雑談掲示板

【SS競作】鵲の短冊に天の川が誓う【第二回8月10日まで】
日時: 2014/07/10 22:14
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: T0sRThzs)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=14864

第二回作品投稿期間【8月10日まで】


*
【Act.―0― 物書きは微笑みを】

 遠い昔、ある国の王がこんなことを言いました。

「この国で1番素晴らしい物語を書いた者に、褒美を与えよう」

 それを聞いた王女は、こう述べました。

「人の書く物語は、それぞれ作者の個性が表れ、優劣をつけるのは難しいですわ」
「しかし我が国の学者たちは、他国のような優劣を決める大会を開けと言っておるぞ」
「お父様、他国は他国です。参加したいならば、勝手に参加させておけばよいではありませんか」

 それもそうかと頷いた王に、王女は言います。

「でも確かに、そのような催しがこの国にあっても良いかもしれませんね」
「だが、学者や物書きが満足するような催しが他にあるか……」

 2人とも考えましたが、良い案は思いつきません。そこに1人の若い学者が通りかかりました。
 彼は2人の話を聞くと少し考え、それから述べました。

「他人ではなく、自分と競えば良いのでは」
「自分とは、一体どういう意味じゃ?」
「お題で物語を書くことは他国と同じですが、細かい条件をつけることによって、物語の流れを限定してしまうのです。他者と、話の流れが被ることもあるでしょう。その中で、いかに自分の文章の特徴を捉えられるか、というものです」
「なるほど、少し上の文章を目指すというわけね。それなら――、一定の参加基準を設けた方が面白そうだわ」

 王はそれを聞き、満足気に頷きました。そして、若い学者は微笑んで言いました。

「自分の文章の強みを知り、それを伸ばすことができる。また、新たな作風やジャンルにも挑戦することもできる。我々物書きには、最高の褒美ですよ」


*

初めましての方は初めまして。こんにちはの方はこんにちは。
黒崎加奈と言います。

このスレッドではSS競作という企画を行って行きます。
*参加希望者は参加条件を参照した上で、URLの雑談スレへコメントお願いします。

趣旨:限られた表現の中で、いかに自分らしい文章を書けるか。
競作、とタイトルにありますが、他人と作品の良し悪しを競うわけではありません。お題は、他人と話の流れが被るように考えています。その中で、いかに自分の文章の特徴を捉えて書くことができるか。
基本的な文章ルールが守れていれば、上手いか下手かなんて問いません。
*自分の文章は、どこが強みなのか。
向上心のある方、ぜひ参加してみませんか?


*参加条件*
先にも述べましたが、『基本的な文章ルールを守れていること』の1つだけです。行間の空け方は問いません。
基本的な文章ルールが分からないという方は、上記URLの雑談スレの目次から見ることができますので。

*参加条件を満たしているのに参加しないのはもったいないですよ!
あくまでも、他人ではなく、自分との戦い。つまりは、自分らしく小説を書く、ということが目的ですから(^^)

参加表明だけ最初にしておいて、自分が書けそうなお題のときだけ参加するのもアリですよ!

*作品の投稿期間中のコメントはご遠慮ください。
何か質問などあれば、上記URLまでお願いします。

*この企画は、管理人様に許可を頂いた上で行っております。


参加者への条件、並びに、その他の諸注意 >>1
参加者一覧 >>2

*――目次――*

第一回【悪夢の遊戯は緋の薫り】 >>3  作品一覧 >>16
第二回【鵲の短冊に天の川が誓う】 >>17

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Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回投稿期間】 ( No.9 )
日時: 2014/06/03 22:39
名前: 狒牙◆nadZQ.XKhM (ID: hnAnr1hk)


思い付けたので参加致します。



 今夜は、何て綺麗な満月なのでしょう。
 薄れゆく意識の中、君の声が響き渡る。寒気が、私の体を支配していた。

title:滴る紅と注ぐ月光

 不治の病。何とも陳腐な言葉に聞こえることだろう。トラジェディではありきたりな話であり、現実でもお涙頂戴や涙を誘う安い物語だと思われがちだ。その、侵されている当人を除いて。
 私の体の異変は治ることなど絶対に有り得ない。そう断言された人の絶望感など、誰も分かりやしない。同じ境遇に在る者以外。人は遅かれ早かれ必ず死ぬのだと、お医者様はその場しのぎの文面を述べた。だが、だから何だと言うのだろうか。同じ死ぬにしても、生を満喫してから死にたいに決まっている。そこそこの幸せでも、普通の人と同じ人生が送りたい、
 人は失って初めて、己が手にしていたはずの幸運を知るのだと言う。最初から平凡の有り難みなど知っていると私は自惚れていた。だが違ったのだ。今の私には、以前のその想いがただの思い上がりだと分かる。二度と戻れない拘束された運命の中でようやくその真の価値が分かる。帰りたいと切望して、自らの喉をかっ切りたくなるような衝動にかられたその時に、ようやく。

 そう言えば、私が初めてここを訪れたのも、綺麗な満月の夜でした。知っていますか? 満月には不思議な力があるという事に。学者様に寄りますと、潮の満ち引きにも関わっておりますし、満月や新月の晩には統計的に犯罪が増えるようです。
 ただ、私が言う不思議な力はそんなものではありません。不思議な世界への門を開く力が真円を描いた月に宿っているのです。その昔、生物は海から陸へと飛び出したように、不条理で何の変化もないこの世界から、夢と魔法に満ち溢れた空間へ。
 分かりやすく例をあげると、狼男でしょうか。彼の成り立ちは我々とよく似ていると伝えられています。ヒトとしての生活が、満月の光をアビタ途端に狼という別の世界へと踏み入れる。
 そしてあの日の私、つまりは今のあなたも新たな世界へと一歩を踏み出すのです。

 あなたも、かつての私と同様、不治の病に侵されているのでしょう? そう驚かなくても構いません。そうでもないとこんな所に訪れませんからね。こんなさびれた洋館に。
 なぜならここは、呪われた土地と噂されていますからね。私達の頃には迷信という概念はなくて、呪いは本物だと信じておりましたから特に近づくものはいませんでした。あぁ、呪いは実在しますよ。ただ、信じない人が増えたというだけの話です。

 この洋館には、その昔吸血鬼が住んでいた。そのため、その呪いがここに漂っている。あなたもそう聞いたのでしょう? ですが、その話は間違いです。ここにはまだ、本物の吸血鬼がいるのですから。
 昼は蝙蝠に扮して、夜は人の姿で現れる。迷える者に、救いの手を差しのべて。まあ、これが救済だとは認めかねますが。
 私はある日突然病気が発症しました。血液の性質が他人と異なっていたのです。余命三ヶ月。そう告げられました。確か発狂したんじゃないですかね。当時の記憶がそろそろ無くなってきているんですよね。永遠の世界に一歩を踏み入れてからの記憶は鮮明に残っているのですけどね。

 私は、もうどうにでもなれと思ってこの洋館に訪れました。夜に訪れた理由は簡単です。誰も止めようとしない、止められないからです。患者が呪いの洋館に立ち入った。しかし今いくと呪われるぞ。そんな葛藤が医師の中であったはずです。それを見極めて私は真夜中にここに訪れました。
 なぜ吸血鬼に頼ろうとしたのか、今の私には分かります。私の命を蝕んでいたのは、血液なのです。吸血鬼は、その根源を取り去ってくれる。そう考えたんですよ。しかして、予想は当たりました。私の病気はきれいさっぱり消え去りました。代償を、この身に残して、ね。

 その日の満月は、美しかった。自分の死が目前に迫っていたからでしょうか。自分の人生と対照的に、悠久に光り続けるその姿がぽっかりと浮かんでいるのがとても羨ましくて、ついつい見入ってしまいました。腐った木の扉を開けると、ムッとした、それでいて腐った空気が雪崩出てきたのです。
 何もいない。そんな雰囲気が立ち込めていました。呪いもそうですが、小動物が動いているような気配もなかった。その代わり、小さな小さな光の粒が、いくつも瞬いていました。なぜこの時、これに命を感じなかったのだろうか。鏡の前に立った時にはそれを酷く疑うことになる。
 足を踏み入れると、ドアはその重みで独りでにしまった。ぎぃぎぃと悲鳴を上げて、バタンと一声、大きな断末魔。閉鎖した空間に響くその音は、私の心の中で大きな不安の種を蒔いた。
 恐怖で足がすくんでしまっていたのに、どうして私は引き返そうとしなかったのか、未だに自分にも確固たる答えは出ていない。せいぜい、前に進もうが引き返そうが地獄が待っているとか、本能的に悟ったのでしょう。

 床が抜けてしまいそうな階段を、落ちないようにゆっくりと昇る。腐った木の軋む音が、暗闇の中で反響した。暗闇の中手探りで、手すりだけを頼りに昇るとそこにあったのは、大きな扉。
 そしてここからが、魔法の世界の始まり。私が重たそうな扉の正面に立つと、その扉は自分からその口を開けたの。こんな重そうな扉、私の腕力では無理だなと思っていた矢先の出来事。疑念よりも、好奇心の方が上回っていた。

 その部屋には、鏡が一台置かれていただけだった。鏡を覗きこんでも、暗すぎて何も見えない。しかし次の瞬間、その鏡の中に二つの深紅が光を放っているのを私は目にしたんです。
 振り返ると、そこには一羽の蝙蝠。羽を打ち付けて、そこらを飛び回っていたのです。不意にその姿は変わりますーーーー人間のそれへと。
 少女の姿でした。見目麗しい、まるで絵画に描かれたかのような、上品なお人形のような。血の気の感じられない真っ白な肌、対照的にルビーのように美しい瞳。艶やかな紫色のルージュ。女だというのに、私はその姿に見とれていました。
 その少女は、私に近づいてきました。無意識のうちに、私も彼女に近づきます。しゃがんで身長を合わせて、そっと彼女を抱き締める。彼女の首筋が、目の前に見えた。二つの孔が穿いていました。まるで、大きな注射針を突き刺したような。
 チクリと、鋭い痛みが私の首筋を貫いた。いきなりのその痛みに、苦悶の吐息が漏れでる。私の命が吸いとられている。そんな思いでした。私の体温が奪われている。ゆっくりと、生から遠ざかっていく。
 ふとした瞬間に、彼女と私の抱擁は終わりました。彼女から離れた私は目眩のためにその場に臥してしまいました。まだ、どくどくと私の命が漏れでていました。どろどろと私の熱が首筋から流れ出て、私の体を生ぬるい体温が覆って、命を吸いとられて冷たくなりゆく私の体を包み込んでいた。
 これで終わりだ。そう思った私は間違いではありません。ですがそれは、始まりでもあったのです。この、新しい世界での暮らしの。

 私を死へと走らせていた赤い奔流は全て消え失せました。そして私は死にました。死んで、その永遠を手に入れたのです。
 これが私の昔話。どうでしたか?
 そう告げた彼女はひたひたと私へと詰め寄ってくる。そして、蔓が巻き付くように、するするとその腕を私の体に巻き付けた。無造作に上の服を引き裂き、胸元を露にする。
 そして鎖骨のあたりに牙を突き立てた。鋭い痛みが一瞬走り、次の瞬間には、死の、そして生の象徴を啜り始める。薄れゆく意識と、それを覚ますような寒気が私の体を支配する中で、私は彼女の声を聞いたのだ。

 今夜は、何て綺麗な満月なのでしょう。

Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回投稿期間】 ( No.10 )
日時: 2014/06/21 16:44
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: MRuHW/1I)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=14864

*参加者各位

SSの長さについて、ルールを修正いたしました。

1000文字以上、1レス以内→1000文字以上、3000以内目安

3000文字目安、とした理由ですが、3500文字で1レスあたりの上限に引っかかってしまうようなので、少しオーバーしても大丈夫なように余裕を持たせてあります。3000文字以内なら、特に問題なく投稿できると思いますので、なるべく収める方向でお願いします。
*1レス以内であれば基本3000文字ぐらいだと思われますので、あまり深く考えず、今まで通り1レスに収めていただければ問題ないと思います。
1000文字以上というのは必須のままです。

Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回投稿期間】 ( No.11 )
日時: 2014/06/22 10:29
名前: 書き述べる◆KJOLUYwg82 (ID: mZ38alBY)

 男の頸根から牙が引き抜かれる。息の呑む美貌の吸血鬼は、男の腰にかかっていたホルスターから、悠然と拳銃を抜いて後ろに下がっていった。
 未だに情況が呑み込めない。目の前で不安げに図書室の話をしていた少女が豹変し、今まさに恐るべき怪力で男を壁に押し付けていた。そして、月光に照らされた壁から現れた姿見。鏡の裏の世界から現れ、男に牙を立てた、少女の姉と思しき女の吸血鬼――。
 さらには一瞬前まで客間だったはずなのに、今の男の瞳には少女の話と寸分違わぬ光景が映し出されていた。
 唯一違うものと言えば、床一面に描かれた、精緻な装飾を施された魔方陣だった。
 
「わたし達は、禁忌の遊戯に手を染め、吸血鬼となりました」
 唐突に女の声がするなり、男は前を睨み身構えた。男の戒めを解いた少女の吸血鬼が、姉の背後に半分身を隠すようにして佇んでいた。
男の狼狽ぶりを気にも留めず、女は一方的に言葉を続けた。

「私は鏡に閉じ込められましたが、取り込んだ血が尽きる寸前の満月の夜にだけ、鏡から解放されるのです。外に居続ける妹は…そのために、人間を誘いだし――」
  女は言葉を最後まで言うことができなかった。大きな瞳に一杯に不安をためながら見上げる妹を、髪をさすりながら抱き寄せた。

「神がお与えになった最も重い罰は、そこにあったのです」
――最も重い罰?
「身も心も魔に染まっていれば、人を殺めて生き長らえることに何の罪も感じることもなかったでしょう」
 女の声が潤む。
「でもわたし達の中に、人間の心が・・・・・・残されていたのです」

 確かに憐憫を誘う話ではあるが、何故そのような話をするのか、一向に吸血鬼の意図が掴めないでいた。確信できることは一つ――。
 あの吸血鬼は銀の弾丸で、必ずわたしを撃つ。これほど痛快な人間の殺し方などないからだ。
 男がの表情が厳しさを増す。

「これほどまでに純度の高い退魔の弾丸を2発も、さぞや難儀されたことでしょう」
 持ち上げた拳銃を眺めながら、男を一瞥する。
 リボルバーに込められた2発の弾丸はただの弾丸ではない。退魔の魔法を極限まで凝縮する過程で、銀のような光沢を帯びるようになった純粋魔法銀の弾丸なのである。確かに一撃必殺の弾丸だが、莫大な金と時間をかけ、予備の2発目を用意したのだ。だが今、その拳銃はあろうことか吸血鬼の手に渡ってしまっていた。
「でも残念ですが、一発の弾丸に込められる程度の魔法で吸血鬼を退治できたのは、遙か昔の話」
 女が言い終えると、男が更に厳しい面持ちで身構えた。
 女が引き金に指をかけ、瞼を下ろす。それを見て妹が今にも泣き出しそうな声で姉の名を呼んだ。

――何だ、これは。
 床一面に描かれた魔法陣が目映い白光と無数の閃光を迸らせていた。
「但し、この結界の中ではその限りではありません」
 何? 男は訳が分からなくなってきた。
「2発の退魔の弾丸、1発たりとも無駄にはできない」
 男の視線が女の右手に釘付けになる。
「さっき、魔力の一部をあなたに注ぎました。暗闇でもよく見えるでしょう?」
 その瞬間、男は大きな思い違いをしていることに気付いた。

――やめろ。

「あなたは、見届けるだけでいい。人間に戻ろうとした吸血鬼がいたこと。吸血鬼は人間に戻れたこと。私たちの――」
 銃口が女の胸に向けられていた。

「やめろ!」

 相手は魔物だぞ。どこかで声がした。それでも声の限り叫んだ。
「最期の姿を――」
 一瞬の出来事だった。紅く染まった手を呆然と眺める女を前に、男は身じろぎ一つできなかった。
 惨劇はまだ続けられようとしていた。今度は自分の番と、少女は姉の亡骸から拳銃を引き剥がし、銃口を己が身に向けた。だが、彼女の瞳が直径僅か9mmの穴と相見えた途端、小さな体に抑え込んできた感情が一気に弾けた。
 男が、閃光と轟音の中を突き進み、立ち尽くす純白のドレスを抱き抱えていた。男の腕の中で全身が震えていた。それでも、少女が涙と洟みずで変わり果てた顔を男に向けると、右手に握りしめている淡いオーラに包まれた拳銃を、男の胸に押しつけてきた。図書室を蹂躙する稲妻が少女の青白い顔に深い陰影を落としていた。

「わたしを・・・・・・撃ってください」

少女は男が怒鳴りつけようとするのを静かな気迫で遮り、言葉を続けた。
「この結界が消えてしまえば、わたしは・・・二度と死ぬことができなくなってしまう。人の心を持っているのに・・・人間なのに、人の命を奪い続けなくてはならなくなってしまう――だから」
 小さな体躯から発せられた最後の一言は、周囲の轟音を貫き、男の胸に突き刺さっていた。

「わたしを、撃って」

 男の耳から雑音が消えた。瞳から背景が消えた。聞こえるは少女の声、見えるは少女の眼(まなこ)、感じるは少女の右手、冷たい銃身。
 矮小な人間に選択肢は無かった。力を込めて少女を抱きしめる。華奢な体が刹那びくついたが、己の命運を目の前の人間に委ねた今、静かに瞼を閉じた少女の表情は微かにも揺らぐことは無かった。

 瞼を閉じると、暗闇が視覚を支配した。吸血鬼にとって暗闇は空気であり、光であった。でもこの闇はそれとは違う。人間の体温、人間の鼓動、我が身を締め付ける心地よい痛みで満たされていた。

 小さな掌からリボルバーが離れていく。男がそれを右胸の小さな膨らみの脇のあたりに持って行く。退魔のオーラが横溢する銃口を、純白のドレスの生地に微かに触れる程度のところで止めた。少女の肌に金属の感触を伝えてはならない。小さな笑顔を一瞬たりとも崩してはならない。額が唇に触れそうなまでに迫った吸血鬼の顔を、人間が愛おしそうに見つめていた。

 闇の向こうから優しい声が聞こえてくる。途切れがちな声は、少女に最後の指示を与えていた。楽しいことだけを考え続けなさい、と――。

 子供を寝かしつけるように、長く艶やかな黒髪を丁寧に撫でつけていると、少女の体の緊張が少し解れたようだった。目の前に穏やかな笑みが見える。男の左右の目尻から溢れた雫は、下を向いていたせいで、頬を流れ落ちる途中で虚空に放たれ、少女の頬に落ちた。高ぶる感情がさらに涙を溜めている。体の震えを我慢し続けるのも最早限界だった。
――赦せ。
 小さな肩に回した右腕に、我知らず力が籠められる。
 左の人差し指で、トリガーを引いた。

 少女が男の腕の中で悶えたのは、ほんの数秒間。だが永遠に続くかと思われた数秒間。男は銃を投げ捨て、咆哮し、少女を両腕で力の限り抱きしめ続けた。そうすれば彼女の痛苦を自分が代わりに受けられるかのように。心が枯れ果てるまで、続けていた


 葉擦れの音で男は目を醒ました。男は少女の遺体を抱きしめたまま窓辺に行き、その下で力尽きていた。
 ふと前を見やると、少女の姉の吸血鬼、いや、命と引き替えに人間に戻った女性の亡骸が、漆黒のドレスに包まれて横たわっている。男が悲痛に暮れようとしたとき、黒衣の袖の裾が揺らめいたように見えた。男が腕の中の少女の遺体を抱きしめ、息を止める。
 見間違いではない。黒衣の女性は、自ら弾丸を撃ち込んだ傷口を、左手で押さえながら、覚束なげに起きあがっていた。裾から滴るものは何もない。
 二人は目が合うなり驚きの表情を露わにし、喜びの言葉を短く交わした。そして申し合わせたように、最後に残された一人を見つめていた。

 純粋魔法銀は純粋な魔法であるがために、魔の力にしか効果を発揮しない。件の姉妹は「神罰」が故、魔物としては不純な人間の心を残されていた。弾丸は皮膚を食い破った瞬間、本来の魔法に戻り身体中の魔気を滅すると、元々実体がないため、他を傷つけることなく消えさるのである。そして、後に残されたものは――。

 男の胸に、自分のものではない鼓動がゆっくりと、徐々に速く力強く響いてくる。純白のドレスの胸のあたりが大きく膨らんだ。漆黒の髪に覆われた頭が男の胸の中で蠢き、深い夢から醒めたかのように暫し呆然と虚ろな目で男の胸板を見つめていた。不意に頭上から、男の嗚咽が聞こえてくると、少女が両眼を満月のように見開き、上を見上げた。
 男は精一杯抱擁をしていた。少女が笑顔の合間に顔を顰めているのもお構いなしだ。
――主は、これを見越されていたのか。
 姉が窓の方に跪き、右手で十字を切った。心に雪崩れ込む思いを目尻から溢れさせ、天への感謝と畏服の念を唱えていた。
 男は壁にもたれたまま、少女の背中で両手を組むと静かに一言、主を祝福する言葉を述べた。
 少女は窓の真下から深更の夜空を見上げていた。純白のチュールヴェールのような柔らかな光が、少女の顔をより一層白く輝かせる。
 温かな肉体、心臓の鼓動、夜空が黒く、月の光が白く見える世界――。少女は、今この瞬間に悦びを感じていた。
 そして、光りを湛える眼を細めると、小さく呟いた。

「今夜は、なんて綺麗な満月なのでしょう」

Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回投稿期間】 ( No.12 )
日時: 2014/06/21 13:19
名前: 書き述べる◆KJOLUYwg82 (ID: mZ38alBY)

投稿いたしました。

男=わたしという設定で、基本的に3人称視点で書きました。劇画タッチじみてしまう癖がなかなか抜けません。。。

何とか1レスに収めましたが、オーバーしている文字数がやや多めかもしれません。

申し訳ありません。

SSなのに、欲張り過ぎて何シーンも詰め込んだのが間違いのもとだったみたいです。


自スレの更新が長らく滞ってしまっているため、次回は一回休みにしようと思います。
3回目は参加させてください!!

色々とお騒がせしてしまいましたが、今後ともよろしくお願いいたします。

Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回投稿期間】 ( No.14 )
日時: 2014/06/25 20:29
名前: 奏弥◆4J0JiL0nYk (ID: /eVqe24U)

題目【愚かな男】


 もしこれが、一つの書物として綴られていたのなら。

 そう考えて私は、自分の考えに少し呆れたりもした。
 一つの書物として綴られるこの話は、仮に読みたいと思えるような書き始めであったとしても、読み進めていくうちに主観性から客観性に視点が変わり、読み手は読むことに疲れ果ててしまうだろう。そういった情景が、私には当たり前のように想像できてしまえたからだ。
 それでも、私はありのままに綴るだろう。
 脚色も誇大もない、そんなありのままを。



 ――ようこそ、屋敷へ。

 そう言って私に微笑んだ白い少女が、楽しそうに、怖がらせるように私に語りかけた、作り話ともとれる噺。幼い少女の戯れで思いつくような話ではないと、その内容にうすら寒さを感じたりもするが、所詮子供の戯言だなと私は強がって口にした。

「あら、先生はこの手の噺は信じない人なのかしら?」
 くすくすと白い少女は笑った。細められた両目の、睫毛の長さ。肌の白さ。黒曜たる髪の滑らかさ。幼いながらも大人の色気が垣間見え、目のやり場に困る。
 屋敷に通された私は、人の気配が無いただ広いだけの空間に背筋を冷やした。招待されたのはこれが初めてと言うわけではない。現に、少女は私を「先生」と認識しており、私の肩書としてはそれが言い得て妙だからである。ただ招待されたのが私一人というのは、今回が初めてだ。そして、突如語られた怪談噺。何を意味するのか分からないが、この手の噺は私の性分か、恐怖と並んで興奮にも似たような感情を覚えた。
 私は少女に案内され、居間に足を踏み入れていた。薄暗い居間には赤いソファが二つに、木製のテーブル、壁には大きな等身大の鏡が備え付けられている。ここは一階だが、二階、三階と続く階段も見えた。二人だけでは寂しいほどに広いこの居間で、私は少女と向かい合うようにテーブルの前に座っている。

 ――ねえ先生、この森の、この屋敷の、昔からある噂。

 椅子に座るや否や、少女は巧みな怪談話を私に語った。内容は抽象的であり、どこまでが事実なのか計り知れない。ゆえに人間の恐怖心を煽るのだろうが、私は動揺を隠し、出された紅茶を一口傾けた。
「信じるも信じないも、抽象的な噺はどうも苦手でね。それなら事件のあった場所で起こる怪奇事件の方が何よりの信憑性を持つ。私はそちらの方が夜も寝られないほど怖いよ」
「あら、それはなに、事実が無ければ信じない、と言っているのかしら」
「冷めたかい?」
 言って少女を見ると、少女は小さな頭を振って微笑んだ。
「いいえ、先生はやっぱり先生なんだなと、再確認できたわ」
 それは素直に嬉しいと感じてもいいのだろうか。その笑顔の裏に何か隠されてる気がしてならないのは、物書きとしての期待か、ただの疑心暗鬼か。
「それなら先生の言う、事実からくる怪奇を聴かせて頂きたいものだわ」
 そう、少女はにっこりと笑う。
 この質問はむしろ期待していたからか、私は記憶を手繰り少し興奮気味に話を始めた。


 *

 高級住宅街のある屋敷に突如として響いた悲鳴。
 「早く下りてきて!父が殺されてるわ!誰かが入ってきて殺したのよ!」
 この呼びかけは娘・リジーのものであり、同じ屋敷に居たメイドに向けられていた。メイドのサリバンが駆けつけると、そこにはリジーの父親であるアンドリューが頭を割られ、1階の居間のソファーに横たわっていた。
 後の解剖によると、アンドリューは、顔面と頭にオノを11回叩き込まれ、鼻が削がれて頭蓋骨は砕かれ、左目の眼球は二つに切断されて顔から飛び出していた。
 すぐに警察に通報し、医者も呼ばれた。警察が駆けつけ近所は大騒ぎとなった。屋敷内に人がごった返す中、メイドのサリバンは、妻アビーを探しに上の階へ行くと、今度は2階の寝室で妻アビーの死体を発見した。鏡の前でうつ伏せになって倒れていた。
 この事件は、残虐な手口からマスコミも大々的に報道しており、世間の関心も高い事件となっていた。両親を亡くしたリジーに世間は同情的であった。
 しかしその一方で、この殺害現場である屋敷には幽霊が出るという噂が立ち始めた。屋敷から不気味な男の声が聞こえたり、妙な人影が目撃されたりもする。あれから100年以上も経った今、犯人が捕まらなかった未解決事件というだけではなく、惨劇となった屋敷の方は屋敷の方で、不気味な心霊スポットとして有名になっていった。

「リジーへ。昨日の夜、僕に話しかけてくれたのはリジーですか?――誰だっていい。ありがとう。」
「猫の泣き声が聞こえて、3階から足音が聞こえてきた。」
「部屋に入ったら、壁にかけてある写真が落ちた。」
「夜、猫の泣き声が聞こえた。ここには猫はいないはず。」

 訪れる人訪れる人、一様にそう語っている……――。

 *

「しかしね、サリバンも語っていたが、警察やマスコミは一つだけ不可解に思ったことがあったそうだ」
 人間が生きている中で一番生命に繋がる機関である血管、二つの死体には一滴も流れていなかったというのだ。ソファやドレッサー、彼らが倒れていた箇所は不気味なほど綺麗だったと言う。

 話し終えた私は、渇いた喉を潤すために残りの紅茶を傾けた。
 反応が気になり向かい側に座る少女を見やると、少女の顔には少し影が落ちていた。私が見ていることに気付くや否や、たちまち表情を和らげる。
「素晴らしいわ、わたしの尊敬する先生のお話は、どの話を何度聞いても新鮮で好きよ」
 そこまで称賛されて、浮かれない物書きなどいるのだろうか。私は少し絆され、少女の言葉を素直に受け止めた。

「それで先生、食事は既に済まされたのかしら?」
 と、唐突にそう訊かれ、少女の含みのある微笑みに胸が鳴る。先ほどの和んだ空気はどこへやら、私を包む空気は一変して固まった。
 食事は――済ましてある。
「……ああ、すまないね、田舎の味が恋しくなったものでね」
 視線を少女から外し、紅茶を飲む。どれ程緊張していても紅茶は喉を潤した。
 動揺を見せては変に悟られる。いや、そもそも動揺しているのが可笑しな話だ。
「田舎の味、ね。それはつまり、懐かしい味よね? 美味しかったかしら?」
 そう顔をのぞかれ、汗が不自然に背中を流れた。
 なぜそれを尋ねるのか。少女の質問の意図が見えない。いや、そもそも意図などあるのだろうか。他愛ない雑談だったらどうする。模索するだけ時間の無駄だ。分かっている。分かってはいるが。
 私は水分の飛んだ唇を遠慮がちに舐め、苦笑をこぼした。
「それは、まあ……久々だったものだからね、格別だったよ」
「へぇ、そう、格別だったのね」
 少女は紅茶を優雅に飲み、カップの縁を指で拭う。薄く笑う赤い唇は、薄暗いこの広い居間で、くっきりと存在を示している。

「先生?紅茶は美味しかったかしら?」

 含みのある言い方だった。
 それだけで私の動揺は煽られ、じっとしているのが出来なくなっていた。
「――……いつから?」
 愚問とも思われた質問に、しかし少女は待っていたとばかりに微笑む。
「最初から」
 そうして、少女は私に右の方の腕を差し出した。
 着ている服とはまた違った、透明感のある白さ。綺麗な指先。青い筋。細い首。紅桔梗の混じった瞳。笑う小振りな唇から覗く鋭利な牙。

 ――そうか、それなら、納得がいく。

 今回私が一人、この屋敷に招かれた意味を。『おいでください、お茶を用意して待っております』との招待状が私だけにしか来なかったその理由を。
 私は緊張のあまり喉を鳴らした。口の中がからりと乾いている。喉が引き攣り、痛みに似た違和感を覚える。ああ、そうだ紅茶は。カップには申し訳程度の紅茶が存在を主張している。先ほど、全て飲んでしまったのだった。
 ふと、私の座っている位置から見える、等身大の鏡に目が入った。角度にして少しだけこちらを向いている鏡に映るのは、少女の背中だけだ。私は仄かに、自嘲的に笑った。それに少女も合わせるかのように優雅に微笑む。
「先生が此処に居る理由も、先生が先刻わたしに語った噺も、逆にわたしが先生に話した噺も……全部、そうね、予定調和、とでも言っておきましょうか」
 わたしがそう、仕向けたのだから――。
 そう言った少女の赤く沈んだ瞳には、私が移っていた。はっと目を見開き、辺りを見渡す前に思い至る。そうか、と治まる胸騒ぎの意味を感じとる。
 私の、負けか。
 そうして、降参の意を取るように、少女の右手を取った。その白く細い手首に口を寄せる。
「――んっ」
 少女の苦悶の声を聴きながら、私はその至福な味を、口に流れる甘い蜜を、心行くまで堪能するとした。
 夢中になってる私の耳元で、少しだけ苦しそうにしてる少女の甘い声が、夢うつつであるかのように言葉を紡いだ。


「……今宵は、なんと綺麗な満月なのでしょうね」

*

Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回7月1日〆切】 ( No.15 )
日時: 2014/06/30 17:28
名前: 黒雪◆SNOW.jyxyk (ID: 0dn3.3CE)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=14864

*GL・R18チックな描写があります。
苦手な方は読まないことをお勧めします。


――甘いあまーい緋の薫り。

【百合の花は満月に】


 真夜中に目が覚めた――何かが倒れるような大きな音が、森の静けさに響き渡った。
 カーテンの向こう側には、光を最大限に放った月が佇んでいる。魅せられたように窓の外を眺めていたら、目が冴えてしまった。
 靴を履き、少し身だしなみを整えると、屋敷の中を見て回る。黒光りする甲冑や、鈍い銀色に輝く長剣、弾倉庫や猟銃など、興味をそそられるものが色々あった。
 しかし、誰1人いない。昼間に案内させた時は、メイドや使用人、料理人……など、多くの人が働いていたにもかかわらず、誰もいないのだ。
 昼間に会った少女の部屋を覗いて見たが、まるで少女は最初から存在していないかのように、生活感のない部屋だった。白い壁、人が寝た形跡のないベッド。クローゼットの中に、洋服は1着も入っていない。
 なのに、官能的な香の薫りが部屋に満ちている。ふわりと鼻孔をくすぐる、甘い薫り。そして――微かに聞こえる、女の声。
 声の方向へ、ゆっくりと歩いていく。静かな廊下に、小さな足音を響かせながら。

 屋敷の奥深く、2階の廊下を突き当たったところに、古びた扉があった。滅多に開かれないためか、蝶番は錆びて赤茶色に変色している。
『図書室』と書かれていたプレートの文字は剥げ落ち、微かに文字の名残りを残しているだけだ。

「はぁっ……んあ、あっ……」

 開けた扉の隙間から、艶かしい嬌声が漏れた。軋まないようにそっと開けた扉を、勢いよく閉めてしまい、ギィーという大きな音がした。
 その音に驚き、取っ手から慌てて手を離す。そのため、扉は閉まりきらず、覗き見ができる程度の位置で止まった。誰もいないのに、咄嗟に辺りを気にして無駄に安心する。
 他人の情事を覗く趣味は無いが、やはり好奇心というのは抑えきれず、結局は覗いてしまったのが間違いだった。

「あぁっ?! お、お姉ちゃん……だ、ダメッだめッ!」

 真っ白なドレス、艶やかに光るショートカットの黒髪。溢れ出る蜜が、ドレスを緋色に穢していく。
――昼間の少女だ。
 少女は、絨毯の敷かれた床の上に押し倒され、恍惚とした表情を浮かべている。
 その上に覆い被さった黒い影。漆黒のドレスを身に纏い、白珠のような肌を際立たせている、もう1人の少女。ショートカットの黒髪からチラリと覗いた顔が、とても美しかった。
 黒の少女は白の少女の乱れた長い髪を慈しむように梳くと、細く白い首筋を露わにする。

「リザ、可愛いわ……っん、最初だけ……我慢して、すぐ……気持ち良くなるわ……っ」

 赤い舌が、首筋を這う。ペロリと舐められるたびに、昼間の少女――リザの身体が跳ねた。
 ふと、違和感に気づく。リザと瓜二つの少女は、昼間はいなかったのだ。リザも姉がいるとは口にしてないし、屋敷に案内された時も1人娘だと紹介されていた。
――どこから現れたのだろう。
 その時、少女の唇の端から鋭い牙が一瞬見えたかと思うと、リザの首筋に飲み込まれた。

「いやぁぁああッ! はぁ……アァ、んうぅッ!!」

 お姉ちゃん、と呼ばれた少女が、リザの首筋から紅い液体を啜る。

「ぁっ……甘いわ……。もっと、もっとちょうだい……!」

 真夜中の図書室に、少女たちの声が響く。覗いてはいけないと思いつつも、見てしまう。禁忌を犯す彼女たちは、とても美しい。まるで金縛りにかけられたように、この場を動けなかった。
 昼間に聞いた話を、今さら思い出す。彼女は、ドラキュラなのだ。それなら、昼間は姿がなくても納得がいく。
 リザは、警告してくれていたのだ。早く、ここから立ち去って、部屋に戻らなければ――。

「ねぇ何を見ているの……?」

 真っ赤に口元を染めた少女が、首だけこちらを向いた。目が、怪しく光っている。
 逃げようと思っても、指一本、瞬きひとつ出来やしない。ゆっくりと脚が動き、おぼつかない足どりで少女たちの元へ向かっていく。
 2人の前まで来ると、今度は急に力が入らなくなり、立つこともままならない。膝から崩れ落ちて、絨毯の上に座りこんだ。

「あなたも……私たちと遊ばない……?」

 リザが、微笑みながら近づいてくる。首筋は元通り白かったが、赤黒い小さな傷がついていた。彼女の唇からも、白い牙が覗く。

「はぁっ……アァ、あぁっ……!!」

 首筋に感じた鋭い痛み。背筋をかけてゆく甘い痺れ。緋の薫りが、理性をドロドロに溶かす。
 痛みは一瞬、快楽は永遠。服が、どんどん濡れていく。首筋を舐められ、傷口からは体液を吸われているのに、感じてしまう。

「もっと吸われたい……? まだ……お腹空いてるの……」
「あぁ! はぁ、もっと……! もっと……してっ」

 少女たちの妖しい微笑みが、最後に見えた。

「うわああぁっ!?」

 まだ、夜は更けていなかった。天蓋付きのベッドの中で、荒い息を吐く。
 大きな物音がして驚いたのだろう。隣の部屋からリザが様子を見にきた。

「大丈夫? 悪い夢を見ていたのね……まだ真夜中よ……」
「ありがとう、リザ。また寝ることにするよ」

 黒髪のショートカット。黒いドレス。

「ねぇ、お客さん……。私、リザじゃないの」

 笑った唇に、白い牙。

「リザは、あそこ。お父様や、メイドや、屋敷のみんなも、あそこ」

 部屋の鏡を指差して、妖艶に微笑む彼女。鏡の中の彼女は、白いドレスを着ていた。
 満月の夜だけ、私とリザ達は入れ替わるの。そう言って、ゆっくりと彼女の唇が首筋に近づく。
 ちらりと鏡を見ると、窓から満月を眺めている、白いドレスのリザと、その父親がいた。視線に気がついたのか、申し訳なさそうに笑っている。
 2人のそっくりな少女は、美しい。夜はまだ始まったばかり。
 悪夢の遊戯は、まだまだ続く。

「あぁ、今夜は、なんて綺麗な満月なのでしょう」

Re: 【SS競作】悪夢の遊戯は緋の薫り【第一回投稿終了】 ( No.16 )
日時: 2014/07/02 11:24
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: CW.ETRKk)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=14864

*――第一回投稿作品一覧――*

>>6 【   】  作者:高坂 桜
>>9 【滴る紅と注ぐ月光】  作者:狒牙
>>11 【月の光】  作者:書き述べる
>>14 【愚かな男】  作者:奏弥
>>15 【百合の花は満月に】  作者:黒雪

*敬称略、投稿順

*――  ――*――  ――*

*題名欄空白は、レスに表記がなかったものです。
もし宜しければ、雑談スレの方で題名を教えてくださると嬉しいです。

Re: 【SS競作】鵲の短冊に天の川が誓う【第二回準備中】 ( No.17 )
日時: 2014/07/10 22:12
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: 6yuc7tjo)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/jump.cgi?http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=14864

【Act. ―2― 鵲の短冊に天の川が誓う】

――かささぎさん、かささぎさん。私を、天の川の向こうへ連れていって?

 遠い昔にした約束を、守り続けて何年経っただろうか。晴れた日もあれば、曇った日もあった。雨に降られた日もあった。
 毎年、毎年。1年に1度。織姫を背中に乗せて、向こう岸へと運ぶだけ。
 仲間の鳥には、物好きだね、と笑われた。

『君は毎年同じことをし続けて飽きないのかい? やめちゃえばいいじゃないか』

 山羊が笑いながら聞いてきた。でも、僕はかぶりを振る。

『良いんだ。僕が自分から願ったことだからね』

 織姫が自分のものにならなくとも、背中に乗せている間は彼女と触れ合えるじゃないか。僕の、たった1つのささやかな願い。
 天の川は僕に同情してくれて、1つ誓ってくれた。その代償に、綺麗だった黒い翼の先っぽが白くなっちゃったけどね。

『でも、それでいいの? あなたの想いは届かないままじゃない』

 天の川は優しいから時々、心配してくれる。
 良いんだ。と答えて、今年も織姫を背中に乗せた。天の川を越えて、向こう岸の彦星へ送り届ける。
 彼女は幸せそうな顔で、ありがとう。と言うんだ。

――この願いが、いつまでも叶いますように。


第二回SS競作お題【鵲の短冊に天の川が誓う】

お題投稿期間【8月10日まで】

お題条件
・上記のAct.2が物語の設定です。これと、一般的な七夕の物語を設定としてください。

・話の舞台は、現代もしくは未来にしてください。過去回想の場面を入れるのはありです。

・織姫、彦星、鵲、天の川、山羊の5役を登場人物として出してください。そのまま名称を使わないで、登場人物をその5役になぞらえてもOKです。

・どんな結末でも構いませんが、織姫のことは幸せにしてあげましょう。
・鵲の願い事と、それを叶えるために天の川が誓ったことを考えてください。

*上記を満たす、1000文字以上1レス以内(3000文字目安)のSSを書いてください


*何か質問などあれば上記URLまで。

Re: 【SS競作】鵲の短冊に天の川が誓う【第二回8月10日まで】 ( No.18 )
日時: 2014/07/26 23:15
名前: 黒崎加奈◆KANA.Iz1Fk (ID: buyFOAys)
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/jump.cgi?http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no=14864

上げます。
投稿は8月の10日までです。

【SS競作】鵲の短冊に天の川が誓う【第二回8月10日まで】 ( No.19 )
日時: 2014/08/10 06:56
名前: 月森和葉◆Moon/Z905s (ID: w.j2nzzU)

ちょっと遅れちゃったけど大丈夫かしら;



【幸せな不幸】

 僕は、いくら時が経って、別のいきものになっても、彼女のことを忘れはしませんでした。

 僕がそらから居なくなって次に彼女に出会ったのは、僕が遠い未来のこの国で学生であった時でした。
 授業終わりの終業のベル、立ち上がった僕の眼に映ったのは、多少の違いはあろうも、彼女でした。
 複雑な形に結われていた髪は、今は漆黒の流れとなって彼女の背中をなぞり、着物に羽衣という姿しかみたことのなかったその身体に、カーディガンとスカートを合わせ、胸元や耳元ではまるで小さな星屑のように装身具が光っているその姿は、紛れもなく彼女でした。
 それを見た僕は、思わずその場に立ち尽くしました。
 何故って、ずっと会いたかった彼女なのです。
 近くに座っていた生徒が突然立ち上がった僕を不審そうな眼で睨んでいますが、そんなことはどうでもいいのです。
 だって、何十年、何百年待ったことでしょう。
 何回も何回も輪廻の輪を回り続け、この永い生にも飽き飽きしていたところ、やっと彼女に出会えたのです。
 ああでも、やっぱり僕は幸せにはなれないのでしょう。
 彼女が見つめているのは、かつての彼女の恋人だった男でした。
 彼は、今の僕の親友でもあります。
 彼は、自分がかつてそらの上の住人だったことを覚えてはいません。
「どうしたよ? 早く昼飯にしようぜ」
 そんな僕の考えを知ることもなく、その彼が僕に話しかけてきました。
「あ、ああ……ごめん」
 少々名残惜しく思いながらも、僕は彼と共に講堂を出ました。

 午後の講義も終わり、彼と別れた帰り道のことでした。
 広い校内の中、人のまばらな道を、駅に向かって歩いていたとき。
 僕の目の前に立った人が居ました。
 留学生でしょうか、妙に髪の色が薄く、柔らかそうな印象を受ける男でした。
 その人物は、僕の名を聞くこともなく唐突に言ったのです。
「きみはまだそんなことをしているのかい?」
 僕は最初、意味が分かりませんでした。
 そして、僕がその言葉の真意を悟ったとき、すでに僕の目の前からその男は消えていました。
 彼は殆どを語ろうとしませんでした。
 けれども、僕は、今の男が、かつて『山羊』だったことに気付いたのです。
「……僕だって、こんな不毛なことは終わりにしたいさ」
 それを聞いていた人など居るわけもなく、僕は彼女を見つけた興奮とその先にある恐怖に揺れ動かされながら帰路についたのでした。

 やがて僕が彼女と知り合い、その流れで彼女を親友の彼に紹介することになりました。
 結局、こうなってしまう運命だったのでしょうか。
 案の定とでも言うのでしょうか、ほどなく彼らは恋人という名の関係になるでしょう。
 僕がたった一つ幸いしたことは、彼と彼女の講義が被ることは殆どなかったのですが、僕と彼女は多くの講義で一緒になりました。
 そうして、講義の後には彼が待っている場所まで二人で歩き、その場所まで辿り着くと僕は彼女を彼に任せて二人に背を向けるのです。
 ――たったそれだけ、それだけでいいんだ――。
 彼女の傍に居られるだけで僕は幸せなのだから。

 ――ほんとうに、僕はそうおもってる?

 こころのおくそこで、彼女とむすばれたいとねがうきもちがあったから、だから、だから僕のはねはこんないろになってしまったの?

「あのね、僕は君が幸せになろうが不幸になろうが、関係ないのだけれど」
 唐突に僕の目の前に現れた青年は言いました。
 その顔に見覚えがありました。
 かつて、天の川の民として天の川を統治していた青年です。
「君は……」
「僕は、他人が不幸になるのを黙って見ているほど非情なわけでもないからね」
 そう言って、そのまま僕から離れました。
 彼が何をしたのか、僕には分かりません。
 けれども、彼の優しさを垣間見た気がしました。
 かつてから彼は優しいひとでした。
 彼は、僕が彼を親友と呼ぶことを許してくれたのだから。

 天の川の彼は、可哀相な彼のために一つだけ神に誓いました。
 僕はいいから、彼のために、彼のためだけに。
 一生彼の傍から離れず、その生き様を見届けると。

 僕は、彼を恨んでなんかいません。
 確かに僕の羽はこんな色になってしまったけれど、彼は僕のことを見守って、支えてくれるのだから。

 僕のこんな願い事を叶えるためだけに、誓ってくれたのだから。
 僕の、彼女をずっと、見守るという願いを――。

 その願いが叶ったのだから、僕はこんな先の未来になっても、彼女に出会い、そして彼の誓いの通り僕の傍には彼が、天の川の民だった青年が居るのです。

 僕はなんて幸せ者なのでしょう。


 僕は、今も、この先の未来でも彼女と結ばれることは決して無いでしょう。
 でもいいのです。
 彼との待ち合わせ場所まで歩いて行くとき、彼のことを嬉しそうに話す彼女の顔。
 それを見ていられるだけで、僕は心の底から幸せを感じられるのです。
 何故って?
 だってそれは、僕しか知らない彼女の顔なのです。
 彦星である彼も、知らない織姫の顔を、かささぎの僕は知っているのです。

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