃取材に向かっているのか。誰と情報を共有しているのか。それをつぶさに報告した。監視の延長線上に何が待っているのか知りもしないで。
そう、まさに今日だった。まだ曇り空に過ぎなかった頃、組織の上司に今週の報告を終えた時のこと。彼の暗殺が決まったのは。凶器は手渡された拳銃だった。犯人役として一人死体を用意しているから、自分に前科が憑く心配はしなくていいと上司は言った。
その後のことは、何も覚えていない。しくじったら、どういった末路を辿るのか私はよく知っていた。仲の良かった人たちが何人も、その末路を辿っていたからだ。そして、ここで私がこの正義の味方を逃がそうとしたところで、彼が他の刺客に殺されることに変わりはない。私に選ぶことができるのは、私自身の生死に限られていた。
雨は嫌いだ。憎たらしくて、見るだけでうんざりしてくる。その筈なのに、私はどこか今日の雨が必要なものだったと感じ始めていた。もう動かない、私が殺した彼の表情を見る。脳天を貫かれているというのに、その表情はいつも私に向けていた、優しい保護者の顔をしていた。
初めに胸を撃ち、壁にもたれかかった後。私がその銃口を彼の額につきつけたその瞬間。彼はひどく申し訳なさそうな顔をしていた。うすうすそうなんじゃないかと疑っていたのだと、言及しなかった自分の甘さを彼は笑っていた。笑いごとじゃないというのに。
彼が最後に、私に伝えようとした言葉は、雨音と銃声とに塗りつぶされて、目標も定まらないまま虚空を独り歩きし始めてしまった。
雨が降っていてくれて良かった。吐息を漏らすように呟いたその最期の言葉を、聞かずに済んだから。その言葉が呪いとなり、鎖となり、茨となって、私を締め付けることはきっと無いだろう。
雨がふっていてくれて良かった。命を示すこの赤が、私の瞼の裏に焼き付いてくれた。きっと私は、この罪を忘れることができないだろう。
雨が降っていてくれてよかった。流した涙を、なかったことにできるから。自分で選んだ道だ、後悔なんて似合う訳が無かった。
雨が降っていてくれて良かった。彼の息遣いを聞かずに済んだ。彼の吐息が止まるその瞬間を、知らないでいられた。
雨が降っていてくれて良かった。私の号哭さえ塗り潰して、上司たちからも隠してくれる。
やはり、雨が降っていてくれて良かった。雨のせいにする訳にはいかないのだから。雨が私の幸せを奪っているのではなくて、たまたま私が不幸のどん底に陥っている時、驟雨が通りかかるだけだ。
だから、きっと、私の中で振り出したこの雨が、止んでくれることは決して無いだろう。晴れる兆しなんて見えないのに、傘も差さずに、私は頭を垂れるように蹲ったまま、一寸たりとも動けずにいたのだった。
②のお題で参加させて頂きました。
他の方へコメントする余裕が私にはありませんので、特段私にコメントは下さらずとも気になさらないでください。応答が無い可能性があります。むしろ高いです。
ですがもし、最後まで読んでくださった方がいらっしゃるなら、お礼だけ述べさせていただきます。ありがとうございました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.17 )
- 日時: 2020/06/05 19:45
- 名前: ずみ (ID: adrD0C/g)
お題「雨が降っていてくれて良かった」
酷い雨だった。
五月の中旬、音を立てて降り注ぐそれらは風物詩と言うには些か主張が強すぎて、いつもならば余りの喧騒に耳を塞ぎたくなっていたかもしれない。
一つの水滴が、頬を伝って転がり落ちる。そのままやがては地に落ち玉砕する。でもそれらは雨に交じっては意味を成さない。私の抱くこの感情さえも、空から降り注ぐ雨が誤魔化してくれていた。
上を見ても下を見ても、どこまでも景色は灰色だった。余りに色の少ない景色。死んだ街並み。いや、死んでいるのは私だろうか。まあ少なくとも、悪い心地はしなかった。余計なものがない世界は、傷に触れるものがないから。
ああ、いっそ全てを洗い流してはくれないだろうか。この穢れた私の身も、頭に染み付いた記録も、写真に残る楽しそうなワンシーンさえも。全てまっさらになってしまえばいいのに。そしたらこんな気分だって、きっとまあ晴れるに違いないのに。
雨が降っていて良かった。もしも今の天気が晴れならば、私は否応なく思い出してしまうのだろう。君といつか巡り逢ったその日の事を。どうしようもないくらいに茹だるような暑さの、見上げれば海に白が泳ぐ晴天の日。私たちの出逢いは言い逃れできないほど恣意的で、運命などとはとても言えないものだったが、それでも私はあの日あの時、あの場所で『逢った』のだ。その事実は変えようが無い事実ではあるし、歪めようのない真実であった。
お互いに深く、愛していた、はずだった。でも間違ってたみたいだ。それは私の勝手な独りよがりでしかなくて、私はそれが耐えられなくて。そして気付けば、失っていた。誰が失わせたのと言われたら、きっと答えは私なのだろう。
もしも今この手に、君の感覚が残っていたとしたら、私はどうしたんだろうか。それを愛おしそうに頬擦りしただろうか。裏切り者の残り香を憎んだのだろうか。もう既に流れ落ちてしまったそれは、今更追いかけることも取り戻すことも出来ないし、ましてやそんな事をしたいとは思っていないので、本当にどうでもいいことなのだが。
本当に、なんの意味があったのだろう。とても短いとは言えない間の中で、目まぐるしく感情を乱高下させ、身体を何回も交わらせ、何度だってお互い証明しあったはずだ。それなのにいつからか、感情は死に絶え、優しさも失い殴り合いみたいに身体を重ねるようになり、お互いの感情を証明することが怖くなっていった。こんな関係、続けるのは馬鹿馬鹿しいものではあったけれど、でも失ってしまえば、それこそ私はただ馬鹿になってしまう気がしていた。結局、私はその馬鹿になってしまったのだけれど。
もし意味があるとすれば、多分それは本当に最後の最後だけだったのだろう。
愛する人を、自分だけのものにする感覚。心の中のみに閉じ込め、私以外の誰とも関われなくすること。その感覚と行為のみが、私が得たものだった。
その際生じた目が痛くなるような彼の赤も、黒も、さっきまで私にこびりついていたはずだったけれど、いつの間にか流れ落ちていた。誰かにあの人を見られることも無かった。蔓延る鉄の匂いだって、誰か他の人に知覚されるより先に、流されてしまうのだろう。そうやってあの人の全てが洗い流された頃に、あの人は本当に私の心の中だけのものになる。
ああ、本当に。
雨が降っていて、良かった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.18 )
- 日時: 2020/06/06 17:40
- 名前: 海原ンティーヌ (ID: f8sp8LGo)
「今日朝食ってねぇんだよな」
「マジで? 雨が降っててくれて良かったな」
笑いながら友人が言い放つ。俺はつられて頷きかけたが、咄嗟に首を横へ捻り返した。なんで、雨? いや、そもそも雨なんて降っていただろうか。友人は神妙な顔をする俺を不思議そうに見ている。
「雨とか降ってなくね」
「は? 降ってるだろ」
友人はそう言って俺の背後を指さした。俺はノータイムで振り返る。窓枠に切り抜かれた青い空から、沢山の影が今まさに落ちてきていた。ピンク、紫、オレンジ、黄緑。ご丁寧に包装までされた、数えきれない程の『飴』たちが、すました顔で次々と降り注ぐ。
あんぐりと口を開けた俺に、友人は心底嬉しそうな声色で笑った。
「後で拾いに行こうぜ」
『雨が降っていてくれてよかった』
タイトルは特にございません。
314文字なのでセーフかな……と。お納めください。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.19 )
- 日時: 2020/06/07 00:16
- 名前: かるた◆OCYCrZW7pg (ID: 1QZ0dT0Q)
初めまして、普段は小説板の方でちまちま小説を書いている者なんですが、ヨモさん主催のスレが立って嬉しくてしばらく読み専をしていたので、感想だけこちらに置かせていただきます。お前に感想貰いたねえよと思った方がいたらこそっと教えてもらえると削除しますので、お気軽に仰ってもらえると嬉しいです。
好きだなと思った作品に絞って書かせていただきます。
>>005 Thim様
初めまして、コメライの方で作品を書かれている方なので一方的にですが存じております。お題に合った童話風の文体が美しくて好きです。恋に落ちると周りが見えなくなる、といいますがその典型なのかな、と思いました。恋は命より尊いもの、という台詞がまさに恋に狂っている感じがしてとても好きです。元ネタ知らなかったんですが、すごく楽しめました。続きを楽しみにしております。
>>011 12様
初めまして。すごい好きな雰囲気の文章なので知ってる方の可能性もありますが、誰かはわからないので初めましてで失礼します。好きすぎました、語彙力がなくなるぐらい好きです。そんなに百合読まないんですが、12様のこの小説を機にそういう小説も読んでみようかなって気持ちになりました。三葉ちゃんの愛はいい意味で一途で深くて、そして歪んでいるっていうか、そういう愛の形もまたいいよねって思いました。先輩も三葉ちゃんの愛を受けて彼女に溺れる表現が、少しずつ毒に侵されていく感じでいいなと思いました。起承転結がしっかりしていて、すごく綺麗に終わっていてSSとして私は最高だなって思いました。素敵な小説をありがとうございます。読めて幸せでした。
>>016 ひが様
描写力がすごくて読んでいて悲しくなりました。お題に一番合ったアンサーみたいな作品だなって思いました。正解なんてもちろんないと思ってますが、このお題に一番似合うお話だと純粋に思いました。雨が降っていてくれて良かった、その言葉には彼女のたくさんの感情が詰まっていて、最後の数行で泣きそうになりました。彼が分かっていてなお彼女のそばにいたこと、彼女に優しく接したこと、一緒に過ごした時間がこんなにも苦しく辛いものになると思いませんでした。
最初は何でも信じて馬鹿なおじさん、とでも思っていたはずの彼女が最後には「雨が降っていてくれて良かった」と何度も繰り返し思い込もうとしているほど、彼が大事な存在だと気づいたこの変化がとても好きです。全く応答なくて構いません。こちらこそ素敵な小説をありがとうございます。
また時間ができたときに他の方の小説も読んで感想書きに来たいと思います。書けたら小説も投稿できたらなと思っております。お題も好きなものばかりで、ヨモさんのセンスの良さを感じます。これからも作品がたくさん増えて、たくさん交流ができる場になればいいなと陰ながら応援しております。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.21 )
- 日時: 2020/06/07 21:59
- 名前: ヨモツカミ (ID: P2KlADJo)
>>20 綾音ニコラさん
はじめましてこんばんは。
ええと? 投稿する上での最低限のルール、読めなかったのかな? とおもうので、いいますね。
*お題に沿ってない作品の投稿はやめてください。
ルールは守らないとみんなが気持ちよくスレを利用することができなくなります。
せっかく投稿してくださったのに申し訳ございませんが、その作品は削除して頂けると嬉しいです。
次参加するときはお題に沿ったSSを投稿してください。
あと、あんまり未完成品を投稿するのも推奨していません。完成してないないのにどうしてそれを堂々と投稿するのかなって気持ちになります。あとで加筆するならまだしも、未完成でお題にも沿ってないとなると、もう場違いですので、そのへんをよく理解して頂いた上でまたの参加をお待ちしております。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.22 )
- 日時: 2020/06/07 23:49
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: 9xFDIMsA)
さ、再チャレンジします………!
【毒に侵される神】
『ふぅん………君はしょぼいね。』
目の前にいる僕にそっくりな神が言った。
「………お前は何様だよ?」
『神様。』
「………ボケかますんじゃねぇよ。本当にお前は誰だよ。」
『さァ、誰だろうね?』
神は冷たく笑い、僕をじろじろと見る。
『お前、見た目しょぼいし、もうちょっと派手にできねぇのか?しかもそんな下ばっか向いてさ、死人みたいな顔してやんよォ?』
「うるさい。お前になんで僕がいろいろ言われなきゃなんないのさ。」
『神になりたてのおこちゃまだな。』
「黙れ………僕はこれから師匠から与えられた試練があるんだよ。」
『………あっそ。』
今は…………ちょっと休憩に洞窟に来たんだが。
ただ、今喋っている神は、僕にとっては僕の悪い所ばかり指図する“毒”だ。
言葉自体に毒が染み込んでいる。投げかけられるととても痛い、毒。
『まァ、人間上がりのくせにな。』
「………!てめぇ………」
神の中でも元人間の奴は落ちこぼれとみなされる。
僕だってさんざん馬鹿にされた。
そんな自分を変えたかった。
何故、人間上がりは落ちこぼれなのか。
何故、馬鹿にされるのか。
神は僕の心を読んだかのように言った。
『可能性は無限大だ。』
その瞬間、神の姿が割れた。
ぱりんっ、と。
破片が僕の足元に儚く散る。
「は………?」
その破片を手に取る。
「か、鏡………!?」
そうか、あいつ、ヤケに僕にそっくりだった。
つまり…………
「未来の、僕…………!」
毒はあいつじゃない。僕の弱い心だ。
僕の弱い心が、毒だったんだ………。
『可能性は無限大だ。』
可能性は、無限大…………!
あいつは、僕を罵りに来たんじゃない。
僕に自信を持たせに来てくれたんだ………。
ありがとう、僕。
僕は毒の張る洞窟から出た。
青空が手にある破片に映った。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.23 )
- 日時: 2020/06/08 01:26
- 名前: 綾音ニコラ@MRK (ID: Yaoo.hQw)
>>21
申し訳ありませんでした、お題の部分を見てなかったので、いつかまた別の日に投稿しようと思います。『未完成』というのは一応演出上の話で、その点も説明不足でした。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.24 )
- 日時: 2020/06/12 13:12
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 2WotnGCk)
ちょっと書き直してました
お題③ 「花、童話、苦い(三題噺)」
タイトル「ヒマワリ」
昔々ある国に、一人の女の子がいました。彼女は、ある日一冊の本を貰いました。
その本には、素敵な花のタイトルがついたたくさんの童話が納められていました。赤薔薇、スズラン、ポインセチア───その話の中では、素敵な男性が現れて、ヒロインを救ったり、真実のキスであったり……。幼い少女にとって、それは憧れ夢見るものであったでしょう。
そのなかでも、一番少女の心に残ったのは『アサガオ』というタイトルの童話でした。
童話集のなかで、その話だけが異彩を放つかのようにバットエンドだったのです。
その物語の中では、ある少女は一つ年上の少女に恋をしています。その少女の願いは叶い、彼女とやがて結ばれました。でも、神や周りの者たちはそれを認めません。怒った彼らは、二人の仲を引き裂いてしまいました。
それを読んだ少女は、その事に疑問を抱きます。何故女の子同士で恋をしてはいけないのか。そして彼女は、母親にこう尋ねました。
「どうして、女の子どうしで恋をしてはいけないの?」
と。そう尋ねられた母親は少し戸惑ったような顔をして、少女に言い聞かせるように答えます。
「あのね、それはいけないことなの。ずーっと昔から、決まっていることなのよ。」
そう答えられた少女は、いまいち納得していないような顔をしながらも頷きました。
月日が経って、あの時の少女は可憐な年頃の娘になりました。彼女は幸福でした。素敵な彼氏も、幸せな家族も、優しい友達も、そして自分自身の美しい容姿も持っていたのですから。
ある日、少女は彼に求婚されました。少女は、喜んでそれを承諾しました。彼は笑うと、そっと唇を重ねました。
その時、彼女は不意に『アサガオ』というタイトルの物語を思い出したのです。女の子同士の、叶わぬ恋の物語───彼とのキスの味が、いきなりとてもとても苦くなりました。
何故だろう、と思っているうちにかれは唇を離しています。
そのことを、娘は女友達に話しました。彼女は面倒見も良くて、ヒマワリのような昔から仲の良い友達の一人でした。ずっと彼との仲の面倒を見てくれていて、男にも女にも好かれる性格をしています。けれど、昔から誰一人として彼氏と付き合ったりしないことを娘は不思議に思って居ました。
それを相談された友達は、悪戯っぽく笑うとこう言います。
「ねぇ……なら、あたしとキスしてみない?」
そう言われた少女は動揺しました。かつて、女の子同士で恋をしてはいけない、とは母親に言われたことを思い出したからです。恋が駄目ならキスもダメなのでしょうか。でも、少女は気になっていました。なぜ彼とのキスの味が苦くて仕方なかったのか、が。
それに、きっと「友達」なら問題ないよね、と彼女は思います。
「うん……良いよ。」
その言葉とともに、二人の乙女の唇がそっと重なりました。
ああ───どうしてこんなにも、女の子とするキスは甘いのでしょうか。背徳的なことをしているということが、こんなにも甘い理由なのでしょうか。彼とした時の苦さが嘘だったかのような甘さに、少女は頭がクラクラしてきます。
永遠とも思える数秒が過ぎて、友人はそっと唇を離します。
「ねえ……甘かった?」
「うん……とっ、ても。」
蠱惑的な笑みを閃かせた友人は、そっと少女の肩を抱くと耳元で囁きます。
「もう、離さないから。」
【百合初挑戦です。なんか…………三題の要素、薄くないですか?】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.25 )
- 日時: 2020/06/09 19:54
- 名前: ヨモツカミ (ID: 2ZbROfCM)
リリーオブザヴァリー
──村はずれの森の中には、けして入ってはいけないよ。あそこには悪い魔女が住んでいるからね。
そんな母の言いつけを破りたくなったのは、ちょっとした喧嘩が原因だった。本当に些細なことで、自分が謝れば円満に片付いたことくらい、ノエルだって理解していたくせに、どうにも素直になりきれなかった。もっと幼い頃ならすぐに言えたごめんなさいも、思春期の少年の口からは憚られるものになっていて。
魔女なんて出鱈目だ。子供を脅す、大人が作った都合のいい嘘。そう言い聞かせて、薄暗い森を早足に進んでいく。未知の場所に踏み込んでいく高揚感に、ノエルの足取りは軽かった。
愚直に母の言うことを聞いてきた人生の中で、初めての反発だから、その背徳感とか後ろめたさも相まって、不思議な気持ちだった。でも、心地よい。いい子ちゃんのノエルはもうやめにした。村の子供たちがどんなに悪いことに手を染めても、真似する勇気が出なかったのに、どうして今日ばかりはこんな行動に出たのだろう。それこそ、森の奥の魔女が呼んでいたのかもしれない。
随分深くまで来たと思ったが、何も見つからない。真っ直ぐに進んできたから帰れないということはないが、これ以上奥に行くのは不安だ。森の冒険は、思ったよりも味気ないものだった。だって、ただ同じような木が並んでいるだけで、何があるという訳でもなかったのだから。大人たちの嘘を信じていたわけじゃないけれど、魔女に出会えるかと思っていたのに。
期待外れだ、と考えながら空を見上げる。来るときは青空が見えていたのに、いつの間にか雲が庇っていて、それで、木々の隙間から建物の影が見えた。もっと、森の奥の方に。大きな屋敷のようなものがある。本当に魔女が。そう思ったノエルは、恐怖と高揚感の入り混じったふわふわした足取りで森を進んでいく。
木々を抜けた先に、寂れているけれど立派な門があって、その先に古そうな厳しい屋敷があった。
門は人が一人通れる程度に空いている。ノエルは足音を忍ばせて、そこを潜り抜けた。
人気がない。廃墟なのだろうか。確かにこんな森の奥に人が住んでいるわけもない。そう考えながら、屋敷の二階の窓を見上げたとき、ノエルは思わず息を呑んだ。
銀色の絹糸みたいにサラサラの髪の毛と、緑の大きくて丸い瞳。あまりにもきれいな顔をしているから、人形にすら見える女性が、窓からずっと遠くの景色を眺めている。
遠くてわかりづらいのに、絵画の中から抜け出してきたみたいに目鼻立ちの整った彼女を視界に入れた途端、ノエルは鼻の奥がツンとする感覚を覚えた。あ、と思ったときには両目から涙が溢れていた。きれい。そう、息を呑むほどに美しいものを見たから、あまりにも感動して、涙が形になって零れたのだ。
本当にきれいだ。ただ無表情に外を眺めているだけのその人から、目が逸らせなくなった。
あの人は、何を見ているのだろう。遠くには雲に覆われた空があるだけだというのに。鈍色と木の緑を見て、何が楽しいのだろう。
本人に、直接それを聞いてみたい。あの人の声を聞いてみたい。実際に話をしてみたい。そう強く思った。
ずっと見つめていると、ノエルの思いが届いたのか、不意に女性の視線が下に降りてきた。こちらに気付いた。目が合ったのだ。嬉しくなって、ノエルは大きく手を振った。彼女はそれをあまり興味なさそうにしばらく眺めてから、するりと窓辺から離れていってしまった。
ああ、見えなくなってしまった。行き場を失った手を引っ込めて、地面を見つめる。なんだろう、この胸の高鳴りは。涙で濡れた目元を拭いながら考える。彼女のことを考えるだけで、体が火照った。なんだろうこの感覚は。僕はおかしくなってしまったみたいだ。ノエルは熱い頬に手を当てて、冷やそうとする。
きれいだった。ずっと見つめていたいほどに。
そうだ、話がしてみたい。ノエルは屋敷の玄関に駆け寄った。まだ胸が高鳴っている。ドアノブに手を伸ばすのを躊躇って、でも意を決して。そうして触れた瞬間、力を入れていないのに扉が奥に引かれていったので、ノエルはギョッとして小さく悲鳴を上げた。
「何方?」
凛とした声に顔を上げると、緑と白のドレスに身を包んだ、先程の美しい女性が仏頂面で立っていた。心臓が飛び出るかと思った。この人は、声までこんなにきれいなのか。
「あっ、う、えっと……あのっ……」
ノエルは言葉に詰まって、一気に顔の体温が上がるのがわかった。
近くで見たら、肌が陶器みたいに白くて、長い睫毛に縁取られた瞳は翡翠を嵌め込んだみたいに透き通っている。ドレスと相まって、物語の中のお姫様みたいだと思った。
「ぼく、ノエルと申します……っ」
やっとの思いで出た声は緊張で裏返って、こんなに格好悪いところを見せてしまったと思うと、もっと顔の温度が上がっていく。もうノエルは耳まで真っ赤になっていた。
女性はそんなノエルの様子を見て肩を竦めながら、肩にかかっていた長い銀糸を払った。
「貴方、村の子供ね。こんなところに来ちゃ駄目でしょう? お母さんにそう言われなかった?」
母の言いつけ。不意に思い出して、ノエルは彼女の姿をもう一度よく見る。長くて艷やかな銀色の髪と、精緻な顔に、少し時代錯誤なドレス姿。美しい見た目に惑わされて、忘れかけていた母の言葉を思い出す。森の奥には、悪い魔女がいる。でも、彼女の姿は少しも魔女には見えない。そもそも魔女なんてものがいるなど信じてはいないが。それでも、もしかしたら。
「あ、あなたが、魔女……なんですか?」
ノエルがおずおずと尋ねると、彼女はふっ、と息を吐いて、その拍子になんだかもっとおかしくなってしまったのか、ふふふ、アハハと腹を抱えて笑いだした。
笑った顔は少し子供っぽくて可愛らしい。ノエルは彼女の一挙一動に魅了された。
一頻り笑いきると、涙に濡れた目元を拭いながら、彼女はとびきり馬鹿にしたような口調で言う。
「魔女なんているわけ無いでしょう? ふふ、村では私のことそう言われているのね。ふふふっ、おかしい」
魔女じゃないんだ。じゃあこんな森の奥で一人、彼女は何者なのだろう。
「あなたは、誰なんですか?」
訊ねられると、彼女は急に表情を失って、少し考えるような素振りを見せてから口を開く。
「ノエルって言ったかしら。丁度これから朝食を食べるところだったから、ご馳走してあげるわ。さあ、上がって頂戴」
「えっ、いいんですか? でも……」
「遠慮しないで。それとも、私が怖い?」
冷ややかに微笑んで見せる。その氷のような笑みもまた、彫刻の如く美しくて、彼女の言う通り少し怖いくらいだった。でも、もう完全に彼女に引き込まれてしまっていて。ノエルは彼女に招かれて、屋敷の中へと足を踏み入れた。
広くて立派な屋敷の中には価値の高そうな彫刻や絵画が幾つも飾られていて、天井にはきらびやかなシャンデリアが吊るされている。見惚れてキョロキョロとあたりを見回しながらも、ノエルは彼女の後をついていく。それら全て、物語の中でしか知らなかった物が現実にあることが不思議で、ノエルは本の世界に飛び込んでしまったような錯覚を覚えた。揺れる緑のドレスの裾と銀糸の束も、現実ではない気がしてきて、急に自分は家に帰れるだろうかと不安になって、後ろを振り返る。
チョコレートの板みたいな大きな扉は確かにそこにあって、今すぐ駆け寄って開け放てば、またあの森が広がっていて、まっすぐ走っていけば村に戻れるはず。
「どうかしたの?」
鈴を転がしたような声に、弾かれるみたいに彼女の方を見た。何でもないです、と早口に告げると、そう、と興味もなさそうにまた歩き出すので、ノエルは再び彼女の後に続いた。
通された部屋の中央には、長いテーブルが置かれていて、椅子もいくつもあって、それも何かの物語で見たことのある貴族の食卓という感じで、ノエルは目を輝かせて凄い、と声を漏らした。机に等間隔に配置された燭台や白い花の入った花瓶も、本物を目にすることになるとは思わなかった。
「適当なところに座っていて頂戴。私が作ったスープを用意するから」
「あなたが作るんですか? 使用人とかは……?」
ノエルが思わず訊ねると、彼女は不敵に笑った。
「基本的に此処には私一人しかいないの。お掃除をしに来る小間使いが何人かいるけれど、今はいないのよ」
それがどうしてなのか。それを教えてもらう前に、彼女は奥の部屋に行ってしまったので、ノエルは仕方なく、彼女に言われた通りに一番近くの椅子に腰を下ろした。
目の前には精緻な彫刻の施された花瓶があり、そこに何本かの鈴蘭が生けられている。可憐で儚い印象のある鈴蘭は、なんとなくこの机の上には似合わないような気がした。もっと華やかで鮮やかな色彩の花を生けるのが自然なんじゃないか。そう考え始めると、余計に鈴蘭が不釣り合いな存在に思えてきた。もしかしたら、彼女が特別好きな花なのかもしれない。
そんなことを考えていたら、木のトレイにスープの入った木製の皿とスプーンを乗せて、彼女が戻ってきた。コトン、と音を立てて机にトレイを置いてから、ノエルの目の前にスープの皿とスプーンを置く。
クリーム色の液体に様々な野菜と肉が浮いていて、バジルと胡椒が振りかけられている。美味しそうな匂いのする湯気を吸い込んだ途端に、急にお腹が空いてきた。そうだ、今日は何も食べずに家を飛び出してきたんだっけ。
「どうぞ、召し上がれ」
ノエルの前の席に腰を下ろした彼女が笑顔で促してくる。いただきます、と手を合わせてから、ノエルはスプーンをスープに浸して、口に運んだ。ろくに冷まさなかったせいでちょっと火傷しそうになる。でもクリーミーな舌触りと丁度いい味付けでとても美味しい。野菜と肉の旨味が溶け込んでいて、良い風味がする。
「美味しい! 凄く美味しいです」
そう言ってノエルが夢中になって口に運ぶのを、彼女は嬉しそうに見守っていた。
「ふふ。そうでしょう? 私、身の回りのことは自分でやってきたから、料理も得意なの。残さず食べてね?」
はい、と元気よく答えて、もう一口口にしたとき、異変が起きた。ノエルが、持っていたスプーンを床に落として無機質な音が響く。
「……?」
突然、手に力が入らなくなったのだ。なんで、と思って指先を見ると、寒くもないのに震えていた。なんだろう、と考えていると急に酷い吐き気に襲われて、ノエルは口元を抑える。喉が焼けつくような錯覚。耐えきれずに吐き出して、掌を見ると、真っ赤な液体が付着していて急速に背筋が凍りつく。血を吐いたんだ。どうして。縋り付くように彼女の方を見ると、呆れたように溜息を吐く彼女と視線が合う。
「やっぱり、駄目なのね」
なにが、と聞くより先に不意に呼吸が苦しくなって、ノエルは喉を押さえた。心臓がおかしいくらいの速度で胸を叩いている。体が熱い。息が苦しい。
なんだこれ。おかしい。死んでしまうかもしれない。このスープを飲んでからこうなった。まさか、まさか彼女が。
「なに……入れ、たの?」
「何も? 何も入れてないのに、こうなっちゃうのよ」
息が苦しくて、視界が回る。ゲホ、と咽るたびに口の中に血の味が滲む。死んじゃう。毒だ。スープに毒が入っていたんだ。
目元に涙を滲ませて彼女を睨みつける。この人は僕を殺すつもりだったんだ。酷い。声にならない言葉を訴える。それを読み取ったみたいに彼女は微笑んだ。
「大丈夫、貴方は死なないわよ。人間ってね、しぶといの。この程度じゃ死んでくれないわ」
そう口にしながら、机の上の花瓶の中の鈴蘭を一本手に取ると、それに彼女は息を吹きかけた。瞬間、白い花と茎は朽葉色に色付いて萎れる。
「生まれつき、私の家系には呪われた娘が産まれるの。その呼気にすら毒が含まれていてね、側に居すぎた者はその毒に当てられてやがて命を落とす。だから、私の作った料理すらも毒を持つの」
彼女は朽ちた花を放って、ノエルが食べていたスープの器を手にとって、口をつけた。
「美味しい。私が私の毒を摂取しても何の問題も無いのに、貴方が口にしたらこうなってしまうなんて、酷い話よね」
「ぐぁ……ひゅ、」
「可哀想に。私に近付いたからこうなるのよ。これに懲りたらもう、この森に近づいちゃ駄目よ」
言いながら彼女は長い机を迂回して、ノエルの肩と膝の下に手を回して、抱え上げた。酷い吐き気や倦怠感でされるがままのノエルは、思わず彼女の顔を凝視する。密着したことでより側で見ることができる彼女の表情は、憂いを帯びていた。伏せられた長い睫毛の下、潤んだ翡翠がとても美しかった。こんな状況でも漠然と彼女の美に浸る自分は馬鹿だな、と思う。
でもなんで、そんなに悲しそうな顔をするのだろう。
「空き部屋の寝台に寝かせといてあげるから、具合が良くなったら自分で帰ってね。私は側にいたら、貴方を殺してしまうから、別の部屋にいるけれど。私を探したりはしちゃ駄目よ」
そう言って、彼女はノエルを連れて食堂を出て、階段を上がって長い廊下の一つの部屋に入った。最低限のものが並んでいる部屋のベッドに寝かせられると、横になったことにより、少し楽になった気がした。
おやすみなさい。そう声をかけられたから、ノエルは目を閉じる。
混濁する意識の向こうで、彼女が言葉を零すのが聞こえた。
「ねえ、本当は貴方が来てくれて嬉しかったのよ。毒の娘はこうやって森の奥に隔離しておくしかないって、誰も会いに来てくれないんだもの。お伽噺みたいに、王子様が迎えに来て、私を連れて行ってくれるのをずっと待っているの。ふふ、叶いもしない夢は儚いものね」
それから暫く寝込んでから、目を覚した。ノエルは体がなんともなくなっていることに安心して、胸を撫で下ろす。そうして、彼女の言い付け通り、屋敷の中の彼女を探すことなく真っ直ぐ出口に向かった。
空は薄い紫と深い青のコントラストに染まっていて、陽は沈みかけていた。それだけ長いこと自分が眠っていたのだと知る。
去り際に、来たときと同じように二階の窓を見上げると、思った通り彼女がいた。遠くの空の境界をひたと見つめるその表情には、やはり何処か寂寥感が漂っている。
空と木ばかりの景色を見据える、その理由。結局聞き逃してしまったな、と思いながらノエルは森の中を進む。
でもなんとなく、理由を想像することはできた。彼女はきっと、迎えに来る誰かをひたすらに待ち続けているのだ。一人きりの屋敷で、今も寂しく待ち続けている。
毒がそれを阻もうとも、諦めきれなくて。毎日、誰かが連れ出してくれるのを。
***
お題、毒。
閉じ込められた美少女と何も知らない少年という関係にエモーショナルを覚えます。数年後にノエルが迎えに来たらいいな、とか。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.26 )
- 日時: 2020/06/10 01:25
- 名前: Thim (ID: 80.79Ojs)
>>5続き
月明りを悠々と背に飛んでくる彼女が見えた。薔薇の木から離れた茂みにかくれている私に気付いていないようだった。降り立った彼女に薔薇の木は恐る恐る、と言った様子で話しかけました。
「小鳥。本当に、本当に良いのですか?」
元々薔薇の木は、この方法を彼女に教える事を渋っていました。もしここで彼女が“やりたくない”と一言でもいえば、少しでも態度に表せば止めるつもりだったのでしょう。私だってそう願っていました。なのに、なのに彼女は……。
「はい」
そう言って、希望に満ち溢れた声で笑うのです。何も問題ないと、薔薇の木がせっかく作ったチャンスをふいにして。自分の命を犠牲にして薔薇を作ることが正解なのだと、本気で思っているのです。
その時、私の中の名にかがプチンと切れたような、そんな気がしました。
「だれですか!?」
わざと音を出して茂みから身を乗り出した私を見て、彼女が驚いて目を丸くさせたのが、この暗がりでもよく見えました。
「! いけません、いけません。小鳥! 逃げるのです。このままでは貴女が食べられてしま……っ」
「食べません、食べる訳がないわそんなもの!」
薔薇の木が狼狽えながら彼女を逃がそうとする言葉を聞いて、吐き捨てるように言った。私の怒りの言葉は月光しかない空間にはよく響きました。
私はギッと、彼女を睨みつけます。
「貴女、本当にそれでいいと思っていらっしゃるの?」
「聞いていらしたのですね、名も知らぬ貴女。えぇ、勿論です。私はここで死に、赤い薔薇を手に入れるのです」
「っ馬鹿も休み休みに言いなさいな! 人間の為に、赤い薔薇如きの為に、貴女自分の命を散らすのが正解だと、本当に思っているの!?」
「いいえ。違います。私はね、愛の為に死ぬのよ」
私が炎ならば彼女は風のよう。激情に身を任せ怒鳴り散らす私とは反対に、彼女は落ち着いたもので、天敵である私を目の前に笑みすら浮かべていました。その笑顔には恐怖も諦めもなく、あるのは希望と愛だけ。私は彼女の表情を見て思わず言葉も失ってしまいました。
どうして、そんなふうに笑っていられるの?
理解不能。本能的な恐怖を感じ、咄嗟に一歩後ずさる。だけど、その瞬間に彼女が薔薇の木のある場所へと向かうのをみて、過去で一度も感じたことがない程大きな嫌な予感がして駆け出した。全ての物事が時が遅く流れているかのようにゆっくりとなり、私はそれをまざまざとみせつけられました。
彼女は薔薇の木のある場所に、胸を近づけ―――あぁ、だめ。だめよ。だめっ!
「やめてえええええッ!」
―――ザシュ
あっけない程に簡単に、薔薇の棘は彼女の胸に刺さった。一目で、もう手遅れだと分かる程に深く深く。
月明かりに照らされた彼女は苦痛に顔をゆがめ、しかし満足げに笑って歌った。恋の歌を。愛の歌を。へたり込む私なんて見えていないかのように、希望に満ち溢れた声で。
―――いつしか、歌っていると感じた視線の方
―――見ているだけ。姿を現してはくれない
―――会いたい。会ってみたい。そうしたらきっと
―――愛も恋も分からなかった私でも、分かるような気がするの
―――この歌を、貴女に捧げます
その歌は、今まで何百、何千と聞いてきた私でも聞いた事がない歌でした。
今までの迷いなく歌ってきた物とは違い、とぎれとぎれで、迷っているような、戸惑っているような、そんな歌でした。
それを最後に、彼女は歌うのをやめました。
ぱたりと地に伏せ、起き上がらない彼女の元に、這うように近づいて、恐る恐る彼女の顔を覗き込むと、真っ青な顔で……でもひどく満足そうに微笑んだまま彼女は固く目を閉じていました。
「小鳥、小鳥! 咲きましたよ、赤い薔薇が!」
薔薇の木の声に辺りをみて見ると、彼女の胸から滴り落ちる血は棘を伝い、いつの間にか一本の薔薇を咲かせていました。どの花屋でも見たことがない程に、綺麗で、美しい……
「っなにを、何を寝ているのです。咲きましたよ、貴女のお陰でとても綺麗な……っ」
綺麗な、薔薇が。
いつの間にか月は沈み、日が昇りだしていました。
徐々に体温を失くしていくその小さな体に縋りつき、何度声を掛けようと、彼女が目を覚ますことはありませんでした。
***
ひねり出しました。違和感が残りますが、そこらへんは後で指摘して下さると信じ投稿します。
あと一話で終わります!それが終わったら読んでくださった方への返信と、皆様の作品を読みたいです!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.27 )
- 日時: 2020/06/12 12:35
- 名前: ヨモツカミ (ID: Dd.WSmZ.)
ちょっとずつ返信していきます。
>>16ひがさん
悔しくなるくらい上手くて、でも素直に好きな話だったなて。優劣をつけるための企画じゃないから変なことは言えないけど、上位にランクインする作品って感じしましたね。
繰り返される“雨が降っていてくれて良かった。”
大嫌いで二度も家族を奪った雨に濡れて打ちひしがれる少女の姿がありありと浮かんできて、銃創に似た読後感を残してくる。この少女と家族になった男の関係が好きすぎるし、短いお話の中でその深い関係を表現するのも、この物哀しい読後感を突きつけてくるひがさんの文章力にもうえっうえってなる。やっぱひがさんは上手いなあって、くそ、結局あなたを褒めてしまう、私はどうしたら……!!
いいお話を書いてくださってありがとうございます……私はこういうのが読みたくてこの企画を始めたんや!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.28 )
- 日時: 2020/06/12 16:58
- 名前: ヨモツカミ (ID: Dd.WSmZ.)
>>17ずみさん
明確に書かれてないから赤や黒、こびりついていたという描写から推測するしかないですけど(読解力が低いので間違っていたらごめんなさい)愛していた恋人を殺してしまったってことですかね。殺して、自分だけのものにしたって感じかな。台詞が一つもないし、明確な表現をせずに描写する力とか、語彙力の高さから上手い文だなってわかるので、なんだか尊敬します。
こういう書き方できたら楽しそうだな、と私にはない力を感じるので参考にして勉強したいなって感じます。
>> 18海原ンティーヌさん
飴ちゃんだ~。可愛らしい話ですね。友人と主人公も仲良さそうで楽しげでいいですね。
こういうハッピーで楽しいお話しもたまに読むと素敵な気分になれます。
>>22スノドロさん
未来の自分が勇気づけてくれる、シリアスが多めなここでは珍しい明るめなお話でいいですね。
台詞で説明するだけじゃなくて、もうちょっと情景描写を増やすともっと素敵な作品になると思います。
>>23綾音ニコラさん
ちょっときつい言い方しちゃったかもしれないですね、今度から気をつけて頂ければ大丈夫なので。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.29 )
- 日時: 2020/06/12 18:10
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: 8LNT1gFg)
【俺とあいつとそっくりな】(雨が降っていてくれてよかった)
「…………あ、雨。」
校門を出て気付いた。灰色の空から小さな雫が地面を叩きつけている。
まるで、あいつみたい。
『ねぇ晴竜。僕のこと、忘れないでよ。』
『忘れる訳、ねーだろ………!』
ポロポロと涙を流す俺。目の前には、俺と瓜二つの顔。
『泣くなよ。僕にそっくりな顔が、壊れちゃう。僕も泣いちゃうよぉ………』
忘れようと決めた顔が、雨の日には、絶対にでてくる。
その顔は、いつも泣いている。
「泣くなって言ったのは、何処の誰だよ………」
雨は何故か、地面には思いっきり叩きつけているのに、俺には、優しくあたる。
俺の肩を、とんとん叩いて、慰めるように。
「………お前、そんなに俺を慰めるんなら、実際に会えばいいじゃねぇかよ…………」
その雨は、何故か温かった。
雨が降る日は、雨竜と逢える、大切な日。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.30 )
- 日時: 2020/06/12 20:55
- 名前: ヨモツカミ (ID: Dd.WSmZ.)
>>24心ちゃん
この物語もまた、その童話集の中の一つの「ヒマワリ」という作品なのかなって思うとめっちゃ素敵ですね。アサガオの話は花言葉の「儚い恋」とかからですかね。ヒマワリは「あなただけを見つめる」とかですかね? 女友達の方はずっと少女のことを見続けていたのかな。違ったらごめんね。
三題噺としての要素はちゃんと含まれてると思うから安心していいです。そもそもこういうの、本人の尺度でいいと思うし。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.31 )
- 日時: 2020/06/13 10:14
- 名前: かるた◆OCYCrZW7pg (ID: xzd4LKXI)
「 嫌いなひと。 」
唐突なテスト返却。そこで私は18点の物理の結果にご対面した。ぶっちぎりの最低な結果を見た瞬間、私はおにぎりを作るようにぎゅっと強く握りつぶしてカバンの中に突っ込んだ。どうしよう、と一瞬の焦りを見せたけれど、そんなことで動揺してちゃいけない。これくらい平然と私はお母さんに見せられる。そりゃ雷が落ちてくるのは決定事項かもしれないけれど、そんなのテストを受けた時からわかってたことだし、そもそも私がいい結果を持って帰ってくるなんてお母さんは微塵も思ってないはずだ。大丈夫、大丈夫。何度も繰り返しその言葉を心の中で唱えたけれど、私の心臓のバクバクは止まらなかった。
放課後、窓の外を見ると雨が降っていた。土砂降り、というのがぴったりの雨。地面に打ち付ける雨音がまるでお母さんの怒りのようで、私は帰る気が少しだけ失せてしまった。
「傘、わすれた」
学校に置き傘をしていたのも、この前使ってしまった。この時期は雨が多くて憂鬱だ。スマホで天気予報を調べると、夕方からは雨が続くと書かれてあった。そういや家を出ていく前にお母さんが何か叫んでたけど、あれは傘を持っていけということだったのかもしれない。
迎えを呼ぼうとして、家族の予定を調べた。お母さんは今日はおばあちゃんの介護に行ってるし、お父さんはきっと今日も残業だ。この雨の中びしょ濡れになりながら走って帰らなきゃいけないことが判明して、私はうんざりしながら下駄箱に向かった。
生徒玄関の扉が雨風のせいでガタガタ揺れている。靴に履き替えて外に出ようとした瞬間、大きな雷の光が見えた。目を瞑ってぎゅっと手を握った瞬間、ゴロゴロと大きな音が校内に響き渡った。
「む、無理。死んじゃう、わたし、今日帰れないかも。無理」
雨は嫌いだ。むかしのことを思い出すから。
兄さんが私をひとりぼっちにして、いなくなっちゃったあの日のことを思い出すから。
「なにやってんの、お前」
上から降ってきた声に、思わず私は目を開く。その私を馬鹿にした声には妙に聞き覚えがあった。
「に、兄さん」
私が世界で一番誰が嫌いかと聞かれれば、きっとすぐに答えられるだろう。だって兄の名前をすぐに即答するから。いつだって、私のことを馬鹿にして、私のことを下に見てる。そんな兄が私は嫌いだ。
「何しに来たの」思わず一歩後ろに下がって目を逸らす。兄さんの顔を見たのは一週間ぶりくらいだろうか。こんな時に限って最悪だ。雷が怖いことなんて死んでもバレたくないのに。
「迎えに来てやったのに、酷い態度だな」兄さんは私に傘を放り捨てるとはあと大きなため息をついて頭をかいた。
「っていうか、傘、一本しかないんだけど」
「あー、家にそれしかなかったから」
「じゃあ兄さんどうやってここまで来たの?」
「は? タクシー乗ってきたよ。濡れたくないし」
「傘、なんで一本しかないの、おかしいんだけど、どうやって帰るつもり、って、あ」
「俺にもう一回タクシーで帰れっていうのかよ、ばあか」と兄さんは持ってきた傘を開いて私を呼んだ。ここに入れ、ということなのだろうか。死んでも嫌なのに、それでも有無を言わさないその態度に私は従わざるを得ない。このまま学校から帰れないのも嫌だから。
「どうせ、お前ひとりで帰れないだろ」
持ってきたビニル傘を兄さんが持つ。下手くそな持ち方。兄さんの肩が少し濡れてる。私のことを気にして傾けてくれてるのがわかって、無性にむかついた。
傘にぶつかる雨音が、遠くで鳴る雷の音が、怖くて私は嫌だけど兄さんにぴたりとくっ付いていた。
「別に一人で帰れるもん」
「こんなに雷こわがってんのに」
「そ、それは全部兄さんのせいじゃ……あっ」
水たまりに足を突っ込んでしまって靴下に水がしみた。冷たくって、気持ち悪くて、また変にイライラしてしまう。
むかし、雨が降るのに傘を持たずに兄さんがひとりで出て行っちゃって、馬鹿な私は傘を持って追いかけた。どこに行ったかも知らないのに、きっとすぐに兄さんに届けられるなんて安直な考えで近所を探し回って、結局兄さんはどこにもいなくて。傘をさすのが下手くそな子供の私は、びしょ濡れになって泣きながらおうちに帰った。兄さんはもうすでに帰宅していて、傘立てには新しい傘が置いてあった。
その時の雷の音が忘れられない。兄さんはどこにもいなくて、不安で、いっぱい泣いて、ひとりぼっちで怖いのに、私のそばで大きな雷が落ちるから。嫌いだ、兄さんなんて。大嫌いだ。
「なに、俺のせいなの?」
「別に。そんなことは一切ありません」
「香奈はちっちゃいころは雨の中俺のこと探して泣きじゃくるくらい可愛かったのにな」
兄さんがぼそっと何かを言ったみたいだけど、よく聞き取れなくて私は「なんか言った?」と聞き返したけれど兄さんは「別に」と誤魔化すだけだった。
「てか、何で迎えに来たの?」
「――どうせお前が酷いテストの点とったから家に帰りたくないんだろうなって思って」
嫌みったらしい発言は相変わらずのようで、むかついたので思いっきり足を踏みつけてやった。兄さんの歪んだ顔が何とも美味で、私はあっかんべーをしてそっぽを向く。兄さんの溜息だけが耳元で僅かに聞こえた。
本当は兄さんの左肩がびしょ濡れになっていたことに気づいていた。だけど、何も言わなかった。
それが私たちの関係だから。心配なんかしない。だって私は兄さんのことが嫌いだから。
家に帰ると私は仕方ないからタオルを持ってきて、くしゃみをする兄さんの顔面目掛けて放り投げた。
「風邪ひくなよ、ばあか」
■
お題は「雨が降っていてくれて良かった」をお借りしました。相合傘のお話が書きたかっただけです。本当はお兄ちゃんが迎えに来てくれて嬉しいのに、素直になれない双子の妹のお話です。ありがとうございました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】② ( No.32 )
- 日時: 2020/06/13 21:30
- 名前: ひにゃりん (ID: VV1SbMFQ)
そのせかいは、ひどいところだった。
本当に、ただただ
苦しかった。
「スノー!ちょっと買い出し頼めるー?」
「はい、行ってきます。夕姫サマ。」
そう言って僕は、狐耳を隠すために帽子をかぶると家を出た。
隠し家がある森を抜けると、そこは汚い街。
あたり一面に魔女狩りに賛成する内容の張り紙や、僕ら妖狐族と妖狼族の売買についての資料が
散らばっている。
夕姫サマは、雪の日、飼い主に殺されかけていた僕を、買取という形で救ってくれた。
他の人間とは違って夕姫サマは、僕をまるで弟のように可愛がってくれている。
…まぁ、今の人間が、弟に優しくできるかといったら絶望的だけど。
人間達の怒鳴り声や罵り合いを無視しながら、僕はスーパーへと急いだ。
「よし、無事に買えたね。早く帰らなきゃ。」
そう言って僕は、少し暗い近道を歩き出す。すると
「お願いします、中に入れてください、お願いします…」
聞こえてくる悲痛な声。しかし誰も答えず、その女の子のような声だけが響く。
覗いてみるとそこには妖狼族の少女。昔の僕がかさなった。
(どう…しよう)
夕姫サマからは、軽い気持ちで誰かをたすけてはいけないと言われていた。
しかし僕はそこから離れられなかった。
ポツリ
ポツリポツリ
ポツリポツリポツリ
雨が降り出した。それはどんどん強くなってくる。
少女は薄い服に包まれた自分の体を抱くようにして震えていた。
それを見て、思わず僕は
「ねぇ、おいでよ。」
「え…?」
少女がこちらを向く。長いまつ毛に黒い瞳。信用してもらうために、帽子を脱ぐ。
「僕の主人は優しい、一緒に…」
「おい、狐」
「!!」
いつのまにか、後ろに男がいた。反射的に距離を取る。
「人のもんを取るのは、わるいことだよなぁ?」
男の拳が迫ってくる。僕はギュッと目を瞑る。その時、
「人のものを傷つけるのも、悪いことじゃない?」
目の前で、夕姫サマが拳を止めていた。
「な…」
「その狼さん、買い取らせてヨ」
「はぁ!?」
「100万ドルでね♪」
「レイン」
「なあに?スノー。」
「僕はあの時、雨が降って良かったと思ってる」
「?」
「だって、あの日が良く晴れていたら、きっと僕は声をかけられなかったからね」
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.33 )
- 日時: 2020/06/14 17:55
- 名前: ライター◆sjk4CWI3ws (ID: 5TV.vemU)
>>30
よもさんへ
ヌルフフフフフ…………(コロせんせーのマネですスルーして下さい)
最近めっちゃ「枠物語」なるものに興味を持ってるので、とだけ言っておきます……ヌルフフフフフ…………
花言葉は全部その通りです。ヒマワリって、なんか明るそうなイメージあるけど実際は意外とヤンデレ気味なのかも知れませんね…………(主観)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.34 )
- 日時: 2020/06/18 17:16
- 名前: 12 (ID: /Z9lyDUc)
お題③【花、童話、苦い】
タイトル「I've」
"彼"との出会いは突然だった。
時計も零時を過ぎるような頃、何か物音が聞こえたような気がして寝ぼけ眼で真っ暗な部屋を徘徊する。がたん、ごとん。きっと何か動物でも部屋の隙間から入り込んでしまったのだろう。なんて考えながら、音のする方へ懐中電灯を向けた俺は、眼前の光景のあまりの異様さに言葉を失った。
植物が。植木鉢に入った植物が、ひとりでにガタガタと蠢いている。
叫ぶことすら出来ないほど驚いている俺に追い討ちをかけるように、植物はあろうことか俺に向かって、掠れた若い男の声で話し始めた。
喉が乾いてしまった、どこかに水はないか、と。
#
『いや、ありがとう。本当に喉が乾きすぎて死んじゃいそうだったんだ……』
脳内にクエスチョンマークが浮かびながらも言われるがままに植木鉢に水を注ぐ。水を得た植物はさっきよりも生き生きとした様子で、てっぺんの辺りの歪な星のような形をした葉っぱでお辞儀のような動きをした。
なんだ?これは?俺は夢でも見ているのか?
すっかり覚めてしまった目をごしごしと擦っても目の前の現実を消し去ることはできない。頬を軽く抓っても当然痛い。信じられないことだが、俺が頭がおかしくなったのでなければ、目の前のコレはどうやら現実のようだった。
「…お前は、なんなんだ?」
植物に話しかけるだなんてちゃんちゃらおかしくて、普段なら絶対にやらないことだが、今は緊急事態だ。大真面目に俺は目の前の植物に問いかける。
そもそもこんな植物なんて俺は貰った覚えも買った覚えもない。それなのにどうしてコレは俺の部屋にいるのだろう。ましてや、喋りだすなんて。
『…そ、それが分かんないんだよ。気が付いたらここにいて、すごく、喉が乾いて…僕ってなんなんだろう』
「そう、か……」
実の無い答えに思わず溜息を溢すと、葉をびくりと震わせて、ごめんなさいと小さな声で呟く植物。しゅんとした様子でそう答える植物に表情はないはずなのに、何故だか今にも泣き出してしまいそうに見えた。まるで迷子の子どものようだ。冷たくしている自分が悪いことをしているような錯覚に陥るが、頭を振って思い直す。何を考えている。俺は巻き込まれただけ。そしてコレは正体不明の話す植物。俺の対応は当然のことで、何も酷いことなんてしていない。むしろ喉が乾いていると言われて素直に水をあげているだけ良心的なはずだ。たとえ、このあとすぐに自分のことも何もかも分からないコイツを外へ放り出そうと考えていたとしても。
『……本当にごめんなさい。驚かせてしまったよね。すぐ出ていくから……って言いたいんだけど、動けなくて…僕の足、どうなってるか分かる?』
俺が勝手に自己嫌悪に陥っていると、俺の意を汲んだのか元々そう考えていたのかは分からないが、謝りながら、おずおずと植物がそんなことを口にした。驚くことにコイツは自分自身が植物であるという自覚すらなかったらしい。説明するより見せた方が早いだろうと、植木鉢ごと鏡の前に連れていくと、鏡に写った自分の姿にコイツは俺が見ても分かるくらいに狼狽した。それこそコイツを発見した時の俺のように、何か言うことすら、嘆くことすらできないくらいに。
鉢越しにコイツの震えを感じ、さっきからじわじわと痛みを訴えていた胸の辺りが、より痛みが強まってるのが分かる。これが所謂両親の呵責というやつなのだろう。酷いことをした。もっと上手いこと誤魔化してやればよかったと思った。俺は、巻き込まれただけ。だけど、コイツの今の有様を見て、そんなこといえるわけなかった。いえるはずなかった。
痛みに加えて、胸の奥の方を無造作に掻き回されたような吐き気を覚える。それは、見て見ぬ振りをした捨て犬が翌日冷たくなっていたのを確認したときのような気分の悪さと似ていた。
『…これが、僕…?』
絞り出すように出されたその言葉は、どうしようもないくらいの困惑と絶望を含んでいた。
『……え……?ぇえっ、と……あぁ、そうだ、ごめんね。この、ままじゃ、動けないから、鉢?から、僕を抜いてもらってもいいかな……手間を、かけてしまうんだけど』
困惑と絶望を隠す余裕もないまま、そう言って、ごめん、ごめんと何度も謝るその姿はひたすら哀れだった。胸がまた痛んだ。鉢を掴む腕に力が入った。
『だ、大丈夫だよ!……ちゃんと、出ていくから。寝ていたんだよね?起こしてごめんね……お水、ありがとう。凄く助かったよ。…えっと、だから、あの』
「なあ」
もう我慢できなかった。
衝動的に俺はコイツに、彼に、こう言っていた。
「俺の家で、暮らさないか」
#
彼が現れてから二週間が経過した。
俺の提案を最初は遠慮して断った彼だったが、植物である己が外で生きていくことは難しいということは悟っていたのだろう、最後にはゆっくりと葉を揺らせて頷くような仕草をとった。
彼との共同生活は案外悪くない。まあ口をきいたり、ひとりでに動くこと以外は普通の植物と変わらないのだ。適度に水をやり、日に当てれば、彼は生きていくことができる。勿論家事なんかはできないが、質素な一人暮らしの生活に話し相手がいる、ただそれだけで心が安らぐような気がした。多分、ペットを飼っている感覚に近いのだろう。
相変わらず彼が自分自身のことを思い出す気配はない。努力はしているみたいだが、それでも何も分からないらしい。
そのことに対して、別にいいかと気長に構えている自分がいる。何週間かかっても、何ヶ月かかっても、何年かかっても、それでもいいかとそんなことを考えている自分がいる。
彼との生活はそれくらい心地よかった。出会ったとき、早く出て行けと思っていたのが嘘みたいに、いつのまにか、彼をかなり好ましく思っていた。
恋愛感情とかそんなのではない。ひとつのいきものとして彼を好きになっていた。
俺が話しかけると無意識なのか葉をゆらゆらと揺らすのが可愛らしいと思う。水を与えた後に、葉に少し残った滴が光に反射して、きらきらしているのが、何よりも綺麗だと思う。一つ一つの挙動が愛しい。こんな鮮やかな日々がずっと続けばいい。心からそう願う。
そんな俺の願いも虚しく、その"事件"が起きたのは、彼と出会ってから三週間目の朝のことだった。
#
「っつ!?お前、それ…」
『?…どうしたの?』
「ど、どうしたもこうしたもねぇよ……!なんだよ、お前、その、"手"みたいなやつ……」
『手?』
彼の植木鉢から元々生えていた細い蔦のような植物の他に、"手"のようなものが生えている。ようなもの、というよりは"手"であるとしか形容のできないものが、そこにはあった。人間の手首から上のような何かに、元々生えていた彼の植物が絡まるような形で一つになっているソレはなんだか俺にはとてもおぞましいように見えた。
彼に事実を伝えるか迷ったが……迷った末に伝えることを決めた。既に俺の動揺は彼に伝わってしまっているし、このまま黙っている方が彼を傷付けることになるだろう。
出会ったときのような反応をされてしまったらどうしよう。そう思いながら、彼を鏡の前まで連れていくと、想定外に彼は落ち着いていた。どころか、嬉しそうでさえあった。
『こ、これって……君と"おんなじ"なやつだよね?』
「そう、だけど」
『や、やったぁ!僕、君みたいになれるのかな?"ニンゲン"になれるのかな!!』
興奮した様子でそう叫ぶ彼に、どんな反応してやればいいのか分からなくなった。俺は、俺には、そんな色んなこと手放しに喜べることだなんて思えなかったからだ。彼が人間のようになったからって、彼が彼じゃなくなるなんて、そうは思わない。だけど、植物と人間から始まった俺たちの関係が、人間と人間になって、どう変わってしまうのかが恐ろしかった。何も変わらない、だなんてどうして胸をはってそんなことが言えるだろうか。
『僕、僕ね……ずっと思ってたんだ。ニンゲンになれたなら、君のお手伝いをしたりとか、外で一緒に出かけたりとかできるんじゃないかって』
「……」
『君に色々してもらうだけの何もできない僕じゃ嫌なんだ……それに、ニンゲンになったら、この部屋以外にも色んなところに行けるんでしょ?君が外に出かけるとき、いつも、少し、寂しかった……でも、ニンゲンになれれば、いつでも君と一緒だ』
そんな風に言って嬉しそうにする彼を見て、俺は喉まで出そうになった言葉を飲み込んだ。
俺は今のままでいいのに、なんて言える訳ない。
そうだな、俺もそうなったら嬉しい。なんて、嘯いて、笑う。
掌のようになっている部分を指でなぞると、彼がくすぐったそうに声をあげる。
思っていたよりも、ソレは酷く冷たくて、俺の肩をぶるりと震わせた。
#
日が経てば、日が経つほど、彼の"手"は成長していった。手首から上までしか出ていなかったのが、今では二の腕の辺りまで出ており、根本の方が全体を支えるように元々生えていた蔦でぐるぐる巻きになっている。
植木鉢よりも大きく生えた"腕"。これだけ成長しているなら地に張った根の方は相当発達しているはずなのだが、不思議なことに彼が狭い、とか、苦しい、とか不満を漏らすことはない。我慢しているわけでもなく、本当に大丈夫らしい。
それは俺にとって幸運だった。
もし彼が自らの根を持て余し、より大きな鉢への移動を願ったとしても、もう俺には彼を掘り起こすなんてこと出来そうになかったからだ。
隠されたものは、隠されたままで。秘密は、秘密のままでいい。それを敢えて掘り起こすなんて恐ろしいこと誰がするか。
そこに"何か"があったとき、俺はどうすればいい?確実に二人の関係は破綻する。今まで通りでいられなくなる。ふざけるな。そんなのは嫌だ。
好奇心はあらゆるものを殺すのだ。些細な行動で全てを崩壊させるような馬鹿に俺はなりたくない。
それからまた何日か経った。鉢から"手"が生えてきたあの日から、眠れないことが増えた。
毎夜毎晩、悪夢を見る。
内容はいつも同じだ。"人間"になった彼が、俺の前に現れ、さよならとだけ告げてどこかへ行ってしまう夢。俺はそれを追いかけようとするのだけれど、扉の前に見えない壁があるみたいに外に出ることは出来ない。伸ばしても、伸ばしても、届かない手。泣いても、叫んでも、彼は戻って来てはくれない。……本当に、酷い夢だ。
毎度泣き叫びながら目を覚ます俺に、彼が大丈夫かと声を掛けるけれど、本当のことなんて、本当の気持ちなんて言えるわけがない。
解決策の見当たらない、どうしようもない焦燥感を抱えて生きることの何と辛いことか。
以前より彼とは喋らなくなった。気を抜いたら、全て漏らしてしまいそうだった。けれども、こうして黙っている間にも、彼の気持ちを裏切るようなことを考えていることに対しての罪悪感がむくむくと膨れ上がっていく。それは、どうしようもなく苦しく、辛い。とどのつまり、俺はもう八方塞がりの状況にいたのだった。
頼むから、俺と彼をこのままでいさせてほしい。
もしも、神がいるというのなら、願おう。これ以上、彼を成長させないでくれ。
何もいらない。俺と彼がいればいいんだ。
だから。頼む。お願いします。
俺から彼をとらないでください。
身勝手にも祈ったそんな願いは、当然叶えられることはなく、無情にも彼はその後も成長を進めていった。
そうして、彼と出会ってから二ヶ月が経ち、"その日"はやって来た。
#
その日は、彼と出会った時のような静かな夜だった。
いつもの如く眠れないなりに目を閉じる。とくとくと、自分の心音だけが聞こえる闇の中、その違和感は突然やって来た。
誰かいる。自分以外の誰かが。それに気付いてすぐ慌てて目を開けようとするも何故か開かない。目だけじゃない。まるでベッドにぐるぐるに縛り付けられたように身体全身が動かないのだ。明らかに異様な状況だ。自分の心臓の音がどんどん大きく、早くなっているのが分かる。寒気を感じているくらいなのに、冷や汗がたらりと垂れていった。
"何か"が一歩ずつ俺に近付いている。ひんやりとした空気が、足下から、胸元へ動いていき、それがやがて首の辺りに向かった時、"何か"が俺に話しかけた。何を言ってるかも、それがそもそも言葉なのかも分からなかったが、確かに俺に話しかけていることだけは分かった。何故か、分かってしまった。
『⬛︎⬛︎⬛︎……⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』
"何か"が"ソレ"を言い終わるか否か、ひゅっ、突然呼吸のリズムが崩れ、じわじわと苦しみが襲ってくる。首を絞められている。ゆっくりと、しかし、確実に俺の命を、この"腕"は俺の命を奪おうとしている。この状態があと数秒でも続けば、俺は、死ぬ。
確かに近づいてくる終わりに、途切れそうな意識の中、何故だか俺は、俺を殺そうとしている、この掌の主について考えていた。
(彼、だ)
ぞっとするくらいに冷たい、この温度には覚えがあった。
彼が、俺を殺そうとしている。愛しい彼が、優しい彼が、理由は分からないけれど俺を殺そうとしている。俺の首を絞めている。
(ああ、)
どう考えたって絶望的な状況だというのに、その時、俺の心を占めていたのは歓びだった。
(やっと、"終われる")
そんな言葉が最後に無意識に浮かんで、すぐに闇の中へと消えていった。
*何か思っていたより長くなりそうで、前、後と分けて投稿させて頂きます……スミマセン…
*一応「わがままな子ども」という童話をモチーフにさせていただいてます
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.35 )
- 日時: 2020/06/14 20:48
- 名前: 12 (ID: /Z9lyDUc)
スレ見返したところ、いくつか感想を頂いていたので返信させて頂きたいと思います。
>>14
心さん、こんにちは。
12というものです。起承転結がしっかりした話を作ることに苦手意識を持っているので、そう言っていただけると大変ありがたいです……。
タイトルも褒めていただきありがとうございます。タイトルってその作品の顔みたいなものだから拘りたいんですよね……拘れないときもあるんですけど。
百合は私も普段はあまり書きません。だからこそ、今回は書かせて頂きました。楽しんでいただけたなら幸いです。
感想ありがとうございました。
>>15
こんにちは。
そうです、百合です。百合ですよ。誤字訂正の仕方が赤ペン先生かよ……優しすぎる……好きになっちゃうな……()
めっちゃくちゃ私の表したかったことを代弁してくれて、それなボタン連打です。それなそれなそれな。
えへへ…めちゃくちゃ褒めてもらっちゃって嬉しいですね……褒めてくれる人私も無条件で愛してしまうので両思いですね。やったぁ()
感想ありがとうございました。
>>19
こんにちは。
え……私の作品で、百合に目覚めてくれたんですか!?光栄です!!やったぁ。
本当に皆褒めてくれるから調子に乗ってしまうな……そうです、少しずつ毒に侵されてく感じ出したかったんです……分かってくれて凄い嬉しいです……!!
最高??最高って言ってくれるんですか????嬉しすぎて天にも登る心地ですね……凄い丁寧な感想ありがとうございます。励みになります。
好きな雰囲気って言って頂けて嬉しいです。こちらこそありがとうございました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.36 )
- 日時: 2020/06/18 21:11
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: OjydcpfE)
『君の花』
お題③(コメディライト板の『神様の会話』の裏話です!)
清浄な鳥の神、カルラは一人幻想郷で仕事合間の休憩をしにきていた。
カ「いつ来ても、ここはいい場所だなぁ。」
軽く深呼吸をして、低く飛ぶ。
するとカルラは、或る物を見つけた。
カ「うわぁ!」
カルラが感嘆の声をあげた場所は、とても綺麗な黄色い花が咲き誇る花畑だった。
そこに花の女神、サクヤがいた。
カ「サクヤさーん!このお花って何の花ですかー?」
カルラに気付いたサクヤは、カルラに笑顔で手を振る。
サ「カルラくん!もっと近くで見てみましょう!」
サクヤに呼ばれたカルラは、彼女の元に飛んでいく。
カ「ここ、すっごく綺麗!このお花、何処かで見たことがあるんだけど……?」
サ「あら!カルラくんは記憶力がいいわ!そうよ。神様なら皆が一度は読む『幸福を与える神』っていうお話の元になった、『福寿草』よ!」
もちろんカルラは、その本を読んだことがある。
カ「『福寿草』、か。ねぇ、ここのお花、一本貰ってもいい?」
サ「勿論、いいわよ。ここら辺の花は私が管理しているからね。ただ、何に使うの?」
カ「福禄寿さんにあげるの!名前似てるし、最近仕事ばっかりで、疲れてるからね!」
カルラは笑顔で飛んでいく。
サ「待ってカルラくん!福禄寿さんには…………!」
サクヤは慌てて止めたが、カルラはもういない。
サ「福禄寿さんだけにはダメ…………」
一人でぽつんと呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カ「福禄寿さん!」
福「カルラや、どこに行ってたのか?」
福禄寿はいつもの笑みを絶やさず、カルラに問う。
カルラは、福寿草を懐から取り出した。
カ「じゃじゃーん!これ、福寿草っていうんだって!なんかね…………」
カルラが言葉を止める。何故なら。
福禄寿がカルラの手にある福寿草をもぎ取ると、花を粉々にちぎったのだ。
黄色い花びらが散ってゆく。
カ「なんで…………!?」
福「…………二度と、その花をワシの目に入れるな。」
福禄寿の表情は、笑みを浮かべていたが、目と声は笑っていなかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
カ「福禄寿さん…………なんであの花をちぎったんだろう……………」
サ「…………福禄寿さんにとってあの花は、毒みたいなものよ………」
カ「え?なんで?」
サ「実はね、福寿草が元の『幸福を与える神』のお話、覚えてる?」
カ「えーと………」
『幸福を与える神』
或る幸福を司る神が、餓えている人に幸福を与える物語。
ある人に出会い、いつものように幸福を与えようと、杖を掲げた瞬間、その人の命の灯火が尽きた。
その人は、楽になりたかったのだ。
そのことで、神は酷く自分を嘆き、墓の前で涙を流した。
その流した涙が、一輪の黄色い花、福寿草が生まれた。そんな話だった。
サ「あのお話の神は、実は福禄寿さんなのよ。」
カ「………え」
彼女は重々しく語る。
サ「つまり、福寿草を福禄寿さんが見ると、そのことを思い出してしまうんじゃないかしら………?」
カルラはじっと福寿草を見る。
今まで綺麗にみえていたはずが、何故か萎れているように見えた。
福寿草の花言葉は、『永久の幸福』。
でももうひとつの花言葉がある。
それは、『悲しき思い出』。
これは、或る幸福を司る神のお話___。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.37 )
- 日時: 2020/06/19 17:35
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 9JskrUeo)
【六月分お題を制覇した…………!】
お題①「毒」
タイトル「オレと君」
彼女にとって、オレは毒だ。最近、そう思うようになった。
初めて出会った時の第一印象はチャラそうな女の子だな、というものだった。このチャラそうな子は、どうやら奏と言うらしい。奏は、いつもオレに触れている。オレはずっと一緒にいて、もしかしたらほとんどの時間を共にすごしているかもしれない。でも、きっとオレは毒だ。彼女を縛り、依存させている。オレのせいで体調を崩したことが、幾度あったか。いや───それでは済まぬ事態に、陥ったというのに。
それでも奏はいつも真っ直ぐにオレを見つめて、時には笑って泣いて、怒って。軽やかに白い指先が踊って、オレを叩く。赤いマニキュアの塗られた爪が触れ、緩く巻かれた茶色の髪がからだに触れる。この子の感情を、オレは大体知っているような気がする。
ソファに座ってテレビを眺めていた彼女が、不意に振り向いた。オレが呼んだからだ。奏は、一瞬オレを見たあと立ち上がる。バタバタと着替えて、バックを持った。オレもきっと一緒に出掛けるのだろう。
風がからだにぶつかる。坂道を、自転車が勢いよく下っていく。そんな中でも奏はオレを離さない。ハンドルを器用に操って、夜の街を駆け抜ける。奏と目を合わせながら、風を楽しんでいたとき──
唐突に、光が横合いから突き刺さった。
「え?」
奏の声が聴こえた、直後。オレは、奏とともに吹き飛んでいた。地面に叩きつけられて、激痛がからだに走り────
目の前が暗い。オレは、どうなったんだ…………? たしか、光が…………そうだ、奏だ! 奏は…!? オレは必死に確認しようとしたが、如何せん自分では動くことすらままならない。動きたいと渇望していた時、誰かの手がオレに触れた。
その瞬間、からだ中に活力が漲った。視界がぱっと明るくなり、目の前が見えるようになる。けれど…何だか、妙にひび割れている。すりガラスを挟んだかのように不明瞭な視界。思考も上手く回らない。
どこかから、声が聞こえて来た。
「奏ちゃん、前見てなかったらしいわ………」
「依存しすぎなのよ……これのせいで、あの子はこんな大怪我を……」
誰かの手が、オレをキツく掴む。オレのせい? 奏が、大怪我をしている───! なら、そんなことをしたなら、もしかして、オレはもう、奏に触れて貰えないのか……!?
それからだ。オレが、己の事を毒だと思うようになったのは。奏が、事故にあって大怪我を負ったらしい日から。
奏は、声を聞くに結構回復してきたようだ。けれど、オレにはあまり触れてくれなくなった。当然だ。オレは彼女にとって毒なのだから。思えば、自分は奏にとって害でしか無かった気がする。奏は、オレのせいで体調を崩し目を悪くし時間を失い事故にあい────
このままなら、いっその事壊れてしまいたい。でも、彼女がオレに依存していたように、オレもまた彼女に依存している。奏をこれ以上傷つけたくない、でも触れて欲しい。そんな矛盾を、オレは抱えていた。けど、オレは独りでは何も出来ない。毒とならないように、ひっそりと身を潜めることさえ出来ない。オレは、とことん無力だ。
けれど。ひとつだけ、オレはそっと願う。奏の行く先が、どうか幸せでありますように、と。奏の人生はきっと長くて、それはオレなんかよりも何倍も長い。その先に、オレが居ようが居まいが構わない。もしかしたら、オレでは無い別の誰かが一緒にいるかもしれなくても、別に良いから。
新しいやつがきたら、ちゃんと、うまく付き合うんだぞ。もう、こんな依存し依存される関係になんてならないように、ね。
────それを最後に、オレの意識は暗転した。
□ △ □
「あー、こりゃ酷いね奏……ビキビキじゃん。ま、あんなに飛ばされたらとーぜんかぁ。え、新しいのにすんの?」
「うん、そーするつもり。もう結構経ってるし…………ま、あたし何気に愛着あんのよそれ。新しくしてもまだ持っときたいし…………ジカイの意味も込めて、だけど。」
「ウケる……あんた、自戒って言葉の意味わかってる?」
「…………うっさいな。ニュアンスだよ、ニュアンス! それで良いじゃん!」
【「オレ」は結局なんだったと皆さんは思いますか? 書いてくれると私が喜びます。このスレだとこういうの出来ていいですねダメだったら言ってください(´・ω・`)】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.38 )
- 日時: 2020/06/18 21:14
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: pmqInLio)
心さんへ
…………わかってしまった。『オレ』の正体……!
現代の若者が反映されていますね………!
すごい!
三文字でカタカナで、四角いの、ですよね!
ダメだったら削除します
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.39 )
- 日時: 2020/06/19 01:57
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 9JskrUeo)
>>38
リンさんへ
ふふふ……秘密です☆(やめろォお前そーゆーキャラかおい
あ、削除については……よもつかみさんからこういうのだめだよーって言われない限り私の方では大丈夫ですd(˙꒳˙* )
>>36
リンさんへその2
感想貰ったし知ってる話なので返させていただきます!
神様の会話だな! 私でなきゃ見逃しちゃうね。(ごめんなさい1回やって見たかった)
福禄寿さんが出てて嬉しみの翁です(私はおはりすめんてんリスナーなんです)サクヤさん良いキャラしてるぜ素敵可愛い。
純粋に『幸福を与える神』、読みたいと思いました。
あと、台本書きにしなくても誰が言ってるか分かるレベルの描写入ってると思うので、リンさん普通に書いてもいいと思う!(タメ語ごめんなさい)
台本書きがだめだよーって言われちゃう可能性って割とありますし、ね。…………挑戦って大事じゃない? …………うちの担任の先生の受け売りですけど。
【速報】今日なんか()書き多い
思いっきりふざけ倒してごめんなさい
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.40 )
- 日時: 2020/06/19 08:05
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: 9BBPtvSY)
あー台本書きかぁ………
私ずっと二次創作書いてたから癖になってた…………
なんかサクヤちゃんは可愛いイメージなんだよなぁ(本編で酒大量に飲んでる癖に)
福禄寿さんもうちょっと出した方がよかったかな?
出番が少なすぎたかも………笑
本編もよろしくー!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.41 )
- 日時: 2020/06/20 02:35
- 名前: 流沢藍蓮◆50xkBNHT6. (ID: 8wuShfl.)
お題②「雨が降っていてくれて良かった」
タイトル:Rainy Day
◇
「雨が降っていてくれて良かった」
「そうだね」
幼馴染の祐二の言葉に、綾音は頷いた。
雨はざんざんと降り続いている。その中で、二人は傘も差さずにずぶ濡れになって、灰色の空を見上げていた。
「これで運動会、なくなっちゃうね」
「雨でぜーんぶ、台無しだぁ!」
綾音は無邪気に笑って、ばしゃばしゃと水をはね散らかす。
雨が降ってくれたから、明日の運動会はなくなる。
雨が降ってくれたから――。
首をかしげて祐二が問う。
「明日は教室で自習かな?」
そうじゃない、と綾音は返した。
「やったぁ、これでみんなに馬鹿にされないで済むね!」
運動が苦手な二人は、運動会がいつも大嫌いだった。
その前日に降った雨。二人にとってはラッキー以外のなにものでもない。
ばっしゃばっしゃと水をはね散らかして騒ぐ。運動競技は嫌いだけれど、綾音は動くことが大好きだ。
その隣でくしゅん、と祐二がくしゃみをした。大丈夫、と気遣うと、全然平気、と穏やかな笑みを見せてくれた。
その日はそうやってはしゃぎながら、ずぶ濡れになって帰って母親に怒られた。それでも綾音は上機嫌だった。運動会がなくなる、それがただ嬉しかったのだ。
綾音は雨の日が好きである。雨が降れば体育や運動会やマラソン大会が中止になる。綾音の大嫌いな行事がなくなる。天気予報で雨のマークがついている日は学校が楽しくなる。雨の日のひんやりとした空気も、綾音は好きだった。
「お勉強は得意だもん」
お風呂に入って着替えて机につく。取り出したのは学校の宿題。運動は苦手でも、だからこそ勉強を頑張っていい成績を取るのだ。
「えへ、明日が楽しみだねぇ」
上機嫌で呟いて、すらすらと問題を解いていく。嫌いな行事が中止になるとわかっているためか、その動きは軽やかだ。
その日はそのままご飯を食べて、眠りについた。夢の中で、いつかの雨の日を見た。
◇
次の日のことだった。いつも通りに学校へ行くと、祐二がいなかった。
風邪を引いたのだ、と親から連絡があったらしい。昨日、はしゃぎ過ぎたのが原因だろうか。
「残念。せっかく雨で運動会、中止になったのに」
綾音は残念がったが、来ないものは仕方がない。
その日は座学で授業を終え、そのまま帰った。
次の日も、祐二は来なかった。その次の日も、そのまた次の日も。
綾音は心配になったが、祐二の家はよそ者を嫌う家で、迂闊にやってくることは出来ない。どうせすぐに復活して、あの笑顔を見せてくれるはずだ。綾音はそう思うことにした。
それから一週間後。その日も雨が降っていた。祐二と二人ではしゃいだあの日みたいに、ざんざかざんざか、ひどい雨が。そしてその日も祐二は、
「……嘘」
教室に着いて、綾音は衝撃のあまり教室の床にへたり込んだ。
教室の、綾音の二つ前の祐二の机の上に置かれていたのは、花瓶。
活けられていたのは、白い花。
クラスメートの机の上に、花瓶。その意味は、もう小説や漫画で読んで、嫌というほど知っている。
「嘘だ、よ……」
言葉が、出なかった。
「大橋祐二くんは、亡くなりました」
先生から言われた言葉が、虚ろに胸の底を叩いていく。
「風邪が悪化して肺炎になり、そのまま回復しなかったそうです」
「嘘だ!」
叫んで、思わず教室から飛び出した。
荷物も持たず、雨に濡れるのにも構わないで、ただひたすらに走りだす。
辿りついたのは、いつか祐二と一緒に、運動会がなくなるねと笑い合っていた場所。
―― 一週間前。
一週間前に、祐二はここで綾音と二人、雨の中で遊んでいたはずなのに。
ざんざか、ざんざか、雨が降る。頬を伝う熱い雫も、こんな天気ならば雨の中に紛れてしまうだろう。
「雨が降っていてくれて、良かった」
あの日、祐二が言っていた言葉を口にした。
「そうよ、雨が降っていれば。これが涙だってわからなくなるんだもの」
雨が降っていてくれて、良かった。
全く意味の変わってしまったその言葉を口にして、綾音は瞳から雨のしずくを零した。
【完】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.42 )
- 日時: 2020/06/20 16:47
- 名前: ヨモツカミ (ID: nmc0KAfE)
>>36スノードロップさん
心ちゃんが代わりに言ってくれてましたけど、「基本的な小説の書き方」に乗っ取ると、台本書きは推奨していないので、まあ、今度からはあまり使用しない方向で書いていただければいいかなっておもいます。
あと、お題③は三題噺なのですが、「苦い」の要素が入ってないような気がして、三題噺として成り立ってないかなって読みながら思ったのですが、一応お題には沿ってもらいたいなーて感じです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.43 )
- 日時: 2020/06/20 17:22
- 名前: スノードロップ◆U9PZuyjpOk (ID: oemfXB2Y)
ヨモツカミさんへ
『苦い』かぁ………
一応福禄寿さんのお話的に自分では入れたつもりだったんです……。
台本書きの点は、かなりの反省です………。
精進してきます。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.45 )
- 日時: 2020/06/22 18:13
- 名前: ヨモツカミ (ID: BvYcI0yE)
>>43スノードロップさん
苦い、も入れていたつもりでしたら、私の読解力の低さも原因かなと、申し訳ないです。三題噺なので、誰が見てもわかるようにお題を使うっていうのも大事かもしれません。という、アドバイス。
>>44むうさん
はじめまして、参加ありがとうございます。
せっかく参加してくださったのですが、「基本的な小説の書き方」とは少し違うかなと思ったので、指摘を。段落とか「」を使うとかしないと、それは詩なんじゃないかなって。ここではssの投稿を推奨してますので、参加条件を満たせてないかなーと思います。
嫌でなければ削除をお願いしたいです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.46 )
- 日時: 2020/06/22 23:11
- 名前: 祥 (ID: Zkj4WvCM)
初めまして。面白そうなのでお邪魔いたします。勢いで書いたので粗いですが……
「帰り道にて、きみと。」使用お題:2番 「雨が降っていてくれて良かった」
重苦しい雲から鋭く雨は降りはじめ、ぼくの傘にぶつかって流れ落ちている。雨降りの日は、いつもの急な下り坂が少し怖い。渋々遠廻りの帰路についた。早く帰りたいけれど、走る気力も走れる環境にもない。陰鬱な雨だ。そう思い、気分はどんどん沈み込んでいく。そんな時、後ろからきみの声が聞こえた。この雨の中、かき消されないきみの声。きみは嬉しそうにぼくの名前を呼んだ。身軽に駆け寄ってくるきみは、この雨が嘘なのではないかと思うほど生き生きとしている。
ぼくの隣を自然に歩きはじめたきみは、またわからないことを言った。
「雨が降っていてくれて良かった」
きみの言葉を聞いて、ぼくは曖昧に微笑った。きみのことは、ぼくにはわからない。だって、きみはいつもおかしなことを言う。
「どうして? 雨は嫌じゃないの?」
「雨は嫌いだよ。でも、こんな日も悪くない」
ぼくが訊いても、きみはそうやっていつも何かを隠して答える。ぼくにはきみがわからない。
「ぼくは苦手かな」
ぼくが本当のことを話すと、きみはわからないと唸った。雨の音と、歩く音だけがよく耳に届く。
「うーん。そういうものなのかな。でもね」
きみはそこで言葉を切る。きみが何を言いたいのか、ぼくも少し考える。やや間を置いて、きみが話しはじめた。
「今日は丁度、一緒に帰りたかったんだ。こうやって、好きな人と帰るのは良いことだから」
そうか。急に視界が開けたような心地がした。ぼくがこの道を通るのは、そういえば雨の日だけだ。きみとの時間を得られるのならば、確かに雨の日だって悪くない。ぼくたちは、またお互いのことを少しだけ知った。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.47 )
- 日時: 2020/06/23 01:48
- 名前: シェリィ (ID: SvvvHNWs)
はじめまして。いきなりすみません。
少し早いですが、来月のお題「星」に関係するものなんてどうでしょうか。
7月は七夕があったり、有名な星座も多く見られます。
あとは双子座と蟹座が7月に被るのでそういうのも入れてみるとか...
あくまでただの提案ですので全然スルーしてくれてもかまいません。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.48 )
- 日時: 2020/06/23 10:47
- 名前: むう (ID: PsZO1DSc)
ヨモツガミさん、ご指摘をいただきありがとうございます。確かにそうですね、詩になってました。削除させて頂き、今度はちゃんと文章で書きますね。すみませんでした!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.49 )
- 日時: 2020/06/23 15:26
- 名前: むう (ID: PsZO1DSc)
ルールに沿って、もう一回書き直しますね。
よろしくお願いいたします。
お題②「雨が降ってくれてよかった」
タイトル「雨だれの前奏曲」
********************
教室の窓から見える校庭のグラウンドの土は湿っていて、ここからでも外の冷たい空気が感じ取れる。赤や黄色のチョークでイラストが描かれた教室の黒板は、わっかの飾りで綺麗に飾られている。
黒板には、「本日の予定:文化祭」とある。
中等部3年に在籍する私は、照明を落とした誰もいない教室の真ん中でただ一人、窓から流れ落ちる雨粒を見ながらため息をついた。
「雨野! 早く帰ろうぜ」
教室の入り口から、幼馴染の俊太が顔をのぞかせる。その前髪からはポタポタと水がこぼれ落ちている。
「タオルとか持って来てないの?」
「俺、濡れるの好きだからいい」
「風邪ひくよ」
私は自分の鞄の中から、ミニタオルを取り出して俊太の頭に被せた。
俊太は、ごしごしと頭をふいている。彼は頭をふき終わると、背負った重いギターケースを自分の机の上に降ろした。
「残念だったね。野外演奏がお互い中止になって」
小学校2年生のときからギターを習っている彼と、年中からピアノを習っている私。この二人が組めば、まさしく野外ライブ会場はどっと沸くとクラス全員が話していた。
自分ではよく分からないが、どうやら私たち二人の演奏力は学年の中でも群を抜いているらしい。
「まあな。しょうがないよ、雨なんだし」
「それに、、私ら今年三年だよ。最後の文化祭だったのに」
「クヨクヨするなよ。高校に行っても文化祭はあるんだし」
翔太は私の頭にポンと手を置く。
彼の言うことは一理ある。高校でも大学でも、体育祭と同じく文化祭も年の一大行事だし。
それでも、そうだねと頷くことは私にはできなかった。
「翔太は、県外に行くんでしょ、高校」
「あ、うん、まあ。音楽専門の学校に行くつもり」
「翔太と一緒に演奏できなくなるね」
寂しいのかと聞かれれば、違う。家は近所にあるから、違う学校に進むことになっても下校帰りに寄ったりすることは出来る。
私のたった一度きりの青春は、彼と一緒に合奏出来る日々を謳歌することだと自分で思っている。ギターの軽やかなリズムと、ピアノの滑らかなメロディーが合わさって二人で曲を奏でる感じが、私は好きなのだ。
俯いて奥歯を噛む。雨は嫌いだ。
最後の文化祭。学校生活三年間の中で、初めて翔太と一緒のクラスになれた今年、二人で共に野外演奏をする目標を立てた。今までずっとしてきた練習は、全て無駄になってしまった。
「じゃあ、最後に一緒に弾こうぜ」
「え?」
「教室のピアノと、俺のギターで。な」
翔太は私の返事も待たずに、ギターケースを開けてギターを取り出し、ピックを握った。慌てて私も教室の奥にあるピアノの蓋を開け、椅子に座る。
「いくぞ、さん、はい」
窓を打つ雨の音に合わせて、誰もいない教室に私たちの音が響き渡る。ピアノの軽やかな伴奏と、ギターのゆったりしたリズム、翔太の歌い声が重なり、ハーモニーを奏でる。
これはこれでいいのかもしれないな。
前述した通り、雨は嫌いだ。人が今まで積み上げてきたものを発表する機会や体温を奪い、静かな空間を創り上げるから。
それでも、最後まで、私たち二人が演奏する場を残してくれたことについては有難く思う。
皮肉なことにも、雨が降ってくれてよかった。
聞いてください、私たちの音楽を。
「雨だれの前奏曲」。
【完】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.50 )
- 日時: 2020/06/24 19:42
- 名前: ヨモツカミ (ID: d5AA0dJ.)
>>31かるたさん
参加ありがとうございます。可愛らしくてほっこりする話ですね。なんとも、日常のちょっとした憂うつ感を描写するのがお上手で、読んでいて情景が浮かびやすくて良かったです。
大好きだから出てくる嫌いという感情、正反対で隣り合わせな妹さんのそれが二人の関係をめっちゃエモにしてて、平和だなあって、和みました。
>>37心ちゃん
6月制覇おめでとうございます!
えっ、俺の正体なんなんだろう。ずっと身につけているものだし、眼鏡とかかな。なんかしら無機物ぽいですけど、なんだろう。
>>41藍ちゃん
お久しぶりです。参加ありがとう。
うああ……コロナも流行ってますもんね、こんな唐突な別れも時にはあるのかもしれませんね。
お題②は、雨と涙を絡ませてお題を使う人が結構いたような気がします。雨が降るのは、本来憂うつなことで、その雨が降ることで良かったと思えること。涙を隠したり、その雨で誰かと過ごす時間に変わったり、6月らしくて「雨」の扱いがそれぞれでおもしろいですね。企画してよかったな。
>>47シェリィさん
初めまして。リクエストありがとうございます。
星、いいですね。一ついいのを思いついたので、7月のお題にさせて頂きます。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.51 )
- 日時: 2020/06/27 13:18
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: BJ5aWnig)
>>50
よもさんへ
現代人には必須のアイテムですよね。
こういう話って、こういう風に人によって捉え方を違わせることが出来るのが好きです。ずっとやりたかったやつ。
雨と涙、私のなんて多分テンプレ極まりなかったと思うのですが……皆さん素敵だった。わたしも精進したいと思います。
こういう場を作ってくれたよもつかみさんに感謝(o_ _)o
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.52 )
- 日時: 2020/06/28 14:29
- 名前: ヨモツカミ (ID: NIwVrK3M)
>>46祥さん
はじめまして、参加ありがとうございます。
これは雨が誰かと過ごす時間に変わったパターンのお話ですね。素敵だなあ。こういうのほっこりしていいですよね。こうやって、少しずつ歩み寄る関係、エモです。
>>49むうさん
誰もいない演奏、二人きりの時間。素敵ですね。雨が作り上げてくれた、二人だけのステージですもんね。最後の演奏になるかもしれないのに前奏曲なのが、またオシャレですね。
>>心ちゃん
お、当たりだったかな。私もメガネ必須だから、なくなると困る。
次のお題の発表は7/1を予定しているので皆様お待ちください。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.53 )
- 日時: 2020/06/29 22:14
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: sN0nJGSA)
暫く仕事が多忙だったのとカキコ来るタイミングがゲロ吐くほどなかったのですが、ようやっとまともに来れたので今更ながら返信をば。
*よみちゃん
今更ながらスレ立てお疲れ様です。ふらっと覗いて見たら、良さげなお題があったものでついつい書いてポォン!!!!!!!!!!!!!!してしまった所存です。
雨のSSは見た瞬間、「これでいくべ!!」というものが出来上がったので、そのまんま仕立てあげました。なんというか救いのないお話になりました。作者としては「誰が悪かったのか」という結論は出さず、永遠にもがき苦しんでしまえと思っております(クズの考え)。
お次に毒ですが、当初「百合書きてえ」という気持ちが滅多クソに強かったので、叫びながら書き上げました。某、あれから始まる触れてはならない聖域での『たをやめ』たちの戯れが盛り上がるの超好き侍と申す(突然の告白)。
どちらも楽しく書かせていただきました。また次回筆が乗ればひょっこり投下するやも知れませぬ……
*12さん
感想ありがとうございます。舐めまわすように拝見させて頂きました(コラ)。事実画面の前でニヤニヤしつつ読んでいましたけれども。
『あの子』は『私』への無意識の複雑な感情があったから故に、ああいった行動をしたのやもしれません。どう足掻いても、『私』と『あの子』は友人ではありますが、それ以上でもそれ以下でもない。そして止められなかった『私』へ、消えぬ、忘れられぬ『跡』を残す。そんなことを願ってたのかもしれませんね。どちらにせよ『あの子』はもう喋りませんし、意思を伝えることすらできません。わぁ救いがない!
毒に関しましては、非常ににっこりとする感想を頂けましたこと、何よりでございます。某いけない関係の高嶺の花たちが、いたいけなたをやめを染め上げて堕とすの大好き侍(突然の自己紹介)。閉ざされた百合の花園で乱れる風紀がとっても好きです。さて堕ちたたをやめ、もとい乙女はどうなる事やら。
非常に楽しませていただきました。
それではまた。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.54 )
- 日時: 2020/06/29 22:22
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: sN0nJGSA)
*心さん
まずは感想ありがとうございます。自分でも内容をガトーショコラレベルでがっちりみっちり詰めたいので、まさかそのようなお言葉をいただけるとは…分かりました、もっとクソほど詰めてきますね!!!!!!!(やめろ)
内容を詰めるとなると、私は頭の中で物語をアニメーションにしてこねこねする手法をしています。そして最終的に1本のアニメが出来上がるので、それを文に落とし込む。というような流れです。
ご参考までに、とは行かないでしょうが、ごま塩程度に……
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.55 )
- 日時: 2020/09/01 15:03
- 名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)
*第1回参加者まとめ
Thimさん:小夜啼鳥と(お題③)>>5>>26
サニ。さん:赤(お題②)>>6
心さん:(お題②)>>7
サニ。さん:たをやめのゆり(お題①)>>9
12さん:毒にも、薬にも(お題①)>>11
ひがさん:(お題②)>>16
ずみさん:(お題②)>>17
海原ンティーヌさん:(お題②)>>18
スノードロップさん:毒に侵される神(お題①)>>22
心さん:ヒマワリ(お題③)>>24
ヨモツカミ:リリーオブザヴァリー(お題①)>>25
スノードロップさん:俺とあいつとそっくりな(お題②)>>29
かるたさん:嫌いなひと。(お題②)>>31
ひにゃりんさん:(お題②)>>32
12さん:I've(お題③)>>34>>129
スノードロップさん:君の花(お題③)>>36
心さん:オレと君(お題①)>>37
流沢藍蓮さん:Rainy Day(お題②)>>41
祥さん:帰り道にて、きみと(お題②)>>46
むうさん:雨だれの前奏曲(お題②)>>49
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.56 )
- 日時: 2020/06/30 20:49
- 名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)
*みんつく第2回・お題7月編
④寂しい夏
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
⑥鈴、泡、青色(三題噺)
参加者の皆様大変お待たせしました。7月のお題はこの3つです。
ルールを守って楽しくSS投稿をして下さいね。
※7月になったからと言って6月のお題を書いてはいけないわけではありませんので、好きなお題で作品を執筆してください。
また、管理人さんにお願いしましてみんつくをカキコのトップページからも飛べるようにリンクを貼っていただきましたので、スレを探すのが面倒なときなどに活用してください。
それではLet'sEnjoy!(>ω<)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.57 )
- 日時: 2020/07/02 17:37
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: tI3DMzcY)
【深夜でござるがもう七月なので()
今月もよろしくお願いします。】
お題④:寂しい夏
タイトル 「永遠に後輩。」
今は夏。私は此処に立ち尽くす。
森博嗣の、【すべてがFになる】の書き出しを今の状態なりにアレンジしてみただけ。そんな事を私は思う。原作は読んだことがないけれど、その書き出しだけで大いに興味をそそられる。
私は一人、此処に立ち尽くしていた。薄暗く、窓からの光が数筋注ぎ込む、いや舞い落ちるだけの準備室。例えるならその光は、デジタルで絵を描く時のレイヤー効果、スクリーンに近いだろう。カーテンの淡い緑色を透過した白い光。取り留めもないことを思いながら、私はそっと空の棚に手を置く。
僅かにホコリが付着しただけで、そこまで汚れてもいない。当然だ、大掃除を先程終えたのだから。夏休みの部活、最後の週はひたすら部室と準備室を整理して掃除をするというよく分からない伝統がこの部活にはある。もしかしたら伝統なんかではなく、純粋に片付けの出来ない顧問に都合よく使われていただけかもしれないが。
でも、その顧問ももう居ない。去年の春、彼は隣の市へ異動になった。
私たちの部活は、かなり専門的な技術と知識を必要とする。その上、無くなってもあまり困らない部活だ。いや、結局全ての部活なんて必要ないのかもしれない。生きていく、それのみを考えるのならそれはそう。でも、私たちの部活は本当に役目が無かった。運動部のように賞を取るでもない。もうほんとに、ただダラダラと集まって個人の作業をして、適当に反省会をして。そんな部活だった。だけど、入部した私たちは────少なくとも私は────そのルーズさを愛していた。
彼の教えていた教科の、後任としてやって来た教師は、新しく出来た陸上部の顧問になった。
顧問の後任を頼まれた社会の教師は、期限付きでそれを引き受けた。その期限とは───私たちが引退するまで。新しく一年生などは採らない。私たちが引退した時点でこの部活は廃部。私たちは永遠に後輩だ。
通常三年生が引退するのは夏休みの部活動最終日。つまり、今日。引退式とかお別れパーティだとか、そんなことをいちいちやる部活ではない。だけど。
酷く寂しい夏だった、今年は。
昨年と一昨年は、沢山の先輩がいた。ずっと圧倒的な技術を持って部活を引っ張ってきた三年生。人数は少ないけれど、大きな信頼を集めていた二年生。そして、三年生がちょうど二年前に引退して、その次の年に二年生が引退した。夏を何時までと言うのか知らないけれど、彼らの存在は大きかった。
そっと私は準備室内をゆっくり歩いて移動して、部室の方へ戻る。他の部員は皆先に帰ったようだった。私たちの部室はちょうど校庭に面していて、運動部が練習している姿を眺めることが出来る。
中心を使っているのは陸上部。青い空と、白いジャージ。焼け付くような陽射しが照らす校庭の白い砂。ガラスを隔ててもなお聞こえてくる喧騒が、私が1人だからかやけに響く。
やっぱり、今年の夏は寂しい。
また部室を移動して、私は自分の荷物を持つ。扉を開けて外に出て、鍵を手に取って締める。しっかりと戸締りをしてから、私は鍵を返すために職員室へ向かった。
途中、第一音────第一音楽室の略────の前を通る。中から響いてくる吹奏楽の楽器の音。いくつか知っているメロディーがあったから、ほんの少し口ずさんでみる。廊下には私ぐらいしかいないから、酷く虚しく響くだけなのを分かっていて。
三回目だけれど、寂しい夏だ。
職員室で鍵を返して、そこにいた顧問にこれまでの礼を言う。それ以上、何も言わない。そして私は、昇降口に向かった。
【最近みんつくが私にとっては一人称を書くための練習場になってますね。
冒頭のすべてがFになるの所、マズかったら良い感じに書き直すので言ってください。】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.58 )
- 日時: 2020/07/02 02:03
- 名前: 卯 (ID: mcolBGSc)
夜分遅く失礼いたします。卯と申します。
かなり抽象的(詩的?)な出来だ……これってどうなの?? と首を捻りつつ投稿させていただきます。
双子なり和モチーフなり同性同士の重い感情なりが大好きです。そんな話を書きました。
次は百合など書きたいです。切実に。
+++
タイトル:あいにおぼれる
使用したお題:⑥鈴、泡、青色(三題噺)
ぽやぽやと溶けはじめた栗色の髪。穏やかにぼくを映すまあるい目。鼻、口の形も見せる表情もなにもかもが似通ったもうひとりのぼくは、ただただ微笑みを湛えていた。
ゆるく、唇を月の形に結んで、しあわせだったねとこれから訪れるおわりを祝福している。まだら模様に解けては戻っていく“ぼく”は、どうしてしあわせだなんて思えるのだろう。わからないし、わかりたくもなかった。理解してしまえば、ぼくがぼくのしあわせを否定することになってしまうから。
ただ、すべておわるのなら、なにも考えず思わずそのまま――その一心で“ぼく”を見つめ続ける。ハの字に曲げられた眉に心がきゅうと萎むのは、気のせい、気のせい。顔を背けて違和を感ずるなと念じ続ける。
重たくなって、ぷかぷかと水中を漂う着物。
上へ上へと流れていく、ぼくらを縛り上げる飾りの紐。
紐の先につけられた金色の鈴――音を鳴らすことのできない、ぼくらの居場所を知らせる大事なお道具。
なにかが弾ける音がした。反射に身を任せて“ぼく”を見る。
水が、つめたい水が、ぼくらを覆おうと蠢いていた。弾けたのは無数の泡。ばらけていく形のない硝子玉の中で煌めいたぼくの片割れ。不安そうに身を寄せて、それでも笑顔は崩さずにいる。
(きみの気持ちも教えておくれよ。“ぼく”の気持ちはわかっているでしょう?)
どうか、“きみ”もしあわせだといってくれ。
そういっている気がした、その笑顔は真っ青に覆われていた。水はぼくらを覆うことに成功したのだ。
そうしたら、あとはおわりに向かうだけ。手を繋いで、体を預けて、ひとつになって、未だ萎み続けているぼくのこころも、“ぼく”の問いも水に溶かして眠るだけ。
おわりを告げる音はしなかった、けれど、時間が来たと悟るには十分だった。つめたい水がぼくらの体をつめたくしていっていることに気づいたから。
(きみもぼくの気持ちをわかってくれているはずだよ)
いえばぼくらを否定することになるから、絶対、いわない。
(そりゃそうだ)
真っ青の笑顔が溶けていく。うねる水たちに溶けていく。
栗色が青色に塗り潰されていった記憶を反芻しながら、まだぼくらはそこにいるかと指の腹を探りあった。膝を擦りつけて、足の指を繋ぎあわせて、額を触れさせ、何度も何度も生きているか確認しあった。
その確認すらもぼやけていく。鈍く、無に近くなって、そして、
さいごに見たのは、甘やかな藍色だった。
※※※ 補足――とある村民の手記――
“災が訪れたと巫様が告げた。
いつ頃の話かはとっくの昔に忘れられてしまったし、私も忘れてしまった。
この村の皆が覚えていることは、巫様が神の子が秘める破邪の力によって災を鎮ませよというお告げひとつだけだ。
巫様のお告げを受け、村は儀式を行うようになった。
七つになったばかりの子を神の子と崇め、災を鎮ませに――村の近くにある湖に沈ませたのだ。
双子の方がそういう力が強いのだと告げられたものだから、双子が神の子として選ばれたときには村中が湧きあがったよ。
災を鎮ませたあとは、神の子は神様に拾われる。神様が神の子を見つけられるようにと願ったのか、いつからか神の子に鈴の飾りを持たせるようになっていった。
拾われたあとの子供たちが救われていると、未来永劫信じてやまない――”
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.59 )
- 日時: 2020/07/03 07:37
- 名前: 待雪草◆U9PZuyjpOk (ID: QrFId7AM)
お題⑤「人って死んだら星になるんだよ」
『人って死んだら星になるんだよ。』
いつもそう言っていたけど君はずっと僕のことを無視して、金平糖を食べていた。
「星になる…………そんなこと絶対ありえないよ。人間は死んだら燃やされてお墓入り、でしょ?」
「いいや、絶対ありえるよ。」
それが原因で、ずっと喧嘩してた。
でも、ここは静かだから別にそんなことしてもいいだろうけど。
「それと似てるんだけど、金平糖ってさ、星の子供なんだって。近所の家のお馬さんが教えてくれたんだよ?」
今はお前の大好きな金平糖の話じゃないんだ。
そんな話、ただ見た目だけの話じゃねぇか。
「っていうか、もう夏か。じゃああいつらは逃げちゃうね。」
「逃げる理由はお前にある」
「夏ってことは、そろそろ私の出番だねぇ」
「見えにくい位置にいるだけだろ」
ダメだ。今日こそは伝えるんだ。
「…………なぁ、一つだけ言わせて貰う。」
「えっ何?」
『お前も元は人間だよ。“アンタレス”。』
「な…………!」
君____人間界でいうところのさそり座の一等星、アンタレスは、顔をしかめた。
「だから言っただろ?『人は死んだら星になる。』それはお前だよ。」
「………だからって、言わないでよ。私でも気付いていたんだから。“デネブ”。」
彼女が赤く見える理由。
それは、人として死んで今でも燃やされている、毒を持つさそりだから______。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.60 )
- 日時: 2020/07/04 08:33
- 名前: むう (ID: oQRxB9kI)
お題5「人って死んだら星になるんだよ」
タイトル「Stand by me」
********************
七月七日は七夕の日。
織姫と彦星が一年に一度天の川を渡り、再会を果たす大事な日だ。
その事実を採用するならば、私はきっと彦星に会えることはないだろう。
去年はこの日が平日だったので七夕の短冊も学校で書いたが、今年は休日なので宿題で短冊に願い事を書くことになった。
でも今更、叶えたい願い事なんて、大事なものを失った自分にはない。
両親が地域の行事に参加しているので、この広い家には私一人だ。
今いるのは八畳ほどの和室で、神棚には仏壇が置かれている。
中央に飾られてある遺影の中で、私にそっくりな女の子はりんご飴を舐めながら笑っている。
「怜ちゃん…」
私には双子の妹がいた。名前を怜という。
双子というのは性格が正反対だったりすることが多いらしい。怜ちゃんもそうだった。
自分より勉強ができ、可愛くて優しくて、いつもクラスの中心にいた。
姉の私はいつも妹の後ろに立ち、彼女の背中から世界を見ていた。
でも……。
つい三週間前のあの日は確か、酷く雨が降っていて、天気予報では嵐が続くと言われていた。
怜ちゃんは前述したように頭が良かったので、進学塾に通っていたのだが、塾から出るスクールバスが水たまりでスリップして、転倒したのだ。
母親は酷く泣いた。
いつもはにこやかな顔をくしゃくしゃにし、大勢の人がいるお葬式で号泣した。
父親は、やりきれないというように首を横に振るだけだった。
私は、何も言わなかった。
過去はどうやっても変えられないということは小学生の私にでも分かることだった。
ただ、その時から自分はとんでもない罪を犯したのだと思うようになった。
私がもっと頭が良ければ、怜ちゃんと一緒に塾に行くこともできた。
私があの日、「嵐がひどいから今日は休んで」と言えば、怜ちゃんは死ななかった。
私がもっと怜ちゃんのことを考えて行動していたら、こう言うことは起こらなかった。
『悠ちゃん、見てみて! またテスト100点とったよ!』
『すごいねぇ。怜ちゃんは自慢の妹だよ』
『ううん、私は悠ちゃんの方が凄いと思う。悠ちゃん大好きだよ』
おまけに怜ちゃんが死んだ日は…七月七日。
私たちの誕生日の日だった。
こんな日に、神頼みで願い事を書いたってどうにもならないだろう。
もうやめよう。こんな宿題なんか意味がない。
私は学校でもらった短冊を、手でくしゃくしゃに丸めようとし…。
私は見たのだ。
仏壇の前に、今までなかったものが置かれてあるのを。
確かあれは、怜ちゃんが使っていたミュージックプレイヤー?
「お母さんが持ってきたのかな」
仏壇の側へ行き、プレーヤーを手に取ってみる。
電源を入れると、ホーム画面にデジタル文字が表示された。
『録音データが一件あります』
「え…? こ、これかな」
怜ちゃんが録音をしているところを、私は見たことがない。
何を録音したのだろう。何で録音したのだろう。
胸の鼓動が速くなる中、ボタンを操作して録音画面をモニターに映し出す。
再生ボタンを押す。
『こんにちは、月瀬怜です』
怜ちゃんの明るい声が聞こえた。
『これを聞いているってことは、悠ちゃんがそこにいるんだね』
『これは、悠ちゃんに向けた私からのメッセージです』
『まず初めに、お誕生日おめでとう。大好きだよ!』
『悲しい時、寂しい時、いつもあなたが側にいてくれました』
―――怜ちゃん。
『だから、これからも側にいてください』
―――ムリだよ。もう、手の届かないところに貴方は行ったじゃない。
『もし、私がいなくなったりしても、側にいてください』
『私はどんな時でも、悠ちゃんの側にいます。応援してます。愛してます』
―――怜ちゃん。怜ちゃん怜ちゃん怜ちゃん怜ちゃん。
ずっと会いたかったよ。ずっとあやまりたかった。ずっと過去をやり直したかった。
ずっと好きだった。ずっと後悔してた。ずっとずっとずっと。
『だから泣かないでください。だから諦めないでください。悠ちゃんを応援してます』
「無理だよぉぉ……怜ちゃんにまた、会いたいよぉぉぉ!」
七夕だからとか、年中行事だからとか、そんなことは関係ない。
私は、私は……っ。
また、妹に会いたい。また妹の側にいたい。
人は死んだら星になるって言うけど、それなら、私はその星の側で輝きたい。
叶えてほしい願い事、本当はあるけれど、絶対に叶えることは出来ないと分かっているから。
妹に、また会いたい、という願い事は、もう叶えられない。
でも私は、たった一人の怜ちゃんの姉として、妹に会いたいのだ。
『悠ちゃんが大好きな曲を歌います。[Stand by me]』
和室を流れるゆったりした曲調。私たち双子が大好きだった曲。
ぐすんと鼻をすすりながら、私は手に持ったままだった短冊をじっと見つめる。
私が今叶えたい願い事は。
『Stand by you』
~終わり~
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.61 )
- 日時: 2020/07/05 00:30
- 名前: 千葉里絵 (ID: nTqYZLt2)
リハビリ的な感じで投稿させていただきました。正直、これ同性で書こうと思ってたのですが、NLっぽさが出るようにしました。GLとして読むことは難しいかもしれませんが、BL程度なら薄めなら行けるのでは()と思っています。
幾つになっても文章が苦手で、しかもこちらリハビリなので、感想を頂けると喜びます。
*****
タイトル:永遠の婚約を
お題:⑥鈴、泡、青色(三題噺)
―人間に恋をして、全てを投げ打って陸に上がった王女がいた。最期には、泡になり、何もかも失い、消えてしまったという―
この話を、幼い頃はおとぎ話、成長してからは歴史として学んだ。既に手にしていた幸せを潰してまで得たかった愛情を得ることも出来ず、姉たちの助けも拒み、最期には消えてしまったこの王女の話を聞く度に愚かだと感じてしまう。
何も人に恋するのが悪いだなんて思わない。彼女の時代に魔法が追い付いていなかったわけではない。相手を海に連れ込むことだって出来たはずだ。
彼女が陸に上がることを望むのではなく、相手を海に連れて来ていたら、歌で人間を魅了してしまっていたら、泡になるなんて契約の時点で諦めて海で他の人魚と幸せに暮らしていたら。
彼女は幾つもの選択肢を持っていながら、それを無視して自身が全てを犠牲にして陸に上がることを望んだのだ。愚かだとしか思えなかった。
かく言う私も人間に恋をした。けれど、あの王女様のような真似はしない。人間になれる薬は自分で調合したし、陸に上がりきることはなく、あくまで私は海の生き物、相手は陸の生き物として生きている。
夕方、私が浅瀬にいると、軽やかな鈴の音がする。この音が合図で、私は人の身になって、恋人の元に向かう。そんなに長くは人間でいられない。ほんの数時間砂浜を二人で歩くだけ。
だけど、それが何よりも愛しい時間で、私にとっての幸せだった。月が上ぼる前、海が濃い青に沈む頃、私達は別れのキスを交わしてそれぞれの在るべき場所に戻る。私は深い海の底。彼は明るい陸の家。
そんな風に私達は愛を確かめ合っていた。そんな中、ある日今まで一度もされたことのない質問をされた。
「なあ、いつもお前がこっちに来てくれてるだろう?俺が海に行くことは出来ないのか? 」
思っても見なかった質問だった。人間が海に行くことは出来る。長時間じゃないが呼吸は可能だ。だけど―
「―どうして、なの?」
「ん?それは、特に理由なんてないさ。ただ、お前はいつも俺に合わせてこっちに来てくれてただろう?だから、たまには俺も。な? 」
その心遣いが嬉しくて、きっと私は隠しきれない笑みを浮かべているに違いない。こんな申し出を断る理由もないものだから、私は服のポケットから小さな瓶を取り出した。掌にすっぽりと収まるほど小さな瓶。
「これを飲めば一日程度海中での呼吸が可能になるわ。慣れるまで少し苦しいけれど、それでも来るの? 」
私がそう訊ねると、彼は嬉しそうに笑いながら力強い頷きを返してくれた。
約束は次の日、待ち合わせ場所は一番大きな岩の下の洞窟。目立つ場所だからすぐに分かる。
でも、彼は来なかった。一日中待ったが来なかった。それ以降、あの軽やかな鈴の音が私の耳に届くこともなくなった。
彼に捨てられたのだと悟った。もう二度と彼が私の名を呼ぶことも、一緒に砂浜を歩くことも、ないのだと思った。彼が好きだと褒めてくれた長い金色の髪も、今ではもう必要ない。可哀想な髪は短く切られ、波間を漂って消えていった。
周りの人は皆、彼のことなんか忘れてしまえと言ってきた。もちろん、私だって忘れるつもりだった。だけど、心のどこかで、彼はこんなことをする人じゃない、何か理由があるはずだと思い続けていた。そんなはず、ないのに。
そんな風にして一年が過ぎて、私が一人小さな魚たちの近くでぼうっと座り込んでいた時
―チリン
あの、懐かしい鈴の音が聞こえた気がした。どこか、遠くで。でも、陸から聞こえるときよりも遥かにハッキリと。あの人がいるのかもしれない。鈴の音を頼りに、私は深い青の中を泳ぎまわる。鈴、すず、私を待つあの人が持っていた鈴。
泳ぎ回って、もう日も沈みきった頃に、あの日の待ち合わせの大岩の下に着いた。そこが音が一番近く聞こえる様に感じて、うろうろと泳いで回る。
あの日以来一回だって近付かなかったこの場所で、いつ死んだのだろうか、大きな鮫が転がっていた。そして、この鮫から鈴の音が聞こえたような気がした。
私は、躊躇いもなく手近にあった岩で鮫の腹を切り裂く。いや、切り裂くというよりは、何度も何度も腹の辺りを岩で引っ掻いた。何回目だろうか、ようやく鮫の腹が切れて内臓が見えた。青い海と対比的な赤黒い内臓に手を突っ込んで弄ると、胃の辺りからちりんと鈴の音が聞こえてくる。私は胃を引っ張り出し、また岩を突きつける。やっと破けた胃からは―
―青いベルベットか何かだっただろう小箱と、魔法のあの人に渡した鈴。
そっと小箱を開ければ、そこには真っ青な海のような宝石が嵌めこまれた二人分の指輪に、私と彼のイニシャル。
「迎えが遅れてごめんなさいね。でも、遅刻しすぎよ」
『こんなに会うのが大変だと思わなかったよ』
懐かしい彼の声が聞こえた。
―人魚姫は泡になって美しい最期を遂げた。でも、人も人魚も現実ではそんなに美しい死は望めない。精々、青い海の深い底で、思い人に鈴の音で見つけて貰うくらいしか出来ないのだから―
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.62 )
- 日時: 2020/07/05 14:28
- 名前: 千葉里絵 (ID: 5BJThqDo)
すごく此方のお題も好きだったから、という理由で突貫工事で二個目のお題を書いてしまいました。申し訳ない。あと、これ、すごく、「思ってたんと違う!!!!」って仕上がりです。そもそも、BLで書くつもりなかった。
!!腐ですよ!!
*****
タイトル:星と恋と死
お題:人って死んだら星になるんだよ。
夜空に輝く美しい光。宝石箱をひっくり返したような、控えめで、それでいて華やかな空の輝きに思わず感嘆の声が上がる。初めて訪れた親友の故郷の夜空は何にも増して美しい物だった。
隣で一緒に星を見上げていたはずの男から、痛いほどの視線が向けられていることは気がついていたが、無視して空を見上げ続けた。今日でお別れの男に未練タラタラなんて終わりは死んでも御免だった。
いつかは終わりが来るのが人間関係の道理で、それが思っていたより早かったというだけ。彼は明日にでも可愛らしい婚約者のところに行かなくては行けないし、自分はそれをすっぱり諦めるつもりなのだから。
「なあ、この地域で語り継がれてる話なんだがよ。お前がこういうの好きそうだから聞かせてやる」
そう横柄な言葉遣いで告げる男は、相手からの返事も待たずに短い、物語と呼んでもいいものかと怪しい話を聞かせてくれた。
昔からこの地方では、人に尽くすことを美徳とする習慣があった。それは他の地域でも美しいこととはされているが、この地方ではそれがとりわけ強く、最大の献身は命を落とすことだった。
ただ命を落とすだけではダメで、誰かのことを心から思い、願い、その人のためだけに命を落とす事に意味があるのだという。そして、人のために落とした命は未来永劫輝き続け、空に浮かぶ美しい光となり、永遠の命と美と愛を受けられるのだと。
そして、相手を思った強さの分だけ、美しく光り輝けるのだと。
「なんだか、不思議な話ね。死んだ人間が星になるなんて」
だとしたら、あそこに輝く星々も元は誰かの命だったのだろうか。あそこで美しく燃えるように輝く赤い星も、静かに粛々と辺りを照らす青い星も、誰かのために献身的に己の命を燃やした人々が得た美しさなのだろうか。
「……ねえ、私がいつでも美しくありたいのは貴方が一番良く知ってるわよね? 」
「あたりまえだろう。何年の付き合いだと思ってるんだ」
そう答える相手の眉間におかしな程の力が込められる。この男は自分が言いたいことが分かったのだと感じた。
「私が、どんなに努力しても受け入れたがらない人間が居ることも分かってるわよね? 」
幼い頃から言われてきた「男らしくない」という呪文のような言葉に、未だに苦しさを覚えることがある。隣に立つ彼の男らしさを垣間見るたびに、自分が異端で異分子で、世界から拒絶されるのが仕方ないことなのだと気付かされる。
「だからね、誰にも文句を言われない美くしさが欲しいの」
「……お前は十分綺麗だろうに、周りの目なんて気にするな。お前の美しさを分かるやつの方が多いだろう」
この男の分厚い唇から吐き出される優しい、不器用な言葉に思わず笑いが漏れる。こんな自分をいつまでも美しいと言ってくれるのは、きっと彼だけに違いない。美しい盛りを過ぎれば、自分はもう無価値な人間へとなり果ててしまう。
男らしい豪胆さはいつまでも消えないが、美貌は一瞬で消えるのだ。その束の間の美しさだけを追ってここまで20年間頑張って人生を生きてきた。
この夜空と、優しい伝承を聞くまでは、少なくとももう20年は頑張って行くつもりで居た。今日を最後に隣から彼が居なくなることも、全て自分の糧にして、美しさに磨きをかけるつもりで居た。
でも、こんな話を聞いたら、もう駄目だった。隣の彼が自分のことを気に掛けることがなくて良い様に。記憶には残っても、気遣うことがなくて済むように。婚約者と仲良くやっていけるように。星になってしまいたいと思った。
誰にも文句の付けられない完璧なまでの美くしさと、彼との未練のない別れ。これ以上ない素敵な話だと思った。心の底から素晴らしい話だと思ったのだ。別に、彼に忘れられたくないとかいう醜い感情ではなく。ただただ、この方法が最も二人のためにいい手段だと感じたのだ。
そう思って、無言で相手の顔を見つめると、深い青の相手の瞳に自分の姿が映りこんでいた。そこに写る自分の瞳が凄く頼りなげで、まるで引き止めてくれとでも訴えているように見えてしまって、思わず目を逸らした。
逸らした目線の先にはまた、美しい星々が飛び込んできた。その輝きにまた羨ましさと悲しさを抱くと、隣から何かポツリと呟く声が聞こえた。
「……いいのにな」
それは、ずっとお前と居られたら良いのにな、と言ってる様に聞こえてしまって。涙が止まらなくなった。
私もよ。そう言ってあの不器用な言葉しか紡げない厚い唇にキスを落としてあげたくなる。そして、星になったらそれも叶わないものとなるのだと、ようやく気がついた。
そして、代わりに可愛げのない言葉が零れる。
―一番美しい姿で、アンタのための星になりたい。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.63 )
- 日時: 2020/07/13 21:14
- 名前: ひにゃりん (ID: Vdbma5tA)
お題⑤
「記憶の星空」
人は死んだら星になる。昔、誰かがそんなことを言っていたような気がする。もしそうなら、天国とは星空なのだろうか。
星が見えなくなったのは街の明かりが原因ではなく、天国に行ける人が減ったから?
そんなことを考えていたら、突然名前が呼ばれた。
「花宮さん、次の問題お願いします」
「へ、あ、えと」
シーンとした教室。今日も、笑い物にさえなれず私はいらない子になっていく。
この街に、星は出ない。いや、違う。私には見えないんだ。昔は見えたはずなのに今は見えない。
きっと、天国から遠すぎるんだ。他の子はちゃんと生きているから見える。誰かの役に立っているから、
誰かを幸せにしてるから。私と違って。
家に帰ると、いつも私は絵を描く。みんなが笑っている絵、泣いている絵、…私が、その中にいる絵。
あと、お姉ちゃんの絵だ。お姉ちゃんは凄くいい人。だから天国も見えたし、行くことも出来た。
お姉ちゃんの手を握っている時だけ、私はいい子になれたんだ。いつも一緒に天国を見てた。
今、あの星光ったね。ほんとだ、何か言ってるのかな。
そんなことを言いながら、いつも二人で笑ってた。
絵を教えてくれたのもお姉ちゃん。私をくれたのはお姉ちゃん。
「もう、お姉ちゃんのところには行けない。」
何気なくカレンダーを見る。明後日は七夕だ、最後の。
何年も前から言われていた。
彦星が移動してしまったんだ。理由は分からないけど今回が最後の七夕だと騒がれていた。
私には関係ないけどさ。
ね、星(セイ)
なーに?
お姉ちゃんが星になったらさ、彦星さんに、織姫さん捨てないでって
お願いしたいなぁ。
?
ううん、なぁんでも。
朝。物凄い雨音で目が醒めた。
驚いて窓の外を見ると道が湖のようになっていた。
テレビで、いつでも避難できるようにと言っていたので荷物をまとめる。
家にはやっぱり私だけ。
避難所は私の通っている学校だった。たくさんの人が来ている。
すぐに帰れると思っていたけれど、なかなかそうもいかず、七夕が近づいていった。
「ねぇママ、おほしさま、見れないの?」
「…ごめんね、ごめんね。」
中には泣いている人もいて、なんだか…嫌だった。
『お姉ちゃん…見えない…お星様みえないよ…』
昔、泣き噦る私を慰めてくれたのは、いつだってお姉ちゃんだった。
「…」
「…」
「…っ!」
「ちょっと、花宮さん!?」
気づけば、駆け出していた。
自分の教室から紙を、
美術室から絵の具とペンキを、
いろいろな道具を、体育館へと運ぶ。
そして…
『先日の豪雨災害、最後の七夕の日に、避難所の学校である奇跡が起きました。
女子生徒が突如絵の具等を使い、星空の絵を書き上げたのです。
その絵は、専門家の目から見ても相当評価されるもので、避難者のなかでは、その絵を
見て涙を流しているものもありました。しかし、女子生徒は、美術の成績が
特別良いということはなかったらしく、星空のみ、正確にえがけるようです。
しかし、その中に一つのみ、実際には無い星が…』
数年後。星は星空の画家として暮らしていた。今でも星は実際には無い星を最後に付け加える。
星の記憶の星空には、こちらを見守る、優しい星が常に輝いていた。
待っていてくださり、有り難うございました!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.64 )
- 日時: 2020/07/06 00:18
- 名前: 祥 (ID: aGPxbw5E)
「粘着質な独り言(または懺悔、反省文、ラブレター)」
使用お題:4番「寂しい夏」
***
温暖湿潤気候の影響か、ジェット気流の合流地帯である影響か。日に日に蒸し暑さが増している。まだ梅雨も明けず、なんとなく塞いだ気分になる。帰宅すると、エアコンも電気もつけずに座り込む。いつも通りの雑然とした部屋でひとり、身に着けていたペンダントのトップを握った。これは、すべての始まりであるあなたの作品をイメージしたものだ。
普段はペンダントなんていう拘束具じみたものは身につけないのだが、あなたとの繋がりを少しでも感じられるならいい。今日はあなたに縛られていたい。だって今日は特別な日だから。
——どうか、届きますように——
祈るような気持ちで暗闇の中、スマートフォンの画面を開く。目には悪いが、今日という日に相応しい。
私は字書きだ。まだまだ上手ではないが、少しずつ作品の質が上がってきたように思う。ただ、中学生だった頃の夢は叶わないままだ。だからせめて、と随分前から、今日は短いエッセイをアップロードしようと思っていた。
数日前に書いて何度も確認した文を呼び起こし、更に今日という日に似合う文章に変える。
「『懺悔でも反省文でもラブレターでもある、私の愛の話。かなり気持ち悪いはずだ。どうかいらしてくれた皆様がご不快になりませんように。そう願いながら、この文章を打っている』」
前置きはこれで良いだろうか。あなたに見られる可能性を考えると、とても不安になる。すうっと一吸、はぁと一呼。暴れるような鼓動を沈める。
覚悟を決めて、投稿ボタンを押した。
*
「粘着質な独り言」
これから書くのは私の独り言であり、「あなた」へ宛てたものでもある。だから、懺悔でも反省文でもラブレターでもある、私の愛の話。かなり気持ち悪いはずだ。どうかいらして下さった皆様がご不快になりませんように。そう願いながら、この文章を打っている。どうか、あなたに届きますように。
私はずっと、あなたに憧れていた。大好きだった。あなたに、いつか認めてもらうことが夢だった。けれども、それはもう叶わなくなった。否、きっと可能性はゼロではない。しかし、奇跡が起こらない限りは無理だろう。だってあなたは——
今となっては、あの日々は幸せな幻だったのではないかと思うことがある。でも、ちゃんと現実だったという証拠がある。それはデータとして。少し心許ないけれども、確かに存在する。
作品が好きだった。繊細で厳しくて、でも優しくて、美しかった。次に、人柄に惹かれた。交流を深めるうちにいつしか、あなたの人柄を全てわかった気になっていたのだ。こうなるともう、あなたの虜だ。私はあなたの狂信者と化した。あなたにとっては、厄介な存在だったのかもしれない。
あなたからのお返事が嬉しかった。小さな共通点が嬉しかった。話ができる、それだけで嬉しかった。ある世界の創造主。ある意味での神と只人が同じ次元で話している。私なんて有象無象の読者の一人でしかないのに、である。それが不思議で、夢のようだった。けれども、だからこそ未熟な自分の物語をあなたの目に触れる場所に置くのを躊躇った。
何度目だろう。私は今日もあなたのことを想う。今日でもう五年になる。今年はあの日と曜日も同じなのだ。私は忘れない、忘れられるはずがない。あの頃の熱量、愛、世界の全てはあなたに支配されていた。例えあなたがどんなに私を拒んだとしても、私は強烈な愛の衝動をあなたに向けただろう。好きだ好きだといい続け、燥ぎ、きっとあなたの負担の一因となったはずだ。今ならわかる。あの頃の私はどこか可笑しかった。常軌を逸した何かがあった。狂気に似た何かが——
わかっている。私は昔から変わっていない。否、少し大人になったし前ほどの燥いだ愛を即座に文章化することはない。けれども、本質的には全く変わっていない。あの日以来、あなた以外の好きにも出会ったのだけれど、本質は粘着質で熱狂的な見苦しい巨大感情のカタマリだ。もう笑ってしまうくらいに、今も昔も変わらない。変われない私をよそに、あなたはもう変わっているのだろうか。
ああ、今年も夏が来る。私からあなたを奪った、憎い夏の入り口だ。あなたのいない、五回目の寂しい夏。あの中学生の私は、もういない。けれども、あなたを好きだった人の一人として、今も好きな人として、あの日を今も恨めしく思う。そう、未練がましくこんな痛々しい文を綴るくらいには。
*
画面が更新された。簡単に投稿できてしまった、と唖然とする。もう何回も投稿しているはずなのに。緊張と、こんなことをインターネットの海に流してしまった自分に対する嫌悪感が湧き上がる。
無気力となった私はそのまま何もせず、ブラウザ画面を閉じた。ぴったり閉じていたカーテンを開くと、いつもの街が目に映る。夕闇は色を濃くし、対比するような街の煌々とした灯りが眩しい。
——この空の下で繋がっている、そう信じるしかない——
本当はわかっている。届くだなんて、思い上がりか、そうでなければ都合の良い妄想だ。けれども、私の心の大部分は未だにあなたのものなのだ。これはあなたのことを好きになった日から、きっと何ひとつ変わっていない。
私は祈る。どうか、あなたが私以上に幸せでありますように。そして願わくば、あなたに届きますように、と。
***
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.65 )
- 日時: 2020/07/05 23:54
- 名前: 祥 (ID: aGPxbw5E)
感想が下手なためあまり多くは書けませんが、感想を書こうとしているという意思表示はしておきます。
ヨモツカミさん
ご感想ありがとうございました。優しい気持ちになりたいなあと思い、書いた話でした。少しずつ時間を重ね、気持ちも重ねていく関係が好きなので、あのような話となりました。どんな関係と言い表すことの難しい二人の関係が私には眩しく、愛しいのです。
心さん
No.37「オレと君」拝読しました。
私の解釈では「オレ」はスマホとなりました。そう決めて改めて読むと、イメージや行動やに対しての「オレ」の表現が面白いなあと思いました。
千葉里絵さん
No.61「永遠の婚約を」拝読しました。
切ないですね。タイトルを見る限り、彼女はこのあとも生きていく選択をとるのでしょうか。童話ベースながらも現実的で、「私」の賢さを凌駕する現実の残酷さがとても心に残りました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.66 )
- 日時: 2020/07/08 07:43
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: HLOK10zo)
追記:宵はく書いてる方の名前はライターですが、先に投稿したもの(永遠に後輩。)が心名義ですので表記は心でお願いしますすみません。こちらのミスです(汗)
お題⑤ 「人って死んだら星になるんだよ。」
タイトル 「星を造るひと」
「なあ、お前知ってるか?」
「何をだ?」
師匠が珍しく酒場に飲みに行くと言うから、そのキーパーとしてついてきたオレは早々に暇を持て余していた。大体そうなのだ、あの人は老体のクセによく飲む。会計はオレが払うことになる。だったら着いてこなければいいのだが、酔い潰れた師匠を迎えにくるのが普通にだるい。困ったものだ。
ちょっとロマンチストな同業者、シオンはオレにそう問いかけてきた。会うと何故か常に絡んでくる奴だ。
「人はさ、死んだら星になるんだってな。」
「死んだら……星になる?」
オウム返しにそのまま問い返してしまった。スツールに座るオレの目の前に、シオンは椅子を引き寄せて座る。カウンター席で酒を飲んでる師匠に目を向ければ、まだまだ終わりそうな雰囲気ではなかった。
「そそ。この間殺した女が言ってたの、死の間際ってやつに。『星になって貴方を見てるから』、ってさ。それってそういうことだろ?」
やたらと声真似が上手い。でも、話の内容はバカバカしくてオレは明後日の方向を向きつつ生返事を返した。
「ふーん?」
「お前絶対本気にしてないなおい!」
ムッとした顔を向けてきたシオンへ、ひらひらと手を振りつつオレは笑った。
「半分くらいはしてるよ。まあ……オレたちには無縁みたいなものだろう?」
オレがそう言った途端、シオンがすっと真顔に戻った。まずいことを言った、という自覚は無かった。当然だからだ。手を血に染めるオレたちに、そんな死後が望めるはずもないだろう?
「そうだけどよ。お前もーちょっと夢見ねえの?」
「さあ。」
夢を見る、という表現がよくわからなかったオレは、適当な返事を返して立ち上がる。
「ほんと現実的なヤツ。リアリスト、っての?」
「知るかよ。」
□ △ □
オレは酒場から帰ってきて、師匠の家の庭に座り込んだ。考え事とか、昼寝とか。庭の中心辺りに生えてる木の下が、オレは好きだ。空が見えるように倒れ込んで、星を見上げる。いつも葉が落ちているのだが、今は夏だ。昼間は暑苦しく晴れ渡っていたから、夜空も星が瞬き続けていた。掃き溜めの如く溜まる星、模様を作って輝く星。
死ぬと星になると言うなら、オレたちは星を造っているという事だ。それは、つまりオレたちが人の役に立ってるってことなのか? 星明かりは誰かを照らし得るのか? どうやら深夜というのは、どうしようも無いことを考えたがるらしい。背中から、ボロボロの石畳の硬さが伝わってくる。
こんな、こんなことで。己の行為を正当化していいわけなんてない。
そう思って、オレは手を伸ばす。
【意外とリアリストなトワイさんとシオンの話。外伝スレの方にも載せます。】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.67 )
- 日時: 2020/07/06 09:05
- 名前: 切札勝鈴 (ID: FGJX5dNs)
はじめまして
コメライでカードゲームモノを書いております勝鈴です
わたしも参加してよいですか?
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.68 )
- 日時: 2020/07/06 19:52
- 名前: ヨモツカミ (ID: 33O798Us)
>>切札勝鈴さん
はじめまして。特に参加の許可などはありませんので、ルールは守りつつ、お好きなタイミングでSSの投稿をなさって下さい。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.69 )
- 日時: 2020/07/06 20:15
- 名前: ヨモツカミ (ID: 33O798Us)
参加してくださった方、ありがとうございます。
またちょこちょこ感想を書かせて頂きます。良ければ返信いただけると喜びますよ。
>>57心ちゃん
別に冒頭の引用? みたいなのはありだと思います。商業目的のなんかをしているわけじゃないし。
後輩が入ってこないから、先輩になれなかった部活。それの終わり。夏の暑さと哀愁を感じる文が好みでした。
>>58卯さん
和風ファンタジーみがあって素敵だ。双子の生け贄を捧げるみたいな、閉ざされた村とかの文化好きですね。二人だからこそ、想いあってさいごを迎えたって感じも良かったです。
平仮名と漢字の使い分けがいい具合のバランスで、惹かれる文章でした。
>>59待雪草さん
星座のお話だから、途中で出てきた馬も星座かなにかなんでしょうね。さそり座が出ると逃げる、オリオン座のことでしょうか。そんな話をどっかで聞いた気がします。
>>60むうさん
側にいてくれという強いメッセージを感じる……。妹は亡くなっても側にいますよねきっと。不慮の事故で突然大切な人を失うという、悲しい話でしたが、どこか前向きなメッセージ性を感じて素敵だなと思います。
今回はこの辺で。他の人宛にもまだ書きます!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.70 )
- 日時: 2020/07/06 20:25
- 名前: 待雪草◆U9PZuyjpOk (ID: SXPbqPcw)
そうです!
アンタレス(さそり座)から逃げる→リゲル、ベテル(オリオン座)
近所のお馬さん→さそり座の隣の射手座のケンタウロス
です!
小さい頃から星座が大好きで、このお題を見た瞬間、“これだぁ!”ってなりました(笑)
ちょっとこのキャラを使ってダークファンタジーで執筆始めようかな………?
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.71 )
- 日時: 2020/07/07 14:49
- 名前: 卯 (ID: LF6OwY2I)
>>69 ヨモツカミ様
まず、読んでくださりありがとうございます。
泡という単語を見て思いついたのが、「水中に入っていってそのまま……」なシチュエーションでした。シチュエーションから連想して青色のシーンを。
鈴の方は、鈴……なら和だ! という思いつきのままああなりました。
この話ではとりあえず男の子同士の設定でいきましたが、同性同士の重い感情を描写できれば満足だったので、女の子同士でもうぇるかむだったわけです。男の子もそうだけど、女の子も尊いので次は女の子のお話書きたいな……。
前の月のお題で素敵なものがありましたので、使わせていただきたいなと思っています。でも書けるかな。書ければいいな。
ひらがな、好きなのです。わざとひらがなにしてなんとなくエモな雰囲気にしたりするのが好きです。えもーしょなるらぶ。
なので、そういっていただけて嬉しいです。ありがとうございます。
他の方の作品の感想も投稿できればいいな、と思いながら失礼いたします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.72 )
- 日時: 2020/07/07 15:43
- 名前: むう (ID: RKSdH1KM)
ささやかですがコメント返信と、感想を送らせていただきます。
>>69
ヨモツカミさん、素敵な感想をありがとうございました。
ああいうお話はずっと書いてみたかったので、書けてよかったです。
七月のお題制覇目指して、また投稿しますね。
>>59 待雪草ちゃん
最初読んだときは、「あれ? なんかこの登場人物…んん?」みたいな感じだったんだけど、
最後の一行で「持ってかれた~」って感じで衝撃が走りました。
最後の描写で正体を明かす構成がお見事!
>>57 心ちゃん
流石…と言うべきでしょうか。言葉の使い方とか主人公の気持ちの描写が素敵ですね。
主人公の『私』の気持ちに共感しました。
やっぱり人が入って来ないと寂しいし、人と一緒にいると楽しいもんね。
その悲しさがはっきりと表されていて、引き込まれました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.73 )
- 日時: 2020/07/07 17:04
- 名前: ヨモツカミ (ID: P2KlADJo)
海に還す音になる
(お題⑥)
その水族館に来た家族連れは、何組も頭を悩ませた。普通に水生生物を見て回っていたはずが、途中で子供が姿を消すのだ。
「鈴の音に誘われたの」
たった一人、行方不明になってから三日後に見つかった少女は、ぬいぐるみを撫でながらそう語った。
子供にだけ聞こえる音がするのだという。
最初にリンリンリン、と三回。可愛らしい音に振り向くと、そこには水のドレスを着こなした小さな手の平サイズ女の子がいるのだとか。
あなたはだあれ。訊ねれば、代わりに響く鈴の音。どうやらそれが、その女の子の声なのだろう。だんだんそれが、こっちへおいでとでも言っているように聞こえる。
導かれた子供は、そのまま帰ってこなくなるらしい。もう一日に何回も迷子のアナウンスを流したが、子どもたちが帰ることはなく。
なのに、行方不明になって三日経ったある日突然、その少女だけが帰ってきた。
どこにいたのかと訊ねられると、それはそれは楽しい経験をしたと笑って答える。
知らない子どもたちが混ざって、真っ青な水槽の中を元気に駆け巡ったのだと。喋るとコポリと泡を吐くだけで、声にならない。だからお互いが何を言っているかは理解できなかったが、その幻想の中では最早言葉も必要なかったという。
少女が帰ってきたのは、お母さんに預けたままのぬいぐるみのことを思い出したから。イルカちゃんのぬいぐるみ。お土産売り場で買ってもらった、大切なやつ。あれがないと寂しいもの。だから、道を引き返した。
でもそうしたら、もう三日も経っていたらしい。
出会った大人たちがみんな血相を変えて少女を保護した。何が起こったのかわからない彼女は、ただぬいぐるみを探していただけで。
他の子どもたちはいつまでも帰ってこなかった。水の中の泡沫のように、消えてしまった。
それはまるで、ハーメルンの笛吹き男が子どもたちを隠してしまったみたいだ、と誰もが思った。
謎の鈴の音。水の妖精が、悪戯に子供達を攫ってしまったのだろう。
少女にはまた、リンリンリンと、耳鳴りのように鈴の音が聞こえる事があるらしい。執着の強い水の妖精が、彼女を呼んでいるのだろう。
まだあなたを諦めてはいない、と。
少女はそれが怖くて耳を塞ぐのに、鈴の音が鳴り止まない。リンリンリン。お母さんと過ごしていても、ご飯を食べていても、お風呂に入っていても、付き纏うみたいに鈴の音が響いた。
等々耐えられなくなった少女は、鈴の音が何処から聞こえるのかを探し始めた。リンリン、リン。こっちだよ、こっち。囁くような声が、呼んでいる。
こうなったら、音の元凶を捕まえて、もう煩くしないように懲らしめてしまおう。そう思った少女は、鈴の音を追いかけて、家を飛び出した。
リン、リンリン。近い。そこにいるのね、と少女は音だけを頼りに進んで、そして、
甲高い悲鳴が上がる。
弾かれたように少女が振り向いたとき、もう遅かった。
少女が立っていたのは、横断歩道。あ、と思う間もなく、信号の通りに走っていた車が少女に衝突して、鈍い音が響く。
リンリン。遠のく意識の向こうで、青藍の中を泡が舞っている景色が映る。海の中で、少女と同じ年くらいの子供達が楽しそうにはしゃいでる声が聞こえた。
目が覚めると、病室のベッドに寝かされていて、母親が傍らで両目に涙を貯めていた。少女は奇跡的に助かったらしい。
鈴の音はまだ傍らで聞こえている。まだわたしに付き纏うつもりなのか、と少女はベッドを殴りつけた。それでも音は消えない。
おかしくなりそうだと思った。
やがて月日が経って交通事故の怪我も回復し、少女は退院した。
鈴の音は消えなかったが、少女もそれをいちいち気にすることはなくなって、そして彼女は小学校に上がった。友達と話しているとき、授業を受けているとき、微かに遠くで鈴の音は鳴り続ける。呼ばれているのだ。だけど彼女は根気よく無視し続けた。
そうして何年がすると、音がしなくなっていたのだ。しかし代わりに、おかしな夢をよく見るようになった。
──深海にいる。
そうわかるのは、口を開くと透明のあぶくがコポリと音を立てるから。それと、青く透き通った光が差している。周りに生き物はいないけれど、ここは幼い頃に一度連れて行かれたあの空間に似ていると気付く。水の妖精が鈴の音で誘って、沢山の子供達が迷い込んだ、あの不思議な場所。
自分の体を見下ろすと、腕がおかしいことをすぐに悟った。黒くて長い、うねうねした蛸の足みたいになっている。自分は蛸になってしまったのだろうか。わからないが、自分をよく観察するごとに、自分が人間とはかけ離れたものになっていることがわかって、怖くなる。うねうねと長い触手は何本も生えていて、表面をよく見ると鋭い歯のようなものがギザギザと並んでいる。
そして、そんなことは気にならなくなるほどに少女は酷い空腹感を覚えていた。
──食べたい。今すぐに何か。なんでもいいから食べないと死んでしまいそう。
そう思っていると、丁度何人かの幼い子どもたちが楽しげにこちらに近づいてくるのが見えた。
少女は咄嗟に触手を伸ばして、子供の一人を捕まえて、喉元に食らいついた。喉の乾きが癒やされて、肉の味が口いっぱいに広がる。
──ああ、なんて美味しいんだろう。
もっと。もっとと、触手を伸ばした。子どもたちは怯えて逃げることはない。むしろどうしてか、楽しそうにこちらに向かってくるのだ。こんなに都合のいい獲物はいないだろう。嬉しい。少女は喜んで子供達を貪り食う。
リン、リリン。
そのとき、あの鈴の音が聞こえた。
何処から。
自分自身からだ。
どうしてだろう、と少しだけ思考して、そんなものも酷い空腹感が覆い尽くしていく。
今はただ、食べよう。お腹が満たされるまで。
***
ちょっとホラーテイストにまとめてみました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.74 )
- 日時: 2020/07/08 00:42
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 2WotnGCk)
感想へ返信を。
>>69 よもさんへ
感想ありがとうございます。ふへへへ、哀愁! 感じてくれてなによりです。そこを今回は頑張りました。
寂しい夏、って聞いたときにやっぱ部活だな……と思ったところが始まりです。
感想返すの遅くなってごめんなさい
>>72 むうさんへ
感想ありがとうございます。流石って言ってもらえて大変嬉しいです。そうなんですよね、人がいないと寂しい。部活って特にそうで、もうなんかそのどうしようも無い感じを現せたらいいな、と思って。
フフフフフフ、そんなに長くないんですが……夏の暑い感じと、静まり返ってる感じに引き込まれてくれれば(?)幸いです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.75 )
- 日時: 2020/07/11 09:22
- 名前: ヨモツカミ (ID: ph.qpJs.)
>>71卯さん
そこまで重い感情の関係だなって、初見でわかる感じではなかった気もするので、もっと深い繋がりがあったなら、事細かに描写してみてもいいんじゃないかなと思いました。
私も女子同士の繋がり大好きなので、次回の参加を楽しみに待っております!
>>61千葉里絵さん
お久しぶりです、参加ありがとうございます。
種族を超えた愛情、という時点で障害はいくつもあるでしょうから、最終的に少し悲しい形で終わるのがなんとなく予想できていて、やっぱり切ないですね。
それでも確かに二人が愛し合っていたなら、悲愛も美しいことでしょう。
>>63ひにゃりんさん
あ、途中なのか。ちょいちょい途中で投稿される方いるので、大丈夫ですよ。
ただ、続きが気になるからみんな最後まで書いてから投稿してほしいなとおもったりする。別に投稿期限無いんだから。
また少しずつ感想返していきます。返信とか、作品に対する語りとか聞けると楽しいです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.77 )
- 日時: 2020/07/20 15:52
- 名前: ライター◆sjk4CWI3ws (ID: x/6n8l/c)
お題④「寂しい夏」
タイトル「その夏、僕は。」
「小さな町に住む青年の不思議な夏を写した二枚の寂しい銀幕です。」
ポスターに描かれたのは黒髪の少女と若い男。そして、そこにはこんな文字が印刷されております。とても寂しくて、どうしようもない夏の夕焼けのシーンからその映画は始まるのです。
───その夏、僕は。
夕焼けに沈む外の街から、微かに太鼓の音と人のざわめきが響いていた。六畳の部屋で全開にされた窓から吹き込む風が、カーテンを揺らしている。テレビは付けっぱなしになっていて、部屋を淡く照らしていた。その小さなテレビから、ニュースキャスターの若い女性の声が流れてくる。煩く外で鳴くひぐらしの声で途切れ途切れにしか聞こえないが、そもそもテレビの持ち主は居眠りをしているらしい。
「今年の芥川賞───いたのは、────先生の───です。デビュー作は、───の『やまなし』───作品で、タイトルは『その夏、僕は。』────」
寝返りを打った男が、テレビのリモコンの上にのしかかる。テレビがぶつりと切れて、部屋の明るさががくりと下がる。その時吹き込んだ強烈な風が、机の上に投げ出されていた原稿用紙の束を部屋に舞わせた。
僕がクラムボンと出会ったのは、酷く蒸し暑い夏の夜だった。
その日はちょうど夏祭りの日で、なにかネタがないかと売れない物書きの僕は外に出た。僕がそれを志したのは、かつて宮沢賢治の作品の美しさに触れたからだ。特に「やまなし」は素晴らしい。文章から伝わってくる、水底の美しさ。光の瞬く様すらも、この目で見ているかのようだ。同じ岩手に住んでいるからこそ、その憧憬の念は益々強まった。僕は鈴木敏子氏と同じくクラムボンは泡だと思っている。
夏祭りに出かけた僕は、人の多さと暑さに参ってしまい、ふらふらと近くの川辺へと歩いていっていた。どこか遠くで太鼓の音がする。淡い提灯の光が川に反射して揺らいでいた。河川敷に腰を下ろして、僕はぼけーっと揺れる水面を眺めていた。周りには誰かといる者たち。一人だ、僕は。
祭りというのは不思議だ。何処か別の世界がこの世界に重なるように、人は騒いで歌う。もし今僕が居るここが、他の世界とつながっていればな、と思う。打ち上がる花火が、川に映り込んでいた。この世と何処かの境界が薄くなって、此処は本当に異世界であるような。まるでそう、やまなしに登場する幻燈の世界のような。そんな気がする。
その時、不意に水面が跳ねたような気がした。キラキラと舞う水滴を確かに僕は見た。僕は底知れない何かを感じて、吸い寄せられるように川岸まで降りていく。
そこにいたのは、美しい黒髪の少女だった。
彼女は何も喋らなかった。ぺたんと地面に座り込んでいる。川から現れたのか、それともここで倒れていたのか。だけど、彼女は救いを求めるような目で僕のことを見ていた気がした。先程のふらふらした思考も相まって、僕は彼女へ手を伸ばして問いかけた。
「大丈夫?」
そう言われた彼女は、少し戸惑っているように思えた。僕の手に彼女の手がふれて、ゆっくりと全身が顕になる。薄い色合いの浴衣のような衣と、長い髪。僕などがこの淡くて儚い右手を握りしめたら、泡と融けてしまいそうだ。
「…………わた、し……」
髪を揺らして、少女は懸命に喋ろうとしていた。
「無理しなくていいから、えっと……名前、は?」
何かカッコつけたことを言おうとしても、言葉が出てこない。それにしても端正な顔立ちの少女だった。長い睫毛と、うっすらと煌めく黒の瞳。周りが水に濡れている。ならば本当に川から現れたのだろうか。そこまで来るといよいよ物書きの妄想だ。
「…………………………クラ…………」
口をぱくぱくと動かして、必死に言葉を紡ごうとしている。だけどとても無理をしているように見えて、僕は慌てて少女に言った。
「クラ? えーっと、くらら、とかかな……最近の子はそう言う名前の子も多いって聞くし……」
自分で言いながらも黒髪にはあまり合わないかな、と思ったけれど。そう言いながら、僕は笑った。───彼女が何であるかも知らずに。
────あれから、一週間が経つ。何も彼女が出自について話さないので、僕は彼女を家に連れ帰ることにした。祭りでたくさんの人が出ていたのが幸いしたのか、僕らはだれにも咎められることなくアパートに着いた。
くららは暑さに弱いらしく、僕のエアコンなんてついていない部屋ではすぐに体調を悪くしていた。だから、僕がバイトに出ている間彼女に図書館に待っていて貰う。二人、というのは楽しかった。
くららはよく笑う。いつもきらきらした笑みを見せている。僕のつまらない現実という日々は、どうやら彼女のおかげで妄想にしろ何にしろ華やかなものになっていった。
────一年が経った。再び、夏祭りがやってくる。もう僕らは良い友達になっていて、彼女も大分喋れるようになって来ていた。だけど、彼女は何も明かさない。時折悲しげな顔をして、外を見ている。彼女のそんな行動を見て、僕はもしかしてかぐや姫なんじゃなかろうかと思っていた。だが、それにしては早い。まだ一ヶ月ほどある筈だ。
夏祭りに僕らは繰り出して、案の定人酔いした。くららも目を回していて、僕は彼女を連れてあの川の前に立った。長い黒髪を揺らして、去年と同じ着物で。
彼女は、泣きながら笑った。
「ごめんなさい。ありがとう。」
どこかで打ち上がる、去年と同じ花火が。この世界は幻燈であるような。そんな感覚が、蘇る。
「待って……待って、くら……!」
その時、僕は気付いた。
彼女こそが、クラムボンなのだと。
泡のように儚くて淡くて、そして幻燈。彼女に、宮沢賢治が、クラムボンという名前を与えたのだ。だから、彼女は、僕にクラと言ったのだ。彼もまた、これを見た。そして、あの『やまなし』は生まれたと仮定するならば。僕に出来ることは。
「クラムボン!」
叫ぶ。消えてしまうのだ、彼女は。名前を呼んで、引き止めたい。寂しい、僕はそうなったら絶対に寂しい。どうしようもない。そんなことを言いたいはずなのに、僕は彼女の名を叫ぶことしか出来ない。
『クラムボンはかぷかぷわらったよ。』
かぷかぷ。その形容が相応しい笑みを見せて、彼女は川へ消えた。泡が弾けて、一瞬僕の視界が塞がる。そして跡形もなく、何も無かったように。
「わらった。」
ぱっと空に花火が咲き、にわかに僕しかいない河川敷を照らしだした。
それから、六畳のせまっ苦しいアパートの一室に駆け戻って、僕は原稿用紙を取りだした。彼女は確かにここにいた。机の上に叩きつけ、ペンを探し出す。最初の頃に買って、それ以来パソコンで執筆のような事をしていたので使わなかったものだ。うっすらと被った埃を払いのけ、僕はペンを握り、最初の一行を書き始める。僕による、僕の為の、僕の物語。僕が、彼女はここにいたことを証明するための物語。
僕がクラムボンと出会ったのは、酷く蒸し暑い夏の夜だった。
バサバサと舞い落ちた原稿用紙は、男の上に積もった。さほど枚数はないが、埋め尽くす程に入れられた赤のチェックが、彼のこの作品に対する情熱を物語っていた。物書きと言うのは、こういう物なのだろう。どうしようもなく囚われて、ただ何かのために狂ったように文字を紡ぐ。
いつの間にか蝉は鳴き止み、町は夜へ沈み込み。男の寝息だけが静かに響いていた。
「その男についての銀幕はこれでおしまいであります。」
映画のエンドロールの最後に映された文字は、観客の人々の印象にとても良く残りました。
─────ここから後書きです────────────
めっちゃ書きたいものをかけました。分かりにくくなってたらすいません。あと私の書くSSお題要素薄いのは定期だと思うのです。
長め。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.78 )
- 日時: 2020/07/18 08:05
- 名前: ヨモツカミ (ID: qjlG8/Oc)
そこにあなたが見えるのだ。
この世の終わりみたいに、星々は瞬いている。終わった命を叫んでるみたいだ。実際に、このあまねく光の一つ一つが声なのだろう。
我々は生きていたのだと、声高らかに。叫んでいる。
そこにあなたが見えるのだ。
*
「死体を見に行こうよ」
いつも突拍子もないことを言うあなたが、今回ばかりはずば抜けておかしなことを口にした。何だって、と聞き返すべきか、もういっそ聞かなかったことにしようか迷った末、私は困ったように肩を竦めて聞き返すことを選んだ。
「人って死んだら星になるんだって。あんたが言ってたんじゃん」
だから天上の星々は死体。夜空はあまねく死体遺棄現場。あなたはそういうことが言いたいのだろう。
私が人の死後が星になるっていうのは、そういう意味で言ったわけではないのだが。もっとロマンチックな意味合いを混ぜていたのに、星空を死体と表現することで、一気に生臭くてグロテスクなものに変わってしまう。言葉の力を侮らないでほしいものだ。
「でも、星を見に行くなんて。急にどうしたの」
こう見えても、私達は天文部の部員だった。たった二人で構成された、殆どそれらしい活動もしていない幽霊部員達。一年生のときに先輩たちと一緒に天体観測を行ったことはある。でも、活動はそれっきり。先輩達が卒業してからは新しい部員が入ってくることもなかったし、元々いた部員もやめていったし、気が付いたら私は形だけの部長になっていて、彼女が副部長になっていたのだっけ。
でも、本当にそれだけ。元々星にそれほど興味があったわけでもない私達が、再び望遠鏡を覗き込むことはなかった。高校三年生の夏、この日を迎えるまでは。
「活動なんかほぼしてなかったけどさ、わたしたち天文部でしょ? 最後くらい、それらしいことしたいと思わない?」
思い出づくりがしたいとか、そういうことを彼女は言いたいらしかった。悪くない提案だと、私も思えた。星が特別好きなわけじゃない私達でも、一年生のときに先輩たちと見た空の美しさは知っていたから。
それじゃあ、今週の土曜日。夜の八時に学校に集合。彼女は勝手に決めた。私はその日が晴れるかどうかも知らないのに。
あとで土曜の八時の天気予報を調べると、その時間に丁度水瓶座流星群が見れるのだと知った。偶然とは思えないので、彼女はそれを知っていたのだろう。下調べはバッチリだったわけか。死体を見ようだなんてロマンスの欠片もないことを口にした割には、素敵な思考回路をしている。
私はただ、彼女と過ごす土曜の八時を楽しみに待った。
*
「先に学校で待ってるよ」
通話口の彼女の声はそう言っていた。お互いの家もそう遠くないのに、むしろ学校のほうが遠いくらいなのに、どうして私達は別々に学校に集合しているのだろう。そんな疑問を抱えながらも、私は一人で電車に乗り込んだ。
そういえば、電話で聞いた彼女の声にはやけに元気がなかったような気がする。気のせいだ、と言われればそれまでなのだが、どうにもそれが胸に引っかかった。喉に刺さった魚の小骨みたいにチクリと痛みを伴い、そこにあり続けようとする。どうしてこんなことが、そんなにも気になるのだろう。謎の胸騒ぎに、思考が乱される。
きっと、そんなに心配することではないのだ。だって、ただ単に友人の声色に少し覇気がなかっただけなんだ。そういうときだって、たまにはあるだろう。でもどうしてこんなに違和感があるのか。
わからないことにもどかしさを抱きつつ、電車の外を眺める。既に暮方の空は、深い青とオレンジが入り混じった不思議な色をしていた。そこに、点々と星の灯りが見える。既に美しい空だと言えたが、これから完全に陽が落ちて、夜の闇に輝く星は、もっと美しいものとなるのだ。私達は、それを見に行く。
天文部なんて、形だけの部活動だった。でも、入ってよかったと思える。高校生活の思い出なんて、振り返れば辛かったこと、楽しかったこと、なんだってあった。そのうちで、親友である彼女と過ごした時間は一番長かったかもしれない。そんな大切な友と見る星空に、思いを馳せた。
きっと、素敵な夜になる。
電車に揺られながら、まだ着かぬかと心を踊らせた。あなたと過ごす時間が、私にとってどれだけ大切なものかなんて、あなたは知らないだろう。隣にいるだけで嬉しくなるこの気持ちなんて、知らないだろう。別にそれで構わない。それでも、私にとってのあなたは、かけがえのない友達なのだ。
高校の最寄り駅についたので、電車を降りる。本当はもっと近いところで待ち合わせをすればよかったのに。そうすれば、駅から学校までの道のりだって一緒に過ごせた。
ああでも。もしかしたら、望遠鏡の準備などを先に済ませるつもりだから、集合場所を学校に選んだのかもしれない。彼女の思惑はわからない。まあでも、なんでもいいだろう。
学校に着くと、彼女にSNSでメッセージを送った。「今どこにいるの」と。返信はすぐにきて、「屋上で待っている」とのことだった。
私は暗い廊下をスマホの明かりで照らしながら進み、階段を上がっていく。土曜日だけど、この時間では部活に来ている生徒もほとんど帰ってしまっているため、何処も消灯されていた。暗い廊下は酷く不気味に思えて、彼女と一緒なら怖さも和らいだのに、と少しだけ不満を抱く。でも彼女はこの真っ暗な校舎を一人で歩いたのだろう。彼女だって、私と同じように恐怖を抱いたのではないか。どうだろう、あの子は暗闇を恐れるようなタイプではなかった気もする。文化祭のお化け屋敷を意気揚々と進んでいた彼女の背中を思い出して、どうせ私は彼女より臆病者ですよ、なんて一人で勝手にひねくれる。
屋上に辿り着くと、人の気配は無かった。誰もいないなんてことはないだろう、彼女は先に来ているはずなのだから。そうやって見回したら、彼女は確かにここにいた。
「……え?」
フェンスの、向こう側に。
息を呑む。見間違いではない、確かに彼女はフェンスの向こう側、一歩でも踏み出せば終わってしまう、屋上のギリギリのところに立っている。
何をしているの、冗談でも面白くないよ、危ないよ。そんな声もうまく出ないほどに、私の心臓はバクバクと跳ねていた。
「あ。やっと来たね」
彼女はこちらに気付くと、いつも通りに笑って、手を振る。なんでもないことみたいな笑顔が、このときばかりは不気味に映る。
「なんのつもりなの……危ないよ」
「だから、死体見に行こうって言ったじゃん」
「……何を言ってるのか、全然わかんないよ。とにかく早く戻っておいで。そんなとこにいたら、落ちちゃう」
彼女は微笑むばかりで、こちらに戻ってくる様子はない。なんのつもりなのだろう。わからない、親友なのに、何を考えているか検討もつかない。不安で仕方がなかった。怖い。彼女を失うかもしれない。そればかりが私の中をぐるぐると回っていた。
私は自分の足じゃないみたいに力の入らない足でなんとか彼女との距離を詰める。腕を掴め。こちら側に引き寄せれば、きっと安全が確保されて。大丈夫。
でも一言、親友が「来ないで」と口にしたから、私達の距離は数メートル離れたまま、縮まらない。
「あんたと過ごせる日々が終わっちゃうならさ。せめて星になって、あんたに観測してほしいなとか。思っちゃったんだよねえ」
「何言ってるか、わからないよ。ねえ、やめて。お願い、やめてよ……」
普段通りの口調で言うから、日常会話みたいに聞こえる。でもこれは、人の命がかかった最後の会話だ。それがわかっているから、私はとうとう泣きだしてしまった。涙で頬を濡らしながら、懇願する。
彼女は飛び降りる気なんだ。どうして。理由なんてわからない。でも、やめさせなければならない。わかってはいるものの、方法が何一つわからなかった。
行かないで、行かないで。うわ言みたいに繰り返すのに。
言葉は何一つあなたには届かないのか。
「必ず、わたしを見つけてね」
ああ。声も上げられずに手を伸ばしたが、全然届きそうもない。彼女はフェンスを軽く押して、その弾みでふわりと傾いていく。全ての出来事が、その瞬間だけスローモーションで過ぎていった。
あなたの長い髪が揺れている。制服のスカートが翻る。長い脚が宙に投げ出される。細い腕が、バイバイって言うみたいに振られていた。
そうして、あなたは満面の笑みで、でも泣いていた。憑き物が晴れたみたいな清々しい笑顔が、涙で濡れていた。どうしてそんな顔をしたのか、その理由もわからないうちに、彼女は空に投げ出される。
もう、逝ってしまった。
「……なんで」
力の完全に抜けきった足では立っていられない。私はその場にぺたんと座り込んだ。心臓はもう、狂ったみたいに胸を叩いている。親友が落ちた。死んだのだ。目の前にいたのに、助けることも止めることもできなくて、どうして、なんで、と自分を責め立てる。
電車の中で、彼女の声に元気がないのがやけに気になったのは。なのに、私は何もしなかった。何もできなかった。あなたは、元々今日この瞬間死ぬつもりだったのか。どうしてなの。何か辛いことがあったなら、私に話してくれれば、力になれたかもしれないのに。
それとも、何もなかったから私にも話さずに逝ってしまったのだろうか。
彼女は純粋に、星になりたかったのかもしれない。この夜空で輝く、あまねく光の一つに。
ああ、それなら酷い人だ。
私はぼんやりと夜空を見上げた。薄暗い闇の中、散りばめられた光が自由に輝いている。この一つ一つが、誰かの命であると。そう言ったのは私だった。
ならば、ここに彼女もいるのだろうか。星の海の中で、私に見つけられようと、光を放っているのだろう。
泣きながら見上げていると、強い光が空を横切った。そうか、今日は流星群が見えるんだっけ。
*
あれから私は高校を卒業して、大人になって、それでも夜空を見上げるたびに、色濃くあなたのことを思い出すのだ。
星に詳しいわけじゃない私には、この光の一つ一つの名前はよくわからない。配置にすら星座という名前があるが、それだって詳しくはない。だから勝手に決めた星の並びがある。
夏が来ると、必ず見えるのだ。それはきっと、私にだけ見えるあなたという星座。
結局あなたが何故命を絶ったのかはわからないまま。遺書だってなかったから、誰も何も知らない。私すら知らないのだ。
でも、あなたはここにいる。人は死んだら星になるから。
***
お題⑤
実はこの作品はコメライで活動してらっしゃる河童さんに案を頂いて書きました。死体を見に行く女子高生の話を読みたかった私達の、半合作みたいな。楽しかったです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.79 )
- 日時: 2020/07/18 07:47
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: 8.aLOQP.)
お題「人って死んだら星になるんだよ」
タイトル「クズの細道」
(※閲覧注意)
親は子供に無償の愛を捧げる。子供は親に無償の愛を還す。ああなんと素晴らしきかな親子愛。だがそんなものは砂糖よりも、甘ったるい。現実は泥水と雑菌にまみれた水道水よりドス黒い。親は子供を裏切り、子供は親を切り捨てる。それは至極普通のことだ。余程のことがない限りは、歳を重ねるにつれ、互いが煩わしい存在となる。
だがそれがもっと早い段階で『起きて』いたらどうだろうか。
「人って死んだら星になるんだよ」
無垢な子供にそう語りかけるのは、名も知らぬ大人。その大人は今にも命の灯火が消えかけている所だった。何を思ったか通りがかりのその子供に語り始めたのだ。
子供の服はぼろぼろで、髪の毛もお世辞に綺麗だとは言えなかった。傍から見れば『孤児だ』と言われてもおかしくはないだろう。そんな子供に、死にかけの大人は話し続ける。
「だから、今死んだとしても、夜にはお星様になっているから、怖くないのさ。キラキラ輝いて……生きてるうちに出来なかったことが、お星様になれば出来る。そう、輝くってことが」
子供は何も話さない。ただ黙ってその大人の語りを聞くのみ。目はぼんやりと、その者の瞳を見つめていた。
「これからもうじき死ぬけれど、お星さまになればみんな一緒なんだ。みんな一緒に夜空の点々になる。そこには性別も貧富も何も無い……」
やがてゆっくりと声が小さくなっていき、大人はついにその『火』を消した。何も語らなくなった大人を暫くじっと見つめた後、ぼろぼろの子供はその場からふらりと立ち去った。
子供がたどり着いた場所は、かつて暖かな家庭があったはずの家。今そこにあるのは、毎日毎日違う男を連れ込んでは事を致している『母』と、毎日毎日八つ当たりをしてくる『父』。アルコールが強い酒を無理やり飲ませたり、快楽に狂うさまを見せつけたり。まさにこの世の地獄の縮図がそこにあった。
扉を開けば父が母を殴り付ける光景。子供が入ってきたことに気づいていないのだろう、革ベルトや酒瓶で殴り続けている。母は母で嫌々と泣き叫ぶばかり。その下にころがっていたのは顔も知らない別の男。今日もまた連れ込んでいたのだろう。
だけど、それはもう今日で終わり。だって今日の夜からは、『みんなおなじ』なのだから。
子供は台所から『包丁』を手に取ると、真っ先に父を深く刺し貫いた。
1回では終わらない。何度も何度も、刺す、刺す、刺す。砂場をスコップで掘るように、刺す、刺す、刺す。刺す、刺す、刺す。そして引き抜く。
父が終わったら、今度は母も、見知らぬ男も同じように。刺す、刺す、刺す。原型など分からぬように。刺す、刺す、刺す。刺す、刺す、刺す。
ぶしゅ、ぐちゅっ、ぐちゃ、ぶちゅっ、ぬちゃ、ぬちゃ、
ずるぅり。
さて最後の仕上げだ。みんな一緒なら、そう自分も『同じ』にならなければならない。真っ赤に染まった包丁の切っ先を、自らの首に向ける。これでようやく『ぴかぴかになれる』。
「きょうから、ぼくも、おほしさま」
その日の空に輝く星は、やけに『赤く輝いていた』。
本編執筆中の息抜きに。
やっぱグロくなったり後味が悪いのはご愛嬌ってことでひとつ(コラ)。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.80 )
- 日時: 2020/07/18 07:59
- 名前: ヨモツカミ (ID: qjlG8/Oc)
>>63ひにゃりんさん
ちゃんと完成させたんですね! すごい。
自分に価値を見いだせない主人公が衝動的に描いた夜空。その中に浮かぶ、今では存在しない星。すごく素敵なシチュエーションだなと思います。
ただちょっと描写が少なくてわかりづらいところも多々あるように思うので、後自分でも読み返して丁寧に描写を増やして見るといいかもしれません。
>>77心ちゃん
すごい好きなお話でした。こういう夏の話が読みたかったんだよ!
クラムボンの本当の正体はなんだったのか、彼女はどこに消えてしまったのか。不明な点は多いですが、それは敢えて明かされないほうが美しいのでしょうね。真夏のぬるい空気が漂う夜、河原に写り混む大きな花火の情景が浮かんできて、芸術点の高い文章だなと思いました。
結局この物語は映画何かのワンシーンだったのでしょうか。考察は得意じゃないので、わかったことは少ないけれど、切ない別れと美しい夏の景色が哀愁を漂わせる素敵なSSだったと思います。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.81 )
- 日時: 2020/07/19 12:24
- 名前: ライター◆sjk4CWI3ws (ID: DhPI.PIY)
>>80
よもさんへ
感想ありがとうございます。好きって言われた! やった!
これはですね、最初は三題噺の方で投稿するつもりで書いてたので泡なんです。私個人は光説を推してます(誰も聞いてない)
芸術点高いと言って貰えて嬉しいです! そこ強調してよかった。
はい。そう、ヒントは文体の書きわけ、ですね。二枚の銀幕の内、一枚目は現在、二枚目は過去、最後にもう一度一枚目。銀幕を一枚二枚とは絶対に数えないと思うのですが、幻燈では無いので。
分かりにくいな(オイ)
最初と最後のセリフ? を『やまなし』リスペクトにしたのがこだわりです。所々にやまなしっぽい言葉が入ってる気がするので比較すると面白いかもです。そんなにないですが。
>>78
よもさんへその2
好きです。まずもって地の文の厚みが桁違いですよねすごいな。
『喉に刺さった魚の小骨みたいにチクリと痛みを伴い、そこにあり続けようとする。』
この言い回しがめっちゃ好きです。さすがです。
綺麗だなー、いいなー。エモいという言葉の意味をよく分かってないですが、エモい。素敵な百合だ、よもさんの書く百合の沼に落ちそう。
そして河童さんではないですか。ガネストさんの人だ! 巫山戯た学び舎の人だ! すごい! ってなりました。
私も精進、ですね……!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.82 )
- 日時: 2020/07/19 14:37
- 名前: 待雪草◆U9PZuyjpOk (ID: 9BBPtvSY)
お題⑥『ペンネームと彼』
「あっつぅ……………」
セミの鳴く音がずっと聴こえるこの頃。
夏だ。
「さーや!帰ろっ!」
そう言って帰りの挨拶の後に1番に私の席に駆け寄ってくる奏音(かな)のランドセルには、水色の鈴の付いたストラップがついている。
これは私がある県に旅行に行った時、彼女に贈ったおみやげ。
かなは水色が似合うから………と言って水色の友禅と鈴の付いたストラップを選んだ。
「んじゃ、帰ろっか!」
2人で並んで歩き出す。
すると後ろから声がした。
「おいさや!かな!俺を置いてくなよ!」
ソイツの黒いランドセルにも鈴。
ちりん、と鳴らして走ってくる。
彼はちょっとしか走ってないくせに汗をかき、Tシャツで拭ってる。
「やっすー、ぜんぜん走ってないじゃん。」
やっすー____彼のあだ名だ。
名字が“安田”だから、やっすー。
やっすーの息が落ち着いてから、3人で歩き始める。
「最近暑いよなー…………アイス食いてぇ…………」
「めっちゃわかる。プールとか海とか行きたいよなぁ」
そんな会話が毎日続いてる。
私は苦笑して、ランドセルから下敷きを取り出し、2人に仰ぐ。
「おー………さんきゅー…………」
入道雲が目の前にもくもくと現れている。
「もうすぐ夏休みかー…………また5人でどっか行きたいねぇ」
5人、というのは私達3人にとても仲良い2人を合わせる。先月の席替えで偶然出くわした5人なのに、いつの間にめちゃくちゃ仲良くなっていた。
ただ2人は私と帰る道が違うから、今はいないだけ。
「じゃあさ、プールとかどう?気持ちいっしょ?」
「いいな!」
やっすーがぴょこっと犬のように反応する。
それに対してかなはびっくりして、後ろにすっ転んでしまった。
______________________________________
「おぉっと?」
「プール来たぜひゃっほぉ!」
あの話をしてざっと1週間後、親の許可も貰い、いつもの5人でプールに行った。
私はハイテンションで、ざばんとプールに飛び込む。
水が太陽の光を反射し、キラキラと輝く。
ぶくぶくと息をすると、泡も輝く。
キラキラな1日だった。
スイカのボールを投げあったり、競泳したりして、この日だけは幸せに感じた。
家に帰る時、皆でバイバイ、と言い合った瞬間、
楽しかった1日は泡のように消えた。
青い空は黒くなり、雷の音が鳴っていた。
このような楽しい日々は、もう無いって私に感じさせるように。
「ねぇやっすー……………」
「ん?どうした?」
家が唯一近いやっすーと、家に帰ってる途中。
彼が私の方を振り向く。
その衝動で、彼のプールバッグに付いたあのストラップが揺れた。
こんなこと、言えるはずないってわかってるのに。
「私さ、転校するんだ。」
彼の反応が怖くて、顔を伏せてしまった。
でも彼は、こう言った。
「お前さ、SNSとか使ってる?」
唐突過ぎる質問に、私は固まってしまった。
「…………使ってるけど?小説書いてる。」
「それさ、俺、ずっと考えてたんだけどよ………」
……………あっ。
『名前どうしよっかなぁ…………』
『名前?』
『うん。ネットで小説書いてるんだけどさ、ペンネームみたいなのいいのないかなぁ…………って。』
『ふーん………………』
いつだっけ?結構前か。
私の独り言。
いつの間にか泡みたいにすぐ消えてた記憶。
「で、何?」
彼は少し顔を赤くさせ、言った。
彼と私のプールバッグについた鈴のストラップが音を立てた。
「“鈴乃リン”ってどうだ?」
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.83 )
- 日時: 2020/07/21 15:45
- 名前: むう (ID: PXRiSL3w)
どうも、ご無沙汰しております。
受験勉強の合間に気分転換で書いていきたいと思います。
ちなみにこの小説は、私の体験をもとにして書いてるノンフィクションです。
お題制覇目指して頑張るぞ―――!
お題⑤「寂しい夏」
タイトル「保健室クラブ ~私の居場所~」
********************
―2017年 七月。
小学6年生のとき、私は多くの傷を抱え、多くの宝物をもらった。
キーンコーンカーンコーンと授業の開始を告げるチャイム。
6年2組の教室の一番真ん中の列の一番前の席で、私は算数の授業の準備をしていた。
他のクラスメイトたちが数人化のグループで話しているのを見やる。
『ねえねえ、昨日のドラマ、面白かったよねー』
『○○○○が主役やってるやつでしょー。めっちゃ可愛いよね』
『それなー』
「それな」とか「おけ」とか、私は一度も使ったことがなかった。それに、勉強熱心な塾長をしている父の経営する塾で中学勉強対策の授業を受けていたので、ドラマを見る時間もなかった。早い話が、それらの話題に乗れる要素はどこにもなかった。
でも、ドラマなんか見なくても、話題に乗れなくても死にはしない。
今は六時間目、これが終わったら超特急で家に帰って勉強をする。今日は塾は休み、好きなことをして過ごせる。
そんなワクワクした気持ちは、あっという間に吹き飛ばされてしまうのだ。
こんな事件があった。
算数担当のH先生という女の先生が、授業時間にプリントを落としてしまい、それを前列の席にいる私に拾ってほしいと頼んだ。
別に断る理由もなかったので、私は廊下に落ちたプリントを触ろうとし―――。
「あー、あー、やめろって! ブツブツ菌がうつった!」
「ブツブツ菌―ブツブツ菌!」
私は奥歯を噛んだ。
小学6年生に進級したのと同時に、私は一部のクラスの男子からいじめを受けるようになった。他の子はいじめられている私を守ろうともせず、ただ黙って男子たちの行動を見ていた。
「プリント、どうぞ」
「ありがとうね、むうさん」
「ブツブツ菌ー! ブツブツ菌ー!」
「こら!」
…………家族には何も言えない。迷惑をかけさせたくない。
………兄弟に相談もできない。だってまだ幼稚園児なんだから。
でも、学校で抱えるストレスは胸の内に溜まって、睡眠障害まで引き起こすようになった。
苦しい、辛い。泣きたい。死んでしまいたい、いなくなりたい。
そんな私が、ついに起こした行動は……。
逃走。
説明はそれだけで十分だ。つまり、学校から自宅に向かって逃走を実行したのだ。
トイレに行くふりをして、三階から一階まで駆け足で階段を降り、昇降口の鍵が開いているのを確認して外に出る。そして必死で走ったのだ。
これで何かが変わるかなんてそういうことは考えず、がむしゃらに走り続けた。
そして泣いた。泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて泣いた。
怒られても良かった。学校に連れ戻されても良かった。
ただ、今だけは、今だけは。
そして。
私は、保険の先生と相談して、登校手段を変えることにした。
保健室登校。その名前の通り、教室に直接上がらずに保健室で過ごすやり方だ。
保健室登校を始めた初日、カーテンで仕切られた部屋の奥で私は初めてイチゴちゃん(仮名)と話した。
イチゴちゃんは今年初めて同じクラスになった女の子で、小学2年生からずっと保健室登校をしていた女の子だ。
「え、むうちゃんッ?」
「え、っと、今日から、保健室登校になって……」
「え、先輩?」
「Mちゃん」
そこには、近所に住んでいる一つ下の後輩のMちゃんもいた。さらに、去年学校に転校してきた女の子もいたのだ。
そこでの生活は、とても楽しかった。
私が別室登校になったことを機に、友達になれた子もいた。
クラスメイトのキノコちゃん。声優が好きだと言うことを最近知ってから、更に話題が弾んだ。
モモちゃん。おっとりした性格とは裏腹に、グロいものが好きというギャップがある。
思えば、この辛い一年間があったおかげで、私は友達の幅を広げることが出来たのだ。
学校に、保健室という居場所を見つけることが出来たんだ。
寂しいと思っていた夏は、保健室登校という機会で、こんなに楽しい夏に変わってしまった。
『ねーねー。このみんなのグループ名って何にする?』
『保健室クラブって言うのはどう?』
『いいねそれ。流石むう!』
私の人生は、あの時、あの時間から、リスタートしたのです。
まるで、今まで止まっていた時間が動き出したみたいに。
この先、色んな楽しいことや辛いことがあったけれど、もう私は大丈夫。
新しい友達や、転校後に知り合った後輩や先生に囲まれながら、私は生きている。
ありがとう、保健室クラブ。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.84 )
- 日時: 2020/07/21 21:21
- 名前: 優羽 (ID: h29vvFkM)
参加します!
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
(東方怨霊伝説のオリキャラだけで進めていきます)
「人って死んだら星になるんだよ」
闇(アン)は突然そんなことを呟いた。
闇もついにおとぎ話とか都市伝説とか創作物語にハマったかな?
「どうしたの?闇」
「死にたい」
「えっ」
突然だった
急に死にたいなんて
私は貴方が居ないと存在理由が無くなる…
「どうして…」
「葵、私を殺してよ」
「なっ…」
人の話を聞かないで「殺して」って…
なんて人間って馬鹿なんだろう…
行き詰まったらすぐ死にたがるし
視野を広げてよ
誰か貴方を必要としてる
一人くらい…
「闇がその能力のせいで辛い思いをしてるのは分かってる…でもさ…私は貴方に生きて欲しい」
「え?」
「私はさ、いくら闇が死んで星になっても私は星の方の闇じゃなくて生きてる闇がいい」
私は貴方を必要としている
だからさ…
生きてよ
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.85 )
- 日時: 2020/07/21 23:09
- 名前: 金鳳花 (ID: JAkJcGBk)
⑥
寄せては帰る波が、手招きするようぼくを呼びつける。こちらへおいでと、深い藍の向こうから声をかける。人っ子一人いない、ぼくだけが座る夜の海だ。砂浜はというと、夏の日差しをすっかり忘れてしまったようにひんやりとしていて、ぼくから体温を奪っていく。
ちりんちりんと、すぐ傍で鈴の音が響いた。ぼくの溜め息をかき消すように、涼やかな音色は響き渡って、闇の向こうに消えていった。
さざなみと、鈴と、溜息と。それ以外は何も聞こえない。耳を背けたいような事実もそうだけど、もう一度聴きたいと願ったものも、全部。
あの女性(ひと)にはもう、夢の中でしか会うことはできない。たとえそれが、水面にぶつかった途端に弾けて消える、泡のように儚い幻想だったとしても、構わない。
もう一度、あの女性の声を聴かせて欲しい。特等席で何度も聞かせてくれた、アリアをもう一度。
ただし、流れ星に願ったところで、叶うはずなどないのだけれど。
潮は満ちようとする最中らしく、いつの間にかぼくの足元にまで忍び寄っていた。
海を眺めていると、あの女性の瞳を思い出す。深海のように底の見えない冷たい藍色なんかじゃなくて、夜の海のように、静かで落ち着いた、万物を飲み込むような深い藍色。
明るい陽射しを浴びる程、鮮やかな青に映る、夏の海みたいに生命力と活気に満ちた目だった。
幼いぼくを膝に乗せて、何度も歌を口ずさんでいた。歌っていることが自分である証明だというように、今ここに生きていると定義するみたいに。喉が嗄れない限り、息が続く限り、歌い続けていた。
その金糸雀のような歌声に包まれた時間は心地よくて、ついつい時間を忘れて眠ることも多々あった。眠りに落ちてしばらくして、気が付いた時にはこんな風に宵闇の中で海に向き合っていたような日もあった。眠りこけたぼくをそのまま抱き上げて、そのまま歩いてきたようだった。
彼女もぼくと同じで、こんな風に暗がりの海を見つめるのが好きだった、と述べると語弊が生じるだろう。逆だ。彼女と並んでみる景色が心地よくて、彼女が好きなものをぼくも同じように好いただけだった。
海沿いの田舎町で、該当も少ないこの土地は流れ星がよく見える。一晩も粘れば、二つ、三つと目にすることができた。ただ、ぼくも彼女も、ぼくのすぐ隣に落ちた流星だけは、すすんでみないふりをしたものだ。
ある朝、その女性は遠くにいってしまった。中々帰ってこなくて、寂しい日はずっと続いたけれども、いつかまた出会えるさと自分を鼓舞した。すぐ傍で鳴り続ける鈴の音は、ぼくが落ち着いていないことを示唆していたけれども、その鈴の音に彼女の歌声を重ねて、何とか辛抱した。
辛抱かなって、ぼくはようやく今日、再会することができたのだった。
家の中のことをいつも取り仕切っているおばあちゃんが、良い匂いのする木の箱を大事そうに抱えて帰ってきた。耳をそばだててみたところ、その中には大切な壺が入っているらしかった。
何となくその匂いの向こうには、どことなく気が落ち着くような香りがした。そんなに重たくなさそうなのに、誰もが両手で大切そうに抱えていた。その殆どの人間が、顔をくしゃくしゃにしていた。
相変らず、ぼくの気分をなだめるような匂いをしていた。その筈なのに、どうしてか、僕の胸はざわざわと騒ぎ出した。悪いものを食べてしまったように、息苦しくて、胸の奥の方がどんよりとしていた。
それなのに相変らず、木箱の中からは思わず寄り添いたくなるような匂いがした。
誰かが気を紛らわすためにラジオのスイッチを入れた。電波に乗って、遠い所から往年の名曲が流れ始める。その時になってようやくぼくは、箱の向こうにある親近感に合点がいった。その事実に、納得なんていかなかったけれども。
箱の中には、壺の中には、あの女性が居たんだ。
それ以来、眠ることもできなくて、一日中寝てばかりだったぼくはというと、眠たくて仕方がなかった。大きなあくびが飛び出るけども、意識が睡魔に攫われてはくれない。毛むくじゃらの前足で顔を掻いてみるけれども、気分はちっとも晴れなかった。
海が大好きな、御姫様みたいな女性だった。思わず、冷たい海に向かって一歩を踏み出した。二歩、三歩と進むにつれて、脚だけでは無くて尻尾までずぶ濡れになっていく。飛沫が目に飛んだせいで、少しヒリヒリとしたが、そんなの些細な問題だった。
この波に融けるように、泡となって消えてしまえば、もう一度ぼくはあの女性に会えるだろうか。
「みゃあ」
意を決したような短い声だった。誰も聴衆など存在しない中、届いて欲しい誰かに届きますようにと、鬨の声はさざなみの向こう側へと消えていった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.86 )
- 日時: 2020/07/23 17:11
- 名前: ヨモツカミ (ID: RP5FPDMg)
>>79さにちゃん
この世の地獄みたいなお話書くの得意ですよね()
生きているうちにできなかったこと、「輝くということ」。主人公は周りのもの全部殺して、自害して、それで本当に夜空の輝く存在になれたのでしょうか……。絶望的な生活から、輝く何かになりたかったのだろうなと思うと、いたたまれないですね。
>>81心ちゃん
光説、確かに有り得そうですね。私はずっと泡だと思ってたけど。
せっかくだから「やまなし」を読み返してきましたが、最初と最後の文章がたしかにやまなしオマージュで素敵だなって思いました。
みんつくで初めて感想頂いた……!
ありがとうございます。その言い回しは私もお気に入りです。飲み込めないし痛い、あの異物感を抱く気持ちってどんなだろうなと思いつつ書いてました。
河童も私も百合が好きなんですよ。だから楽しんでかけましたね(笑)河童が好きそうな雰囲気を目指して書いたから、それがお好きなら河童とも仲良くなれそう。
てかよくご存知でしたね、今ほとんどカキコにいないのに。そう、ふざまな作者兼、ガネストくんの声の人です。
心ちゃんの文章まじでめっちゃ成長してると思うのでこれからも応援してます。
>>82スノーちゃん
えっ、これはもしかして実話ですか?
以前そのペンネーム使ってましたもんね??
夏の楽しい思い出が途端に消える感じと空がリンクしてる描写が好きでした。
>>83むうちゃん
実体験か……ちょっとコメントしづらい話題ですが、きっと、とても辛い経験をしたのでしょうね。私も似たようなことがあったので少し気持ちがわかります。やっぱり、友達ができると救われますよね。私達は一人では生きていけないんだなあって。
むうさんが最終的に救われてよかったなと思います。保健室クラブ、心が温まる素敵なお話でした。
>>84金鳳花さん
初参加ありがとうございます。
途中まで主人公の正体に気付けないようになってるの、面白いですね。この鈴は何だろう、と確かによく考えたら想像つくかもしれないけど、ちゃんと正体に気付くのは毛の描写のとこですね。
優しいタッチの文章が読んでいて心地よくて、物哀しい雰囲気がしっとりと胸に入り込んでくるような、まあ何というかめっちゃ好きな雰囲気でしたね。言葉遣いとか単語の選び方が柔らかい感じします。
綺麗な文章、というよりは優しくて柔らかい文章って感じ。
悲しいお話でしたが、温かい気持ちになりました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.87 )
- 日時: 2020/07/23 17:31
- 名前: おまさ (ID: YJtxeT02)
初めましての方は初めまして。ジルクとかセイカゲとか読んで頂いた方はこんにちは。複ファにて小説を書いてる者です。
レベルの高い作品が軒並み投稿されているこのスレに、しかも今更六月のお題で書いた短編を投下するのは大変恐縮なのですが、せっかく書き下ろしたので無茶は承知で投稿させて頂きました。
楽しんで頂ければ幸いです!
あ、あと自分、感想などもらえると非常に喜ぶ習性をもっておりますので、よろしければお願いします。
前置き長くなりました。はじまりはじまりー。
******
お題:②
タイトル:「雨が降っていてよかった」#1
******
1
雨は、嫌いだ。
単に自分のような自転車通学者の天敵であるだけでなく、一日を無駄に浪費させることにおいて「雨」という天候を上回るものはそうはいない。
高校二年の六月。例年のように梅雨入りを果たし、しかしその事実を自分は歓迎していなかった。
地元の商業高校にスポーツ推薦で進学したこともあり、一年の時迷わず入部したテニス部で、最近までレギュラーになろうという気概で満ち満ちていたことは記憶に新しい。
一年目は、とにかく必死に食らいついた。如何なる練習も貪欲にこなし、練習のために友人と遊びに行くこともなかった。自転車通学範囲の自宅まで一か月間ランニングで帰ったことだってある。
全ては、周りを超えるため。レギュラーになるため。それだけを見据えてひたすらに自彊に励む日々は過ぎていった。
それでも、一年目はレギュラーになることは叶わなかった。うちの高校がテニス強豪校ということもあったのか、二年三年の先輩たちの実力が高かったのかもしれない。だから、「一年目はこんなもんだろう」とやけにすとんと腑に落ちたことを覚えている。
けれどこうして二年目になって、日々こうして練習に打ち込んでいても、一年前の自分と変わらないように思える。未だにレギュラーどころかスタメンにすら入れていない。このままではいけないという気持ちがあって、それでもじゃあどうすればいいのか、進み方が分からなくて。
少しでも前に進みたくて。少しでも練習をしようと思って。
そんな矢先に練習が雨天中止とは、誰だって嫌になるというもの。
毎年六月になると、こちらなどお構いなくいっそ空気を読まないかの如く降り始める霖雨は、コート練習の大敵だ。この街には屋内コートなんてないから、事実上実践練習の手段を潰されるのである。
結果何もできずに、時間ばかりが過ぎてゆく。だから雨は嫌いだ。
2
日本列島の六月に限り、てるてる坊主は効力を失いただの布の屍に成り果てる。…というのはあながち間違ってはいないのではないか、とぼんやり思う。
今日は曇りかと思い、雨合羽を用意せずに家を飛び出してきたのが運の尽き。下校中に振り始めた雨は、あたかもスコールと錯覚するような勢いでアスファルトに殺到する。
「…はぁ、はぁ…っ」
立ち漕ぎで息を切らしながら勾配を登る。顔面に打ち付けるおおきな雨粒と、制服の下の汗がひどく気持ち悪かった。
額に浮かぶのが雨なのか汗なのか分からなくなってきた頃、勾配を登り切ったところに小さな東屋があった。別段派手とか大きいとかそういうわけでもなく、よくよく公園などでも見かけるごく普通の三角屋根。何にせよ雨宿りには十分だ。息を弾ませつつ東屋の手前で自転車を降り、小走りでその屋根の下へ向かっていった。
自転車を押しながらふと見れば、東屋にはどうやら先客がいるようだ。豪雨で視界が悪いのと屋根下が暗いせいで顔はよく見えなかったけれど、背丈からして同年代らしい。
その推定同年代の人影は、読んでいたのだろう文庫本に栞を挟み、こちらに一瞥を向ける。
痩躯の少女だった。
腕は細く、肩幅も大きくない。姸姿を見る限り筋肉質というわけでもなく、活発な運動部の雰囲気は欠片もない。妖姿媚態というよりかは蜾蠃乙女といった印象だ。身に纏う制服を見る限り、うちの高校の生徒だろう。
華奢そのものを具現化した身体の上には整った顔が乗っているが、それは絶世の美貌などではなく人並みに可憐な容姿といったところか。漆のいろの長い睫毛と同じ色をした嫋やかな短めの髪はしっとりと濡れていて、同じく雨宿りをしていることが窺える。
彼女はその垂れ目でこちらを頭からつま先まで見た後、数秒おいて話しかけてきた。
「すごい降ってきちゃったね。……きみも雨宿り?」
「え? …ああ、うん」
「やっぱり? 私も雨宿りしてるとこ。チャリ通には辛いね」
苦笑を浮かべながらどこか楽し気な少女。すこし野暮かと思いつつ、口を開いた。
「その割には楽しそうだけど」
「あ、ばれた?」
ころころと笑う少女が、……何故か妙に遠く思えた。
そんなこちらの感慨を気にする節もなく、少女は続ける。
「私、なんだか落ち着くんだよね。こうして雨音を聞きながらのんびりするのってさ」
…落ち着く? 自分にとっては雨なんて、これほどまでに鬱陶しいものなのに。
そう思ったが口にせず、しかし沈黙を嫌って訊いた。
「雨……好きなの?」
「どうだろう。あんまり考えたことはないけど……うん、好きかも」
「そ、っか…」
今の自分はどんな顔をしているのか、こちらの表情を見、果たして少女は少し悪戯っぽく微笑んだ。
「ひょっとして雨、嫌い?」
どこともつかぬ気まずさに曖昧に頷くと、「やっぱり」とでも言いたげな表情をされる。何となく不甲斐ない。
そんな不甲斐なさが顔に出たのか、一瞬少女は触れることを躊躇うような間を開けた。そして、
「――何で雨、嫌いなの?」
ささやかな彼女の気遣いに感謝しつつ、雨が嫌いな理由を吐露した。……半ば愚痴にも近いそれを他人の前でぶちまけることに理性が嘆くが、幸い少女はひどく静謐な表情で話に耳を傾けてくれていた。
「……なるほどね」
話が終わると、少女はそんな風に呟いた。目線の先、少女は垂れてきた前髪を少しかき上げている。
正直言って、今自分が話した内容は我ながら葬り去りたい気分だ。こんな愚痴以下のものを人に聞かせるなんて、ある意味一種の自慰行為に等しい。ひどく情けなくて、罪悪感に苛まれている。
と、そんな黒歴史に煩悶する自分を余所に、少女は「それにしても」と胸の前で腕を組み直した。
「きみ――中々に面白いね」
……。
…………。……………………。
…………………………………は?
無理解、意味不明。向けられた言葉はそれほど予想外なもので。
面白い?面白いってなんだ。馬鹿にしてるのか。
思い出してみれば、この少女は最初からどこか超常とした雰囲気というか、不遜なような、まるですべてを知り尽くしたような態度だった。最初は特に意識していなかったそれが、……ここにきて癪に障る。
苛立ちが募り、つい口調が荒くなった。
「………面白い……? 面白い、ってなんだよ。そんなに人の生き方が可笑しいか」
「……え? いや、わたしは……そんな、つもりじゃ、」
「分かったようなことばかり言うなよ。じゃあ何か? 俺が好きで斜に構えているとでも? ふざけるなよ。何様だよ……っ」
加速する。激情が、憤懣が、憤怒が、行き場を失った感情の奔流が、垂れ流される。
「分かったような、知ったような口を聞くなよ!!」
「じゃあきみはさ。………自分のことを全て把握できている自覚があるんだ?」
静謐な、けれど不思議と力のある声音に刹那気圧される。が、すぐさま「はっ」と嗤い、
「ったり前だろ。自分のことは、自分が一番よく分かって、」
「――――じゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?」
……っ!?
衝撃。
受けた言葉に対して適切な言葉を選ぶなら、それは正しく衝撃だった。想像の埒外から殴られたような―――否、内を正確に射抜かれたような感覚に脳漿が沸騰し、思考回路が一時的に死んだ。
だが、時間が経つにつれ明瞭な感覚が戻ってくる。
衝撃、驚愕、反芻、理解の順に脳が回り、そうして理解を得た時には――――もう、遅い。
そうして答えを得た自分は、反射的にその場に立ち上がった。
―――この場にこれ以上いてはならない。身勝手で自儘な論理を振りかざされるだけだ。
旋踵。
今だけは世界のだれにも見られたくない顔を背けて、自転車の停めてある所まで歩き出す。
「………まだ雨、降ってるけど」
「……ぅ、るさい」
見透かされているような声に、軋むような声音で反論以下の何かを絞り出し、自転車で雨の中に漕ぎ出した。雨は降りだした当初よりも激しく、冷たく感じた。
顔面に打ち付ける豪雨に必死に目を眇めながら、より強くペダルを蹴った。蹴った。蹴った。
何かから逃げてるみたいだな、とやけに冴えた頭のどこかが呟いた。
……つづく(かもしれない)。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.88 )
- 日時: 2020/07/23 18:16
- 名前: 鈴乃リン◆U9PZuyjpOk (ID: .sLmtVGs)
よもさん >>86
そうですっ!実話です!
あっでも仮名ですよ!!?本名はまた別です!
やっすー(仮名)が考えてくれた名前なんです………!
描写はかなり成長したかもです!
またこの名前で活動しよっ………
トリップで判断していただければ………!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.89 )
- 日時: 2020/07/23 19:40
- 名前: サニ。◆6owQRz8NsM (ID: s7AEldog)
*よみちゃん
この世の地獄なら任せておけェ!!(スライディング)と叫びつつ返信をば。
どう足掻いても「輝く」人生は送れない、微かにも輝くことは出来ない。だが死んで星になれば?星になれば皆同じ、死んで星になって輝けるのなら、この地獄から抜け出せるのであれば。『よぞらのおほしさま』、どうかそちらに仲間に加えてください。そう願いつつ、主人公の子供はこの選択をしたのやもしれません。まあただ、『救いようがない』のは事実ですけれども。
ではでは、また思い立った時に。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.90 )
- 日時: 2020/07/24 17:45
- 名前: むう (ID: 4sSOEn9M)
これにてコンプリート…。
お題⑥
タイトル「碧と傷痕」
********************
庭先の風鈴が涼し気に揺れている。
六畳ほどの和室で、埃をかぶった扇風機に当たりながら私はイヤホンを片耳に突っ込んだ。
耳の奥から聞こえる微かなノイズ音。
ひいきにしているラジオ局の番組はもうとっくに終わっていて、騒々しい雑音だけが鳴り響いている。
それはまるで自分の心の写し絵のようで、私は軽く唇を噛んだ。
「彩夏-。今日、雛ちゃん来るんでしょー?」
スリッパをペタペタいわせながら、母親が部屋を覗き込んだ。
先ほど玄関の掃除をしていたので、まだエプロンをつけたままだ。
さっきコップに注いだばかりのソーダの泡がゆっくり立っていくのをぼんやり眺めながら、私は不機嫌に返した。
「もう、来ないよ」
「……朝、来るって言ってたじゃない。ケンカでもしたの?」
「………ケンカじゃない」
そう、あれはケンカではない。ケンカよりももっと重くて辛いもの。
今日の天気、青色の澄み切った青空の日に似合わないような、暗い複雑な出来事だ。
それが何なのか、その答えに今だに迷っている。
雛と私の関係は、親友同士だった。だったと言うことは、その関係がもう事実の上に成り立っていないことを表す。
つまり彼女はもう親友ではなくなったのだ。
・・・・・・・
きっかけは一本のメールだった。
六時間目の数学の時間、机の下でこっそりスマホをいじっていたのが運の尽きだった。
二階では合唱の歌声が、そして今いる教室では教師の説明が絶えず聞こえ、危うく眠りに落ちそうになっていたとき、そのメールは届いた。
ピロンという着信音がなり、反射的に私は顔を上げた。
幸い教師は背中を向けていたので、こっちには気づかなかった。
トーク画面を見ると、雛から一件のメッセージがあった。
『彩夏って私のこと思っているの?』
それは余りに唐突で、かつ深い質問だった。
教室を見回す。一番右の列の最後方の席に座る雛が一瞬チラリとこっちを振りかえった。
その顔にはいつもの愛嬌はなく、私を試しているような険しい目つきをしていた。
『優しいって思ってるよ』
『どうして?』
「どうしてって言われても……」
答えに困って、すがるように雛の表情を伺うと、彼女はプイっと顔を背ける。
なぜそこまで不機嫌なのか、私が知るすべはどこにもなく、釈然としないままメッセージの会話は続く。
『答えなんているの?(笑)』
『その(笑)ってどういう意味でつけてるの? 私は嫌い』
『ならやめるよ』
私も雛のことはよく分からない。
その何の感情も込められないメッセージの裏で、何を思っているのか、どういう気持ちでいるのか私も分からない。
『彩夏は、私の事優しいって言ってくれたじゃん』
『うん』
『じゃあ私も思ってたこと言っていい?』
『うん』
『彩夏のことが嫌い』
何の感情も込められないメッセージとはよく言ったものだ。
そう、メッセージに感情はない、それは事実。
しかし、たった一文、10文字にも行かない文章が自分の胸をぐさりと突いた気がした。
『彩夏のどこが嫌いかっていうとね』
いつの間にか、メッセージを打つ手が止まっていた。
初夏の日差しが当たって、充分暖かいはずの教室の温度が、一気に下がったように感じた。
『彩夏の笑顔が怖いの。あと性格ね。自分の事鼻にかけてるでしょ』
『かけてないよ! 何でそんなこと言うの? そう思ってたらゴメン』
『そんなことじゃないの。でも嫌いなの』
『わけがわからないよ。どうしていきなりそんなこと言ってくるの』
『一人になりたいの』
『じゃあなれば』
『でも一人になりたくないの』
『どっちなの』
『私は彩夏のことが嫌いだけど、友達が彩夏しかいないの』
訳が分からなかった。
私の事が嫌いなら、嫌いと思った瞬間に友達という定義は崩れるのではないだろうか。私の事が嫌いなら、友達なんてやめてくれればいいのに。
でもそう尋ねる勇気は、何分待っても、湧いては来なかった。
『だからさ、いつも家に行かしてもらったけど、もうやめるね』
『…………なんで?』
『私と彩夏は、多分感じ方が百八十度違うんだ。私は無理やり人の話に乗りたくないの』
『じゃあ、じゃあもう、連絡しなければいいじゃん!!』
・・・・・・・
いつから私たちの関係が崩れたのか、今となってはもうわからない。
雛の、誰かを嫌いになってでもその人と一緒にいたいという気持ちが、私には理解できない。
そう言う所なのだろうか、そういうところで私たちは違う道を歩くようになってしまったのだろうか。
どちらにせよ、もう雛は来ないし、彼女と私が以前の関係に戻ることもないのだ。
そしてなんで、私はこんなに冷静なんだろうか。
なんでもっと取り乱さないのだろうか。
私は、雛のことを、本当に親友だと思ってたのだろうか…………。
立てた膝に顔をうずめる。泣きたいとは思う。叫びたいとも思う。いっそ寝てしまおうか。
――そう思っても行動に移さなかったのは、きっと心のどこかで、また希望を求めているからだ。
【END】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.91 )
- 日時: 2020/07/25 19:07
- 名前: 金鳳花 (ID: BUu7Muqc)
よもつかみさん
コメントありがとうございます。
鈴でドラえもんが出てきたせいで猫のお話になりました。
消えてしまった人魚姫を追いかけるために、泡となって消えてしまうような、それでいてあまり寂しくないような話にしたいと思って書きました。
人間の男の子だったらちょっと変なところでも、ぼくが猫だと分かった時に「なるほど」と思ってもらいたかったので、そう思えてもらえたようで安心しました。
重ねて申し上げますがありがとうございました、これにて失礼いたします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.92 )
- 日時: 2020/07/25 22:22
- 名前: 蜂蜜林檎 (ID: bGn7/ALI)
お題④
「金魚救い」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
風に揺らぐ紅い提灯。艷めいた林檎飴。
その林檎飴のせいで赤くなった唇がいつもよりずっと彼女を色っぽく見せる。
浴衣姿の彼女、心美は、ふわりと兵児帯を揺らす。その姿が愛くるしくて、思わずシャッターを押した。
「ヤバい、さっきの花火全然上手く撮れなかったわ」
残りわずかな充電と戦いながら撮影した花火は水をかけたみたいにぼやけていた。
元々背の低い心美には周りの人が壁になるから無理もない。
「下手くそ過ぎない ?」
「酷いなぁ。怜奈のは上手く撮れてる ?」
それなりに上手く撮れた花火を心美に見せながらふと思う。
もう終わりなんだ。
今年の夏はこれで終わり。心美と一緒に夏祭りに来るのもきっと最後。
私達は別々の道を歩む。
幼稚園。小学校。中学校。
私と心美はずっと一緒にいた。
だから、いつまでも一緒にいると思っていた。
『うち、ーー高校に推薦されたの』
それはずっと離れた場所にある寮生の名門高校。
早めに下した選択。止める権利なんて、自分にはない。
でも引き留めたい気持ちが邪魔をしてくる。
行かないで、なんて。
意地でも言うものか。
心美の根っこから否定するみたいで、そんなこと絶対に言えない。
『そっか、おめでと』
祝福。
これが私にできる精一杯の事だった。
「いやぁ、楽しかったねぇ」
「.....うん」
外灯に照らされた帰り道は湿気が鬱陶しくて、何度も何度も長い髪をかき上げた。
同じくらい鬱陶しく蝉の声が鳴り響き、下駄はカランコロンと音を立てる。
心美の手には三匹の金魚。私は一匹。
私の金魚はおじさんにおまけしてもらったものだから、実質すくえたのは0だ。
「あ~暑い。人魚姫はさ、ずっと海の中でいいよね。人魚になりたいなぁ」
「何言ってんの。心美には金魚が似合うよ。ちっちゃいし」
「うわーっ、親友にそんなこと言っていいのかなー」
だって、人魚って泡になって消えるじゃない。
勝手にどこかへ行って、恋して、知らない間に泡になる。
嫌だ。そんなの。
「.....金魚すくいってさ、「掬う」って書くでしょ ?」
指で空中に字を書きながら心美は話す。
「うちはあれ「救う」だと思うのよ。だって、小さなプールに囚われてるのなんて可哀想じゃん」
「はぁ.....」
「それをうちらが「救う」の ! 小さな檻から出してあげるんだよ」
「随分と偉そうだなぁ、心美様は」
暗い夜道に笑い声がこだまする。
涙が出てきたのは、あんまり笑ったからだ。きっと。
「だからさ、うちは囚われた金魚じゃなくて人魚になりたいんだよ。でも」
「でも ?」
「もしもうちが金魚だったら怜奈が救ってね」
言葉が詰まる。喉の奥が絞められたみたいになって、鼻がツンと痛くなった。
金魚は私の方だ。自分に壁を作ってプールに囚われている。
心美は前に進もうとしているのに。それなのに止めたいと思う心がある。
私は金魚だから、いつか人間になって救いに来て、なんて言わないけれど。
「分かった。救うよ」
「あはは、やった。あ、じゃあね」
心美と別れ、暗い住宅街を歩く。
突然何にも無くなったみたいな気持ちが襲ってきた。
...また涙が零れた。
止まらなくて、止まらなくて。
もう彼女に会えない訳じゃないのに。
明日だって、明後日だって会えるのに。
いつかぱったりと会えなくなる日が怖くて、苦しくて、寂しくて。
ああ、今年の夏は寂しい。寂しいんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【あとがき的な物】
書く書くって言っててすっかり遅くなってしまいました。金魚と人魚のお話です。
いつもふざけた物ばかり書いているので新鮮でした.....魚だけに (やかましい)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.93 )
- 日時: 2020/07/26 15:26
- 名前: ヨモツカミ (ID: u1PP3L2Y)
>>87おまささん
初参加ありがとうございます。
続きがあるんですね。終わったら感想書かせていただきます。
>>88リンちゃん
素敵なお友達ですね。人にもらった名前で活動し続けるのもなんだか素敵。
そうですね、上からなコメントになってしまいますが、前より描写自体も増えて表現力もついたように思います。この調子で頑張って欲しいなと思います!
>>91金鳳花さん
なるほど。
そうですね、切ないお話だけど、寂しすぎるような雰囲気じゃなくて、どこか温かみがあるような雰囲気でした。金鳳花さんの文章好きなので、8月も是非参加してほしいです。
>>92蜜ちゃん
真面目にシリアスな話なのにあとがきで台無しにしてきたなって思いました(笑)ふざけない話もかけるんですね!
中学から高校に上がると、必ず別れがありますよね。でも人間、どんなに離れてても案外会おうとすればまた会えるものです。だからそんなに悲観的になる必要はないよ、と思うけれど、会えなくなってしまう、と思い込んでしまうものですよね。それだけ大切な相手なんでしょうね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.94 )
- 日時: 2020/07/26 19:10
- 名前: 蜂蜜林檎 (ID: V4IUuR..)
>>93よもさん
ひゃあ感想ありがとうございます。
本文の方にふざけた要素を入れないように頑張って後書きはもうふざけました。
「ふざけない私なんか私じゃない」精神で生きてますので。
今の時代いくらでも交通手段はあるし連絡だってできるけど、
面と向かって話すのとは全然違うからやっぱ離れるとなると寂しくなっちゃうかなって。
当たり前だった物が急に無くなるって悲しいものです。
去年の夏祭りに撮った友達の写真を見て思い付きました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.95 )
- 日時: 2020/07/27 00:23
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: BJ5aWnig)
お題⑥「鈴、泡、青色」
「ヘブンリーブルー」
周りは黒で、私は青なんだ。茫漠と、そう思った。
印刷物において、黒は絶対だ。水彩画もそう。何があろうと一番強い。何色でも、逆らえない。
きっかけは些細なことだったはずだ。多分約束をすっぽかしただとか、ノリが悪いだとかそんな事だと思う。いじめられるようになってようやく分かった。
もうどうしようもないんだって。塗りつぶされるしかないんだって。
だから、死にたいと思ったんだ。
わたしは絵を描くのが好きだ。デジタルじゃなくて、水彩画。どの色も透け合って、ひとつの絵を成す。そんな水彩画が大好きだ。
海が近い立地の我が美術部は、よくこの砂浜に写生に来る。さらりと足下を撫でる砂。裸足って心地良い。海はゆっくりと夜を写して凪いでいて、そっとわたしはパレットと筆へ手を伸ばした。風でめくれそうになるスケッチブックを抑えて、その絵を眺める。
夜の海を描いた絵だ。最後の絵になりそうなのに、完成させられない。ごめんね、とひそかに謝って、わたしはそっと海の中に滑り込む。
完成させられないのは、絵の具をこの海に流されて捨てられてしまったから。酷いものだ、いくらかかったと思っているのか。いや、そういう問題ではない。いま、どうにか見つけた色たちだけでは、海の青は表現出来ない。
この絵は、失敗だ。
そう思って、スケッチブックからそれをちぎりとる。ゆっくりとそれを海に沈めようとした時、鈴の音が不意に響いた。
「捨ててしまうの?」
続けて、透き通るような声がした。
わたしが驚いて振り返ると、そこに居たのは青い髪の少年だった。うつくしい、素直にそう思えるほどの。それも、巫女服のような青い服を着ている。まるで海のような色合いの。
死にたいと思っていたら、本当に死んでしまったのだろうか。青の髪なんて、現実にいるはずがない。今流行りの、異世界転生と言うやつなのだろうか。
「え……?」
少年の視線が、少し咎めるようなものだった気がして。わたしは、絵を流すのをやめる。すると少年は何も無かったかのように波打ち際に移動して、ゆっくりと右手を掲げた。
彼の手に握られていたのは、鈴だった。一度、神社で見た事のあるもの。神楽鈴、というのだろう。無数の組紐と鈴がついたそれは、振られる度にしゃん、と音を立てる。足にも鈴がついているのか、少年が動くとたくさんの鈴の音がする。
そして少年は、神楽を舞い始めた。なんで、わたしはこれを普通に受け入れてるのだろう。でも、有無を言わさぬ圧力の様なものが、彼から漂っている気がした。
「わ…………」
思わず吐息が零れてしまうような舞だった。きらきらと海の色を吸い込んで、鈴が煌めく。この世のものでは無いようなリズムでそれが鳴り、わたしと彼二人だけのうつくしいあおの世界が再構成されていくような。
スケッチブックを捲る。空いているページを探し出し、筆を取る。絵の具を溶かす水は、もうこの際塩水で構わない。無論筆は傷むけれど、いまはとにかく描かなくてはならない。青の絵の具を絞り出し塩水で溶き、少年を描いていく。
途中で、描かれていくその絵に致命的に足りない色があることにわたしは気付いた。でも、そんなことは言っていられない。ただ筆を走らせて、水で溶いて。
「すてきな絵だね。でも、なにかたりない。ちがうかな。」
「ッ、ハァっ……!」
いきなり声をかけられて心臓が止まるかと、そう思った。いつの間にか少年の舞は終わっていて、わたしの絵も完成に近付いていた。世界が砕け散って、どうしようもなく大量の色がある世界へ私は帰ってくる。なぜこの子はわかるのだろう。一見すれば、もう完成なのに。
「ふうん。しにたいんだ。」
唐突に少年がそう言ったのが聞こえた。それを反駁するか肯定するか、一瞬悩んでしまった次の刹那、わたしは海を沈んでいた。
「カ、っは……!」
口から泡が次々とこぼれ落ちる。状況が飲み込めないまま、夜の暗い海を、沈んでいっていた。泡が憎たらしいほど煌めいて上へ上っていく。わたしの命も、一緒に抜け出ていく。そのとき、後ろから声がした。
「ねえ。あの僕の絵、かんせいさせてくれないの?」
少年の、泣きそうな声がした。海の中だと言うのに、それはやたらと明瞭で。だから、わたしは反射的に答えていた。
「死ぬもの……完成なんて、出来ないよ! それに、もう色が無いもの……!」
「ここにある。かんせいさせて。僕の絵じゃなくても、あのうみの絵でもいいから。」
だから──いきてよ。
そう、言われた気がした。
暗かった視界が一気に開け、わたしはいつの間にか砂浜に居た。息苦しさも水濡れもなにもなくて。だけど、一本の絵の具のチューブが私の手の中にあった。
『ヘブンリーブルー』。天国のように透き通った青。この色があれば、絵は完成できる。死にたくなった気持ちは消え失せて、わたしはそっと筆をとる。
結局あの少年がなにだったのか、その答えをわたしは持ち得ない。だけれど、確かにあれは夢ではなかった。消えたはずの青と、少年の絵がここにあるから。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.96 )
- 日時: 2020/07/28 20:59
- 名前: ルビー◆B.1NPYOoRQ (ID: jmlD11Sw)
遅くなりましたが参加させてください!!!!!!
初めまして!!!!!!!!(大嘘)
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
ああ、いやだ。いやだ。どうして僕は兄さんの話を鵜呑みにしてしまったのだろう。
あのひょうきん者で、人をからかうのが好きで、呼吸の数より嘘をつく方が多い兄さんの「冷凍庫に入っているアイス食っていいってさ!」なんて言葉、どうして信じてしまったのだろう――……!
「宗太ー……?」
地を這うような低い声に僕は母さんの部屋にあるクローゼットの中で息をのんだ。
その声の持ち主は僕の姉さんだ。あ、ちなみに僕の名前は宗太です。
もしかしたら皆さんご察ししているかもしれないが、そう、僕と兄さんは姉さんのアイスを根こそぎ食べてしまったのです。
兄さんは8割の確率で嘘をつくような人だ。だが底抜けに能天気で、アイスを食べて姉さんに発見され、虎の尾を踏んでしまったのにも関わらず、サッカーボールを持ち出して光の速さで外に出てしまった。
運動音痴で常におどおどしている僕は逃げ遅れてしまって――……。
姉さんのターゲットにされてしまった。
きっと僕を始末した後に兄さんを殺す気でいるのだろう。
『お風呂上がりのアイスと冬のあっつい部屋で食べるアイスは最高よね~!』
そんなことを口癖のように言っている姉さん。
僕の姉は食い意地が張っていて、赤ん坊のころから一番大きいサイズの哺乳瓶につまったミルクを瞬き間に飲み干した挙句、足りないと大きい声で喚き散らしたという逸話を持っている。
だから僕たち家族は身をもって知っていた。
姉さんの食べ物を許可なく食べた人間がどんな末路を迎えているのかも。
或る日、姉さんのプリンを食べた父さんは腹部に正拳突きを。
或る日、姉さんのポテチを食べた兄さんは上段蹴りを。
少なくとも数時間、酷い時には数日間体は真面に動かなくなるという代償を食らっている。
僕はそうならないよう、常に息を潜めて、被害にあわないように気を張り詰めていたのに!
なのに、今日という災厄に出くわしてしまった。
今日は茹だるような最悪の暑さ。僕の体は冷えたものを欲していた。だから。兄さんの嘘にも引っかかってしまった――……。
「宗太ー……? 今なら大人しく出てきたら許してあげる。おおよその事、あの馬鹿に唆されたんでしょ……? お姉ちゃんちゃんとわかってるから……。だから出ておいで……」
母さんの部屋の壁を伝う様にカリカリカリ、とひっかくような音がする。
きっと姉さんだ。でもその言葉は半分嘘だってこと、僕知ってるよ。
許してあげる、でもこの一撃でな! って言って僕の顔面に拳を入れるってことは知ってるよ。
姉さんは食べ物のことに関すれば悪魔以上の存在だから。
だから僕は息をひそめるよ。
父さんと母さんが返ってくる夕方6時までは――……!
ちなみに僕の腕時計を見てみると今は4時半だ。
ああ、長いよ、長すぎる!
早く帰ってきて父さん母さん!!
「あ、そうだー。宗太あのねー。今日父さんと母さん遅くなるんだってー。だから8時ぐらいに帰ってくるんじゃないかなー。今日お姉ちゃんが夕飯つくるのー。頑張るねー。オムライス作ろうかなー。3人で仲良く、食べようねー……」
そん、そんな……。いやでも騙されないぞ。
姉さんの陽動作戦かもしれない。
僕は負けるわけには……!
すると、僕の右手にするっともふもふして柔らかいものが通り過ぎた。
ん? 母さんのクローゼットの中には僕しかいなくて、動いているものなんて……。
横目で見ると、そこには衛生的にあまりよろしくないネズミが……。
「あ、あああああああああああああああああああああっ!!」
僕は思わず転げ堕ちる様にクローゼットから出てしまった。
背中に棒のようなものが当たる。それは、姉さんの足で……。
「みーつーけーたー。宗太。こんなとこにいたのね」
「ね、ね、ね、姉さん……」
「ねえ、宗太知ってる?」
姉さんの顔を見上げた。
その顔は逆光で見えなかったけれど――……きっと、恐ろしい顔をしているのだろう。
僕の気持なんか知らず、姉さんは緩やかな口調で、
「人って死んだら星になるんだよ」
そこから、僕の意識は途切れた。
次に目を覚ますと、リビングの壁に磔にされている兄さんと何事もなかったかのように夕食を食べる姉さんと父さんと母さんの姿があった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.97 )
- 日時: 2020/07/29 16:49
- 名前: ヨモツカミ (ID: kLwKgQ2c)
7月も沢山の参加ありがとうございます。お題を載せても人が参加してくれなかったら盛り上がらない企画なので、沢山の人が作品を書いてくれるって、やっぱありがたいことです。
8月のお題は8/1の0時とか、朝、まあ私が起きていたら早めに公開します。次も沢山の参加をよろしくお願いします。
勿論今までに公開したお題も月に関係なくかいて頂いて構いません。「寂しい夏」とか、夏の終わり向きのお題だと思うので、私も夏が終わる頃に投稿しようとか考えてますし。
このスレは「交流」を目的としているので、なんかもっと、作者同士で感想の言い合いとかしてほしいなあって思ってます。てゆーか、私の作品に対する感想がほしいから! 皆さん積極的に私の作品読んで感想書いてほしいです。アドバイスとかも受け付けてます、もっとこうしたら良くなるとかあれば教えていただきたいです!
8月は、そういう交流が増えたらいいなあと思います。みんな、感想欲しいなら感想欲しい! って言うべきだし、積極的に感想書いてほしい、感想を書くという練習? だと思って、してほしいなって。
いや、強制ではないので、もしそういうことしてもいいよ、って気持ちの人とかいれば、是非是非。
自分と同じお題で書いた人の作品を読んでみて、自分との違いを見つけるのも面白いかもしれませんね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.98 )
- 日時: 2020/07/29 18:23
- 名前: ヨモツカミ (ID: kLwKgQ2c)
>>95心ちゃん
えっ、なんでこんなに私好みの作品を……私が感想スレで言ったことを吸収しすぎて私好みの作風になっちゃったとかないかな、大丈夫かな……とにかく、すごい好きな雰囲気でした。文章自体もマジでめっちゃ上手くなったなって感じですし、好みです。
世界観とか色彩とか綺麗で、「あおいろ」をとても鮮やかに表現してるなって感じでした。
もしくは私達、感性が似ているのかもしれませんね。そうだったら嬉しいな。
>>96ルビーさん
こちらでははじめまして、参加ありがとう。
いやもう、ルビーさんらしくて好きですとしか。夏らしくホラー(?)感あったし、やっぱりルビーさんの作品は面白くていい。会話のテンポがすごい好きだった(笑)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.99 )
- 日時: 2020/07/30 00:47
- 名前: かるた◆OCYCrZW7pg (ID: 9ox4D5ow)
運営様、いつもお疲れ様です。
いつも楽しく作品を拝読させていただいております。
少し時間が作れずに感想を書きに来れなくて申し訳ないです。大遅刻ですが、少しだけこちらに書き込ませていただきます。
***
>>025 リリーオブザヴァリー
感想っていうか思ったことなんですけど、めちゃくちゃエモくて好きです。あとがきでヨモさんが言ってたとおり数年後に青年になったノエルくんが御伽噺みたいに迎えに来てくれ、と読み終わったあとに私も思いました。親に逆らったこともなかった何も知らない無垢なノエルくんがひたすらに愛らしくて可愛いし、何もしてないのに家系の呪いのせいで作り出すものが他の人にとっては毒になってしまう少女って組み合わせが本当最高ですよね。どこにも行かせたくないがために、毒でこの家に縛り付けてるって感じなのでしょうか。
個人的に気になるところなのですが、ノエルくんがスープを口に運んだ時の「もう一口口にしたとき、」っていうところが口が二回続くので最初記号っぽく見えてしまい、ここで初めて読むのにつっかえてしまいました。横書きだからそう感じたのかもしれませんし、もちろん個人的な意見なのであまり深く気にしないでください。もしよかったら参考にしてもらえると嬉しいです。
>>073 海に還す音になる
ちょっと難しいお話だったのか、私の頭が弱いのか一回では色々分からなかったので何度か繰り返し読ませていただきました。読んでいくうちに内容がしっかりわかったか、というとそこまできちんと自分なりの解釈ができたわけではないのですが、読んでいくうちにゾワゾワとしました。地の文が丁寧に書かれている分、頭の中で想像しやすくだんだんと背筋が凍っていく感じがしました。ホラーっていいですよね、夏って感じで。
>>078 そこにあなたが見えるのだ。
え、めっちゃ好きなんですけど。ヨモさんって私を釣るのがお得意なんですか。ヨモさんのSS読むたびに好きしか言ってないんですけど、わたし感想書くの得意じゃないですけどこんな安直なことしか言わないのヨモさんの小説のときだけですよ。好きです。
うわ、河童さんの案なんですね。これはお礼を言うしかないですね。私をたまにストーカー扱いしてくるJKこと河童さんありがとうございます。あなたのお陰でヨモさんの最高オブ最高なSSが読めました。その件は許してあげましょう。
どこでこの小説に落ちたか。まず、初手。「だから天上の星々は死体。夜空はあまねく死体遺棄現場」ここじゃないですか。めちゃくちゃここ良きじゃないですか、誰が何と言おうと私は好きです。反対意見なんて受け付けないし、言ってきた奴は駆逐します。好きです。
親友の自殺をとめられなかったのは、語り部の女の子が親友を大切に思っていたからなんだろうなって、読みながら思いました。もちろん彼女を死から救うことが一番正しいことなのかもしれないけれど、彼女の願いは星になること。そして語り部に見つけてもらうこと。親友がなくなったあとも形ばかりの天文部だった語り部は星の名前もよくわからないのに、夏になると彼女の星を探して見つける。親友の願いはきっと「忘れないで」ってことなのかなって個人的に解釈しました。素敵な関係性のお話が読めて嬉しかったです。
ごめんなさい、時間の都合的に絶対に書きに来たかったヨモさんの小説の感想だけお先に失礼します。またちまちま読んでいくので何か好きな作品だったり性癖にささった作品があったら感想を書き込みにきたいとおもってます。
もし時間があったら私はヨモさんの作品語りとか聞きたいので、書いた作品の中で気に入ってる文章だったり台詞があったら教えてもらいたいです。
>>050
すみません、感想いただいていたのにお礼を別の場所で簡単にしたっきり書き込みにこれてなくて大変申し訳ないです。
梅雨の時期って私はとても憂鬱で、他の方が結構悲しいお話を書かれていたので少し違う路線を責めてみようと相合傘のお話を書いてみました。仲の悪い双子をつくったきり創作に活かせてなかったのでこちらで彼らのお話を書かせていただきました。
平和な兄妹喧嘩が好きなので、そう言っていただけて嬉しいです。ヨモさんはひとつひとつの作品を丁寧に読んで感想を書いていて本当にすごい運営さんだなと尊敬しております。頑張りすぎて無理だけはしないよう、これからも陰ながら応援しております。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.100 )
- 日時: 2020/07/30 16:38
- 名前: むう (ID: z.3NY6is)
ささやかながら感想を投げ込みますね。
>>よもさん
お節介かもしれませんが私の>>90の小説も出来れば作品一覧に書いといてほしいな…。
見落としてしまったのだと思います。
また一覧に加えてもらえれば嬉しいです。
>>95 心ちゃん
凄い好きな話でした!
絵にかいた子が現実に出てくるっていうストーリー凄く好きです。
きっと主人公は絵にかいた子の言葉に勇気をもらったんだろうなー。
>>96 ルビーさん
初めまして。ルビーさんのお話を目で追ううち、
どんどん伏線が繋がってきて最後の一行でゾゾゾッと来ました。
こういう感じが凄い好きなのでもう一瞬で虜になりましたね。
お姉ちゃんの食欲を何とかしたいですね…っていうかお姉ちゃんが作る料理ってもしかして!?
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.101 )
- 日時: 2020/07/30 17:20
- 名前: ひにゃりん (ID: bXUjsBko)
よもつかみサン。感想ありがとうございます。今回のは時間があまりなかったため、途切れ途切れ&心情情景すっ飛ばしという無茶苦茶読みづらいものになってしまい、申し訳ございません…。
でも、おかげでこれからも頑張れます。ありがとうございました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.102 )
- 日時: 2020/07/30 19:41
- 名前: ルビー◆B.1NPYOoRQ (ID: vSOLBzKs)
>>98ヨモツカミさん
7月のお題が出てきたときにはもうこれは書くしかないな!って思いました!!
会話のテンポ、読みやすいように、楽しいようにを心掛けてたからそう言ってもらえてうれしいありがとう……!
ちょっとこれは私史上トップ3に入るぐらいのホラーですね。
ほら、あの……家族だからって迂闊に地雷を踏めば殺されかねない的な……。
生きてる人間て怖いよね(誰目線)
>>100むうさん
初めまして。読んでくださったのですね、うれしいです!ありがとうございます。
殺意マシマシの姉のホラー(?)でした!
おおお……虜とな、うれしい一言に尽きます。観想下さってうれしいです……!
食い意地張った人のご飯奪うとヤバいぐらい切れ散らかしますよね。
多分この姉の食欲は年齢で老化しない限り治まらないと思われます。お姉ちゃんの料理は一歩踏みとどまって普通のオムライスのようです。平和な家庭に戻りました!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.103 )
- 日時: 2020/07/31 15:45
- 名前: 蜂蜜林檎 (ID: fjfkQeHo)
では感想投げさせていただきます......解釈違いとかあったらすみません。
>>5 >>26 Thimさん
元ネタを見たことがあるんですが、「 うっ 」ってなりました。好きです。
きっと小鳥は男の子が好きだったんじゃなくて、本当の愛を求めてたんだろうな、と思っております。
男の子が結ばれれば本当の愛が何か分かるからなんじゃないかなと。あくまで私の考えです。
>>26の十行目、「何かが」 が 「名にかが」 になっている.....?
続きあるんですか ? もしよかったら見たいです。
>>6 サニ。さん
どう解釈していいのか分からないんですが、狂った感じがめちゃ好きです。
他の方もおっしゃってましたが、自分を主張したかったのかなって思います。
涙を雨って表現してる辺り思い付かなかったです。「 なるほど 」ってなりました。
ちょっとずつ感想投げていこうかなと思ってるのでよろしくお願いします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.104 )
- 日時: 2020/07/31 17:17
- 名前: ヨモツカミ (ID: .JgNVA4Y)
>>99はなちゃん
うっっっ、感想をねだったりしてこの運営何だこいつって思われたかなあと思ってたらこんなに丁寧に感想を下さって、めっちゃうれちい……
リリオブ
タイトルこれ、英語で「鈴蘭」という意味です。鈴蘭は美しい見た目に反して毒の花なので、作中でも鈴蘭が出てきたし、彼女の見た目も鈴蘭イメージです。
エモだしこの二人の組み合わせ最高よね!!!
でもノエルが迎えに行っても二人が結ばれる未来はないので、まあ、もしかしたら友達程度にはなれるのかな、と思います。でも、毒の娘が幸せになる未来は多分ないです(無慈悲か)その毒を悪いことに利用されたり、誰も近づけなくて孤独な生活を強いられたり、そういう存在なんです。だから、ノエルが現れたのはちょっとは救いになったと思います。
あ、気づかなかった。たしかにー□□みたいにみえちゃうね、ありがとうございます、複雑ファジーの短編集に載せてる方は直しました。こっちはめんどくさ、、(
海に還す
確かに突拍子もなさ過ぎて理解しづらいかもしれない。ただゾワッとするようなお話にしたかったので、特に深い意味はないです。世にも奇妙な物語を見たあとに書いたので、ホラーで不思議な感じを出したかったのよね。
ノリとしては、水の妖精(?)が子供をさらって食べていたけど、獲物である少女に逃げられたから付き纏って、つきまとい続けた結果、少女自身が水の妖精(?)そのものにされてしまう、みたいな。これからも鈴の音で子供を誘って喰らう化物は存在し続けるんだよ、怖いねってお話です。
描写は基本丁寧に書くことを心がけてるのでそう言ってもらえてハッピー!
あなたがみえる
そそ。かっぱが人が死ぬと星になるってお題を見て「死体を見に行こう」って台詞だけ思いついたし書きたいけど時間無いから書いてみない? って、持ちかけてきてくれて、二人で完成させました。私達の共通点は百合好きってとこなのでこうなりましたね(笑)
「夜空はあまねく死体遺棄現場」ってフレーズ、かっぱも好きって言ってくれたんですよね~。
親友は語り部に自分の死を見せつけて、忘れられないものにしたかったのでしょう。なんだか呪いみたいですね。どうして死のうとしたかは決めてませんが、学生が死にたいと思うにはこの世には理由がありふれてると思うので、特に決まってなくていいでしょう。
なんだか重たい関係の二人だと思いますが、お互いにお互いが大事だった証拠です。誰も介入できないほど深い絆があったんだろなと思います。
こんな感じかな。長々と語りましたが、暇なときにでも見てもらえたら嬉しいな。
確かに雨から連想されるものは寂しいものだったりすることが多い気がします。そんな中でほっこり話を書いてて、なるほどってかんじです。
みんなに感想かけてるのは最近暇だっただけで、忙しくなったら減ると思うので今だけですね……頑張りすぎてはないので、でも応援ありがとう!
はなちゃんこそ忙しいだろうにありがとうね。とても嬉しかった。コピペして保存した。
>>100むうさん
ひ~~~ごめんなさいごめんなさい! 見落としてました! 気をつけてるつもりなんですけどそういうの稀にあるみたいで……陰湿ないじめとかではないので私のこと嫌いにならないでくださいね! 教えて下さってありがとうございます。
わー、他にもあったらどうしよ。みなさんも自分の小説載ってないなと思ったら教えてくださいね……ヨモツカミも万能運営ではないので。至らないところがあって申し訳ないです。
>>101ひにゃりんさん
返信ありがとうございます!
投稿期限を設けてないのはみんなに丁寧に時間かけて書いてほしいからなので、焦らず書いてほしいなーと思います。
私の言葉が励みになったなら良かった! 是非また参加してくださいね。応援しております。
>>102ルビーさん
楽しいホラーでしたね(笑)ルビーさんのこういう楽しい話かけるとこ本当に尊敬します。私も書きたい……
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.105 )
- 日時: 2020/07/31 19:17
- 名前: 鈴乃リン◆U9PZuyjpOk (ID: td2y1rdc)
最後の日に制覇致しますっ
お題④ 『さよならの意味。』
「なんで人ってさ、『さよなら』っていうんだろう。」
つい最近持った悩み。
さよならっていうよりも、『またね。』っていう方がいいじゃん。
でもその事を親友である照に聞いたら、彼女はこう答えた。
「まぁ、言い方も人によるじゃん!私だってさよならって言うよ?」
いつもと変わらないひだまりのような温かい笑みを私に向けた。
でも、何かが違った。
私がその質問を照に話してから、彼女の顔に、影があるような気がする。
にこにこ笑ってても、何か隠してるみたいな。
そう感じてから一ヶ月。夏になった。
登校に使う道も、蝉の声で煩くなった。
或る日、いつものように2人で通学路を歩いてた時に、事は起こった。
冷たい雨が降る日だった。
「ごめん!今日さ、弟のお迎え、私が行くことになっちゃってさ、一緒に帰れないの!」
「ううん、大丈夫だよ。じゃあまた明日ね。」
『さよなら。』
その会話が、彼女と交わした最後の言葉だった。
次の日に知った。
照が、家で親に殺された。
ずっと前から、虐待を受けていたことも、初めて知った。
あの言葉が、あの『さよなら』の言葉が、こういう意味をもたらしていたなんて、私は知らなかった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.106 )
- 日時: 2020/07/31 23:41
- 名前: ヨモツカミ (ID: Xyuytlos)
>>105リンちゃん
マジ最終日に滑り込みするやんって驚きました(笑)
さよならって別れの挨拶は次がない感じして少し寂しいですよね。実際に照との次はなかったわけだけど。照はもう、いつ次がなくなるかわからなかったから「またね」は言えなかった感じかな。短いのにストーリーがしっかりあって良かったです。でも、情景描写をもっと増やすこともできるし、それをすることでもっと繊細で緻密な作品になると思うので、描写を増やしてみる練習もしてみていいと思いました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.107 )
- 日時: 2020/07/31 23:46
- 名前: ヨモツカミ (ID: Xyuytlos)
*第二回参加者まとめ
心さん:永遠に後輩。(お題④)>>57
卯さん:あいにおぼれる(お題⑥)>>58
待雪草さん:(お題⑤)>>59
むうさん:Stand by me(お題⑤)>>60
千葉里絵さん:永遠の婚約(お題⑥)>>61
千葉里絵さん:星と恋と死(お題⑤)>>62
ひにゃりんさん:記憶の星空(お題⑤)>>63
祥さん:粘着質な独り言(または懺悔、反省文、ラブレター(お題④)>>64
心さん:星を造るひと(お題⑤)>>66
ヨモツカミ:海に還す音になる(お題⑥)>>73
ライターさん:その夏、僕は。(お題④)>>77
ヨモツカミ:そこにあなたが見えるのだ。(お題⑤)>>78
サニ。さん:クズの細道(お題⑤)>>79
待雪草さん:ペンネームと彼(お題⑥)>>82
むうさん:保健室クラブ ~私の居場所~(お題⑤)>>83
優羽さん(お題⑤)>>84
金鳳花さん(お題⑥)>>85
おまささん:雨が降っていてよかった(お題②)>>87
むうさん:碧と傷痕(お題⑥)>>90
蜂蜜林檎さん:金魚救い(お題④)>>92
心さん:ヘブンリーブルー(お題⑥)>>95
ルビーさん:(お題⑤)>>96
鈴乃リンさん:さよならの意味。(お題④)>>105
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.108 )
- 日時: 2020/08/01 00:00
- 名前: ヨモツカミ (ID: tmrndZ0M)
*みんつく第3回・お題8月編
⑦海洋生物
⑧「なにも、見えないんだ」
⑨狂気、激情、刃
8月になりました。今回追加されたお題はこちらです。個人的に⑨がめためたに読みたくて今回の参加者様たちにとても期待しております。
台詞のお題考えるのが難しくて、お題……募集してますよ。
では8月もLet'sEnjoy!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.109 )
- 日時: 2020/08/01 02:14
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: tI3DMzcY)
8月一発目の投稿が感想ってどうなんや? と思ったので、とりあえずこちらを……後で加筆修正などするかもです。
お題⑧「なにも、見えないんだ」
「記憶の果てに沈む。」
横断歩道の前、信号で立ち止まってぼんやりとレンは空を見上げた。今まで二値化された夕暮れに慣れきっていたから、その空は不気味なほど紅く赤く鮮やかに見える。むしろこちらの方が怖く感じるほどに。ざわざわと揺らぐ中に立ち尽くして、微かに息を零した。ちらりと横目で見上げてみれば、信号はまだ赤だ。
夕暮れで思い返された色で塗られた記憶に沈み込んで、彼はどうしようもない最初を思い出す。
それは、蒸し暑い夏の夜だった。母、咲織の喪が開けて幾日か経った時のような気もする。今日は毎年恒例の夏祭りが命風神社で行われていて、彼もそれに行く予定だった。途中までは確かに祭りに向かおうとしていたはずで、その証拠に甚平を着ているしあずま袋も持っている。だが、何となく気が乗らなかったのだ。それはもしかしたら、明るくてきらきらした祭りがあまりにも今の自分の境遇には合わなかったからかもしれない。叔父であり育ての親でもある楓樹は町内会の仕事やら何やらをしに行くらしく、夕暮れ前から家を出ていったのだが。
黒のサンダルが乾いた土の地面を踏みつけて、道の端に転がっていた小石を蹴り飛ばす。人の気配なんて全然辺りにはしなくて、どんちゃん騒ぎの幽かな音が風に乗って流れてくるだけだ。木綿の涼やかな肌触りとは裏腹の、鈍い冷たさの風が肌にぶつかる。
それに何故かどうしようもなく腹が立って、風に八つ当たりしても仕方ないのに少年は叫びそうになった。息を吸って、腹に力を込めて、身体をくの字にそらして、叫ぼうとしたその時────
不意に、心地のいい風が吹いた。
顔を元に戻して、息を吸い直して、咳き込みそうになるのを堪えて前を見る。そこに立つのは、蓮よりも年上と思われる少女だった。彼女の冷涼な美貌に目が引き寄せられて、その次に鮮やかな白と緋袴に目が動く。その衣は何よりも雄弁に彼女の身分を物語っていた。
「巫女……さまが、なんでここに…………?」
「やめて、その呼び方。私は華鈴。それ以外の何者でもない。」
緑髪が風に靡き、力を僅かに抜いた少女の下駄が微かな音を立てた。夕暮れの光が滑り込んで、黒い瞳を照らしていく。
「華鈴、さまは……」
「華鈴でいい。君は?」
「あ、ぼくは井上蓮と言います…………えと、じゃ、華鈴さんはどうしてここに……?」
生温い風が長い髪を揺らして、彼女は鬱陶しげにそれを払う。ちらりと己の服装を見下ろして、せめてとばかりに絵元結を引き外した。女なら羨ましがるであろう美しい髪を、しかし彼女は無造作に後ろへ跳ね除ける。
一挙手一投足があまりにも綺麗で、蓮は華鈴から目が離せなくなった。ゆっくりと桜色の唇が動き、彼女は蓮の問に答えを返す。
「私がここにいた理由かぁ。ん……」
そう言って彼女は黙り込んだ。ふっともう日の沈みかけた空を見上げては息を吐きだす。
「なにも、見えないんだ。」
なにも、見えない。小さく蓮はその言葉を反芻して、自分なりに意味が咀嚼してできないものかと考え込む。そんな様子を目にして、華鈴はその歳に見合わぬ自嘲のような表情を浮かべて言った。
「何も見えないんだよね。暗くて、沈んでて。自由なんてものがどこに存在するかもわからない。本質的なことは何も見えなくて、あるのは上っ面だけ……」
あまりにも大人びていて抽象的なその言葉は、蓮では上手く消化できなかった。だから、他になにか汲み取れやしないかと彼は華鈴の目を見つめる。
「なんてね。ちょっとした冗談だよ、気にするな。」
そう言ってふわりと笑い、少女は蓮に向けてそう言う。じっと己の目を見つめていた蓮の目を見返すように見つめ合い、華鈴は微笑んだ。互いが見つめ合う事で成されてしまったそこはかとなく気まずいな空気を、打破しようと試みたのは蓮だった。
「もし、よければ。屋台とか、いきません?」
その蓮の問いに、彼女は驚いた顔をした。辺りに視線を投げて、人がいないかを確認する。
「え、良い……のかな。」
「やっぱりだめ、でしょうか……」
「でも、見つかってしまったらアレだから、さ。きみが怒られてしまうよ?」
蓮がそれに答えを返そうとしたその時、不意に轟音が響いた。はっとして二人が顔を上げて、東の方角を見つめる。家々の重なり合う間を透かし見れば、美しく煌めく花火がもう既に上がり始めていた。紺色の空は花火の背景となって淡い赤に照らされ、星々を超えるように輝く。
「私たちは、ここに居ない?」
「それでも、いいですけど……」
花火の轟音と激しくなる喧騒が遠くから響いて反響して、華鈴は静かに微笑んだ。こんな空気が好きだ。棘もなくて逆に柔らかく甘やかすものもなにもない。
「きみは、優しいんだね。」
「え?」
「君は、本当に優しいなぁ。父様の機嫌取りなんてなにも考えず、私に接してくれる。他の者達は皆みーんな父様を優先して私の自由などおかまい無し。外ふらついてる私を連れ戻せば父様の覚えが良くなるとか、恩恵があるとでも思ってるのかな。」
「父様、って神主さまのこと……?」
一転して荒々しい口調で放たれたその言葉もまた、蓮は半分も理解できなかった。疑問を浮かべながらでも、蓮は満面の笑みを閃かせた。理解出来た部分は、彼にとってとても嬉しいことだったから。
立て続けに打ち上がる花火の音にかき消されないよう声を張って、少年は言う。
「わあ、人から褒められるのってうれしいですね……華鈴さん。」
「え……うん、そうだな! ……ねえ、蓮。私、明日も君と会ってもいいかな?」
「べつに、いいですよ? でも……ぼくなんかと会って何するんです?」
そう言って、少年は首を傾げた。
「秘密。会ったら話してあげる。だから、また遊んでね!」
少女もまたそう言って笑って、さらりと髪を揺らして振り返った姿が美しかったことを、蓮は今でもよく覚えている。
「レン。レーン! 信号変わってるぞ!」
ブランのアルトが呼ぶ声に引かれて、ふっと意識が今に浮上した。夕暮れを見て思い返していた過去に虚しくなって、レンはくっと息を詰める。秋津の夏の匂いが甦ってきそうになって、さらに苦しくなる。でもいくら想起したところで足元は踏み固められた土とかではないし、手に握られたのはあずま袋でもない。
「ハイ! 今行きマス!」
もう、過去のことだ。そう思って彼は、そっと白と黒の線上に足を踏み出した。
【外伝スレの方にも載せさせて頂きます……! 感想と言いますか、アドバイスが欲しいです! 】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.110 )
- 日時: 2020/08/01 02:25
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: tI3DMzcY)
感想へ返信! 少しづつ他の方の感想も書きます……Now Loading…………
よもさんへ
ありがとうございまァァす!
そうかな、そういえば……自分なりの文体もみつけていけるとなによりなのだけども、まだまだだから…………
私は青色がめっちゃすきなので、頑張りました。海の青って素敵だと思うんです。あと平仮名。あおいろ、っていいですよね。字面にそこはかとないエモみがある。
よもさんと感性似てたら私も嬉しいなぁ、最初これ百合でもノーマルでも、どちらの解釈でもできるように書くつもりだったんですよね。でも、だんだん私がノーマル大好きだからか少年になりました。ボクっ娘解釈でもたのしいかもしれません。
最初に百合を思いつくあたり、やはり似ている……(?)
8月も頑張ってください…………!
むうさんへ
ありがとうございます! 彼は絵に描いた子なのか、神様なのか、生贄なのか。きっと読む方によって印象は変わることだろうと思いますので、ここでの明言は避けますね。
でも、彼女はきっと勇気をもらいましたよね。明日へ生きるための。書いてて楽しかったです。わぁい。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.111 )
- 日時: 2020/08/01 22:05
- 名前: 憑◆R1q13vozjY (ID: Jyubo2Ms)
第一回、第二回の感想だけ投げさせて頂きます。
解釈違いとかあったらすみません。
――――
>>18/海原ンティーヌさん
この話めっちゃほっこりしますね。
凄く短いのに情景がしっかり浮かぶし、世界観がはっきりしてるなぁと思いました。というか色とりどりの飴が空から降ってくるとか可愛いな、こんな世界に行ってみたいです。あと飴がどんな味なのか普通に気になるので、友人たちと一緒に拾いに行きたいなぁなんて思いました。
>>73/ヨモツカミさん
こういう不思議でちょっと怖い話、凄く好きです。
感覚的な感想で伝わりにくいなぁと我ながら思うのですが、全体的に涼しさを感じる話だなと思いました。鈴って聞くと風鈴を思い起こす人なので、リンリンリンっていう鈴の音の描写には聴覚的な涼しさを感じたし、少女の最初の話(真っ青な水槽を~の件)では水中の中にいる風景が目に浮かび、視覚的な涼しさみたいな、そんな印象を受けました。そして最後に少女が人を食べるところでは、背筋がゾクッとするような気持ち悪い冷たさを覚えました。だからなんでしょう、夏の暑さを和らげるのに丁度良かった(?)です。
情景の描写が鮮明的だからでしょうか、単発のドラマか何かで映像化して観てる感覚に陥る文章だなと思いました。
>>77/ライターさん
僕あの、やまなしの話好きなんですよ……! 初めてやまなしを読んだときに「かぷかぷ」っていう表現が面白くて仕方なくて、だからなのか「かぷかぷ」っていう単語が脳裏にそのままこびりついてるんですよね。それを言うとクラムボン、って言葉もよく分かりませんが。途中で「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」と原作の一文が出てきたときにはちょっと鳥肌が立ちました。引用の仕方がキャッチー的で上手だなぁ、って。
そういえば花火って、打ち上がってからすぐに消えますよね。花火が消え行く様って、少し寂しさや切なさを思わせる感じがあります。後半で彼女が消えるシーンで、花火が上がったことを描写したのは、彼女が消えていくのを止められなかった語り手のやるせなさとか、彼女と語り手の関わりが物理的に消えてしまったこととか、そういうのも掛け合わせてるのかなぁと思いました。
>>90/むうさん
話が激重だ……友達の定義に触れる話は胸がぎゅっと締め付けられるような思いがありますね。彩夏ちゃんの友達の定義に対する考え方が似ていたので、余計に「うわこれしんどいな……」となりました。この読後感をなんと言えば良いのか分からないくらいに気分が沈む話ですね。
今まで親友と思っていたものが急に無くなったのに、妙に冷静な自分がいることを自覚して葛藤する彩夏の価値観と、親友が嫌いだと思いながら離れられない雛の価値観のすれ違いを感じさせるのが上手いなと思いました。文章として彼女たちの感情を詳しく描写はされていないなと思いましたが、その分色々考察の余地があるなぁと。メッセージ上のやりとりもなんか生々しいというか、彼女たちの青い感じというか、まだ精神面で熟成してない感じが顕著ですね。勢いで「じゃあもう連絡しなくていい」と言ってしまう所が特に。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.112 )
- 日時: 2020/08/03 16:48
- 名前: むう (ID: oE5JCiQw)
>>111 憑さん
素敵な感想をありがとうございます。
いつも甘々な物語ばかり書いているので、人生こんなにうまくいかねえよなと思った私の天邪鬼気質がこう言う作品を生みました(笑)
友達って何なんだろう? という考えからでたテーマです。
いつかこの彩夏と雛・二人が自分なりの友達の定義を考えられたらいいなあと思って書きました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.113 )
- 日時: 2020/08/06 07:06
- 名前: ライター◆sjk4CWI3ws (ID: HLOK10zo)
>>111
憑さま
感想ありがとうございます! 私もやまなしが好きでですね、かつて小学校の教科書に載っていたのを思い出して……
そうですね、日本の文化的に散るものって美しいとされているとおもうんですよね。桜然り、花火もまた然りです。
その件のあたりは、「クラムボンはかぷかぷわらったよ。」って言う原作の辺りとも掛けてみたりなどなどしています!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.114 )
- 日時: 2020/08/06 17:47
- 名前: 神崎慎也 (ID: jtzA9jug)
お題7「海洋生物」
タイトル「深淵の街」
「よっしー、あとの片づけ頼んだぞ?お前の事は頼りにしてるからな!」
「は、はいっ!」
俺の目の前でとある社員が褒められている。
吉田はたしか数か月前に入ってきた新入社員だったか。いつの間に"よっしー"なんてベタなあだ名がついたのだろう。
「じゃあ、俺たちは帰るから よっしー頑張れよ!」
そう言い捨てた社員2名はそそくさと作業場を後にした。作業場には俺と吉田の2名が残されている。
結局、アルバイトの俺には挨拶一つないどころか目を合わせてくることも無かった。まさに検索件数ゼロ状態だ。
あいつらワザとやってるんじゃないだろうな…?俺にそういう不信感を抱かせるには十分すぎるシチュエーションだった。
でも、こんなことは良くあることだ。俺の目の前で俺以外の奴が褒められて俺にはスルーを貫き通す。
もうこのアルバイトを続けて3年目なのだが、未だに俺は社員たちとの距離を縮めることが出来ていない。それどころか、最近は扱いが雑になっているような気さえする。
スーパーマーケットのアルバイトがキツイというのは噂で聞いていたが、まさかこんな形で思い知らされることになるとは。
いや、言ってしまえば全部俺が悪いのだ。
吉田も俺を無視して吉田を褒めていた社員たちも悪い人達じゃない。俺がこのアルバイトを始めた最初の頃は割と気さくに話しかけてくれていた。
俺がそれを知らぬ間に拒んでしまっていた。拒絶していた。
徐々に社員たちは俺に遠慮し、一定の距離を保って接してくるようになった。
思えば、俺は18を過ぎた頃から随分と会話ベタというか人との距離の測り方が下手糞になってしまっているようだ。
アルバイトだけではない。
大学でも俺はあまり友達が出来なかった。
大学の連中はつまらん奴が多いと勝手に決めつけ、距離を深めることをしなかったからだ。
いつしか人間関係が、社会が、地上が、息苦しいと感じるようになった。そういう時よく目に入ったのが海を泳ぐ海洋生物たちの写真。
ある時は図鑑で、ある時はネットの画像でよく見かけた。海洋生物は俺にとって憧れのようなものを感じさせた。そして、影響された。
そんな漠然とした憧れが俺の中に生まれてから俺には決まって訪れる場所ができた。
てきとうにバイトを終えて時計を見たら19時45分
今日も俺はふらっと飲み屋に寄っていくように、"そこ"に訪れていた。
少し荒っぽい潮風と強い波の音。カモメの声が演出する昼間の楽しい情景とは反して今は寂しさや悲しさといったマイナスのオーラが漂っていた。
"そこ"とは海だった。
それも夜の海。砂浜にはポツリと俺一人が佇んでいて他には何もない。あるとしたら昼間に燥いだ人々の足跡。周囲は漆黒の暗闇というよりは全体的に青みがかっている。
俺は此処に来ると生き返った気分になる。
あれだけ息苦しかった地上に比べて海は俺を落ち着かせる。
吸い込まれるように俺は波打ち際まで歩きはじめ、足が海水に触れるのを感じる。靴を履いているのに思いのほか海水の浸透は早い。今は夏なのだが、その冷たさは全身を冷やすのには十分だった。
俺は歩みを止めない。
海水は膝下まで飲み込んだが、まだ歩みを止めない。
気づけば腰下あたりまで俺は海に浸かっていた。このまま海に飲み込まれてしまいたいと絶実に思う。
でも、そこでピタリと足が止まる。
まるで足が縫い留められたかのように、まるで下半身が石化してしまったかのように俺はそこから一歩も進めなくなる。
もう何回目なのだろうか。少なくとも2年前からこんなことを繰り返しているような気がする。いつも俺はここで歩みを止めてしまう。躊躇ってしまう。
躊躇いが生まれる理由は単純で、俺は陸上に生きる生物だからだ。呼吸は肺を使い酸素が供給され続けなければ生きていけない。このまま頭まで沈めば、俺は海の藻屑となるだろう。
「(はぁ、ここまでか。)」
決まって俺はここで深い溜め息をつき、自分自身に絶望する。これはもはや日課のようなものになっていた。普段ならここで引き返して家路につくところだ。しかし、
「苦しい…。」
今日の俺はどうかしてる。
「苦しい…。」
何故かこのタイミングで思いだしてしまった。
それは、アルバイトで受けた屈辱だった。
それは、大学で感じた疎外感だった。
それは、ある日図鑑で見た様々な海洋生物たちが楽しげに泳ぐ姿だった。
あの日から俺の中で大きな疑問が生まれた。
俺はいつまで地上にいるのだろう。いつまで息苦しい地上で生きるのだろう。いつまで地上で生きている生き物のフリをしているのだろう。
俺は、一歩を、確かに踏み込んだ。
そして、
そこからは早かった。
腰下まで来ていた海水はいつしか胸のあたりまで来ていても構わず進み続けた。内心、諦めていたのかも知れない。これは単なる現実逃避だ。人が海の中に逃げ込むなんて事が出来るわけない。泳ぐのだって息継ぎは必要だし、長時間潜るのにも酸素ボンベが必要だ。このまま俺は海水に飲まれて流木以下の存在になるのだ。
正直、楽になりたいというのはあった。それが海洋生物になるという形で歪んでいただけなのだ。
もうこれで、何もかもおしまい。ついに、海水は俺の全身を飲み込んだ。
ここまで言っていてあれだが、息を止めている今が一番苦しいかもしれない。情けなくて笑えてくる。
ここでゆっくり鼻から息を吸おうとしたら海水が入り込んできて俺の意識は刈り取られるだろう。分かったうえで俺はそれを実行した。目を閉じたままゆっくりと鼻から息を吸い込みそして、
鼻から息を吐いた。
「(ん…?)」
最初、何が起こったのか分からなかった。
もう一度、鼻から息を吸って吐いてみたが、これが普通に出来てしまう。
「(まだ頭が地上にあるのか…?)」
ゆっくり目を開けると確かに自分は水の中にいるようだ。ゴボゴボと水の中の音も聞こえる。でも、海水のはずなのに目が沁みることはない。そして息をすることが出来る。
「(なにが起きて…。)」
とにかく理解が追い付かないまま俺はそのまま歩き続けた。
しばらく暗い水の中を歩くと視線の先に明りがあるのが見えた。近づいてゆくにつれ、それは徐々に地上にある街並みとそっくりな景色が浮かび上がってきて、
そして
ぶつ切りですが此処で止めておきます。初めて投稿しました。読んでくれた方々には感想やアドバイスなどを頂けると幸いです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.115 )
- 日時: 2020/08/08 08:05
- 名前: ヨモツカミ (ID: KwLM8yZg)
>>110心ちゃん
百合解釈OKなんですか?? 最高か。
ひらがなの表現だからこその味ってあるよね、とてもいいと思う。
>>111憑さん
感想ありがとうございます!!
私も鈴と聞くと風鈴を思います。なので、風鈴のような音を想像してました。そこの解釈一致はなんか嬉しいですね。
気持ちの悪い怖気立つ仕上がりにしたかったので、そう感じてもらえてよかった。
情景描写も褒めていただけて嬉しい。ドラマみたいは初めて言われました。それだけ鮮明に想像できる文がかけていると思うとかつての努力が報われた感じしていいですね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.116 )
- 日時: 2020/08/08 18:31
- 名前: ヨモツカミ (ID: KwLM8yZg)
>>109心ちゃん
アドバイス……? もう十分上手いから、無くね?
強いて言えば、登場人物の年齢がわかると面白いかもな、とか?
あとは、なんだろ、段落が少ないな、とか感じたけどそれが悪いことなのかいいことなのかは知らない。
夏の温度とか匂いとか、目線の動きとか、比喩表現とか上手くて、情景がよく頭に浮かんでくる文章になってると思うから、私からは特に言えることは無いや。
あー、他には一瞬どっちが喋ったのかわからないときがある、とか。一人称で区別つくけど、一瞬迷うとか。表情の描写が少ないかも。
今のは無理矢理粗探しして見つけた点を指摘してみただけだから、この文章が悪いわけじゃないので、ちょっと今度書くときの参考程度にしてみてほしいかなって感じ。
場面の切り替えのぱきっした雰囲気とか好きだし、華鈴さんの抱いている寂しさとか物憂げな感じが伝わってきて、それを思い出す蓮くんの心情はどんなものだろうかと、夏のノスタルジーを感じて好きな話でした。
>>114神崎慎也さん
初参加ありがとうございます!
アドバイスといえば、最後まで書いてほしかったが一番言いたいことですね。SSって、短い文の中で起承転結させるものなので、結がない時点でなんとも言えないような……
あんまり厳しく言うと参加者さんが減りそうなので他の人には言ってませんが三点リーダ「……」と、二つ重ねるとか疑問符感嘆符の後はヒトマス開けるとか、基本的な小説の書き方をしましょう。
文の終わりが「~た。」のような同じ音で終わるのが連続すると上手くないように見えちゃうので、工夫してみましょう。
「このまま海に飲み込まれてしまいたいと絶実に思う。」→切実、の誤字でしょうか。
「まるで足が縫い留められたかのように、まるで下半身が石化して~」まるで、が連続してます。同じ文とか次の文で同じ単語を使うのはなんかしらんけど良くないそうです。
他のところでも「躊躇ってしまう→(次の段落)躊躇いが」のように、同じような単語が連続してます。
長くなるのでここまでにしておきますが、自分で何度か読み返して、違和感のあるところを直していくといいんじゃないかと思います。
地上が息苦しくて、海に憧れた男、テーマとしてはとても好きです。でもどうせなら続きが読みたいなと感じました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.117 )
- 日時: 2020/08/08 21:47
- 名前: 神崎慎也 (ID: Is2woA7A)
なるほど。結構参考になりました! 小説じたい書くのが初めてだったので、もっと酷評されるかとも思ったのですが「続きが読みたい」という前向きなことを言っていただいて光栄です。また次のテーマでリベンジさせてください。
深淵の街については1から作り直して何かの機会に完全版を見せれたらと思います。
荒削りの文章をきちんと読んでいただき感謝します。そして、丁寧なご指摘ありがとうございました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.118 )
- 日時: 2020/08/12 23:19
- 名前: ヨモツカミ (ID: Dd.WSmZ.)
: ヨモツカミ (ID: 2ZbROfCM)
複雑ファジーで執筆している「継ぎ接ぎバーコード」の番外編のようなものになります。時系列的には多分つぎばが始まる前の話になりますが、本編を知らなくてもある程度楽しめるように書いたので、よろしくお願いします。
お前となら生きられる
(お題⑨)
この世界には、人間と殆ど同じ形をしていながら人間ならざる者達がいる。優れた身体能力。それから人知を超えた特異な〈能力〉を所持しているそれらを、ヒトは“バーコード”と呼んだ。
バーコードは人間に害をもたらす者として、駆除の対象──つまり、見つかり次第、殺される。生きることを許されない存在だった。
彼らバーコードの中には、突発的な“殺人衝動”に苛まれて、親しい間柄の存在だろうが他人だろうが、自分の本来の意志とは関係なく、猟奇的に殺す快楽に溺れてしまう者がいた。
そんな危険な存在であるバーコード達を狩ろうとする人間の軍隊が日々活動しており、バーコード達は自分らの正体を懸命に隠して、なんとか生存しようとする。
──そして、とある彼らもまた、哀れなバーコードという存在だった。
曇り空の色をしたくせ毛に、隈の目立つタレ目の目元。そこに収まる金色の双眸は、相方の男の顔を見ているようで、捉えていなかった。
「ねーぇ、このまんまじゃオレ、トゥールのこと殺しちゃうよ? いいの?」
上ずった声。金色の瞳を爛々と輝かせながら、その青年、クラウスが言う。
トゥール、と呼ばれた男を押し倒して、馬乗りになったままナイフを掲げたクラウスは、今にもその鋭い刃で、男の喉を掻き切らんとしていた。
自分の腹の上に跨ったクラウスを見上げて、トゥールは疲れたような目をした。トゥールもまた、バーコードであったが、こちらは〈能力〉の発動が随時解けないという、異質な体質を持っており、その体の至るところが深緑の鱗で覆われており、手足は恐竜の如く鋭い爪を携えていた。人間がそれを見たなら、彼を“バケモノ”と称しただろう。
「お前がそうしたいなら、構わない」
トゥールは諦念の篭った声で、弱々しくそう告げる。
クラウスがこうして殺人衝動に突き動かされることは、そう珍しくない。彼らが出会った日も、トゥールはクラウスに命を奪われそうになったのだから。本当は、トゥールはずっと前からこうしてクラウスに殺されてしまっても構わないと思っていた。けれど、クラウスがトゥールを殺すことを拒んだのだ。
「なにがあっても、オレに殺されないで」。それは、正気の状態のクラウスとの約束だった。大切な契だった。
それすらも破ってしまいそうになるほど、トゥールは疲れていたのだ。バーコード狩りから逃げ続ける生活も、無理に生きようと足掻くことにも。だから彼は、クラウスにナイフを向けられても、一切の抵抗をしなかったのである。
クラウスはナイフの歯先を指で優しくなぞりながら、そっと目を伏せる。長い睫毛の下から覗いた金色には、濁った光が燻っている。
「オレね、ずっとずっと、こうしてトゥールのこと殺すことばっか考えてたの。やっぱ大好きだからさ。喉を切り裂いてね? 手足をグサグサしてさあ、目玉抉りだしてー、あとは……なにしてほしい? ヒヒ、痛いのは嫌だ?」
「別に。痛みには慣れている。好きにしろと言っただろう」
こんな状態のクラウスとも、会話は成立するのだな。今まさに殺されようとしているのに、こんな思考をするのはあまりにも悠長だった。
クラウスが微笑む。顔立ちが整っているために、彼の笑みは天使のようですらあった。どこまでも純粋に、ちょっといたずら好きの子供のように。その瞳にドロドロと泥濘んだ光がなければ、幼い子どもの笑みそのものだった。
「オレ、トゥールのこと大好きだからね、トゥールの腹を裂いて、中身を丁寧に、丁寧に、細かく切って、どうしよ? 食べてみよっかな」
「腹を壊すぞ」
「キャハハ、やっぱそーぉ? 生肉食べちゃ駄目ってお母さんにも言われたもんな、火通してから食べるからだいじょーぶ!」
そういう問題では無いのだが。殺戮の衝動に乗っ取られていても、母親の言いつけを思い出せるものなのか。これまた殺される寸前の獲物の思考としては相応しくないものだ。トゥールは、自分が本気で殺される気があるのかと、少し疑問に思う。きっと、わからないのだ。想像がつかない。大切な相棒であるクラウスに、殺されるということが。
死ぬ覚悟はとうにできているはずなのに、彼に殺される瞬間が思い浮かばない。自分は本当に死ねるだろうか。
「なあクラウス」
トゥールが呼びかけると、なあに、と無邪気な子供のようにクラウスは微笑んだ。
「許してくれとは言わない。目が覚めたら、お前は約束を破った俺のことを恨むだろう。それでも、このままお前に殺されたいと思ったんだ」
クラウスは目を丸くした。驚いた猫みたいな顔をしている。トゥールは静かに右手を伸ばした。鱗に覆われて醜い掌でも、クラウスはそれを払い除けようとはしなかった。伸ばした手で、クラウスの頬を撫でる。
「俺を、許さなくていい。でも、自分のことを責めないでくれ」
「……とぅーる。ねえ、トゥール」
灰色の髪が揺れる。鋭いナイフが高く振り上げられた。
「だいすきだから、しんでね」
トゥールが目を閉じると、風を切る音がして、何か鋭利なものが肩を抉った。思わず痛みに呻く。だが、肩にナイフが刺さった程度では死ねない。
ぽつり。ぽつり。トゥールの頬に冷たい雫が垂れてきた。雨だろうか。ゆっくりと目を開けると、金色を潤ませるクラウスの姿が飛び込んできた。
「あ、ああ、とぅーる……」
声を震わせて、クラウスはナイフを取り落とす。ああ。正気に戻ったのか。殺人衝動が収まって、本来の優しい青年が戻ってきたのだ。
殺されようとしたのに。トゥールの思惑通りには行かなかった。
クラウスが突然掴みかかってくる。その手の位置が肩の傷口に近くて、トゥールは顔を歪めた。
「バカ! トゥールのバカ! お前、今オレに殺されようとしてただろ!?」
「……だとしたら、何だ」
「オレに殺されないって、約束したのにッ、なんでこんなことするんだよ、バカ!」
罵倒のボキャブラリーが貧弱すぎて、「バカ」くらいしか言えない彼を、愛らしく思う。いや、本気で怒っている相方に、こんなふうに思うのは間違っているな。
トゥールは確かに約束を破ろうとしたのに、あまり罪悪感が無かった。目の前でクラウスがボロボロと泣いている。殺人衝動に呑まれていたときに発言した大好き、は偽りではないらしい。だから大切なトゥールが命を大事にしないことや、クラウスに殺されようとしたことを本気で怒っている。
「バカバカ! ふざけんなよ、オレ、お前のこと殺したら、どうなっちゃうかわかんないよ、ばかぁ」
「だから、許さなくていいし、自分のことは責めなくていいといっただろう。全て俺の独断で、俺が勝手にすることだから、」
「そういう話じゃねーだろアホ!」
左手の拳がトゥールの頬を掠めた。あまり手加減されてない一発。口の中が切れて、口端からも血が滲む。未だに出血している肩の傷ほど痛みは無かったが、きっと攻撃したクラウスの感情の重さは違う。
「ばか。なんでこんなことしたんだよ。お前がいなくちゃったら、オレは……オレは」
「すまない」
「謝って済む話じゃねぇよ! なんで、オレがこんなにトゥールに生きてほしいって思ってるのがわかんねぇんだよ? どんなに死にたくなっても、お前なんか死なせねぇよ!」
言い切ると、クラウスは嗚咽を上げて泣き喚いた。雨のように、涙がぽつり、ぽつりと落ちてくる。
こんなに自分のようなバケモノを大切に思ってくれる存在がいるのに。トゥールはそれに気付いていながら目を逸らしていた。だから、殺人衝動に苛まれたクラウスに殺されようだなんて考えに至ったのだ。それがどれだけクラウスを傷付けることなのかだって、なんとなく理解していたのに。
「……クラウス。悪かった。本当に心からそう思う。もう二度とこんな真似はしないから」
許さなくていい、なんて言葉は。そのヒトに恨まれることを受け入れた気になって、己の罪を認めつつ、反省の色が存在しない。無責任で最低な行為だった。
「だから、許してほしい」
その声に、腕で涙を何度も拭いながら、不機嫌そうな顔で、クラウスは小さく頷いた。
「お前なんか死なせないし、オレだって死にたくない。バーコード狩りだろうが何だろうが、関係ない。オレらが生きてちゃ駄目だって言うなら、全力であがいてやろ。ほら。トゥールも、一緒にだよ」
優しく揺れる金色の双眸は、水面に映る月のようだった。ああ、自分はこんなにも必要とされていたなんて。今まで気付かなかったのだ。というよりも、知らないふりをしていた。
この世界で生きようとするなんて、バーコードには難しすぎる。それはクラウスも知ってるはずだ。しかし、どんな困難にあっても、生き延びるのだと。クラウスは無邪気に笑う。
この笑顔の隣なら、自分もまだ生きていてもいいような気がした。彼の隣なら、こんなに醜い自分も、生きることを許されたように感じたのだ。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.119 )
- 日時: 2020/08/13 15:54
- 名前: むう (ID: Yx86jfgA)
普段はハートフルコメディのようなものしか書いていないのですが、
今回は気持ちを切り替えて狂いたいと思います!(おい)
お題⑨ 「サガシモノ」
*******************
「あのぉ……」
ああ、無理だ。無駄だ無駄だ。
教員歴僅か2年、大学卒業と同時に都立の小学校就職。
こんなヒヨッコという可愛い単語ですら冷やかしにしか聞こえない、胸に毛が生えたような新人教師が夜の見回り当番をやらないなんて絶対だめだ。
今日は姉の出産予定日で、ついさっき姉の夫である義兄さんから「生まれたよ!」というメールを貰ったばっかりなのだ。パソコンに向かいながら明日の小テストを作っていた僕は、天を突き抜けるような喜びを感じた。
「あのう、川西先生、今日、日直変わってもらえませんか?」
「へ? あれ、今日日直は佐々木先生じゃないんですか」
「えっと、そうなんですけどぉ…ちょっと、用事がありましてぇ……」
へらへらと引きつった笑みを浮かべながら揉み手し、隣の席の社会担当の川西先生に代わりを頼んでみる。「うーん……。でも今日は生憎俺も……でもなぁ……」と、答えに悩んで悩みまくった結果、お人好しの彼は「よし、引き受けましょう」とニッコリ笑った。
「ホ、ホントですか? あ、ありがとうございますっ」
「あ、でもごめん。ちょっと生徒会室の前の落とし物ボックスの中身だけ点検してくれる? 最近ずっと、持ち物がないって困っている子が増えてきてね」
「ああはい。それくらい、大丈夫です。行ってきますね」
ここ、桜小学校には各教室前に落とし物ボックスが設置されてある。これは、昨年度の生徒会長だった6年の女の子が立候補する時に、『落とし物ゼロを目指す』ことを盟約したからである。
ささ、さっさと終わらせてかわいい赤ちゃんの顔を拝もう。
あの姉に子供が出来るなんて思ってもなかったなぁ。
あんなに大食いで自分勝手で自由奔放な姉さんが、よく結婚できたなぁなどという、その場に当人がいたらファーザーベッドだけでは済まされない内容を呟きつつ生徒会室へ。
部屋の前に置かれているボックスは、毎日きちんと生徒が掃除をしているのになぜかいつも埃が積もっている。埃を手で払って、僕は箱の中を覗き込もうとした。
その時。
「あ、あの、算数の、佐々木先生、ですよね」
「っ!?」
「あ、驚かせてしまってスイマセン。私、先日から教育実習をさせて頂いてる真野です」
「あ、ああ…どうも」
真野先生。美人で物腰も柔らかいので全校生徒から人気を集める。
いつも身に着けている黒いリクルートスーツがとても初々しい。
「で、何か用ですか? もうこんな時間ですが」
「ええ、ちょっと探し物をしてまして……。もしかしたらボックスの中に紛れているかもと」
「ははあ。……良ければ付き合いましょうか?」
恐る恐る尋ねると、真野先生の大きい眼がさらに丸くなった。
彼女は胸の前であわあわと手を振って、
「職員室で聞いたんですけど、先生大事な用事があるのではないですか?」
「大丈夫ですよ。姉も、人に親切にして遅れた弟を怒るような人ではないので」
「そうですか。ありがとうございます」
聞くところによると、真野先生の探し物は、とても大事な物だそうだ。
それは何なんですかと尋ねても教えてはくれない。
まぁ目の前に居るこの人は僕より年下だし、色々と秘密にしておきたいことも多いのだろう。そう考えて深く追及はしない。
廊下を二人で歩きながら、僕はその探し物について詳しく聞いてみることにする。
「失くしたら困るものなんですよ。何しろ長年ずっと愛用してまして…」
「へえ。文房具とかですか?」
「いいえ。大きさは、これくらい。30センチくらいですね。硬い感触がします」
カンカンカンと、僕と彼女の足音が響く。
「へえ。そんなもの……いったいどんなものなんですか」
「やわらかい感触がしますよ。持ってると安心しますね」
カンカンと、僕と彼女の足音が響く。
「………元々、ある人物に譲ってもらったものなんですけど、その人が余りに泣きながら渡してくださったので、大事にしないといけないなぁと思ってます」
ん?
意味深な言い方に引っかかるものを感じつつ、足を進める。
「………取扱いに気を付けないとすぐ腐りますからねぇ。いや、もう腐ってるか。部屋に置いとくと、匂いが凄いんですよ、いずれ自分もこうなりますけどね、未来が怖い。ふふふ」
……………嫌な予感がする。
「これを渡してもらうときに、先のとがったもので刃みたいなものでその人をちょっとつついたら、柔らかい所がパンッって弾けたんですよ。風船みたいに! それで動かなくなったから、ほしいとこだけ貰っちゃいました」
………………背中からひやりと汗が流れた。
この女は何を言ってるんだろう。いや、何を伝えたいのかはもうわかっていた。自分自身がそれを本当だと確かめたくないんだ。
不意に、彼女がこっちを振り向いた。その表情は満面の笑顔だった。美人がほほ笑むとこれはもう超絶スマイル。……ただし今は違う。その笑顔の裏に、どす黒い何かが貼りついている。
「……………コレクションがまた増えました~~~~~~~!!」
アイドルでも見るような感じで僕を見た彼女は、リクルートスーツの懐から『先のとがったもの』を取り出し、それで僕の『柔らかいところ』を突いた。
パンッと、本当に風船みたいな軽快な音が響き。
誰かの絶叫が響き、誰かの笑い声が響き、それはハーモニーになり、一向に止まなかった。
【END】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.120 )
- 日時: 2020/08/14 01:42
- 名前: 神崎慎也 (ID: NqCnte/U)
お題8
タイトル「幸せの景色」
今日も怒鳴られた。
トボトボと家路につく中年のサラリーマン中西 宏大(なかにし こうだい)は怒られているときのシーンを頭の中で何度もループしながら深い溜め息をついていた。
スーツはヨレヨレでネクタイも緩んでいる。その外見が彼の心理状態を表しているようだった。
中西が務めている会社はいわゆるブラック企業というやつだ。彼は上司や同期からパワハラを日常的に受け、後輩からも蔑まれていた。
借金もそこそこ抱えている。そのせいで、妻の千代(ちよ)にも期待されず娘の瑠璃(るり)は無理して笑顔を作るようになった。
そんな環境に数年も浸っていて無傷でいられるはずもなく彼自身、精神疾患を患ってしまった。
人の顔が見れない。
人の表情一つ一つが自分を貶しているのではないかと思い込む病だ。正式な病名は分からないが統合失調症に近いものらしい。
最近では会社の同僚の表情のみならず、すれ違う人や走る車、街の明かりなどとにかく目に映るものに恐怖を感じるようになってしまっていた。
いつしか、自分には視覚など要らないのではないか?いや、もはや自分という存在が……。などと考えるクセすらついていた。
いろいろ考え事をしながらしばらく歩いていたらいつの間にが自宅のアパートに着いていた。自分で言うのもなんだがボロいアパートだ。このアパートを見るたび、妻と娘に申し訳なくなる。
自室のドアの前に立ち深く深呼吸をしてからゆっくりとドアノブを握りドアを引く。
リビングの明かりはついていて寝室は暗い。瑠璃はもう寝ているのだろう。いつもの事だ。
リビングの食卓テーブルにはラップがかけられた夕食が並んでいる。彼が帰ってきたことに気づいたのか寝室から妻が出てきた。
「おかえり。」
「ただいま。」
「今日も遅かったわね。ご飯、自分で温めて食べて。」
「あ、ああ。」
そういうと妻は寝室に戻ってゆく。これがいつもの日常だ。家庭は冷え切り、一人暮らしよりも寂しさが立ち込める。
夕食を済ませノートパソコンを起動する。唯一の癒しはネットの中だった。
いつものように国内のニュースや匿名掲示板などを眺めているとき、所狭しと並ぶ広告の中の一つに目が留まった。
「ん。なんだこれ、景色を売りませんかだと……?」
その広告をクリックする。
映し出されたのは黒背景のいかにも怪しげなサイト。
中西は最初興味本位でそこに書かれていることを読み進めていった。
どうやらこのサイトは視覚の一部を提供することで現金にしてくれる施設を宣伝しているサイトのようだ。
「って、どういうことだ!?」
中西は理解が追い付いていなかった。
あまりに非現実的過ぎる。胡散臭いサイトだとは思っていたが、予想以上だ。こんなものが現実にあってたまるか。
どうやらその施設は近所にもあるようだが、すぐに行こう!とはならなかった。
中西はノートパソコンの電源を落とし寝室に向かう。
既に寝ている妻と娘の顔をチラッとみて自分の不甲斐なさを思い出しながらその日は就寝した。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.121 )
- 日時: 2020/08/14 01:46
- 名前: 神崎慎也 (ID: NqCnte/U)
「中西ィ。これもやっといてくれ。」
声と同時にズンッと辞書より分厚い書類の束が自分のデスクに叩きつけられた。
この上司は加藤。さっきもこの上司に怒鳴られたばかりだ。言ってしまえばコイツがイジメの中心核で、この息苦しいオフィスの空気感を作り出している張本人。
「やれるよな?中西。」
加藤はニヤニヤしながら投げかける。
「は はい……。」
中西は目を合わせないように俯きながら小さく答える。
「ほら!中西が仕事片付けておいてくれるってよ?今日もみんなで飲みに行こうぜ!」
「「「はーい!」」」
他の社員も加藤が恐いから従っているのではない。どいつもこいつも純粋に中西を毛嫌いしているのだ。あるいは一種の集団心理というやつか。
結局、加藤を含めた社員は全員オフィスから出ていった。
一人で書類を作成しているキーボードの音が孤独感を演出している。
時計は既に23時を回っていた。今日も瑠璃と会話はできないか。
四面楚歌の人間関係の中唯一味方してくれる娘だけが中西の支えでもあった。娘の為に頑張っているのだと心が折れそうになる度に自分に言い聞かせていた。
結局、仕事が片付いたのは午前12時過ぎ。元々どんなに丁寧に作ったところでやり直しさせられる書類だ。真面目に取り組むのも馬鹿馬鹿しくなり最後の方は結構雑に作ってしまった。
でもそんなことはどうでもいい。早く家に帰って瑠璃の顔が見たかった。追いつめられている立場ではあるが何だかんだで自分なりに幸せを掴みかけているのかも知れない。自分の努力次第では本当の幸せを掴むことも可能なのかもしれない。
いつもの帰り道、珍しく前向きなことを考えていた。
家に着くまでは。
アパートの近くに到着して最初の違和感。
「(あれ?明かりがついてない。)」
いつもならリビングの電気が付いていて外からも明りが見えるはずだ。しかし今日は利リビングの明かりも消えているように見える。
次の違和感。それは
「(鍵なんかかけて、どうしたんだ……?)」
いつもなら鍵が開いてる筈だが、今日はドアノブを交わしてもドアが開かなかった。
首をかしげながら合鍵で開錠して部屋に入が真っ暗だ。そして最後の違和感。
妻と娘の靴が無い。
「(……!?)」
慌ててまずは寝室に駆け寄る。誰も居ない。というか妻と娘の荷物もなくなっている。
「なんだよこれ!」
思わず口に出していた。
次にリビングへ。電気をつけてみるが、やはり誰も居ない。代わりに食卓テーブルには印の押された離婚届と一枚の置手紙があった。
『もうあなたとは一緒に生きていけません。実家に帰ります。さようなら。」
中西は膝から崩れ落ちていた。何故か涙は出ない。というか、心も何もかも乾ききっているようだった。
自分が何かしたのか。自分が悪いのか。努力すれば明るい家庭だって目指せると思っていた。でも、努力することすら許されないのか。
もう、何も見たくない。見える景色は全部怖い。
こわい。
そんなとき、中西の頭にあるものがよぎった。
"その景色、売りませんか?"
「ああ。」
これは運命だったのだろうか。
気づいたら彼は、サイトにあったその建物の前まで訪れていた。ここに来るまでの記憶はあまりない。
もうすぐ夜が明けるというのに支えを失った人間というのは何故か行動力が増すらしい。
目の前にあるのは廃れた4階建てのビル。そんなかに異様な存在感を醸し出す煽りの一文
"その景色、売りませんか?"
看板がピンク色なのが尚の事禍々しい。
半ば自暴自棄になって来てしまったが、やはり怪しさと胡散臭さが拭えない。
どうやらそれはビルの3階にあるらしい。ここまで来て予約の電話を入れていなかったことに気づいたが、そもそも予約制なのかそれすら分からなかったのでそのままビルの中に入っていくことにした。
ビルの内装もボロボロだ。人気も一切なく綺麗な廃墟といっても差し支えない。彼の目的の場所以外は店を展開していないらしく何もない。
階段を使って1階から2階そして3階へと登ってゆく。
登ってゆくにつれ自分が緊張していることに気づく。でも今更引き返そうとは思わない。ここがハズレだったらその時はもう身を投げてしまおうという覚悟が実はあった。
3階のフロアに着いた。緑色の蛍光灯がチカチカ消えたり点いたりして細長い廊下を不気味に照らしている。
事務室や会議室などの扉が並ぶ中、一番奥にあの看板が見えた。
蛍光灯の色とピンク色の看板が恐ろしくマッチしていない。異なる世界観の物を無理やりはめ込んだみたいな。
ゆっくりと歩み寄って扉の前に立つ。他の扉が全部白っぽいものだったのに対し、この扉だけレトロなバーみたいな濃い茶色の木製の扉だった。
扉にはopenの札がぶら下がっている。
しばらく扉の前で立ち尽くす。本当に開けてよいのだろうか。開けたら何が広がっているのだろうか。何かとんでもない世界に片足を突っ込んでしまうのではないだろうか。覚悟を決めていたはずなのに直ぐ揺らいでしまう自分に嫌気がさす。
深く1回深呼吸をしてからドアノブを握り目を閉じてゆっくりと扉を開ける。喫茶店のようなベルが鳴ったのが聞こえた。
ゆっくりと目を開ける。
目の前に広がったのはオレンジ色の照明に照らされた店内。向かって右側にはカウンターらしきものがある。そこに座っている女性と目が合うと女性は柔らかい笑顔を見せた。
取りあえずカウンターの方へ行ってみることにする。
女性は若い。受付嬢なのだろうか。スーツに身を包んでおり髪は肩まで伸ばしている。茶髪なのだが清楚な印象が崩れてない。
「いらっしゃいませ。お客様は当店初めてのご利用でしょうか?」
「は はい……! すみません。予約とかもしてないんですが。」
「大丈夫ですよ。予約は要りません。当店の利用が初めてという事でまずはこのシートに必要事項を書き込んでください。そちらの待合室でお願いいたします。」
「わ わかりました。」
そういうと女性はシートと鉛筆を手渡す。
女性が示した方向には確かに待合室らしきソファーが並んでいる。カラオケを連想させるソファーの配置だ。今は誰も座っていない。
取りあえず適当なところに腰かけシートに目をやる。
そこには簡単な個人情報を書く欄のほかに気になる項目があった。
「(いらないと感じたものや景色を記入してくださいだと……?)」
そう言われて真っ先に思いだしたのは上司である加藤の顔。
あいつさえ克服できれば取りあえず仕事に対する気持ちは大分楽になるだろう。
流石に上司のフルネームを記入する気は起きなかったので『上司の顔』とだけ記入した。果たしてこんなので大丈夫なのだろうか。
シートに記入が終わり受付に渡すと再び待合室で待機するように言われる。
こういうときどんな顔をしていればいいのだろう。というか、今自分はどんな顔をしているのだろう。
しばらく座っているとこちらに一人の男性がやってくる。
「大変お待たせいたしました。どうぞこちらへ。」
こちらも若い男性だった。眼鏡をかけ白衣を着ている。髪型も声を清潔感を感じさせるさわやかな印象の青年だ。
白衣の青年に誘導され奥の診察室のような場所へ入る。
そこは受付や待合室と同じくオレンジ色の照明なのだが薄暗い。床は絨毯素材。部屋はそこまで広くはなく中央には大きなリクライニングチェアが一代置かれている。
リクライニングチェアの近くにはたくさんのモニターが置かれた机と椅子が設置されており、リクライニングチェアとそのモニターは大量の配線で接続されていた。
「まずは、中央の装置に座ってください。」
「ええ……。」
リクライニングチェアを装置と呼んだことに違和感を覚えたが白衣の青年の言う通りリクライニングチェアに腰かける。
白衣の青年は中西が横たわるリクライニングチェアの側に立ち先ほど中西が書いたシートを見ながらやがて口を開く。
「中西さん 今回はご利用ありがとうございます。ここについてはどういった経緯で知ったのでしょうか。」
「ええと ネットの広告で……。」
「なるほど。その広告にもあったとおり、ここではお客様の見たくない景色を抜き取りそれを現金として換金するサービスを行っております。施術料は無料です。言ってしまえばお客様から提供された景色が施術料のようなものです。」
白衣の青年は表情を変えずスラスラと歌うように言う。
「施術内容については、こちらの装置をお客様の脳の視覚を司る部位と接続し特殊な処理を行うことでお客様が望んだ景色のみを不可視化させます。」
「そんなことが本当に可能なんですか……?」
「もちろん。景色を売るというと聞こえは悪いですが、立派な医療技術の賜物なのですよ。提供された景色は生まれつき視覚に問題のある患者へ移植されたり、研究機関へ送られます。中西さんの場合、上司の顔が見たくないという事なので上司の御顔が見えなくなります。明日からのっぺらぼうと話すような感覚になりますね。」
「それはまた……。」
「百聞は一見に如かずですよ。さて、そろそろ施術を始めましょうか。」
そういうと白衣の青年は大きな機械のようなものを取り出す。
それはゴーグルとヘルメットが一体となった装置だった。全体的に黒っぽくヘルメット部分からもコードのようなものが伸びていた。リクライニングチェアと接続されているようだ。
「それは、なんなんですか……?」
中西の不安を察したかのように白衣の青年は優しい笑顔を見せる。
「この機械を頭部に装着して希望の景色を抜き取ります。痛みなどはありませんので安心してください。」
そう言いながら手際よく中西の頭部に機械を取り付けてゆく。割とゴツい機械だったのに頭に付けてみると割とフィット感を感じるのが逆に不気味だった。
中西も特に抵抗などはせず大人しくされるがままになっていた。
「それでは機械の装着も終わりましたので施術を開始します。私はモニターの席から指示を出しますので従ってください。」
「わかりました。」
中西はゴーグルを装着されたまま仰向けになりリクライニングチェアに体重を預ける。視線の先にはオレンジ色の照明が付いた天井が見える。
白衣の青年はモニターの席で何かを操作しているのかカタカタとキーボードをたたくような音が聞こえてくる。
しばらくそれに耳を傾けているとやがて白衣の青年から指示が出される。
「それでは中西さん。まずはゆっくりと目を閉じてください。」
中西はゆっくりと目を閉じる。
「次に中西さんが不可視化させたい上司の片の御顔を強くイメージしてください。」
中西は加藤の顔を強く思い出す。
自分に説教を垂れる顔。いやみを言う時のニヤニヤした顔。自分に残業を押し付ける時の嫌なあの目。
日ごろ加藤の顔は嫌でも見なくてはならないが、こんなにハッキリと思い出すのは初めてかもしれない。
「中西さんの脳内に描かれたイメージが装置を通してモニターに送られてきました。今からこの景色を抜き取ります。ゴーグルが強く発光しますが怖がらずリラックスしていてください。」
この間中西は自分が眠っていたのか最後まで起きていたのかは覚えていない。ゴーグルが発光したところで中西の意識は薄れていった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.122 )
- 日時: 2020/08/14 01:48
- 名前: 神崎慎也 (ID: NqCnte/U)
「ハッ……!」
中西が目を覚ますとオレンジ色の照明がついた天井が見えた。しばらく呆然と眺めていると聞き覚えのある爽やかな声が滑り込んできた。
「中西さん。無事、施術は終わりました。お疲れさまでした。」
中西は声のする方に顔を向けるとそこには白衣の青年が立っていた。
「あのう、時間はどれくらい経ったのでしょう……?」
「今回は景色の指定が詳細だったので10分弱で施術は終了しました。抜き取る範囲によって時間は変わってきます。」
そう言いながら白衣の青年は中西の頭部からゴーグルの機械を外す。
「それでは今回の施術で提供された景色なのですが、10万円に換金させていただきます。」
「じゅ、10万……?」
「ええ。景色とは言え体の一部ですからね。これでも安い方ですよ。現金はシートに記載されている口座に振り込んでおきますので。」
中西は白衣の青年による説明を聞きながら正直、半信半疑だった。
これで本当になにかが変わったのか……?
施術前と施術後で違和感のようなものは特にない。もしかしたらデタラメなのかもしれない。
でも、10万円が貰えるなら特に詐欺という訳でもないし寧ろ、こちらは何も損はしていないのも事実だ。
「あ、有り難うございました……。」
結局あれ以上青年からは説明もなくカウンターの女性に軽く会釈をして施設を出た。
そのままビルの外に出てみると、もう夜が明けていた。スマートフォンで時間を確認すると午前3時過ぎ。
帰ってもあまり寝る時間は残されてないだろうが、まっすぐ職場に向かう気も起きなかったのでタクシーを使って家路についた。
自室に戻ると午前4時。今からでは3時間ほどしか眠れないだろうがそれでも、寝ないよりマシだった。
家にはやはり誰も居なかった。食卓テーブルに置かれたままの離婚届をなるべく見ないようにした。一人で寝るには広い寝室に向かい、スイッチが切れたように眠りに入った。
オフィスに響く怒号。
聞き慣れた加藤のものだった。
やはり昨晩てきとうに片付けた書類がまずかったらしい。
加藤がデスクにふんぞり返り、中西がその前で立ち尽くして説教を受けるいつもの光景だ。
しかし、いつもと違っている事が1つ。
それは加藤が説教の最後に付け加えた一言。
「でもまあ、お前にしては珍しく"きちんと俺の顔をみて話を聞くようになった"のは良い志だな。続けろよ。」
「は、はい!」
説教が終わり、自分のデスクに戻ってきた中西。
彼は酷く困惑していた。
「(なんなんだよこれ……。本当に、こんな事が……!)」
中西には加藤の顔が一切見なくなっていた。
それは昨晩、白衣の青年が言ったように本当にのっぺらぼうと会話をしているような。
ぼやけているのではなく、顔にパーツが付いていないような。
今の中西には加藤の顔がそういう風に映るようになっていた。
その後も。
「今日も中西が仕事やっといてくれるってよ。今晩も飲みに行こうぜ!やってくれるよな?中西。」
「そんな、意地悪なこと言わないでくださいよ~!」
中西が言ったその瞬間、今までガヤガヤしていたオフィスの話声がピタリと止んだ。
オフィスの人間が皆、中西に視線を向けている。それは「よく言った!」という称賛の眼差しではなく「調子乗るな!」の類であることは中西自身良く分かった。
無言の加藤もこちらに顔を向けているが、どんな表情をしているかは分からない。
中西が感じたのは刃物よりも鋭い視線が一度にたくさん向けられたことによる圧倒的な恐怖。加藤だけが天敵というわけではないのだ。
「し、仕事、やっときます……。」
「らしいぞ?今夜もぱーっと行こうぜ?中西以外で。たーはっはっは!」
「「「あははは!」」」
結局、いつもの自分に戻ってしまった。
甘かった。加藤さえどうにかなればいいと思っていた。
「(もっと消さないとダメだな……。)」中西は心の中で強くそう思った。
残業を終わらせた中西はまっすぐ家に帰ることなく、あの場所へ訪れていた。
オレンジ色の照明に照らされる待合室には今日も自分以外誰も居ない。意外と人には知られていない場所なのだろうか。
寧ろ都合がいい。ここに来ているところをあまり人には見られたくなかった。
「中西さん。お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」
あの白衣の青年がやって来た。その顔には謎の安心感があった。
診察室に案内された中西は部屋の中央にあるリクライニングチェアに腰を掛ける。
「中西さん。2回目のご利用ありがとうございます。今回は職場の同僚3名の顔を消してほしいという事ですね。」
「ええ。お願いします。」
「かしこまりました。では、施術を始めます。」
そういうと白衣の青年は慣れた手つきでヘルメットを中西に装着する。今回は初回よりもスムーズに施術が進んだ。
「それでは消したい3名の同僚さんの顔をイメージしてください」
モニターを操作しながら指示を出す白衣の青年の声を聞きながら目を閉じてイメージする。
今回消すのは特に加藤の息がかかった3名の同僚だ。消すといっても顔が見えなくなるだけだ。自分は何も悪いことはしていない。
そう言い聞かせながらゴーグルの発光と共に意識が薄れてゆく。
「中西さんって最近、加藤さんに馴れ馴れしくないですか?」
「わかるー!ちょっと調子のってるよね?」
「リストラが恐いんだろ?無駄なのになー」
それがワザとなのか、それとも単に無神経なのかは定かではないが、どちらにせよ自分の愚痴を目の前で大きな声で言われているという事は分かった。
以前の中西なら俯いてやり過ごそうとしたかもしれない。
しかし
「あのう、聞こえてますよ?せめて声のボリューム落としましょうよ。」
面と向かって言えた。
言われた3人は互いに顔を合わせるような動きを見せると、まだ何か言いたげにブツブツと呟きながら仕事に戻っていった。
言うまでも無いが、今の中西には先ほどの3人の顔は見えていない。
注意を受けた3名は今も意味ありげなアイコンタクトを取っているのかも知れない。でもそんなことは中西には知る由もない。
言いたいことが言えるというのはなんて幸せなのだろう。
中西は紛れもなく多幸感を得ていた。彼自身の人格にも積極性という良い変化が出ているようだ。おまけに金も振り込まれる。これ以上の幸せは無かった。
ただ、一つ厄介なのが。
「中西さ~ん。そんな強く言わなくてもいいんじゃないですか~?」
「そうですよ、かわいそうですよ。」
中西を直接的な標的として煽って来る社員が増えた事だ。
「(ああ。今日はアイツらを消すか。)」
中西は今日も明日もその次も
あの場所へ訪れて。
景色を売り続けた。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.123 )
- 日時: 2020/08/14 01:50
- 名前: 神崎慎也 (ID: NqCnte/U)
何人もの顔を不可視化した。顔だけじゃ飽き足らずその人の姿そのものを消したりもした。
顔を見なくていいというのは確かに中西の人生を好転させる材料になりえたかもしれない。しかし、度が過ぎてしまった。
オフィスには様々な声が行き交ってひとりでにキーボードが動いたり書類がヒラヒラと宙に浮いて上司のデスクへ運ばれていったりと、とてもシュールだった。
中西は仕事に関わる人間の姿を何も見ることが出来なくなっていたのだ。
そして、そこからは早かった。
ある日いつものようにオフィスに入ると自分のデスクに知らない男が座っていた。
オフィスの人間は誰も見ることが出来ないはずなのに見えるという事は?
「中西。もうお前の席はないぞ?邪魔だから帰れ。」
どこからか聞こえてくる加藤の声。
俺のデスクに座っていたソイツは俺の方を見ると、呆れたような笑みを見せたのだった。
ドンドンドン!!という大きな物音で目が覚めた。
ドアを強く叩く音だ。
「中西さーん?借りてたもんはきっちり返しましょうよー!」
「いるの分かってんぞ!」
ドアの前に居るのはグラサンでスーツでガラの悪い男たちだろう。
会社をリストラされ視覚を売ることで食いつないできたが流石に無理があった。
もちろんの事、グラサンの男たちも中西には見えない。そういうのは真っ先に売って金にした。
それでも生活していくのがやっとで借金を返す余裕などなかった。
しばらくすると男たちは堪忍したのか飽きたのかドアを叩く音と声が止んだ。
リストラされてからどれくらい経ったのだろう。時間感覚がハッキリしない。
中西は妻と娘が去ったあとの寂しさが滞留する自室の床に座り込み呆然と考える。
そもそも景色を売ることで自分は何を得たのだろう。最初の頃は確かに好転したように見えた。上司や後輩に言いたいことが言えてそれなりに心も充実していたはずだ。
それなのに。
会社をクビにされ借金取りに脅される毎日。見えなくなることなんて、やっていることは現実逃避だ。
ここにきて中西は自分のしてきたことを悔いていた。今更ながら売った景色を返してほしいなんて思っていた。
「(もう、あそこへ行くのは止めよう。目の前の現実を受け止めて生きて行こう……。)」今自分に出来ることは、とにかく職を見つける事。ならまずは、外へ――。
しかし。
プルルルルルと中西が今まさに立ち上がろうとしたその時、一本の電話が鳴った。
電話が鳴るなんて何日ぶりだろう。というか誰だろう。恐る恐るといった感じで受話器を取って耳に当てる。
「あ、あなた……っ!? 大変なの! あのっ!る、るりが……っ!」
聞き覚えのある声。でも、聞いたことない位その声は震えていて。
「千代……? 瑠璃が、どうしたんだ……?」
「地図スマホに送るからっ!とにかく今すぐ来て!!」
そういうと電話は切れてしまった。直後、スマホに示された場所は、中西を凍り付かせるには十分だった。
「病院……!?」
中西は家を飛び出していた。なけなしの金を握りしめタクシーを止めて病院へ急行した。
息を切らしながら教えられたとおり、娘の病室の前に着きスライド式のドアをゆっくりと開けた。
目の前に現れたのは小さく肩を震わせてベッドに寄りそう妻の後ろ姿。そして。
見たことも無いような器具とおびただしい数の管でぐるぐる巻きにされた娘の姿だった。
気づいたら中西は自分が娘のベッドに駆け寄っているのが分かった。
人工呼吸器を付けた娘は目を閉じている。涙ながらに千代は声を発した。
「学校の帰り道、信号を無視した車にはねられたの……。」
「そんな……っ! 瑠璃は治るのか?無事なんだよな!?」
中西はたまらず千代の肩を揺さぶっていた。千代は悲しげな顔で目線を反らして言う。
「今すぐにでも大きな手術が必要なんだけど、お金が無いの……。
金。そんなもの中西だって喉から手が出るほど欲しかった。
仕事をリストラされてろくな収入などなかった彼には一度にまとまった大金を用意するなんて出来るのか。
「(いや、一つだけ方法がある。アレに頼れば、)」
思いついて少し自分が情けなくなる。
「(結局、俺はあの場所に縋るんだな……。でも、今はこれしか手段がない。変わるって決めたもんな)」
「分かった。金なら俺が何とかする。」
「えっ……? あなた、本当に……出来るの!?」
「任せろ。俺の口座に振り込んでおくから使ってくれ。」
「そんな大金、どうやって……」
千代が何か言いたげだったが中西はそれ以上聞かなかった。代わりに娘の顔を見て決意を固めると、そのまま飛び出すように病室を後にした。
ひたすら走った。もうタクシーに乗れる金など無かった。
苦しくても、足が痛くても、とにかく前へ。
しばらく走ってフラフラになりながら目的地に着いた。
その建物は、もう何度も見てきた4階建ての廃ビル。そして、"その景色、売りませんか?"の看板。
もうここには来ないって決めた矢先にあんな事が起こるなんて。これは神様の悪戯というやつなのだろうか。
迷わず中に入って店内へ。レトロなバーを連想させる扉を開けると、やはりいつものように受付の女性が笑顔を見せる。何故かこの時、ちょっと救われたような気持ちになった。
心を落ち着かながら待合室にいると、白衣の青年がやってきた。
「中西さん。それではまいりましょうか。」
案内されて入った診察室も何度も見てきた景色だ。
そして中西は告げる。
「俺の視覚を全て売ったらいくらになりますか。」
白衣の青年は機器の準備をしながら答える。
「すべてとなると、宝くじの一等の倍の額は確実かと。」
「そうですか……。なら、俺の視覚を全て売ってください!」
白衣の青年の動きがピタリと止まり、こちらに顔を向ける。
「本気でおっしゃっているのですか?」
「当たり前です。その為に、俺は此処へ来たんです!」
白衣の青年は何を考えているのか、怪訝な顔でしばらく無言になった後こう答えた。
「分かりました。しかし、すべての視覚を抜き取った後、脳に何らかの障害が発生する可能性があります。そこは自己責任という事でご理解頂ければ幸いです。」
「覚悟の上です!」
「そうですか。承知いたしました。ではこれより施術を始めます。」
白衣の青年の手によってヘルメットが付けられる。それはいつにもまして重く感じるのは何故だろう。
白衣の青年はいつものようにモニター操作へ移る。
「それでは中西さん。目をゆっくりと閉じてリラックスしてください。今回は視覚そのもの除去という事で特に何かをイメージする必要はありません。とにかくリラックスしていてください。」
中西は青年の声を聞きながらぼんやりと考えていた。視覚が無くなるとどうなるんだろう。妻や娘の顔は見れなくなってしまうのだろうか。
なら、俺は今何のために体を張っているのだろう。いや、家族の為に決まっている。
今自分が初めて父親らしいことをしてあげられているように感じた。
ゴーグルが強く発光して中西の意識は間もなく薄れていった。
「中西さん。体起しますねー?」
元気な女性の声。
体を支えられながら上半身を起こす。周囲は消毒用アルコールの匂いが充満している。
どうやらここは病院らしい。しかし、目は開けても閉じても真っ暗だ。
「中西さん。今日は面会にいらしてるみたいですよ?良かったですね!」
面会?なんの話だろう。
中西にはこれまでの記憶が欠如してるようだった。もう目は完全に見えていない。
「面会が終わったら、今日もリハビリ頑張りましょうねー!」
いうだけ言うと元気な女性の声は部屋から出て行った。
しばらく呆然とベッドに体を預けていると、なにやらガラガラとドアを開ける音が聞こえた。さっきの元気な声の女性看護師かと思った中西だったが、
「パパー!」
その声は、綺麗なソプラノだった。そして、なによりも。
聞き覚えのある声だった。
声の方向が定まらない中西が首を動かしていると胸元から肩にかけてバサッと抱きしめられた感覚がした。
その温もりはとてもやさしくて、懐かしいものだった。そして、この温もりも知っている。
何が何でも守りたかったもの。
遅れて病室に入ってきたもう一人の声。
「あなた……!」
この声も、知っている。この二人の名前は、確か。
「瑠璃……、千代……、」
自分の声が思いのほかか細くなっていたことに驚いた。声はちゃんと届いただろうか。
漆黒の視界なのに、なぜか自分の目からは涙がこぼれていくのが分かった。
「ねえ、あなた。私たちまたやり直せないかな。やっぱり私も瑠璃も、あなたが必要よ……?」
千代の声は少し震えていた。瑠璃も泣いているようだった。
記憶が徐々に鮮明になってゆく。
ああ。あの時、離婚届に印を押さなくて良かった。こうして、再び幸せを掴むことが出来た。
「そうだな。やり直そう……!」
千代は今どんな顔をしているのだろう。瑠璃も、今どんな顔をして俺に抱きついているのだろう。中西はそれが一番知りたかった。でも。
「(そうか。俺には、もう、)」
「なにも、見えないんだ。」
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.124 )
- 日時: 2020/08/14 01:52
- 名前: 神崎慎也 (ID: NqCnte/U)
4レスに渡って書きました。今回はきちんと完結させたつもりです。クッソ長いですが読んで感想を聞かせてください
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.125 )
- 日時: 2020/08/14 16:01
- 名前: 鈴乃リン◆U9PZuyjpOk (ID: cML/SVOY)
お題⑧ 『視力検査』
「やだな、視力検査…………」
「ほらほら、浮かない顔しないのっ!るあ!」
私の大嫌いな視力検査が、今日の三時間目に迫っていた。
横で励ましてくれる深雪は、メガネを掛けていない。
そういう私は、三つ編みに丸メガネ。
地味、ってよく言われる。
声も小さいし、いっつも顔が暗い。
でも深雪は、小学校の頃から、明るくて、皆の人気者。
私はいつも、そんな深雪に憧れている。
「はーい、視力検査始めるぞー。」
出席番号順に呼ばれて、黒いスプーンみたいな物を左目に当てていく。
私は苗字が『石川』だから、出席番号が早い。
前の子の検査が終り、遂に私の番になった。
「次、石川。」
ぶっきらぼうに名前を呼ばれ、私は立ち上がった。
私は先にメガネを掛けた時の視力を先に測り、その後メガネを外して測る。
メガネ外す時が、私は一番嫌い。
「じゃあ、メガネ外し………………」
先生の声が止まった。周りの皆がざわめき出す。
「あれが、石川さんなの……?」
「…………なんできょとんとしてるのよ……メガネ無しの方が、美少女なの、るあが視力悪すぎて鏡で自分の顔見えないから、知らないのに……」
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.126 )
- 日時: 2020/08/14 17:20
- 名前: Thim (ID: f93DK3Yc)
全然顔を出さなくてごめんなさい。課題が、課題が……!
「小夜啼鳥と」についても、お待たせしてしまってすみません。沢山コメント頂けて嬉しかったです。それを糧に頑張っています!もう暫く、もうしばらくお待ちください……!!
そして皆様のSSへの感想も投稿していきたいと思います。皆さんのように頭良さそうなやつじゃない、おバカな感じの感想です。
解釈違いを起こしていたらごめんなさい!その場合は「ここはそうじゃないですよーこうですよー」と教えていただきたいです!
サニ。さん
>>6
あっ、あっ。わかんないけどすき……。語彙力乏しくてごめんなさい。でも雰囲気がとても好きです。
きっと“私”は“あの子”の事を友達として好きなんだなと思いました。恋とかではなく、ただの友だちとして、一定の感情を持っていて、ちゃんと友達の事を好きだったのに、その友達は自分が好きなあの子じゃなくなってしまった?解釈が間違っているかもしれませんが、不穏な感じ、好きです。
>>9
タイトルのたをやめとは『手弱女』ですかね?お嬢様学校って舞台がもう好きです。そして王子と王女好きです。あー!いけませんいけません!禁断の花園ーー!好きぃぃ!!
ヨモツカミさん
>>10
そうです!オスカーさんです!オマージュ出来ていて良かったです~。必ず完成させて見せます!本当にお待たせしてしまってごめんなさいっ
>>25
はじめて悪い事をした普段は良い子のおショタと、恐らく彼より年上の自分のすべてが毒になってしまって、誰かと触れ合う事が出来ない浮世離れした美少女。おねショタやぁ!ひぇぇ!えっちやぁ!(褒めてます)
ノエルくんがんばれ!毒に耐性をつけるか、完全防護服でいくか、何でもいいけどどうか、どうかがんばれ!
12さん
>>11
天才作家のすずめ先輩と、『毒にも薬にもならない人』だった三葉さん。三葉さんはすずめさんと出会わなければ、すずめさんを遠くから見つめる一人のままだったら、三葉さんは自ら毒になろうとせず、すずめ先輩が言った通りのままの人生を歩んでいたのでは?と思いました。そう言った関係、好きです。
>>13
そうです!ネタバレと言っても大体あれの通りです。宇宙猫(笑)
ありがとうございますー!ナイチンゲールは恋に恋する少女といったイメージで書きました!雰囲気が好きと言って貰えて本当にうれしいです!
がんばります!
心さん
>>14
ちゃんと一人称書けているでしょうか!?それならよかったのですが、私も苦手なので書きながらがこれで大丈夫なんだろうかと悩んでいました(笑)
是非読んでみてください!
私も心さんのSS読みたかったんですが、元ネタの方を読んでからの方が良いのではと判断したので、宵はく(ですよね?)を読んでから、再度読みたいと思います!すみません!
>>24
納得できないよね。そんな説明されても……。ダメって言われる事をする背徳感とか、それを隠れてする少女たちの姿を想像するともう……ウッ!
向日葵の花言葉を調べて色々ありましたが、「憧れ」「あなただけを見つめる」「程よき恋愛」「悲哀」「偽りの愛」「高貴」「愛慕」。アサガオの花言葉を調べても「はかない恋」「短い愛」「貴方に私は絡みつく」「固い絆」「愛情の絆」って出てきて、花言葉はかけてないのかもしれないけど、勝手に想像してしまってウッ……ウッ!(絶命)
ひがさん
>>16
あっ、あっ。やみぶか幼女とその子をかくまっていた男の人。ひぇっ。雨のお陰で彼の言葉を聞くことはなかった。だから呪いにも鎖にも茨にもならなかったと言うけれど、むしろ聞こえなかったからこそ彼女を縛り付けるのでは?
恋ではない。愛のようで、お互いに大切に思っていたことは確かなのに、ちゃんとそれを彼女が理解できる前に無惨にも引き裂かれてしまった。何でこんなことになるのぉ。上司のあほー!ってなりました。好きです。
ずみさん
>>17
ぎゃあ、好きです!特に好きなのは「もしも今この手に、君の感覚が残っていたとしたら~」の部分です。愛憎、どちらの感情を自分が持っているのか分からない。わからなくなっているけれど、でも相手にそれほどの強い想いがあった事は確かだという事が分かって、凄く好きです。好きです!
海原ンティーヌ
>>18
雨じゃなくて飴。何が起こっているのかわかってない“俺”さんに対して、嬉しそうに「拾いに行こうぜ」というお友達。えー!可愛いー!男の子って感じで可愛くて好きです!
かるたさん
>>19
はじめまして!ありがとうございます。コメライの方も現在停止中ですが、また落ち着いたら再開しようと思っています!
ひゃ~、童話風にしようと心掛けていたのでそう言って頂けて嬉しいです!そうなんです!恋に狂っている感じを出したくて頑張りました!
元ネタも非常に素敵なのでぜひ読んでみてください!
>>31
あの日を思い出してからの、お迎え!そして小さい頃に泣きながらお兄ちゃんを探す妹さん、可愛い……。普段から喧嘩ばかりしていて、お互いに素直になれないけど、でも確かにある兄妹の絆。素敵です!
この兄妹はお互いに恋人ができたらお互いに恋人をめっちゃ審査していそう(偏見)。好き。
スノードロップさん
>>22
最初人の事ぼろくそに言ってきてなんだこらてめー!って感じでしたが、最後でお前だったのかー!ってなりました。未来の自分も昔、今の自分のように未来の自分が来てくれたのかな?今の自分も将来成長したら過去の自分の所に活を入れに行くのかな?ハリ○タかな?
個人的に人間から神様になるって部分が、日本の神話みたいで好きでした!
>>29
双子の兄弟(?)の名前に雨がはいっているから、雨を通してその兄弟を見ているのか。それとも本当に兄妹が雨になって慰めに来てくれたのか。ウッ、尊い兄弟!
文字数2000超えたので一旦投稿します。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.127 )
- 日時: 2020/08/17 20:22
- 名前: ヨモツカミ (ID: cqzh0jfs)
>>124神崎慎也さん
絶望感とか、日常の辛さがよく伝わってくる描写で、ちょっと読んでてしんどかったです。ひどく追い詰められていて、精神疾患まで患って頑張っているのに報われない主人公。陰湿な会社でのいじめ。これが割とありえるから笑えないんですよね……。
内容は世にも奇妙な物語みたいな内容で楽しかったです。小説書くのは初めてと仰ってましたが普通に上手いなと思います。
そして最後は最愛の娘のために体を張って、なんとかやり直すことができた。メリーバッドエンド、なのかな。どうにも報われきらなくて辛いお話でしたがぶっちゃけ好きですね。大変面白かったです!
私は作品を読むときはストーリー性重視なのですが、描写も問題ないと思うので、磨けばめっちゃ上手くなると思いますよ。また上からはコメントをしてしまってすみません。でも応援しております。
>>126てぃむさん
続き楽しみにしてるので……ご自分のペースで大丈夫なので、まってますね。
毒のやつ感想ありがとうございます。おねショタは正義ですよふへへ。
私は悲しい結末が好きなので、二人がいい感じの関係になれることはないんじゃないかって思ってます。孤独な毒の娘と、彼女にわだかまりを残したままのノエル。そんな二人もまたいいんじゃないかって。
ひっそり死ぬ娘と、やがて彼女を忘れて大人になるノエル。それが私の理想だったり。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.128 )
- 日時: 2020/08/25 17:34
- 名前: ヨモツカミ (ID: iYPK3NeA)
朱夏、残響はまだここに
④寂しい夏
大人になって、夏が来るたびに、またあの日々を思い出してしまうのだ。
友人たちに囲まれながら、僕は小さく笑って。そうして静かに語りだした。大切な宝物を、小さな箱に収めるときのように、丁寧に。
小学生の頃。僕の夏休みは田舎のおばあちゃん家で過ごすものだった。忙しい両親には普通の日も夏休みも関係なかったのだ。親の帰ってこない家で一人寂しく過ごすよりは、田舎の自然に囲まれたお婆ちゃんの元にいた方がいい。毎年そうしてきたから僕にとってはそういう夏休みが当たり前で、東京で両親と過ごせないことについては特に何も感じなかった。
そうして、毎年共に夏休みを過ごす友達が、いたのだ。
「キョウ、また会えたね! 遊ぼうぜ!」
「誰だ、お前」
怪訝そうな顔でそう言う彼を見ては、胸が締め付けられるような思いをする。だけど僕は、彼の前ではずっと笑顔でいたかったのだ。
「アサだよ。この夏もよろしくね」
キョウは目を瞬かせていたが、まあいいか、というように笑って、僕の手を握る。
毎年、僕らの夏はこうして始まるのだ。
まずは川で遊んだ。冷たい水に足を突っ込んで、泳いでいる小魚を追いかけ回した。キョウは服が濡れるのを嫌がっていたけれど、結局最後は二人とも全身水が滴るほどビショビショになってしまうまで遊び尽くすのだ。
捕まえた小さな魚の入ったバケツを覗いて、これはなんの魚だろうとふと疑問に思う。キョウが、ヤマメだよと教えてくれた。
「ほら、この側面の水玉みたいな模様が特徴的だろ。ちなみに、ヤマメは食べると美味しいよ」
「ホント? じゃあコイツ食べようよ」
「こんなちっこいの駄目だよ、こいつがもっと大きくなったら食べるんだ。だから、これは逃がす」
キョウに言われた通りにバケツの中身を川に流した。ヤマメが泳いで見えなくなるまで二人で見送る。
「……明日も遊ぼうね、キョウ」
思い出をできるだけ沢山作らないと。そんな思いから、少し焦りながら彼を誘う。キョウは笑って頷いていた。何も知らないから、そんなふうに笑えるのだ。同じように笑えないことに、チクリと胸がいたんだ。
今度は神社で虫を取った。お婆ちゃんの家から借りてきた虫取り網と虫かごを持って、木の幹にいるセミを乱獲する。キョウはセミを気持ち悪がって触れなかったので、彼の顔に虫を近付けては本気で怒らせたりなんてしてみて。
口を聞いてくれなくなったキョウを置いて、近くの駄菓子屋に走って行って、ラムネを二本買う。よく冷えたそれを持ってキョウの元に戻ると、彼は目を丸くして、それから呆れたように笑うのだ。
「許してやる」
「それは良かった」
彼がラムネを大好きなことは知っていた。中身のビー玉を集めるのが楽しいらしい。神社のよくわからない祠のそば、木陰で涼しい石畳に並んで座り込んで、二人ラムネの瓶を傾ける。冷たくて、シュワシュワした甘味が口の中を満たしていく。
「はー、やっぱラムネって最高だなあ」
瓶を握るキョウの笑顔が眩しくて、僕は少し目を細めてそれを見ていた。また、瓶を上に傾けて中身を煽る。青く透き通った瓶の中でビー玉がカラン、と音を立てた。去年も同じように神社の木陰でラムネを飲んだ。だから去年と同じように、瓶の中のビー玉はキョウにあげることにする。差し出された硝子玉を見て、彼がはしゃぐのが嬉しかった。
夕方になると、キョウは燃える空をビー玉越しに覗いた。
「すっげえ。真っ赤だ。アサも見てみろよ」
渡されたビー玉の中を覗くと、雲も空も、沈んでいく太陽に焼かれて茜に色付いていた。わあ、と思わず声が漏れる。遠い街に沈んでいく光が、こんなにも綺麗なんだ。
「そうだ、アサ。夕陽が赤い理由って知ってるか」
キョウが得意げな顔をしながら、不意にそんなことを言い出した。小学生の僕は、知らないことが沢山ある。でも、その理由は知っていた。知っていたのに、キョウの口からそれを聞きたくて、知らないよと答える。そうしたら、彼が嬉しそうに教えてくれるから。
「沢山ある光の中で、赤い光が一番遠くまで届くんだ。だから、夕陽は赤く見える」
「じゃあ、僕にとっての夕陽はキョウだね」
「……なんだそれ」
怪訝そうな顔をするキョウに、僕はただ笑いかける。悲しくて少し歪んだ笑顔になってしまったけれど。なんでもない、と告げた声が掠れた。
「もう帰る時間だ。また明日遊ぼう」
お互いに手を振って、夕焼けの中、別々の方向へ歩いていく。そういえばキョウはどこに住んでいるのだろう。一瞬足を止めて、彼の後ろ姿を見る。
でも、なんとなく怖い感じがしたから僕は走っておばあちゃんの家に帰った。
次に遊ぶときは家に誘って一緒に宿題をした。おばあちゃんが入れてくれた麦茶を飲み干して、窓から吹き付ける風で鳴る風鈴の音を聞く。
算数をしていたキョウが、問題につまずいているので、僕が教えてあげた。去年は確か、キョウが教えてくれていたのにな、なんて。僕がわからない問題を教えてくれる人がいなくなって、自力で解くしかなくなっているのは、中々辛いことだった。
二時間くらいは真面目に宿題に取り組んでいたと思う。少し冷たい風と風鈴の音。それからオレンジ色の光が眩しくて、僕は目を覚ます。
「……あれ」
どうやら僕らはいつの間にか眠っていたらしい。麦茶の中に浮かんでいた氷もすっかり溶けて、コップの中身を飲み干してみれば、気温と同じくらいに温まっていて、全然美味しくなかった。
「キョウ、起きて」
彼の体を揺すると、だるそうに体を起こして、目を擦る。全然宿題進まなかったねと笑いかけると、彼は算数のプリントを僕の顔の前に突きつけてきた。……ほとんど終わっている。
「お前が飽きて寝ちゃったあと、俺は真面目にやってたんだよ」
「うわ、ひどーい。なんで起こしてくれなかったの!」
「俺も眠くなったから、一緒に寝ちゃおうと思って」
へへん、といたずらっぽく笑う顔をみて、僕は頬を膨らます。まあいいか。宿題は程々に。僕ら小学生は遊ぶことが仕事だ。おばあちゃんもそう言っていた。本気で宿題に行き詰まったら、大人を頼っていいよと。僕に対して甘いおばあちゃんにそう言われていたのだから、素直に甘えてしまうだろう。
「もう遅いから、帰るよ」
キョウが荷物をまとめて去っていく後ろ姿を見送った。また明日ね、と声を掛け合って。本当に明日も会える確証なんかないけれど、まだ夏休みは終わらないから。
そうやって、来る日も来る日も遊んだ。
一緒に夜の森に入って捕まえたカブトムシ。相撲をさせて、どっちのほうが強いかなんて競い合った。
おばあちゃんの畑の手伝いをした帰り、畑で取った大きなスイカに、二人で夢中で齧り付いた。
ツチノコを探して山を駆け回った日もあった。見つかったのは全部普通の蛇だったけど、僕もキョウも、ツチノコの存在を信じて疑わなかったし、その日は見つからなかっただけだと言い聞かせた。
海に行った日もあった。浜辺で拾った貝殻は、夏休みの工作に使うことにして。僕はその日初めてナマコを触ったのだけど、あれは気持ち悪かったな、なんて。
家に帰れば日めくりカレンダーを一枚、また一枚と剝がしてゆく。明日を心待ちにしながら宿題の絵日記を書いて、でも夏が着実に終わりを迎えていくことに、確かな不安を覚えた。
夕暮れの茜に混じって、赤トンボが飛び始める頃。遠くの山からはヒグラシの鳴き声が物淋しげに響き出す。夏休みもあと少し。
近所のヒマワリ畑を観たときにハッとした。あの大輪は、頭が成長しすぎたせいなのか、みんな病気の患者みたいに項垂れて萎れている。僕は、何故かこの光景をよく覚えていた。
「夕方は結構涼しくなってきたよな」
キョウが何気なく呟く。夏がもうすぐ終わるのだ。
「アサがここにいれるのって夏休みの間だけなんだろ。ちょっと寂しくなるなあ」
キョウは萎れたヒマワリを見上げながら、そっと口にした。僕だって、寂しくてたまらない。だけどもう、そんなことを言ったって仕方がないのを知っていた。
鼻のあたりがツンとして、熱いものが込み上げて来る。僕だって、寂しいさ。言えない。言えないよ。
「おいアサ、聞いてるか」
「聞いてるよ、キョウより僕のほうがずっと辛いんだから、当たり前じゃんか!」
急に声を張り上げたから、キョウはちょっと目を丸くしていた。驚かせるつもりはなかったのだけど。
「ごめん……。もう遅いから、帰ろうか。また明日」
「おー、また明日な」
きっと、あと数えるほどしか言えないお別れに、僕はとうとう泣いていた。キョウに見られたくないから、顔を隠して走って帰る。
──夏が終わる頃。何故かこの友達は消えてしまうのだ。
毎年出会うのに、次の夏が来る頃にはキョウはそれを忘れている。彼は同じ夏に取り残されて、何度も同じ姿で僕の前に現れる。
「誰お前」って。毎年言われて、僕は何度でも君の名前を呼ぶのだ。
とうとう、夏の終わりが来る。キョウが消えることが、夏の終わりだった。来年も遊ぼうねって言って、でも来年の君は僕を覚えていないのだ。
八月三十日の夕暮れ。枯れたヒマワリを背景に、キョウの体が透けている。キョウ自身も、酷く驚いた顔をしていた。僕はこれを見るのは三回目。太陽が完全に沈む頃、その体は完全に透過して、最初から彼は存在しなかったみたいに、消えていなくなるのだ。
「俺……どうなっちゃうんだろう」
不安そうにこちらを見るキョウの手を掴む。まだ触れた。そのまま抱きしめる。夕暮れでもまだ熱の篭った空気の中、密着した肌は汗でベタついている。まだ。まだその感触がある。このまま離さなせれば。そんなことは去年か一昨年にもう試したこと。どんなに消えないでくれと泣き叫んでも、キョウはいなくなる。
「隠しててごめんね、僕、キョウが消えちゃうこと知っていた。でも、怖くて言えなかった、ごめんね」
「消える……俺、消えるって。どうすれば……」
「わかんない。ごめんね」
次から次へと溢れる涙を、片手で拭って。抱きしめたまま、彼を離しはしなかった。
また来年、沢山思い出を作ればいい。そう思うのに、胸が締め付けられる。お別れなんてしたくない。
息が詰まるほど寂しい。嫌だ。どうして毎年、違う夏を繰り返すのに、キョウは夏に取り残されるの。君だけ、夏が連れ去ってしまうの。
どうして。
黄金の光が見てる。陽の沈む空はなんだか寂しい。キョウと遊べる時間が終わって、少しずつ、確実に夏も終わろうとするからだ。
「……アサ。俺、この夏楽しかったよ」
「うん」
「初めはさ、誰だかわかんないお前が話しかけてきて、わけわかんないまま一緒に遊んでさ。でもすげー楽しくて」
「うん」
「消えるなんて、嘘みたい。明日もたま、アサに会えるって思ってた」
「……僕もだよ」
少しずつ、触っている感触がなくなっていく。
「行かないで」
「俺も行きたくないけど。もう、お別れだ」
「キョウ!」
「また。また来年な」
そんなことを言って。キョウは次の年僕のことを忘れるくせに。
太陽が山に沈み切る。瞬間、手の中にあった温もりも、跡かたもなく消えた。
僕はその場に崩れ落ちて、声を上げて泣いた。それを枯れたヒマワリが他人事みたいに見ている。
夏が、終わったのだ。
小学校を卒業して、中学に上がった頃に、おばあちゃんが亡くなった。必然的に、僕の夏休みは東京で過ごすものとなって、キョウには会えなくなった。だから少しずつ、彼のことを忘れていった気でいたのに。
大人になって、生活も安定してきた頃。急に思い立って、小学校の頃遊んでいたおばあちゃんのいた街に訪れた。森や川、山。あの頃駆け回った自然がそのまま残っていて。夏の噎せ返るような暑さもまた、変わらないなと辟易していたとき。
通りすがった神社の前で、若い男を見かけた。何故かお互いに視線が合う。暑さに参って、疲れた顔をした、僕よりもいくつも年下に見える男。
そいつが不意に目をパっと輝かせて、僕の名前を呼んだ。
アサ、久しぶりって。
「……キョウ?」
また、僕の夏は始まろうとしていた。
***
8月が終わろうとしています。
今回の投稿なんか少なかったな……でも9月になれば新しいお題が追加されるので、皆さんよろしくおねがいします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.129 )
- 日時: 2020/08/31 20:49
- 名前: 12 (ID: 26j1CGr.)
*>>34の続きです。二ヶ月ぶりの投稿で正直投稿すること自体を躊躇いましたが……図々しくも投稿しました。しかもまだ終わってないです……本当に、本当にアレなんですけど……とりあえず終わるまでは投稿します。次には終わります……終わる、はずです……
#
ニンゲンになりたかった。
#
ぼくはよくべっどのうえにいる。
げんきなときは、みんなといっしょにじゅぎょうをうけれる。
だけど、たいいくのじゅぎょうのときとか、おひるやすみのじかんとかは、そとにでれない。
ほんとは、あそびたいんだけど、くるしくなっちゃうから、でれない。
まえ、いっしょにあそぼ、っていわれたときも、げんきだったから、だいじょうぶだとおもったんだけど、すぐに、くるしくなった。
いきがくるしくて、あたまがいたくて、しんじゃいそうだった。
あそぼって、いってくれた、あのこは、あとでせんせいにおこられた。あのこは、わるくないのに。
……もう、ぼくのせいで、あのこがおこられちゃうのは、いやだから、もうあそばないようにしようとおもう。
ごめんね、ってあのこがあやまった。
ぼくもごめんね、ってあやまったら、あのこはないてた。
ぼくは、きっとわるいこだ。
ぼくといっしょにいたら、あのこも、あそべないのに、ずっといっしょにいてほしいなんて、おもってる。
こんなぼくでも、なかよくしてくれる?ってあのこにきいた。
そんなこといわないで、ってあのこはまたないた。
どんなことがあってもおれたちはともだちだよ、ってあのこは、そうぼくにいった。
#
「僕って何のために生きてるのかな」
ふと、そんな言葉が口に出た中学二年の初夏。
大して考えることもなく自然に溢れた言葉だった。誰かに伝えたかったわけでもない、それはまさしく独り言だった。
「……冗談でもそんなこと言うなよ」
読み進めていた本をパタリと閉じて、君は僕の方を責めるように見た。明らかに怒っていた。普段感情を大っぴらに出すことのない君が、こんな風にあからさまに怒ることはとても珍しいことで、僕を怒ることなんて今までなくて、刺すような視線で、胸のあたりがちくりと痛くなった。
温厚な君が怒るのはいつだって僕のためだった。そんなこと、分かっていた。分かっていたはずだった。すぐに謝ろうと思った。ただ、同時に、どうして怒られなければいけないのだろう、そんな風に思っている自分がいた。
あの頃、僕はまだまだガキだった。
君と出会ってから何度も、僕は理不尽に君を困らせ、八つ当たりのような言動をした。ある時、君が僕以外の誰かと一緒に遊んだという約束を聞いた日、僕は腹が立って、僕以外と遊ばないでと、君に怒鳴った。縁を切られても仕方なかったと思うのに、君は、分かったと、優しく微笑んで、その後本当に僕以外と誰とも遊ばなくなってしまった。
僕以外の誰かと過ごす君の時間を根こそぎ奪ってしまいたいと願っていた。それと同時に、そんなことを願う僕なんかいっそ見捨ててほしいと思った。
恐ろしいことに、君はこんな僕の理不尽な願い事の全てを笑顔で受け入れてしまった。だんだんと孤独になっていく君を見ながら安心と恐怖を覚えた。アンビバレンスな自分の思考回路にまた苛ついた。
相反する感情を抱えながら、結局、僕は君の優しさ甘え続けた。それは、今回も同じで、僕はまた君の優しさに卑しくも期待したのだった。君に初めて怒られて、今度こそ謝るべきだったのに、僕はいつものように理不尽を振りかざした。負け犬ほどよく吠えるとは言ったもので、僕はまさしく、その通りだった。つまるところ僕は君に初めて怒られたのがどうしようもなく怖かったのだ。
けれども、口に出たのは彼への謝罪ではなく、むしろ彼の気持ちを逆撫でするようなこんな言葉だった。
「……なんで?別にそんな目くじら立てるようなことじゃないでしょ。何怒ってんの?」
彼の目尻がぴくりと動いた。
彼のそんな様子を見て、あろうことか僕はこう言葉を続けた。
「こんな身体だ、君も知ってるよね?いつ死ぬか分からない。生きていたって人並みにさえ生きれない。健康な君には分からないよね、こんな僕の気持ち」
こんなこと、言うつもりなんてなかった。本当だ。けれども、僕の口は驚くほど自然にこんな言葉をすらすらと吐き出した。バクバクと心臓が大きく鼓動する。汗がたらりとつたってるのが分かる。気を抜けば震えだしてしまいそうだった。君の目が見れなかった。怖くて怖くて仕方ないのに、それでも僕の口は止まらなかった。もう止まり方が分からなかった。
「……今だって心の中で僕を馬鹿にしてるんだろ?」
そんなこと思ってないこと、僕だって分からないはずがなかったのに。
「……ずっと、ずっと面倒くさい、って思ってるんでしょ?」
分からないはずがなかったのに。
「嫌いだ、大嫌いだ。君なんて」
そこで初めて顔を上げた、こんな言葉を吐いてもなお僕は君にすがっていた。君なら、優しい君なら、分かってくれる。僕の本当の気持ち。嫌いなんて、嘘だ。大嫌いだなんて、そんなわけないんだ。分かって、分かって、分かってほしい。
君の気持ちなんて何も分かってないまま、僕は、そう思っていた。見苦しくも、そう思っていた。
「……そうか」
僕の言葉に、君は笑顔でそう言うだけだった。
そう言って、君はまた本に目線を戻した。
大嫌いだ、って言ったのに。
酷いことを、言ったのに。
君はまた笑った。笑うだけだった。
君のことが全く分からなくなった、夏の始まりの日だった。
#
身体全身に鈍い痛みを感じながら、俺は"いつものように"、俺を抱きしめながら謝罪の言葉を繰り返す彼女の温もりを感じていた。
彼女はまるで小動物か何かのように震えている。震えながら、俺の身体をぎゅっと握り締めて、泣いている。
俺はそんな彼女が愛しかった。
殴られても、蹴られても、どんな罵詈雑言を吐かれても、それでも嫌いになることなんてできない。それどころか愛しさは増すばかりだった。彼女には俺しかいない。こんな形でしか彼女は此処に在り続けることができないのだ。歪で、不器用で、醜悪なアイ。それが彼女で、俺で、俺たちだった。
この薄汚れた小さな部屋の中で、俺達は、最低に生きて野垂れ死ぬ。それが最上の幸せだ。
だから、俺は彼女に今日もこう言った。泣き続ける彼女を慰めたくて、歌うようにこう言った。
大丈夫だよ母さん、と。
#
彼を初めて見たとき、この世の何よりも美しいものだと思った。それと同時に、そんな彼に俺は触れてはいけないと思った。
けれども、身体と心は合致せず気がつけば、俺は彼に話しかけていた。一緒に遊ぼう、と。
突然現れた見知らぬ少年に彼は一瞬驚いて、でもすぐに満面の笑みを浮かべ、元気な声でうんと頷いた。美しい彼と一緒に遊ぶことができると、俺の心は弾んだ。触れてはいけないと警鐘を鳴らしていた理性は、本能で塗り潰され、何処へと消えていた。
それが良くなかった。
俺と一緒に元気に外へ飛び出した彼は、数分も経たない内に、その場で踞り、動けなくなった。覗き込んだ彼の顔は真っ青で、息が荒くて、ボロボロと涙を流していて、普通の状態ではないことは知識のない俺でも直ぐに分かった。
頭が真っ白になりそうになりながら、俺は走って近くの大人を呼びに行った。何も考えてはいなかった。彼をただ助けたくて、俺は必死に走った。
まともに説明なんて出来ていなかったと思うが、俺の尋常ではない様子を見て、大人はすぐに異常事態が起きたことを察して、彼の元へと駆けつけてくれた。
救急車に乗せられていく彼を、俺はぼんやりと見ていた。自然と涙が溢れた。不安で不安で仕方なかった。心臓がばくばくと鳴って、手は緊張で冷え切っていた。
ごめんなさい、ごめんなさいと何度も心の中で呟いた。
やはり彼は俺なんかが触ってはいけなかったのだ。
罪悪感がじわじわと心を締め付ける。責め立てる大人達の声を聞きながら、俺はもう一度自らの欲望に枷をした。
それなのに。
「ごめんね、ごめんね……ぼくといたら、きみは、またおこられちゃうかもなのに」
君の声に、表情に、俺はどうしても逆らえなくて。
「それでもなかよくしてほしい……っておもうんだ……おかしいよね、こんなの、おかしいよね……」
嬉しさと悲しさと名状し難い感情がぐちゃぐちゃに混ざり合って、涙になって、俺の瞳から溢れた。
俺は罪を犯した。間違っていると分かっていたのに、それでも自分の衝動を抑えることができなかった。
「そんなこといわないで。……どんなことがあっても、おれたちはともだちだよ」
気がつけば、そう口にしていた。
それは故意に起こした罪だった。
そうして、俺達は友達になって、俺の長い長い贖罪の日々は始まった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.130 )
- 日時: 2020/08/31 21:49
- 名前: 雪ちゃん◆EEpoFj44l. (ID: oYKf6i0Q)
お題:【海洋生物】
タイトル「地上の水族館」
海の中を、夏祭りに置き換えてみようと思う。
丁度、近くを通っていく子供たちの浴衣には金魚がいる。花火の一時間前に差し掛かって、辺りは海の中のごとく暗くなっていた。立ち並ぶ店の明かりが、通りを深海のチョウチンアンコウのようにわっと賑わせ、照らしている。
私たちは魚だった。
私は人混みの中でもがいた。ぬるい水の流れが、身体全体に伝わってくる。
光に誘われ、つどい、騒ぎ、何を求めているのかわからないままに泳がされていく。
色とりどりの女を捕食しようと、虎視眈々と見つめ、狙いを定めるものもいる。肩を抱き、爽やかな笑顔で惑わせ、海の底へ引っ張っていこうとする。
好青年に擬態してもしきれない、鋭い目つきをしている。喰って、喰われて、海の中と同じことが行われている。
「楽しいね」
ふいに、隣を歩く小学校からの友人が言う。私は現実世界に連れ戻され、頷くと、彼女ははぐれないように私の手を引っ張ってくれる。
白い指の銀色の指輪が、魚の鱗みたいにきらっと光って、この混雑を彼女は海の生き物みたいに軽快に駆け巡る。進んでいく。彼女はいつのまにか髪を染めて、肌を出すようになった。誰にも負けず劣らず派手な服を着ていた。
毎年来ている夏祭りだが、年々熱狂が増して思える。
昔の頃を思い出してみる。昔は、二人でよく神輿をかつがされて、スーパーボール掬いが好きで、一年に一度の行事にいつも夢中だった。夏祭りはそういう場なんだ、大人たちも遊べる日だからはしゃいでいるんだと無邪気に思い込んでいた。
気づけば私も愛を求めて、綺麗に髪を纏めて、薄く唇に紅を引いていた。こっそり、ナチュラルに見える化粧もするようになった。今着ているのは浴衣だけれど、それは派手すぎない服装を好む男も多いと知ったからだった。
進化している。精一杯美しく見えるようにグッピーの尾鰭を着けて、賑やかな輪に加わる。そして、ただ楽しかっただけの夏祭りは出逢いの場と変わっていく。
昔の夏祭り。幼なじみと親と一緒に来ていた頃。昔は、目白押しの楽しいことを全てやり尽くすことが目的だった。夜の街を歩いてみたかった。ベビーカステラをたくさんお土産に買って行った。せっかくとった金魚を、飼えないからと名残惜しく店に返していた。
今やったって、金魚すくいは楽しいかもしれない。でも違う。私たちは今日、一夜だけの恋をしに、浮遊するのだ。
無防備にたゆたって、誰か、男の目に留まって、そのまま誘われて行く。その先に快楽があるのかもわからない。そんなことをして、何か有意義なものを生むとも限らない。こんな小さな幸福、いや、幸福かもわからない……こんなもの、すぐに、泡となって消えてしまうと分かっている。いくつもそんな経験が重なって、今日のことなど、きっと時間が経てば覚えていないに違いない。
何のために私は、続かないと知っている恋を求めてしまうのか。快楽のため? 彼から呟かれる、建前と分かっている甘い言葉で安心したいから? いいや。きっと違う。強いて言うなら、性なのかもしれない。
……目と目が合った男を連れて歩く。友人とは、ここでお別れだ。彼は、男の人らしくない少し高い声で「浴衣が似合ってる」と褒めてくれた。清楚系の子がタイプなんだという。
彼が細い指を絡ませてくる。いきなり手を取るわけじゃない。偶然手が触れただけともとれる、やけに控えめなやり方で、私と一緒だ、と、鏡を見ているように切ない感情が心を貫いた。拒絶されないとはわかっていても、いきなり手を握るのが怖いんだ。彼もそういう人なんだ。
私たちはどちらからともなく、手を繋ぎ、肩を寄せ合った。私たちは上擦った声で話した。やはり似たもの同士、私たちは引きつけられ合ってしまうんだ。
目立つ服を着て誘惑するまでもなく、互いの心の奥底の欲望が、手にとるようにわかってしまうんだ。緊張しているのか、彼の手は汗に濡れていた。じっとりした手から痛いくらいに彼の不器用さが伝わってきて、ああ私と同じだ、と再認識させられる。臆病なのに、寂しくて仕方ないんだ。彼も。
彼に手を引かれていく。私たちは人混みから次第に離れていき、なんとなく、彼がどこに行こうとしているのかわかった。背が高い人だった。
「花火だ」
誰かの鶴の一声だった。地を揺るがすような大きな音がして、深海に一筋、花火が光っている。誰もがハッと立ち止まった。次々と咲いては散っている。よほど近くで打ち上げているのか、煙の香りがした気がする。光が空を泳いでいる。水族館の魚たちのようにたくさんの人がいるけれど、見上げる、花火に照らされる私たちの横顔は、みな美しい。みな同じように見惚れ、強く惹きつけられている。
夏祭りが海の中なら、花火は一体なんだろうか。脱ぐことになるであろう浴衣の袖の中を、生温い風が吹き抜けていく。上を見上げて、耳の横のピアスが切なく揺れた。
はじめまして。初参加させていただきます。名前もご存知ないかもしれませんが…笑
4,5年カキコにいるのにお話書かない状態もどうかなあ…と思ったので、大昔のリハビリとして書かせていただきました。一時期世に出さずに書いたりしていたのですが、その頃殴り書きしていた名残か、なんともまとまりのない文章になってしまいました。申し訳ないです。
昔は夏祭りも好きだったのですが、最近どうも息苦しくて、それが丁度海の中みたいだと思っています。後は華やかな女の子達の集団が、綺麗な魚の群れに見えたりとか。(自分はイメージ的には、大体チョウチョウウオという魚に見えます)それを投影した感じです。あと夏なので軽い恋愛要素も入れたつもり、です。因みにこの前の花火大会は、来賓席で一人で座って見てました泣 同性でも、一緒に来てくれる友達のいる主人公が羨ましいなぁとも思えてきちゃいます。こんな駄文ですが、読んで頂ければ幸いです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.131 )
- 日時: 2020/09/01 15:05
- 名前: ヨモツカミ (ID: tmrndZ0M)
*第3回参加者まとめ
心さん:記憶の果てに沈む。(お題⑧)>>109
神崎慎也さん:深淵の街(お題⑦)>>114
ヨモツカミ:お前となら生きられる(お題⑨)>>118
むうさん:サガシモノ(お題⑧)>>119
神崎慎也さん:幸せの景色(お題⑧)>>120-123
鈴乃リンさん:視力検査(お題⑧)>>125
ヨモツカミ:朱夏、残響はまだここに(お題④)>>128
12さん:(お題③)>>34の続き>>129
雪ちゃんさん:地上の水族館(お題⑦)>>130
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.132 )
- 日時: 2020/09/01 15:14
- 名前: ヨモツカミ (ID: tmrndZ0M)
9月になりました。皆さんお元気ですか!
8月はやや参加者が少なかったってか、私が個人的に読みたかったお題⑨を書いてくださった方がいなくて……是非9月でもお題⑨挑戦してみてください。私は血みどろな話が読みたい……。
さて、みんつく4回目のお題を発表いたします。
⑩逃げる
⑪「明日の月は綺麗でしょうね」
⑫彼岸花、神社、夕暮れ
是非気軽に参加してみてくださいね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.133 )
- 日時: 2020/09/06 05:39
- 名前: マシュ&マロ (ID: DoGB3rKw)
お題(9)【狂気、激情、刃】
【青春ヤンデリズム】
狂気とは一種の表情である、人間の持つ激情という側面から誰しもが零れうる感情。
そして人間とは狂った生き物である、理性というものは狂気という人間の真実を隠すための単なる仮面と言える......。しかしながら仮にその仮面が外れたのならば人は、迷うことなく花束ではなく刃を手に取るだろう。
とある日、とある学校、とある少女。名は刃鳥ノア(はとり・ノア)、腰辺りまで伸びる黒髪を三編みで後ろへと纏め、自身の机に座り、愛用の黒縁メガネを掛け、お気に入りの本を読んでいる彼女の視線は突如として聞こえてくる教室のドアの開く音に奪われた。
入ってきたのは年若な男性教諭、名を花大喜(はな・たいき)という。爽やかな顔立ちに持ち前の明るさで生徒達からの信頼が厚い生徒想いな先生である。
しかし、今日は普段からは想像もつかない厳かな雰囲気のまま黒板の前に置かれた教卓へと歩み寄り、こう呟いた。
「皆、席に着いているな? 朝っぱらから悪いがお前達は今年で中学3年生、つまりは“受験生”だ」
そのワードに教室中が瞬くにピリつくのが手に取るように分かった、“ある一人”を除いての話だが......。
(あぁ、先生ぇ.....。今日も素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!素敵!)
そう心の中で呟く者はノア、何を隠そう彼女である。そして彼女からの先生へ向けられる視線は生徒としての尊敬の眼差しとは一味違う、異様なものであり、彼女はとろけたようにうっとりとした表情を浮かべているのであった。
「何度も言うようだが高校受験まであと半年を切った、だから今日は先生からお前達にアドバイスがある」
教室中がザワつく中、ノアだけは一言も逃さまいと机が倒れないかと心配になる程に前のめりな姿勢で先生の言葉に耳を傾けている。
「いいか、お前達。俺からの受験に向けてのアドバイスはただ一つ・・・・・・」
“この教室にいる奴ら全員が、自分の敵だ!!”
その言葉を聞いた瞬間、突然ノアは自身の神経が逆立つような感覚に囚われた。そして目を大きく見開くと周りを舐めるようにゆっくりと一人一人の顔を覚えていくような仕草を見せた。
「と、言ってもあくまで敵というのは先生の冗談なんだがな」
周囲からクスリと笑いが漏れる中、ただ一人ノアだけがそれを聞いてはいなかった。
(敵!敵!、あっちにも!?、こっちにも敵がいる!)
別に焦ったり恐怖したりしているのではない、ただ順番に迷っているのだ。
そう、敵をどう排除していくかという順番に・・・・・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時間は経ち学校が終わった、すると急いで教室を出ようとするノアの耳元にとある少女の声が聞こえてくる。
「ノアちゃん!、一緒に帰ろう!」
彼女の名前は菅本椿(すがもと・つばき)、ノアの小学校時代からの友人で少し天然気味であり、頭にある左右のおさげを揺らしながらノアへと走り寄ってくる。
しかし______。
「・・・・・・すみませんが、貴女は敵のため一緒には帰れません」
そうノアが言うとクスクスと笑う椿、思わず首をかしげるノアに椿はこう言った。
「それは先生の冗談であって本当ではない・・・・・・って、ノアちゃん!?」
ノアは椿の事などお構いなく自身の机へと戻り何かを探していた、そして机の中から安物のハサミを取り出すとそれを自身の鞄の中へと入れた。
「ノアちゃん?、何でハサミなんか入れてるの?」
「・・・・・・・・・・・・、そんなのは人の勝手です。さあ今すぐ一緒に帰りましょう」
「あっ!、待ってよノアちゃん~!」
こうして急に一緒に帰ろうと言い出したノアの先行く背を追って仕方なく椿は駆け出したのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
椿と共に歩く帰り道、ノアは何かをブツブツと呟いており、椿はそれに耐えきれずに思わずノアに声を掛けた。
「ねぇノアちゃん、どこか具合悪い?」
「・・・・・・??、いいえ.....それよりも私に着いて来てくれないでしょうか?、見せたいものがあるんです」
「うん!、良いよッ!」
二言返事でそう返す椿の表情は意気陽々としていたが、それとは打って代わりノアの方は何処かやけに冷めた表情であった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここは帰り道から少し離れた近く森の中、そんな場所にある獣道を二人は進んでいる。
「うえ~、蚊に凄くいっはをい刺されちゃったよノアちゃん」
「・・・・・・ここ辺りまで来ればもう充分か......」
そんな言葉に眉をひそめてみせた椿であったが、そんな事よりも今から何が見られるのかという好奇心の方が勝ったようである。
「ねぇノアちゃん!、今から何が見れるの!?」
「・・・・・・貴女は教室で何故ハサミを鞄に入れているのかと聞きましたよね?」
唐突な質問返し、椿は一瞬訳が分からなくなりそうであったが取り合えず質問への答えを返した。
「う、うん......言ったけど」
「なら良かった、今からその答えが分かるので丁度良かったです」
「・・・・・・・えっ??」
手を後ろで構えているノア、そしてその様子に一緒の悪寒を感じてしまい喉から絞り出すようにこう呟いた。
「ノア、ちゃん?」
「ヤッアァアアァアッ!!」
ノアのそんな大声を発したと同時、椿は首に違和感を感じだ。
「何?、この生暖かいの?」
右手で首元に触れ、それを自身の肉眼で確認してみるとそれは真っ赤な鮮血であった。
「えっ?......ええぇえぇぇ~~~!!?」
椿を襲ったのは痛みよりも先にパニックであった、そして何よりも痛い!、椿は腰が抜けて地面に自身の体が崩れ落ちながらも無我夢中で逃げるように地べたを這いつくばり逃亡を図るも、ノアがその背に股がると誰かに叫び声を聞きつけられないよう暴れる椿の口元を押さえ、その小さな背中を左手に強く握られたハサミで滅多刺しにしていく。
「€▼&*?!§♭!#↑ッツ!!?」
声にならない叫び声、それに口元を塞がれており何を言っているのかももはや判別はできない。
すると最後の抵抗を見せる椿、ジタバタと暴れるその手足がノアの頬に軽く当たり、彼女自身を怒らせた。
「この!、静かに......しなさいッ!」
今の一撃で喉元が切り裂かれた、あとはもう1分もしない内に椿は死に、忌々しいこの叫び声もじきに収まる事であろう。
「ふぅ......さて、殺すという過程まではクリア」
快感というものは特になく、ノアの脳裏に浮かんだのは夏休みの宿題を終わらしたかのような達成感であった。
「んー、証拠となるものは血の付着したハサミと制服の2つ」
ノアは血塗れたハサミを鞄に仕舞う代わりに中から今日使った体育着を取り出し、揉み合いの末に多量の血を浴びてしまった自らの制服を脱ぎ手に持っている体育着へと着替えた。
「さて死体に関しては下手に触るよりは放置、証拠と言えば血の付着したハサミと制服の2つだけ。ハサミは処分として制服に関してはどうにか洗い落とさないといけないわね、流石に警察も中学生の制服を調べまではしない筈だし・・・・・・」
仮に椿本人に私の体液が付着していたとしても言い訳はいくらでも考えれば良い、あとは血を落とす方法だけどネットでは警察の情報網のせいで使えない、となるとそこは本とかで詳しくは調べるしかないがノア自身にそこまで影響はない。
「あとはどう私以外の他者の犯行に見せるかね、死体の様子からしても他殺なのは一目でバレる訳だから......」
変態の仕業にせよ、あれだけの状態ならば大人が相手でも体液の一滴ぐらいは見つかってもおかしくはない、なのにあるのはノアの体液だけとなると一旦森の木陰に隠して死体が朽ち果てるのを待つのが現状での最適解だろう。
「下手に物事を繕うよりはその物事を無かった事にする方が安全ね」
ノアは近くの木から葉っぱを十数枚か取ると、手袋代わりにそれを掌に乗せた上で椿の死体を森のもっと奥の方へと移動させ、地面に染み込んでいる血は土を被せる事で今回は済ませておいた。
「まずは一人目、全員まであと38人......」
ノアは元来た道を何事も無かったかのように歩いていく。後悔はなく、罪悪感にさいなまれる事もない。全ては先生の言葉を信じて敵を全て排除するためだけである。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.135 )
- 日時: 2020/09/19 12:56
- 名前: おまさ (ID: ZXBN0Dyw)
すっかり秋に入りそうな時期になりました。大変遅くなってしまいすみません。「雨が降っていてよかった」の続きになります。
思ったより文章量が膨大になってしまったので、記事を3つに分けました。
季節外れですが、今一度梅雨の話にお付き合い下さい。
お題②
題名「雨が降っていてよかった②」
****
3
知ってしまった。理解ってしまった。自分の苦しみが、…………焦りに他ならないことに。
気付きたくなくて、目を背けていたものに、無理やり気付かされてしまった。
土曜日、カーテンと曇り空のせいでやや暗い自室にてひとり蹲っていた。壁に掛けてある時計の短針が3の文字から少しずれている。
東屋での一件から今日で4日経つ。あれ以来ずっと、幻聴というには些かささやかな呵責が頭蓋に反響している。
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
………厭。
残滓というよりむしろこれは、……呪詛ではないのか。
あの言の葉が、いつ如何なる時も自覚を促すことを強要する怨嗟に思えてならない。
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
自覚、自覚というけれど。
焦っている自覚をしたところでどうする。なにかを変えようとして、さらに焦燥に駆られる負の連鎖・増幅が起こりうるだけではないか。
そうして、なにを変えればいいのか、何を為せば変われるのか解らず、むずむずとした状態こそーー焦りというものではないのか。
変わりたい。けれど、結局は堂々巡りに陥る。いっそ開き直れとでもいうのか。だが、開き直りというのは自分への問いかけの天敵だ。蹲って何もせずにいるだけでは、状況は変わらない気がした。
………そもそも自分は、何を変えたいのだろう?
自分自身? もしくは、この状況? 未来? 過去? 意志? あるいは、環境?
わからない。
何かを変えたい、変えなければ、とは思っている。だが、その「何か」が何なのかが掴めない。
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』
「ーーーっ、」
焦っているのは、努力が実を結ばないことに対してか、それとも……眼前の答えにけれど至れないことに対してなのか。
結局、思考の堂々巡りという名の陥穽に嵌り、思索に嫌気が差して考えることをやめることにした。
逃げていても状況は変わらないなんていう常識なんか分かってる。けれどどう立ち上がればいいのかが分からない。考えても考えても、頭は焦りに逸るばかりでちっとも答えが出てくれない。
「……クソ」
頭を掻き毟り立ち上がる。思考が固着して駄目だ、気紛れに少しランニングしよう。軽く伸びをしてから自室を後にした。
それが「逃げ」だと、ついぞ気付かぬまま。
4
外に出てみれば、酷く蒸す日だということが分かった。
勉強で気を紛らわせたりしながら一日中屋内にいたのだから、外出直後にこの蒸し暑さは少し堪える。ただ今日は、曇っているとはいえ雨の降る気配がしないのは少しありがたかった。
軽く体操をしたのち走り始めて、しばらくすると例の東屋に着いた。
「ーーー、」
どうしてだろうか。
意識するよりも先に体が動いていた、とはこういう事を言うのか。無意識のうちに足を動かしていたらいつの間にかここに来てしまった。字面だけ見ると変にバカらしい気分になるが、けれど上手く説明できない。
…………ひょっとして、彼女を探しているのか?
いや、それはないだろう。とかぶりを振る。
自分があの少女を探していたとしても、探してーーーそれでどうする。
謝るのか? それとも、謗るのか? あるいはーー、
「ーー何かを、訊きたいのか……?」
不意に、そんな可能性に引っ掛かる。
独り言だから当然、返り言はない。けれど口にして、確信が深まるような気がした。ランニングで弾む息とは別の何かが、心臓をどくんと動かす。
行動しなければ。訊かなければ。
気分は凪のように落ち着いているが、しかし使命感に逸る自分が再び、脚を動かす。気がつくとまた走り出していた。
自分は彼女に、何が訊きたいのだろう。
居場所、先の言葉の意味。……いやひょっとして少女の名前? あるいはそれらを含めて質問をしたいのか?
「………っ」
いくら悩んでも答えは出ない。考えれば考えるほどに、さっき家にいた時のような堂々巡りに陥る気がする。徐々に不安と苛立ちが募り、思考放棄するーーーーその直前。
視界に、1人の人間の後ろ姿が映った。
どうやらそれは細身の女性のようだ。少し位置が遠いから分かりづらいが、おそらく背丈は自分より低い。同年代のようだ。今、交差点でひとり信号待ちをしている。
蒸す大気の中に僅かに吹いた風が、………その漆の髪をほのかに揺らす。
華奢な指で髪を押さえたときにちらと見えた横顔で、確信した。
あれはーー4日前に会った、例の少女だ。
「おーい!」
名前は分からないから、叫ぶ。周囲からの視線を意識の外に追いやりつつ叫んだ。けれど少女は気付かない。
信号が青に変わる。歩き出した少女は、すぐにどこかに行ってしまう。
今しかない。今しか、呼び止められない。
ーーー距離、目視30メートル。
「おーい!!」
再び、息を弾ませながら叫ぶ。実際は叫ぶというより半ばがなっていた。喉を痛めたが、代わりに少女は今度こそ振り向いてくれた。少女の足が止まる。交錯する視線。
ーーー距離、目視20メートル。
不意に、こわいと思った。
もしかしたら、自分は何かを訊きたいわけではないかもしれない。全く別方面の目的を持って少女を探しーー否、ひょっとしたらそれすらも誤りなのかもしれない。
それらの懸念が、こわかった。
けれど、呼び止めてしまった以上もう遅い。
……早く。
訊かないと。
訊かないと。
だってそうしないと、きっと少女は去ってしまう。掴みかけた答えを手放すのは嫌だ。
ーーー距離、目視10メートル。
「あのさ、」
弾む息を押さえつけ、掠れた喉で問い掛けようとした。ーーー瞬間。
少女のいる位置に突っ込んでくる車を、辛うじて動体視力が捉えた。
しかしこちらに振り向いた彼女は、それに気付いていない。仮に今気付いたとて、反応は間に合わない。
「ッーーー!」
ーーー目視、5メートル。
咄嗟に、右脚で地を蹴って間の5メートルを刹那でゼロにする。
走ってきた分、結構速度が出ている。急停止して歩道に戻る時間もスペースも足りない。
脊髄反射で、少女を前に突き飛ばした。
「………ぇ」
呆然と声を漏らした少女。再び絡まった視線。まるで螺鈿みたいに綺麗な目だな、とぼんやり思い。同時に「間に合った」と緊張が弛緩して。
それらを、スキール音と衝撃が無残に蹂躙した。
耳朶と全身を凄まじい物理的暴力で殴られる。瞬間的に血管が圧迫されて視界が暗くなる。体が宙に浮き上がったのか、三半規管が攪拌されて、どこが上か判断できない。硬いしょうげ
ーーーーー。
ぁーーーーーーーーーーーーーーーーー。
5
ふと目を開いてみれば、知らない天井が見えた。
寝台に寝ていたらしい。重い頭を持ち上げようとしたところで、
「ーーづっ」
全身を支配する倦怠感と軋むような痛みに目覚めを出迎えられ、涙目になりながら記憶の糸を辿る。
たしか俺は………事故に遭って。
身体に蔓延る倦怠感と鈍い痛みはそれでか。
全身が粘土になったように重く、軋むようだ。中でも最もズキズキ痛むのは鳩尾近辺で、呼吸をするだけで視界に火花が散りそうになる。
曖昧だった記憶が、徐々に色と温度を取り戻してくる。
そうだ。あれは土曜日のことだ。
あれからーーーーどのくらい経った?
寝台の横に置いてある日めくりカレンダーは、5日後の日付を示している。
「ク、ソ……っ」
またやらかしてしまった。
5日もの間、意識が飛んでいたということだろう。ーーこれ以上の、時間を無為に浪費することなんてあろうか。
焦って、それを変えようとして足掻いて、その結果がーーこのザマか。
「なんで……あんなこと……っ」
何にもならなかった。
五日間意識を飛ばして、けれど少しも前進できていない。それどころか蹈鞴を踏むことで焦りの沼に嵌っていく。
「……畜生、畜生、畜生、畜生……!」
今更もう遅いと分かっていながらも、後悔せずにはいられない。
「………畜、生…」
ーー傷とは別のなにかが、きりきりと肺と臓腑を締め上げているような気がした。
6
先日程ではないにしろ、病院を出るといかにも梅雨らしく降り頻る雨が、病院の庭園のアジサイを弾いていた。
その後、一応は退院となった。
けれど医師には当分の間の運動を禁じられ、悔いすらももはや生温いものとなってしまった。今もこの身を苛むのは焦燥と呵責と怨念のいずれだろうか。どれであれ臍を噛む思いには変わりない。
何にもできない。前進したくても、できない。
思えば自分は、何にも成せていない。
1年間、幾度となく必死に可能性に手を伸ばした。けれど届かなかった。
努力はした。けれどもその努力はついぞ実らなかった。自分はただ徒らに一年を食い潰したのだ。
そうして迎えた2年目もーー今こうして自ら盛大にぶち壊している。
この時、もはや「焦り」などという言葉は思考回路から吹っ飛んでいた。今はとにかく、「変わっていない自分」への自嘲と、それを自覚したことへの衝撃が殊更に大きくて。
前進していると、いつから錯覚していたのだろうか。
一年前となにも変わっていない。なにも成長していない。
何にも成長できなかった自分が変われるわけがない。今更変わるはずがないんだと、何度も何回も他でもない自分が体現していた。……破滅しない完璧な命題を、証明してしまったのだ。
その証明を否定したくなくて、わざわざ車に突っ込んで練習できない体になったのだろうか。いや、最初から変化なんて望んでいなかったのかーー?
分からない。分からないことだらけで、考えるのが馬鹿馬鹿しくなった。思考を放棄する。
「………」
病院を出て、どのくらい経っただろうか。ほんの十数分かもしれないし、それ以上かもしれない。
けれど大切なことは、そんな事ではない。
ーー眼前、気付けばまた例の東屋に辿り着いていた。
そして、
「…………、」
5日ぶりに再会した例の少女は、文庫本から目を覗かせてすぐにその目を伏せた。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.136 )
- 日時: 2020/09/19 12:53
- 名前: おまさ (ID: ZXBN0Dyw)
お題②
題名「雨が降っていてよかった③」
********************************
雨は、嫌いだ。
今となってはその理由も、単純に「前に進めないから」というものではない。
雨が降ったら身体を動かせなくなって、無為に時間を過ごして………その上で。
・・・・・・・ ・・・・・・・・
自分の中の嘘を、自覚するのが怖い。
だから、雨は嫌いだ。
********************************
7
9日前、自身の焦りを気付かされた。
5日前、自覚したそれを自嘲に変えるきっかけを作った。
そうして今自分は、ここにいる。
眼前、目を伏せている少女が1人。
何を言えばいい。何をすればいいのか。そもそも何故、自分はここに足を運んだのか。
分からない。……けれど体は勝手に動いて、声も勝手に喉の奥からせり上がった。
無意識のうちに頭が下がり、腰を折り、そしてーーー、
「「ごめんなさい」」
瞬間、何故か声が重なった。
呆気に取られ思わず顔を上げると、同じく呆気に取られ顔を上げた少女と目が合った。しばしの静寂が落ちる。
その静寂を破って最初に口を開いたのは少女だった。
「……な、んで君が謝るの…? 私……私のせいで、きみはひょっとしたら命まで危なかったかもしれなかったのに……」
「……俺も、何で謝ったのか……いや、」
否、存外きっともう答えは出ているのかもしれないことを、何とはなしに察していた。
「………こっちこそ悪かったと思う。自分のことばっかで周りが見えてなかったのかもしれない。だからあんな、あんな下らないことを……」
9日前、自分が少女に吐露したのは、自分の中で留めて抱え込んでおかねばならないものだった。自分で勝手に中身を曝け出しておいて、相手がそれに触れたとたん身勝手に撃発する。なんて反吐が出るくらい傲慢な構図だろう。ちゃんちゃらおかしい。
けれど少女は頑なに首を振った。
「ううん。そんなことはいい。第一、煽るような言い方をしたのは私の方だし……」
「でも押し付けたのは俺だ。それにこの怪我だって、結局は自業自得だしな」
「っ、そんなこと…!」
「俺が、自分で選んだんだ。自罰なのか、それとも練習を諦めたくてやったのかは分からないけど」
自ら構築した嘘にはきっと、とうに勘付いていた。見ないフリをしていただけだ。
ーーー早い話が、自分は「努力する自分」を演じていた。それだけだ。
そう、ポーズだったのだ。
一年前の努力は、決して努力なんかじゃない。「自分は頑張っているんだ」と、形式的なわかりやすいポーズをとって、いつの間にか本音を糊塗して、自分すら騙して。そんな自慰行為と自己満足を「努力」と歪に認識していて。
だから、この胸の内に瀰漫する「焦り」も、結局は自業自得であるのだ。即ち、ただの虚構に過ぎない。
そう、だからきっとあの葛藤の日々もーー演技に過ぎなかった。
空っぽだ。自分の中身はスカスカだ。欺瞞と騙詐しかやってこず、佞だけ巧くなった奸譎な人間にどんな価値があり、何を為せるというのだ。
もっとも、これは当たり前のことかもしれない。
「練習でできないことは本番でもできない」。よく聞く言葉だがその通りだと思う。経験していない未曾有に人は対応できない。ーーー何にもやってこず、何にも為せていない人間が何かを為し得る道理もない。ただそれだけの、子供でも解る単純明快な話だ。
「何もできないクズが俺なんだ。……当たり前だよ、そうなるようにしたのは俺なんだから」
一年間頑張って届かなかった。……それを知らされた日から、きっと何かを諦めていたんだと思う。
自分は変われないんじゃない。諦めて、一年前から足を止めたのだ。
諦めて、変わる可能性を自分で遠ざけただけだ。
成長できる機会を自ら潰して、時間を無為にした。一年という時間があっても、嘘をつくことしかやってこなかった。
そのツケがこれだ。その結果が今の自分だ。
「もう自分は変われないんだって、手遅れなんだって本当は気付いてたんだ。……でも、認めたくなかった」
認めたらそれこそ、……自分が何の理由で生きているのか分からなくなってしまうから。
いつの間にか、「嘘」は存在意義になっていた。前身できず、己が価値を見出せなくなった自分にけれどそれでも、仮初のレゾンデートルが欲しくて。無意識のうちにも「嘘を吐き続ける」ことを理由にして、時間を食い潰してきたのだろう。
嘘をついて、それでもなお感じる違和感に「焦り」というラベルをつけていたのだ。
「そんな自分が、今更変われるもんかよ。この先きっと、こんな醜悪な生き方しかできない。何もできないまま……何もしないで終わるんだ」
自分は生きることが器用だ、などと自惚れることはない。自分がもし仮に器用だったなら、自分に対してすら仮面を被って生きる必要なんて無かっただろう。
「……何も、しないで?」
さざ雨の中、ぽつりと呟かれた言葉。
声の主ーー少女は続ける。
「それこそ違うよ。きみはもう、行動を起こしてる」
「…は、ぁ?」
本気で、言っている意味がわからない。
自分は何にも為せていないのだ。当然、思い当たる節は微塵もない。
困惑し沈黙する自分に、少女は呆れたような、……少し照れ臭いような風にため息をついて、言った。
「あのとき私を庇ってくれた」
「ーーー、」
「きみが今、あの行いに対してどんな想いを覚えていても、結果として私は確かに救われた。ーーきみは、何もできない人間なんかじゃないよ」
ーーー違う。
そんな言葉が聞きたいんじゃない、と己の内の自分が吐き捨てるのが分かる。
耳障りのそんな言葉を言わないでくれ。自分はそんな綺麗で高尚な人間じゃない。
やめろ、やめろ。……やめてくれ。慰めないでくれ。
だって慰められるべきは、慰められる余地を持った人間なのだ。それすらも自ら削った愚者に、慰めはあまりに酷だ。
だからやめてくれ。慰めず、いっそ罵ってくれ。
その方が楽だから。……自分を見限って、諦められるから。
諦めさせてくれ。二度と立ち上がらないように、「愚か者だ」と完膚なきまでに罵ってくれ。
そんな己の中の想いが、言葉を吐き出させる。
「……でも俺は変わってない。一年前から少しも、前に進めてない。だから、」
「変われない?」
「……っ、これでいいんだ。そうあるように決めたのは俺なんだから」
ーーもういいだろ、膝を折らせてくれ。
ーー立ち上がるのが辛い。
ーー立ち上がってまた築いたものが崩れ去るのが、怖い。
ーーだから。
自分は少女を、そんな懇願混じりの眼差しで見ていたのかもしれない。少女はまた一つ息をついて、
「きみは、酷く自罰的だね」
「ーーー、」
「……でもさ、」
「そんな苦しそうな顔で言われても、説得力がないよ」
「………う、え……?」
自覚した。
自分が、涙を流す寸前のような顔をしていたことを、ここでようやく自覚した。
自覚したが、滂沱の一片が一筋の滴となって左頬を伝う。熱い感触。
「……ぇ、なん、で……クソ、」
一滴だけ溢れた涙を乱暴に拭い、自分自身に問う。
ーーお前は今更、諦めたくないと言うのか。
返り事は『分からない』だ。きっと、また挫けることもあるだろう。
挫けるのは怖い。喪失への恐怖はまだ薄れていない。
だから諦めたじゃないか。積み上げた物がなくなってしまうなら、いっそ最初からない方が良い。そうすれば、苦しい思いをせずに済む。
諦めて、楽になったはずだ。
……けれど流れた涙の意味は、何なのだろう。
その答えを出す前に、少女が口を開く。
「変わりたい。……それがきみの本音じゃない?」
「……変われなかった。一年前から、何も」
「本当に? きみは自分が嘘をついていることを自覚した。これは、変化じゃない?」
「……そんな……そんな、ものは…っ」
「確かに。所詮はただの心得違い、単なる言葉遊びかもね。……でもさ、そうした肯定感に救われることも受け入れてもいいと思うよ? それは堕落や依存とは違うし」
「……」
「誰だって、自分への背徳感と肯定感に飢えてるんだ。私だってそうだよ? 人間観察をしているのも、他人と自分を比較して『自分の方がマシ』って思いたいだけなのかもしれないし」
それは少女の本音なのだろう。……不器用で、けれど懸命に存在証明している。
それを聞いた途端、愕然となった。
器用なのだろう、と最初は思っていた。
こちらの心を見透かして、なおかつ過度に情入れすることもなく、あくまで客観的な意見を述べている少女は、器用に「生きて」いるんだとばかり。
そんなわけがなかった。
最初で最後の思春期だからこそ誰もが躓くのだ。だからこの少女もただの、真摯に足掻く10代の一人に過ぎない。
ーーー奇しくも、自分と同じ。
「……俺と、同じ………」
そんな呆然とした呟きは、雨音に呑まれて消える。
しかし、衝撃は殊更に大きかった。ーー悩んで、苦しんでいるのが自分だけではないのだと、そう示されたことで胸の内がどこか、すっきりとした気がした。
深く息を吸う。空気はじめじめと湿っていたけれど、久しぶりに吸う外の空気をうまいと思った。
深呼吸し、しばし落ちる沈黙の帳。決して嫌な雰囲気ではないそれを破ったのは、少女だった。
「深呼吸で落ち着いたかな。なにか変化でも?」
「……分からない。けど、今まで見てきたものとは別のものが見えた気がする。それがなんなのかはちょっと………よく分からないけれど」
「ーー。……そっか」
寂しげに言い、少女は立ち上がる。
その姿が、なんだかすぐにいなくなってしまいそうで「あの、」と咄嗟に声をかけた。振り向く気配。すかさず言葉を紡ぐ。
「あのさ、俺………変われるかどうかはまだ判らない。正直、まだ怖いんだ」
未だに、積み上げてきたものを喪失するのは怖い。恐怖は克服できてはいない。ひょっとしたらもう、二度とテニスをできなくなるかもしれないという畏れも不安もあったし、仮にそうなった時、絶対に再び立ち上がれるという確証もなかった。
けれど。
「でも、少しだけ……少しだけ、正直になってみる」
「………。」
「ありがとう。色々、気付かせてくれて」
途中でどうにも恥ずかしくなって、後半は目を逸らす。
少女は少し呆気にとられたのち、むず痒くなったのか頬を掻き苦笑いした。
「ーーー謝るためにきみを待ってたのに、なんだか結局謝れなかったよ」
どう答えていいのか分からず、気まずくなるのを恐れて曖昧に微笑んだ。
ふと、意識を空に向ける。
雨は未だ降り続けている。傘を叩く雨粒の音がーーー今まで単に五月蝿いだけに聞こえていたものが、今となって深く、深く体に染み込むような感覚。
心地よいわけではない。ただ、不快に感じることはもうなかった。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.137 )
- 日時: 2020/09/19 12:54
- 名前: おまさ (ID: ZXBN0Dyw)
お題②
題名「雨が降っていてよかった④」
8
ここには久しぶりに足を運んだ気がする。
例の東屋は、あれから二年が経過した今もここにぽつんと建っていた。変わりゆく日常の風景の中、この東屋だけが変わることなく時代に取り残されているような雰囲気は、二年前見たときから変わらない。
現在自分は地元の大学に進学し、ともあれ大学生らしい生活を送っている。
今日は6月だったけれど、例年とは違い珍しく晴れていた。温暖化の影響か、それとも神の悪戯なのかは分からないが。
……やはりとは思っていたが、この場所に来て思い出すのは二年前のこと。
あの時の自分は、正真正銘のクズだった。
徒に嘘を塗り固め、塞ぎ込んで、自分の中だけで結論を完結させて。それで努力している気になっていた。
挙句、自分に嘘をつくことを存在意義として掲げていたあの頃の自分は、……ひょっとしたら「生きて」はいなかったのだろう。
仕方のないことなのだ。過去の自分というものは未来の自分よりも絶対的に無知であるのだから。純粋な知識量で劣っているから、だからこそ今までの己の軌跡を否定したくなる。
今までの自分を全否定するということ。それは自身の存在意義を揺るがしかねないものだ。道程と記憶が人を形作るのだから、それらを否定することは自分を否定することと同義なのである。
自分を信じられず、挙げ句の果てに自己価値を否定してしまう。形式的に見れば、それは死んでいるのと同じだ。
あの頃ーー二年前の自分はそうした意味で「生きて」られてはなかった。
今の自分は、前に比べれば少しは「生きて」いられているだろうか。
「ーーー、」
不意に。
東屋の中を強い風が通り過ぎた。ひゅうひゅうという風の鳴き声がして、前髪が踊る。
ーーーその風に、誰かの幻影を見た気がして。
蕭索閑散とした東屋に向かって少し頭を下げる。
ああしてあの日、彼女に出会って。そして、現状を見つめ直す鍵を貰った。
そのことに対して、ただ感謝すればいいのだと、そう思うから。
果たして風は嬉しそうにびゅうびゅうと返事をする。……なんとなく、そんなふうに感じられた。
**********
雨は、嫌いだ。
元々自分は馬鹿で、目を覆いたくなるくらいに痛々しい勘違いをしていて。
そんな自分に、現実を見るきっかけをくれた人がいて。
情けなさを感じつつも、また足掻こうと思えるようになって。
それらの、未熟だった頃を思い出すから、雨は嫌いだ。
ーーーでも。
あの時あの場所でたまたま雨が降っていたから、彼女と雨の話をすることができた。結果としてそれは、自分を見つめ直す糸口を探るきっかけにもなった。
結果自分は変わることが出来た。少なくともあの頃よりは自分は、少しはマシに立てているだろうか。答え合わせの機会はきっと、巡ってこないけれど。
ーーーあのとき、雨が降っていて良かった。
今はとりあえず、あの日の幸運に感謝したいと思う。
《了》
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.138 )
- 日時: 2020/09/20 18:40
- 名前: ヨモツカミ (ID: tS0OjP4Y)
ご無沙汰しております。参加者が少ない……!
無理に参加するもんでもないし、わたしも全然かけてないけど、ちょっと寂しいなって思っちゃいますね。
変わらず、書きたいと思った作品には感想を書くことがあるので、良ければ返信ください。
>>雪ちゃんさん
初参加ありがとう御座います。
水の表現が素敵だなって思いました。地上なのに、夏祭りが完全に水族館のようで、なるほど、確かに夏祭りは海の中みたいに鮮やかで、息苦しいものかもしれませんね。
あとですね。お説教するわけじゃないんですけど、せっかく書いた文を駄文とか言うの、私は好きじゃないです。こういうところに載せて、人に見てもらうのならもっと堂々としてほしいな、と。読む側としても、こんな駄文読ませちゃって〜みたいなこと言われたらなんだか嫌な気持ちになります。自信持って文を載せる難しさも理解してるので、気持ちはわかりますけど……。
少なくとも私はとても素敵な文章だと思いました。私は感想を書くのが得意ではないので、何がどう良かったとかは上手く言えませんが、お祭りを素直に楽しいものだと感じてない感じとか、海の鮮やかさと息苦しさとかが伝わってきて、好きだなって思いました。
今年は祭りないから、来年。意外とちょっと親しいくらいの誰かをお祭りに誘ったら、一緒に行ってくれるかもしれないですよ。
是非、また参加してください。
>>マシュマロさん
私が読みたかったお題での参加ありがたい……!
愛しの先生の言葉を鵜呑みにしてしまうノアちゃんやばば……。この先生徒全員殺すことができるのか、途中で捕まってしまうのか、気になる展開ですね!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.139 )
- 日時: 2020/09/27 16:43
- 名前: ヨモツカミ (ID: SxTeFhog)
>>137おまささん
語彙力が高くて、知らない四字熟語や単語が多くて驚いきました。カキコ、たまにすごい方がいらっしゃる。おまささんはまさに、たまにいる凄い方って感じです。少女の描写にて、人の見た目を表現する言葉ってこんなにあるんだな、と驚きました。
でも折角この文章力と語彙力をお持ちなのに小説の基本的な書き方と少し違ったのが気になったのでお伝えしておくと、『ーーーじゃあ焦ってるの、気付いてるんじゃないの?』とか、ダッシュ(私は罫線──という記号を使用してますが)を使うときは、二つ連ねるのが基本です。三点リーダも同じように、二つ、長くしたい場合は四つ、というのが基本なので、何か強いこだわりがない限りは偶数個使うといいんじゃないかなって思いました。
改行を駆使して、ネット小説ならではの魅せ方をしてるのも特徴だと思いました。
自分に正直になれない、自覚するのが怖い。なにも変われない。諦めたい。思春期の人間なら誰もが抱いたことのある感情が、高い語彙力とともに打ち付けてきて、いい意味でうわあ……てなるお話でした。一生懸命頑張る、て難しいことですもんね。主人公が少しでも自分に誇れる自分を見つけられたなら素敵なことですね。雨は嫌いだけど、あのとき雨が降っていてよかった。名前すら知らない彼女に出会って、変わることができた。雨の憂鬱な雰囲気と前向きな最後が対象的で良いお話でした。
こんな私のちょっとした思いつきの企画にこんなに長文で参加して頂いて、ありがとうございました。このお題にとても真剣に向き合ってくださったのだなと言う感じがして嬉しかったです。良ければまた参加してほしいです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.140 )
- 日時: 2020/09/27 17:10
- 名前: むう (ID: xs010dnc)
お久しぶりです。
受験勉強であまり来れませんでしたが、もうすぐ10月ですね!
10月のお題を思いついたので、良かったら採用いただけると幸いです。
【10月のお題】
1「月夜」
2「運動会なんて嫌いだった」
3「窓」「紅葉」「友情」
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.141 )
- 日時: 2020/09/27 17:53
- 名前: ヨモツカミ (ID: SxTeFhog)
>>むうちゃん
お久です。来てくださって嬉しい。
受験勉強大変だと思うので、無理しない程度に頑張って下さい!
お題そろそろ考えるの大変だったので、すっごい助かる……!
ただ、全部採用してしまうとヨモツカミ手抜きかよ、贔屓かよ、みたいの思われそうなので、そうですねー、3の「窓」「紅葉」「友情」を使わせていただこうかな。ご協力ありがとう!
他の方も思いついたら是非お題載せてみてください、割と考えるの大変になってきたので(笑)こういう作品が読んでみたい、ていうのあれば遠慮なく。
ちなみにヨモツカミは台詞のお題考えるのが一番しんどいです。(何も思いつかないから困る)
私は自分の私利私欲、「こういうお題の作品読みたい」という気持ちを大事にしてます。
早い者勝ちというより、私が気に入ったものを優先的に採用しますので、本当に私の気分次第で選びます。なので、一度採用したくせに変える、なんてこともあるかもしれないです、とても申し訳ないですが、ご了承下さい。
それでもよければお題を考えるのを手伝ってくださる方待ってます!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.142 )
- 日時: 2020/09/27 18:05
- 名前: おまさ (ID: nudONNsI)
>>139
ヨモツカミ様、感想ありがとうございました! とても嬉しいです!とてもありがたいですし参考になりました。ダッシュの使い方とかも以後意識してみます。
ええ、もしかしたらまたこのスレにお邪魔させて頂くかもしれませんが、そのときもどうぞよろしくお願い致します。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.143 )
- 日時: 2020/09/27 19:45
- 名前: おまさ (ID: nudONNsI)
続けてコメントすいません。質問ですが……
>>140の方の3や、お題12のような、「窓」「紅葉」「友情」のようにいくつかの単語がお題になっている場合、それらの要素全てに沿う形の作品を書くべきでしょうか、それともそれらから一つピックアップして書いてもよろしいのでしょうか?
あ、あとたった今思いついたので僕もお題を投げておきます(唐突ですみません)。
1「翠巒は朱に塗り潰されて」
2「木枯らしが泣いた!」
3「拝啓、秋冷の候」
改変していただいても構いません。参考程度にして頂ければ幸いです!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.144 )
- 日時: 2020/09/27 21:03
- 名前: ヨモツカミ (ID: zW4b453g)
>>おまささん
それは三題噺なので、3つ全部絡めたお話を書いてほしいなと思ってました。だから、難易度がやや高めなお題なんですよね。
1「翠巒は朱に塗り潰されて」これかっこいいなととおもったんですけも、翠巒というように、人に認知されてない単語。お題に使うのは向いてないかな……なので、保留とさせていただきます。
お題ってある程度書きやすくないと誰も書きたいと思わないとともうので……
でもご協力ありがとうござきます!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.145 )
- 日時: 2020/09/27 23:04
- 名前: 蜂蜜林檎 (ID: sj/kJ3WU)
お題⑫「 彼岸花、神社、夕暮れ 」
タイトル「 土竜 」
「 彼岸花には触っちゃ駄目よ 」
昔からそう言われて育ってきた。毒があるとか、死体が埋まっているとか、摘むと近いうちに火事がおこるとか。あの紅い花は綺麗な見た目で命までも奪うのだと。
どこかの小学校で下校の音楽が流れる。今、世の中はお彼岸だ何だって騒がしい。墓参りの帰りに偶然立ち寄った近所の神社は、神社なのか目を疑うほどにぼろぼろだった。伸びっぱなしの雑草と、そこらにちらほら咲く彼岸花。毎年行っていた年越しや夏祭りの騒がしい面影は消えてなくなっている。
ふと人がいるのに気がついた。今にも崩れ落ちそうなベンチに、小柄な女が腰かけている。女が着ているワンピースは彼岸花を思わせるような紅。
「 あれ、人いたの 」
そう言って立ち上がる。長いまつげを揺らし、肩にかかるくらいの髪をかきあげる様は自分じゃ言い表せないくらい綺麗だった。
「 誰も来なくってさ。暇してたの 」
「 はぁ、そうですか 」
座って座ってと苔むしたベンチに誘導される。馴れ馴れしく自分の事を話し出す彼女は、私の存在など無視するように喋り続けた。日はもう少しで暮れそうで、でも帰りたくなくて。時々意味の分からない事を言ったが、さほど気にはしない。何故か聞いているのが心地よかった。
「 そろそろ帰ります 」
「 あ、そうなの。またね。いい夜を 」
きっともう会わないだろうけど。
彼岸花。食べたら毒がある。そんなどうでもいい事が頭をよぎって、すぐに消えてった。
家に帰って、寝て、起きて、学校へ行って。気がついたら、またあの神社へ行っていた。女が、彼岸花が座っている神社へ。午後六時を告げる音楽が今日も響く。女は昨日と同じワンピースを着ていて、こちらに気がつくと嬉しそうに手を振る。二人で笑った。昨日会ったばかりなのに、まだお互いの名前も知らないのに。
「 私ねぇ、えーと...ひぃふぅみぃよぉ...五日くらいたったらもう多分いないよ 」
急にそんなことを言い出した。目の前の彼岸花はあたかも当たり前のようににこにこしている。
「 いないって、どういうことですか 」
「 えっとね、枯れるの。ぐしゃぐしゃ~って崩れて 」
彼岸花は近くにいた鈴虫をおもむろに掴み、羽を一枚千切りだす。そして羽をぐしゃりと握り潰して、「 こんな感じ 」と微笑んだ。鈴虫はばたばたと足を動かし、必死に鳴き声をあげる。その様子を見て初めて、なにかがおかしいことに気づいた。
「 ...かわいそうですよ 」
「 なんで ? いずれ皆枯れるでしょ。それより見てよ。この虫、生きようとしてるの。綺麗だね 」
羽とか足とか、生えているものは全部千切った。四肢をもがれてもなお懸命に鳴き続ける虫を、彼岸花は手のひらの上で転がす。愛でるように。
「 ...帰りますね 」
「 じゃあね。また来るんだよ ? 絶対 」
絶対。絶対。絶対という言葉が呪縛のようにつきまとう。明日は行かない。私は行かない。あの神社に。異常だ。あそこにいたら、駄目だ。あの彼岸花は毒だ。
「 どうして来なかったの 」
一日神社へ顔を出さなかっただけで、彼岸花はかなり変わっていた。ワンピースは真っ赤というよりかはどす黒く、くすんでいる。白くて美しかった肌には痣みたいな痕。右の手にはハサミが握られていて、刃の部分が怪しげにぎらぎらと光っていた。近づいてきて、私の心臓辺りにハサミの刃を押し付けてくる。
「 殺すんですか。私を 」
「 そんなことするわけないじゃん。だって大好きだもん。君も私のこと好きでしょ 」
こくり、とうなずいていた。なんで。どうして。勝手に動く頭をどうにも止めることはできない。
「 へへ、嬉しい。私も大好き 」
また、笑った。綺麗だった。でも、気持ち悪かった。
夕焼けに染まる神社は三日前とは比べ物にならないほど寒くて、静か。虫の音もかすれて聞こえる。さっきまで私の首に巻いていたマフラーを彼岸花にあげると、ハサミで半分に切り始めた。若干長い方を私の首に巻き、短い方を喜んで自分の首に巻く。
彼岸花が枯れると言っていた日まで、私は神社に欠かさず通った。彼岸花が好きで、嫌いで。笑った顔とか、声とか、長いまつげとか、さらさらの髪とか、肌とか、全部好きで、嫌い。
「 今日枯れちゃうのかぁ 」
そう呟く横顔はもう前の顔じゃなかった。痩せこけて、醜い。でも綺麗。
「 貴方が、好きです。嫌いだけど、好きです 」
いつの間にか口から出ていた言葉は、二人の間を滑る。彼岸花はもう喋らなかった。枯れた。ずり落ちたマフラーは切ったところから糸がほつれて、直る気配はない。
薄い唇にそっと唇を重ねてみる。温度がなくて、苦くて、甘い。
やっぱり毒だ。触っちゃ駄目だったんだ。食べちゃ駄目だったんだ。彼岸花の毒は時に人をも狂わせる。うかつに触ったら最後、毒に侵される。
彼岸花にまた会う日まで、多分この毒は一生抜けない。
【 あとがき 】
はい、自分でもよく分かりません( 出オチ ) 本当に書いてて謎過ぎました。百合か ? 百合なのか ?
勉強辛すぎてみんつくに逃げてきた次第です。
私、彼岸花は触ったらいけないって言われてきたので...あと彼岸花の花言葉が「 また会う日まで 」とかだった気がするので絶対この文入れねば~と思って書きました。
土竜って彼岸花の毒に引っ掛かって死んじゃうんですって。おばあちゃんの知恵がここで役立つとは。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.146 )
- 日時: 2020/09/27 22:16
- 名前: ヨモツカミ (ID: zW4b453g)
夢オチです。
お題⑩
夜道を全力で駆ける。目の前には若い女が同じくらいの速度で走っている。ヒールの靴では走り難そうだ。彼女はたまにこちらを振り向いては、怯えた顔で、とにかく走る。
俺は包丁を片手に追いかける。
何をしているのだろうか、と思う。彼女との面識はない。街灯すらない道。月明かりだけを頼りに、俺達は走り続けた。
偶々、今日は嫌なことがあって酒を飲んだのだ。上司が俺に仕事を押し付けてきたとか、時間内に仕事が終わらなくて残業をしたとか、帰りの電車が人身事故で遅れたとか。嫌なことが重なって、珍しく飲めもしない酒をしこたま飲んで。美味しくもないし、頭がクラクラして、何だかよくわからなくなる。
深夜を回った頃、俺は最後の酒を一気に煽った。強いアルコールの味。炭酸の弾ける舌触り。
「……美味くねえ」
意識がふわふわするが、それだけだ。なんだか頭が痛いし、体は熱いし。それで嫌なことを忘れられるわけでもない。ムシャクシャする。
明日だって普通に仕事がある。眠い目を擦りながらも、決まった時間に目覚めて、満員の電車に揺られてストレスをためて、胃痛に耐えながら会社に向かって。朝だけでこんなに辛いのに、上司はこちらの気持ちも事情も考えずに、とりあえず仕事を押し付けて。小言を言って。怒鳴りつけて。
それが週五日続いて、二日しかない休みは睡眠に使われる。やりたいこともやれないで、仕事、電車、仕事、電車、ストレス、ストレスストレスストレス。
台所に空き缶を捨てに行くときに、ふと、まな板の上に放置した包丁が視界に入った。その銀色の刀身が、艶かしく輝いているような気がして、思わず手に取る。
包丁。刃物。深夜。
「…………」
なんとなく、だ。特に理由はなかった。アルコールが俺をおかしくさせたのかもしれない。気が付いたら俺は、包丁を片手に外に出ていた。夜風がアルコールで火照った体に心地よかった。
ああ。なんか、いいなこれ。
そのまま俺は散歩をした。特におかしい事はない。片手に包丁を持っているだけだ。それだけ。酔った男が、酔い覚ましのために深夜の道を歩いているだけ、なのだ。
月明かりを反射させて、包丁がギラリと輝く。人に見つかったら終わるな。そんなスリルが逆に心地よいのだ。
そうして、フラフラと道を歩いていると、目の前から若い女性が歩いてくるのが見えた。こんな時間に、と思ったが、多分終電ギリギリに帰ってきた女性とか、そういうことなのだろう。スーツ姿にきれいにまとめられた髪の毛からして、仕事帰りか。
……そういえば俺は片手に包丁を持っている。すれ違うときに、どうすれば。
急に心臓がバクバクと胸を激しく叩いた。見られたらどうなる。どうなるのだろう。夜道で包丁を片手に歩く男、なんて。女の立場からしたら、どうするものだろうか。
そんなことを考えていたら、完全に女性が俺の手元を見ていた。
「ひっ」
「……あ、いや」
女性がわかりやすく怯える。違う、俺はそういう危ないことをしたくて、そんなことで包丁を持ち出したわけでは。
女性が踵を返して走り出す。
やばい。警察に駆け込まれでもしたら、俺は。
俺もまた、彼女を追いかけた。女性は悲鳴を上げて、更に速度を上げて逃げる。
やばい、この状況何なんだ? 俺は何をしている。追いかけて、捕まえて、その後どうする。別に殺すつもりなんてないけれど、彼女は多分包丁を持った男に追いかけられるなんて、生きた心地がしないだろう。
だから、逃げ切られてしまえば。後で間違いなく通報される。
だったら。だったらいっそ、捕まえて殺してしまえばいいのではないか?
いや。何を考えている。人を殺すなんて、何を。
「誰か助けて! 助けて!」
女性が叫ぶ。くそ、そんなに騒いだら人が来てしまうだろう。くそ、くそ。
もう仕方ないだろう。やるしかないだろう。ころせ。ころせ!
「ぎゃあああああああっ」
追いついた。
女性の腕を掴んだ。そうして包丁を振り上げる。恐怖に染まった彼女の顔がこちらに向けられる。
──その背中に、深々と包丁が突き刺さった。
「ぎゃああああっ、あああ!」
引き抜く。纏わりついた血液が辺りに跳ねた。
彼女の体が傾ぐ。地面に落ちた彼女の胴体に馬乗りになると、俺は包丁を無茶苦茶に振りおろして、顔とか喉とか、目とか、鼻とかを切りつけては突き刺して、引き抜いて、それを繰り返して。びちゃびちゃと血液が辺りに跳ねて、俺も彼女も真っ赤に汚れていく。血の臭いが充満して、頭がおかしくなっていく。いや、もっと前から頭はおかしい。でも、なんだかもう、俺は戻れないところに。
「はあ、はあっはあ……」
あれ。
あれあれあれ。
目の前で穴だらけになって、ぐったりと動かなくなった女。それに跨って、俺は血に汚れた包丁を握っている。
なに、
して、なにしてる。おれは、なにをしている。
殺す気なんて、なかったのに。なんで。俺は何をしているのか。
心臓はもう、吐き出してしまいそうなほどに煩く鼓動した。そのくせ、脳は妙に冷え切っている感じがする。
冷静に女性の亡骸を見下ろして、溜息を吐いた。
「……まあいっか」
殺しちゃったものは仕方ない。俺は酔っていたんだ。そもそも、こんなに酔う原因になった会社が悪い、上司が悪い、包丁を持ち出そうと考えさせた酒が悪い、あんなところをこんな時間にあるていた女が悪い、包丁を見て叫んだ彼女が悪い、俺は何も悪くない、悪くないのだ。
何も悪くない俺は、何事もなかったみたいに家に帰って。服や体に付着した血を洗い流して、そして眠ればいい。
そうすれば、明日の朝。起きたら普通に会社に行くんだ。昨日のことは夢だったのではないかと、現な気分で。
スーツを着て、朝食を食べて、玄関の戸締まりをして、電車に乗り込んだ。満員の電車は息が詰まるから、もうみんな殺してしまいたくなる。
ここに包丁があれば、皆殺しにできたかな。
あれ。俺はまだ酔っているのだろうか。
なんだかどうでもいい。
どうでも、いいや。
***
逃げる、というか追いかけるって話でしたけど。最終的には現実から逃げました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.148 )
- 日時: 2020/09/28 10:11
- 名前: ヨモツカミ (ID: 1T0bBlbE)
>>147謎の女騎士さん
参加ありがとうございます。ですが、ちゃんと>>0のルールを読んでから参加してほしかったです。わからないことがあれば聞いてください。
まだ「友情」というお題は出してないです。
そしてそのお題で書くならそれは三題噺になってるので、「窓」「紅葉」「友情」すべての要素を入れた作品を書くこと、がルールです。
それから。2次創作の投稿はしないでください、てちゃんと書いてあります。
せっかく書いていただいたのに申し訳ないですが、スレの趣旨とは大きくずれた作品なので、可能なら削除しておいてくださると助かります。
今度いらしてくださる場合は>>0に記載されている内容を守ってくださいね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.149 )
- 日時: 2020/09/30 19:29
- 名前: おまさ (ID: lQThmWck)
こんにちは。
9月中に間に合わせるため、2日で書きました。そのため少々ぎこちないかもしれませんが、よろしくお願いします。
なお、長くなったので2つに分けています。(続き:>>150)
**********
お題:⑪
題名:『ツキビト』
1(:Preamble)
「知ってる? 月って、同じ面を向けて地球のまわりを回ってるんだよ」
今から結構前のことだ。当時小学5年だった私は、由依のその言葉に「えっ」と一驚した。
由依はそんな私の反応に小さく笑うと、「えっとね」と楽しそうに説明を続けた。
「地球の周りを一回回る間に、月は一回自転するんだ。自転と公転の向きも地球と同じだから、地球から見える月は常に同じ面を向けていて、地球からは月の“表”しか見えてないんだよ」
そうなんだ、と相槌を打つ。
よく図書館に通っていた濫読家の彼女は、そうして本から得た知識を嬉しそうに私に話すのだが、私もその話を聞くのは好きだった。なんというか、見ている世界が広がるような気がしてワクワクするのだ。
「……奏ちゃんはさ、月って綺麗だと思う?」
問いかけに少しだけ思案する。
正直、月の美しさについてあまり考えたことがなかった。だからつい適当に返した。
「月? ……まぁ、綺麗なんじゃないかなぁ」
「“表”しか見えてないのに?」
ーーその問いかけに私は、言葉を返すことができなかった。
【序章-奏の場合】
早坂由依は、特技が多い人間だった。
私のような、常に空気に溶け込むような存在に比べれば、由依にはまさしく「多才」という言葉が似合う。そんな少女だった。
小学生のときには、男子よりも短距離走が速かった。
中学生のときには、美術コンクールで金賞を獲った。
高校生のときには、推薦で某有名私立大に進学した。
華々しい経歴を持つ彼女はその後、大手の証券会社に就職した。
顔立ちと気丈のいい彼氏と付き合うようにもなって、私が彼女に久しぶりに会ったときの笑顔は充実感に満ちていて、前よりも一層と華やかになった。
そんな彼女に対し私は、ある種の羨ましさは感じてこそいたがーー嫉妬はしなかったと思う。
だって嫉妬したところで、きっと由依には敵わないだろうから。他人と比べるのではなくて、自分はただ、自分のすべきことを確実にすれば良い。
それに私は、由依のような人と友達になれたことにむしろ誇りを感じている。
彼女の華やかな記憶の片隅に、少しだけ私の存在があればいいと、そう思うから。
【8月13日-奏】
8月13日。由依から手紙が届いた。お盆近くだったので暑中見舞いには遅すぎるし、残暑見舞いにはやや早い。
わざわざ手紙で寄越すなんて珍しいなと便箋を開けた。
***
ーーーー拝啓、名取奏様。
ご無沙汰しております。今年の夏も茹だるような暑さですが、その後お変わりはありませんか。
私は今、仕事の都合でひと月ほど仙台にいます。東京の蒸し暑い夏とは違って、少し爽やかです。
その後、お変わりはありませんか。
私の方は、先日悟の誕生日でした。彼は今は東京にいて、300キロくらい離れているけれど。
数日後、東京に帰ります。その時にはお土産を贈りますね。仙台の食べ物は美味しいですよ。
お互い、体調に気をつけて楽しく過ごしましょう。
早坂由依
***
読み終えてふぅ、と息をついた。
……やっぱり、由依はすごい。ちょっと前は名古屋にいたと思ったら、いつのまにか仙台にも行っていたなんて。
それだけ忙しいけれど、充実している。私は羨ましかった。由依みたいに、何かに貪欲に食らいつくなんてことは、私にはできない。
悟というのは由依の彼氏で、気立のいい好青年だ。由依も顔つきが整っている方なので、ふたりとも美男美女。それもかなり仲のいい。傍らから見ても、理想的なカップルなのは間違いない。
本当に由依はすごい。秀才で、真面目で、しっかりしている。
ーー由依が頑張るのを見る度、私も頑張ろうという気概を持てる。それもまた、事実なのだった。
【9月4日-奏】
9月3日。今年の夏は終わったとはいえ、残暑は未だこの街から抜けてくれない。
最近何か変わったかといえば、仕事が少し忙しくなった。残業も少しだけ増えた。
それは由依も同じようで、あの手紙以来LINEもEメールも来ない。もっとも彼女の場合、私なんかよりもいい職に就いているので繁忙の度合いも私とは全然違うだろう。
数週間くらい、誰とも連絡を取らない期間はある。
けれど由依の場合、普段なら週末にひとつやふたつくらいメールを送ってくれる分、最近の音沙汰のなさにはわずかな違和感を感じるのだ。
………やはりそれだけ忙しいということだろうか。
つくづく、由依の勤勉さには驚く。学生時代からそうだったけれど、彼女の真面目さはかなりのものだった。どうしてもだらけてしまうような休み時間でさえ適度な緊張感を持っていた。授業で居眠りした姿など一度も見たことがない。
そんな由依だからこそ、激務にも屈せず日々精進しているのだろう。
ーー由依が頑張っているなら、私も頑張ろう。一緒に頑張って、働きを互いに労おう。
夜景がちらほらと覗く、都会の黄昏に染まるプラットフォーム。残業が増えたから、いつもより一、二本後の電車を待ちわびる。
「………、」
ふと。
空に向けた視線の先。夕陽の残滓が未だ残る夜空に、綺麗な満月が見えた。スーパームーンというやつなのか、普段よりちょっと大きくて明るい。
都会の煌びやかさとは違う柔らかな月光。それを見ていると何となくだけれど、夜風も相まって少し落ち着いたような気がした。
激務の合間に、少し一息ついてもらいたいなという、そんなささやかな願いはきっと、届くことはないけれど。
それでも。
ーーあわよくば、由依もこの月を見ていればいいなとぼんやり思った。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.150 )
- 日時: 2020/09/30 19:29
- 名前: おまさ (ID: lQThmWck)
>>149の続きです
******
【9月29日-奏】
9月29日。10月前になって急に冷え込んで、半袖だと少し寒く感じるようになってきた。日も目に見えて短くなったように感じる。
2、3週間前と比べると、最近はだいぶ仕事の方も落ち着いてきた。今日に至っては3週間弱ぶりの定時帰りだ。
少し高めのテンション。不思議と足取りも軽い。自分への労いとして今日は少し美味しいものでも食べに行こうか、そうだ同僚のと飲みに行くのはどうか……とか考えている自分がいるあたり、完全に舞い上がっている。
未だ連絡はないけれどーーーー由依は今頃どうしているのだろう。
ひょっとして悟さんの家にいるのだろうか。きっと由依は私と話すよりも、悟さんと話した方が楽になれると思う。これはお世辞でもなんでもない、心からの本音だった。
実際二人はお似合いだし、悟さんは優しくていい人だと思う。もしかすると恋人と言わず夫婦になるかもしれない。仮にそうなった時、二人は生涯寄り添い続けるだろう。
……そうして幸せに、幸せに時が過ぎて。
由依には、幸せになってもらいたい。
悟さんには、由依を幸せにできる力がある。そして由依も、悟さんを幸せにできる。二人で幸福に、道を歩んでいって欲しい。
そしてその道程にひとつ、自分の存在があってくれれば嬉しい。
ーー幸せな旅路の中で時々、私のことを思い出してくれたらなと思った。
電話で由依の葬式の話を告げられたのはその後すぐだった。
【序章-由依の場合】
名取奏は、器用な人間だ。
私のような、自身を取り繕って他人の評価に寄生して生きているような人間にとっては、その自然さがとても眩しく思えた。
小学生のとき、色々と自分に付き合ってくれた。
中学生のとき、周囲に惑わされず自分を貫いた。
高校生のとき、嫌味もなく進学を祝ってくれた。
高校卒業後、彼女とは年に数回顔を合わせたりする程度の間柄にとどまっている。
彼氏の悟は顔立ちがいいだけだ。奏の前では皮を被っているけれど、そもそも他人の前で偽りの自分を演じている人間なんて碌な奴じゃない。鏡を見せられているようで吐き気がする。それにあいつとの夜も退屈でおもしろくない。結局はあいつが格好つけたいだけで、私を使って自分を慰めているだけなのだ。
ーーこんなことならいっそ、一生独り身の方がましだ。
そんなことは彼氏のいない奏には言いたくないし、言えないし、知られたくない。
………嫉妬、しているのだろう。
奏のまっすぐな生き方に惹かれて。けれどそんな生き方は私には眩しすぎて。無意識のうちに嫉妬していたから、いろいろなことをやった。
美術コンクールだってそうだ。猛勉強して大学に推薦入学したのもそうだ。……躍起になっているうちは、ひととき煩悩を忘れられる。
羨望もしていると思う。私も、奏みたいに正直に生きたい。
けれどとっくに虚構に塗れた私はきっと、一生嘘を吐きつづけるのだろう。
ーーそんな日々から脱却するような器用さは、私にはないのだから。
2(postscript)
冷たい風が吹いていた。
それは路肩の吹き溜まりを散らし、冷気となって耳を刺す。マフラーを押さえつつ、奏はある公園の前で立ち止まった。
時刻は5時半を少し回ったところだが既に日は沈み、都会の喧騒と夜空の静謐が混じった不思議な雰囲気の余韻が、静寂な公園に微かに流れてくる。
由依の葬式は、親族だけで静かに行われた。
死因は、縊死による自殺だった。
9月29日、由依の住むアパートで、クローゼットの中でこときれているのが見つかった。かなり腐敗が進んでいて、おまけに飼っていた猫が死体を喰らっていたとかで、現場は凄惨な状態だったらしい。
……何故、だろう。
あれほど恵まれて、あれほど充実していて、あれほど幸福そうな彼女がーーどうして。
自死なんていう道を、選んでしまったのか……!
分かっているつもりだった。
由依はすごくて、努力家で、明るくて、前を見据えて生きていて。
だからこれからも幸せな未来が続くんだと、そう思っていて。
その果てがこの有様だ。いつのまにか、分かっているつもりになっていた。
『“表”しか見えてないのに?』
ぽつりと、いつかの言葉が蘇ってきた。
今になってみると、それは奏を嘲り舐る嗤笑を伴ったものに聞こえる。
由依の『裏』の存在を忘れて、『表』だけが由依の本質なのだと傲慢にも錯覚していて。そう思って接していた由依は『表』を演じていたのだろう。ーーそうして徒に、由依に心労を煩わせたまま今日までのうのうと過ごしてきてしまった。
だからこれはきっと……そんな由依の演技に気付けなかった奏の罪なのだろう。
由依の虚飾に気付けず、彼女の内の暗澹を看過し続けた愚行の果てがこの有様なら。それは最早、…………私が由依を縊り殺したのと同義ではないのか。
断罪されるべきは、謗られ罵られ贖罪に苛まれるべきは奏であるのではないか。
否、むしろその程度では足りない。奏は梟首に処されることすら厭わないような恥辱と後悔、罪悪感に苛まれていた。
「……ごめん」
嗚咽にも似た謝罪が溢れる。
「ごめん。ごめん。……ごめん…………っ…」
「ごめん、ね………私、ぜんぜん………ゆい、のこと……分かって、あげられな、くて……ぇ………っ」
滂沱が滲み出る。吐露される懺悔を、ただ風の音だけが聞いていた。
返り言はない。当然だ。死者と生者は交われない。
もし由依がいるならばせめて、「お前のせいだ」と罵倒された方が楽だった。
けれど、死した者が二度と口を開くことはない。……死者に許しを乞うことも叶わない。
ーー名取奏が早坂由依に懺悔する機会は、死を以て永久に遠ざけられたのだ。
故にーー名取奏が、赦されることはない。
『“表”しか見えていないのに?』
声がーー否、怨嗟が聞こえる。
奏は半ば無意識に、天球に月を探した。今宵の幾望は夜の澄んだ大気に儚い光を落としている。
月は、綺麗だ。………綺麗なところしか、見えない。
だから。
「明日の月も、綺麗なんだろうね」
掠れた呟きは、闇と夜風に掻き消されて霧散した。
《了》
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.151 )
- 日時: 2020/10/01 20:18
- 名前: ヨモツカミ (ID: 6s7WOz7I)
新しいお題の発表も感想などの返信も目次の編集も明日やります!!!
明日はスタバの新作を飲むので、その時やります!!!
大学芋のフラペチーノです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.152 )
- 日時: 2020/10/02 21:04
- 名前: ヨモツカミ (ID: egTI0EAc)
>>145みつちゃん
雰囲気を楽しむ作品って感じでしたね。私はとても好きですよ。不気味でそこはかとない狂気が含めれていて、ホラーみがあるけど、秋っぽい空気感が、あの秋の肌寒さを連想させるような、素敵な文でした。百合なのも最高ですね。
モグラそんなことあるんですか……だからタイトルが土竜なんですね。なんかエモい。
>>149おまささん
正反対の二人がしんどい……ゆいのこと、ずっと勘違いしていて、本当の相手のことなんてみえてなかったんだな……
お題が一番最後に回収されるのビビりました。そういう繋げかたするのか……! やっぱおまささんの作品て面白いですね。長いですけど、そのぶん、中身がしっかりしてるから読んでいて楽しかったです!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.153 )
- 日時: 2020/10/02 21:09
- 名前: ヨモツカミ (ID: egTI0EAc)
*第4回参加者まとめ
マシュ&マロさん:青春ヤンデリズム(お題⑨)>>133
おまささん:(お題②)>>135-136(>>87続き)
蜂蜜林檎さん:土竜(お題⑫)>>145
ヨモツカミ:夢オチです。(お題⑩)>>146
おまささん:ツキビト(お題⑪)>>149-150
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.154 )
- 日時: 2020/10/02 21:10
- 名前: ヨモツカミ (ID: egTI0EAc)
お待たせしました。10月のお題を発表します。
*みんつく第5回
⑬アンドロイド
⑭「殺してやりたいくらいだ」
⑮窓、紅葉、友情
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.155 )
- 日時: 2020/10/21 19:29
- 名前: ヨモツカミ (ID: rse76r/w)
私も書けてないけど、人があまりにも来なくて笑う……
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.156 )
- 日時: 2020/10/22 08:10
- 名前: 12 (ID: yRc/yJDA)
*>>129の続きです。どんどん、面白いお題が出てきて書きたいのに、いくら書いても終わらなくなくなってしまうの、この世のバグかな?と嘆いております。私だけ他の人より時の進み方遅くしてほしい。他の方々の作品も読みたい……それなのに終わらない……多分次で終わります。これはほぼ確実です……次を更新したら皆さんの作品を読んでいきたいと思います…アーメン( ̄+ー ̄)
高校生になって、僕と君は公立の同じ定時制の高校に進学した。
君は全日制の学校に行くのだと、僕とは違う学校に行くのだと覚悟していた僕は、君から僕と同じ学校に進学をするということを聞いて驚いた。
もしかして僕のせいだろうか、僕が寂しい寂しいといつまで経ってもわがままを言い続けるから。もしそうだったら、僕は君にどう償えばいいのだろう、そんな不安が顔に出ていたのだろう。君は僕の心を読むように、半笑いでこう言った。
「高校には進学したいけど、今は、お金が足りなくて。だから働きながら行ける定時制にしたんだ」
僕の不安は思い過ごし、というかとんだ思い上がりだったらしい。君には君ののっぴきならない事情があった。そして、僕はそんな君の事情を聞いて愕然とした。君の家庭がそんなにお金で困っているなんて、僕はこの時まで全く知らなかった。
よくよく思い返せば、彼はいつも同じような服を着ていて、休日も何故かいつも制服を着ていた。靴も文房具もかなりボロボロになるまで使っていた気がする。僕はそれらの事実を認識しながらも、今の今まで、何も気が付かなかった。
ショックだった。自分がどうしようもないやつだということは常々自覚していたけれど、唯一の友達のことですら、こんなにも何も気が付かずにいたなんて。
「……そ、そっか。そうなんだ」
「あ、そんな気にしないでくれよ!大したことじゃないんだ、本当に」
「……分かった。でも何か僕に助けになれることがあったら言ってよ」
気にしないでくれ、そう言われてしまうと、心配することですら僕には不相応なのだと、そう言外に伝えられてるような、そんな気分になる。いや、君が無自覚であるだけで、事実そうなのだろう。僕ができることなんて、何もない。お金の援助だなんて君の望むことではないだろうし、第一それは僕の親ができることであって、僕にできることなんかじゃない。唯一できる話を聞くことですら拒絶されてしまえば、僕は、僕は。
モヤモヤした気持ちを抱えながら家に帰り、何をするやる気も起きず、そのまま眠りにつくと、なんだかよく分からない夢を見た。
夢の中で僕は植物で、君は僕を育ててくれている。水を与え、土を耕し、日に当て、それらのルーティンをこなさないと、僕はすぐに萎れてしまう。だから君は毎日この面倒なルーティンをこなし続ける。何も言わずに、僕のそばにいる。
現実と何も変わらない、なんて酷い夢だろうと、そう思った。今の僕は植物となんら変わらない、いや植物だって話くらいは聞けるだろう。植物未満だ。ただ生きてるだけ。なんで生きているか分からない。生きるなら、君のために生きたかった。なのに、それなのに、僕にできることは何もないのだ。
ぜえぜえと荒い呼吸と共に目を覚ます。
じんわりと気持ちの悪い汗が身体中に纏わりついている。
中学二年のあの夏から、なんら変わらず、僕は君のことが分からないでいる。分からせてもらえないでいる。
君の内側に僕は入れない。あの優しい笑顔を向けられる度に、僕にできることは何もないのだと、そう思い知らされる。思い知らされる度に、苦しくなる。君とずっと一緒にいたい。だけど、それを口に出したことはない。出せるわけない。そんな資格、僕にあるわけないのだ。何もできないくせに、君を困らせてばかりの僕に。
己の罪は自覚している。けれど未だ贖罪の方法は見つからないままだった。
#
ほどほどに平凡な時間が過ぎていった。
僕は大きく体調を崩すこともなく、今も普通に学校に通えている。
君は学校が終わると、すぐに働きにいってしまって、僕と一緒にいる時間は前より少なくなった。それでも仕事の時間になるまでは、ほとんど僕と共にいた。前より君は細くなった気がするし、顔色も悪くなった気がする。けれども、大丈夫?だなんてそう言うと、君は大袈裟に元気に振る舞おうとするので、変化に気付いても指摘することはしなくなった。
多分、僕はずっとこうなのだろうと思う。
生きていても中途半端、君への気持ちも中途半端、あーだこーだ言いながら、ラインの手前で二の足を踏んでいる。
僕が病弱だからなんてのは理由の一要素でしかなく、僕が何もできない大元の理由は、ひとえに僕がどうしようもなく意気地なしだったからだ。
僕の目の前にあるのは、そびえ立つ岩壁などではなく、やんわりと拒絶を含んだ冷風だけだった。
ただ、一歩進めばいいだけ。
僕には、その一歩が、難しかった。
こんなのは、ただの言い訳にしかならないけれど。
#
ある日、君は無断で学校を休んだ。
おかしいな、だなんて先生が言って、お前は何か知らないか、だなんて聞かれても、何も分からない、何も知らない自分が恥ずかしかった。
君はいつも体調が悪くて休むとき、先生には連絡しても、僕にそれを伝えることはけしてなかった。身体の弱い僕に万が一うつして体調を悪化させることが嫌なのだという。そう言われてしまえば、僕は、ああそうか、とそれを受け入れることしか出来ない。
事実、君と初めて出会った時、僕はこの身体のせいで、君を傷つけてしまった。目の前で、さっきまで遊んでいた人間が倒れて、幼い君がどれだけショックを受けたか。ベッドの上で目を開けて、震えながら心配そうに僕を見つめていた君の表情が今でも忘れられない。
僕が君の表情を忘れられないように、君もまたあの時の光景が忘れられないのだろう。
君は優しいから。弱くて愚かで我儘な、どうしようもない僕を見捨てられない。
嫌なくらいに鮮明な記憶が僕達を縛り付ける。
いっそのこと君と出会わなければよかったのに、と何度も何度も思った。
きっと君がいなかったら、僕はとうに死んでるだろう。君は僕の生命線だ。君の為に生きたいだなんて、大嘘だった。そんな大層なことを言いたい訳じゃない。ただ、僕が君と生きたいのだ。
友情というには重すぎて、恋情というには苦すぎる。
どうしようもない名前のつけられないこの感情を口に出すことは憚られた。
ただ、君を愛していた。それだけは確かだった。
それをもっと、もっともっと早く君に伝えれば良かったと、今になって思う。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.157 )
- 日時: 2020/10/25 09:21
- 名前: 鈴乃リン◆U9PZuyjpOk (ID: DlRNBnVQ)
⑬アンドロイド 『本当の歌』
在る科学者が、歌を歌うアンドロイドを作ったらしい。
そのアンドロイドは凄かった。
どんな歌でも原曲とそっくりな声を出し、人々を驚かせる。さらに機械音だが話すこともできる。この時代ではあり得ない程の完成度。人々からは大絶賛だった。
だが、科学者本人は心に蟠りがあった。
アンドロイド、つまりロボットである。人間ではない。
心を持たないロボットが歌う歌に、心は込もっているのか。また、そのような歌でも人間は納得するのか。
科学者には歌人である友人がいた。その友人から言われた言葉を心で繰り返している。
「……なぁ、お前は今、自分の歌に満足しているか?」
『…………ワカリマセン。』
彼女の機械音が告げた。心がないことがすぐにわかる声。
「もっともっと、素敵な歌を皆に伝えたいか?」
『……叶ウノナラバ。』
その言葉を聞いて、科学者は覚悟した。
彼女がそう願っているのなら__________。
「……俺の“心”で、頑張って歌え。」
アンドロイドの少女は、目を覚ました。
ゆっくりと立ち上がると、目の前に
______科学者の亡骸があった。“心臓辺りが血に濡れている”。
その少女は、やっと理解した。
科学者が自分の心の為に、命を捨てたことを。
彼女は、心のこもった涙を溢した。
♯
かなり遅くなりすみません!忙しかったので……
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.158 )
- 日時: 2020/10/25 21:19
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: WE8rcBdU)
お題⑮ 窓、紅葉、友情
窓の外の紅葉の赤が、余計に目立って見えてしまうのは何故だろう。いささか舞台が揃いすぎているように思うのだ、その葉は日に日に散り減っていくものだから。自分の死が祝福されているようにすら思えて、なら死ぬのも悪くはないのか、と。
だから、自分の心臓の鼓動が止まる瞬間も怖くはなかった。でも、ほんの少し、あと少しだけ生きたかった、と思ってしまう。言い出したのは自分なのに、僅かに後悔する。
カレンダーに貼られた記念日のシールが、午後の夕日を照り返す。窓辺のデジタル時計にうつる日付は、それよりも一週間ほど前のことだった。
□ △ □
「やほ、鹿野(かの)」
軽やかな声が肩越しに掛かって、鹿野と呼ばれた少年は顔を上げた。手に握られた携帯端末の電源を切って立ち上がる。リノリウムの床と椅子が擦れあって音を立てた。
「遅かったな鹿崎(しかざき)」
「タピオカ買ってたのー。マジ梅雨とかウザいんだよね、前髪……」
そう言って、鹿崎と呼ばれた少女は右手を掲げる。握られている容器の周りの水滴が、華奢で白い指を滑り落ちた。カウンター席に座る少年の隣のスツールを引いて、彼女は腰を下ろす。
「ビニール袋有料になったの知らなかったんだけど、ヤバくない? お金足りなくて死ぬかと思ったわ、ママにエコバッグ持ってきてもらわないと」
「どんだけ世間知らずなんだよ……てか何? ビニール袋なんて三円くらいだろ、そんなギリだったの?」
顔を見合わせて笑い合う。高校生らしい軽やかな会話が、僅かに反響して消えていく。
「ねえ、鹿野?」
「んだよ?」
「私と付き合ってくれない?」
は、と微かに鹿野の口から疑問符が零れた。信じられないものを見るような目で、彼は目を動かす。
「……鹿崎は、死ぬのに?」
ぽつりと、そんな言葉がこぼれていた。目に入るのは点滴の台。無意識に逃げようとして、スマートフォンの電源を入れる。そんな少年を見てか見ていないのか、幼馴染の少女はタピオカミルクティーを飲み干した。
「死ぬからだよ」
甘い紅茶の香りがふわりと香る。この場所では大して珍しくもないパジャマとカーディガン姿。メイクして、髪も整えて、そこだけ見れば華の女子高生そのものなのに、異様に白くて細い手がそれを邪魔している。
また一回り細くなったように見える体に、ぎゅっと胸が締め付けられた。
「友達じゃ、ダメか」
ホーム画面を開いて、無意識にTwitterのアイコンをタップする。画面が青く光る。ここまで起動が待ち遠しいことがあっただろうか。
やっと開いたその画面に目を落として、少年はくっと端末を握った。
「男女間に友情なんてものは存在しないの」
ざわざわと、雑音がいやに耳についた。消毒液のような香りが鼻をつく。周りを見回せば、鹿崎のような人間は沢山いるのだ。点滴を打ちながら歩いている者、車椅子に乗った者。
「どうせアニメ好きなアンタなら分かってるでしょ?」
「悲劇のヒロインがお前だってことか?」
「そそ。私は紅葉が散るのを病室で眺めながら死ぬの。すごいよね、私の病室ちょうど紅葉の木の隣なんだよ。なんかもう、死ねって言ってるみたいじゃん」
くすりと笑った彼女の、緩くカールした髪がテーブルに影を落とす。
どうしようもなく笑い飛ばしたくて、でもそんなことは出来なくて。画面に表示された呟きに目を落とした。大きなスマートフォンで表情を隠しながら、少年は呟くように言う。
「…………死ぬなよ」
「アンタが付き合ってくれたら死なない」
さも何でもないことであるかのように、少女はそう言った。延命ということが、どれほどの痛みを伴うか知っていながら。
「分かった」
「じゃあ、二ヶ月じゃなくて四ヶ月、そうでもなくて二年! それぐらい続いて祝えるような関係にしようね」
「分かってる」
そのまま表情を見せることなく、少年は短く頷いた。
友情が、崩れ去る音がした。
□ △ □
窓の外の葉が赤く染まり、散り始め。10月が終わりに差し掛かった頃のことだった。
鹿崎とのLINEに既読がつかない、と鹿野は思う。合唱コンクールで何を歌うかとか、伴奏は誰かとか、そんな話をしていたところだった。もう三日ほどだろうか。心配だが、見舞いに行けるほど放課後が空いていない。
それに手術があるなんて聞いていないし、端末が壊れたと言うのも考えにくい。
諦めてカレンダーのアプリを開いて、コンクールまでの残りの日数を数えた。もうあと一週間ほどで、実行委員としてしっかりやらねば、と思う。
ふと、記念日のマークが目に入る。そういえばもうすぐ付き合って四ヶ月だな、と思い出した。二ヶ月の時は手術が被って結局は祝えずじまいで、つぎは四ヶ月だ。二年で祝えるような関係にしようと約束して、それでも祝うべき時は祝うべきだと彼は思う。
彼女のことを思い出したからか、少し鼓動が早くなった。
まさか、もう、死んでいるなんてことは、ないだろうか。
「ばっ、かじゃねぇの……」
吐き出した息とともにそう呟いて、電源を落とす。期末考査までもう一ヶ月ない。勉強しようと端末をデスクの上に置いた時。
ぴこん、と音を立てて、画面が点灯した。LINEの軽やかな通知音が響く。
『鹿野祥くん、でしょうか。娘が世話になっております。
鹿崎香織の母です。
今日、娘が亡くなりました。急に症状が悪化してしまって───』
ポップアップウィンドウに浮かび上がったその長文を全て読みきることなく、少年はスマートフォンの電源を再び落とした。がたりと音を立てて、端末がデスクの表面とぶつかり合う。知りたくなかった。認めたくなかった。怖かった。
彼は、我知らず叫んでいた。
「主人公は、俺じゃないだろ……! 舞台は揃ってるんだから、主人公はあいつで、だから───ッ!!」
助かるんだろ、という言葉が喉の奥にわだかまる。
ゆっくり顔を上げて、彼は恐る恐る手を伸ばした。もしかしたら。もしかしたら最後に、『ドッキリでしたー!』なんて文字が載っているかもしれないと、そんな期待を抱いて。
……光る画面に映し出された文字が冷酷に、主人公に現実を告げる。
『───娘と仲良くして頂いて、本当にありがとうございました。
きっと、あの子も満足して逝けたと思います。』
友情で踏みとどまればよかった。ずっと無視しておけばよかった。こんな三流ラブコメめいた結末なんて、迎えずに済んだのかもしれない。こうなると決まっていたとしても、恋になんて発展させなければ。主人公は自分ではなくて済んだのかもしれない。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、荒れて、そして凪いだ。無数の後悔を経て、ぽつりと彼は呟く。
「二ヶ月で、ちゃんと祝っておけばよかった……」
(了)
【ライトノベルが書きたかったです。禁書目録の影響を強く受けてざかざか書いたものですよろしくおねがいします】
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.159 )
- 日時: 2020/10/26 15:33
- 名前: ヨモツカミ (ID: C8fSaXV6)
目次の編集とか、コメントとか後でやります、そろそろ月が変わるのでお題募集しております。採用するかは私の気分次第ですが、お暇な方はお題考えてみて下さい!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.160 )
- 日時: 2020/10/26 17:55
- 名前: 鈴乃リン◆U9PZuyjpOk (ID: WMIlYEIo)
お題候補挙げておきます!
文化祭
勤労感謝
立冬
まともなものが無いですがご参考程度でお願いします!←偉そう
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.161 )
- 日時: 2020/10/31 22:19
- 名前: ヨモツカミ (ID: q8fyZOBU)
ハッピーハロウィンですね。私はくら寿司で提灯お化けの和菓子食べてきました。目当ての目玉かき氷は売り切れてましてね、はは。
さて皆さん、寿司屋だからって何でもわさびをつけてはいけませんよ、和菓子にわさびとかね、まじで、やめたほうがいいですよ。
私がくら寿司で何をしたかはご想像におまかせしますけどね……!
まだ誰の作品も読み切れてないのでとりあえずお題の話だけでも!
>>160りんちゃん
わ、文化祭いいな! 文化祭回るのすごい好きなんですよ。みんなが楽しそうだし、ステージ発表系の盛り上がりも、それまでの準備期間も楽しい。
私は毎年コスプレして校内うろついてたなあ。楽しかったなあ。またやりたいなあ……ぴえん、文化祭行きたい……文化祭したいからお題にしましょう。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.162 )
- 日時: 2020/11/02 17:54
- 名前: ヨモツカミ (ID: 9S..LZPo)
*第5回参加者まとめ
12さん:続き(お題いくつだっけ)>>129>>156
鈴乃リンさん:本当の歌>>(お題⑬)>>157
心さん:(お題⑮)>>158
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.163 )
- 日時: 2020/11/02 17:59
- 名前: ヨモツカミ (ID: 9S..LZPo)
おまたせ、第6回のお題を発表します!
お題提供協力してくれた方々ありがとうございます……!(今回マジ一個も自分で考えてない(笑))
⑯文化祭
⑰「笑ってしまうほど普通の人間だった」
⑱愛せばよかった、約束、心臓
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.164 )
- 日時: 2020/11/04 18:25
- 名前: ヨモツカミ (ID: SqV6rSMk)
>>158心ちゃん
ラノベっぽい展開だな、と思ったらラノベだった……しかし、本当のライトとはなんだろう……作品を読むときって、なんとなく続きを想像しながら読んじゃうじゃない? 助からないだろう、なんて最悪の結末を想定して読んでいて、本当はそんなの裏切ってほしかったのに、本当に鹿崎さん亡くなってしまって、うっわ、あああ!!!! てなってました(笑)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.165 )
- 日時: 2020/11/08 11:37
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: 2WotnGCk)
>>164
(深夜テンションで失礼します)ありがとございます。なんかめっちゃエモなお題がある!!と思って書き始めたのは恐らくお題発表があったすぐ後です。書き上げるまでが怠惰
ラノベを読み漁っているとラノベが書きたくなるんです……比較的情景描写を削りめで書いたらラノベではないかと思っています(主観)
人が死ぬ話をみんつく書いてないなーと思ったので書いたような気がする。めいびー。
私見る分にはバットエンドとメリバが好きなんだけど、書くときはめっちゃ幸せにしたいんじゃないだろうかと最近思います。でも彼女の救済ルートはなかった……
あと11月のお題エモですね!! いいですね!! 勉強が一段落してなんかいい感じになったら書きます多分!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.166 )
- 日時: 2020/11/08 12:55
- 名前: おまさ (ID: f3b3.drk)
お久しぶりです。
アンドロイドというお題があったので「書かないでいられるわけがないじゃないか」半ば勝手に書かせて頂きました。すみません……
そんなわけで、遅くなりましたが私小説「ジルク」の書き下ろし短編になります。
ただ、短編ということもあって本編未読の方には少しわからないこともあるかと思いますが、テーマ自体は分かりやすくしたつもりですので、分からないワードはスルーして頂いても何となく楽しめると思います。
「ジルク」の世界観における、いつもと少し違った視点のお話、お楽しみ頂ければ。
***********
お題: ⑬
題名:「An another automata(with its sarcasm)」
続き>>167
ごうごうと、砂嵐が唸っている。
嫌になるくらいの赤砂に塗れた地表。緑も文明もひとしく枯れ果てたその砂漠には、夜風とともに黄昏の帷が訪れてきていた。
日没後の砂漠は氷点下にもなる過酷な土地だ。だから、こんな時間に砂丘を出歩くのは余程の馬鹿か———それ以外。
白磁の玉肌、霓裳の如き煌めきの銀髪。静観するような凪の瞳。小柄で華奢なその美貌は作り物めいているが、どこか婉然とした雰囲気すらも滲ませる。
陽が落ちた砂丘に佇む機構少女〈M-44GN7〉は、目を眇めていた。
「———戦隊各位、応答なし………ボクだけ残っちゃったか」
あたかもお菓子を食べ残してしまったような、そんな声音の呟きだった。
「まいっか。とりあえずポッドまで戻ろっかな。……まったく、47はどこに行ったんだか」
こんな時に限って音信不通の探査型機に恨み言をぼやきつつ、怖いくらいに静かな砂丘を歩き出そうとした時だった。
「あれ……」
ふと、聴覚センサが辛うじて何かを拾った。それを頼りに歩を進める。砂丘の稜線に沿って晦の夜帷を歩いてゆくと、その音の正体が見えてきた。警戒しつつ、砂丘から様子を窺う。
「——、」
あれは———剣戟と、果たしてそう呼んでいいのだろうか。
人影が得物を手に、宵闇を……否、何かを斬り伏せようとしている。
機敏な動きで相手を翻弄するあれは、ひょっとして〈オスティム〉か。大型種ではないけれど、成人男性の身長ほどある体軀は人間にとっては十分に脅威だ。
《視認対象を雷槍駆逐型と断定》
「——っ……!」
インターフェースにブリップが灯るや否や反射的に吶喊しようとする、戦闘機械としての本能をどうにか抑え、〈M-44GN7〉はその戦闘を暫し傍観する。
人影——少年の戦い方は、酷く無様だった。得物の構え方も様になっていないし、一閃の度に剣に振られているような動きが目立つ。技ではなく、力で無理くりねじ伏せるような闘い方。
振って、打ち合って、殴って、抉って、払って、割いて、斬って、躱して。
少年は異様なほど〈オスティム〉に執着していた。相手との間合いを図るような真似はせ
ず、徹底して肉薄してゆく。
けれど、……猪突猛進は時として、ただの蛮勇に成り果てる。
雷槍駆逐型がけたたましく咆哮する。刹那動きが止まったそれに、我が意を得たりと少年が斬りかかる。
〈オスティム〉はぶるりと身を震撼させるや否や、凭れさせていた槍のような部位を持ち上げた。カウンターで仕掛けるつもりか。
故意か、それとも化物としての本能か。〈オスティム〉の体で死角になっていて、少年にはその「槍」が見えない。
———駑馬風情が、衒うな。
そう言いたげな一撃が、少年の心の臓を縦貫する。
……断じて、否。
両者の間に入ったのは、戦場にそぐわぬあまりに脆そうな痩躯。けれどその体軀は、戦闘に最適化されたものだ。
槍柄を横から殴り、〈M-44GN7〉は相対する〈オスティム〉の刺突の位置を逸らし槍撃を回避。呆気に取られる少年を尻目に、幾つかの急所に指で刺突を与える。絶叫が上がる。
間髪入れず、〈M-44GN7〉は背負っていたガンケースを一旦パージし、ケースから飛び出した無骨な狙撃銃を構えた。
——初弾装填。
撃発。
.338口径ラプア・マグナムの自動式狙撃銃がけたたましい爆音で咆哮。貫通力の高いフルメタル・ジャケットは1000メートル毎秒超過の初速を以て大気を縦貫、至近距離で放たれた射撃の、ほぼ減衰されていない運動エネルギーが発砲と殆ど同時に〈オスティム〉の頭蓋と脳髄を食い破る。〈オスティム〉の血潮が大地に篝花を描き、怪物は四肢を震わせて沈黙した。
「一件落着……って、」
「ッ……」
一息つこうとしたが何故だろう。少年はあろうことか、機構少女に刃を向けていた。その形相は、先程〈オスティム〉に執着していた時よりも怒りや屈辱の色が濃い。……怯えも、少々。
思わず、問うた。
「ボク、いま君を助けたはずだけれど」
「——黙れよ、紛い物」
「へぇ、言うね?」
純粋に少し驚いたその反応を、少年は嘲弄と受け取ったようだ。けれど少年には、機構人形相手に掴みかかるといった度胸もないようで、ただ唇を噛むだけに留まった。
錆びたなまくらを構える少年と間合いを保ちつつ対峙していると、少年が口を開いた。
「……訊きたい、ことがある」
「何?」
「———。俺は、アンタらアンドロイドがこいつらと戦ってるところを見たことがある」
少年は、かつて見たある情景を回想していた。それは戦塵と爆轟、砂塵が入り乱れる戦場。そしてそこに吶喊するのは、華奢な少女の姿を模した戦闘機械たち。
彼女らは何の未練も執着もなく、笑いながら砂丘に散っていって。……いっそ悪夢のような光景はけれど、現実のもので。
「壊れ果てて、それでも戦って、戦い続けて。アンタらは何で、戦ってるんだ?」
味方が潰えても戦かず、自らの生にも執着しない。挙句には自爆すら厭わないその姿勢は、なるほど戦士としては赫々たる武勲を挙げるも道理であろう。
けれど、その在り方を———人間のちっぽけな倫理観が、許容できない。
彼女らが作られた存在であることは理解しているつもりだが、また同時に感情と自我を持っていることも知っている。だから尚更に、彼女らの在り方が歪に見えるのだろう。
〈M-44GN7〉は少し考えた後、首を傾げた。
「何でって……そりゃ、ボクはそのための存在だから」
「……そんな寂しい自己定義を、アンタらは容れられるのか?」
「できるできないの話じゃないよ。ボクたちは、そういう明確な目的を以て造られたんだから」
肩をすくめ、〈M-44GN7〉は「じゃあさ、」と首を傾げた。
「君はさっき、何で〈オスティム〉なんかと戦ってたの? いくらなんでも無謀だよ」
「———。それは、人間風情が戦場にしゃしゃり出るなってことか?」
「そうだよ?」
「………っ、」
兵器というものは、古来から人間の道具だ。
けれど、攻撃力を追求するあまり、いつしか兵器はひとのからだを痛めつけるものになり、……戦場においては脆弱なひとの体など、むしろ邪魔になるようになった。
きっとそんなことは、当の人間が最もわかっているはずだ。
それでもなお、戦場から離れないのは。
「俺が…………俺が、コイツらと闘うのは、それが誇りだからだ」
「………誇り?」
「俺は孤児だった。地上では珍しくはないけれど、気付いたら砂の上で寝てた。それからはいろんな人に世話んなった。飯を装ってもらったこともあった。寝床も分けてもらった」
「………。」
「でも11の夜に思ったんだよ。———与えられるだけの人生に媚びて、何の意味があるのかって」
人間とは、万物に意味を求める獣の名である。たとえそれが意味のない命題であっても、意味を確認しない限り、ヒトはその存在を認めない。
だから。
「こうして闘ってるのは……うまく言えないけれど、多分存在証明なんだと思う」
「……でも、闘って散る以外にも存在証明の方法があるとボクは思うけど」
「安寧に溺れたくない。———与えられた平穏を貪る、無様な豚に成り下がってたまるものか」
少年は言い切る。
仮に魂を散らそうとも、不侵の高邁さは躪らせまいと。
「……無様?」
小鳥の囀るような声だった。
機構少女は、くつくつと肩を揺らして哄笑している。
「無様、かぁ。……よりにもよって、そんな下らない理由で。そっかぁ」
そして———、
「お前なんか、生きてるくせに」
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.167 )
- 日時: 2020/11/14 16:04
- 名前: おまさ (ID: f3b3.drk)
「お前なんか、生きてるくせに」
弾けるような微笑みに含んだ声音だった。
そのくせ、どろりとした渇望と怨嗟に塗れた声音だった。
白銀の双眸に羨望と憎悪を滾らせ機構少女は嗤う。……心底羨むように。嫉妬するように。
「本当は、君はそんなこと望んでないんじゃないの? 本当は、自分の存在なんて判らないんじゃないの?」
「そ、れは……」
「判らないのが嫌で、自棄になってるんじゃないの? ———そうやって君は思考停止の末に、せっかくの命をかなぐり捨てようとしてるんじゃないの?」
後半は嫉妬を通り越して侮蔑も滲むような嗤笑を以て、機構少女は少年を糾弾——否、啓蒙している。
「その歪んだ価値観、一度撓めた方が君のためだよ。そんな生き方は、あまりにも勿体ない」
自分にはない「命」というものを持っているのに。 それを、……あろうことか投げ捨てようとは。
よくも、ぬけぬけと。
命の容れ物であるヒトが、模造品に過ぎないアンドロイドに命の価値を問われるとは、まさしく皮肉と呼んでいいものだ。
「……お、れは、死にたくは、ない。死にたいとは、思って、ない!!」
「けど、生きていたいとも思わないんでしょ? ———それはもう、死んでることと同じだよ」
「っ!?」
生きる意味なんて、ない。
生物には本来、そんな命題に答える余裕などない。ただ、生きるのに必死なだけだ。生命の樹形図の延長線上にいるヒトの生にもまた、意味などという高尚なものはない。
故に、ヒトを生かすものがあるとするなら———ヒトはそれを、「目的」と呼ぶ。
人生における「目的」は人によって千差万別だが、人類という種の観点からすれば「目的」は共通する。
……そう。
浮世に生きとする者は——たとえ蟭螟であっても——生まれ落ちたその瞬間から、「死」に向かって生きている。誰しもが例外なく、死ぬために生きている。
そしてその誰しもが例外なく、生への執着を持って生きている。それらの執着がなくなることがもしあるとすれば、それは命が潰えたとき。
だから、生きていたいと思わなくなったことは、『死』んでいることと同義なのである。
「———」
一瞥を向けた先、少年は呆然とした面色で、構えていた得物をゆっくりと下げていた。
「……あーあ、今回はこんな幕引きか」
聴覚センサに微かな反応があり、〈M-44GN7〉は後方に目線を向ける。
見れば、〈オスティム〉が唸りながらじりじりと迫ってくる。兎ほどの大きさの小柄な〈オスティム〉だが、群れているそれらが一斉に飛びかかれば、アンドロイドとて無事では済まない。
群れのうちの一頭がぴくりと耳らしき部位を動かした瞬間、白群の〈オスティム〉は牙を鳴らして吶喊した。
一頭が〈M-44GN7〉の臀部に食らいつく。
《警告》
《大腿部アクチュエーター大破》
《N9バイパス破損。したがってこれを破棄。以降はG12バイパスへ流動切替》
《第108から112番疑似神経回路、断裂》
インターフェースに警告の文字が、やけに喧しく表示される。
構わず、少年に向き直った。少年は、人型のものが目の前で喰まれるという現実感のない構図に呆然とするほかにない様子だった。
「君は、ボクたちみたいにならなくていい」
《警告》
《インタークーラーに亀裂発生》
《冷却液浸水》
「君は生きてる。 生きているのなら、希望はあるよ。……だって、」
《警告》
《機体の損傷過度により当機体を破《警告》
《警告》《警告》《警告》《警告》《警告》《警《警告》《警《警告》《警《警《警《警告》………。
「生きているんだから。 だから君は、ボクらみたいにならなくていい。……そんな生き方、命が勿体ないよ」
神の理に反した紛い物であるアンドロイド。その存在意義は死して屍を積み上げることだ。紛い物の命だからこそそれができて、………それしかできないから。
本物の命を持つ人間は、色んな存在証明ができる器用さを持っているから。
だからもっと、「生きて」ほしい。
インターフェイスが警告で埋め尽くされるのも構わずに、〈M-44GN7〉は花が咲くように微笑った。
「生きて」
そのまま、機構少女は地面に転がった。
少女の左脚は根元から千切れ、右腕は関節の数が倍になっていた。
視力は死んだ。鼓膜も既に残っていないけれど、金属製の骨盤が脊骨から外れる音がした。
右脚の根元から入った牙は、眼窩から侵入した牙と体内でぶつかり、そのまま横へ横へと機械仕掛けの臓腑を喰い荒らしながら進む。
声帯とともに脳髄が引き抜かれ、下垂体にも亀裂が走る。
最後に、残った綺麗な顔の皮が剥がされ、頭蓋に爪が迫り、そのまま『死』に陵辱される。
…刹那。
少女の骸が青白く発光したかと思った次の瞬間、——少年の網膜を暴力的な白光が灼いた。
自爆。
至近距離での爆発に少年は吹き飛ばされ、砂の上を転がった。次いで耳朶を殴る爆発音と、ぴりぴりと産毛を焦がすような熱が殺到する。
その衝撃波と爆風を至近距離で浴びた〈オスティム〉は当然無事では済まない。抉れ出た内臓は爛れ、色々欠け落ちた魂の抜け殻だけが残った。
当然だが、機構少女「だったもの」は爆散し、完全に沈黙。
———最期まで、その頬を微笑に歪めたまま、機構少女は砂に斃れた。
*****
〈オスティム〉に覆い隠されて見えなくなるまで微笑を保っていたアンドロイド。しだいに夜風がさらってきた砂に犯されてゆくその骸を少年は見ていた。
「…………、」
気付けば、いつの間にか剣を取り落としていた。砂に落ちた得物を拾い上げようと手を伸ばして、そこでふと伸ばした手を止める。
『生きて』
……自分は、思考停止の末に生きることを諦めたのだろうか。闘っているのは、もし命を落としてもそれが戦闘に依るものだと言い訳できるからなのか。
それは判らない。けれどもし、先のアンドロイドが語ったもの——戦う以外に、自分の存在を確定できるものがあるとするならば。言い訳を考えて死ぬよりも遥かに綺麗な生き方ができると思った。
それに。
戦い続け、戦うために余計なものの一切を切り捨てた果ての姿がアンドロイドなのだとしたら。
……あんな。
『お前なんか、生きてるくせに』
あんな姿に成り果てるのは———どうしても容れられなかった。
少年は、剣柄に伸ばしかけた手を引き、晦の暗い砂漠を歩き出した。砂地を歩くのは慣れているはずなのにその足取りはどこか拙い。
この先、自分がどこに歩いてゆくのかはわからない。そんな不安もあった。
ただ、戦い抜いたその先で羅刹のように笑うのは嫌なのだと。
———そんなささやかな主張を見届けるはずの月も、晦の今宵に限りいなかった。
《了》
******
ちょっと専門用語(主に銃)があったので注釈をば。
・砂漠
夜になると寒くなるのは、植物など地中の熱を遮るものがないため、熱が大気中に放出されやすいから。あと、砂漠=砂丘みたいなイメージがありますが、世界の砂漠の大半はネバダ州の砂漠みたいに岩盤が露出してるタイプです。因みに、作中で出てくる砂漠はナミブ砂漠を意識してます。
・338口径が〜
実在する90年代のライフル用弾。飛距離は結構いい。.338ラプア・マグナム弾のバリエーションのうち.338口径 ロックベース B408が完全被甲弾ですね。
作中の時代背景に合ってない気がするけれど。
・フルメタルジャケット(FMJ)
微笑みデブは関係ないです。
完全被甲弾……つまり、弾を完全に硬い金属で覆った銃弾です。普通の弾は鉛でできているので着弾した時に潰れてかなり甚大な被害を出すので、陸戦条約でFMJを使うように定められてたり。徹甲弾(APSS)も似たようなものですが、あちらはタングステン鋼で弾を覆ってます。
長文失礼しました。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.168 )
- 日時: 2020/11/08 13:34
- 名前: おまさ (ID: f3b3.drk)
h
ttps://w
ww.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=article&id=2158
↑>>166-167の挿絵というか、まぁそんな感じのものになります。
なんか色々書き込みしちゃってすみません……
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.169 )
- 日時: 2020/11/14 16:19
- 名前: 12 (ID: ozsBeSlc)
*>>129の続きです。どんどん、面白いお題が出てきて書きたいのに、いくら書いても終わらなくなくなってしまうの、この世のバグかな?と嘆いております。私だけ他の人より時の進み方遅くしてほしい。他の方々の作品も読みたい……それなのに終わらない……多分次で終わります。これはほぼ確実です……次を更新したら皆さんの作品を読んでいきたいと思います…アーメン( ̄+ー ̄)
高校生になって、僕と君は公立の同じ定時制の高校に進学した。
君は全日制の学校に行くのだと、僕とは違う学校に行くのだと覚悟していた僕は、君から僕と同じ学校に進学をするということを聞いて驚いた。
もしかして僕のせいだろうか、僕が寂しい寂しいといつまで経ってもわがままを言い続けるから。もしそうだったら、僕は君にどう償えばいいのだろう、そんな不安が顔に出ていたのだろう。君は僕の心を読むように、半笑いでこう言った。
「高校には進学したいけど、今は、お金が足りなくて。だから働きながら行ける定時制にしたんだ」
僕の不安は思い過ごし、というかとんだ思い上がりだったらしい。君には君ののっぴきならない事情があった。そして、僕はそんな君の事情を聞いて愕然とした。君の家庭がそんなにお金で困っているなんて、僕はこの時まで全く知らなかった。
よくよく思い返せば、彼はいつも同じような服を着ていて、休日も何故かいつも制服を着ていた。靴も文房具もかなりボロボロになるまで使っていた気がする。僕はそれらの事実を認識しながらも、今の今まで、何も気が付かなかった。
ショックだった。自分がどうしようもないやつだということは常々自覚していたけれど、唯一の友達のことですら、こんなにも何も気が付かずにいたなんて。
「……そ、そっか。そうなんだ」
「あ、そんな気にしないでくれよ!大したことじゃないんだ、本当に」
「……分かった。でも何か僕に助けになれることがあったら言ってよ」
気にしないでくれ、そう言われてしまうと、心配することですら僕には不相応なのだと、そう言外に伝えられてるような、そんな気分になる。いや、君が無自覚であるだけで、事実そうなのだろう。僕ができることなんて、何もない。お金の援助だなんて君の望むことではないだろうし、第一それは僕の親ができることであって、僕にできることなんかじゃない。唯一できる話を聞くことですら拒絶されてしまえば、僕は、僕は。
モヤモヤした気持ちを抱えながら家に帰り、何をするやる気も起きず、そのまま眠りにつくと、なんだかよく分からない夢を見た。
夢の中で僕は植物で、君は僕を育ててくれている。水を与え、土を耕し、日に当て、それらのルーティンをこなさないと、僕はすぐに萎れてしまう。だから君は毎日この面倒なルーティンをこなし続ける。何も言わずに、僕のそばにいる。
現実と何も変わらない、なんて酷い夢だろうと、そう思った。今の僕は植物となんら変わらない、いや植物だって話くらいは聞けるだろう。植物未満だ。ただ生きてるだけ。なんで生きているか分からない。生きるなら、君のために生きたかった。なのに、それなのに、僕にできることは何もないのだ。
ぜえぜえと荒い呼吸と共に目を覚ます。
じんわりと気持ちの悪い汗が身体中に纏わりついている。
中学二年のあの夏から、なんら変わらず、僕は君のことが分からないでいる。分からせてもらえないでいる。
君の内側に僕は入れない。あの優しい笑顔を向けられる度に、僕にできることは何もないのだと、そう思い知らされる。思い知らされる度に、苦しくなる。君とずっと一緒にいたい。だけど、それを口に出したことはない。出せるわけない。そんな資格、僕にあるわけないのだ。何もできないくせに、君を困らせてばかりの僕に。
己の罪は自覚している。けれど未だ贖罪の方法は見つからないままだった。
#
ほどほどに平凡な時間が過ぎていった。
僕は大きく体調を崩すこともなく、今も普通に学校に通えている。
君は学校が終わると、すぐに働きにいってしまって、僕と一緒にいる時間は前より少なくなった。それでも仕事の時間になるまでは、ほとんど僕と共にいた。前より君は細くなった気がするし、顔色も悪くなった気がする。けれども、大丈夫?だなんてそう言うと、君は大袈裟に元気に振る舞おうとするので、変化に気付いても指摘することはしなくなった。
多分、僕はずっとこうなのだろうと思う。
生きていても中途半端、君への気持ちも中途半端、あーだこーだ言いながら、ラインの手前で二の足を踏んでいる。
僕が病弱だからなんてのは理由の一要素でしかなく、僕が何もできない大元の理由は、ひとえに僕がどうしようもなく意気地なしだったからだ。
僕の目の前にあるのは、そびえ立つ岩壁などではなく、やんわりと拒絶を含んだ冷風だけだった。
ただ、一歩進めばいいだけ。
僕には、その一歩が、難しかった。
こんなのは、ただの言い訳にしかならないけれど。
#
ある日、君は無断で学校を休んだ。
おかしいな、だなんて先生が言って、お前は何か知らないか、だなんて聞かれても、何も分からない、何も知らない自分が恥ずかしかった。
君はいつも体調が悪くて休むとき、先生には連絡しても、僕にそれを伝えることはけしてなかった。身体の弱い僕に万が一うつして体調を悪化させることが嫌なのだという。そう言われてしまえば、僕は、ああそうか、とそれを受け入れることしか出来ない。
事実、君と初めて出会った時、僕はこの身体のせいで、君を傷つけてしまった。目の前で、さっきまで遊んでいた人間が倒れて、幼い君がどれだけショックを受けたか。ベッドの上で目を開けて、震えながら心配そうに僕を見つめていた君の表情が今でも忘れられない。
僕が君の表情を忘れられないように、君もまたあの時の光景が忘れられないのだろう。
君は優しいから。弱くて愚かで我儘な、どうしようもない僕を見捨てられない。
嫌なくらいに鮮明な記憶が僕達を縛り付ける。
いっそのこと君と出会わなければよかったのに、と何度も何度も思った。
きっと君がいなかったら、僕はとうに死んでるだろう。君は僕の生命線だ。君の為に生きたいだなんて、大嘘だった。そんな大層なことを言いたい訳じゃない。ただ、僕が君と生きたいのだ。
友情というには重すぎて、恋情というには苦すぎる。
どうしようもない名前のつけられないこの感情を口に出すことは憚られた。
ただ、君を愛していた。それだけは確かだった。
それをもっと、もっともっと早く君に伝えれば良かったと、今になって思う。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.170 )
- 日時: 2020/12/01 19:05
- 名前: ヨモツカミ (ID: k04O7tlk)
12月になりましたねー!?!
お題考えてないやてへぺろ!!!!
人くる頻度減ったし今回お台無しでもよくね? とか思う反面、やっぱ考えなきゃとも……うーん、このまま私が思いつかなったら12月のお台無しね(笑)
参加お待ちしております!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.171 )
- 日時: 2020/12/05 05:24
- 名前: ヨモツカミ (ID: 8iPtY1IM)
考えた結果、特にお題思いつかなかったし、お題はまあ、たりてんだろってことで、新しいお題の追加はやめておきます。
あんま人も来なくなってしまったし、まあ、私も書き途中の作品あるし、なんか、うん、ねむいのでこれで。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.172 )
- 日時: 2020/12/22 22:14
- 名前: Thim (ID: vMCZimuM)
Thimです。つい最近、よっしゃー!あとはラストシーン書いて終わりだー!って所まで書いたのに保存してなかったせいで全部パアになってしまった、Thimです。みなさん保存大切に……。
読みたい気分で数人読めたので、投稿します!早く全部読みたいのに、読むのが遅いせいで!上から順にみていっていますので、後半に一切目を通していません!なので矛盾点とか(これ○○でもう言ったよ、とか)があったりしたらすみません!!
12さん
>>34
ひぇ、始まり凄くドキドキする。みてる側から見たら明らかにおかしいのに、その可笑しい奴からの初めて言葉が何か普通過ぎて。
始まりは宇宙人登場か?ってドキドキしていたけど、進んでいくうちに植物お前ー!いい奴だったのか!そうだよな、急に自分がそんな姿になったら……そしてそんなことになってもそれでも誰かに気を使えるの、とてもすごい事だよ!と思いつつ、語り部の彼「俺」さんも、寝起きで急にそんな事が起こって、自分は何も悪くないのに最終的に一緒に過ごすことを提案するなんて、いい人(?)達ばかり……。
両親の呵責→良心の呵責?
二人で平穏に、家族のように過ごしていたのに……なぜ!そしてここでおわるんかい!さっきまで暖かい雰囲気だったのに、急に冷たい雰囲気になって、その書き分けもすごくて、すごく!好き!です!!早く続きを読みたい!でも私は読むのがとても遅い!自分が憎い!!
スノードロップさん
>>36
『神様の会話』は読んだことがないのですが、とても短かかったのでさらっと読めましたので感想をと。
福禄寿さんが説明なしで出てきたので誰だ!?ってなったのですが(笑)。その後一体何があったんだろう、と気になってしまいました!先に心さんが言われていたように、普通の書き方の奴でも読んでみたいです!また描写とか付け足して、リメイクを上げ直したりはなさらないんでしょうか?(あ、これはヨモさんからのお許しが出ればなんですけど!)
心さん
>>37
読み終わって、ん?正体?見た目ちゃらめ彼女と彼氏君の話じゃないの?と思っていて全然分かんなかったんですけど、他の方のコメント見てえあー!あれか!あれなのか!!ってなりました。
なるほど。確かに叩いたり、自転車に乗ってるのに目が合ってるのかとハテナだったのですか。はーーん!そういう事か!謎は全て解けた!(人のお陰で)
ひゃー。でもそう考えると自分も気を付けなきゃですね。でも自分のもこう考えていてくれてたら、とか考えたらなんだか愛おしくなってきますね(笑)
ぶっちゃけ、一人で読んでいた時は未来の話でアンドロイドかなにかかな?とか、とんちんかん(でも機械と言う面では一緒ですよね!ポジティブ!)なこと考えていました!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.173 )
- 日時: 2021/01/04 15:46
- 名前: ヨモツカミ (ID: IN1GbSPA)
あけましておめでとうございます、お題……考えるのが……面倒なので……とりあえずスレは上げておきます。
今年もよろしくお願いします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.174 )
- 日時: 2021/02/01 20:30
- 名前: ヨモツカミ (ID: b4Zqa20o)
今年が始まって一ヶ月が過ぎました。はやい。
折角なのでお題新しく考えました。
参加してくださる人待ってます!
*第七回
⑲きす
⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
㉑嫉妬、鏡、縄
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.175 )
- 日時: 2021/02/01 20:38
- 名前: ヨモツカミ (ID: b4Zqa20o)
*第6回参加者まとめ
おまささん:An another automata(with its sarcasm)(お題⑬)>>166-168
12さん:>>129の続き>>169
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.177 )
- 日時: 2021/02/02 13:32
- 名前: ヨモツカミ (ID: IO4DrQxU)
>>176 muteRさん
はじめまして。興味を持ってくださってありがとうございます。好きなお題を選んでご自由に参加してください!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.180 )
- 日時: 2021/02/05 19:45
- 名前: ヨモツカミ (ID: l0zvL9NI)
まず、そのお題は三題噺です。わかりづらくて申し訳ないです。「㉑嫉妬、鏡、縄」の要素を入れて書いてください。
お題からして違ったので内容は読んでませんが、自分の文章がおかしいのがわかっているならご自分で何度も読み返して直してはいかがでしょうか。
それから小説を真面目に書く気がお有りでしたら、小説の書き方の基礎についてご自分で学んでから出直すべきだと思います。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.181 )
- 日時: 2021/02/05 22:11
- 名前: Thim (ID: XIMmHpeQ)
>>5>>26 続き
棘を彼女の胸から抜き、そっと地面に横たえ、苦しみ一つない表情で眠る彼女を見つめます。
さっきまで、彼女の歌声があんなに辺りに響いていたのに。今はこの世から音が消えてしまったように、静かでした。
月が沈み、太陽が昇り始めて暫くしたころ。薔薇の木が悲し気に枝を揺らし始めました。
「あぁ、どうしましょう。小鳥は死んでしまった。せっかく薔薇が咲いたのに」
ぼんやりとしたまま揺れる枝の先を見ると、彼女が咲かせた赤い薔薇は、最期まで希望に満ち溢れていた彼女のように凛とした様子で咲いていました。
薔薇の木の嘆きの声は続きます。
「このままでは、青年に薔薇を届けられないわ。せっかく小鳥が咲かせたのに!」
その言葉に急激に脳にかかった靄が晴れていくように、意識がはっきりして行きました。
そしてピクリとも動かない彼女の体にすり寄り、頬を彼女の体に押し付けます。
まだ暖かいのに。
今にも目を開けて。「おはよう」なんて薔薇の木に言って、自分が咲かせた薔薇を見て、「なんて綺麗な薔薇なんでしょう」なんて飛んで驚いて、喜んで青年に届けに行きそうなのに。
彼女は目覚めない。あたりまえです。だって彼女の魂は既に黄泉の国へと渡ってしまったのだから。
彼女の体にすり寄ったせいで彼女の血が顔に少しついてしまった。頬から香る鉄臭い香りが、私の意識を一層覚醒させました。
「薔薇の木さん。その薔薇、私が届けに行きましょう」
私の言葉に、薔薇の木は驚きました。
「それは本当? 本当に薔薇を青年に届けて下さるの?」
「えぇ、必ず。私が、彼女の薔薇を彼の元へ届けて見せましょう」
薔薇の木は枝を震わせ、そして私の元へと赤い薔薇を持ってきてくれました。
あぁ。なんて強い香り。
街の花屋を通った時でさえ、これほどの匂いは嗅いだことがない。先ほどついた鉄の香りすらかき消す、甘くて、頭がくらくらする匂い。ずっと嗅いでいたら可笑しくなってしまいそう。
けれどその赤い薔薇は今までに見たどの花よりも美しく、そして街中で見た人間の子供が持っていた砂糖菓子なんかより、ずぅっと美味しそうに見えました。
可笑しいわよね。ただのお花なのに。
今にも私を刺してしまおうとでも言うように、小さな棘が無数にあったけれど、私はえいやと一思いにそれを咥え、そして彼の家へと走り出しました。
口に棘が刺さってとても痛かったけれど、それを離す事だけはしませんでした。時折香るくらくらする程の甘い香りが私の食欲を刺激したけれど、涎を垂らしながらも我慢してただ走りました。
青年の家は分かるけれど、彼がいつまでその家にいるかは分からなかったから。止まっている暇はありませんでした。
そうしてようやく青年の家に付き、ベランダに飛び乗り古ぼけた窓を覗き込むと、そこは丁度青年の部屋でした。彼は一枚の紙切れにペンを走らせ、時折ため息をついていました。
私はほっと安堵し、ベランダにそっと薔薇を傷つけないように置き、そして青年に気付かせるべく窓をひっかきます。
――開けて、開けて下さい。小鳥の薔薇を持ってきたのです。貴方が欲しがっていた、きっとあなたの愛する人も満足してくれる、何よりも綺麗な薔薇ですよ
そうしているとようやく彼は私に気が付きました。椅子から立ち上がってこちらへ向かってくる彼を見て、私は急いでベランダから飛び降り、近くの物陰へと隠れました。
「なんだ? さっき確かに……。あれ……こ、これは! 赤い薔薇だ!」
青年は無事に薔薇を見つけられたようでした。ずんと疲れたような沈んだ声からパッと明るく弾んだ声に変わり、その薔薇を拾い上げると嬉しそうに部屋へと戻って行きました。
もう一度窓を覗き込むとどったんばったんと騒がしく動き回り、大きな箱から洋服をアレでもないこれでもないとひっぱり出しては着て、ひっぱり出しては着てを繰り返すものだから、部屋は目も当てられないほど汚くなっていったけれど、一目で喜んでいるという事は分かりました。
――あぁ、よかった
私はその場を引き返しました。彼女の薔薇なら、きっとどんな人間だって美しいというはず。だからもう大丈夫だと。
踵を返す私の鼻に、ふわりと彼女の薔薇の残り香が香ってきます。毛並みについてしまったのかもしれない。何しろ、とても強いにおいだったから。
甘い、甘い、脳が蕩けそうなほどの匂いはずっとずっと取れないまま日は過ぎて、とうとう夜になりました。
◇◆◇◆
太陽が沈み月が昇り始めた時、私は我が妻にと狙ってくる殿方を避けて過ごしていました。
多くの方は強さを競うために戦っていましたが、そこで負けた方やマナーの悪い方は直接こちらへやってくるのです。
そして今も一匹、無作法な殿方がやってきました。
「何度も申し上げているように、私は強い方以外と番うつもりはありません」
その殿方は血のように赤い瞳を持っていた。だけど目立ったものと言えばそれ位で、それ以外は凡庸な方だった。確か戦いでも中盤辺りで敗れて居た筈。そんな殿方と番うわけにはいかない。この世界は弱肉強食。少しでも強い遺伝子を取り入れ、子どもを生かさないといけない。だからこの長きにわたる殿方たちの戦いをじっと待ってきたのですから。
私がその思いを伝えても「でも」「だって」と女々しく言い訳をする方を冷ややかに見つめていると、視界の隅に何かが映りました。
それは、目の前にいる彼の目なんかよりも美しく、綺麗な赤色をした薔薇。そう、あの青年が小鳥の薔薇を持って、動きづらそうな服を着て歩いていたのです。
顔は薔薇に負けず劣らず真っ赤に染まっていて、体が固まっているかのように不自然に歩いていました。
そして気づきました。彼は今からあの薔薇を意中の人に渡しに行くんだわ、と。
――そうだわ。少し後ついて行って見てみましょう。
そうと決まれば目の前の雄なんて意識の外。戸惑う彼を置いて、私は青年の後を追います。
自分の体の大きさならば態々隠れずとも人ごみで隠れるだろうけど、何となく見つからないように隠れて歩いてみる。そうして歩いていると前に、人間の子供がしていた“すぱいごっこ”なるものを思い出した。あの頃は人間とはなんて無駄で馬鹿な事をしているのだろうと思っていたけれど、なるほど。これは存外面白い物ね。
青年はずぅっとガチゴチに歩いている。まるで銅像が歩いているかのように。その姿に思わず笑ってしまいました。
大丈夫よ青年。あの子の薔薇ならば、どんな人間だろうと夢中になるに違いないのだから――
***
文字数オーバーで二つに分けました。次で完結です。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.182 )
- 日時: 2021/02/05 22:15
- 名前: Thim (ID: XIMmHpeQ)
>>5>>26>>181 続き
青年の後を追って、この丘の上にある大きな屋敷までやってきました。
(ここに住んでいるやつらは私たちの事が嫌いだから、見つかると大変な目にあうって、前に誰かから聞いた事があるからあまり近寄らないようにしていたのだけど……)
屋敷のお庭には沢山の草花が咲いていました。花屋で並んでいるような物も、見たことのない物もたくさんありました。恐らくこの屋敷の女は花が好きなのだろう。だから薔薇の花を欲したのだ。
だったらきっと喜ぶでしょう。顔も見た事もない女だけど、その女の顔が喜びに染まる姿は容易に想像出来ました。
――なのに
「何です、この薔薇は」
胸元に赤い石を付けた女は顔をゆがめてそう言いました。
青年は、呆けた顔で彼女の顔を見つめています。きっと、私も。なんでそんな顔をするのか分からなかった。だって、貴女が求めていたもののはずなのに。なのにどうしてそんな、汚物を見つけた時のような、道端で力尽きた仲間をみる様な顔をするの。
「なんだか変なにおいがするわ。それに色もくすんでいて、私のドレスが霞んでしまうでしょう。なんてものを持ってくるの?」
「そ、そんな……キミが赤い薔薇を持ってきた人と踊ると言ったんじゃないか! だから僕はこうやって」
「あら。私そんなこと言っていないわ。貴方の勘違いじゃなくって? それに私、このブローチをくださった方と踊ることになったの。貴方のようなセンスのない花を贈るような方じゃなく、綺麗な宝石を送って下さるような、素敵な方よ」
そう言って女は胸元の石――ブローチをそっと撫でました。頬は薔薇のように赤く色付いて、とろりと熔けてしまいそうな目がブローチを見ます。先ほどの醜悪な顔とはあまりにも違ったものだから、別人がそこにいるかと錯覚してしまいそうなほどでした。
「っ! な、なんてやつだ! か、金目のものにつられるなんて、この、汚らわしい売女め!」
「なっ、なんてことをおっしゃるの!?」
「うるさいうるさい! 僕をだましたくせに!」
「きゃあ! いやっ。だ、誰か!」
青年は顔を真っ赤にし、肩を怒らせ、女につかみかかりました。女は顔を青ざめさせながら必死に抵抗します。
「何をやっているんだ! ユリア、大丈夫かい?」
そこに一人の男がやってきました。その男は女の肩を抱き、青年を睨みつけました。女は男に縋りつくようにひしと抱き着きます。体を震わせて青年から身を隠すように、視界に入れないようにするさまは、あまりにも憐れでした。
「おい、誰かこの者をつまみ出せ!」
青年の脇に二人の男がやってきて、離せとわめく彼に聞く耳も持たずさっさと何処かへと行ってしまいました。
私はそれを眺める事しか出来ませんでした。何が起こっているのか分からなかったのです。あまりにも想像と違った現実に、呆けたまま抱き合ったままの男女を見つめていると……。
「本当に何て奴だ。あんな恰好で、あのように小汚い薔薇を持ってきた挙句に、彼女に手を出すとは」
「ははは、まあ彼奴のようなものにはあの薔薇がお似合いですとも。お嬢様大丈夫ですか?」
「え、えぇ。守ってくださってありがとう。……とても怖かったわ。それにあの薔薇、なんだか変な香りがしたの。鉄のような……」
「なんと。何かおかしなものが紛れ込んでいたかも知れぬ。受け取らなくて正解だったな」
「えぇ、あれならうちで咲いている薔薇の方が何倍もましね」
違いない。誰かが言ったその一言で、先まで騒然としていた場が一気に笑いに包まれました。
それを見た私は、私は――
「きゃあ! わ、私コイツ嫌いなの! 誰か早く追いやって!」
「この、不幸の象徴め! 出ていけ! 出ていかねばこうだぞ!」
「もういや。今日は散々だわっ」
◇◆◇◆
気が付けば、屋敷から遠く離れたゴミ捨て場にいました。動こうとすると体の節々が痛み、しばらく動けないほどでした。
それでも、ここにいたらまた誰かに蹴飛ばされてしまうかもしれないと、何とか体を起き上がらせて歩きます。どこか、安全な場所へ行かないと。
ぐったりとした足取りでとにかく前へ、前へと。もう気力も何も残っていなくて、でも生存本能に従って、ひたすらに歩いていました。そう、すぐ近くに馬車がやってきているとは気づかずに。
「あっ、ぶねぇな! ひいてしまう所だったぜお嬢さん」
いつの間にか、道路を横断していたようで、あとほんの少し遅ければ馬車にひき殺されていたところでした。馬車に乗ってひた髭ずらの男はわざわざ馬車から降りて私を持ち上げ、人通りが比較的少ない道路の脇へと連れていきました。私はぐったりと、なされるがまま。地面に下ろされた後はもう歩く気力も起きずに地面に倒れ伏せたまま。
そんな私を心配そうに男は見ていましたが、暫くしてまた馬車へ戻って走って行きます。私は何と無しにそれを見続けました。私のようなものにこんな事をするなんて、物珍しい人間もいるのものだと、そう思って。
その時。少し先の道に、あの青年が、薔薇を持って歩いているのが見えました。
「(彼だわ。薔薇を持っている! でも顔も真っ赤で、ふらふら歩いていて、とても危なっかしいわ)」
見えた青年は、迷子の子供のように顔を汁でぐしゃぐしゃにさせながら、ふらふらと千鳥足で歩いていました。だけど、あんな目にあったのに、小鳥の薔薇を持っていてくれたことが嬉しくて、最後の気力を振り絞り這うようにしながらも、青年の元へと向かいます。
向かってどうしたらいいのかは分からないけど、でもとにかく彼の元へ行かなくては。
しかし。
「っもう、うんざりだ! こんな、こんな薔薇、元から汚らしい色だと思っていたんだ。こんなもの、こんなもの!」
そう叫ぶと青年は薔薇を持った手を大きく振り上げ、勢いよく地面へ投げつけてしまったのです。意味の分からない叫び声をあげると頭を抱えてしゃがみこんでしまいました。
そこにあの馬車がやってきて、動こうとしない青年に大きな声で叫びます。
「オイ坊主! そこにいられたら曲がれねぇよ! ちょっとどいてくれや!」
「ひぃっ」
その大きな声に慄いて、青年は急いでその場を離れました。とても速い足取りで、こちらにやってきた青年は、私に気付かないまますぐそばを通り過ぎていきます。
「な、なんで、なんで僕だけがこんな目に。不幸だ、不幸すぎる。い、今に見ていろ。ヒック……ぜったいアイツらを見返せられるような、凄い研究者になってやるっ」
青年がいなくなったことで、馬車はようやく動き出し、青年が捨てた薔薇を――
グシャリ。
私が薔薇の所まで来れた時には、元の面影はありませんでした。泥にまみれ、見るに堪えない姿となっていました。あれ程綺麗だった薔薇は今や先までいたゴミ捨て場にあるのがふさわしい有様になってしまいました。もう、誰であってもこれを美しいだなんて言う事はないでしょう。
しかしそれでも、あの脳がくらくらする程の甘い香りは残っていました。
私は導かれるように、その薔薇をぱくりと口に含みます。
「ヴゥッ……!」
思わずはきだしてしまいそうな所を、何とか耐えて、噛みしめます。
薔薇は指すような苦みを放っていました。あれ程美味しそうな香りをしていた薔薇は、噛むたび泥やゴミを食べているようなえぐみを放ちます。
それでも、私は薔薇を食むことを辞めませんでした。人間たちが私のことをどんな目で見て居ようが、蹴り飛ばされようが、その場を離れませんでした。
そして最後のひとかけらを食べ終わった時。
――ピィヨ、ピィヨ
あぁ、名も知らない小鳥。貴女の恋というものはこんな味だったのね。
貴女をあの時食べてしまっていたら、貴女もこんな味がしたのかしら。
「ナ゛ァ、アァォ……」
=完=
とにかく忘れないうちに投稿しなきゃ!また消えるかも!と思って投稿したので、読み返しがまだです。なのでいろいろぐしゃぐしゃだと思います。すみません。明日、冷静になってから編集していきます。
私より先におかしなところを見つけられた方は、お手数ですがそっと教えていただけたら嬉しいです!
そして最後に、長らくお待たせしてしまって、本当にすみませんでした!
『小夜啼鳥と』これにて完結にございます!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.183 )
- 日時: 2021/02/11 21:32
- 名前: むう (ID: QQ9u5.zA)
お久しぶりーす!
さて、久しぶりに投稿するぞ。
お題①「きす」よりタイトル「ビターチョコとコーヒー」
********
ずっと前から好きでした、なんて口が裂けても私は言えない。
ラブソングも、恋愛映画も大好きだけど、どこか作り物のような感じがしている。
それでもどこかで君を目で追っているこの気持ちに嘘はないだろう。
――たぶん。
告白とか、自分の気持ちを伝えるとか。
そういう目立つようなことをすぐにできるように
なれたらいいなと思っている反面で、自分には必要ないと距離を置いてしまっている。
「おーい椿木?」
「あ、はい!?」
私は文芸部に所属している。部員はたった三人の同好会のような部活だけど、人付き合いが苦手な自分には最適だった。部室にこもる本の匂いを嗅ぐたびに自分の居場所を改めて感じた。
隣にいた先輩は眼鏡の奥の目を細めて、きょとんと首をかしげる。そのしぐさに私の口の中に苦いものが混ざる。一つ上の吉野先輩。
幼なじみでもなんでもないけど、気づけば好きになっていました。――自分で勝手に。
「文化祭で出す、雑誌のイラストまだできてない?」
「あ、すみません……まだ、です。締め切りいつでしたっけ」
「あと三日後だけど……無理なら美術部員に頼んでみようと思ってる」
私の描いている絵はただの趣味だし、陰の付け方もデジタルイラストも全て感覚でやっているだけだから、美術部員と比べればポッと毛が生えたようなものだ。
それでも先輩は真っ先に私にこう言ってくれた。「絵を描いてくれないか」と。
「椿木先輩の絵ってすごく綺麗で、どうしたらそんなにうまくかけるんですか?」
「うーん、勘かな」
「それ絶対上手な人しか言えませんってー」
一個下の後輩である鈴ちゃんが素直に尋ねてくるけど、いつも私は適当なことを言ってはぐらかす。そう、私は全てにおいて適当に生きている。勉強もテストも、部活も恋も。
勉強は6割取れれば。テストもやれる範囲で。部活は全員入部制で。
恋はもう、流れに乗るまま。
みんながなんでそんなにグイグイいけるのかわからない。告白しました、OKもらいましたでウキウキしている子を見ると殴ってやろうかと思ってしまう。かといって「可愛いアクセ買いに行こ―」とはなかなかならない、変な壁が自分の中にある。
「まあ椿木がいてくれて助かったわ。部活は定員三人からだし」
「まぁ、本読むのは好きなので」
「そっか。コーヒー飲むか? 藤原も」
「あ、お願いします―」
いつから好きになったかなんて聞かないで下さいね、先輩。
気づけばこうでした。
なんでそんなに無気力なんだ、って怒らないで下さいね。
私だってやりたくてやっているわけではないんですよ。
友達の何人かが部活動や恋に熱中している中で私は一人家で漫画やテレビを見てダラダラしてるだけだし、なんかもうどうでもよくなっちゃったりする。そしてそれに慣れてきて、だんだん周りのことに億劫になって。
ああ、自分はどこがずれてるなって、いつも思う。
そして先輩も、こういうのは失礼だと思うけれどもどこか周りに無頓着で。どこか適当で。私よりはきっちりしているけど、テスト勉強はあんまりしてないらしいし、いつもなあなあで生きているとも言っていた。
じゃあ私と何が違うのかな。
渡された、コーヒーの入ったコップの中をぼんやりと眺めながら私は考える。これが私の恋なのだろうか。これが私の学校生活なのだろうか。なんとまあ起承転結のない、薄っぺらいストーリーだ。
キスもしたいと思わない。出来たとしてもへなへなの『きす』。
告白も、相手の名前も聞く気がないけれど。
こんな私でも好きな人がいましたって伝えたら世間は笑うだろうか。
その人も私と同じようなことを考えて生きていて、似てるなって思っていましたと言ったら、引かれたりしないだろうか。こんな恋でも、「それも恋だ」と言ってくれる人がいるだろうか。
あまり起伏のない毎日だけど、私の横で笑ってくれる先輩が好きだと、そうはっきり告げられるようになれば、私の中の悪い怪物もなくなるのかな。
――わかんないね。
〈完〉
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.184 )
- 日時: 2021/03/16 23:44
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: JeNmIPUo)
>>172 ティムさん
ありがとございます! そう、なんだかんだで自分のやつ家族よりも長い時間を共にしてる説ありますからね(??)。大切にしてあげたい……
そしてこれはクリスマスに書こうと思ってたやつでした……よろしくお願いします…………ちょっとファンタジーなのかな。禁止ワード対策で言葉回しが迂遠になってる所があるかもです
━━━━━━━━━━━━━━
お題⑭「殺してやりたいくらいだ」
作品名「君に贈る」
吸血鬼の弱点とされるもの、それは聖水であったり日光であったり銀であったりする。
そのどれもが全ての家庭に揃っているかと言うとそうではない。しかし、この辺りの住人は昔から吸血鬼を恐れて暮らしてきた訳であるから、この三つのうちのひとつぐらいは家に常備してあるのだ。
だが、街外れに越してきたその家は特別貧しいようだった。何故か四人家族全員が農作業のひとつをする気配もなく、どこかへ働きに出ている気配もない。今なら解る、そんな家が高価な聖水や銀を買えるはずもなかったのだ。だが、生き残った少年には、それが酷く不当で残酷なことのように思えた。
それは聖夜、クリスマスの日の事である。疎まれ続けてきた吸血鬼であれど、その日くらいは祝宴を催したかったのだろう。彼ら彼女らが会場に選んだのは、その街外れの家であった。
結果から言うとするならば、その四人家族はひとりの少年を残して全員が死亡した。体内の血という血を吸われ喰らわれた結果である。しかしいかな吸血鬼とはいえ、体内の血を全て飲み干し喰らい尽くすなど、普段からすればありえない話ではあった。三人の血が特別好みなものであったのか、それともそうせざるを得ない何かがあったのか。
しかし、ひとり残った少年にとってその事由などどうでもいいことであったのである。
憎悪と恐怖が混ざりあったその場を発見した時、彼が何を目指し始めたのかは自明の理であった───
雪が降っていた。どこからかクリスマスの歌が聞こえてくる。それに加えてこどものはしゃぐ声と言うといささか定型であろうか。しかし、白い雪に緑や赤の電飾が色のついた影を落とす光景は、中々に美しいものである。
大通りを一歩抜けたところにある路地裏、そこには一転して静寂が落ちていた。雪が軋む微かな足音が二人分響いている。
「あなたのことが好き」
銀髪の少女は、目の前を行く男の背へ向かってそう告げた。赤と緑、色違いの両目が反応を伺うように細められる。男が足を止める気配がないからか、口元がどこか挑戦的に釣りあがった。自分の恐ろしさを知らぬから、こんな真似ができるのだ。少女はそう思考する。とはいえ今は年端も行かない少女の姿、それにこの男に翼は見えないのだったか。
口元から吐き出される息と同じくらい白い肌。そしてまるで少女と大人の女性の狭間のような、そんな美しさを持った怜悧な顔立ち。
およそ人間ではありえない、そう思わせるほどの美貌である。
完璧という言葉を体現したかのような少女、しかし異形が背中にひとつ。それは音もなく空気を揺らしては、降る雪を辺りに舞い散らせる。
それは翼。肩甲骨付近から生えているであろうそれは、まるで夜空を貼り付けたような、僅かなきらめきを伴っていた。およそ鳥のそれではない。どちらかというと蝙蝠(こうもり)に近い形状をしている。ならばそれは悪魔か、もしくは───吸血鬼と称される類いのもの。
数歩分は空いていた距離を、その翼をかすかに動かして詰める。空気が動き、重力に引かれて落ちていく雪がその向きを変えた。
「聞いてる?」
近くに少女が歩み寄った気配を悟りながらも歩みを止めず、答える素振りすら見せない青年に痺れを切らしたのか。彼女は青年を抱きこもうとするかのように腕を搦めた。それを振り払うことはせずに足を止めた彼、その黒の瞳へ微笑みながら己の顔を映りこませる。
可憐というよりは妖艶といった言葉が似合うその少女は、先程の続きを歌うように語り出した。
「お馬鹿さんなところ、ヘタレなところ。なのに意外と真面目なところ。全部大好きよ、ヒューゴ」
そう告げられて、ヒューゴと呼ばれた青年はくすくすと微笑んだ。頭が僅かに傾けられ、刷毛ではいたような銀色が混ざった黒髪を揺らす。
「僕はもしかして貶されているのかな? それにしてもこんな綺麗なひとにそんなことを言ってもらえるなんて、男冥利に尽きるというものだ……ねえ、お姫様」
彼女のゴシックロリータとでも形容できる服装を見てとってか、どこかからかうような調子を帯びて言葉が発せられた。
「あら、それは承諾してもらえるということ? 後、何度も言っているはずだわ……私の名前はミア。それ以外で呼ばないで」
「何をだい、と問いたいところだけれど、それはつまりきみがしつこく僕に言い続けてることでしょう? ならずっと無理って言っているよ、そろそろ諦めたら? ああ、きみの名前はそういう意味か。僕はもう既に私のもの、と」
「よく分かったわね、そういうことよ。名前の意味まで知ってる博識なところ、そういうのも好きよ」
ヒューゴは動揺の一欠片すらも見せずに、緩やかにミアと呼ばれた少女の腕を退けた。墨を垂らしたかのような黒の瞳を動かして、少女の全身をじっと見下ろす。数瞬後、彼が僅かに息を飲んだようにミアには感じられた。しかしそれはどうやら気のせいだったらしい。何もアクションを起こさない彼に拍子抜けして、吸血鬼の少女は次に告げる言葉を探す。
だが、彼女が口を開こうとするタイミングを読んだように、ヒューゴの方が話し出していた。
「そこで言葉に詰まるの? まあもう良いかな、飽きたなって感じはしていたけれど。……実はね、僕も君に婚約を申し入れようと思って、こんなものまで用意しちゃったのさ。愛してるよ、ミア」
その目の中に、足元の石畳を映しながら。ヒューゴはそう告げる。声音こそ優しく誠実なようでありこそすれ、口元には笑みの欠片すら浮かんでいない。瞳がす、と細まった。ポケットに右手を差し込んで、銀の光を纏う円環を取り出す。
「待って! それは」
「どうして?」
青年の華奢な身体を突き飛ばして離れようとするミアを酷く不思議がるように、かくりと彼は首を傾げる。大切なものを扱う手つきで、当然のように銀の指輪を少女の左手へ嵌めようとした。
が、それは寸前で叶わない。その細腕のどこにそんな力があるのかと思えるほどの強さで掴まれている左手、それをせめてもの抵抗とばかりに少女が握りこんだからだ。
「ね、どうして拒否するの? ミアだって結婚したかったんでしょう、僕と」
「私、銀は苦手で──違う、もしかしてあなたがあの時の子……!? そんな訳ない、だってあなたからはその気配がしないじゃない! いえ、うっすら……? でもこれぐらいなら誤差の範疇、ありえないでしょう!?」
ひどく動揺した様子で、少女はそう呟く。頭が振られると同時に、銀髪がきらきらと光を跳ね返した。
「僕にはお前の翼が見えた。それが証拠だ」
晴れた冬の朝よりも冷たい声で、青年はそう告げた。己の腕の中で、すっかり動揺しきっているのか激しく瞬いている少女を見下ろすと、その声がまるで嘘であったかのように微笑む。
「ミア、きみは……僕がヴァンパイアハンターの一族ではないと分かっていたんじゃないのか? 僕には吸血鬼を殺すことの出来る特別な力なんてない、ただの混ざり物だからね。だからきみにこれを贈るくらいしか出来ない───ああでも、半分ほど混ざってはいるから僕の血は美味いんじゃないかな」
吸血鬼狩りの一族、それは最盛期には貴族の地位すら与えられた特別な血筋。はるか昔、吸血鬼と交わって人外の力を得た一族である。その力が吸血鬼本人を滅することのできるものであったことは皮肉であるが、少なくとも彼ら彼女らはその力ゆえに人外であると罵られ続けることはなかった。むしろ守護者としての地位を確立することが出来たのであるから、それは僥倖(ぎょうこう)であっただろう。
だが、それが血に依存する力であるからこそ、一族は没落していった。当然、結婚を繰り返せば血は薄まる。一族内では純血を尊ぶ思想が強くなり、故に『混ざり物』は忌み嫌われてきた。本家の血筋を半分ほどしか継いでいないヒューゴは、一族の名を汚す存在という扱いだったのである。
だが、そうやって一族の血を残していかなければ──それをいくら彼らが認めなかろうと──吸血鬼の血という恩恵はいずれ消滅してしまう。
穢れと忌みながらも縋るしかないその矛盾、それを思ってか長広舌の最後はどこか嘲笑うような調子を帯びていた。
「純血……だったのね、あなたの家族は……! だから私たちは飲み干さざるを得なかった、あまりにも美味で、まるで麻薬のようだったから。銀も何も持っていなさそうで、この家ならと思って、ただ……」
私たちは生きたかっただけなのに、とかすれた声で吸血鬼の少女は嗚咽する。ただでさえ体力を消耗する冬に、好物を見つけたら。それがなんの防備もしていないとしたら。
生きるためだった。数滴貰って終わろうという話だったはずなのだ。だが、それを彼らの血は許さなかった。飲み干し喰らい尽くすことを、その味が強制したのだ。
「僕の家族だって生きたかったはずだ───死んでいい人間なんてひとりもいないんだから」
そう言うヒューゴの表情を、呆然と少女は見上げた。吸血鬼の血は、吸血鬼が飲んでも美味。そのことに気付いた飢えている吸血鬼の仲間たちは、たちまち同士討ちを始めた。三人の血を吸うなり人を喰らい尽くす獣へと変貌してしまった家族を見て、ミアは絶望したのだ。
危機を感じた少女は必死で逃げ惑って、実際吸われそうになりながらもどうにか逃げ延びた。
その追ってきた吸血鬼の中には、実の父も姉も母もいた。自分の血を吸おうと追いすがってきたのだ。自分はまだ吸っていなかったから良かった、と思う。序列に拘る家であったから、まだ少女の順番は回ってきていなかったのだ。
「家族、ですって? 馬鹿じゃないの、あなたは愛されてなんていなかったじゃない。だから、だからあなたは今生き残っているし、私は死ぬ羽目になってるのよ!! あなたが愛される努力をすればよかったのに……! ううん、あなたは私に感謝するべきなのよ……だって、あんなにも酷く扱われていたじゃない。憎かったでしょ、苦しかったでしょ!? 私たちが殺してあげたからあなたは地獄から抜け出せた! 違う!?」
「地獄かどうかは見方によるね。あの時も外に水汲みにいかされていたお陰で僕は生き残ったのだし……まあ確かに寒かったけれど」
鋭い刃が布を裁ち切るように、ヒューゴは告げる。真っ直ぐに黒と赤がぶつかり合い、先に力を失ったように彷徨(さまよ)ったのは黒の方であった。
刹那躊躇いつつも、それにね、と付け加える。抵抗する力はもうないのか、先程よりも幾分か柔らかくなった少女の手を緩く握りこみながら。
「愛したところで、あのひとたちがそれに応えてくれることはなかったと思うよ───彼らのプライドの高さは異常だったし、だからこそあの三人はきみらに殺されたのだと思う」
傲慢だった継母、実父でありながら冷たく当たってきた父、純血であることを誇示し続けていた義兄。彼らを愛してしまうことを、自分はきっと止められない。昔の幸せな頃に縋っていたいからだ。母様、と小さく呟いてみる。彼女が病で亡くなってから、全て狂ってしまった。
でも、それでも止められない。自分が愛していれば、その愛は返ってくるのではないかと思ってしまう。対価を期待する愛に意味はあるのか。理性ではそんなことはないと悟っていたのに。
それをはっきり言葉にして、ヒューゴは微笑んだ。
「だけれども、僕の方からそれをやめたら、僕が負けたみたいじゃないか。それに、僕はあのひとたちに恩義を感じていて……だからさ。彼らを殺した君たちを……」
それと同時、そっと彼女の白い指に指輪を通した。左手の薬指、心臓に繋がる血管が流れる場所。雪が彼女の黒服の上で煌めいている。
「ぁ……」
どくん、と心臓が脈打った。
からだがくずれていく。たかだか銀の小さな指輪ひとつとはいえ、左手の薬指である。血管を通って毒が回るみたいに、全身が脆くなっていくのが分かる。銀色の毒が、ゆっくりと、だが確かに彼女の身体を蝕んでゆく。まるで血管という血管全てに水銀を流し込んだみたいに、身体が重い。
無理だ、という思いが過った。この男を堕とすのも、生きるのも。最期にひとつぐらい望みが叶ってもいいと思ったのに。末の妹だったから、なにも願いは叶えてもらえなかった。綺麗な服を買ってほしいだとか、美味しいご飯が食べたいだとか、新鮮な血を吸わせてほしいだとか。
それでもそんな家族と共に生きたいと、そんな願いすら叶わなかったのに。
それに彼と結婚出来ればいくらでも血を吸う機会が訪れるであろうし、彼の血はきっと美味であろうという予感もあった。
だからひとつ、彼に夢を見たかった。
「ねえ、どのくらい? さっき、私のこと、愛してるって言った。どのくらい──どのくらい、私の事愛してる?」
縋るように、崩れかけているからだがその答えをもらえれば治るかのように。必死に、その貌を歪ませながら、吸血鬼は叫ぶ。
もらえなかったものをもらいたかった。極論、誰でもよかったのだ。
「────殺してやりたいくらいだ」
愛なんて分からない、という言葉は口の端に溶かして。彼女に向く自分の感情と呼べるものは、それくらいしかなかった。
かすかに息を飲む音。それは幻聴だったのかもしれない。なぜなら、次の瞬間には吸血鬼の身体は砂となって崩れ落ちていたから。
肢体が白色の砂になって、纏っていた黒いドレスが夜空のようなきらめく砂になり、銀髪がくすんだ灰色の砂粒と化す。漆黒の羽は、まるで風に吹き散らされる細かい砂のようになって、音も立てずに空中へ消えた。
先程まで彼女が立っていた場所に手を伸ばしてみても、ただ虚空を切るだけだ。
「吸血鬼は死んだら死骸すらも残らない、か」
ルビーとエメラルドが一つづつ、その場に落ちて雪を照らした。それは吸血鬼が希少とされ、また狩りの対象とされてきた理由の一つである───曰く、吸血鬼を銀で殺したなら、瞳からこの世に二つとない美しい宝石が取れると。
電飾と同じ色合いをしていながらも、遥かに高貴なそのふたつ。その隣に、雪を沈ませながら小さな銀の指輪が落下した。
それら三つを一度視界に収めると、青年はかすかにため息をついた。それが美しさに感嘆してのものなのか、ただ疲労によるものなのかは分からない。
次の瞬間には、何事もなかったかのように、ヒューゴはその場に背を向けて歩き出した。目的を果たして、どこへ行くとも知れずに。少女に思い入れなどなかったかのように、その顔にはなにひとつ表情は浮かばない。愛しているなんて。
混ざりものではない宝石と指輪、それらは確かに地面の上で煌めいていた。その三つを隠そうとするみたいに、静かに雪は降り積もる。
(約6000字/了)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.185 )
- 日時: 2021/03/16 22:56
- 名前: ヨモツカミ (ID: HMFpzl4Y)
てぃむさん、むうちゃん、心ちゃん、参加ありがとう。またあとで感想書かせていただきます。
参加者ずっと募集中なので、ルールを読んで気軽に参加してください。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.189 )
- 日時: 2021/04/14 11:44
- 名前: よもつかみ (ID: uM7Mny.U)
>>182てぃむさん
返信遅くなりました。めっちゃ良かった。ちょいちょいおかしな所はないかって気にされてますが、強いて言えば一文に“彼女は…………彼女は、”的な、同じ単語使ってるときがある程度なんで気にしなくていいかなって思います。私はめっちゃ好きでした。
原作の小夜啼鳥と薔薇の花は、鳥ちゃんが「恋はエメラルドより激エモでオパールよりパネェ」とか言って命を散らして、せっかく咲いた薔薇も女性には突っぱねられてしまう。胸糞ストーリーで、しっかり原作リスペクトしつつ、視点主は猫ちゃんかな? 鳥の気持ちを無下にしたくない猫ちゃんのお陰で、鳥ちゃんの気持ちは少しは報われたのかなあって感じでしたね。それでもやはり胸糞だった(とても好き)
とある女性に恋をする青年←に恋をする小夜啼鳥(雌)←に想いを寄せる猫たん(しかも雌)百合じゃん、鳥の天敵である猫たんがそういうの、は??? 好きだが??? 激エモじゃねえか。という気持ちで読んでました。
食べる、というのはある意味愛情表現だと思っているので、きっとこんな味がするのだろうなと薔薇を食べて、猫たんの体の中で鳥が生きるのだとするなら、これはハッピーエンドですよ(※よもつかみの感性は狂い気味なのでお気になさらず)
猫たんも殿方に言い寄られても無視していたし、鳥ちゃんは男のために命を散らすし、どこまでも悲恋のお話で、でもきっと彼女の命で染まった薔薇を口にして、猫たんの中に薔薇があるのなら、それは永遠に彼女と一緒になれたってことだから、やっぱハッピーエンドっすね。
とりま私はとても好きなお話でした。描写とかも良かったし、読みやすかったし、楽しませていただいてありがとうございました。
よかったらまた参加してくださいね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.190 )
- 日時: 2021/04/14 12:55
- 名前: よもつかみ (ID: uM7Mny.U)
>>183むうちゃん
お久です。ピュアラブストーリーかと思ったら苦味のあるお話。これはエモですよ。
恋って、好きでいる間が一番楽しくて、一緒になった瞬間ほしいものが手に入っちゃったからなんかどーでもいーなーて(私個人の感想)なるから、この苦味と痛みを抱えながら好きを胸の内で暴れさせている間がなんだかんだ一番楽しかったりする。
>>184心ちゃん
殺してやりたいくらい、愛してる。クソデカ感情じゃないのよ、やだ好き。でもそこに愛があったのかはわからないのね。恨んでいたのか、少しは愛があったと思いたいな。
ミアは「私の」という意味の言葉なんですね。なんつーか、とても好きだったのだけれど、語彙が消失しちゃって上手いこと言えないな。愛されたかった吸血鬼と家族を殺された吸血鬼狩りの混血。エモだなあ。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.194 )
- 日時: 2021/04/14 20:43
- 名前: よもつかみ (ID: xEmS9dF2)
>>191春寧さん
はじめまして。えーと下手くそ云々の前にお題が、⑨狂気、激情、刃と、この三つを使った三題噺なので、お題ちげぇ……わかんないならわかんないってきいてから書いて……となりました。
まあ、初心者ということなので大目に見ますが、今度から気を付けてください。
感想は、ありがちなストーカーメンヘラだなーと。
アドバイスとしては基本的な小説の書き方(段落とか三点リーダの数とか)そこから学んでから書いたほうがいいかなと。情景描写、とにかく描写が少ないのでフワフワっとした文章だなという印象を受けます。
あと個人的にレス数もったいないからそんな微妙な文字数でレスを分けるな、と思いました。それから書く前にルールを読んでくれたのかな? とか、周りの投稿者のをみてある程度空気読めたはずじゃないかな? とか、ちょっと微妙な気持ちになりました。
と、攻撃力高めのことを書きましたが、だからといって歓迎してない訳ではないですし、初心者として向上心をお持ちならば、人に意見を求めるだけでなく、「基本的な小説の書き方」などを学んでから書くと、もっと上手く書けて楽しいと思います。
それに、お題にそるって部分を楽しんでいただけたなら何よりです。良ければまたお越しください。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.195 )
- 日時: 2021/04/15 21:23
- 名前: 黒狐◆VMdQS8tgwI (ID: ZGVf99pg)
失礼しますっ。
こちらのスレでは初めまして、黒狐です。
前々から参加したいとは思っていたものの、中々アイデアなど決まらず……遅くなりましたがどうぞよろしくお願いします。
(感想・アドバイス大歓迎です! むしろ辛口でも拾っていきますので!)
▢◆▢◆
お題/⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
作品名/神の微笑みを、たらふく。
――分かっている。
私が喧嘩の種を蒔いてしまったのは充分に理解しているのに。あの子はあの子で、冗談を見極められなかったのが悪いんだ、なんてへんてこな自分が現れてしまう。イラついてしまったなら、あの場で私を怒鳴ってくれたって良かったんだ、とか悪魔の化身が脳内に浮かぶ。
目から味気ない涙が垂れて、これにさえも腹が立つ。
「泣くなら、号泣が良かったのに。こんなの」
震えて、ガサガサな声が――あの時のリノみたいな声が、自室に響く。猫の足音だってはっきり聞こえてしまいそうだった部屋に。
なんでこんな思考なのかも知らないまま、目尻を毛布の端で静かに拭って。
▢◆▢◆
「リノはさ、男子と一緒に喋るの好きだよね。大人になったら二股……いや、三股くらいしちゃいそう」
本当に、冗談だったのに。ただのからかいだったのに。わざと大袈裟に笑って、彼女からの面白い返しを待っていたのに。
「そっか。ユイにワタシの事がそう言う風に見てたんだね」
悲しいのか、怒ってるのかが分からないけど、日本語がぐしゃぐしゃになった言葉を震えた声が私の耳を通り抜ける。「ごめんごめん。冗談だってば、もー」なんていつもはするりと口から出るのに、今日は出せなくなっている。肝心な時に、使い物にならない。
「ちがっ……違う……よ、嘘、だってば」
くるりと背を向けているリノに対して、笑顔で言ったつもりだった。いつもの、演技の泣き笑いで言ったつもりだった。
でも、実際は酷く荒んだ声。不安気な表情。
段々と声が小さく、低くなって行ってしまって、彼女の肩を掴む事すら出来なかった。もう、嫌われたくなかったから。
▢◆▢◆
「ばっかみたい」
ぽつん。
ひとりで、抱える。
よく「身近なひとに相談する事だって大切です」なんて言うけど、そんな簡単に相談できるなら自殺願望者なんていない。
でも、神様が微笑んでくれるかもしれないから、なんて思っちゃって、メールのアドレスを漁った。
お母さんじゃ、ない。幼馴染でも、ない。先生は、イヤ。
リノがいいや。でも、それじゃ意味ないや。
――あーあ。愛されたい。
枕に顔を押し付け、声を押し殺して泣く。情けない声が辺りに反響した。
無理難題とか、それ以前の問題だった。
別に、虐待に逢っている訳でも無いし、いじめられたりしている訳じゃない。私よりも大変なひとは沢山居る。でも、私には何か足りない。
――神様、かみさま、カミサマ。貴方様にもう少し愛されたかった。
今この状況よりも、と高望みをするのは罪、でしょうか。
(1041字/完)
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.196 )
- 日時: 2021/04/17 15:50
- 名前: よもつかみ (ID: dcBs9t9Y)
燃えて灰になる
⑱愛せばよかった、約束、心臓
「──真名さえ持たぬ下賤な悪魔よ。私と契約をしなさい」
人里離れた深い森の奥。夜の帳に包まれ、冴えた空気が冷たく肌を撫でる深夜。地面に星の砂で書かれた複雑な魔法陣には、数滴の鮮血が滲み、怪しい紫色の光を放って、暗い森を照らしている。
陣の中では、黒いローブと黒いドレスに身を包んだ、白い長髪の若い女が、ほっそりとした右腕を前に差し出したまま、虚空を睨みつけている。左手には血のついたナイフ。右の手首には深く真新しい傷跡。その血を求める者のために、彼女は自らの腕を切りつけたのだ。
そして、その彼女の正面に立つのは、血を求め、魔法陣に込められた魔力に反応して異界から呼び出された、異形の者。
「おやおやぁ、高貴な魔女様が俺の様な下等な悪魔に頼るなんて。よっぽどのことがあったそうじゃないか? 偉大なる魔女ともあろうものが、暗い冥界を彷徨っては死者の骨をしゃぶって飢えを凌いでいるような、こんな薄汚い悪魔に頼るなんて、」
「無駄口はいい」
人間によく似た四肢もっているものの、その肌の色は蛙のような緑色をしていて、痩せて骨の浮き出た背中からは蝙蝠を思わせる翼が生えている。顔はそれこそ人間とは似ても似つかない、悍ましく、それでいて酷く醜いもの。更に額から伸びる二本の角を見れば、誰もがその者の正体がわかるだろう。
魔女、と呼ばれた女は蒼穹の双眸を細め、凛とした声で言葉を紡ぐ。
「私はお前との契約を求めている。お前は私がこれから言う願いを聞き届け、そしてそれに必要な対価を要求する。それ以上のことは、何もするな」
「ヒヒヒ、魔女様と契約ができるならなんでもいいさ。さて、それではお聞きしようかね魔女様。──汝、我にその願いを告げよ」
悪魔は急に語調を変えて、血のように赤黒い瞳で真っ直ぐと魔女を見据えた。……どれだけ真剣な顔をしても、その醜さは変わらないな。魔女は嫌悪感を隠そうともせずに悪魔の瞳を見つめ返して、そうして静かな声で答えた。
「私にはリナリア──人間の友人がいる。リナリアが幼子の頃から私は彼女を見守ってきた。……私の唯一の友だ。リナリアには、まだ幼い息子がいて……なのに、昔から体が弱くてな。重い病で、もしかするも今夜にでも死んでしまいそうなのだ。だから……だから、」
最後の方の声は、ほとんど消え入りそうだった。
悪魔を召喚するときは気丈に振る舞っていたが、魔女はずっと不安だったのだろう。最初の勢いが嘘のように、魔女は急に弱々しく縮こまっている。迷子の少女みたいに、今にも泣き出してしまいそうだ。
五百年以上を生きる、あの偉大なる魔女が。
その強大な魔力も、恐ろしい力も知っている悪魔としては、笑いを堪えるので必死だった。悪魔とは比べ物にならない魔力を有しながらも、人間の病を自力では直せなかった、というところも面白くて仕方がないが。なによりも、ただの人間を唯一の友と呼んだ事が可笑しかった。いや、それよりも、そんなちんけな生命が潰えることに、これほどまでも怯えていることが。いやいや、そんなに強大な力を持っているくせに最後はこんな卑しい悪魔との契約に頼るところが。やはり、この現状全てが可笑しくて堪らない。
耐えきれずに、悪魔は口が裂けるほど開いて哄笑を響かせた。
魔女のことだから、機嫌を損ねさせれば、右手のひと振りで悪魔を消滅させてくる可能性も考えられた。でも、それはしない。悪魔はどこまでも悪知恵が働くものだ。人間の女なんかにご執心な魔女は、どれだけ馬鹿にされようとも今は悪魔に逆らうことはできないのだ。
魔女は悔しそうに顔を歪めながらも、やはり縋るような視線を悪魔に向けている。それもまたいい気味だったが、そろそろ契約に対して真剣に向き合わないと、本気で消滅させられそうだ、と悪魔は魔女に向き合った。
「……さて。真面目に考えて、魔女様の魔力でも治せない病となると、流石の“悪魔の契約”を持ってしても直せるもんじゃないだろうねえ」
そう口にした瞬間、魔女の表情が消えたため、悪魔は慌てて言い募る。
「でも! 病の症状を抑えて、命を永らえさせることは可能だよ。何日、いや、何年……。それは魔女様の払ってくれる対価の大きさにもよるけどね?」
魔女はわかりやすく安堵したようだった。
悪魔はそろそろ、魔女のこの反応が不気味にさえ思えてきていた。
この女は自分のような卑しい悪魔とは比べ物にならないほどの魔力を持つ、それはそれは恐ろしく、それでいて孤高の存在だったはずだ。それが何故、人間などという矮小な存在にここまで執着するのか。理解ができないのだ。人間などと関わるくらいなら、それこそ悪魔と踊りをおどったほうが愉快だというもの。
悪魔以下のくだらない命を、何故そんなに大切にする?
そもそも、この偉大な魔女ほどの存在なら、人間という生き物に見向きもしないだろうと思っていた。似たような形の生物なら、セイレーンやドリアード達と語らうほうが得るものも多いだろうに。寿命は短く、魔力さえ持たない、更には悪魔に負けず劣らずな醜い心を持つ、人間などという生き物に──何故?
そう訝しみながらも、流石にそれを魔女に訊ねる勇気も興味もなく、悪魔は淡々と契約の話を進めることにした。
「魔女様がこの悪魔を頼るのは二回目。だから悪魔が求めるものは分かっているだろうけど、当然前回と同じ、“魔女様の魔力の篭った物”だよ今回は何を差し出してくれるだろうね?」
「……対価も、その差し出し方も、【呪い】も──前回の契約と、全く同じなのか?」
魔女が苦々しい顔をしている。だからきっと、彼女が悪魔の契約を頼るのは、本気で最終手段だったのだろう。
「ああそうさ。魔力の篭ったものが対価で、契約者は【愛の呪い】を受ける。支払った対価をほいっと悪魔に渡して契約成立とはならないし、魔女様のお気持ちが強ければ、対価は支払わなくたっていいことになっている。だから前回は魔女様の勝ちだったね。対価が手に入らなかったのに願いを叶えてしまったのだから、悪魔は大損したよ、トホホ」
だが、今回はどうだろうか。
この悪魔との契約は少し変わったもので、対価をただ支払うのではなく、対価を先に宣言させて、契約者に【愛の呪い】をかけるのだ。それは、契約者が真実の愛を知ったとき、対価が悪魔の一番欲しいものに変化する、というものだった。
前回、魔女が願いを叶えてもらったときに対価に選んだのは両目だった。願いを叶えてもらい、そして悪魔が決めた期間の中で、魔女が真実の愛を知ることはなかった。だから、悪魔は魔力の塊である魔女の両目を、欲しいものを手にすることはできなかった。
ちなみに、悪魔が欲するものというのは、現代では世界のどこからも失われてしまった宝石である。宝石もまた、魔女の魔力とは別の種類の魔力を閉じ込めた石だ。見るものを魅了するその輝き。魔女の使う魔力や悪魔の所有する魔力と比べると弱々しいものと言えるかもしれないが、宝石の失われた現代では、それはそれは貴重なものなのだ。
「ならば私の心臓を差し出そう」
悪魔はギョッとして目を剥いた。流石に冗談だろうか、あまり面白いとは言い難いが。
そう思いたかったのだが、魔女の蒼穹はどこまでも真っ直ぐで、真剣なものだった。
悪魔は、自分の動揺が悟られないように、どうにか笑顔を繕って、わざとらしくケタケタ笑った。
「へえ? いいのかい。いくら五百年生きる魔女とはいえ、心臓を失えば死ぬのだろう?」
「当然。私がどんなに高い魔力を持っていても、できることには限界がある。自分の心臓をもう一つ用意することはできない。勿論、リナリアの病を治すことも、病の進行を遅らせることもできない──だから悪魔。お前に頼っている」
声にも瞳にも、一切の迷いが感じられない。
「ふむ。偉大なる魔女の心臓がどんな宝石になるのか、実に興味深い」
「なるものか。私が誰も愛さなければ良い。それだけのことだろう?」
「さてね? だけどこれだけは言わせていただこうか? ──悪魔は自分に不都合な契約なんて、しないのさ」
そう言い残して塵のように消えた悪魔と、光を失った魔法陣を見て、魔女は溜息をついた。五百年だ。それほど永いときを生きて、これほどまでに一人の人間に執着するなんて。我ながら馬鹿げている。
しかし、これもまた余興だ。退屈になるほど生きてきた自分が、こんな下らないことに固執する。それもまた悪くないのではないだろうか。
そうして、リナリアは悪魔との契約で十年生きた。彼女の息子も美しい少年へと成長していた。しかし、契約で先延ばしにしていた寿命にだって、限度がある。
リナリアはまたあの頃のように衰弱し始めた。もう自分の力では子を育てることができそうもない。そう言って、彼女は息子を魔女に託すことを決めた。
馬鹿なことを言うな、とか。お前はまだ死ぬわけにはいかない。死なせやしない。また悪魔と契約をして、次は脳でも差し出そうか。そうすればお前は。
そんな言葉の全てを呑みこんで、魔女は呆れたようにその息子とやらを引き取った。きっと、リナリアは我が子に弱ってゆく自分の姿を見せたくはなかったのだろう。
できるだけ遠くへ。彼女の子供を連れて、魔女は遠い田舎の村で、ひっそりと暮らすことにした。
「良いか、少年よ。私は呪われている。【愛の呪い】だ。リナリアの願いだから仕方なくお前の面倒を見る。私を親だと思っても構わぬ。だが、私はお前を本当の子のように愛することはない。名前も呼んでやる気は無い。わかったか?」
「はい、魔女様。これからよろしくお願いします」
そうやって微笑む顔が、リナリアによく似ている。それが嫌で、目を逸らす。辛く当たるようなことはしないが、最低限のことしかしないようにと心掛けていた。我が子のように扱えば、どんな感情を抱いてしまうかは、なんとなく予想がつく。少年は魔女様、魔女様といつも嬉しそうに話しかけてきたが。
魔女様、森で美しい花を見つけたんですよ。魔女様、街へ行ったときに貴女に似合いそうな髪飾りを見つけました。良ければ使ってください。魔女様、野苺のパイを作ってみました。一緒に食べませんか?
そんな彼もまた、病弱なリナリアの息子。18になったとき、彼女と同じ病を患った。魔女はつきっきりで看病をした。それでも彼は日に日に衰弱していく。どうして。魔女の煎じた薬を与えても、街で一番腕の良い医者に診せても。これは不治の病だ。治すことなんてできないのだ、と。そう言われるばかり。
そういえば今頃、リナリアはどうしているだろうか、などという考えが過る。考えたくもない。そのために離れた田舎へと来たのに。
「魔女様。あなたは僕を愛してはくれないとおっしゃいましたね。僕もあなたに愛さないで下さいと、約束をしました。母さんの友人である魔女様のことはよく知っています。呪いで命を失う可能性があるのなら、僕の看病なんてもう、やめてください」
病床にふける青年を見て、魔女は唇を噛む。看病をやめろだと。ふざけるな。
でもやはり、魔女はその言葉を噛み殺した。誰も愛してはならない。リナリアも。この子のことも。愛することはできないのだ。
「人間は、どうしてこうも脆く儚いのだろうな」
「どうしてでしょうね。僕も、魔女様や母さんと、ずっと一緒に生きていたかったなあ」
やせ細った腕に掠れた声。もう永くはない青年が、薄く微笑みながら呟く。
「そうだ、魔女様。ベゴニアの花言葉は、片想い、と幸福な日々です」
「? 何だ急に。ベゴニア? ああ、そういえばお前はそんな名前だったか」
「言ってみたかっただけなので。忘れて下さい。それから……もう、僕のそばにいないでください。あなたに看取られたくなんて無いので」
「ふん。私もお前を看取るなどごめんだ。それではさようならだ。ベゴニア」
家を出て、魔女はトボトボと道を歩く。どこを目指しているのかもわからないまま。
どうして今、自分はこんなに気落ちしているのだろう。人間の儚さなどよく知っている。今に始まったことではない。なのに、どうしてこんなにも──。
魔女は気が付けば暗い森の中にいた。確か悪魔との契約をしたのもこの森だっただろうか。
そっと、自分の胸のあたりに手を当てる。黒いドレスの上に置いた白い手。心臓は規則正しく鼓動する。
嗚呼。リナリアを失って。ベゴニアも失ったくせに、この心臓が石になることはなかった。愛さないでほしい、とベゴニアと約束をした。二人を失って尚、この心臓は馬鹿みたいに息づいている。
頬を伝う冷たさに気がついたとき、彼との約束など破って、愛してしまえばよかったと、後悔した。
魔女はその場に膝をついて、泣き崩れる。こんな呪いがなんだ。お前を愛している。そう、伝えることで死ぬから。だったら何なのだ?
「嗚呼。リナリア、ベゴニア。愛していた。私はお前たちを、心から愛していた。抱きしめてやればよかった。撫でてやればよかった。額にキスの一つでもすればよかった! お前たちに愛していたのに! 愛しているのに、私は、何故……?」
瞬間、体の異変に気がつく。パキパキ、と音を立てる心臓。嗚呼。この痛みなど、彼らを失った苦痛に比べれば、造作もないことじゃないか。
「そうか。私は真実の愛を知ってしまったのだな」
ふふ、と魔女は笑う。
心臓が硬化してしまう。血の巡りが止まる。呼吸が止まる。体中から体温が失われて、意識も遠退いてゆく。
魔女は鼓動が完全に止まったとき、それでも彼らを愛せたことが幸せだった。
彼らにそう伝えられたなら、もっと幸福だったのだろうか? そんな想いを抱きながら、魔女はゆっくりと地面に倒れ伏した。
暫くして、蝙蝠のような翼を羽ばたかせながら、緑色の皮膚と二本の角を生やした異形。悪魔が魔女のそばへと舞い降りた。
「愚か。実に愚か。誰かを愛して命を失うなど。──ああでも……これは、クンツァイトか。ふふ、何と美しいのだろう」
魔女の傍らに転がるのは、心臓だったもの。それは淡い薔薇色に透き通った、美しい石となっていた。
「……石言葉確か、“無限の愛”だったか。なるほど。皮肉にも、誰かを愛してしまえば死ぬ呪いだというのに、その心臓は愛を象徴する宝石に変わった、というのか」
悪魔は魔女の亡骸を見下ろす。その顔は、口元が緩りとしていて、穏やかな表情だった。
「愛などくだらないし、興味もないが──実に美しい石だ。これほど純度の高いクンツァイトが手に入るとは。やはり魔女と契約を交わせたのは僥倖だったな……」
***
リナリアの花言葉とクンツァイト+タイトルの意味を調べてみると楽しいかもですね。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.198 )
- 日時: 2021/05/01 22:54
- 名前: Thim (ID: zMOd2BPk)
>>189
私こそ、返信遅れてすみません。自分の小説にまさかここまでの感想が届くとは思ってもおらず、嬉しくてなめまわして読んでました……。
目立ったおかしな個所はないみたいでよかったです。その部分はまた探して編集しておきますね!
そう、なのです!!やっぱり原作がまず地獄だから、その地獄観を失わせず、またせっかくならそれ以上の地獄をお届けしたいという思いと、しかしスパイスとしてちょっとハッピーもいれられたかな?と、自分では思っています!
あの薔薇って、小鳥ちゃんの心そのものというイメージで書きました。そして、生まれてから“愛”や“恋”に焦がれていた小鳥ちゃんの人生(鳥生)といってもかごんではない……と思っています。
そしてその薔薇を猫ちゃんが食べるというのは、「小夜啼鳥と」を書き始めた当初から(原案の時から)決めていた事なので、そこを拾って下さって嬉しいです!
ハッピーエンド!えへ、そう言って頂けて嬉しいですっ。
そして好きな話と言って頂けて本当に嬉しいです。初めて小説を完結させたという事もあり、それを読んで楽しんでいただけたのなら、何にも勝る幸福だと思います。
参加させて頂き、本当にありがとうございました!
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.199 )
- 日時: 2021/05/09 15:46
- 名前: むう (ID: K9HDZ9ao)
>>190 よもさん
お久しぶりです。素敵な感想ありがとうございました。
恋だーキラキラだ―ピュアだ―
まあそういう恋もあるんでしょうが、なかなかそうはいかないですよね。
誰でも苦悩があって葛藤を抱えて恋してるんだろうなあと思いながら書きました。
その部分をエモいといって頂けて嬉しいです。
また参加するときはよろしくお願いします。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.200 )
- 日時: 2021/05/27 18:39
- 名前: むう (ID: fZ.YrG5Q)
お題⑳「愛されたいと思う事は、罪ですか」
タイトル/「宇宙人が1匹。」
国語の授業が物語の創作だったんで書いた奴を乗っけときます。
長くなるので三回くらいに分けて書きます。
********
宇宙人のぼくからしたら、地球人は全員自分と違ういきもの、つまり向こうも宇宙人と言うわけだ。幸い生まれ故郷であるレオカ星の住民と地球人の形態はよく似ているから、そんなに「ここが違う」「そこも違う」と非難されることはないだろうけど。
だから、ぼくがこの地球という星に降り立って周りを見回したとき、下手に驚いて声を荒げることはなかった。ちょっと話す言語が違っていたけど、所詮ちっぽけな問題だ。レオカ星人が笑ったり泣いたりするように、こっちの人々も笑ったり泣いたりして生活している。それさえ分かれば、「なんだ、たいして変わんないじゃないか」と不安も空気の中へ消えていく。
そんなたいして変わんない地球で、この前どんな地球人とも違う特徴を持つ女の子にあった。その子の白い小顔には普通の子みたいに二つの眼はなく、代わりに猫みたいに大きな瞳孔の瞳が一つあった。
「面白い人がいるもんだね」
ぼくはその女の子を単眼ちゃんと呼んだ。学校ではそう呼ばれているから、宇宙人さんもそう呼んでくださいと、小さな声で彼女が呟いたからだった。
「面白くないよ。人と違うっていうのは」
今日も二人、公園の階段に腰を下ろして高い空を眺めた。なぜ飛行機雲はあんなに真っ直ぐ線を描けるのだろう。なぜ地球人の言葉は下の方にたまるばかりで、上の方にはあまりないんだろう。そんなことを一人頭の中で考えた。「ねえ、きみもそう思わない?」とぼくは横に座る彼女に声をかけようとして、動作を留める。単眼ちゃんはひたすら無表情で、口元を歪めながら膝を抱え込むようにして座っていた。
「おどろいたよ。みんな違ってみんないいって、そういう詩を書いた人もいるんでしょ?」
「その詩を凄いって褒めている割には、私みたいな子どものいじめは減らないんだよ」
「いじめ」
単眼ちゃんの言葉を反芻する。
「きみはどこもケガしてないじゃないか」
「……………ケガっていうのは、表面上だけの言葉じゃないんだってさ」
地球では知らない言葉がいくつも飛び交っている。いじめというたった三文字の言葉さえ、ぼくは意味を知らなかった。自分にとって当たり前のことなにも知らないぼくの存在が、単眼ちゃんの言葉を震わせたのかもしれない。
しだいに涙目になっていく単眼ちゃん。一つしかない目からは涙がなんとか落っこちない程度に溢れている。お人形のように透き通った肌をしているのに、今では頬がリンゴのように赤くなっている。人間は泣くとき、頬が赤く染まるらしい。
「ごめん。でもぼくは、なにがきみを困らせたのか分かんないんだ」
謝るときは正直に本音を言った方がいいと、この前教えてもらったばっかりだった。それなのにぼくの言葉を受けて、単眼ちゃんの涙の粒はさらに増えてしまう。
「きみって私の周りの人となにも変わらない。その人にとっては楽しいことでも、私が換算すれば全部嫌なことになる。でも自分でそれが正しいって思い込んだら、こっちがなんで悲しんでいるかなんて分かんなくなっちゃう。そういうものなのよ」
直接は伝えていないけれど、単眼ちゃんの言う周りの人と同じ立ち位置にぼくが入っているのは隠さなくてもわかる。
しだいにお互いが無口になり、ぼんやりと景色を眺める時間が続いた。夕暮れ放送の曲がどこかから聞こえてきて、公園で遊んでいた家族連れは手を繋いで駐車場の方へ歩き始める。「今日のご飯はなに?」「ハンバーグ」「やったー!」という親子の会話が空気と共に流れてくる。
単純に、いいな、と思う。
「……ぼくの星では、ご飯はカプセル錠だけだった」
カプセル錠一つに取るべき栄養は全部つまっていた。生まれた時からご飯は錠剤だと教え込まれてきたから、寂しいという感情すらわかず、毎日淡々と水と一緒に喉へ流し込んでいた。食事の時間なんて数分もすれば終わるので、家族と話す時間はほとんどない。あったとしても、とても地球の親子みたいにはいかない。
「マジ!? それでお腹いっぱいになったの? 親が作ってくれないの?」
「ご飯を作るのは全部家事ロボットの仕事だったから」
「凄っ。これぞハイテク産業だよ。え、じゃあ高級料理とかも作れるの?」
「……高級料理? 個包装のピンク色の甘い粉薬が一番高かったけど」
突然顔を輝かせて質問攻めをしていた単眼ちゃんの笑顔が消える。なにかを大きくしくじったような、複雑な表情をしていた。おそるおそる隣のぼくの表情をうかがっては膝に顔をうずめるのを何回も繰り返す。そして思いついたように顔を上げて、
「じゃあさ、じゃあっ、私のお弁当を今度持ってくよ。卵焼きも唐揚げも、いっぱい詰めとくよ。私、お昼ご飯の時間になったら学校出てここへ来るからさ。だから、だから……」
と自分を奮い立たせるように明るく叫んだ。
「だから……、泣かないでよ」
泣く? 誰が?
そっと頬に手を当てると、生温いなにかに指先が触れた。涙と、地球でそう呼ばれるものだった。
そうか、ぼくは、今、泣いているのだ。
地球から見る夕焼けはとても綺麗なのに、ぼくの心は晴れやかではなかった。
こんなに良い星でも毎日誰かが傷ついたり叫んだりしている。
そのせいで綺麗なもの美しいことは陰に埋もれて行っている。昔は全てが綺麗だった気がすると単眼ちゃんも言っていた。
だからぼくは不安なのだ。人と違う容姿を持つ隣の女の子が、ぼくがいないときに隠れて泣いていたりしないかと。ぼくが物を知らないばっかりに、自分が傷ついたことすらいずれ話してくれなくなるのではないかと。
「きみは大丈夫なの? こんな世界で生きられるの?」
「…………」
「レオカ星に生きづらさを感じて地球に来ても、この星もこの星なりの沢山の悲しい出来事がある。ぼくも毎日心が折れそうになりながら生きている。でも人間は、宇宙人みたいに頑丈じゃないんで……」
まだ話している途中だった。突然単眼ちゃんがぼくの背中に両手を回してきたので、必然的に言葉が途切れる。人間は急によくわからない行動をとるものだ。でも不思議と苛立ちは感じなかった。
「辛い、苦しい、死にたい、いなくなりたい。そんな言葉を毎日言ってる。いじめられるのは辛いし苦しいし、トイレで吐いたこともある。毎日死にたいと思いながら今日を生きているの。こんな死にたい毎日に、一つでも喜びを見つけたくて今を生きているの」
単眼ちゃんは一日に何回泣くのだろうか。でも、彼女の涙は、今日流れた涙の中で一番透明で綺麗に見えた。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.201 )
- 日時: 2021/07/08 23:54
- 名前: ヨモツカミ (ID: n1p1KqRk)
こんばんは。長らく放置してごめんなさい。
またポツポツと感想やお題募集やら、していこうと思っています。
目次の方更新しました。【ルールを守って】また皆様が参加して下さると嬉しいです。
Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.202 )
- 日時: 2021/07/28 15:31
- 名前: ヨモツカミ (ID: K4v65Q5M)
小説書きより、雑談する方が増えたから、スレが埋まっちゃうと思うけど、こういう小説披露の場所もあるよってことを知ってもらいたいので、上げて起きます。
せっかく小説投稿掲示板なんだから、小説書く楽しさも知ろうぜ! みたいな。
てか、新しいお題を追加してもいいかもですね。募集、もしくは自分で考えまーす。
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