雑談掲示板

【開催】第14回 紅蓮祭に添へて、【小説練習】
日時: 2022/06/18 14:16
名前: 浅葱 游◆jRIrZoOLik (ID: bC2quZIk)

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 執筆前に必ず目を通してください:>>126

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 ■第14回 紅蓮祭を添へて、 / 期間:令和4年6月18日~令和4年7月31日
 白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。



 □ようこそ、こちら小説練習スレと銘打っています。


 □主旨
 ・親記事にて提示された『■』の下にある、小説の始まりの「一文」から小説を書いていただきます。
 ・内容、ジャンルに関して指定はありません。
 ・練習、ですので、普段書かないジャンルに気軽に手を出して頂けると嬉しいです。
 ・投稿するだけ有り、雑談(可能なら作品や、小説の話)も可です。
 ・講評メインではありません、想像力や書き方の練習等、参加者各位の技術を盗み合ってもらいたいです。


 □注意
 ・始まりの一文は、改変・自己解釈等による文の差し替えを行わないでください。
 ・他者を貶める発言や荒らしに関してはスルーお願いします。対応はスレ主が行います。
 ・不定期にお題となる一文が変わります。
 ・一作品あたり500文字以上の執筆はお願いします。上限は3レスまでです。
 ・開始時と終了時には「必ず」告知致します。19時から20時を目安にお待ちください。
 ・当スレッドのお題を他所スレッドで用いる際には、必ずご一報ください。
 


 □お暇な時に、SSのような形でご参加いただければと思います。


 ■目次
 ▶︎第1回 氷菓子を添へて、:今日、全てのテレビ番組がある話題について報道していた。
 >>040 第1回参加者まとめ

 ▷第2回 邂逅を添へて、:彼女はいつもと変わらない、甘い匂いをまとっていた。
 >>072 第2回参加者まとめ

 ▶︎第3回 賞賛を添へて、:「問おう、君の勇気を」
 >>119 第3回参加者まとめ

 ▷第4回目 袖時雨を添へて、:手紙は何日も前から書き始めていた。
 >>158 第4回参加者まとめ

 ▶︎第5回 絢爛を添へて、:「フビライハンとエビフライの違いを教えてくれ」
 >>184 第5回参加者まとめ

 ▷第6回 せせらぎに添へて、:名前も知らないのに、
 >>227 第6回参加者まとめ

 ▶︎第7回 硝子玉を添へて、:笹の葉から垂れ下がる細長い紙面を見て、私は思う。
 >>259 第7回参加者まとめ

 ▷第8回 一匙の冀望を添へて、:平成最後の夏、僕こと矢野碧(やの あおい)は、親友の中山水樹(なかやま みずき)を殺した。
 >>276 第8回参加者まとめ

 ▶︎第9回 喝采に添へて、:一番大切な臓器って何だと思う、と君が言うものだから
 >>285 第9回参加者まとめ

 ▷第10回 鎌鼬に添へて、:もしも、私に明日が来ないとしたら
 >>306 第10回参加者まとめ

 ▶︎第11回 狂い咲きに添へて、:凍てつく夜に降る雪は、昨日の世界を白く染めていた。
 >>315 第11回参加者まとめ

 ▷第12回 玉響と添へて、:――鏡よ、鏡。この世で一番美しいものは何?
 >>322 第12回参加者まとめ

 ▶第13回 瓶覗きを添へて、:赤い彼女は、狭い水槽の中に閉じ込められている。
 >>325 アロンアルファさん
 >>326 友桃さん
 >>328 黒崎加奈さん
 >>329 メデューサさん
 >>331 ヨモツカミ
 >>332 脳内クレイジーガールさん

 ▷第14回 紅蓮祭に添へて、:白く眩む日差しの中で、水面は刺すように揺れていた。


 ▼第n回目:そこにナマコが置いてあった。
 (エイプリルフール企画/投稿期間:平成30年4月1日のみ)
 >>156 悪意のナマコ星さん
 >>157 東谷新翠さん
 >>240 霧滝味噌ぎんさん


 □何かありましたらご連絡ください。
 →Twitter:@soete_kkkinfo
 

 □(敬称略)
 企画原案:ヨモツカミ、なつぞら
 運営管理:浅葱、ヨモツカミ

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Re: 第6回 せせらぎに添へて、【小説練習】 ( No.191 )
日時: 2018/05/24 17:03
名前: 狒牙 (ID: qggtGn0.)

 名前も知らないのに、そんな時分から私は、彼のことが嫌いだった。彼の纏う空気が、貼り付けた笑顔が、浮わついた声が、全部私の鼻につく。
 誰に向かって告げている訳でもないのに、誰にだって伝えられる。そんな透明な愛ばかり口にしていた。愛と呼んで本当によいのだろうか。その甘言はきっと、誰にだって突き刺さる。これはむしろ凶器だ。冷静な部分だけを殺すナイフ、だから誰もが彼を受け入れてしまう。
 しかし私にとって、彼の囁く蜜のような言葉は、言うなれば夏の夜に訪れる寝苦しさのように思えた。暑苦しくて、額の汗を自覚する程に疲れてしまう。しかし圧倒的なマジョリティは、同じものに対し春の陽気さを感じていた。これまで寒いだなんて思っていた分、なおさら。承認欲求を満たしてくれる暖かさが、心地よくて堪らないのだろう。
 夏の夜にしたって、春の陽気にしたって、気温として数字にしてしまえば変わらない。それなのにどうして、こうも印象が変わってしまうのだろう。片や飛び交う蚊の羽音にさえ神経を逆撫でられ、片や川のせせらぎに心も安らぐというのに。


「おっ、佐藤ちゃん前髪切った? 似合ってるよ」
 口先ばっかでそんな事思ってもないくせに。

「ヒデじゃん。聞いたよー、強豪相手に四失点で押さえたんだって? やるじゃん」
 ベンチの連中と、四点も取られてんのかよと笑っていただろうに。

「井上、今回赤点とったんだって? きっついなぁ。まあ学生って勉強だけじゃないからさ、気楽にいこーぜ」
 以前鈴木くんには、やっぱ学生の本分は勉強だよなとか口にしていなかったか。あぁ、矢張りと言うべきか、あっちにフラフラこっちにフラフラ、蝙蝠みたいなあの男が気に食わない。


 しかし私とてそれをわざわざ咎めるつもりもない。彼がどのように日々を過ごそうとそれは彼の自由だ。私がとやかく言えるような事じゃない。しかし、だ。

「りりちゃん今日も仏頂面だねぇ。笑うと可愛いんだからさ。ほらっ、スマイルスマイル」

 しかし、私に話しかけるのだけはやめてくれないだろうか。この男、どの面を下げて私の事を笑えば可愛いなどと抜かしているのだろうな。君の前で一度も笑ったことなど無いというに。
 真意がこもっているかも分からない薄っぺらな態度。いやきっと、これはただの世辞だ。機嫌を窺うその瞳が、やけに白々しくて仕方ない。見せかけだけ、さも自分は本心からそう述べているのだとキラキラ輝く瞳が、どうもこうも不自然だ。でもそれはおそらく、クラスの皆にとっては自然なものに見えるのだろうな。
 もしかしたら、皆それが自然なものと思い込みたいのかもしれない。彼が私達に告げるのは、各々がそれを認めて欲しいと願う、心の底に潜む欲求。自分が請うてでも手に入れたくて仕方ない承認が、上っ面だけの建前でなく本音だと信じたいのだろう。だからそうだ、誰もが彼の仮面を、素顔だなんて思う訳は。
 しかし私は騙されない。眼鏡のレンズを結ぶ架け橋を指でくいと持ち上げて威嚇し、冷たい目で一瞥。呆れたと表情で語る私自身の顔、彼が此方を見つめる角膜に映りこんだ姿が目に入る。彼が両手の人差し指を使って両サイドの口角を上に引き上げて笑みを作る顔がやけに近い。もう少し離れてほしい。彼のワックスのせいだろうか、シトラスの香りがぷんと漂った。清涼感とほど遠い、しつこい芳香だ。

「……今日も元気そうね、無駄に」
「いやー、つれないなぁ。アイスクリームみたいに今日も冷たい」
「それは残念でした。私は、アイスみたいに甘くないから」

 彼は恨みがましそうに、喉の奥に返答を圧し殺した。くぐもった音が織り混ぜられた吐息が漏れる。正しくは上手い返しなど思い付かなかったのだろう。全部口が軽いせいだ、私の心にその声が響かないのは。いつだって私に届くのは、取り繕った甘い響きなどではなくて、シンプル故に心を揺らす、そんな真っ直ぐな決意だ。
 そしてそれは彼に欠如している代物だろう。可哀想なことに、何故だか彼は私の冷たい鋼鉄の仮面を外すことに躍起になっているのに、それは叶わない。鉄仮面でなく鉄面皮だったら彼自身が付けているというのにな。

「でも、私がアイスだったなら……さしずめあなたは天婦羅かしらね」
「ん? どゆこと? 天婦羅は油で揚げてる熱々のものだから正反対ってこと?」
「いいえ、ただ君にそっくりなだけよ? 軽くて薄っぺらい衣を身に纏っているところ」
「そいつぁ手厳しい」

 開いた手のひらを打ち付けるように額に当てて、わざとらしく肩を落とす彼。全く、この男はどんな風に思いながらこんな白々しい演技などできるものなのだろうか。どうせ私からどう思われようとさして気にも留めないだろうに。
 もう一つ意味はあるけどね。そう告げて携帯へと視線を落とした。緑色のアイコンをしたトークアプリに、お気に入りのカフェのクーポンが届いていた。好きなケーキが30円程値下げされている。最近行けてなかったから、今日にでも美夜あたりを誘って行ってみようかな。
 写真を見ながらそんなことを考えていると、その味が舌の上に再現されてしまった。別にお腹なんて空いてないけれど、唾液が舌下から滲んでくる。
 そんな私の耳小骨は、耳障りな声に未だ揺らされていた。鼓膜といいうずまき管と言い、この男の声を刺激として受け取っているのはとことん度しがたい。なぜこれほど私は頑なに受け入れることを拒んでいるのだろうか。正直なところさっぱり分からなかった。強いて挙げるなら勘と本能だし、趣味や嗜好とも言えた。好きになる理由がまるで無い。
 うーん、うーんと止めどなく唸るがままの彼。悩むのは勝手だがそろそろ立ち去って欲しい。目の前で立たれると注目されるし、無視し続ける私の立つ瀬もない。いや、初めから座ってはいるのだけれど。

「何? まだ用があるの?」
「もう一個の理由が分からなくてさー。考えてんの」
「自分の席で考えてくれるかしら」

 ここに居続けられると、居心地が悪い。これから本でも読もうかとしている以上、早いところどこかへ行ってくれないだろうか。顎に手を当てて探偵ぶってるその様子も、わざとらしくて見てられない。引き下がるまで睨み付けようとも思っていたが、不快さが勝ったが故に目を逸らしてしまった。
 精一杯の疲労をこめて、嘆息を一つ。と同時に指を打ち鳴らす警戒な音一つ。アイガディット、なんてネイティブぶった発音で、得意気な声。普通に、分かった、とでも言えばいいものを。好い顔しいの同級生が、馬鹿っぽく見えて堪えきれない。

「中に熱いものを抱えてるってとこだろ!」
「自己評価が高いことは尊敬するわ。ただ、それだと冷めたら食えたものじゃないから気を付けなさい」

 皮肉も通じてくれないとは、私の渾身の例え話も報われない。我ながらそこそこ上手いこと言えたと思ったのだけれど、彼の理解の範疇を超えてしまったようだ。家庭的な教養くらい、持っていて欲しいものである。
 小説に目を落とす。幼い頃からずっと追っている、大好きなファンタジーの新刊。罪と欠陥とを背負い、自らの犯した物事を悔やみながらも、懸命に生きようと努力する物語。そこに生きる彼らは、力強く本心を口にして生きてきた。だからだろうか、張りぼての鎧で身を守る人間が、こうも情けなく見えてしまうのは。
 予鈴が鳴り、朝練後の吹奏楽部の子達がワッと教室へ押し寄せる。ここに留まってももう私が相手をしないと察したのだろう、次々現れる他の級友達のもとへ向かい、躊躇うことなくまた甘言。甘ったるくて舌全体がしつこくなりそうだ。そんな気がして私は、イヤフォンを耳につけた後、大好きな曲に包まれながら脳裏のスクリーンに小説を再生し始めた。



 正直今日のところは、もう絡まれることなんてないだろうと高をくくっていた。それゆえ油断していたと言えるだろう。委員会の用事があるらしい美夜と駅前で四時に落ち合う約束を取り付けた私は、幾分か暇になったものだと今朝読んでいた本の続きを進めることに決めた。
 そう、安直だった。どうせならさっさと駅前に向かい、本屋ででも暇を潰せば良かったものを。学校になんか留まるものだからまとわりつかれる。
 不意にひらりひらりと揺れる手のひらが、開いたページを遮って視界に映りこんできた。

「何読んでるの?」
「小説だけど」

 目線を上げるとまたあいつの顔。上げるまでもなく、生クリームみたいな印象の声ですぐ正体が分かる。甘ったるくてこちらを絡めとってきて、そのまま塗りたくって埋めつくそうとしてくる。短く返答して後、すぐに視線を活字へと戻した。

「ねーぇ、そうじゃなくてさぁ。もっとこう、あるじゃんか、ジャンルとかタイトルとかさ」
「ファンタジー、タイトルは教えない」
 君に同じ本を読まれたくないから。
「ファンタジーかぁ。俺もよく読むよ、例えばしゅ……」
「私が好きなのはハイファンタジーだから」

 この男に限らず、多くの友人達はローファンタジーを好む。きっと似たような世界に住んでいる者の方が、おなじような悩みを抱えるからか感情移入しやすいのだろう。けれども私はこの世に実在してはくれない、夢のような魔法の国が昔から好きだ。
 それゆえ私は噛み付く勢いで彼の二の句を遮る。二種の幻想譚、その違いくらいは知っていたのかつまらなさそうに黙りこんだ。下唇を突き出す不満げな顔つきは珍しく本心のようだった。

「私、もうすぐ待ち合わせに向かうからあまり相手はしてあげられないんだけど」

 皆部活や委員会、あるいはバイト先へと向かってしまった。それゆえ三時過ぎの明るい教室には、主去ってなお机上に散らばるプリント以外には、私たちくらいしか見当たらない。隣のクラスもシンとしていて、廊下と隔てる曇りガラスには誰かの影が写る様子もない。
 この男と、二人ぼっち。何も嬉しくない。せめて学級委員長の真面目そうな彼の方が、口数は少なく、会話も成立しないだろうが、それでもまだ楽しめそうだ。

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