雑談掲示板
- みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】
- 日時: 2022/06/30 06:43
- 名前: ヨモツカミ (ID: HJg.2TAk)
再始動予定につき調整中!
注意書き多くてきもいね、もっと気楽に書ける場にするから待っててくれ!
略してみんつく。題名の通り、みんなでSSを書いて投稿しよう! というスレです。SSの練習、作者同士の交流を目的とした場所になっております。投稿された作品に積極的に感想を言い合いましょう。稚拙な感想だから、と遠慮する必要はありません。思ったことを伝えてあげることが大切です。
優劣を競う場所ではありません。自分が上手くないと思うそこのあなたこそ、参加してみてほしい。この場で練習をしてみて、他の参加者様にアドバイスを求めてみてはいかがです? お互いに切磋琢磨しながら作品投稿が楽しめると素敵ですね。
自分はそれなりに書けると思ってるあなたは、いつもの自分と違う作風に挑戦してみるのも楽しいかもしれませんね。または、自分の持ち味をもっと伸ばすのも良いでしょう。みんつくに参加することで、新たな自分を見つけるキッカケになるといいなと思います。
読み専の方も大歓迎です。気に入った作品があれば積極的にコメントを残していただけるとスレが盛り上がります。当然、誹謗中傷や批判など、人が見て傷付く書き込みはNGです。常に思いやりの精神を持って書き込みましょう。
*作品の投稿は最低限ルールを守ってお願いします。
↓↓
・お題は毎月3つ出題します。投稿期間、文字数の制限はありません。ただし、お題に沿ってないSSの投稿はやめてください。そういうのは削除依頼を出します。
文字数について、制限はありませんがどんなに短くても140字くらい、長くても20000文字(4レス分)以内を目安にして下さい。守ってないから削除依頼、とかはしません。
・二次創作は禁止。ですが、ご自身の一次創作の番外編とかIfストーリーのようなものの投稿はOK。これを機に自創作の宣伝をするのもありですね。でも毎回自創作にまつわる作品を書くのは駄目です。たまにはいつもと違う作品を書きましょう。
・投稿するときは、作品タイトル、使用したお題について記載して下さい。作品について、内容やジャンルについての制限はありません。
小説カキコの「書き方・ルール」に従ったものであればなんでもカモン。小説カキコはそもそも全年齢なので、R18ぽい作品を投稿された場合には削除をお願いすることもあります。
また、人からコメントを貰いたくない人は、そのことを記載しておくこと。アドバイスや意見が欲しい人も同じように意思表示してください。ヨモツカミが積極的にコメントを残します(※毎回誰にでもそう出来るわけではないので期待しすぎないでください)
・ここに投稿した自分の作品を自分の短編集や他の小説投稿サイト等に投稿するのは全然OKですが、その場合は「ヨモツカミ主催のみんなでつくる短編集にて投稿したもの」と記載して頂けると嬉しいです。そういうの無しに投稿したのを見つけたときは、グチグチ言わせていただくのでご了承ください。
・荒らしについて。参加者様の作品を貶したり、馬鹿にしたり、みんつくにあまりにも関係のない書き込みをした場合、その他普通にアホなことをしたら荒らしと見なします。そういうのはただの痛々しいかまってちゃんです。私が対応しますので、皆さんは荒らしを見つけたら鼻で笑って、深く関わらずにヨモツカミに報告して下さい。
・同じお題でいくつも投稿することは、まあ3つくらいまでならいいと思います。1ヶ月に3つお題を用意するので、全制覇して頂いても構いません。
・ここは皆さんの交流を目的としたスレですが、作品や小説に関係のない雑談などをすると他の人の邪魔になるので、別のスレでやってください。
・お題のリクエストみたいなのも受け付けております。「こんなお題にしたら素敵なのでは」的なのを書き込んでくださった中でヨモツカミが気に入ったものは来月のお題、もしくは特別追加お題として使用させていただきます。お題のリクエストをするときは、その熱意も一緒に書き込んでくださるとヨモツカミが気に入りやすいです。
・みんつくで出題されたお題に沿った作品をここには投稿せずに別のスレで投稿するのはやめましょう。折角私が考えたお題なのにここで交流してくださらなかったら嫌な気分になります。
・お題が3つ書いてあるやつは三題噺です。そのうちのひとつだけピックアップして書くとかは違うので。違うので!💢
その他
ルールを読んでもわからないことは気軽にヨモツカミに相談してください。
*みんつく第1回
①毒
②「雨が降っていてくれて良かった」
③花、童話、苦い
*みんつく第2回
④寂しい夏
⑤「人って死んだら星になるんだよ」
⑥鈴、泡、青色
*みんつく第3回
⑦海洋生物
⑧「なにも、見えないんだ」
⑨狂気、激情、刃
*みんつく第4回
⑩逃げる
⑪「明日の月は綺麗でしょうね」
⑫彼岸花、神社、夕暮れ
*みんつく第5回
⑬アンドロイド
⑭「殺してやりたいくらいだ」
⑮窓、紅葉、友情
*みんつく第6回
⑯文化祭
⑰「笑ってしまうほど普通の人間だった」
⑱愛せばよかった、約束、心臓
*みんつく第7回
⑲きす
⑳「愛されたいと願うことは、罪ですか」
㉑嫉妬、鏡、縄
*目次
人:タイトル(お題)>>
Thimさん:小夜啼鳥と(お題③)>>181-182
むうさん:ビターチョコとコーヒー(お題⑲)>>183
心さん:君に贈る(お題⑭)>>184
黒狐さん:神の微笑みを、たらふく。(お題⑳)>>195
よもつかみ:燃えて灰になる(お題⑱)>>196
むうさん:宇宙人が1匹。(お題⑳)>>200
*第1回参加者まとめ
>>55
*第2回参加者まとめ
>>107
*第3回参加者まとめ
>>131
*第4回参加者まとめ
>>153
*第5回参加者まとめ
>>162
*第6回参加者まとめ
>>175
*第7回参加者まとめ
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Re: みんなでつくる短編集【SS投稿交流所】 ( No.184 )
- 日時: 2021/03/16 23:44
- 名前: 心◆sjk4CWI3ws (ID: JeNmIPUo)
>>172 ティムさん
ありがとございます! そう、なんだかんだで自分のやつ家族よりも長い時間を共にしてる説ありますからね(??)。大切にしてあげたい……
そしてこれはクリスマスに書こうと思ってたやつでした……よろしくお願いします…………ちょっとファンタジーなのかな。禁止ワード対策で言葉回しが迂遠になってる所があるかもです
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お題⑭「殺してやりたいくらいだ」
作品名「君に贈る」
吸血鬼の弱点とされるもの、それは聖水であったり日光であったり銀であったりする。
そのどれもが全ての家庭に揃っているかと言うとそうではない。しかし、この辺りの住人は昔から吸血鬼を恐れて暮らしてきた訳であるから、この三つのうちのひとつぐらいは家に常備してあるのだ。
だが、街外れに越してきたその家は特別貧しいようだった。何故か四人家族全員が農作業のひとつをする気配もなく、どこかへ働きに出ている気配もない。今なら解る、そんな家が高価な聖水や銀を買えるはずもなかったのだ。だが、生き残った少年には、それが酷く不当で残酷なことのように思えた。
それは聖夜、クリスマスの日の事である。疎まれ続けてきた吸血鬼であれど、その日くらいは祝宴を催したかったのだろう。彼ら彼女らが会場に選んだのは、その街外れの家であった。
結果から言うとするならば、その四人家族はひとりの少年を残して全員が死亡した。体内の血という血を吸われ喰らわれた結果である。しかしいかな吸血鬼とはいえ、体内の血を全て飲み干し喰らい尽くすなど、普段からすればありえない話ではあった。三人の血が特別好みなものであったのか、それともそうせざるを得ない何かがあったのか。
しかし、ひとり残った少年にとってその事由などどうでもいいことであったのである。
憎悪と恐怖が混ざりあったその場を発見した時、彼が何を目指し始めたのかは自明の理であった───
雪が降っていた。どこからかクリスマスの歌が聞こえてくる。それに加えてこどものはしゃぐ声と言うといささか定型であろうか。しかし、白い雪に緑や赤の電飾が色のついた影を落とす光景は、中々に美しいものである。
大通りを一歩抜けたところにある路地裏、そこには一転して静寂が落ちていた。雪が軋む微かな足音が二人分響いている。
「あなたのことが好き」
銀髪の少女は、目の前を行く男の背へ向かってそう告げた。赤と緑、色違いの両目が反応を伺うように細められる。男が足を止める気配がないからか、口元がどこか挑戦的に釣りあがった。自分の恐ろしさを知らぬから、こんな真似ができるのだ。少女はそう思考する。とはいえ今は年端も行かない少女の姿、それにこの男に翼は見えないのだったか。
口元から吐き出される息と同じくらい白い肌。そしてまるで少女と大人の女性の狭間のような、そんな美しさを持った怜悧な顔立ち。
およそ人間ではありえない、そう思わせるほどの美貌である。
完璧という言葉を体現したかのような少女、しかし異形が背中にひとつ。それは音もなく空気を揺らしては、降る雪を辺りに舞い散らせる。
それは翼。肩甲骨付近から生えているであろうそれは、まるで夜空を貼り付けたような、僅かなきらめきを伴っていた。およそ鳥のそれではない。どちらかというと蝙蝠(こうもり)に近い形状をしている。ならばそれは悪魔か、もしくは───吸血鬼と称される類いのもの。
数歩分は空いていた距離を、その翼をかすかに動かして詰める。空気が動き、重力に引かれて落ちていく雪がその向きを変えた。
「聞いてる?」
近くに少女が歩み寄った気配を悟りながらも歩みを止めず、答える素振りすら見せない青年に痺れを切らしたのか。彼女は青年を抱きこもうとするかのように腕を搦めた。それを振り払うことはせずに足を止めた彼、その黒の瞳へ微笑みながら己の顔を映りこませる。
可憐というよりは妖艶といった言葉が似合うその少女は、先程の続きを歌うように語り出した。
「お馬鹿さんなところ、ヘタレなところ。なのに意外と真面目なところ。全部大好きよ、ヒューゴ」
そう告げられて、ヒューゴと呼ばれた青年はくすくすと微笑んだ。頭が僅かに傾けられ、刷毛ではいたような銀色が混ざった黒髪を揺らす。
「僕はもしかして貶されているのかな? それにしてもこんな綺麗なひとにそんなことを言ってもらえるなんて、男冥利に尽きるというものだ……ねえ、お姫様」
彼女のゴシックロリータとでも形容できる服装を見てとってか、どこかからかうような調子を帯びて言葉が発せられた。
「あら、それは承諾してもらえるということ? 後、何度も言っているはずだわ……私の名前はミア。それ以外で呼ばないで」
「何をだい、と問いたいところだけれど、それはつまりきみがしつこく僕に言い続けてることでしょう? ならずっと無理って言っているよ、そろそろ諦めたら? ああ、きみの名前はそういう意味か。僕はもう既に私のもの、と」
「よく分かったわね、そういうことよ。名前の意味まで知ってる博識なところ、そういうのも好きよ」
ヒューゴは動揺の一欠片すらも見せずに、緩やかにミアと呼ばれた少女の腕を退けた。墨を垂らしたかのような黒の瞳を動かして、少女の全身をじっと見下ろす。数瞬後、彼が僅かに息を飲んだようにミアには感じられた。しかしそれはどうやら気のせいだったらしい。何もアクションを起こさない彼に拍子抜けして、吸血鬼の少女は次に告げる言葉を探す。
だが、彼女が口を開こうとするタイミングを読んだように、ヒューゴの方が話し出していた。
「そこで言葉に詰まるの? まあもう良いかな、飽きたなって感じはしていたけれど。……実はね、僕も君に婚約を申し入れようと思って、こんなものまで用意しちゃったのさ。愛してるよ、ミア」
その目の中に、足元の石畳を映しながら。ヒューゴはそう告げる。声音こそ優しく誠実なようでありこそすれ、口元には笑みの欠片すら浮かんでいない。瞳がす、と細まった。ポケットに右手を差し込んで、銀の光を纏う円環を取り出す。
「待って! それは」
「どうして?」
青年の華奢な身体を突き飛ばして離れようとするミアを酷く不思議がるように、かくりと彼は首を傾げる。大切なものを扱う手つきで、当然のように銀の指輪を少女の左手へ嵌めようとした。
が、それは寸前で叶わない。その細腕のどこにそんな力があるのかと思えるほどの強さで掴まれている左手、それをせめてもの抵抗とばかりに少女が握りこんだからだ。
「ね、どうして拒否するの? ミアだって結婚したかったんでしょう、僕と」
「私、銀は苦手で──違う、もしかしてあなたがあの時の子……!? そんな訳ない、だってあなたからはその気配がしないじゃない! いえ、うっすら……? でもこれぐらいなら誤差の範疇、ありえないでしょう!?」
ひどく動揺した様子で、少女はそう呟く。頭が振られると同時に、銀髪がきらきらと光を跳ね返した。
「僕にはお前の翼が見えた。それが証拠だ」
晴れた冬の朝よりも冷たい声で、青年はそう告げた。己の腕の中で、すっかり動揺しきっているのか激しく瞬いている少女を見下ろすと、その声がまるで嘘であったかのように微笑む。
「ミア、きみは……僕がヴァンパイアハンターの一族ではないと分かっていたんじゃないのか? 僕には吸血鬼を殺すことの出来る特別な力なんてない、ただの混ざり物だからね。だからきみにこれを贈るくらいしか出来ない───ああでも、半分ほど混ざってはいるから僕の血は美味いんじゃないかな」
吸血鬼狩りの一族、それは最盛期には貴族の地位すら与えられた特別な血筋。はるか昔、吸血鬼と交わって人外の力を得た一族である。その力が吸血鬼本人を滅することのできるものであったことは皮肉であるが、少なくとも彼ら彼女らはその力ゆえに人外であると罵られ続けることはなかった。むしろ守護者としての地位を確立することが出来たのであるから、それは僥倖(ぎょうこう)であっただろう。
だが、それが血に依存する力であるからこそ、一族は没落していった。当然、結婚を繰り返せば血は薄まる。一族内では純血を尊ぶ思想が強くなり、故に『混ざり物』は忌み嫌われてきた。本家の血筋を半分ほどしか継いでいないヒューゴは、一族の名を汚す存在という扱いだったのである。
だが、そうやって一族の血を残していかなければ──それをいくら彼らが認めなかろうと──吸血鬼の血という恩恵はいずれ消滅してしまう。
穢れと忌みながらも縋るしかないその矛盾、それを思ってか長広舌の最後はどこか嘲笑うような調子を帯びていた。
「純血……だったのね、あなたの家族は……! だから私たちは飲み干さざるを得なかった、あまりにも美味で、まるで麻薬のようだったから。銀も何も持っていなさそうで、この家ならと思って、ただ……」
私たちは生きたかっただけなのに、とかすれた声で吸血鬼の少女は嗚咽する。ただでさえ体力を消耗する冬に、好物を見つけたら。それがなんの防備もしていないとしたら。
生きるためだった。数滴貰って終わろうという話だったはずなのだ。だが、それを彼らの血は許さなかった。飲み干し喰らい尽くすことを、その味が強制したのだ。
「僕の家族だって生きたかったはずだ───死んでいい人間なんてひとりもいないんだから」
そう言うヒューゴの表情を、呆然と少女は見上げた。吸血鬼の血は、吸血鬼が飲んでも美味。そのことに気付いた飢えている吸血鬼の仲間たちは、たちまち同士討ちを始めた。三人の血を吸うなり人を喰らい尽くす獣へと変貌してしまった家族を見て、ミアは絶望したのだ。
危機を感じた少女は必死で逃げ惑って、実際吸われそうになりながらもどうにか逃げ延びた。
その追ってきた吸血鬼の中には、実の父も姉も母もいた。自分の血を吸おうと追いすがってきたのだ。自分はまだ吸っていなかったから良かった、と思う。序列に拘る家であったから、まだ少女の順番は回ってきていなかったのだ。
「家族、ですって? 馬鹿じゃないの、あなたは愛されてなんていなかったじゃない。だから、だからあなたは今生き残っているし、私は死ぬ羽目になってるのよ!! あなたが愛される努力をすればよかったのに……! ううん、あなたは私に感謝するべきなのよ……だって、あんなにも酷く扱われていたじゃない。憎かったでしょ、苦しかったでしょ!? 私たちが殺してあげたからあなたは地獄から抜け出せた! 違う!?」
「地獄かどうかは見方によるね。あの時も外に水汲みにいかされていたお陰で僕は生き残ったのだし……まあ確かに寒かったけれど」
鋭い刃が布を裁ち切るように、ヒューゴは告げる。真っ直ぐに黒と赤がぶつかり合い、先に力を失ったように彷徨(さまよ)ったのは黒の方であった。
刹那躊躇いつつも、それにね、と付け加える。抵抗する力はもうないのか、先程よりも幾分か柔らかくなった少女の手を緩く握りこみながら。
「愛したところで、あのひとたちがそれに応えてくれることはなかったと思うよ───彼らのプライドの高さは異常だったし、だからこそあの三人はきみらに殺されたのだと思う」
傲慢だった継母、実父でありながら冷たく当たってきた父、純血であることを誇示し続けていた義兄。彼らを愛してしまうことを、自分はきっと止められない。昔の幸せな頃に縋っていたいからだ。母様、と小さく呟いてみる。彼女が病で亡くなってから、全て狂ってしまった。
でも、それでも止められない。自分が愛していれば、その愛は返ってくるのではないかと思ってしまう。対価を期待する愛に意味はあるのか。理性ではそんなことはないと悟っていたのに。
それをはっきり言葉にして、ヒューゴは微笑んだ。
「だけれども、僕の方からそれをやめたら、僕が負けたみたいじゃないか。それに、僕はあのひとたちに恩義を感じていて……だからさ。彼らを殺した君たちを……」
それと同時、そっと彼女の白い指に指輪を通した。左手の薬指、心臓に繋がる血管が流れる場所。雪が彼女の黒服の上で煌めいている。
「ぁ……」
どくん、と心臓が脈打った。
からだがくずれていく。たかだか銀の小さな指輪ひとつとはいえ、左手の薬指である。血管を通って毒が回るみたいに、全身が脆くなっていくのが分かる。銀色の毒が、ゆっくりと、だが確かに彼女の身体を蝕んでゆく。まるで血管という血管全てに水銀を流し込んだみたいに、身体が重い。
無理だ、という思いが過った。この男を堕とすのも、生きるのも。最期にひとつぐらい望みが叶ってもいいと思ったのに。末の妹だったから、なにも願いは叶えてもらえなかった。綺麗な服を買ってほしいだとか、美味しいご飯が食べたいだとか、新鮮な血を吸わせてほしいだとか。
それでもそんな家族と共に生きたいと、そんな願いすら叶わなかったのに。
それに彼と結婚出来ればいくらでも血を吸う機会が訪れるであろうし、彼の血はきっと美味であろうという予感もあった。
だからひとつ、彼に夢を見たかった。
「ねえ、どのくらい? さっき、私のこと、愛してるって言った。どのくらい──どのくらい、私の事愛してる?」
縋るように、崩れかけているからだがその答えをもらえれば治るかのように。必死に、その貌を歪ませながら、吸血鬼は叫ぶ。
もらえなかったものをもらいたかった。極論、誰でもよかったのだ。
「────殺してやりたいくらいだ」
愛なんて分からない、という言葉は口の端に溶かして。彼女に向く自分の感情と呼べるものは、それくらいしかなかった。
かすかに息を飲む音。それは幻聴だったのかもしれない。なぜなら、次の瞬間には吸血鬼の身体は砂となって崩れ落ちていたから。
肢体が白色の砂になって、纏っていた黒いドレスが夜空のようなきらめく砂になり、銀髪がくすんだ灰色の砂粒と化す。漆黒の羽は、まるで風に吹き散らされる細かい砂のようになって、音も立てずに空中へ消えた。
先程まで彼女が立っていた場所に手を伸ばしてみても、ただ虚空を切るだけだ。
「吸血鬼は死んだら死骸すらも残らない、か」
ルビーとエメラルドが一つづつ、その場に落ちて雪を照らした。それは吸血鬼が希少とされ、また狩りの対象とされてきた理由の一つである───曰く、吸血鬼を銀で殺したなら、瞳からこの世に二つとない美しい宝石が取れると。
電飾と同じ色合いをしていながらも、遥かに高貴なそのふたつ。その隣に、雪を沈ませながら小さな銀の指輪が落下した。
それら三つを一度視界に収めると、青年はかすかにため息をついた。それが美しさに感嘆してのものなのか、ただ疲労によるものなのかは分からない。
次の瞬間には、何事もなかったかのように、ヒューゴはその場に背を向けて歩き出した。目的を果たして、どこへ行くとも知れずに。少女に思い入れなどなかったかのように、その顔にはなにひとつ表情は浮かばない。愛しているなんて。
混ざりものではない宝石と指輪、それらは確かに地面の上で煌めいていた。その三つを隠そうとするみたいに、静かに雪は降り積もる。
(約6000字/了)
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